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民法九〇三条三項でいう意思の表示について

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民法九〇三条三項でいう意思の表示について

その他のタイトル Sur la manifestation de volonte de l article 903, alinea 3 du Code civil japonais

著者 千藤 洋三

雑誌名 關西大學法學論集

38

2‑3

ページ 675‑703

発行年 1988‑10‑01

URL http://hdl.handle.net/10112/1805

(2)

民法九

0 1

︱一条三項でいう意思の表示につ

= 

︐ 

(3)

ー は じ め に 二 民 法

0 九

三条三項の立法経緯

0

特別受益の持戻し規定の立法趣旨

⇔持戻し規定と異なった意思表示 三 民 法

九 0

三 条

一 ー

一 項

で い

う 意

思 表

示 に

関 す

学 る

9

明治民法下の学説

⇔現行規定下の学説

四 民 法

九 0 1

︱ 一 条 三 項 で い う 意 思 表 示 に 関 す る 裁 判 例 9

持戻し免除の意思表示があったと認定された事例

⇔持戻し免除以外の意思表示があった事例

(4)

0

共同相続人中に︑被相続人から︑遣贈もしくは生計の資本等の贈与を受けた者がいるときには︑相続人間の公平

を図るために︑これら遣贈や贈与を特別受益として︑被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与の価

額を加え︑相続分の中から遺贈または贈与の価額を控除し︑残額を以てその者の相続分とする︵九

0 1

して︑もしも遺贈または贈与の価額が︑相続分の価額に等しく︑またはこれを超えるときは︑受遺者または受贈者は︑

その意思表示は︑遺留分に関する規定に反しない範囲内で︑効力を有する︵同三項︶︒要するに︑

定の体系は︑第一項および第二項では︑遺贈または贈与があった場合に︑相続人間の公乎を図るのが被相続人の意思

であると推定し︑これら遣贈や贈与を﹁相続分の前渡し﹂として相続分の算定に際し計算上返還させる︵これを持戻

しとよぶ︶という扱いにし︑第三項で︑自己財産の処分自由の原則のもとに︑被相続人が︑前二項と異なる意思表示

をしていれば︑遺留分規定に反しない限り︑意思表示を優先させる︑という仕組みになっている︒そして︑

この意思表示は︑遣贈・贈与が﹁相続分の前渡し﹂ではなく︑持戻す必要がないとするいわゆる﹁持戻し免除﹂の意

思表示であると解されてきた︒

しかし︑私は従来から︑遺贈の場合は勿論のこと︑生計の資本等の贈与の場合でも︑老後の世話を期待し︑ある

いは農業等の承継者にするなどを理由として︑多くは持戻し免除の意思で行われていると解するのが被相続人の真意

( 1 )  

に添うのではないか︑という素朴な疑問をもってきた︒その点はひとまず置くとして︑この第三項の﹁特別受益の持

これら特別受益規 その相続分を受けることができない︵同二項︶︒

被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは︑

(5)

本稿は︑民法九

0 1

︱一条三項でいう前二項と異なる意思表示とはどのようなものか︑について学説並びに判例を紹 の付与等に関する考察は︑後日に委ねることとしたい︒ のような表現もしくは状況においてか︑を知りたいと思ってきた︒この点︑最近公表された﹁持戻し免除について﹂ のような表現で行われたのか︑あるいは明確な意思表示はなかったとしても︑免除意思があったと認定されるのはど かったし︑処分可能な個人の固有財産はまだ形成されていなかったからである︶︑ ︵もともと︑明治期のわが国において︑第三項の立法趣旨と思われる自由な家産処分行為は国民生活に馴染んでいな 戻し免除﹂意思に関して︑実際にはこれまで被相続人による明確な意思表示が行われたことはなかったのではないか

( 2 )  

と題する論考の中で伊藤昌司教授が述べられているように︑そもそもこれまでのわが国の相続法学は︑持戻し免除と

いう観念自体について︑十分には検討してこなかったといえよう︒ましてや民法九

0 1

被相続人の異なった意思表示がどのようなものかについては︑教科書等の類を除いては︑ほとんど手付かずのままで

あったといってよい︒ただ︑昭和五六年に寄与分制度︵民法九

0

四条の二︶が創設されて以来︑寄与分をめぐる議論

( 3 )  

の中で︑持戻し免除について言及されることが増えたことは確かである︒そこでは︑寄与相続人が被相続人から受け

た生前贈与や遺贈は︑被相続人の特別の意思表示がなくても︑持戻し免除の効果が付与されるべきであると解されて

いる︒しかし果たして︑そのように処理してよいものか︑疑問なきにあらずである︒寄与分制度が創設されるまでで

あれば︑被相続人の財産形成に特別の働きをしたいわゆる寄与相続人の公平感を充たすための趣旨で︑免除意思の推

定も解釈として可能であったが︑制度創設後の今日では︑特別の寄与は規定に則り処理すべきであり︑免除意思はあ

くまで本来の特別な利益付与の趣旨で︑解釈されるべきであるように思われる︒ともあれ︑寄与相続人への免除効果

仮にあったとすれば免除意思がど 二九八

(6)

⇔ 

0

資本等を贈与した場合に︑これら遺贈や贈与を相続人の間に財産上の公平をもたらすものであるとの被相続人の意思 を推定して︑相続分の算定に際し︑これらの財産価額を計算上返還︵これを﹁持戻し﹂という︶させた︵民法九

0

もあって︑遣贈または贈与の価額が︑特定相続人の本来の相続分を超過しても︑その者は新に相続分を受けることが 思を優先させることにした︵民法九

0

規定と異なった意思表示をしなくても︑すでに贈与行為をもって異なった意思を表示︵つまり持戻しの免除︶してい

るといえるのではないか︑

1

贈与者の意識として︑相続人の間に財産額の上で差異を設けることであり︑

と思われる︒これは︑特別受益の持戻し制度の本質とも絡んだことである︒

規定は︑被相続人の意思推定の名の下に︑持戻しを原則とし︑例外的に持戻し免除等を可能とした︒

しかし︑以上の方法とは逆の方法も考えられる︒その一は︑贈与行為等は︑相続人問の不平等を承知の上で︑

相続人の間に差異を設けるために行ったものだ︑ 与をすることは︵遣贈も同様︶︑

つまり︑現行

とする︒この考えでは︑持戻しと異なった意思が原則で︑持戻させ るためには︑被相続人の特別な意思表示が必要であると解する︒その二は︑贈与行為等は︑あくまで相続人間の公平 を図るために行われたもので︑そのためには︑持戻し免除が原則で︑持戻させるためには被相続人の特別な意思表示 が必要であるとする︒こうした二つの考えのいずれも︑原則が持戻し免除であって︑持戻させるためには︑被相続人

持戻し できないとした︵民法九

0

いわば前項と調和をとる意味

( 4 )  

介・検討するものである︒本稿で述べようとすることをあらかじめまとめれば︑以下のようになろう︒

明治民法の立案関係者は︑諸外国の法制を参照しつつ︑被相続人が共同相続人の特定者に遺贈もしくは生計の また同時に何らかの特別な利益を付与しようとの被相続人の意思を推測し︑

そして財産処分の原則的自由から︑こうした規定とは異なった被相続人の意

しかしながら︑当時の関係者の発言から読み取れることだが︑贈

(7)

(1)  解釈が要請されるように思われる︒ って持戻させることにしている︶︒

現行規定と比較すれば︑

00

︵フランス法では贈与と遣贈とで扱いを異にし︑遺贈については原則が持戻し免除で︑例外的に特別の意思表示によ

は遺贈.贈与行為の中に︑免除等の特別な意思があるとみるべきではないか︒例えば︑死後の仏事等の祭祀や︑老後

の世話を期待し︑あるいは農業等の承継者にするなどを目的として︑特別の利益付与のため︑遺贈や生計の資本等の

贈与が行われていると解することも一理あるのではないか︒そう解すれば︑わが国で︑持戻しの規定と異なった意思

表示の事例︑それがたとえ明示でなくても︑

こうした点を踏まえれば︑持戻しを原則とする現行規定においても︑可能な限り九

0 1

一般に遺贈もしくは贈与しようとする者の意識を付度すれば︑その多く

の極端に少ない理由の説明が多少ともつくといえるのではあるまいか︒

いかなる場合に民法九

0 1

︱一条の持戻し規定と異なる意思表示があったものとされるかについて︑

学説・判例を紹介するが︑立法経緯からも知りえたように︑特別受益規定の持戻し原則と持戻し免除等の例外の関係

にいささか問題があること︑並びにわが国では一般に︑特別受益規定の構造が十分に知られていないためもあってか︑

被相続人が特別の利益を付与もしくは奪取しようとの意思をもっていたとしても︑文書であれ口頭であれ︑民法九〇

三条一項・ニ項とは異なる明示の意思表示をすることはあり得なかった︒したがって︑明示の意思表示例は︑すべて

学説が観念的に考えだしたものである︒これに比して︑判例はすべて︑黙示による意思表示例を示しており︑被相続

人が遣贈.贈与を行った事情等諸般の状況を考慮し︑被相続人の意思を認定したものである︒

まず学説が提示する朋示の意思表示例には︑以下のものが挙げられる︒①民法九

0 ‑

の特別な意思表示が必要とするというものである︒原則と例外が逆になっている訳である 関法第三八巻第ニ・三号

0

)

(8)

( 3 )  

0

特別受益としての計算すべきである︒

( 2 )  

でないと定めた︒③共同相続人中のある者に遺贈または贈与をし︑その価額を相続財産中に加えずにその他の財産の

みをもって相続分を定めると表示した︒③相続分以外の特別利益付与である旨表示された︒④生前贈与または遣贈を

その者の取り分として︑遺産は別に︑その者をも含めて︑法定相続分に従って分配するようにといった︒⑥生前贈与

を限りとして︑それ以上相続させないという意思表示があった︒⑥贈与財産の持戻しや︑贈与・遣贈の価額を本来の

相続分から差し引くことを要しないとする被相続人の意思があった︒⑦贈与・遺贈が︑本来の相続分より大きくなっ

たならば︑その贈与・遣贈の全部もしくは超過分だけを︑みなし相続財産へ返還させる旨の附款的意思を有効に表示

次いで︑学説の提示する黙示の意思表示例には︑①共同相続人の一人に生計の資本の贈与を行い︑後に遺言で

他の相続人の相続分を指定し︑しかもその相続分が贈与額を控除した残額に相当したときには︑黙示の持戻し免除意

思があった︒③贈与または遺贈を受けたことにより相続分を超えた者に︑なお少額の相続分を定めた︒③末の子が幼

児期に上の子に結納や挙式・披露宴の費用などを贈与したときには︑持戻させる意思の場合がある︒④被相続人が自

己を被保険者とし共同相続人の一人である妻を保険金受取人としての保険契約を締結した場合には︑持戻し免除の意

思を表示したものと解される︒そしてこのケースで︑生命保険金を含めて遺産分割させる意向と思われるときにのみ︑

最後に判例にみられる黙示の意思表示例として︑①遺産の大半が被相続人の事業を承継した特定の相続人に遣

贈.贈与されており︑他の共同相続人の遺留分を侵害していた場合には︑持戻し免除の意思表示があった︒③農業承

継者となることを条件に農地・宅地の贈与が行われた場合には︑持戻し免除の意思表示があった︒③農業承継者とな

︱ ︱ 1 0

1  

(9)

0 ニ

っていたこと︑および無効とされたが遺言書に全遣産の遺贈がこの者に行われていた︒④精神病に罹患している長女︑

およびその看病に努める妻への株式と土地の贈与︑並びに健康な生活を送っている二女への株式の贈与のいずれもす

べて︑生計の資本の贈与で︑かつ持戻し免除の意思を認定した︒⑥老後の面倒をみることなどを負担として被相続人

の土地に長男の家屋を建てさせたもので︑土地の使用貸借に基づき現実に建物が存在するために土地の価値が低下し

た部分について︑特別受益があり︑その持戻し免除があったとされた︒⑥民法九

0 1

持戻し免除ではなく︑むしろ相続分を贈与に限定するという場合であった︒

被相続人の特別な意思表示に関する学説・判例を一瞥した限りでは︑文書もしくは口頭による明確な特別の意

思を表示した例は︑学説としては考えられても︑判例には見当たらなかったこと︑また被相続人の職業承継者への遺

贈.贈与︑並びに共同相続人の遺留分を侵害するような遺贈.贈与について︑判例は持戻し免除の意思で行ったと認

定した点が特徴的である︒学説の示した事例は︑やや複雑で机上の論の感が否めない︒ともあれ︑十分な検討のため

には︑判例数が極端に少ないことでもあるので︑今後の判例の積み重ねに待つ必要がある︒

( 1 )

鈴木禄弥教授も︑九

0

三条一項の﹁処理方法が︑通常の場合の被相続人の真の真意に合するか疑わしいが︵とくに︑金銭

の遺贈の場合には︑むしろ︑被相続人は︑限定的ないし先取的遺贈を考えているのが︑普通であろう︶﹂と︑持戻しを原則とする規定に疑問を呈している︵鈴木禄弥﹃相続法講義﹄︵昭六一︶ニニ六頁︶︒後に本文で紹介するが︑日本民法九

0 ‑

︱ ︱

条の母法であるフランス民法八四三条二項は︑わが国とは逆に︑遣言者の反対の意思表示のない限り︑遺贈の持戻しを否定

( 2 )

伊藤昌司﹁持戻し免除について﹂中川淳還暦祝賀論集﹃現代社会と家族法﹄︵昭六二︶三九六頁︒

( 3 )

(4)

伊藤昌司•前掲論文は、フランス法に遡って「持戻し免除」概念を詳細に検討し、とりわけ民法九

01

―一条三項の「遣留分

関法第三八巻第ニ・三号

(10)

トス

0

0

1

︱一条三項の立法経緯

経緯を知るためには︑明治民法第一

00

七条の立法に際しての議論をみていく必要がある︒

に関する規定に反しない範囲内において」の法文に積極的な意味を吹き込まれる(前掲•四

0 二頁)。なお、筆者は、これ まで民法九 0

三条をめぐる諸問題について、『フランス相続法の研究ー特別受益・遣贈—』(関大出版部・昭五八)を上梓し︑その後も︑単独相続登記の手段として用いられているいわゆる特別受益証明書に関する﹁﹃相続分不存在証明書﹄に関する裁判例の研究」関大法学論集三六巻――-•四・五合併号などを公にしてきた。本稿もこうした作業の一環である。

昭和二二年の民法一部改正の際に︑家督相続制度の廃止など︑新憲法の理念に明らかに反する部分にのみ修正を及

( 1 )  

ぼしただけで︑相続編の全面改正は後日に委ねられた︒したがって︑現行民法第九

0 1

︱一条は︑明治三一年六月ニ︱日

に公布・同年七月一六日に施行された明治民法第四編第五編中の第一

00

七条について︑同条の片仮名がきを平仮名

がきに改めるなど極めて些細な訂正を行っただけで︑内容においてはまったく同様である︒そこで︑この規定の立法

①共同相続人中被相続人ョリ遺贈ヲ受ヶ又ハ婚姻︑養子縁組︑分家︑廃絶家再興ノ為メ若クハ生計ノ資本トシテ贈与

ヲ受ヶクル者アルトキハ被相続人ヵ相続開始ノ時二於テ有セシ財産ノ価額二其贈与ノ価額ヲ加ヘクルモノヲ財産相続

卜看倣シ前三条ノ規定二依リテ算定シクル相続分ノ中ョリ其遺贈又^贈与ノ価額ヲ控除シ其残額ヲ以テ其者ノ相続分

R遺贈又ハ贈与ノ価額ヵ相続分ノ価額二等シク又ハ之二超ュルトキハ受遣者又ハ受贈者ハ其相続分ヲ受クルコトヲ得 明治民法第一

00

七条は︑以下のように規定していた︒

︱ ︱

1 0

(11)

R遺贈又ハ贈与ノ価額ヵ相続分ノ価額ヲ超ュルトキハ受遣者又ハ受贈者ハ其相続分ヲ受クルコトヲ得ス

( 3 )  

この第一項の但書が︑現在問題としている持戻し免除規定に該当するものである︒

( 4 )  

穂積陳重起草委員は︑本条の提案理由の説明の中で︑以下の趣旨のことを述べている ヵ反対ノ意思ヲ表示シクルトキハ此限二在ラス 明治二九年九月二三日に開催された第一八八回法典調査会議事速記録によれば︑明治民法第一

00

七条は草案第

( 2 )  

1 0

0

九条として以下のように提案されていた︒

①共同相続人中被相続人ョリ遣贈ヲ受ケ又ハ分家︑婚姻︑養子縁組ノ為メ若クハ生計ノ資本トシテ贈与ヲ

受ケタル者アルトキハ其相続分ハ前一一一条二定メクル相続分ョリ其遣贈又ハ贈与ノ価額ヲ控除シテ之ヲ定ム但被相続人 第千九条

け特別受益の持戻し規定の立法趣旨 ニ於テ其効カヲ有ス ③被相続人力前二項ノ規定二異ナリクル意思ヲ表示シクルトキハ其意思表示ハ遣留分二関スル規定二反七サル範囲内

本稿が対象とする持戻しに対する被相続人の異なった意思表示規定は︑この第一一一項である︒第三項の立法趣旨を知

︱ ︱

1 0

起草委員のいう ﹁特別受益の持戻し規定﹂そのものがどのような意図のもとに制定されようとしたのか︑を明らかにし

ておく必要がある︒その後で︑第一二項について︑つまり被相続人が原則的形態である持戻しと異なる意思を表示した

ときとはどのようなものをいうのか︑を明らかにしようと思う︒以下︑第一節として︑特別受益の持戻し規定の立法

ついで第二節として︑被相続人の異なった意思表示規定の立法趣旨を︑紹介していくことにしたい︒ 関法第三八巻第ニ・三号

(12)

0

いわゆる遺贈と生前贈与・死因贈与を含めた贈与の二つの意味があることに注意︶︒相続分を確定す

るために遣贈物を返還させるか否かについて︑諸国の立法例は︑おおよそ︱︱︱つに分かれ︑第一は必ず返還させるやり

方︑第二は被相続人の意思がある湯合にだけ返還させるもので︑これには二つあり︑被相続人が明らかにこれは相続

つまり明示の意思がある場合と︑明らかにその意思を表示しなくても法律

が推測して定める場合︑第三は丸で遣贈物の返還を認めないか︑あるいはインドの相続法などのように相続分の遺贈

ができないとして遺贈物の返還を問題にする余地がないものである︒そして︑フランス法などでみられる第一の主義

は本案では採らなかった︒その理由は︑相続人の間で公平ではあるが︑生前贈与をいつか返さなければならないとい

うことで財産が不確定となること︑返還に際して以前にどれだけ受贈したか否かといった証拠が非常に困難であるこ

と︑したがって受贈の存続期間が問題となること︑かつ一人相続の制を主としている本邦では今までに例がない︑と

いうことによる︒また︑第二の明示の意思がある場合も採らなかった︒このやり方は︑面倒は少ないものの︑明示を

要することから︑例えば分家の際に資本を与え︑これは相続分の代わりであるということを言わなければならないが︑

普通の人が実際そういう意思を明示することは甚だ少なく︑却って言わなかったがために分家をした者が二重取りを

するようなことが起こって不公平なことになる︒遣贈物の返還をまったく認めないという主義も採らなかった︒その

理由は︑分家や婚姻・養子といった場合に財産を分割させ︑これを返還させることなく︑その後に相続分を取得する

ことによって︑結局二重取りを認めることになるし︑また遺贈を許さないとすれば︑分家・婚姻・養子など人が身を

定める際に財産上の基礎を与えてやるということが被相続人にできないことになる︒そこで︑なるべく狭い範囲で︑

かつなるべく被相続人の意思に叶い︑他の相続人の迷惑にならないという範囲で遺贈の返還を認める方が善くはない 分の遣贈であるということを示した場合︑

0

(13)

己〗 めぐる出席委員と起草委員との質疑応答をみていきたい︒ か︑というので︑黙示の意思を法律が推定して極めて狭い範囲内において︑これを遺贈と看倣すという主義を採ったのである︒このように本条は被相続人の意思を推定して立てたものであるから︑反対の意思を示して︑これは分家の資本としてやるけれども︑しかし相続分の要素でないという反対の意思を表示したときは別であるから︑但書規定を

( 5 )  

加えたのである︒

以上︑穂積起草委員の提案理由で明らかになったように︑いわば消去法により︑わが国では︑被相続人が特定の

相続人に贈与や遣贈をする場合には︑後日相続分として受けるべきものを予め特定相続人に与えるという意思を有し ていたとの被相続人の黙示の意思を推定して︑そして共同相続人の間での公乎を貫徹するために︑被相続人が行った 遣贈や贈与などの特別受益を原則として相続財産総体に持戻させ︑ただ被相続人がこうした法の推定とは異なった意 思を表示したときは︑この推定を覆すという方法を採用したのである︒こうしたやり方は︑十分に納得のいくもので あるが︑遺贈の場合を本条に含めたのは︑立法当時に参照されたフランス民法八四三条︵その後廃止︶に倣ったもの

ろうという理由から立法論として疑いがある︑ で︑遣贈にあっては相続財産の前払いというよりは受遺者に特別な利益を与えるというのが通常の遣言者の真意であ

との批判を受けることになった︒そこで︑次にこの反対の意思表示を

持戻し規定と異なった意思表示

明治民法草案第一

00

九条は︑但書規定として︑﹁被相続人ヵ反対ノ意思ヲ表示シクルトキハ此限二在ラス﹂と

マ マ

なっていた︒これについて︑穂積八束出席委員は︑親族法は素人が読んでもよく分かるようになっていないと具合が

関法第三八巻第ニ・三号

1 0

(14)

0

三条三項でいう意思の表示について 穂積八束委員の質問に対して︑穂稿陳重起草委員は︑

﹁是ハ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハト云フノハ︑是迄沢 悪いといって︑大略次のような質問をした︒但書規定は︑贈与または遺贈の部分は相続部分から控除すべきであるという意思を示して︑その示す方法はなんでもよいが︑それが明らかに現れているときには︑控除するが︑それが明らかに現れていないときには︑控除しないということでありましょう︒そうすれば︑ここに子供が一二人あって︑その一︱︱人に遺産を平等に分けるときは︑誠にもっともらしく聞こえますが︑前の条で相続分というものは親父が勝手に定めることができる︒その勝手に定めるのは必ずしも金額を公平に分かつのではなく︑あの子供は大きくなって職業についておるから︑少しやったらよかろう︒この子供はまだ幼稚だから沢山やるという種々の考えから一方には一分やる︑一方には五分やるということになる︒細かいことになるが︑嫁入りの時は一

00

円やったらよかろう︑蓑子にいくの

だから五

00

円やったらよかろうというように︑ただ勝手に一方には一分とか一方には六分とか定めてやることが通

常起こると思いますが︑そういう時に贈与について別段の意思の表示がないといったら︑少ない高に相続分を引かれ

ると随分迷惑なことでありますし︑また被相続人の意思でないような場合もあろうと思いますが︑

( 7 )  

わした所の説明を願いたい︒ 一寸但書と釣り合

山アリマス文例二依テ明言スルヲ要セヌコトデ明言シナクテモ相続分ヲアノ規定二依テ特二定メタト云フコトハー

特二減ジタト云フ者べ此前分家ノ時二資本ヲャッタカラ或ハ前二婚姻ノ時二金ヲャッタカラ減ジクト云フコトガ証

拠上二依テ現ハレレバ宜イ︒万一不注意ノ人デ心持ニハソレガアッタ︒長女ハ既二婚姻スルトキニ是丈ヶ十分ナコト

ガシテアルカラソレ故二長女ノ物ハ外ノ者ノ半分デアルト云フコトヲ極メテ置キ乍ラ其意思ヲ表示シナカッタトキニ

ハ︑是ハドウモ本条ノ但書二這入ラヌノデアリマス︒サウ云フ心持ガアッテモソレヲ表示シナイトキハ法律ガ其規定

︱ ︱ 1 0

(15)

ヲ立テルコト^出来ヌノデアリマスカラ如何ナル方法二依テモ事柄ガ分リサヘスレバ︑但書ガ当ルト云フコトヨリ外

( 8 )  

ニドウモ言ヘマイト思フノデアリマス﹂と答えた︒

こうしたやりとりを通じて明らかにしうることは︑まず第一に︑持戻し規定とは異なった被相続人の意思表示は 特別の要式に服さず︑

いかなる方法によるも︑その意思が明らかになればよいとする︒この点は︑何をもって意思が 明らかになったといえるか︑が問題となり︑本稿の研究課題である︒第

1一に︑穂積出席委員の質問から読み取れるよ

うに思われることだが︑贈与をすることは︑贈与者の意識として︑相続人の間に財産額の上で差異を設けることであ って︑持戻しと異なった意思表示をしなくても︵つまり︑草案でいう但書︑もしくは明治民法一

00

七条三項に従っ た意思表示︶︑贈与行為自体をもってして持戻し規定とは異なった意思を表示しているといえるのではないか︑とい うことである︒これは︑特別受益の持戻し制度の本質を衝いた非常に興味のもたれる点である︒本章第一節でみた持 戻し制度の立法趣旨からいえば︑被相続人の贈与行為は︑相続人間の平等を旨としていると推定したもので︑後にふ れるように贈与を計算上返還させる訳であるが︑こうした方法とは逆の方法も考えられる︒

︹その一︺は︑贈与行為 は︑相続人間の不平等を承知の上で︑相続人の間に差異を設けるために行ったものだ︑とする︒この考えでは︑持戻 しと異なった意思が原則で︑持戻させるためには︑被相続人の特別な意思表示が必要であると解する︒

贈与行為は︑あくまで相続人間の公平を図るために行われたもので︑そのためには︑持戻し免除が原則で︑持戻させ るためには被相続人の特別な意思表示が必要である︑とする︒こうした二つの考えのうち︑穂積出席委員の意見は︑

︹その二︺であるように思われる︒そして︑穂積出席委員の質問に対する穂積起草委員の返答は︑原則が持戻し免除 であって︑例外的に但書によって被相続人の持戻し意思を必要としているというように解される︒

関法第三八巻第,,

•三号

1 0

つまり︑彼は起草

(16)

民法九

0

三条三項でいう意思の表示について

0 1

︱一条三項でいう意思表示に関する学説

持戻し規定に異なった被相続人の意思表示に関する学説を概銅してみよう︒

委員ではあるが︑法案通りの考えではなく︑質問者と同様に︹その二︺の考えに近いといえよう︒

いかなる場合に免除意思等があったものとされるかは︑解釈に委ねられることになった訳である︒以下︑

( 1 )

我妻栄﹃改正親族・相続法解説﹄︵昭二四︶一五二頁︒

( 2 )

法務大臣官房司法法制調査部監修﹃日本近代立法資料叢書七法典調査会民法議事速記録七﹄︵昭五九︶五六六頁︒

( 3 )

本文で述べたように︑明治民法草案第一

00

九条は︑後に若干の修正を経て︑明治民法第一

00

草案を修正したことによる最も大きな変更は︑被相続人の持戻し免除意思規定が第一項の但書から︑第三項に新設され︑しかも前の一・ニ項︵この一・ニ項とも草案と明治民法のいずれもほぼ同一内容︶にかかるようになったことと︑その免除意

(4) 法務大臣官房司法法制調査部監修•前掲書五六六頁以下。 (5)

法務大臣官房司法法制調査部監修•前掲書五六八頁。

( 6 )

柚木馨﹃判例相続法論﹄︵昭二八︶二

0

一頁︒元来ローマ法では遣贈は持戻しの客体ではなく︑僅かにフランスの一部に︑これを持戻しの客体とする慣習が認められ︑これがフランス民法第八四三条に採用されたが︑一八九八年には廃止された

(7) 法務大臣官房司法法制調査部監修•前掲書五七三頁。 (8) 法務大臣官房司法法制調査部監修•前掲書五七四頁。‘

以下においては︑特別受益の持戻し規定とは異なる意思の表示とは︑どのようなものをいうのか︑について主たる 学説を紹介したい︒第一節として明治民法下の学説を︑第二節として現行規定下の学説を︑それぞれ概ね公表された

0

(17)

第三八巻第ニ・三号

明治民法下の学説

明治民法制定後まもなくして上梓された﹃民法要義 シテ被相続人ノ意思ヲ重シ︑荀モ遺留分ヲ侵ササル範囲二於テハ全ク其意思二従フヘキモノトセリ︒唯被相続人力何 等ノ意思ヲモ表示七サリシトキハ︑法律ハ当事者ノ普通ノ意思ヲ推測シ原則トシテ其贈与又ハ遺贈ヲ相続分ノ計算中

( 1 )  

ニ加フヘキモノトセリ﹂と述べる︒そして︑被相続人の﹁何等ノ意思﹂を重視する記述は︑例えば奥田氏の﹁共同相 続人中ノ或者力遺贈又ハ贈与ヲ受ヶタルモ其価額ヲ此者ノ受クヘキ相続分ョリ拍除セスシテ計算スヘキモノト為スヲ

( 2 )  

得ヘシ﹂とか︑牧野氏の﹁被相続人ヵ共同相続人ノ一人二贈与又ハ遺贈ヲ為シタルモ其目的タル財産ノ価額ヲ相続財 産中二加ヘス残余ノ財産ノミヲ以テ相続分ヲ定メタルトキハ之二従ヒ受贈者又ハ受遺者タル相続人ノ相続分ヲ定メサ

( 3 )  

ルヘカラス﹂との説明にもみられる︒しかしいずれも︑被相続人の﹁何等ノ意思﹂がどのようなものかを説明してい

与のようなものは︑相続分をあらかじめ与えたとするのは贈与者の意思に反することが多い︑ ない︒ただ︑梅博士は︑婚姻や養子縁組等の場合とは異なって︑直系卑属もしくは直系尊属に行われた特定財産の贈

( 4 )  

という︒婚姻︑姜子縁

組もしくは生計の資本としての贈与以外の贈与については︑相続分をあらかじめ与えたと解する余地はなく︑当然の ことをいったまでである︒その後上梓された仁井田益太郎著﹃親族法相続法

三一〇

をなす時または後に︑共同相続人に対する総ての遺贈もしくは贈与につき一

00

七条一項及び二項の規定を適用すべ

きでない旨を定めたとき︑あるいは特定の共同相続人に対する遺贈または贈与のみにつぎ同条同項の規定を適用すべ

順にみていくことにする︒ 関法

全﹄は︑被相続人が贈与もしくは遺贈 巻之五相続編﹄のなかで︑梅博士は︑﹁新法典二於テハ主ト

0

)

(18)

0

確にとらえた点が︑特徴的である︒ きでない旨を定めたときは︑その意思に従う︑

( 5 )  

と記述している︒ここでは明らかに︑被相続人の特別な黙示の︵もし さらに次の柳川判事になると︑より突っ込んだ考察がなされている︒同氏は︑まず被相続人は受贈者に持戻しの

義務を免除できるし︑また法定の贈与以外の贈与であっても持戻しを命ずることができるとする︒そして︑持戻し免 除は贈与行為と同一行為によって行う必要はないし︑明示である必要もなく黙示でも可能であるという︒

例として︑相続人中の一人に一

00

七条一項の贈与を行うと同時にまたはその後に︑遣言で他の相続人の相続分を指

しかもその相続分がさきの贈与を控除した残額に相当するような場合には︑贈与の持戻しを免除する暗黙の表 意があったと認めることができるが︑しかし贈与を他の行為に仮装したような場合には︑持戻しの免除をする黙示の 表意があったとみなすことはできない︒その理由として︑このような仮装贈与は︑他の相続人の嫉妬怨恨を避ける目 的に因ることもあるし︑あるいは費用を節約するためでもある︒また直接に相続人の一人に贈与せずして第三者を介 立者として︑この介立者に贈与し贈与物を相続人に移転すべき義務を負担させるような場合にも︑必ずしも持戻し免

除の黙示的な表意があったということはできない︒そして︑

相続人の意思解釈によって定まる事実問題である︑

ついでその

いずれの場合にも免除があったとみるべきか否かは︑被

( 6 )  

と結論づける︒被相続人による黙示の意思表示例は︑先の仁井田 氏のと同様であるが︑仮装贈与や間接的贈与を排除する点︑並びに被相続人の特別な意思表示を﹁持戻し免除﹂と朋 特別な意思表示を持戻し免除と把握する考え方は︑例えば近藤教授の﹁持戻免除の意思表示には︑その遺言に依

る場合の外は︑何等の方式をも必要としないから︑黙示的になされてもその効力を生ずる﹂し︑ くは間接的な明示の︶意思表示の一例を示している︒

﹁持戻免除の意思表

(19)

あれば︑この意思が優先されるという規定上の建前︑並びに相続分指定の場合と異なり必ずしも遣言に依るを要しな

( 9 )  

いとか︑あるいは黙示的でよいといった意思表示のいわば形式について記述しているだけで︑実際に持戻しを免除す るという形での遣言がありうるのか︑あるいは具体的にどのような場合が黙示の意思であったかを明らにしていない といえよう︒ただそれでも︑仁井田︑柳川の両著によって︑黙示の意思表示の一例︑

続人の相続分を指定し︑しかもその相続分がさきの贈与を控除した残額に相当するような場合には︑贈与の持戻しを

免除する暗黙の表意があったと認めることができる︑

第三八巻第ニ・三号

つまり被相続人が遣言で他の相

~

示がなさるべき時期についても︑吾民法に別段の規定はないから︑必ずしも贈与と同時になされることを要しない︒

( 7 )  

尤も遺贈に関する持戻の免除は︑遺言によってなさるべきこと勿論である﹂との文言にみられるように︑後の学説に

大きな影響を及ぼした︒しかし︑民法第一

00

七条一項・ニ項の説明を行った後での穂積重遠教授の﹁以上は被相続 人の意思を推測して設けた相続分の算定方法であるから︑もし被相続人がこれに﹃異ナリタル意思ヲ表示シタルトキ

例へば贈与又は遣贈が相続分以外の特別利益付与である

( 8 )  

旨が表示されたときは︑其贈与又は遺贈を勘定に入れずに相続分を算定する﹂との記述にも明らかなように︑明治民 法下の学説は︑柳川説をさらに掘り下げて︑黙示的な免除意思ないしは他の意思の具体的な例示を説明することはな 結局︑これら明治民法下の主だった学説を概観した限りでは︑学説は一般に︑持戻し規定に異なった意思表示が

現行規定下の学説

との具体例を知りうることができた︒ ハ︑﹄其意思表示に効力をもたらしむべきこと勿論である︒

(20)

0

﹁被相続人が︑共同相続人中のある者に︑遣贈又は贈与をして

も︑その価額を相続財産中に加えずに︑その他の財産のみをもって相続分を定むべきことを表示したときは︑これに

( 1 0 )  

従って受遺者又は受贈者である相続人の相続分を定めなければならない﹂という︒同様に︑島津教授も︑

は遺贈は相続分以外の特別利益附与である旨が表示されるときには︑相続分算定についてその贈与または遣贈は掛酌

されない﹂と記述するにとどまっている︒ついで︑我妻栄

1 1

例えば生前贈与又は遺贈をその者の特別取り分として︑遺産は別に︑その者をも含めて︑法定相続分に従って分配す

るようにといい︑或いは︑贈与又は遣贈が相続分を超える者についてなお少額の相続分を定めるなどがその例であろ

う︒しかし︑生前贈与を限りとして︑それ以上相続させないという意思表示も︑遺留分を侵していなければ︑有効で

(12) ある︒生前贈与を受けた者に対して︑相続分を超える部分を返還せよと命ずることはできない﹂と述べる︒前二者に

比して︑異なる意思表示の具体例を述べている点が特徴的である︒異なる意思表示の例として︑

条一項と異なった意思表示をし二項の適用を受けるとすることも︑逆に1一項と異なった意思表示をし一項の適用を受

( 1 3 )  

けるとすることもできる﹂とする薬師寺説や﹁この意思表示の方式については︑特別の定めがないから︑どんな方式

でも︑関係者に判り得るものであればよろしい︒但し︑遣贈については︑遣言の方式に従うべきである︒この意思表

示の内容は︑受贈者または受遣者に︑持戻義務を免除し︑持戻の程度を軽減し︑又は法定の贈与以外の贈与について

も持戻を命ずる等︑いやしくも共同相続分を害しない限り︑被相続人の自由に属する︵柳川・上六

0

( 1 4 )  

の永田説も考慮に価する︒ただ︑遺贈を行った場合に︑その持戻し義務を免除するにも︑遺言によらなければならな

( 1 5 )  

いとするのは︑やや疑問が残る︒特定の相続人への遺贈のために遺言書を作成した後に︑他の相続人への贈与証書の 戦後の早い時期に上梓された福島﹃相続法﹄は︑

~

0 1

﹁前二項の規定に異なる意思表示とは︑

(21)

同時に発生する︒遣贈がその効力を生じないときは︑

持戻免除の遺言もその効力を生じない︒﹂

遺贈について持戻免除の

中で︑受遺者への持戻し免除の意思表示をしていても有効と解されよう︒

その後も一部の学説は︑歩みは遅いものの︑異なる意思表示の内容を少しずつ深めていったといえよう︒高野教

﹁①被相続人が︑ある共同相続人になした遣贈または贈与は︑相続分以外の特別利益である旨を表示したとき

は︑九

0 1

︱一条一項・ニ項の規定の適用が排除される︒この意思表示を持戻免除の意思表示という︒③持戻免除の意思

表示には︑全面的持戻免除の場合と一部持戻免除の場合とがある︒遺贈または贈与の全部を持戻免除するのが前者で あり︑同一人に対するいくつかの遣贈または贈与のうち︑特定のものだけを持戻免除する場合︑並びに遺贈または贈 与を受けた数人の共同相続人のうち︑ある者についてだけ持戻免除する場合︑あるいはこの二つの場合を組み合わせ た場合が後者である︒⑱被相続人が持戻免除その他異なった意思表示する場合の方式については︑別段の規定はない︒

したがって贈与については︑生前行為たると遺言によるとを問わず︑また生前行為においても︑文書によると口頭に よるとを問わない︒遣贈は必ず遺言によらなくてはならないから︵九六

0

意思表示をするときも必ず遺言によらなければならない︒遺贈の効力と持戻免除の遺言の効力とは︑相続開始により

( 1 6 )  

という︒さらに︑鍛

冶教授は︑結納や挙式・披露宴の費用などは通常は民法九

︱一条一項の遣産に持戻すべき贈与に入れないが︑

0 1

末の子が幼いときにはその子との公平上︑結納その他を特別受益として計算すべき場合もあるとし︑また﹁共同相続 人の一人である妻を保険金受取人として被相続人が自己を被保険者とする契約を結んだ場合︑

かつては相続人間の公

平を理由に特別受益とみる見解が強かったが︑今日では妻を受取人に指定したこと自体︑九

0

三条三項の持戻し免除

の意思を表示したものと解する傾向が強い︒この見解によれば︑妻を受取人としたが生命保険金を含めて遺産分割さ

関法第三八巻第

11• 三号

(22)

0

( 1 7 )  

せる意向と思われるときにのみ︑特別受益として計算すべきことになる﹂とする︒結納その他を特別受益として計算

するというのは︑被相続人の持戻し意思を推定したもので︑これも民法九

0 1

︱一条一・ニ項に異なる黙示の意思表示の

しかし︑なお多くの学説は︑例えば中川"泉教授の﹁被相続人の意思は︑必ずしも常に︑共同相続人の公平にば

かり向けられず︑時にはその間に厚薄の差をつけるべきだと考えることもある︒もともと相続財産を処分する自由は︑

被相続人に専属することであるから︑民法もそこまで立ち入って︑その自由を制限することはできない︒そこで民法

0 1

︱一条三項は︑贈与財産の持戻しや︑贈与・遺贈の価額を本来の相続分から差し引くことを要しないとする被相続

人の意思を有効なものとしたのである︒あるいは逆に︑贈与・遺贈が︑本来の相続分よりも大きくなったならば︑そ

の贈与・遺贈の全部もしくは超過分だけを︑みなし相続財産へ返させる旨の附款的意思を有効に表示しておくことも

( 1 8 )  

との記述に典型的に見られるように︑明示の場合はまだしも︑黙示の場合について︑民法九

0

三条一・ニ

項と異なった被相続人の意思があったとする事例を説明することがほとんどないといえよう︒

( 1 )

梅謙次郎﹃民法要義巻之五相続編﹄︵昭五九・大正二年版復刻︶︱二四頁︒

( 2 )

( 3 )

牧野菊之助﹃日本相続法論﹄︵明四二︶ニニ

0頁 ︒

(4) 梅•前掲書―二五頁以下。

( 5 )

仁井田益太郎﹃訂正改版親族法相続法論全﹄︵大四︶四六一二頁以下︒

( 6 )

柳川勝二﹃日本相続法註釈上﹄︵大七︶六

0

二頁以下︒柳川判事の記述には︑伝統的に贈与を現実の手渡し贈与

(d on ma nu el

)︑間接贈与

(d on at io ni n d ir e

c t)

(d on at io nd eg ui se e)

一例ということになろう︒

参照

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