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妄想的観念と妄想の認知臨床心理学的研究

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妄想的観念の発生・維持に関する 臨床心理学的研究

東京大学大学院総合文化研究科

広域科学専攻生命環境科学系

山﨑修道

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(2)

目次

目次 2

本論文の背景 3

本研究の構成 48

1部  健常大学生の妄想的観念 51

研究1  大学生の妄想的観念の多次元アセスメント 51

研究2  妄想的観念を持つ健常大学生の早急な結論判断バイアス 66

研究3  大学生における妄想的観念による苦痛と対処行動の関係 83

2部  統合失調症患者の妄想的観念 97

研究4  統合失調症患者の妄想的観念の多次元アセスメント 97

研究5  慢性期統合失調症患者における早急な結論判断バイアス 112

研究6  慢性期統合失調症患者における妄想的観念による苦痛と対処行動の関係 127

総合考察 136

引用文献 152

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本論文の背景

本論文の背景を説明するに当たって,妄想的観念に関する実証的な研究の動向を,①妄 想的観念の定義と連続説について,②妄想的観念のアセスメントと多次元性について,③ 妄想的観念の発生要因について,④妄想的観念の維持要因についての4点からまとめた.

背景Ⅰ  妄想的観念の定義と連続説について 妄想の定義

  妄想は,精神疾患の操作的診断基準DSM-IV(American Psychiatric Association,1994)に よれば,「外的現実に対する間違った推論に基づく誤った確信であり,その矛盾を他のほと んどの人が確信しており,矛盾に対して反論の余地のない明らかな証明や証拠があるにも かかわらず,強固に維持される」信念であると定義されている.妄想は,統合失調症の主 要な症状であり,誤った推論から導かれる極端な信念である.

妄想と統合失調症

統合失調症は,抑うつ,不安と並ぶ,三大精神病理の一つである.統合失調症の診断に は,妄想の有無が大きなウェイトを占めてきた.DSM-Ⅳでは,統合失調症の診断基準に,

①妄想,②幻覚,③解体した会話,④ひどく解体したまたは緊張性の行動,⑤陰性症状の うち2つ以上が,1ヶ月間ほとんどいつも存在することを挙げている.しかし,奇異な内容 の妄想がある場合には,それだけで統合失調症と診断するように定義されている.

DSM-Ⅳの妄想の定義は,Jaspers(1948)の古典的な定義に基づいている.Jaspersは,妄

想の特徴として,①主観的に強い確信を持つこと(確信性),②経験から判断して正しい論 理に従わせることができないこと(訂正不能性),③あり得ない内容であること(内容の不

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可能性)の 3 点を挙げた.たとえ信念に反する経験・事実・反駁があっても,確信が揺る がない(Scharfetter, 1980)信念や,出来事の独断的解釈を行ない,十分検討を加えない信念 を妄想という(Authur, 1964).

  現代精神医学での一般的な定義(Mullen, 1979)でも,①絶対的な確信を伴うこと(absolute conviction),②客観的な証拠が無いこと(self-evidence),③適切な論理に欠けていること(lack of amenability to reason),④空想的もしくはありえない内容であること(fantasic or inherently unlikely content),⑤所属するサブカルチャーに受け入れられないこと(being a belief not shared by the believer's own subculture)が妄想の5つの条件であると定義されている.Mullen

(1979)の定義のうち,①がJaspersの①確信性,②と③がJaspsesの②訂正不能性,④と⑤ が③内容の不可能性に当たる.

妄想の「有無」

  Jaspersの定義以来,妄想は「ある―なし」の非連続的な現象と捉えられてきた.しかし,

実際の臨床場面では,妄想の「ある―なし」の区別は必ずしも明確ではない.統合失調症 の妄想でも,Jaspers の定義を満たさないような中途半端な妄想も多く見られる.また,妄 想は,「妄想か否かを判断する主観」が加わる動的な概念である(Kingdon & Turkington, 1994).

妄想の内容が「了解可能か不能か」は,判断する側が所属する文化・サブカルチャーによ って分かれてくる.そのため,妄想の「ある―なし」を明確に,一義的に判断することは 難しい.

また,疫学調査の結果からも,妄想の「有無」は,必ずしも明確ではないことがわかっ てきた.Strauss(1969)は,臨床場面で見られる妄想が,確信度(conviction:体験が現実 であるという確信の程度)・心的占有度(preoccupation:体験に費やす時間)・内容の不適切

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さ(implausibility)などの複数の次元によって構成されており,単純に「ある/なし」だけ で評価する方法に疑問を投げかけた.

Straussの問題提起をきっかけとして,WHOによる国際統合失調症パイロット研究(WHO,

1979)が行われた.パイロット研究では,119名の統合失調症患者を対象に,現在症診察表

(Present State Examination: Wing, Kooper & Sartorius, 1974)を実施した.現在症診察表は,

症状評価の半構造化面接である.半構造化面接基準を用いて,妄想のアセスメントを行っ たところ,「判定不能」な妄想を持つ患者が74名いた.PSEにおける「判定不能」カテゴリ ーは,①情報不足による「評価不能」と②情報が十分あるにもかかわらず妄想の有無を確 定出来ない「有無不確実」の 2 つに分けられる.「有無不確実」な妄想だけを持つ患者は,

23名だった.「有無不確実」な妄想は,①内容が必ずしも不可能ではなく,妄想と正常思考 の中間的なもの,②特殊な文化的・状況的要因(宗教・入出眠時)があるもの,③絶対的 な確信を持っておらず,非現実であるという認識があるものの 3 つに分けられた.最初の 調査の時点では,PSE の基準で「妄想あり」とされた患者が,1 年後の追跡調査では,「有 無不確実」になっていたケースもあった.

  WHOのパイロット研究の結果を踏まえて,Straussは,①妄想は「ある/なし」の二段階 評価ではなく,連続的にアセスメントしたほうが良い,②妄想を,連続体(continuum)と して捉えなおした方が良い,③「ある/なし」の次元だけではなく,確信度や心的占有度 など複数の次元で捉えた方が良い,④統合失調症という疾患そのものも,連続体として捉 えた方が良い,と提案した.

妄想と妄想様観念

妄想は統合失調症の症状であり,病的な信念である.しかしながら,統合失調症患者で

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なくても,妄想に似た考えを持つことがある.妄想に似た考え・信念は,妄想様観念と呼 ばれる.妄想様観念は,DSM-Ⅳでは,「妄想ほどの強さはない観念で,自分が苦しめられ ている,迫害されている,または不当に扱われているという疑念」と定義されている.

Jaspers は,統合失調症の妄想を一次妄想,統合失調症以外の疾患患者や健常者の持つ妄

想様観念を二次妄想と呼び,両者を区別して定義した(Jaspers, 1948).Jaspersの定義以来,

妄想と妄想様観念は,非連続的であると考えられてきた.しかしながら,妄想の有無が一 義的に判断できないのと同様に,妄想と妄想様観念の線引きも非常に難しい.

健常者の妄想様観念

  また,最近の研究では,妄想様観念は,健常者も予想されている以上の頻度で持ってい ることが,実証データから示されてきた(Peters, Joseph & Garety, 1999; Cox & Cowling, 1989;

Verdoux, van Os, Maurice-Tison, Gay, Salamon & Bourgeois, 1998; Bijl, van Zessen, Ravelli, de Rijk & Langendoen, 1998; 山崎・丹野,  2004).妄想様観念の中でも,「他人が自分のことを 陥れようとしているのではないか?」といった被害観念や,「何でも自分と関係があるので はないか?」と疑う関係念慮は,健常者の間でもそれほど珍しいものではない(Fenigstein &

Vanable, 1992).van Os, Hanssen, Bijl & Ravelli(2000)の調査では,症状評価の構造化面接 で,17の症状のうち 1つ以上症状があると判断された被調査者は,全体の 17.5%だった.

一方,DSM-IIIで精神病性障害と診断された被調査者は,全体の2.1%だった.また,Poulton,

Caspi, Moffit, Cannon, Murray & Harrington(2000)の調査では,26歳時点で妄想的観念を体 験したことがある被調査者は,全体の 20.1%だった.精神疾患と診断されない一般健常者 でも,妄想様観念を体験しうることが,実証データから明らかになってきている.また,

10代後半から 20 代にかけての青年期では,30代以上の成人よりも高い頻度で妄想様観念

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を持つことが分かってきた(Verdoux & van Os, 2002).

妄想の連続説

妄想と妄想様観念,または,妄想と通常の信念を連続的に捉えるべきか,非連続的に捉 えるべきか,現在でも多くの議論が重ねられている(van Os, Gilvarry, Bale, van Horn, Tattan, White & Murray, 1999; van Os et al., 2000; Mullen, 2003; Jones, Delespaul & van Os, 2003).妄想 様観念については,本当に「他人が自分のことを陥れようとしている」か否かという客観 的な正誤は,それほど問題にはならない.仮に誤った信念であっても,信念を持っている こと自体が問題なのではない.それよりも,「自分が不当に扱われている」という疑念の強 さや,苦痛感情などの主観面がメンタルヘルスの上で問題となる(丹野・石垣・杉浦,2000;

Peters, Day, McKenna & Orbach, 1999; Freeman, Garety, Fowler, Kuipers, Bebbington & Dunn, 2004; Garety, Freeman, Jolley, Dunn, Bebbington, Fowler, Kuipers & Dudley, 2005).

近年の実証研究では,妄想と妄想様観念を連続体として捉える研究が増えている.特に 心理学的な研究では,連続体仮説を採用した研究がほとんどである.また,DSM-Ⅳでも,

妄想と妄想様観念は,連続的なものとして捉えられている(丹野ら,2000).この点は,Jaspers の定義と異なっている.連続体仮説では,妄想(delusion)と妄想様観念(delusion-like ideation)

を区別せず,妄想的観念(delusional ideation)として両者を連続的にとらえている.

治療介入の判断

  しかしながら,仮に妄想と妄想様観念が連続体であったとしても,実際に医療のケアが 必要かどうかの判断は,「必要/不必要」の非連続にならざるを得ない.臨床以外の場面で は,妄想や精神疾患に限らず,医学的な疾患は「ある―なし」の現象ではなく,疾患の重

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症度が連続的に推移するものである(Rose & Barker, 1978).例えば,血圧や耐糖能(グルコ ース許容量)は連続的に分布しているが,治療が必要かどうかを決めるときに初めて,非 連続的になる.そして,高血圧や糖尿病という疾患としてみなされ,治療・介入が行われ る.

このような臨床的な意思決定が存在するが故に,「臨床家は,『妄想や幻覚などの精神病 症状があること=治療が必要なケース』という見方をしてしまう(Johns & van Os, 2001)」

と言われている.臨床家の非連続的な捉え方が,診断基準にも影響を及ぼしており,その ために妄想と妄想様観念は非連続的に捉えられている面もある.

妄想的観念の体験頻度の分布

連続説に立つ研究では,妄想(delusion)と妄想様観念(delusion-like ideation)をとりあ えず区別せず,妄想的観念(delusional ideation)として両者を連続的にとらえている.しか しながら連続説は,現時点ではあくまで作業仮説である.では実際には,妄想的観念の体 験頻度はどのように分布しているのであろうか?理論的には以下の 3 つが考えられる

(Figure 0-1).仮に5つの要因が妄想的観念の発現に寄与しているとする.5つの要因が等 しく発現に寄与しており,寄与に大きな差がない場合は①の分布になる.いわゆる正規分 布である.一方,5つの要因が互いに相互作用し,かつ同時に協同して妄想的観念の発現に 寄与する場合,非連続に近い②の分布になる.独立に作用し,かつ同時に協同して寄与す る場合は①と②の中間となる③の分布になる(Johns & van Os, 2001).

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① ② ③

Figure 0-1  統合失調症の症状の分布(Johns & van Os, 2001より)

抑うつの連続性と妄想の連続性

精神疾患で連続性についての研究が進んでいるのは,抑うつである.遺伝研究やコミュ ニティを対象とした研究から,抑うつは症状の連続体として存在することが分かっている

(Weich, 1997).妄想や幻覚といった精神病症状(psychosis)と抑うつは,発生メカニズム やリスク要因・治療法がある程度重複していると考えられている(van Os, Jones, Sham, Bebbington & Murray, 1998).もしそうだとすれば,抑うつだけが連続的で,妄想は非連続的 であるとは考えにくい.妄想は,発症率が抑うつよりも低いために,分布がゆがんでいる ことは考えられるが,連続的でないとは言えないだろう.抑うつの連続性に関するデータ は,妄想の連続性を支持する傍証であると考えられている.

妄想と統合失調症の関係

統合失調症の症状である妄想の連続性は,統合失調症そのものの連続性と必ずしもイコ ールではない.アメリカの併発例調査では,28%の人が幻覚や妄想といった統合失調症の 症状があるとしてスクリーニングされたが,最終的に医師によって統合失調症と診断が下 されたのは,広い診断基準に基づいた場合でも0.7%であった(Kendler, Gallagher, Abelson &

Kessler, 1996).このことから,臨床的な「統合失調症」という判断は,幻覚や妄想などの精

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神病症状の連続体の中にある下位分類に過ぎないと考えられる.遺伝学的には,統合失調 症の症状が単一遺伝子の表現形であるとは考えにくく,多要因の現象であると言われてい る.多要因の遺伝子が関係している表現形は,身長や体重,慢性疾患である糖尿病や心臓 疾患のように連続的に分布する.

連続説の研究方法

このように連続説に基づく仮説が主張されても,妄想の連続性について研究は1990年代 になるまであまり進まなかった.特に精神医学分野では,治療・介入の判断が非連続的で あったことも影響し,連続性についての研究が行われなかった.

しかし,連続説が定着した90年代以降には,妄想のアナログ研究が行われるようになっ た(Fenigstein & Vanable, 1992; Linney,Peters & Ayton, 1998; Green, Williams & Davidson, 2001;

Martin & Penn, 2001; Colbert & Peters, 2002; Combs & Penn, 2004).アナログ研究とは,妄想と 妄想様観念の間に連続性を仮定し,妄想的観念として連続体で捉えた上で,健常者を対象 として妄想の発生メカニズムを研究する方法である.

連続説に立つ研究では,一般人口を対象とした大規模疫学調査が主に行われている(van Os, Hanssen, Bijl & Vollebergh, 2001).臨床場面では,連続的な性質の極端な部分が集まって くるため,本質的に連続的かどうかの証拠を示すデータは収集できない.そのため,健常 者を対象とした調査が必要になる.疫学研究の結果からは,精神科を受診していない人で も,統合失調症の発症率よりも高い率で妄想的観念を持つことが明らかになっている.

連続説を支持するデータ①:妄想的観念は,統合失調症・抑うつのリスクファクター 妄想的観念を持ちやすい人は,統合失調症やうつ病の発症リスクが高いという報告があ

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る(Tien & Eaton, 1992; Chapman, Chapman, Kwapil, Eckblad & Zinser, 1994; Poulton et al., 2000).

Chapman et al. (1994)は,1970年代から80年代にかけて,7800名の大学生を対象にスクリ ーニング調査を行った結果を元にして,妄想的観念や知覚異常体験を持ちやすかった被調 査者(psychosis-proneness subjects)508名が,その後10年間で統合失調症を発症していたか どうかを追跡調査した.Chapman et al.(1994)では,①知覚的偏奇尺度,②魔術的思考尺 度,③身体的アンヘドニア尺度,④衝動調節尺度の尺度で,平均値+1.96 標準偏差以上の 得点の被調査者をスクリーニングした.追跡調査の結果,①知覚的偏奇尺度の得点が高か った群では,10 年後の統合失調症発症率が 1.7%だった.大学卒業者の生涯有病率が 0.5%

であることを考えると,統計的には有意ではなかったが,比較的高い値だと言える.また,

感情障害の発症率は,対照群が 20.3%だったのに対して,①知覚的偏奇尺度得点高群では

35.2%であり,統計的にも有意な差が見られた.また,Poulton et al.(2000)は,11歳時点

で幻覚様体験・妄想的観念があると自己報告した被調査者を追跡調査した.その結果,体 験 し た こ と が あ る と 自 己 報 告 し た 被 調 査 者 は ,26 歳 時 点 で 統 合 失 調 症 圏 障 害

(schizophreniform disorder)を発症している率が42%と非常に高い率だった.

妄想的観念に伴う苦痛が強かったり,妄想的観念に長い時間とらわれたりする場合は,

不適応につながってしまう可能性がある.このようなハイリスク群を対象とした早期介 入・予防研究も注目されている(Morrison, French, Walford, Lewis, Kilcommons, Green, Parker &

Bentall, 2004).

連続説を支持するデータ②:デモグラフィックデータとの関連パターン

妄想的観念は,年齢が若いほど体験率が高くなることがデータでは示されている.一般 人口を対象とした疫学調査でも,18〜29歳の年齢層で最も体験率が高かった(Verdoux et al.,

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1998).統合失調症を発症しやすい年齢も,10代から20代の青年期である.

また,都市中心部の方が農村部よりも妄想的観念の体験率が高いという調査結果もある

(Lundberg, Cantor-Graae, Kabakyenga, Rukundo & Ostergrena, 2004).統合失調症の発症率も,

都市中心部の方が高く,郊外になるほど低い事が知られている.このように,統合失調症 と妄想的観念の間には,同じような関連パターンが存在する.このことが,統合失調症の 妄想と健常者の妄想様観念の間に連続性がある証拠であると言われている.

連続説を支持するデータ③:共通の生物学的基盤

  統合失調症患者の家族は,統合失調症の発症率が高いことはよく知られている(Gottesman

& Shields, 1982).また,行動遺伝学的研究によれば,統合失調症の一致率は,一卵性双生児 のほうが二卵性双生児よりも高い(Gottesman & Shields, 1982).このようなデータは,統合 失調症に生物学的基盤があることを示唆している.

一方で,統合失調症そのものの発症率だけでなく,統合失調症患者の家族は,妄想的観 念をもちやすいことも示されている(Kendler, McGuire, Gruenberg, O'Hare, Spellman & Walsh, 1993; Kendler, McGuire, Gruenberg & Walsh, 1995).これらのデータは,統合失調症の妄想と 健常者の妄想様観念の間にも,共通の生物学的基盤があり,両者が連続している可能性を 示唆している.

統合失調症の連続性:統合失調症型人格

幻覚や妄想といった症状の連続性に関する研究が増える一方で,統合失調症そのものが 連続的であると捉える研究も増えてきた.統合失調症という疾患そのものが連続している と捉える研究では,統合失調症が,統合失調症型人格(Schizotypal Personality, Schizotypy)

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の極端なものであると捉える.統合失調症型人格傾向の強い健常者は,幻覚様体験や妄想 様観念を持ちやすい.統合失調症患者の家族は,統合失調症型人格傾向が強いこと(Tsuang, Stone & Faraone, 1999)や,統合失調症型人格傾向の人は,統合失調症患者と共通の認知的 特徴を部分的に持つことが明らかになってきている(Freedman, Adler, Olincy, Waldo, Ross, Stevens & Leonard, 2002; Tsakanikos & Reed, 2005).最近では,統合失調症型人格傾向と脳機 能や遺伝子の関係についての研究もある(Fisher, Mohanty, Herrington, Koven, Miller & Heller, 2004; Linney, Murray, Peters, MacDonald, Rijsdijk & Sham, 2003).

統合失調症そのものを連続的に捉える研究では,症状だけでなく疾患単位で見ても,健 常者と統合失調症患者の間に質的な差異を仮定しないことになる.統合失調症の連続説は,

妄想の連続説よりも,ラディカルな仮説である.

健常者の妄想的観念と統合失調症患者の妄想的観念を同一のパラダイムで研究する意義

  健常者を対象とした妄想のアナログ研究は,連続説を作業仮説としている.連続説は精 神医学よりも異常心理学や臨床心理学による統合失調症理解に寄与する.健常者の心理メ カニズムを枠組みとして,統合失調症患者のどこに異常があるのか,妄想がどのように発 生するのかを解明することが出来る.また,妄想様観念や幻覚様体験と,妄想・幻覚の発 生メカニズムが分かれば,妄想様観念・幻覚様体験が,妄想・幻覚になってしまうことを 防ぐことが出来る.

一方,妄想様観念・幻覚様体験と妄想・幻覚の違う点は,①体験の頻度,②確信度,③ 心的占有度,④行動への影響度,⑤苦痛度,⑥二次的な帰属などが考えられている.Strauss

(1969)は以下の4つの条件を挙げて,妄想様観念・幻覚様体験と妄想・幻覚の区別をし ている.それは,①観念・体験を客観的な現実として確信している程度,②文化や状況刺

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激によって規定されていない程度,③観念・体験に支配されている時間の長さ,④体験の 異常さである.しかし,データからは体験内容の異常さと確信度は,病気かどうかを決め る要因ではないことが分かっている(Garety & Hemsley 1994).一方,体験の文化非規定性,

心的占有度,苦痛度は,病気かどうかを決める重要な要因であると考えられている.この ように,病気かどうか,すなわちケアが必要か必要でないかに大きく影響する要因と,影 響しない要因が存在すると考えられる.妄想と妄想様観念を同一のパラダイムで研究し,

両者の共通点・相違点が明らかになれば,臨床的な示唆が得られるだろう.

連続説と治療・予防

連続性を仮定する見方は,①統合失調症患者の個人精神療法,②家族の心理教育,③一 般者のメンタルヘルス教育で「病態理解の進展,スティグマの軽減」に役立つ可能性があ り(Kingdon & Turkington, 1994),治療的にもメリットがある見方である.

治療や予防を考えると,連続体のどの位置で病的な状態になるのかを見極める必要があ る.また,病気の状態と健康な状態が連続しているのかどうかを区別しておく必要がある.

連続している状態は①の状態である.もう一つは②のように準連続の状態である(Johns &

van Os, 2001; Figure 0-2).

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①連続 ②準連続

ケアの必要性 ケアの必要性

症状のレベル 症状のレベル

Figure 0-2 症状のレベルとケアの必要性の関係(Johns & van Os, 2001より)

症状のレベルは連続しているが,症状のレベル自体がケアの必要性と比例するのではなく,

ある閾値を越えて初めてケアが必要になる,というモデルである.高血圧や糖尿病がこの モデルに当てはまる.可能性としては②のほうが高いと考えられる.前にも述べたように,

ケアの必要性については,「必要/不必要」のように非連続的な判断になる.その点を考え ても,②のような準連続の分布と考えるのが妥当であろう.症状そのものは連続的に分布 しているが,疾患/非疾患は非連続であると考えられる.

妄想と妄想様観念の定義と位置付け

妄想と妄想様観念の定義と位置付けは,両者を連続的に捉えるか,非連続的に捉えるか によって,かなり違ってくる.最近の実証研究では,連続説にたつ研究が増えてはいるも のの,依然として議論の余地が残る問題である.また,両者はあくまでパラダイムの問題 であり,現象の捉え方の問題であるため,どちらが正しいとは言えないかもしれない.妄 想と妄想様観念に関する実証研究は,ここ 10 年の間に本格化した新しい分野であるため,

概念定義も研究者によって統一されていない.

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非連続説では妄想,妄想様観念,通常の信念を非連続的に分け,妄想は統合失調症に特 異的であると考える(Figure 0-3)のに対して,連続説では,妄想,妄想様観念,通常の信 念の境界はあいまいで連続的になる(Figure 0-4).また,連続説では,統合失調症患者以外 でも妄想がみられることを強調する.

また,丹野ら(2000)は,妄想(delusion)と妄想様観念(delusion-like ideation)をとり あえず区別せず,両者をひとまとめにして「妄想的観念(delusional ideation)」として捉え た上で,連続説を作業仮説として,統合失調症患者(①)と健常者(②)でどこがどう違 うのかを調べていく方法論を提案している(Figure 0-5).

通常の信念 妄想様観念 妄想 統合失調症

Figure 0-3 非連続説における妄想・妄想様観念・通常の信念の位置付け

統合失調症 通常の信念

妄想 妄想様観念

Figure 0-4 連続説における妄想・妄想様観念・通常の信念の位置付け

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統合失調症

② ①

通常の信念 妄想的観念

Figure 0-5 作業仮説としての妄想的観念の位置付け

連続性とアセスメント法

連続性の程度は,症状のアセスメント法にも大きく左右される.アセスメントの基礎と なる考え方には,①症状を体験していても,必ずしも統合失調症になるとは限らないとい う考え方,②連続体に従って,病気の状態から病気「的」(統合失調症的:schizotypal)な 状態が分布しているという考え方の2つがある.このどちらを取るかで分布も変わってく る.また,質問紙に含まれる項目の性質によっても分布が異なってくる.Schizotypal Personality Questionnaire(Raine, 1991)のように統合失調症患者の家族にも見られる症状を 項目に含むものは正規分布に近くなり,知覚的偏倚尺度(Perceptual Aberration Scale;

Chapman, Chapman & Raulin, 1978)のように病理的な項目を含むものは分布がかなり歪むこ とも分かっている.

このように,妄想的観念を連続的に定義することと,妄想的観念をアセスメントする方 法は密接に関係している.そこで次に,妄想的観念のアセスメント法について,これまで に開発された方法を概観した.そして,近年注目されている妄想的観念の多次元アセスメ ントについてまとめた.

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背景Ⅱ  妄想的観念のアセスメントと多次元性について 妄想のアセスメント

  妄想はJaspers以来,統合失調症の診断において重要であるとされてきた.妄想が「ある」

か「ない」かが,統合失調症の診断材料とされ,妄想の有無が診断の上で大きなウェイト を占めてきた.そして,妄想を客観的に測定するためのアセスメントツールが開発されて きた.

非連続的アセスメント

  Jaspers 以来の記述精神病理学では,統合失調症の妄想は了解不能であり,了解可能な妄

想様観念や健常者の信念とは質的に異なるとされてきた.この考え方はドイツ流の記述精 神病理学に特徴的である.ドイツ流の記述精神病理学は診断・鑑別に重きを置いていた.

明確な診断のためには病的な妄想は健康な信念との間に明確な線引きが必要になったと考 えられる.非連続的なアセスメントによって,妄想は詳細にわたって記述され,主題ごと の細かい分類も行われた.

連続的アセスメント

  しかし,1960 年代以降の実証研究では,統合失調症患者が完全に妄想と判断しにくい信 念を持つこと(Strauss, 1969)や,健常者でも妄想に似た観念を持つこと(Fenigstein & Vanable, 1992)が報告されている.統合失調症患者の妄想と健常者の信念の間にはある程度連続性 を仮定する研究も増えてきた.妄想と妄想様観念の定義は,長い間非連続的であったため,

「連続的なアセスメント」という発想が出てこなかった.しかしながら,前にも述べたよ うに,妄想と妄想様観念の区別は必ずしも明確ではなく,統合失調症の妄想でも,Jaspers

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の定義を満たさないような中途半端な妄想も多く見られる.また,被害妄想的な観念は健 常者でも珍しくないことが報告されている.そのため,妄想を正確にアセスメントするた めには,妄想の程度を連続的な次元(dimension)によって測定するツールが必要である.

アセスメント機能の変遷  症状評価・臨床研究から治療・アナログ研究へ

  妄想のアセスメントツールには,用途・機能別にいくつかの種類がある(Table 0-1).客 観的なアセスメントツールが作られ始めた70年代ころは,症状評価や抗精神病薬の効果評 価に用いられることが多かった.80 年代後半から,イギリスでは妄想の認知行動療法が開 発され始める.妄想の認知行動療法の一環としてアセスメントツールが開発された.これ は症状評価よりも,治療のためのツールとしての機能が大きい.90 年代以降は妄想のアナ ログ研究に伴い,質問紙が研究の被験者をスクリーニングするために用いられるようにな った.ハイリスク研究にも用いられるようになった.

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Table 0-1 妄想のアセスメントツール

尺度 日本語 刊行年 測定対象 測定方法

a−1) 症状評価・臨床研究(精神症状評価尺度の一部)

Brief Psychiatric Rating Scale 簡易精神症状評価尺度 1962 精神症状全般 面接法 Present State Examination 現在症診察表 1974 精神症状全般 面接法 Manchester Scale (Psychotic Assessment Scale) 1977 精神症状全般 面接法 Comprehensive  Psychopathological Rating Scale  (CPRS) 包括的精神病理評価尺度 1978 精神症状全般 面接法 Schedule for Affective Disorders and Schizophrenia (SADS) 1978 精神症状全般 面接法 Schizophrenia Change Scale (SCS)

(Montgomery  ScizophreniaScale  (MSS)) 1978 精神症状全般 面接法

AMDP 1979 精神症状全般 面接法

Maine Scale 1981 精神症状全般 面接法

The Positive and NegativeSyndrome Scale (PANSS) 陽性陰性症状評価尺度 1989 精神症状全般 面接法 Structured Clinical Interview forDSM-III-R (SCID) 1990 精神症状全般 面接法

MMPI ミネソタ多面人格目録 1956 精神症状全般 質問紙法

a−2) 症状評価・臨床研究(陽性症状・妄想に特化した尺度)

Scale for the Assessment of Positive Symptoms (SAPS) 陽性症状評価尺度 1984 陽性症状 面接法 The Psychotic symptom rating scales (PSYRATS) 1999 陽性症状 面接法 A Rating Scale for Psychotic Symptoms (RSPS) 1999 陽性症状 面接法 Scales for Rating Psychotic and  Psychotic-like Experiences as

Continua (SRPPEC) 1980 陽性症状 面接法

Dimensions of Delusional Experience Scale 1983 妄想 面接法 Personal Ideation Inventory 1984 妄想 面接法 Maudsley Assessment of Delusions Schedules (MADS) 1993 妄想 面接法 Multi-dimensional Assessment of Personal Ideation (日本語のみ) 1996 妄想 面接法

Paranoid Scale 1959 妄想 質問紙法

Delusions-Symptoms-States Inventory (DSSI) 1975 妄想 質問紙法

b)治療的アセスメント

Personal QuestionnaireAssessments of Conviction and Preoccupation 1985 妄想 治療法 Characteristics of Delusions Rating Scale 1987 妄想 治療法 Reaction to hypothetical contradiction and Accomodation 1987 妄想 治療法 Coping Strategy Enhancement (CSE) 1992 妄想 治療法 Reasoning about Delusions 1994 妄想 治療法

ABC assessment 1996 妄想 治療法

c)アナログ研究

Magical Ideation Scale 1983 妄想 質問紙法

Schizotypal Personality Scale 1984 統合失調症型

人格傾向 質問紙法 Schizotypal Personality Questionnaire 1991 統合失調症型

人格傾向 質問紙法

Paranoia Scale パラノイア尺度 1992 妄想 質問紙法

Evaluative Belief Scale 1996 妄想 質問紙法 Paranoia Suspicious Questionnaire 1996 妄想 質問紙法 Peters et al. Delusions Inventory (PDI) 日本語版PDI 1999 妄想 質問紙法 妄想観念チェックリスト(日本語) (日本語のみ) 2000 妄想 質問紙法

(21)

症状評価・臨床研究用アセスメント①  精神症状評価尺度の一部

妄想のアセスメントは,客観的な精神症状評価尺度の一部に組み込まれていた.標準化 されており,一般的に普及している尺度であるため,研究にも利用しやすい.しかし,妄 想を評価する尺度は全体の尺度のごく一部である.そのため,項目数が少なく得点の幅も 小さくなってしまうことがある.信頼性が低かったり,治療反応性が鈍くなるというデメ リットがある.妄想の内容まで細かく踏み込んだアセスメントも難しい.

症状評価・臨床研究用アセスメント②  陽性症状・妄想に特化した尺度

陽性症状や妄想に的を絞ってアセスメントするツールもある.陽性症状・妄想のみを詳 しくアセスメントすることが出来る.定量的な分析も可能である.また,Scales for Rating Psychotic and Psychotic-like Experiences as Continua(SRPPEC; Chapman & Chapman, 1980)の ように,非臨床群と臨床群の両方に適用可能なアセスメントツールもある.連続的なアセ スメントが出来る.しかし,大部分が面接法によるアセスメントであり,コストがかかる という難点がある.新しい尺度も多く,標準化がされていなかったり,日本語訳がなかっ たりするものが多い.

治療的アセスメント

  妄想の認知行動療法を行う際に用いるアセスメントである.個別の妄想を特定し,客観 的に評価した結果を治療者と患者で共有するためのものである.治療技法の一環として用 いられる.個別のアセスメントに向いており,治療効果評価にも使える.しかし,反復測 定が必要であり,大規模な調査研究や実験研究には不向きである.反復測定の縦断データ であるため,統計的な分析も難しい.そのためシングルケース研究によく用いられる.目

21

(22)

的はあくまで妄想の治療であり,治療のための道具という色彩が強い.

アナログ研究用アセスメント

  健常者を対象としたアナログ研究を行う際に用いるアセスメントである.ほとんどが質 問紙による自己記入式アセスメントである.質問紙法は,客観的かつ簡便に症状評価が出 来る.調査のコストが少なく,大量データが集めやすい.大規模な疫学調査に向いている.

また,実験群のスクリーニングにも使われる.多変量解析を用いてデータ分析することも 出来る.臨床群を対象として実施することも可能だが,知的レベルの高い患者や安定期の 患者でないとデータの信頼性が下がってしまう. 

アセスメント形式の変遷  他者評価から自己評価へ

妄想のアセスメントは,ほとんどが面接による他者評価式の尺度である.臨床場面で用 いられるものは,MMPI,Paranoid Scale,DSSI 以外はほぼ全て面接による他者評価式であ る.質問紙による自己評価式尺度は,最近になって作られ始めたばかりである.標準化さ れたものは MMPI 以外にはない.ここにも記述精神病理学の影響が見られる.正常な判断 が出来ない患者には,自分の症状の客観的な評価は難しいと考えられていたためである.

しかし,妄想は,異常な「信念」であり,主観的な現象である.主観的な信念は,行動の ように客観的に測定する事が難しい.主観的な信念を可能な限り客観的に測定するために は,質問紙による自己評価のほうが適切であるとも考えられる.

妄想以外の質問紙症状評価尺度は,抑うつの評価尺度である BDI (Beck Depression Inventory; Beck, Ward, Mendelson, Mock & Erbaugh, 1961)や,不安の評価尺度であるSTAI

(State-Trait Anxiety Inventory; Spielberger, Gorsuch & Lushene, 1983)などがある.質問紙

(23)

法による妄想の評価尺度もこれまでいくつか開発されてきた(Table 0-1).しかし,精神科 患者のみを対象としたものか,健常者のみを対象としたものに限定されていた.そのため,

BDIやSTAIのように,健常者と患者両方に適用可能な妄想の症状評価尺度がなかった.そ れは,Jaspers の定義以来,妄想が「ある―なし」の非連続的な現象と捉えられてきたため である.

他者評価式アセスメント

  臨 床 研 究 や 抗 精 神 病 薬 の 効 果 研 究 で は ,BPRS,PANSS (Positive and Negative Syndrome Scale; Kay, Opler & Fistbein, 1971),SAPS(Scale for the Assessment of Positive Syndrome; Andreasen, 1990)などのような面接形式の他者評価式の症状評価がほと んどの場合用いられる.面接形式のアセスメントは,妄想に関する詳細な情報を得られる 利点がある.ブラインドで評価を行うことで,プラセボや治療者バイアスを避けることが 出来る.標準化されているため,コンセンサスを得られやすい.しかし,他者評価式アセ スメントは,実施にコストがかかる.信頼性のある評価を行うためには訓練が必要である.

また,評価者の人的コストもかかる.評定者間一致度はおおむね良いものが多いが,実際 利用するとスコアが大きくずれることもある.評価者が複数いる場合には,スコアを出来 るだけ一致させるためのディスカッションが必要になる.面接形式の他者評価式アセスメ ントは,日常臨床のアセスメントや大規模疫学調査には不向きである.

自己評価式アセスメント

健常者を対象としたアナログ研究や疫学研究では,質問紙が用いられることが多い.質 問紙は,調査にコストがかからず,大量のデータを集めることが出来るという利点がある.

23

(24)

得られたデータに多変量解析のような複雑な統計処理を施すことも出来る.

妄想や統合失調症型人格のアセスメントに質問紙法を用いるメリットは大きい.90 年代 以降,質問紙による妄想のアセスメントツールが開発されてきている.しかし,質問紙に よる精神症状評価は MMPI 以外は標準化はされていない.認知機能・知的機能の落ちた統 合失調症患者に用いると,データの信頼性が落ちたり,患者に負担がかかったりする恐れ がある.統合失調症患者に用いる時には,実施に十分な説明や配慮が必要になる.

多次元アセスメント

妄想は,「ある」か「ない」かの現象として捉えられてきた.しかし,実際には,妄想が あっても社会適応が良い患者もいる.単純に妄想の「ある」「なし」だけでは,不適応的な 症状なのかどうかは判断できない.「ある」か「ない」かの一次元だけでは,臨床アセスメ ントとして不十分である.そのため近年では,妄想を様々な次元から測定する多次元アセ スメント法が多く開発されている.

多次元アセスメント研究①:設定された次元

Strauss(1969)の問題提起や,WHO(1979)のパイロット研究を受けて,Kendler, Glazer

& Morgenstern(1983)は,52名の妄想患者を対象に,多次元アセスメントを用いた横断研

究を行った.Kendler et al.(1983)は,半構造化面接を用いて,妄想の①確信度(conviction),

②心的占有度(preoccupation),③般化度(extention),④内容の奇異さ(bizarreness),⑤解 体度(disorganization)を評価した

また,Garety & Hemsley(1987)は,55名の妄想患者を対象に,CDRS(Characteristics of Delusions Rating Scale)を実施した.CDRSは,妄想を①確信度(conviction),②心的占有度

(25)

(preoccupation), ③ 行 動 阻 害 度 (interference), ④ 抵 抗 (resistance), ⑤ 忘 れ や す さ

(dismissibility),⑥不合理さ(absurdity),⑦明快さ(self-evident),⑧証拠探し(reassurance seeking),⑨心配(worry),⑩不幸感(unhappiness),⑪心的妨害度(pervasiveness)の 11 次元から評価できる.視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale)を用いて測定し,それ ぞれの次元を10段階で評価する.

多次元アセスメント研究②:次元間の相関係数

Kendler et al.(1983)では,④内容の奇異さについて,評定者間一致度が低かった(κ=.30).

また,①確信度と②心的占有度(r=.36),①確信度と③般化度(r=.36)の相関係数は,有意 ではあったが低かった.加えて,2つのペア以外に有意な相関が見られなかった.Garety &

Hemsley(1987)では,55個の相関係数のうち,有意なものは12個であった.妄想を構成

する次元間の相関は強くない.このような先行研究の結果から,妄想が単純な一次元の変 数ではなく,多次元的であると考えられている.

多次元アセスメント研究③:多次元を縮約するための主成分分析・因子分析

多次元アセスメント研究では,研究によって次元の種類や数が異なる.初期の研究では,

精緻にアセスメントするために,5個以上の次元を設定していた.多くの次元を設定すれば,

それだけ詳細なアセスメントが可能になる.しかしながら,情報量が多くなりすぎるため,

結果の解釈が煩雑になる.また,設定された次元の中には,重複する類似した次元も含ま れる.Kendler et al.(1983)や,Garety & Hemsley(1987)では,多くの次元を縮約するため に,主成分分析や因子分析を行っている.Kendler et al.(1983)では,因子分析の結果,5 つの次元が,①巻き込まれ度(delusional involvement)と②構成度(delusional construct)の

25

(26)

2つに分かれた.また,Garety & Hemsley(1987)では,主成分分析の結果,11の次元が,

①苦痛度(distress),②強度(strength),③強制感(obtrusiveness),④関心(concern)の 4 つに分かれた.

多次元アセスメントによる記述研究

多次元アセスメント研究から,妄想の次元は概ね,①体験内容の奇異さ(bizarreness),

②苦痛度(distress),③心的占有度(preoccupation),④確信度(conviction)の4つに集約さ れる(Bentall, Corcoran, Howard, Blackwood & Kinderman, 2001).4つの次元の中で,最も不 適応に結びつきやすいのは,苦痛度(distress)である(Freeman & Garety, 1999).統合失調 症患者の中には,持続的に妄想が残っている患者が多く存在する.しかしながら,妄想そ のものは残っていても,日常生活を営むのに支障がない患者も多い.妄想を持っていても,

主観的に苦痛を感じていなければ,社会生活上問題はない場合が多い.逆に,主観的な苦 痛度が強ければ,不適応的な行動に結びつきやすく,入院などのケアが必要になる.

心的占有度と確信度:信念を考える時間と信念の強さ  宗教的信念との比較

Jones & Watson(1997)は,健常者の宗教的信念と妄想を,多次元アセスメントで比較し た.その結果,確信度に差はなかった.また,Peters et al.(1999)は,新興宗教信者と妄想 を持つ統合失調症患者を,多次元アセスメントで比較した.①体験数,②苦痛度,③心的 占有度,④確信度の 4 つの次元から比較した.その結果,統合失調症患者のほうが,②苦 痛度が強く,③心的占有度が高かった.一方,①体験数と④確信度の得点に差はなかった.

②苦痛度と③心的占有度は,妄想様観念が病的かそうでないかを区別する際には,重要な 次元である.一方,体験の内容と確信度は,病的かどうかの判断にはそれほど重要ではな

(27)

27 いと示唆されている.

多次元アセスメント研究の問題点

統合失調症患者の妄想の多次元性を示した先行研究は,小数事例を対象としたものが中 心である(Table 0-2).数は少ないが,大規模サンプルを対象とした研究もある(Appellbaum, Robbins & Roth, 1999).これらの研究では,次元間の相関が低いことを根拠に,妄想が多次 元的であると考察している.しかしながら,①研究ごとによって設定された次元が異なる,

②次元の数が多く,解釈が複雑になってしまうという問題点がある.

(28)

Table 0-2:多次元アセスメントによる妄想研究

研究者 年 対象者 次元 次元間相関 因子分析・主成分分析 その他 30名未満の患者群を対象とした臨床研究

Hole et al. 1979 統合失調症8名 ①確信度

②心的占有度

― ― ―

Brett-Jones et al.

1987 統合失調症+失調感

情障害9名

①確信度

②心的占有度

③行動阻害度

④反証への抵抗

⑤順応度

確信度×心的占有度:r = .13 確信度×行動阻害度:r = .04 心的占有度×行動阻害度:r = .37

― ―

Chadwick &

Lowe

1990 統合失調症6名 ①確信度

②心的占有度

③不安

④確信度(100%)

⑤同化度

⑥反証への反応

― ― ケーススタディによ

る縦断治療効果研究

Chadwick &

Lowe

1994 統合失調症6名 その他6名

①確信度

②心的占有度

③不安

④確信度(100%)

⑤同化度

⑥反証への反応

― ― ケーススタディによ

る縦断治療効果研究

Sharp et al. 1996 統合失調症6名 ①確信度

②心的占有度

③不安    ④他の感情

⑤真偽率  ⑥確信度

⑦心的占有度

⑧信念維持要因

⑨感情

⑩妄想に基づく行動

⑪阻害行動

⑫他者への開示性

⑬組織化  ⑭洞察

― ― ケーススタディによる

縦断治療効果研究

(29)

Table 0-2:多次元アセスメントによる妄想研究(続き)

研究者 年 対象者 次元 次元間相関 因子分析・主成分分析 その他 30名以上の患者群を対象とした臨床研究

Kendler et al. 1983 統合失調症34名 失調感情障害8名 抑うつ3名 非定型精神病5 その他2名

①確信度

②心的占有度

③般化性

④内容の奇妙さ

⑤内的一貫性

確信度×心的占有度:r=.36 確信度×般化性:r=.36

2因子

①巻き込まれ度:確信 度・心的占有度・般化性

② 構 造   内 容 の 奇 妙 さ・般化性・内的一貫性

Garety &

Hemsley

1987 統合失調症35名 失調感情障害3名 抑うつ3名 躁うつ病3名 躁病3名 不明8名

①確信度

②心的占有度

③行動阻害

④抵抗

⑤忘れやすさ

⑥非合理性

⑦自己確証度

⑧証拠探し

⑨心配

⑩不幸感

⑪般化度

確信度×心的占有度:r=.06 確信度×非合理性:r=.32 心的占有度×行動阻害度:r=.28 心的占有度×忘れやすさ:r=-.36 心的占有度×自己確証:r=.27 心的占有度×不幸感:r=.31 抵抗×非合理性:r=.28 抵抗×心配:r=.38 抵抗×不幸感:r=.46

忘れやすさ×不幸感:r=-.36 忘れやすさ×般化度:r=.32 非合理性×自己確証度:r=-.49 証拠探し×不幸感:r=.27 心配×不幸感:r=.70

4成分

①苦痛

②強さ

③押しの強さ

(obstrusiveness)

④結論づけ(concern)

Wessely et al. 1993 全被験者83名 統合失調症62%

妄想性障害9%

感情障害26%

その他3%

①確信度

②行動維持要因

③感情との関連

④行動

⑤心的占有度

⑥体系化

⑦洞察

― ― ―

29

(30)

Table 0-2:多次元アセスメントによる妄想研究(続き)

研究者 年 対象者 次元 次元間相関 因子分析・主成分分析 その他 30名以上の患者群を対象とした臨床研究(続き)

Eisen et al. 1998 強迫性障害20名 身体表現性障害20名 気分障害10名

①確信度

②心的占有度

③反論への反証

④観念の固定化

⑤反証への抵抗

⑥洞察

⑦関係念慮

― 1因子

因子負荷量:.48〜.92

項目―全体相関 r = .38~.85

Appelbaum et al.

1999 臨床群1136名 統合失調症 抑うつ 躁うつ その他

①確信度

②負の感情

③行動

④不活動

⑤心的占有度

⑥広汎性

⑦流動性

r = .15~.53(詳細は未記載) 2因子

①強さと注視感

(intensity and scope)

確信度・広汎性・心的 占有度

②行動と感情

行動・不活動・負の感 情

疾患別の次元得点 比較

内容別の次元得点 比較

疾患・内容別因子 構造比較

(31)

PDIの概要

Peters et al(1999)は,①簡便な症状評価と②連続的な多次元アセスメントの2点を実現

するために,妄想的観念を測定する自己記入式尺度 Peters et al. Delusions Inventory

(PDI)を開発した.PDIは現在症診察表(Wing et al., 1974)の質問項目を元に作成された 40 項目から構成されている.被検者はまず妄想について記述された項目について,思い浮 かんだことがあるかどうかを2件法(はい・いいえ)で回答する.40項目のうち「はい」

と回答した項目については,「思い浮かんだときにどのくらい苦しいか(苦痛度)」・「どの くらい頻繁に思い浮かべるか(心的占有度)」・「どのくらい本当だと思うか(確信度)」を5 件法で評定する.そして,それぞれの値を個人ごとに集計し,体験数(40 項目のうち「は い」と回答した数)・苦痛度・心的占有度・確信度の4つの次元について得点を算出できる.

PDI短縮版

Peters, Joseph, Day, & Garety(2004)は,主成分分析を用いて,Peters et al.(1999)の40 項目の中から主成分負荷量の大きい21項目を抽出し,PDI短縮版を作成した.PDI短縮版 は,PDIを用いた21の先行研究のうち,13の研究で用いられている(Table 0-3).また最近 では,PDI短縮版を項目に含めたCommunity Assessment of Psychic Experiences(CAPE)が開 発され,疫学調査などに応用されている.統合失調症患者にアセスメントを行う場合,認 知障害や注意の障害があることを考慮する必要がある.特に自己記入式アセスメントを行 う際には,被調査者の負担を最小限にとどめる配慮が必要である.臨床研究を行う場合に は,短縮版を作製する意義は大きいと言える.

本論文の研究1では,健常者を対象に PDI の信頼性・妥当性を確認した.また,研究3 では,PDI短縮版を作製し,健常者における信頼性・妥当性を確認した.研究4では,統合

31

(32)

失調症患者を対象にPDI40項目版の信頼性・妥当性を確認した.その上で,PDI短縮版の信 頼性・妥当性も確認した.

PDIを用いて多次元アセスメントを行う意義

欧米では PDI を用いて,コミュニティを対象とした大規模調査や統合失調症のハイリス ク者のスクリーニングが行われており,妄想的観念のアセスメントツールとして使用され ている(Table 0-3).本研究では,日本語版PDIを作成し,健常大学生と統合失調症患者の 妄想的観念を,①体験数,②苦痛度,③心的占有度,④確信度の4つの次元からアセスメ ント出来るようにした.そして,これまで先行研究では検討されてこなかった,次元間の 関連について実証データを元に分析を行った.

発生要因・維持要因研究のツール

健常者を対象としたアナログ研究を行う場合には,妄想的観念の程度によって被験者を スクリーニングする必要がある.そのためには,妄想的観念を測定する尺度が必要になる.

本研究では,PDIを用いて,妄想的観念を持ちやすい健常者を被験者としてスクリーニング した.また,多変量解析に耐えうるサイズのデータを集めるコストが小さい事も,質問紙 法のメリットである.本研究では,PDIを用いて約200名の健常者を対象とした縦断調査を 行い,妄想的観念による苦痛を維持させる要因を,多変量解析を用いて検証した.

(33)

Table0-3:PDIを用いた先行研究の結果

研究者 年 研究内容 使用法 方法・結果

Peters et al. 1996 PDIの作成・開発 信頼性・妥当性の検討 21項目版:体験数のみ.予備研究.詳細なデータ報告はなし.

Peters et al. 1999 PDIの作成・開発 信頼性・妥当性の検討

40項目版:4つの次元全て使用.次元間の相関係数は算出し ていない.苦痛度・心的占有度・確信度は単純加算した値を 使用.

Peters et al. 1999 新興宗教信者と妄想患者における妄想的観念の

比較 妄想的観念の評価 21項目版:4つの次元全て使用.妄想患者のほうが,新興宗 教信者よりも,苦痛度と心的占有度が強かった.

Verdoux et al 1998 一般人口対象の大規模調査 妄想的観念の評価 21項目版:体験数のみ使用.体験数と年齢の間に負の関連が

見られた.

Verdoux et al. 1998 プライマリケア患者対象の大規模調査 妄想的観念の評価 21項目版:体験数のみ使用.精神科罹患歴のある群の方が,

体験数が有意に多い.

Verdoux et al. 1999 妄想的観念を持ちやすい健常者が,抑うつに罹

患するリスクの検証 妄想的観念の評価 21項目版:体験数のみ使用.低群・中群・高群の3群に群分 け.高群の抑うつ罹患リスクは,低群の9.5倍(オッズ比).

van Os et al. 1999 プライマリケア患者対象の大規模調査 妄想的観念の評価

21項目版:体験数のみ使用.精神症状のある患者11名,GHQ で健康に問題ありと判断された245名,健康に問題なしと判 断された378名を対象.群の主効果あり.

Nunn et al. 2001 大麻・アルコール常習者の幻覚様体験・妄想的

観念の頻度 妄想的観念の評価

21項目版:4つの次元全て使用.体験数は,大麻使用者の方 が有意に多い.確信度は,大麻とアルコール両方使用者が有 意に強い.

Green et al. 2001 妄想的観念を持ちやすい健常者の脅威関連感情

の処理について 対象者スクリーニング 21項目版:体験数のみ使用.実験群の群分けに使用.

Morrison et al. 2002 幻覚様体験を引き起こす心理的要因 妄想的観念の評価

21項目版:体験数・苦痛度・心的占有度・確信度の合計値を

「PDI総得点」として使用.尺度の併存的妥当性の確認に使 用.

33

(34)

Table0-3:PDIを用いた先行研究の結果(続き)

研究者 年 研究内容 使用法 方法・結果

Stefanis et al. 2002 一般人口における妄想的観念の次元について 妄想的観念の評価

PDI21項目版を元に,項目を部分的に修正して,質

問紙CAPEを作成して使用.陽性症状・陰性症状・

抑うつ症状の3つの下位尺度.

次元は頻度と苦痛度の2次元.項目ごとに相関係数 を算出し,平均値を算出.陽性症状の頻度と苦痛度 の相関は,r=.67

Verdoux et al. 2002 大麻使用者の妄想的観念 妄想的観念の評価 質問紙CAPEとして使用.頻度のみ使用.陽性症状

の頻度と,大麻使用度は,重回帰分析で正の関連.

Verdoux et al. 2003 妄想的観念を引き起こすストレッサーについて 対象者スクリーニング 質問紙CAPEとして使用.頻度のみ使用.多次元使

用せず.

Linney et al. 2003 双生児法による行動遺伝学的研究 妄想的観念の評価 21項目版:4つの次元の合計値「PDI総得点」を使

用?明確には記載されていない.

Schurhoff et al. 2003 統合失調症と双極性障害の家族研究. 妄想的観念の評価 21項目版:体験数のみ使用.

Janssen et al. 2003 統合失調症患者と家族の「心の理論」 妄想的観念の評価 40項目版:体験数のみ使用.

Hanssen et al. 2003 疾患別の妄想的観念の比較 妄想的観念の評価 質問紙CAPEとして使用.頻度と苦痛度2次元使用.

陽性症状の頻度と苦痛度の相関はr=.82

Lundberg et al. 2004 疫学調査.都市部と農村部の比較. 妄想的観念の評価 都市部の方が,農村部よりも体験数・苦痛度・心的

占有度が有意に高かった.

Husky et al. 2004 妄想的観念を持ちやすい健常者の,対人行動とネガ

ティブ感情の関連 対象者スクリーニング 質問紙CAPEとして使用.頻度のみ.

Peters et al. 2004 PDI21項目短縮版の作成 信頼性・妥当性の検討

21項目版:4つの次元全て使用.4つの次元全てで,

妄想患者のほうが健常者よりも有意に高い値だっ た.次元間の相関係数は算出していない.苦痛度・

心的占有度・確信度は単純加算して使用.

Morrison et al. 2005 尺度の開発 併存的妥当性の検討

21項目版:4つの次元全て使用.Briefs about Paranoia

Scale (BAPS)との相関係数を算出.BAPSの下位尺度

を独立変数,苦痛度を従属変数とする重回帰分析を 実施.次元間の相関係数は算出していない.

(35)

背景Ⅲ  妄想的観念の発生要因について 妄想の発生に関わる心理学的要因

近年,妄想を有する統合失調症患者には,特異的な推論のバイアスが見られることが分 かってきた.Garety & Freeman(1999)の系統的なレビューによれば,妄想の発生メカニズ ムに関する心理学的な研究は,①心の理論の障害(Frithら),②確率判断バイアス(Garety ら),③原因帰属のバイアス(Bentall ら),④セルフ・ディスクレパンシー(Bentall ら)の 4つの理論を背景とした研究に大別される.

知覚異常仮説

Maher(1974)は,生物学的な異常が基盤となって知覚に異常が生じ,知覚の異常を説明 しようとして異常な信念である妄想が発生すると考えた.Maher(1974)は,説明を考える 推論プロセス自体は正常であると考えた.健常者でも病原体によって知覚の異常が生じる と,妄想を持つ事がある(Maher & Ross, 1984).また,突発性の難聴が,被害観念の原因に なる(Zimbardo, Andersen & Kabat, 1981)ことも知られている.また,妄想患者は推論が出 来ないという証拠に乏しい(Maher, 1988)という見方もある.

Maher(1974)の異常知覚モデルは,単一の原因で妄想の発生を説明でき,シンプルであ る.しかしながら,①知覚異常がないのに妄想が生じるケースを説明できない(Chapman &

Chapman, 1988),②「妄想患者には推論のバイアスがある」というエビデンスが増えてきた,

③異常知覚の原因は生物学的な要因だけではなく,心理学的な要因も関与している(Slade &

Bentall, 1988)など反証もあり,完全に妥当なモデルとは言えない.

35

(36)

Maher(1974)モデルの意義

Maher(1974)のモデルは,それまで「心理学的に了解不能」と考えられていた妄想を,

「個人の主観的な経験の説明」と捉えなおし,Jaspers以来の妄想理論に一石を投じた.Maher

(1974)のモデルがきっかけとなって,1980年代以降に妄想の心理学的研究が進んだ.

心の理論障害仮説

Frith(1992)は,他者の意図を推論する能力である「心の理論(Theory of mind)」に障害 があると,他者の意図を読み違えて,関係妄想や被害妄想が生じてしまうと考えた.発病 前の発達上の問題が,「心の理論」障害につながると考えた.Frith(1992)はまた,自己の 意図のモニタリングが障害されると,作為体験(させられ体験)が生じてしまうと考えた.

この 2 つの仮説を統合して,自己や他者の意図のモニタリング障害が,統合失調症の妄想 につながると考えた.

Frith(1992)のモデルを元に,Corcoran, Mercer & Frith(1995)は,統合失調症患者を対 象に,「心の理論」課題を実施し,実験的に検討した.Corcoran et al.(1995)では,統合失 調症患者を症状によって階層的(hierarchically)に分類して,被害妄想と心の理論障害の関 係を調べている.Corcoran et al.(1995)では,被害妄想がある患者は,心の理論課題の成績 が健常者よりも悪かった.Corcoran et al.(1995)以降も,心の理論障害と妄想の関係を調べ た研究はいくつかある. しかし,①仮説を支持する研究が少ないこと(7つのうち2つ),

②階層的な分類の結果,最も重症な群の患者は様々な症状を持っており,妄想との関連が 明確でないこと,③心の理論課題の成績は,陽性症状よりも陰性症状と強い相関があった こと(Doody, Gotz, Johnstone, Frith & Cunningham Owens, 1998)など,心の理論障害仮説を 支持する実証データは弱い.

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帰属バイアス−セルフディスクレパンシー仮説

Bentall, Kaney & Dewey(1991)は,自尊心が低い人が自己を防衛するために,被害妄想 が生じると考えた.Zigler & Glick(1988)は,被害妄想が「カムフラージュされた抑うつ」

であると考えた.Colby, Faught & Parkinson(1979)は,自尊心への脅威を防衛するために,

物事の原因を外的に帰属するバイアスが,被害妄想であると考えた.自分自身にとって悪 い出来事を自分自身に内的帰属すると,自尊心が傷つけられ抑うつが生じてしまう.抑う つに陥ることを防衛するために,悪い出来事の原因を他者に帰属し,その結果「他人に悪 い事をされている」という被害妄想が生じる.「こうありたい」と願う理想の自己像と,現 実の自己像にズレ(discrepancy)がある場合,現実との間に矛盾が生じてしまい,ズレを修 正しなければならなくなる.被害妄想には,ズレを修正せずに矛盾を解消する機能がある.

Bentall, Kinderman & Kaney(1994)は,妄想患者の帰属バイアスとセルフディスクレパンシ ー理論を統合したモデルを考えた.

Kaney & Bentall(1989)は,被害妄想患者と抑うつ患者の帰属パターンを比較した.その 結果,抑うつ患者が悪い出来事を内的に,良い出来事を外的に帰属するのに対して,被害 妄想患者は,悪い出来事を外的に,良い出来事を内的に帰属していた.しかしながら,Kaney

& Bentall(1989)では,内的帰属と外的帰属の差得点を扱っているため,「被害妄想患者は,

悪い出来事を外的に,良い出来事を内的に帰属する」と明確には言えないという批判もあ る.以後の研究では,悪い出来事を外的に帰属するバイアスは実証されているが,良い出 来事を内的に帰属するバイアスは実証されていないものが多い(Garety & Freeman, 1999).

Lyon, Kaney & Bentall(1994)は,①被害妄想患者が表面的には自尊心が低くないこと,

②潜在的には自尊心が低いこと,③理想自己と現実自己の間にズレがあることを実験的に 示した.しかしながら,以後の研究では,3つすべてを支持できた研究はない.Bentall et al.

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Figure 0-1  統合失調症の症状の分布(Johns & van Os, 2001 より)
Figure 0-2  症状のレベルとケアの必要性の関係(Johns & van Os, 2001 より)
Table 0-1  妄想のアセスメントツール
Table 0-2:多次元アセスメントによる妄想研究 研究者  年  対象者  次元  次元間相関  因子分析・主成分分析  その他  30 名未満の患者群を対象とした臨床研究  Hole et al
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参照

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