現実 をみつめることから 始 める
──山里の暮らしから学ぶこと吉田 ゆり子
私たちが暮らしている日本は、その七割近くが森林で占められています。伝統的な日本の生活は、多くの恵みを森林から受けて生活していました。たとえば、家屋や家具の用材として木材は使われるばかりでなく、薪や炭は貴重な燃料源として日常的に不可欠なものでした。皆さんが毎日使う紙も、木材から生産されています。こうした森林資源を山から伐り出し販売し、他方で森林を保護し生育を促す林業が、社会を支えるひとつの産業として重要な役割を果たしていました。
ところが、燃料源が木炭から石炭、石油、そして原発へと移行し、また海外から安価な木材が輸入されるようになると、採算がとれなくなった日本の林業は衰退してゆき、手入れがおこなわれない山は荒れ、水を蓄えることができなくなった山は、豪雨で土砂崩れをおこし、自然災害を頻発させることになりました。他方で、林業に依存していた山間の集落では、若者は都市に生活基盤を移し、高齢化が進みました。さらに、先祖代々守ってきた田畑や山林が放棄され、学校や役場をもっていた集落も、姿を消してゆくところさえ出てきました。山里での人々の暮らしの足跡が失われ、森林資源が有効に活用されないまま自然へと帰さ れているともいえます。 少子高齢化、地方からの人口流出、都市への集中など、現在私たちの身の回りで起きていることがらはなぜ起き、どのような未来に向かっているのでしょうか。どのような未来を人々は求めているのでしょうか。山里の暮らしに、日本の懐かしさを感じるのではなく、こうした現実を生み出した日本社会の構造的な問題、グローバル化の問題性はどこにあるのか、現実を直視する必要があります。こうした変動の中で、山里に何とか踏みとどまり、生活を続ける人々の思いに、高度経済成長以降の日本そして世界の向いてきた方向を重ね合わせ、見直すべき時にきています。環境問題はいうまでもありません。 まずは、現実の社会を直視し、何が起きているのか、自分で確認すること。その問題は何に由来するのか。その問題解決の道筋にはどのような方法がありうるのか。先人たちの考え、問題の指摘、解決に役立つ議論や理論を学ぶ場が大学です。表層的な現実ではなく、またバーチャルな世界ではなく、事実を知り、きちんとした考え、理論や方法論を学び、自らの考えを形成してゆくことを期待しています。よしだ・ゆりこ 総合国際学研究院教授 日本近世史
新入生へのメッセージ