[資料] 「NPOと政治」インタビュー調査記録(一
) 民主党政策調査会 栂坂英樹氏
その他のタイトル Materials : Interviews about the Nonprofit Sector and Politics in Japan : Case 1. Hideki TOGASAKA, The Democratic Party of Japan
著者 坂本 治也
雑誌名 關西大學法學論集
巻 66
号 3
ページ 675‑746
発行年 2016‑09‑26
URL http://hdl.handle.net/10112/10627
〔資料〕「NPOと政治」インタビュー調査記録(一)民主党政策調査会栂坂英樹氏
坂本治也
目次一NPO政策関与の経緯二諸団体との関連三NPO政策の推進体制四他党の認識五各議員の立場六集票活動への影響七労働組合との関係八今後の課題
【解題】
本資料は二○一五年九月九日に民主党(現・民進党)本部において民主党職員、同党政策調査会部長代理(役職名は当時)の栂
坂英樹氏に対して行ったインタビュー調査の記録である。同調査は筆者が科学研究費若手研究(B)の補助を受けて行っている 関法第六六巻三号二二(七六五)
「NPO政策をめぐるミクロレベルの政治行動に関する実証的研究」の一環として実施したものである。調査に際しては、関西学
院大学大学院法学研究科院生(当時)の山野瞳氏がインタビュー記録の補助係として同行した。
栂坂氏は民主党結党以来より、一貫して同党のNPO政策の企画立案過程に中心的に関わってきた政策スタッフである。氏の証
言から、民主党内でのNPO政策に対するビジョン、NPOやその他の諸団体に対する認識などを垣間見ることができる。本イン
タビュー記録は「NPOと政治」という研究テーマを考えていくうえで、第一線級の基礎資料となるであろう。
栂坂氏には大変ご多忙のところ、長時間にわたるインタビューの機会を作って頂き、筆者の拙い質問にも的確にお答え頂いた。
また、ご自身の証言を学術的な一次資料として残すことの意義についてもご理解頂き、本資料の公開にご快諾頂いた。さらには、筆者が他のNPO政策の関係者にインタビュー調査が実施できるよう、多方面への取り次ぎの労も取って頂いた。心より御礼申し
上げる次第である。
【謝辞】本資料の作成にあたり、JSPS科研費26780098の助成を受けた。また、インタビュー調査の実施および記録整理過
程において山野瞳氏にご助力頂いた。記して感謝申し上げる。
一NPO政策関与の経緯
――――栂坂さんがNPOに関心をもち、NPO政策に関与するに至った経緯を聞かせてください。
子供の頃から割と環境問題に関心がありました。もともとの出身は石川県金沢市で小学校三年までいたのですが、いきなり父の
転勤で名古屋に行くことになりました。それが石油ショックの頃です。当時の名古屋はまさに公害の固まりみたいなところで、金
沢と全然違う空気でした。また、たまたま旅行で伊勢に行った時、近鉄の車窓から四日市の公害のひどさを見て、子供ながらに公害問題の深刻さを実感しました。その後、滋賀県大津市に転勤になったのですが、今度は「水がめ」である琵琶湖の水が非常に汚
「NPOと政治」インタビュー調査記録(一)民主党政策調査会栂坂英樹氏二三(七六四)
いことに衝撃を受けました。もう何か、水がドロドロの状態。しかし、たまたま転校した年に武村正義知事の一回目の選挙があっ
て、武村さんがせっけんの条例(筆者注:「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」一九七九年制定、日本初の合成洗剤を
規制する条例)を作られたりもしました。その頃から、自分が生きている環境というのを大事にしないといけないのかな、という
意識があったんだろうと思っています。高校生の頃に田中正造の本なんかを読んだり、大学生の頃も環境の勉強もしたりしていま
した。
――――ちなみに、大学ではどのような分野を専攻されたのですか。
所属は法学部法律学科で、ゼミは行政法でした。行政法への関心も、公害訴訟やダムの差し止め訴訟などに関心があったからだ
と思います。市民団体との関わりは、当時とくにはありませんでした。ただ、公害問題で著名な東大の宇井純先生の話を聞きに
行ったりはしていました。そういう中で環境問題への関心を徐々に深めていったと思います。その後、一九九三年に細川連立政権ができた時に、政策担当秘書の制度ができ、たまたま受けたら受かってしまいました。「受
かったなあ。どうしよう」と、ぼーっとしている間に、日本新党にいた高見裕一議員の事務所から電話がかかってきて、「政策秘
書を募集しているんだけど」という話を聞き、面接を受け採用されました。高見さんは、もともとリサイクル運動をやっており、
その後有機野菜の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を立ち上げるなど活発に市民運動に取り組んでいました。高見事務所で働くこ
とになり、最初に長良川河口堰の反対運動に関わり、そこで公共事業のムダづかいに関心を深めたり、環境問題や地球温暖化問題
に取り組む団体とつながるようになったりしました。
一九九五年に阪神・淡路大震災が起こり、当時新党さきがけに所属していた高見の選挙区は神戸だったので、NPO法をつくる
プロセスに関わることになりました。さきがけではそれ以前からNPOに関する研究会は存在していましたが、震災をきっかけに
さらに盛り上がって、NPO法をつくりましょうという段階まで来ました。自社さ政権の三党協議会のような場で、どんどん協議
を重ねて行きました。その後、さきがけの議員のほとんどは民主党に移籍したのですが、高見は民主党に移らず、選挙にも落選す 関法第六六巻三号二四(七六三)
ることになりました。どうしようかなと思っていたら、今度は民主党の政策調査会に来ないかという話になりました。当時、まだ
NPO法は成立していなかったので、自社さの協議は続いていたのですが、民主党は与党でも野党でもない「ゆ党」のような中途
半端な状態でした。当時社民党所属であった辻元清美さんが政権内でNPO法制定のために頑張り、民主党が横から突っつくみた
いなことをしていました。他方、環境問題に関しては、市民政調(筆者注:特定非営利活動法人市民がつくる政策調査会)と一緒
に立法化を目指して環境法の勉強をしたりもしていました。
結局、我々は間接民主主義の上澄みの部分にいて、全部の声を多数決や国会議員によって代弁するのは不可能だと思います。か
つてのように政党の政策レパートリーも少なく、国民の選択も単純だった頃と違い、やれ福祉だ、外交だ、環境だ、経済政策だと様々な視点がある中、どの争点で政党を選ぶかは、人それぞれです。政党も、選んでくれた人の意図を完全に代弁するわけではな
い。そういう意味では、間接民主主義を補完するために、色々な声をなるべく広く反映するシステムが必要です。個人的には、声
なき声、一番小さいところの声をどう拾うかというのは大きな課題だと思っています。たぶんそういう意味もあり、NPOにハ
マっていったんじゃないでしょうか。
――――一般的にいって、NPO法ができる前の八○年代、九○年代前半頃からNPOや市民活動にコミットした人たちは、栂
坂さんのように、環境問題系からの接近という形が多いのでしょうか。
いえ、私のもう一つ前の世代は、むしろ福祉系です。障害者問題で非常に困っている、難病で困っている、生活すら困っている
のに国は何もしてくれない。そういう運動が結構ありました。環境系は、一九九二年にブラジルのリオデジャネイロで開催された
地球サミットあたりから盛り上がってきて、福祉系の方も巻き込みながら少しずつ大きくなりました。今でも福祉系のほうが老舗
だし、規模も大きいです。環境系は未だににこじんまりした世界ですね。
――――NPO法をつくろうという動きの主体としても、福祉系の方が中心だったのですか。その当時は色々でしたね。福祉系だけでなく、環境系の動きも大きかったです。あとはボランティア団体ですよね。あの頃は曹「NPOと政治」インタビュー調査記録(一)民主党政策調査会栂坂英樹氏二五(七六二)
洞宗ボランティアも大きかったです。あと、JVC(筆者注:特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター)、JANIC(筆者注:特定非営利活動法人国際協力NGOセンター)などのODA系ですね。福祉系は社会福祉法人があったので、やはり環
境系やODA系のような、社会福祉法人をつくるわけにもいかない、拠り所に困った団体の方がNPO法制定に主体的に関わった
印象があります。
二諸団体との関連
――――日本の市民社会には、新しく出て来たNPOや市民活動とは別に、旧来から存在してきた財団・社団法人や社会福祉法
人、学校法人、宗教法人、協同組合、自治会・町内会などの諸団体があります。そうした旧来型団体の改革と、NPOや市民
運動の推進策は、あまり連動していない印象を受けますが、いかがでしょうか。連動していないわけではないと思います。公益法人制度改革は「あんなものできるわけない」とみんな言っていたわけですが、
結果的にはすごくドラスティックにできました。官庁ごとに縦割りで運用されてきた制度ですし、民法を変えるのは困難だと思わ
れていましたが、最終的には変わりました。それ以前のNPO法制定の動きは、そこまでドラスティックではなかったですが、公
益法人制度改革に一定の影響を及ぼした部分があると思います。
ただし、公益を担う団体の法人格が現在でも乱立している状況は問題といえるでしょう。今は中間法人あり、社団法人あり、N
PO法人ありで、いびつな状態になっています。他にも学校法人や社会福祉法人もあります。税制上の扱いもバラバラです。最終
的にはもっと統合した形にならないといけないと思いますね。共益団体や協同組合は一緒にしていいのかどうかはまだ分からない
ところがありますけど。
――――法人格の統一という問題もあるのですが、他方で運動体というか、民主党をサポートする団体として、旧来型団体を取
り込もうという動きは民主党内にはないのでしょうか。 関法第六六巻三号二六(七六一)