• 検索結果がありません。

Microsoft Word - AkatsukaY01.doc

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Microsoft Word - AkatsukaY01.doc"

Copied!
32
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

竹中ゼミ

藤前干潟巡見レポート集

竹中ゼミでは,2008 年 6 月 22 日に藤前干潟巡見を行いました.参加者は,3・4 年生 の計 10 人で,都合により当日参加できなかった 1 人を含め,7 人の受講生がレポート を執筆しました.それらレポートを,次ページから順不同で掲載します. 当日は,亀井浩次さんをはじめとする NPO 法人「藤前干潟を守る会」の方々にたい へんお世話になりました.改めて御礼申し上げます. 2008 年 11 月 10 日 竹中克行 *** *** *** (順不同) ( 頁 ) □人の生活と干潟との今までとこれからの関係 ( 1 ) □藤前干潟とその果たす役割~循環機能の観点から~ ( 6 ) □藤前干潟埋め立て計画に関する法的観点から見た問題点 ( 1 0 ) □愛・地球博の成果を藤前に ( 1 3 ) □藤前干潟保全のために出来る事 ( 1 8 ) □干潟の環境保全―川から海へ― ( 2 4 ) □干潟の生態系から考える藤前の実態と今後 ( 2 8 ) *** *** ***

(2)

人の生活と干潟との今までとこれからの関係

A.Y.さん 藤前干潟に行き、たくさんの話を聞き色々なものを実際に見ることができた。その中 でも私は、特に2つのことに興味をもった。 1つ目は、自然保護のための市民運動やゴミ処理場計画を中止にさせた経緯について である。日本には様々なところで自然保護に関わる問題が起きているが、運動を起こし ても、うまくいかないこともあればうまく守る方法が見つかることもある。藤前干潟活 動センターの方にお話を伺ったところ、藤前干潟におけるゴミ処理場計画の中止ができ たのは、1998 年に起きた長崎県の諫早湾での問題のおかげだと言っていた。諫早湾で 起きた状況を目の当たりにして、湿地や干潟の保全に対する意識が高まっていたためだ という。環境省もまた、同じ状況になってしまっては大変であるし困ると考えたから、 中止することができたそうだ。 藤前干潟でのこの問題は、名古屋市がここをゴミ処理場にするという計画が持ち上が ったことがきっかけで発生した。名古屋市はアセスメントを行った結果、その計画が渡 り鳥の生態に影響するとしながらも、人口干潟の造成を条件に埋め立てを実行に移そう とした。しかし、1999 年に環境省から人口干潟の造成では現環境の維持は困難である という見解が出されたほか、市民運動なども活発に行われ、その結果名古屋市は埋め立 てを断念しゴミ収集制度を見直すことになったそうだが、この時の環境省がこういう見 解を出したのも、諫早湾のことがあったからであることが分かる。 まずは、諫早湾について少し調べてみた。諫早湾は有明海に面した日本最大級の干潟 で、ムツゴロウの世界最大の生息地であることで有名である。ここで行われた諫早湾干 拓事業とはどんなものか。簡単にいえば干潟を干拓して、農地を広げるというもので、 元々この計画は20 から 30 年前の高度成長期に計画され、事業の主体は農林水産省で あった。その頃は国を挙げての食糧の増産が盛んだったので計画が立てられたそうだ。 これにおける問題点は、第一に環境や文化を破壊するということである。干潟は遠浅で 水温も比較的高く、貝類や微生物といった水質浄化に大きな役割をもつ生物が住みやす いため、優れた水質浄化作用を持ち、水域と陸域の境には生物が多いと言われ、干潟は この条件にぴったり当てはまるため生物の宝庫である。こういった色々な干潟の役割や 独自の文化を破壊してしまうことになるのだ。第二に、予算や事業の目的についての問 題がある。建設費用は多額であり、また税金の垂れ流し問題もあったそうだ。1989 年 から始まった国営諫早湾干拓事業は、1997 年には諫早市と雲仙市に誇る約35km²の海 域が締め切られた。締め切られた堤防内は干潟の乾燥化と調整池内の淡水化が進み、干潟 の生物が徐々に死滅した一方、二枚貝の一種であるヒラタマヌコダキガイが激増するなど

(3)

の変化が見られた。また、工事に使用する海砂を有明海中央部海底より採取したが、閉め 切り直後の1997 年にはその有明海中央部で貧酸素水塊が発生したことが報告されているそ うだ。私は、ダム建設や埋め立て・干拓事業という名目で、自然破壊のために無駄な税 金を使って、環境破壊を進めていっているように思ってしまった。 次に、市民運動というものがとても気になったので調べてみた。藤前干潟での市民運 動は、とにかく本当に長い道のりの中で、色々な場面での色々な方の努力があり、それ ら全てが今につながっているそうだ。活動の原点は、渡り鳥との出会いの感動を伝えた い、生息地を奪われ、激減の危機にありながら、もの言えぬ彼らを代弁したいというと ころから始まったそうだ。そしてそれはすぐに、自分の出すゴミで彼らの餌場をつぶし たくないという人々に出会い、開発で身近な自然を失ってきたうえに、大量のゴミで環 境をつぶしてゆく社会のあり方を変えなければという「社会的な気づき」につなげてき たそうだ。私も実際に干潟に入り鳥たちが一斉にやってきたのを見ることができたとき は、思っていた以上に感動した。少ししか見ることはできなかったが、それでも渡り鳥 を近くに感じ鳥たちにとってとても大切な場所であることを実感することができた。藤 前干潟を守る会は、会費を払って会員としての利益を享受するものでなく自発的な意思 で、どんな形であれ会の活動に寄与するものが仲間である「運動体」という意識で、多 彩でしなやかな市民運動を広げる合言葉は「チエでも、ヒマでも、おカネでも」であっ たそうだ。環境問題は全ての人に共通だからと、活動は常に超党派、全方位で行い、そ れが1991 年の 10 万人請願で市議会の全党派代表が紹介議員になり、当初計画を半分 に縮小させることになり、最終局面で国政レベルを動かす力にもなったという。計画縮 小で「環境保全に配慮」したとして、市議会を打ち破り市長選までやったが完敗したこ ともあった。しかし、ラムサール条約の釧路会議で訴えたときの世界の人々の理解と支 持、干潟に入ったときの子供たちの輝く笑顔に支えられ、1994 年に開始された環境ア セスメント手続きの中で頑張ろうと、気持ちを新たにされたそうだ。この運動をされて いる人々が一番鳥たちへの影響がどんなものであるかを知っているので、「準備書」を 25 冊も借り出し、それぞれの分野の専門家や研究者に送り、意見を求め、これらの意 見書はこの準備者が非科学的で非論理的なものであり、事業実施を前提に、結論が先に あるものであることを明らかにし、それをまとめて審査会委員やメディア、関係行政に 送った。また、公聴会という公開の場で、干潮時に全てに干潟が干出している時に、最 大95%(平均 60%)の鳥が選択的に集中している事実や、干潟の表層 10cm の泥を取っ ただけでは決してつかまらないアナジャコなどの存在について実証し、環境影響評価審 議委員会の追加調査請求や「環境への影響は明らか」という画期的な審査を出させたと いう。そしてこの委員会も「人口干潟」による代償策の検討を示唆し、それを受け、名 古屋市は中止に至ったのである。 また、彼らは「人工干潟の成功例」として挙げられた各地に出向き、その実態調査を

(4)

行って報告するとともに、名古屋港内の代替地を具体的に見せ、名古屋市のゴミ減量と いう真の代替案を、国政レベルにも提示してきた。超党派国会議員による視察や提言、 衆議院環境委員会の現地視察とヒアリングが行われ、地域住民の自発投票による意思表 明で名古屋市との協定が事実上破棄され、自然保護法違反の訴訟など、名古屋市の暴挙 を戒め、あるべき方向への転換を促す方位網が急速につくられたそうだ。 こうして、干潟の保全の重要さを理解している多くの方々の活動のおかげで藤前干潟 が守られたというすばらしい事実が分かった。 藤前干潟の保全と活用についてだが、現在でも様々な取り組みが行われていることは 分かっている。国際的にも重要な湿地である貴重な自然としても、将来にわたって守っ ていくことが大切であるが、ただ守っていくだけでなく、環境学習の場や市民の憩いの 場などとしても積極的な活用を図っている。今回の巡見で行った藤前干潟活動センター もその1つであり、稲永ビジターセンターも環境学習や調査の場として環境省によって 整備されたものだと知った。また、前干潟の保全は、名古屋市のゴミ減量への大きな転 機になったと言われている。「非常事態宣言」を出し、2 年で 2 割減の初めての実質減 量目標を立て、容器包装リサイクル法実施など思い切った施策を打ち出した。干潟を守 った以上、ごみを減らさなければという意識が市民にも広がったのではないかと思う。 もう1つは、20 年ほど前から問題となっているレジンペレットについてとても興味 をもった。これは、海の問題の中で1 番分かりやすい問題だと話してくれた。港付近に 大量にあり、海水中で分解されないし軽いから沈まず、また魚のたまごに似ているので、 海中の魚たちが食べてしまい、死に至るという事実があることを知った。実際にレジン ペレットを初めて見せてもらったが、小さくてそれがいったい何なのか分からなかった し、確かに浮いていたらたまごと間違えてしまうなと思った。 もっと詳しく知りたいと思ったので調べてみたところ、レジンペレットとは、プラス チック製品の中間材料の小さな粒で、ポリエチレン・ポリスチレン・ポリプロピレンな どからできていて、これがプラスチック工場などから漏出して海を汚染しているという。 この問題が最初に注目されたのは1970 年代のアメリカで、今日では世界中の海に汚染 が広がっている。日本でも広い範囲で漂着が確認されていて、特に工場地帯に近い海岸 では大量に漂着することがあるそうだ。また、流出したレジンペレットは長い年月にわ たって分解されずに存在し続けるので、自然環境に与える影響は深刻だという。また、 有害物質を吸着したり、内部から環境ホルモンの一種が溶け出したりしていることも分 かっている。さらに、魚や鳥が誤って摂取すると栄養失調や腸閉塞を引き起こす可能性 があり、海亀やその他の生物への影響も懸念されている。また、汚染が海流に乗って国 境を越えるため、国際機関を中心に実効性のある流出防止ガイドラインの策定などを早 急に推し進めていかなければならない。日本では、1993 年に業界団体などが漏出防止

(5)

マニュアルを作成したものの効果がなく、一層の努力が求められていて、さらに充分な 研究や監視活動が行われていない事もこの問題をより一層深刻なものにしている。一般 市民も回収作業や漂着調査を通じてこの問題に取り組む必要があると思った。 そもそもレジンペレットは本来ならば関係事業場や運搬機関以外には存在しないも のであるにも関わらず、実際には全国各地の海岸に多数の漂着が確認されている。これ は、事業場から漏れ出したもの、船の荷役作業時や作業場への運搬時にこぼれたもの、 不法投棄したものなどが直接海へまたは河川を経由して最終的に海へ流されたと考え られており、海に流れ出たものは世界中の海洋に流れて、生態系や沿岸環境に影響を及 ぼす恐れがある。地球規模の環境保全を考える上で、レジンペレットの漏出防止対策は、 官民をあげて取り組むべき非常に重要な課題である。レジンペレットを取り扱う事業者 として、漏出されない対策をするために、日本プラスチック工業連盟では、平成12 年 8 月に「レジンペレット漏出問題検討委員会」を設定し、レジンペレットの漏出防止対 策について検討し、実施してきたそうだ。 1番の問題は、人間が作り出したもので、海や海の生物の生態系にひどく悪影響を与 えていることであるのは事実であり、それを防止しようという活動も行われているが未 だ世界中で問題視されているのは、やはりすぐに解決できる問題ではないし、それだけ 人間が長年にかけて海を汚染させる要素を作り上げてきたことだと思う。また、日本だ けの問題にとどまらず、海を通して世界中に広がっていってしまう問題がたくさんある と感じた。 藤前干潟の保全と活用についてだが、現在でも様々な取り組みが行われていることは 分かっている。国際的にも重要な湿地である貴重な自然としても、将来にわたって守っ ていくことが大切であるが、ただ守っていくだけでなく、環境学習の場や市民の憩いの 場などとしても積極的な活用を図っている。今回の巡見で行った藤前干潟活動センター もその一つであり、稲永ビジターセンターも環境学習や調査の場として環境省によって 整備されたものだと知った。 干潟には稚魚が多く住み、天然の消化槽でもあるので、川からの汚れを海へそのまま 運ばずきれにする役割もあるし、干潟は海に酸素を供給してくれるので、無酸素水がで きて海の生き物が死んでしまうことも防いでいるし、伝統的に同じ場所に渡ってくる渡 り鳥も、もし干潟がなくなってしまえばそこで絶滅してしまうことにもなるだろう。干 潟と生物や環境は関連していて、たくさんの面で影響し合っていると思う。 これから、藤前干潟をはじめ多くの干潟を保全するためには何から行っていけばよい だろうか。今回の巡見を通して私が思ったことは、まずは元々の生物が住みやすい世界 と現在の変わってきた状況を比べ、それを多くの人々に知らせていくことが必要だとい うことである。実際に見て干潟に入って、たくさんの展示物を見て説明を聞いて、今ま

(6)

で関心はあったが、それは表面的なことにすぎなかったのではないかと感じたし、これ からどうすればよいかもよく考えるようにもなったからだ。海の生物は何にも悪くない。 人間の行ってきたことが全て環境を変えてきてしまったのだから、多くの人々にその実 態を知らせることができたあと、私たちはそれを安全なものにしていくために今度は行 動していかなくてはならないと思った。 http://www21.ocn.ne.jp/~access-z/environment/resinpellet/s2index.html#c1 Wikipedia (諫早湾・市民運動)

(7)

藤前干潟とその果たす役割

~循環機能の観点から~

A.A.さん 2008 年 6 月 22 日(日)に港区の藤前干潟で巡見を行った。今回初めて藤前干潟に行った のだが、周辺は物流のための倉庫や工場が立ち並び藤前干潟にたどり着くまではこんな場 所にラムサール条約に登録されているような場所が本当に存在するのかと疑ってしまった。 藤前活動センターの横にはごみ焼却施設もある。干潟に到着しても堤防から見える景色は 一面に広がる干潟、そしてその奥に見えるのは大きな橋と、道路そして工場であった。し かし、望遠鏡でよく眺めてみるとたくさんのカニを見つけることができ、干潟に入ってか らは他のさまざまな底生生物や野鳥を発見することができた。野鳥に関しては巡見に訪れ た6月は閑散期なので見ることができたのはわずかであったが、春・秋のピーク時には干 潟全面が野鳥で覆われるそうだ。このような都会にこんなにも生物多様な場所があるのか と非常に驚いた。 藤前干潟は庄内川、新川、日光川の河口に広がる 320 ヘクタールほどの土地である。以 前は昭和の時代から計画されていた名古屋市のごみ処分場計画により埋め立ての危機にあ ったが、活動保護団体の働きかけ、市民の署名活動、数回の環境アセスメントなどのさま ざまな努力により回避された。その結果 2002 年に国内の鳥獣保護区に指定され、また、同 じ年にラムサール条約にも登録されている。 今回は干潟の持つ循環機能に焦点をあてて報告したい。 まずは干潟の生態系について説明する。干潟を取り囲む生態系は大きく4つに分けられ る。まず、1つ目は河口に生えているヨシ、沖合に生える海藻類、水中のプランクトン、 干潟の泥の表面についている微小藻類などの「生産者グループ」である。干潟における食 物連鎖では最も底辺に属する。川は砂や泥と一緒に落ち葉、虫の死骸、ごみなどを窒素や リンなどの栄養塩のような水に溶けた状態、または固まりの状態(デトリタス)で干潟に 運ぶ。これらの生物はこのうち前者の水に溶けている栄養分をエサにしている。もしこれ らの生物しか干潟にいなかったら赤潮が大発生してしまう。 2つ目に、干潟にはデトリタスを中心に食べ、フンを出すカニ、カイ、ゴカイなどの「底 生生物」が存在している。これらの「消費者グループ」が赤潮防止に大きく貢献している と言える。これらの生物の大部分は普段は砂泥の中にもぐって生活しているため人目につ くことはない。実際巡見に行った時もカニの姿はすぐに見つけることができたが、他の生 物はスコップで掘り返さないと見つけることはできなかったように思う。 3つ目にバクテリアや原生動物などの「分解者グループ」。これらの生物は底生生物のフ ンや死骸、植物の枯死体などを含むデトリタスを分解し最終的に水に溶ける栄養塩にする 役割を果たしている。

(8)

最後に、3つ目までの要素で有機物は分解され、水質は浄化されていくが、これだけで は水中に生物があふれかえり、生態系はパンクしてしまう。干潟にえさを食べに来る鳥や ノリ、貝、魚などの海産物を取り上げるという活動を行う「とりあげグループ」が必要で ある。しかし近年は干潟の持つ浄化機能能力以上の有機物が干潟に入りこみ、また人間が 漁業をしなくなってきている影響で干潟の浄化作用が追いつかなくなってきているようで ある。 干潟が持つ循環機能は 2 つに分けられる。まず初めに干潟内における水質浄化について 説明したい。川は山林や土壌から運ばれてくる天然の栄養分や下水道排水による人為的な 有機物を運んでくる。これが水中に溜まり、これらを食べるため、水が浄化され、綺麗に 保たれる。ここで一つ干潟内の水浄化循環が起きている。有機物の量が多すぎ、生物が少 ないと水浄化の循環がうまくいかなくなるために赤潮が発生することとなる。 次に干潟外も巻き込んだ循環について述べたい。川が運んでくる栄養分、プランクトン を食べるのが底生生物でその底生生物は渡り鳥のえさになる。渡り鳥は干潟にフンをして そこに含まれている有機物もまた微生物によって分解されるなどして底生生物のえさにな る・・・という食物連鎖も同時にできあがっている。また同時に鳥や人間が水中の生物を 取り出すことで生態数を保ち、水浄化という働きもなしている。 干潟はその深さや土質によって生物がうまい具合に住み分けをなしている。浅い部分に はヨシなどの植物や底生生物が住みここに渡り鳥が餌を取りに訪れる。もう少し深くなる とアオサ、アマモ等の海藻類が住み、沿岸浅海域にはハゼのような魚類が生息している。 これらの生物は満ち引きによる干潟の変わりやすい環境に適応して生息しておりそれぞれ の役割を果たしている。干潟は非常に快適な環境にあると言えよう。これらの生物のうち のどの要素が欠けても2つの循環は成立しない。干潟とは自然循環が行われるための基本 となる要素であると考えることができる。 では藤前干潟の現状とはどのようなものなのだろうか。藤前干潟の土はほとんどが庄内 川から運ばれる泥である。しかし近年、川が濁るという理由から上流付近で泥を流さない ようにする動きがあるという。これでは藤前干潟に流入してくる泥の量も減ってしまい、 生物が住む環境が減ってしまう。また、赤潮が大発生しそれらが死ぬと干潟の下のほうに たまってしまう。この結果通常これらのプランクトンを分解している微生物が酸素を大量 に使用するためにそこの部分に貧酸素水塊が発生する。藤前干潟では伊勢湾台風の時の堤 防復旧のために土砂を採取したこと、東海豪雨によってできた「深み」に貧酸素水塊が発 生しているとの指摘がある。この貧酸素水塊が移動することによって魚や底生生物たちも 死んでしまう。赤潮を発生させないためには川の水質を改善するほかに有効な手段がない のだそうだ。この影響なのか藤前干潟における底生生物の数は減少傾向にあるという。お そらく底生生物の減少は藤前干潟に限ったことではないだろう。 ところで底生生物の作る巣穴も酸素を溜めておくのに重要な役割を果たしている。酸素が なければ微生物が水を浄化することができなくなってしまうため、含まれる酸素は非常に

(9)

重要である。藤前干潟は泥が多いため砂地を好む二枚貝は非常に少なく、代わりにアナジ ャコが多い。アナジャコは 10cm ほどではあるが直径 2cm~2.5cm、深さ 2m を超える巣穴を 作ることがあるという。この結果干潟の表面積が広がり、そこに住むプランクトンやデト リタスを食べるため海水の浄化作用に大きく貢献している。藤前干潟でスコップを使って 土を掘り返した時に土から「ぷしゅ、ぶくぶく・・・」といった感じの音がした。これが 土中の酸素があふれ出す音だったのであろうと思われる。掘り返した時に土中の生物の巣 穴をいくつか見ることができた。(アナジャコの巣穴に限らない)小さい巣穴であったが数 が集まればたくさんの酸素を含むことができるのだと思う。アナジャコの他藤前干潟には 131 種の底生生物が存在し、シギ、チドリを中心とする約 172 種の渡り鳥が訪れるという。 藤前干潟は身近なところで伊勢湾の浄化作用に大きく貢献している。干潟に流れ着く有 機物の半分が干潟の生態系に取り込まれているという。しかし、干潟は渡り鳥の中継地に なるなどその役割はこの地域周辺だけに関係することでは決してなく、地球規模で考えな くてはならない。実際湿地の減少が渡り鳥の減少、絶滅を招いているのだ。渡り鳥の減少 の問題は世界レベルの問題である。 また、干潟の浅海域には大きな魚は入って来られないため幼生が育ちやすい環境にある。 ある干潟で生まれ、水の流れに乗って違う干潟で育ち、海へと出ていくといった現象も珍 しくないようだ。 以上のように干潟は水浄化の循環、食物連鎖を支え、生態系全体を維持する役割を果た している。渡り鳥、底生生物、微生物といった一見全く別々の生物同士を結び付けている。 これらの生物はすべて干潟を通してつながっているのだ。 藤前干潟は以前名古屋市のごみ処分場にするため埋め立てをする予定だった地である。 しかも、役人に言わせればこの計画が取り止めになることなど100%あり得ないとされてい たのだ。もっとも、名古屋市は始め干潟を埋め立てることによる渡り鳥への影響しか考え ていなかったのだという。名古屋市の行った環境アセスメントでは干潟のほぼ表面しか調 査されず、底生生物のことは全くといっていいほど考えられていなかった。松原市長は自 身の本で、当時アナジャコの巣の模型を見ての驚き、将来このことが大きな問題となって いくだろうという予感、平成10 年の環境庁の「藤前干潟における干潟改変に対する見解に ついて(中間とりまとめ概要)」の資料にある藤前干潟を埋め立てることは生態系を分断す ることにつながるとの指摘へ読んでの驚きを述べている。このことを考えると、当時の諫 早湾の干潟の締め切り、容器リサイクル法の施行などのタイミングが重なった影響もある のだろうが、現在藤前干潟がラムサール条約に登録され、自然が保全されているという事 実は奇跡にも近いように感じる。 藤前干潟の自然環境の保全をこれからも行っていくにはどうしたら良いのだろうか。現 在藤前干潟の保護活動に中心的に携わっているのは藤前干潟がラムサール条約に登録され る前より活動している人々である。ラムサール条約に登録されたからと言って何もしなけ れば干潟の環境保全は保たれない。次世代、未来もずっと保全を行う必要がある。

(10)

このためには我々はまず「藤前干潟を知る」ことから始めるべきなのではないだろうか。 これは大人、子供関係ないが身近な教育活動として、例えば小学校の社会見学で藤前干潟 を訪問するとする。名古屋の都会にこのような自然環境豊かな場所がある、川を汚せばこ こに住む底生生物や海外からやってくる渡り鳥に影響が及ぶ、私たちが現在行っている細 かいごみの分別は今までにこのような経緯があって始まった取り組みである。ごみを増や せばまた新しいごみ処分場が必要になる・・・このようなことを子供が学ぶ機会が必要な のではないか。藤前干潟は誰もが自然と触れ合える場所である。同じ愛知県にあるどの海 や川よりも生物の数は多いだろう。このような貴重な場所を通じて自然保護の大切さを直 に訴えていくことができるのではないだろうか。 また、藤前干潟に入り込む水源部分となる庄内川などの河川の水質を改善させることも 必要である。庄内川は都市部を横断しており、人為的な有機物を多く含んでいる。たとえ 藤前干潟は身近ではなくても川は生活に身近なものではないだろうか。まずは川の水質改 善のための取り組みを行うことが必要だ。ゴミを捨てない、洗剤を使いすぎないなどちょ っとした心がけが必要なのではないかと思う。 藤前干潟の埋め立てを左右したごみ問題に関して言えば、現在ゴミの分別などにより埋 め立てる量は以前より減ったものの、藤前干潟の埋め立てを左右したゴミの量自体は以前 とあまり変わりがないのだという。これではまた以前のような状態に戻りかねない。藤前 干潟を守ることはできても今度は他の貴重な自然がゴミに奪われてしまうかもしれない。 ゴミ問題に限らず環境問題は市民、企業、行政などが一体になって取り組む必要がある。 それは簡単にはできることではないが、過去に藤前干潟を守ったという事実、それによる 現在の藤前干潟の存在が我々に自然保護の大切さを忘れさせないでいてくれるのではない かと考える。 参考 『藤前干潟(改訂版)』 藤前干潟を守る会 1998 『干潟[失われゆく自然をまもる]』 本間正樹 小峰書店 1996 藤前干潟を守る会 http://www.fujimae.org/ 環境省 環境評価情報支援ネットワーク http://www.env.go.jp/policy/assess/7-2guideline/h19_higata/higata2.pdf 名古屋市 http://www.city.nagoya.jp/kurashi/kankyohozen/siryou/nagoya00022042.html

(11)

藤前干潟埋め立て計画に関する法的観点から見た問題点

F.A.さん 1、はじめに 私は藤前巡見を通して色々な干潟に関することを学んだ。そこで今回のレポートでは法的な 観点から見た藤前開発の問題点について調べたいと思う。まず藤前干潟についてだが、名古 屋港西南、臨海工業地域の中にある干潟である。面積は約 350ha もある伊勢湾に残る最後の 干潟で、シギ・チドリ類などの渡り鳥の飛来地として有名である。平成 14 年 11 月 1 日に国指定 藤前干潟鳥獣保護区に指定されており、同年 11 月 18 日にラムサール条約登録地に登録さ れた干潟である。 2、海の所有権をめぐる問題 そもそも干潟というものは「海」として考えられるもので、自然公物である海には原則として所 有権は成立しないことになっている。(最高裁判決 昭和 61 年 12 月 16 日)また干潟の実態調 査をしても現実に何者かが海底の土地を支配している事実は存在しなかった。名古屋港港湾 管理組合の見解も藤前干潟には所有権は成立しないとしていた。ところが藤前干潟は海であ るにもかかわらず、登記が存在し名義人も存在していたのだ。これにより名古屋市は例外的に 私的所有権が認められるとしてこの土地を約 57 億円で購入したそうだ。 名古屋市はこの土地を将来放棄して国の帰属とし、公有水面埋め立て手続きを進める予定 でいた。しかし公有水面埋め立て法第一条によると、公有水面とは国の所有に属する水面・水 流を言い、名古屋市の考えでは藤前干潟を公有水面ということはできない。所有権の認めら れる私有水面なのだ。だからこの土地に埋め立てをするとなると、私有水面と公有水面との 2

(12)

つの所有権が認められることになり、民法との整合性を図らなければならないのだ。また所有 権が成立するとは思われない土地を購入したことや、その購入金額も法外であることなど、土 地売買をめぐっていくつかの不正が積み重なっていたようだ。 ※公有水面埋め立て法(大正 10 年 4 月 9 日法律第 57 号) 日本の 河川、沿岸海域、湖沼などの公共用水域の埋め立て・干拓に関する必要な事項を 定めることを目的とする法律。1922 年 4 月 8 日施行、1978 年 9 月 20 日改正。条文は 52 条 に及び、関係法令は多数ある。 3、港湾法との関係 藤前埋め立ては港湾計画上、埠頭建設であり、緑地の造成と位置づけられていた。名古屋 港管理組合は港湾区域の管理・開発のために設けられた一部事務組合であるが、その目的 は港湾法が定める港湾管理者としての業務を全うするためのものである。従って、港湾管理組 合の業務は港湾の管理・開発業務に限定される。名古屋市の廃棄物を処理するための廃棄 物処理場建設は、名古屋市のためのものであって港湾管理・開発のものではない。藤前処分 場の事業主体は法律上、名古屋港管理組合となっている。そうであるならば、藤前処分場開 発は組合の目的外行為となって違法ではないかという問題である。 この点について組合は埠頭建設のための資材と考えており、目的はあくまで緑地等の開発 であるという。資材について本来は土を用いる予定だったが、ゴミを用いるという意味である。 しかし、資材と言おうと何と言おうとゴミ処分場であることには変わりはなかった。埠頭建設・緑 地造成はゴミ処分場開発の実態を覆い隠す目的の偽装だったのだ。ゴミは資材という詭弁に 惑わされることもあり、この点での検討が不十分であったとされている。 ※港湾法(昭和 25 年 5 月 31 日法律 218 号) 交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため、環境の保全に配慮しつ つ、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発・保全することを目的とす る。平成 20 年 6 月 13 日法律第 66 号を最終改定。 4、アセスメントの問題 さらにアセスメントの不備という問題点があった。名古屋市はアセスメントを 1994 年 1 月より実 施し、その結果を 1996 年 7 月に「環境影響評価準備書」という形で公表した。この手続きは名 古屋市環境影響評価指導要綱(1979 年)に基づくものとされているが、法的な形式から言えば、 アセス会社との契約は名古屋港管理組合との間で締結されており、名古屋市の役割は資金 提供にとどまっている。このような形式となっているのはアセスメント手続きが公有水面埋め立

(13)

て法に基づき作成される環境影響評価を兼ねたものとなっているからである。 このアセスメントには約 6 億 9262 万円が使われているのであるが、開発に対し有利な方向に 働くよう意図的な操作がなされていた。例えば準備書では藤前干潟の表層-10 センチメート ルの範囲の採泥によって底生生物重量を検討しているが、それを表層 10 センチメートルより 深い範囲に生息するアナジャコ、ゴカイ、カニなどが検討対象から除外されていた。他にも渡り 鳥の調査では、調査時期を渡りの重要な時期から外したり、鳥の採餌料も小さくしたり著しく不 自然な記載となっていた。準備書には、すべての環境項目で『影響は小さい』とし、『鳥たちへ の影響は 1%程度』、『藤前干潟は水質浄化をしていない(海を汚している)』などと、全く驚く べき評価をしていたのだ。これには市民団体などからの多くの指摘を受け、市のアセスメント審 議会は「事業が実施されるとすれば、環境への影響は明らかである」との行政側の委員会とし ては異例の結論を出すに至った。 5、結果 ~ゴミ埋め立て断念へ~ 国際湿地シンポジウムで、環境庁は名古屋市の強引な案を明快に否定し、「環境庁がだ めといえばできない」と応じた運輸相発言で、事態は急変し愛知県知事の代替案協議提案へ と動いた。代替案が確定するまでは、藤前埋め立て案を残すとし、最後まで抵抗した名古屋 市も「本気で代替案を求める気があるのか」と省庁に指摘され、その 1 ヶ月後についに藤前で のゴミ埋め立てを断念した。代替地の交渉が必ずしも思うように進展せず、非常事態宣言を出 してゴミ減量に必死で取り組みつつある名古屋市長も、「苦しい選択だったが、正しい選択だ った」と言うように、藤前を転機に行政も人々が求めた道に向き直った。 6、おわりに 藤前干潟開発には多くの問題があったが、法的な関係だけでも上のような問題点があったこ とが分かった。行政を相手に抵抗運動をするには、かなりの努力と時間が必要になった訳だ が、このようにして大切な自然が守られたことには、重要な意義があると感じた。 この他にもラムサール条約の関係や、水系など興味が出てきたので、いろいろと調べていこ うと思う。また、藤前以外の干潟に関してもどのような状況なのか知りたいと思った。

(14)

愛・地球博の成果を藤前に

I.S.さん はじめに 藤前干潟は名古屋市のごみ埋め立て計画という危機を乗り越え、ラムサール条約の登録 湿地となった。今現在においても、その日本有数の渡り鳥渡来地はいくつかの問題に直面 していることが活動センターで伺ったお話からわかった。干潟に関する問題をあげ、ラム サール条約の地と私達の生活に関係を持たせると共に、干潟保全の具体策を提示したい。 ラムサール条約登録湿地「藤前干潟」 藤前干潟は名古屋港内に注ぐ庄内川、新川、日光川の河口部に位置している。周辺で 近年記録された鳥類は 172 種に及び、このうちシギ・チドリ類は 41 種に達し、その 中にはクロツラヘラサギやカラフトアオアシシギなど国際希少野生動植物種も記録さ れている。当干潟は、南北半球間を渡る鳥類の生息を支えている重要な干潟であると考 えられている。 シギ・チドリ類、ガンカモ類以外でも、ヨシ群生地があることからヨシキリ等の草原 性鳥類、日光川下流部が淡水域となっていて、水田地帯もあることから淡水性シギ、サ ギ、ガンカモ類、弥富野鳥園等の緑地があることから森林性鳥類やミサゴ、ハヤブサ等 の猛禽類も生息している。干潟にはマキガイ綱ニマイガイ綱などに属する 132 種の底 性生物が多数生息する。 なぜ、自然干潟なのか かつて名古屋市にごみの埋立地にされそうになった時、名古屋市は自然干潟の代行とし て人工干潟をもちだした。自然干潟保全の意義を明確にするためにも、今一度再確認する。 1.人口干潟は自然干潟におよばない 開発により自然海岸が失われた場所では、代償措置として海浜を造成した例があるが、 多くの場合は人々の憩いの場としての人工砂浜であり、渡り鳥の渡来地や底生生物・魚類 等の生息地、水質浄化の場としての機能を目的とした人工干潟の例は少ない。 それ以前に、造成された人工干潟は、面積、地形、底質、生物の多様性、種数および現 存量、シギ・チドリ類の食物、水質浄化機能、造成と維持の経費など、ほとんどすべての 面で自然干潟におよばないのは明らかである。特に、面積は大きなファクターであり、藤 前干潟の代償とするなら、人工干潟の質が劣る分をより広い面積にすることで力バーしな ければならない。したがって、国内最大のシギ・チドリ類の渡来地である藤前干潟を、人 工干潟で代償することは不可能である。

(15)

2.造成の費用対効果は割に合わない また人工干潟の造成には、面積30ha 前後のものでも、総事業費として数十億円から数百 億円を必要とし、その後のメンテナンスにも年間数千万円を必要とする。現存する藤前干 潟を埋め立て、一方で、莫大な費用を必要とする人工干潟を造成することは、費用対効果 からみると割の合わないものであることは明らかである。面積を狭くすればよいかも知れ ないが、干潟としての構造と機能は期待できず、かえって労力、金銭の無駄遣いになるだ ろう。以上のことから、機能面、経費面など全ての面において、人口干潟は自然干潟には およばないことがわかる。 人口干潟の現状と問題点 http://www005.upp.so-net.ne.jp/sanbanze/sanban65.html 藤前干潟をとりまく環境の抱える問題 藤前干潟の抱える問題 ・ 名古屋港海域や干潟周辺海底から流入し、底生生物(アナジャコやゴカイ)の大量 死を引き起こす貧酸素水(青潮)。…干潟生態系への影響が懸念される。 ・ シギ・チドリ渡来数の減少と貧酸素水塊…8年前の東海豪雨の影響や、再発防止の川床 浚渫事業の影響、藤前干潟の中央部にある窪地にできる貧酸素水塊の影響が懸念されて いる。 ・ 干潟生態系を脅かす、庄内川・新川・日光川の各流域から発生する汚濁負荷による 河川の水質汚染が懸念される。 ・ 藤前干潟には漁業権は設定されていないが、近年、庄内川の砂質湿地では良質なシ ジミが採取されるとの風評が広がり、春から夏季にかけて入漁者が多くなっている。 …水鳥をはじめ野鳥の散在が起こり、野鳥観察会や探鳥会をはじめとした各種行事 等への影響が懸念されている。 ・ 底生生物を釣り餌(アナジャコ、ゴカイ)として採取する者が、特殊な機械を用い て干潟深部まで掘り起こして大量採取が行っている。…干潟生態系へのダメージが 懸念されている。 ・ 干潟への立ち入りを含むふれあい活動・体験学習については、無秩序な入り込み者 による干潟への影響や利用者の安全確保が懸念されている。 ・ 工業予定地となっている藤前干潟隣接の飛島干潟は、藤前干潟に渡来するシギ・チ ドリ類の飛来地にもなっておりこの干潟が消滅することは藤前干潟の鳥類等にとて もマイナスである。

(16)

干潟に限らず世界中の海が抱えている問題 ・ 港に入る船のバラスト水による外来種の混入。生態系に影響を及ぼすと懸念されて いる。 ・ 地球温暖化による海面上昇→海岸や浜辺が失われる。現在、潮の満ち干きにより見 え隠れする干潟が、干潮時ですら現われなくなるかもしれない。 ・ 海にこぼれる工業原料レジンペレット←長い年月にわたり分解 されずに存在し続けるため自然環境に深刻な影響を与える。また、 PCB などの有害物質を吸着し、内部から環境ホルモンの一種が溶 け出している事も分かっている。さらに、鳥や魚が誤って摂取する と栄養失調や腸閉塞を引き起こす可能性があり、海亀やその他の生 物への影響も懸念されている。 レジンペレット流出による海洋汚染 http://www21.ocn.ne.jp/~access-z/environment/resinpellet/s2index.html 森林の問題 海上の森は矢田川・庄内川を通じて、藤前干潟とつながっている。つまり、海上の森や、 矢田・庄内川流域におちた雨や、川に流される水は時を隔ててラムサール条約の地、藤前 干潟に流れ着くことになる。ちなみに流域内人口は25 万人。つまりそこに住む人々の生活 が藤前の環境、底生生物、さらには世界中の渡り鳥たちに影響を与えているということに なる。 ここで、人間の身勝手が引き起こす干潟の生物への災難を考えてみる。 海上の森で無計画の大量伐採が行なわれたら… ・ 沿岸の植物プランクトンや海草の成育に重要な働きを行なうフルボ酸鉄を作る段階に 必要な腐植土層が少なくなる。→植物プランクトンや海藻の成育に影響を与える。 ・ 保水機能を持った腐植土層がなくなるので、雨は一度に表層を流れ、地中への保水が難 しくなる。大雨が降ると、降った雨は一度に河川に流れ出すため、河川の氾濫、洪水な どを引き起こす。また、渇水にもなりと河川の水量が著しく変動する原因になる。→渇 水や大洪水で干潟の生き物に影響を与えると考えられる。 ※2000 年の東海豪雨で大量のヘドロが出、水質が悪化し、プランクトンが死に、生物 量も減少した。 ・ 森林自体も土砂の流入を防いでいたので、それがなくなれば、たちまち大量の土砂も流 れ出、結果的にその土砂は海へ流れ込む。→底生生物がもろに影響を受ける。貝などは その土砂に埋もれてしまい、海藻や魚の産卵場所などにも影響が及ぶと考えられる。 レジンペレット

(17)

川の問題 矢田川・庄内川流域の人々が生活排水を流したり、人間が勝手気ままな行動をしたりする と… ・ 水質が悪化する→干潟や海の生物の生態系に悪影響を及ぼす。 ・ 水が汚れ、プランクトンが死に、魚もいなくなってしまったり、逆にプランクトンが大 量発生して、酸素不足で魚が死んだりする。 ・ 外来種を川に放つ→それまでの生態系のバランスが崩れ、元来の生物がいなくなってし まう可能性がある。 ・ 流域の都市化を行なう→大雨が降ったとき、氾濫原が失われ、川の氾濫がおきやすくな る。氾濫がおこると河口部にある地域(干潟)にまで影響がある。 藤前干潟とそれを取り巻く空間の保全・活用についての提案 日本有数の渡り鳥渡来地である藤前干潟の歴史的・社会的意義を世間に広く認識させ、 現在の保護区(323h)のみならず、流域全体(藤前干潟とつながる源流の森と流域環境、 伊勢・三河湾まで)を視野にいれ、の保全を流域に住む市民と一丸となって保全を目的と した連携活動を行なってはどうだろう。 そこで、2005 年に行なわれた「愛・地球博」を思い出していただきたい。海上の森はそ の会場のすぐ近くであり、テーマは「自然の叡智」。基本理念は以下のようになっている。 W5 EXPO 2005の基本理念 1.20 世紀の地球的問題に解答を与えるもの(BIE FRAMEWORK) 2.開発を超えて、「自然の叡智」に学ぶもの(EXPO FRAMEWORK) 3.守られた、海上の森と藤前干潟が、見せるもの 4.環境修復型開発と循環型社会への実践と展望 5.子どもたちに伝えたい―市民の思いが創るもの 未来への航路―海上の森と藤前干潟、生態系のつながり http://www.shimin.gr.jp/download/future/future.pdf 筆者は藤前干潟につながる流域の保全は地球博の基本理念に通じるものがある気がして 止まない。上記WEB ページに「(愛知万博について)時代と社会の要請に応え、次世代へ 遺産として私たち自らが求めるものを考えたい。」との記述があった。3 年もの月日が流れ た今、海上の森から始まる藤前干潟につながる流域の保全をそれとを結びつけて、住民に 働きかけてはどうだろう。モリゾーとキッコロも協力するに違いない。愛・地球博の成果 として国際条約ラムサール条約に「国際的に重要な湿地」として登録された湿地を含む流

(18)
(19)

藤前干潟保全のために出来る事

K.I.さん 1、藤前干潟の浄化作用と渡り鳥の渡来地 藤前干潟がゴミ処分場として埋めたられると計画された際、藤前干潟の浄化作用と渡 り鳥の渡来地としての役割が軽視された。環境アセスメントのもと調査もされたが、きち んとした調査が行われず、ゴミ処分場計画の裏づけとして、都合のいい調査であった。ま ず、藤前干潟の必要性について言及していきたい。 藤前干潟は渡り鳥の渡来地として重要な役割果たしている。主に、渡来してくる鳥は、 シギ・チドリ・トウネンといった渡り鳥で、春と秋の 2 度藤前干潟を経由して、繁殖地や 越冬地へと向かう。干潟はその中継地点としての役割を果たしているのである。渡り鳥た ちは、藤前干潟で、干潟の泥中の底生生物を餌としている。長い旅の栄養補給地・休息地 となっている。また、種類によっては藤前干潟自体が繁殖地となっているケースもあるた め、休息地だけの役割ではなくて、繁殖地としての役割も果たしている。渡り鳥たちは、 底生生物が豊富で、離着陸に都合のいい泥の硬さをもった干潟で羽を休めるのである。ゴ ミ処分場としての計画が中止されたあと、ラムサール条約に藤前干潟が登録された事をみ ても、藤前干潟の国際的な渡り鳥の渡来地点としての重要さを見て取れる。しかし、鳥た ちが毎年渡来する保障できない点・同じ鳥が渡来しているかを調査する方法がないために、 調査が精密に行われなくなってしまった経緯がある。それもあり、ゴミ処分場計画に都合 のいい調査報告が行われた。 干潟の浄化作用についても、軽視された。干潟は、リンや窒素などの栄養塩類や有機物 を植物が吸収し、底生生物は植物プランクトンを食べて浄化する。その底生生物を鳥類・ 魚類が食料とすることによって、運び出している。このような藤前干潟の浄化作用は、正 確な調査結果を出す事が難しいため、短い期間で行われた調査においては特に不可能だっ た。名古屋港湾区域においては、庄内川・新川の 2 つの川が流れ込んでいる事で有機物・ 栄養塩類が過剰に流入している。またその地域では、流入河川の流量が多くない事・高潮 防波堤がある事・港湾浚渫が行われたため、深くなっている面積が多い事も原因となり、 富栄養化や有機汚染が深刻化している地域でもある。つまり、藤前干潟はこのような水質 悪化を防ぐ働きをしている。名古屋港湾区域では、藤前干潟のみが残された干潟であるか ら、水質浄化に果たす役割は大きい。 2、藤前干潟保全 名古屋市は、藤前干潟ゴミ処分場計画当時、焼却と埋め立てにお金を使っていたが、ゴ ミの発生の抑制・資源化にはほぼ無関心であった。そのため、約10 年しか収容能力がない と判明していた藤前干潟の埋め立てが必要になったのである。ではなぜ干潟にゴミ処分場

(20)

を作ろうと計画したのだろうか?これは、名古屋市だけでなく戦後の日本に多く見られる ケースであるようだ。まず、干潟が陸域に接する浅場であるためにその埋め立てによって 安価で大規模な陸地が得られることが大きな理由である。特に高度経済成長後は産業基盤 等のために、埋め立てによって多くの干潟が失われてきた。1945 年以来、約 35%の干潟が 失われている。特に東京湾・伊勢湾の干潟消滅は大きく、東京湾では約 90%、伊勢湾は約 60%が失われた。藤前干潟以前の埋め立て後の様子を見てみると、内湾の環境が悪化し、 水質汚染が進行した。それは、内湾に流入する汚濁物質が増え、水質浄化作用が働かなく なった為である。このように、干潟を埋め立てる事によって、環境・人への悪影響が予想 される。 港湾は物資の集散場所という役割だけではなくて、人⇔海⇔自然の接点である。干潟・ 浅海域などの自然状態があって、そこに来る鳥や魚などの生物がいる。それによって水質 浄化がされて海がある。そんな海に人は近づきたくなり、港湾の機能が全うされるのであ る。つまり、干潟・浅海域を保全し拡大する事が、干潟の賢明な利用方法なのであり、必 要な事なのである。 3. 人工干潟 干潟を拡大させるために、人工干潟という可能性があるが、現実的であろうか? 名古屋市のゴミ処分場計画の際、人工干潟を作る事で、藤前干潟の代わりの機能をさせ ようとした。しかし、それは、干潟の機能を軽視した代用策であった為に、反対を受けた。 人工干潟の特徴について見てみたい。人工干潟は、干潟の水質浄化作用などが見直される 事によって、親水公園の施設として造られたり、アサリなどの漁業資源を回復する目的で 設けられている。しかし、干潟は自然との微妙な関係の上に成り立っているため、うまく いっていない事例も多い。自然の干潟ならば、ほおっておいても浄化作用は行われていく が、人工干潟の場合は少しの環境変化によって底生生物が激減するため、人間による維持 管理が必要になる。手をかけないと、生物が思った通りに増えない傾向にある。つまり、 建設費と維持管理費に膨大なお金が必要になるという事である。また、人工干潟を造成は、 干潟を形成する砂などの懸濁物質と流れ・波浪の相互作用で決まるものだが、これを予測 して今まで干潟のなった場所に新たな人工干潟を造る技術が未完である。このように、藤 前干潟の代用として人工干潟を造ることは、経費的にも技術的にも代用とはなりえない事 が分かる。安価に埋め立て、ゴミ処分場を作る代わりに、費用も時間もかかる人工干潟を 造る事は本末転倒といえる。 やはり藤前干潟を埋め立てる計画以前に、名古屋市のゴミ問題について見直さなければ、 どれだけ収容所を作っても不足してしまいどんどん自然が破壊されていってしまうという ことが分かる。 4.名古屋市のゴミ問題について 現在の名古屋市のゴミ分別はとても厳しくなっている。藤前干潟の問題や愛地球博の

(21)

開催などで愛知県自体の環境に対する関心が高まった事も原因の 1 つであろう。現在の名 古屋市のゴミ分別状況は、下記の通りである。

資源の分け方・出し方一覧表

資源品目名 収集方法

使用する指定袋等

プラスチック

製容器包装

ステーショ

ン収集(週

1 回)

プラスチック製容器包装だけをひとまとめにして、資源

用指定袋に入れてください。

紙製容器包

ステーショ

ン収集(週

1 回)

紙製容器包装だけをひとまとめにして、資源用指定袋

に入れてください。

ペットボトル

ステーショ

ン収集(週

1 回)

ペットボトルだけをひとまとめにして、資源用指定袋に

入れてください。

拠点回収

袋に入れずに直接スーパー・コンビニエンスストア・区

役所などの回収ボックスへ

空きびん

ステーショ

ン収集(週

1 回)

袋に入れずに直接青色のかごへ。(びんは横にして入

れてください。)

空き缶

ステーショ

ン収集(週

1 回)

千種区、東区、北区、西区、中村区、中区、昭

和区、瑞穂区、熱田区、南区、守山区、緑区、

名東区、天白区にお住まいの方

空き缶だけをひとまとめにして、資源用指定袋に入れて

下さい。

中川区、港区にお住まいの方

袋に入れずに直接黄色のかごへ入れてください。

紙パック

拠点回収

袋に入れずに直接、スーパー・区役所などの回収ボック

スへ

(22)

新聞・雑誌・

段ボール・古

着など

学区・子ども会などで取り組まれている集団資源回収、リサイクルス

テーション、古紙リサイクルセンターなどを利用しましょう。

家庭のゴミについては下記の通りである。

ごみの分け方・出し方一覧表

資源

品目

収集方法

使用する指定袋等

可燃

ごみ

台所・日用品など

の燃えるごみ

原則とし

て各戸収

集(週 2

回)

可燃ごみ用指定袋に入れてください。

不燃

ごみ

30 センチ角以下の

燃えないごみ、燃

やすのに適さない

ごみ

原則とし

て各戸収

集(週 1

回)

不燃ごみ用指定袋に入れてください。

スプ

レー

缶類

スプレー缶、カセッ

ト式ガスボンベ

原則とし

て各戸収

集(週 1

回)

スプレー缶類だけをひとまとめにして、資源

用指定袋に入れ、不燃ごみの収集日に、不

燃ごみと別にして(少し離して)出してくださ

い。

(フタを取って、完全に使い切った後(または

中身排出機構により中身を出し切ったあ

と)、火の気のない風通しの良い所で穴をあ

けて出してください)

粗大

ごみ

30 センチ角を越え

る大型ごみ

地域ごとに決められた収集日の 1 週間前までに電話で

お申し込みください。

http://www.city.nagoya.jp/kurashi/gomishigen/kateishigen/wakekata/nagoya00018329.h

(23)

tml 藤前干潟ゴミ処分場計画時は、缶とビンを分別せずに出せるような状況であった。しかし 現在では、缶。・ビン・ペットボトルは資源ごみとしてみなされる。家庭からのゴミも指定 の袋があり、細かい分類が義務付けられている。プラスッチク容器は不燃ごみに分類され そうだが、きちんと分けられている事も、特徴がある。この違いを見ても、名古屋市がゴ ミ分別について取り組み始めた事が分かるだろう。愛地球博においても、ゴミの分別は厳 しく行われた。 ● ペットボトル ● 紙コップ・紙容器 ● プラスチック類 ● 割り箸 ● 紙類 ● 生ゴミ ● 可燃ごみ ● 不燃ごみ ● 飲み残し水 ● アルミ缶・スチール缶・びん・ダンボール・廃食用油(参加者) このように細かく分類する理由は、ゴミ発生時点の細かな分類によって循環型社会を目指 した3R が可能となり、来場者・参加者に細かな分別によって分別を実感してもらう機会を 提供でき、海外からの来場者・外国パビリオンスタッフに日本のゴミの現状について知っ てもらう事もできるからである。私がここで愛地球博をトピックにした理由は、藤前干潟 の問題が起こった頃、ちょうど愛知県が万博会場となって、環境をテーマに進めていく事 も決定されていた時期であった。このような国際的な催し物が行われる中、しかも環境問 題をトピックにしているにも関わらず、渡り鳥の中継地点として国際的にも重要な役割を 果たしている藤前干潟を埋め立てていいのだろうか?という問いかけにつながっていった 事も行政を動かした大きな理由であった。また、万博問題に関して、海上の森の問題によ って環境問題についての関心が高まった事も、行政や市民の環境意識を高めた原因の 1 つ であろう。海上の森は、1990 年に万博の候補地となり、万博前に地域高規格道路とそれに 並行する幹線道路を建設し、閉幕後に住宅地・学術研究機関を設置する構想が発表された。 しかし、海上の森は、東海地方にしか生息しない貴重な動植物・絶滅危惧種のオオタカに とって貴重な場所であり、大規模な反対運動が行われた。それによって、万博会場を海上 の森から愛知青少年公園へと変更し、愛知万博の理念・成果を継承するために、将来にわ たって保全していく事になった。このように、愛知万博の影響もあり、市民の運動によっ て環境の保全が行われたのである。

(24)

5、今後の藤前干潟の保全 前にも述べたように、ゴミ・廃棄物が増え続ければ収容する場所はいくらあっても足り ることはない。だからこそ、まずはゴミの絶対量の削減と、資源化に力を入れる必要があ る。環境への関心が高まる事によって、名古屋市でもゴミの分別に力を入れるようになっ たのは、前の表を見ても明らかであるが、愛知万博や、藤前干潟の問題に直接触れていな い世代が環境問題について興味を抱くためには、環境教育に力を入れる必要もある。藤前 干潟に遠足にいったりして、直接干潟に触れ、歴史を学ぶ事はとても大切な事であると思 う。そのような活動もされているようだし、地域の人々が干潟にゴミ拾いや、イベントへ の参加なども行われているようだが、規模が大きくない点や、名古屋市民、特に地域住民 にしか開かれていない点が問題であろう。調べてみると、たくさんの情報がインターネッ トや文献にあるが、それについて学ぶきっかけが、他県、他市民(愛知県民であっても) ない事も問題である。学校の授業で環境問題についての授業として取られる時間は限られ ている。その中で、いかに子供たちに環境についての関心・意識を持たせるかが大切であ る。それによって、今の努力が将来無駄になるか否かが決まるのだと思う。 参考文献:そして干潟は残った リベルタ出版 松浦さと子編 参照:http://homepage3.nifty.com/sizennokenri/FUJ981228sj.html http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B2%E6%BD%9F#.E4.BA.BA.E5.B7.A5.E5 .B9.B2.E6.BD.9F 人口干潟 wikipedia http://www.alpha-net.ne.jp/users2/tkojima/repo/iken.html http://www.expo2005.or.jp/jp/A0/A1/A1.16/A1.16.14/index.html http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E6%A3%AE 海上の森 wikipedia

(25)

干潟の環境保全―川から海へ―

M.N.さん 名古屋市が藤前干潟をゴミ処分場にするという計画が持ち上がり、大きな論争を巻き起 こしたのは私が中学生のときであった。皮肉なことに、このゴミ処分場計画が持ち上がっ たことが、干潟の価値を発見するきっかけとなったという。それまでは、名古屋市の港区 の住民ですら、藤前干潟の価値や存在をあまり認識していなかった。私は生まれてからず っと名古屋市に住んでいたが、藤前干潟の存在を知ったのは、ゴミ処分場計画に反対する 住民運動が報道されるのを通じてであった。当時、街頭で署名活動が行われており、私自 身も署名した記憶がうっすら残っている。1989 年に着工した諫早湾干拓事業や、長良川河 口堰の建設をきっかけに、環境保全に対する世論の意識が高まってきていたなかでの藤前 干潟ゴミ処分場計画は、大論争を巻き起こし、「NPO 法人 藤前干潟を守る会」をはじめ とする住民の懸命な反対運動によって、1998 年 12 月、名古屋市はついに計画を断念した。 その後、藤前干潟は2002 年に国指定鳥獣保護区に指定され、また同年ラムサール条約に登 録された。2005 年には稲永ビジターセンター、藤前干潟活動センターが整備され、市民が 自然と触れ合ったり、環境について学んだりする場として活かされている。 今回初めて藤前干潟を訪れ、干潟とはどんなものか知ることができた。巡検当日は朝か ら天候が悪く、干潟に入ることは難しいかと思われたが、干潟が現れる午後2時ごろには なんとか雨が上がり、藤前活動センターから干潟へと移動することになった。雨が続いて 水量が増していたため、堤防の上からは水面しか見えず、本当にここは干潟なのか?と思 えるほどであったが、入っていくと完全には干出していないものの、水面とほぼ同じ高さ を歩くことができた。私はイメージとして、潮が引いたときの砂浜のような場所を想像し ていたが、砂浜を思わせるような景色は見当たらず、堤防を下っていっていきなり海に入 るという具合だった。かなり黒っぽい砂泥質で、足が少し埋もれる感じが気持ちよかった。 足やスコップで泥を掘ると、いろいろな生き物が出てきた。細長い貝に、体がくっついて いるソトオリガイはわりと簡単に見つけることができる。他にも細いミミズのようなゴカ イ、シジミ、カニ、おたまじゃくしなどを見つけた。2mほどの巣穴を掘るというアナジ ャコはやはり見つからなかった。6月は渡り鳥がいなくなる時期で、干潟で見られる鳥の 種類は少ないようだが、アオサギやカワウの姿は見ることができた。野鳥に興味があるの でない限り、一見ただの泥の平地に過ぎないが、渡り鳥など水鳥のライフサイクルを支え、 絶滅危惧種も定期的に支えており、底生成物が植物プランクトンを捕食することによる浄 化作用を持つ干潟の重要性を私たちは認識していなければならない。 藤前活動センターでは、藤前干潟を守る会のメンバーの方に講習をしていただき、セン ターの展示物の解説をしていただいた。藤前干潟を守る会の方々は、自然や人に対する優 しさを持っている方たちで、みんなで自然や生き物を守っていこう!という毅然とした強

(26)

さのようなものを感じた。自分たちが(藤前干潟を守る会会員以外の市民も含め)干潟を ゴミ処分場計画から守ったのだ、というプライドと、干潟とそこに住む生き物に対する愛 情を持った素敵な方々であった。講習では、藤前干潟がゴミ処分用地にされる計画が立っ てからの経緯や背景などのお話を聞くことができた。実際に市民を代表して名古屋市に直 接請求を続け、計画を断念させるに至らしめた第一人者である方のお話を聞けたのは、貴 重な経験であった。高校の教員で、しかも文系でいらっしゃるにもかかわらず、自然科学 や海洋学的な知識を持っておられ、さすがに環境保護に高い意識を持っておられるだけあ ると感心した。展示物の中で印象的だったのは、アナジャコの巣穴に樹脂を流し込んで固 めて作ったというレプリカであった。巣穴は直径3~4cm で、二つの穴が途中で合流して Y 字型になっている。なぜこれほど深い巣穴を掘るのかは謎であるらしい。自然界の生き物 は私たち人間が知らない何かを知っているような気がして、神秘的で興味深い。 ゴミ処分用地にする計画から守られた藤前干潟を、どのように保全、活用していくかと いうことを考えたとき、まず保全の面では、干潟を含む湾内の環境保全は必須の課題であ ろう。潮の流れが緩やかで閉鎖的な内海である伊勢湾では、流れ着く河川の水が汚れてい れば汚染物質は湾内にたまっていくことになる。工業排水などによる直接的な汚染に加え、 水中の微生物が増殖することによって起こる赤潮など、水質の悪化(富栄養化)が問題と なっている。富栄養化が魚介類に与える影響には、溶存酸素の低下や鰓えら閉塞性呼吸阻害に よる窒息死、赤潮藻類による毒素生産などによる中毒死、貧酸素水塊の形成がある。貧酸 素水塊は、夏季に表層と低層の海水に温度差が生じ、酸素の交換が行われない状態で、増 殖したプランクトンが酸素を大量に消費することによって起こる。これにより魚介類が大 量に窒息死し、また、底部の海水の溶存酸素が少なくなると、海底に沈積していた銀と一 緒にリンも溶け出し、このリンが表層付近の届くと再びプランクトンに利用され、更に貧 酸素かが進むという悪循環が生じる。人間が生産・消費活動によって川の水を汚し、その 水が海の生き物たちを脅威にさらしている。 藤前干潟は庄内川、新川、日光川が伊勢湾へ流れ出る河口部に位置している。新川は、 江戸時代に庄内川の治水の目的で作られた人工川で、北区、西区、北名古屋市の境界で庄 内川から分岐し、名古屋西部を通って伊勢湾へ流れ出る。庄内川、新川は、戦後の高度経 済成長期に急速に工業化、都市化が進んだことで一気に汚染され、著しく水質が悪化した。 河川の水質悪化は伊勢湾内の水質悪化に直接影響し、かつて盛んに行われていた漁業も衰 退してしまった。伊勢湾の集水域内人口は約740万人とかなり多い。その約7割を愛知 県の人口が占めており、しかも愛知県は全国トップクラスの工業県で、また全国有数の農 業、畜産県でもある。生産性の高い産業と、人工の密集を併せ持つ愛知県に囲まれた伊勢 湾・三河湾の汚染が著しいことは必然の結果ともいえる。 伊勢湾や三河湾を汚染から守り、蘇生させるにはどうすればよいか。法制度的にみると、 1993 年に制定された環境基本法によって、河川、湖沼、海域の水質について満たすことが 望ましいとされる基準値を定めている。基準値の達成に向けた主な施策は、排水の規制、

参照

関連したドキュメント

我々は何故、このようなタイプの行き方をする 人を高貴な人とみなさないのだろうか。利害得

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

ピンクシャツの男性も、 「一人暮らしがしたい」 「海 外旅行に行きたい」という話が出てきたときに、

口文字」は患者さんと介護者以外に道具など不要。家で も外 出先でもどんなときでも会話をするようにコミュニケー ションを

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

❸今年も『エコノフォーラム 21』第 23 号が発行されました。つまり 23 年 間の長きにわって、みなさん方の多く

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

社会的に排除されがちな人であっても共に働くことのできる事業体である WISE