九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
統合失調症の共変量としての増悪因子に関する解析
江口, 里加
http://hdl.handle.net/2324/2236169
出版情報:九州大学, 2018, 博士(臨床薬学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏 名
1
工口 里力日ミロム岡 文 名 統合失調症の共変量としての増悪因子に関する解析
主 査 九 州 大 学 大 学 院 薬 学 府 教 授 家入一郎 論 文 調 査 委 員 副 査 九 州 大 学 医 学 系 学 府 教 授 萩原明人 副 査 九 州 大 学 大 学 院 薬 学 府 教 授 小 柳 悟 副 査 九 州 大 学 大 学 院 薬 学 府 准 教 授 虞 田 豪
論文審査の結果の要旨
統合失調症は、社会的、情動的、洞察、および認知領域にわたり機能の低下を引き起こす神経発 達症候群である。慢性的疾患で生活の全ての面に影響を及ぼすことから、いかに寛解状態を維持し Quality of life (QOL)を確保するかが治療の目的となる。再燃・急性増悪の主な原因として、服薬ア ドヒアランスの欠如、薬物乱用、およびストレスの大きなライフイベントが挙げられるが、自然経 過の中で再燃・急性増悪を来すことも珍しくない。自然経過の中でどのような要因が再燃・急性増 悪を来すかについて、確固たる知見はみられない。本研究では「統合失調症の共変量としての増悪 因子に関する解析
J
と題し、日常生活と入院治療中という異なる治療状況下における、統合失調症 の症状増悪に関連する特定の要因について検討を試みた。第 1章では、入院前の微小粒子状物質(particulatema仕erless than 2.5 μm in diameter, PM2.s)への 暴露が統合失調症の増悪に与える影響について後ろ向きに検討した。再入院の危険因子として、住 環境や清潔問題が挙げられることに着想を得て、特に近年、公衆衛生学上の問題としてメディアで も取り上げられることの多いPM2.s 濃度に増悪因子の共変量として焦点をあてた。 2013年2月 1 日 か ら 2016年4月初日の聞に大阪府堺市の総合精神病院に入院した統合失調症患者のデータと、
大気汚染および気象の常時監視データを用い、 PM2.s濃度と入院時の統合失調症患者の簡易精神症 状評価尺度(BriefPsychia甘icRating Scale, BPRS)スコアとの関連を多変量ロジスティック回帰分析
を用いて解析した。 PM2.sの遅延効果を捉えるため、 0〜7日のラグ期間を考慮、した。 PM2.s濃度の 影響はラグ 2日目に有意であった。性差はみられなかったが、 65歳以上の群では、6日目にPM2.s の影響が見られた。 0〜7 日の累積PM2.s濃度によっても、全体群と 65以上群では、入院時の重症
度への影響がみられ、 PM2.s暴露が統合失調症の増悪因子の 1つで、ある可能性が示唆された。
第 2 章では、急性期の統合失調症患者に限定し、ベースラインの精神症状、精神科での治療歴、
入院前の服薬状況、抗精神病薬の用量、薬物中毒といった患者要因を調整した上で、強制治療によ り精神症状がどのように変化するかについて客観的指標を用いて検討した。強制治療の種類は、「隔 離のみ」、「隔離および拘束j、「強制治療なしjに分類した。2013年 2月 1日から 2014年 8月 31
日の期間に、総合精神病院の救急病棟および急性期治療病棟に入退院した 18歳から 65歳までの 1997名の日本人患者のデータを抽出した。入棟時の BPRSの 18項目を用いて因子分析を行い下 位尺度を作成し、その後ロジスティック回帰分析を用いて、 BPRSの合計スコアおよび3つの下位 尺度(「敵意・猪疑症状J、「陽性症状j、 f抑うつ・陰性症状」)のスコアについて、それぞれ精神症 状の変化を検討した。全体群で、検討を行った後、入院時の全体的機能の高い群と低い群に層別化し、
同様の解析を行った。全体群と機能の低い群では、「隔離のみJは下位尺度の「敵意・猪疑症状」の 改善に関連していた。「隔離および拘束Jにより、下位尺度の「陽性症状Jが改善していた。対照的 に、全体的機能が高い群では、「隔離のみJ、「隔離および拘束」のどちらも精神症状の改善とは関連 していなかった。隔離・拘束の正の効果は機能の低下を呈している患者のみに限られる可能性が示 唆された。
統合失調症の増悪は、患者の社会機能レベルや QOLが低下するのみでなく、入退院や緊急受診 の増加や、看護や介護サービスといった社会資源利用の増加を招きかねず社会的損失が大きい。本 研究は、増悪因子について臨床現場への有益な情報提供の一端を担うことを目的としており、公衆 衛生学および医療経済学の面から意義深いと考えられるため、博士(臨床薬学)の学位に値すると 認める。