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現代日本の「鉄道愛好」に関する社会学的研究 : 

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(1)

現代日本の「鉄道愛好」に関する社会学的研究 : 

「文明」の追求から「文化」の探求への変容

著者 塩見 翔

発行年 2018‑03‑31

学位授与機関 関西大学

学位授与番号 34416甲第667号

URL http://doi.org/10.32286/00000187

(2)

2018 年 3 月 関西大学審査学位論文

現代日本の「鉄道愛好」に関する社会学的研究

―― 「文明」の追求から「文化」の探求への変容 ――

社会学研究科 社会学専攻 博士課程後期課程

塩見 翔

(3)

目次

はじめに --- 1

第1章 鉄道愛好という文化 --- 2

第1節 本論文の目的・対象・方法 --- 2

第2節 鉄道愛好文化の変容過程についての概観 --- 3

第3節 鉄道愛好の文化的立ち位置についての本論文の見立て--- 6

第4節 本論文の意義 --- 8

第2章 先行研究と本論文の視点 --- 12

第1節 鉄道文化をまなざす --- 12

第2節 日本人と鉄道文化に関する史学的考察 --- 14

第3節 「鉄道文化」の定義 --- 16

第4節 「想像力」を喚起する鉄道 --- 18

第5節 「鉄道信仰」 --- 20

第6節 ふたつの鉄道観 --- 21

第7節 鉄道愛好者への着目 --- 22

第1項 男性論からの接近 --- 23

第2項 「原オタク」としての鉄道愛好者 --- 24

第3項 「少年」たちと鉄道愛好 --- 25

第8節 先行研究の成果と課題 --- 26

第9節 本論文の視点 --- 28

第10節 本論文の狙い --- 30

第3章 「文明」の追求としての鉄道文化・鉄道愛好(鉄道創業期~1964年) --- 32

第1節 日本における鉄道文化の形成 --- 32

第2節 鉄道を受け入れた日本人 --- 33

第3節 鉄道観形成の背景 --- 34

第4節 「鉄道信仰」の成立 --- 34

第5節 鉄道写真と「鉄道趣味者のまなざし」の析出 --- 35

第6節 「趣味」としての鉄道愛好文化の展開 --- 36

第7節 学校教育と共通文化としての鉄道 --- 38

第8節 鉄道旅行と鉄道愛好 --- 39

第9節 雑誌『旅』の背景と鉄道 --- 40

第10節 消費の文化としての「電車文化」(私鉄の文化) --- 42

第11節 公共企業体日本国有鉄道の誕生 --- 44

第12節 「電車の時代」と鉄道愛好 --- 45

第13節 モータリゼーション初期時代と鉄道の「動力近代化」--- 46

(4)

第14節 「文明」の追求の到達点、あるいは終点としての新幹線 --- 47

第4章 「文化」としての鉄道の発見(1964年~現在) --- 49

第1節 モータリゼーションと国鉄経営問題 --- 49

第2節 国鉄の合理化とその影響 --- 51

第3節 合理化追求の限界 --- 53

第4節 「SLブーム」 --- 54

第5節 「文明」の意味転換――科学から社会問題へ --- 56

第6節 旅行文化との関連 --- 57

第7節 古いモノとローカルなモノへの関心 --- 58

第8節 分化する鉄道のイメージ --- 59

第9節 「ブルートレイン・ブーム」 --- 60

第10節 SLからブルートレインへ --- 61

第11節 ブームの発生と少年鉄道ファンの姿 --- 61

第12節 非実用列車としてのブルートレイン --- 63

第13節 ブルートレインから広がる鉄道愛好消費 --- 65

第14節 「特異化」される鉄道愛好者 --- 66

第1項 「おたく」の誕生 --- 66

第2項 オタクへの注目と鉄道愛好との関連 --- 67

第3項 鉄道愛好文化内部の差異 --- 68

第15節 女性たちの鉄道愛好 --- 70

第16節 女性鉄道愛好者を取り巻く「葛藤」や「ゆらぎ」 --- 74

第17節 現代の鉄道と消費文化 --- 75

第18節 鉄道愛好文化と消費文化 --- 76

第5章 「鉄道再発見世代」鉄道愛好者のライフヒストリー--- 79

第1節 インタビュー調査の概要と「中心的」な鉄道愛好者としての森口さん --- 79

第2節 森口さんの鉄道愛好者としての概要と本論における意義 --- 81

第3節 他の調査協力者の概要 --- 83

第1項 高山さん --- 83

第2項 木下さん --- 83

第3項 西川さん --- 84

第4項 三国さん --- 84

第4節 鉄道愛好文化への接続 --- 85

第1項 ブルトレブーム最盛期の経験 --- 85

第2項 コレクションの対象としてのブルートレイン --- 87

第3項 ブルトレブーム以後の鉄道愛好消費 --- 88

第5節 出版メディア経験 --- 90

(5)

第1項 「オトナの世界」としての鉄道出版物 --- 90

第2項 専門情報の提供と鉄道愛好の世界の分化 --- 93

第6節 鉄道旅行への誘引 --- 94

第1項 国鉄と宮脇俊三という磁場 --- 95

第2項 「旅情」として語られる「幻想のメディア」 --- 96

第7節 コミュニティ経験と愛好者アイデンティティ --- 99

第1項 学生鉄道サークルと自己表現 --- 100

第2項 サークル内コミュニケーションと「少数派」アイデンティティ --- 101

第8節 コミュニティ経験の多様性 --- 101

第1項 「男社会から抜け出せない」 --- 102

第2項 葛藤をはらんだコミュニティ --- 102

第9節 「マニア」として生きる --- 104

第1項 森口さんのマニア観 --- 105

第2項 マニア意識へのこだわりとその背景 --- 107

第10節 愛好者カテゴリーの中のマニア --- 108

第1項 「(ライト)ファン」との区別 --- 109

第2項 「オタク」との区別:〈世界〉の創造者の有無 --- 109

第6章 『鉄道ジャーナル』読者欄の盛衰と読者たちの「公共圏」の変容 --- 112

第1節 調査対象 --- 112

第1項 『鉄道ジャーナル』誌の読者欄 --- 112

第2項 投稿数の推移と掲載状況 --- 113

第3項 投稿者像 --- 116

第4項 鉄道の「あるべき姿」を論じる場としての読者欄 --- 116

第2節 1980年代の読者欄における鉄道観 --- 117

第1項 鉄道は「役に立つ(べき)」という観念--- 117

第2項 付加的・消費的価値の重視 --- 118

第3項 「企業論理」の出現と「役に立つもの」という観念からの離脱 --- 119

第4項 鉄道愛好者の「あるべき姿」 --- 121

第3節 消費文化の対象としての鉄道と「公共圏」の事実上の終焉 --- 123

第7章 女性鉄道愛好者のライフヒストリー --- 125

第1節 鉄道サークルの女性メンバー --- 125

第1項 鉄道サークル女性メンバーの概況 --- 125

第2項 インタビュー調査の概要 --- 128

第3項 インタビュー対象者と所属鉄道サークルのプロフィール --- 128

第2節 女性鉄道サークルメンバーにとっての鉄道愛好 --- 131

第1項 鉄道サークルメンバーが鉄道愛好者になった時期 --- 131

(6)

第2項 鉄道サークル入会以前からの鉄道愛好者:A、E、Gさん --- 133

第3項 鉄道サークル加入と鉄道愛好者への道:B,C,Dさん --- 134

第4項 新しいことへのチャレンジ:Fさん --- 135

第5項 「乗り鉄」志向と「鉄道価値」志向――潜在的な誘因 --- 136

第6項 鉄道サークルのもつ「場所性」 --- 137

第3節 サークル加入後の関心・行動の変化――鉄道サークルの「培養」機能 --- 139

第1項 鉄道愛好者としての深化 --- 140

第2項 鉄道への関心の広まり --- 141

第4節 男性メンバーとの差異の意識 --- 142

第5節 女性メンバーたちの「鉄道愛好者意識」 --- 145

第6節 鉄道サークル非経験者 --- 148

第7節 「愛好世界」の外部(Xさん) --- 150

第1項 Xさんの概要 --- 150

第2項 Xさんの自己提示:「しろうと」 --- 151

第3項 Xさんの立ち位置:「愛好世界」の外部 --- 152

第8節 「愛好世界」の周縁(Yさん) --- 153

第1項 Yさんの概要 --- 153

第2項 Yさんの自己提示:「お客さん」 --- 153

第3項 Yさんの立ち位置:「愛好世界」の周縁 --- 154

第9節 横並びのサブジャンルの担い手(Zさん) --- 155

第1項 Zさんの愛好概要 --- 155

第2項 Zさんの自己提示:「車窓派」 --- 155

第3項 Zさんの立ち位置:横並びのサブジャンルの担い手 --- 156

第10節 鉄道愛好イメージの差異とその背景 --- 156

第11節 女性鉄道愛好者の現在 --- 157

第8章 結論――現代日本の鉄道愛好 --- 160

第1節 本論文のまとめ --- 160

第1項 鉄道愛好という文化(第1章) --- 160

第2項 先行研究と本論文の視点(第2章) --- 161

第3項 「文明」の追求としての鉄道文化・鉄道愛好(第3章) --- 163

第4項 「文化」としての鉄道の発見(第4章) --- 163

第 5 項 鉄道愛好者のライフヒストリー――森口誠之氏を中心としたインタビュー・デ ータから(第5章) --- 166

第 6 項 『鉄道ジャーナル』読者欄の盛衰と読者たちの「公共圏」の変容(第 6 章) --- 166

第7項 女性鉄道愛好者のライフヒストリー(第7章) --- 167

(7)

第2節 多面的な鉄道愛好文化 --- 168

第3節 残された課題 --- 171

第4節 本論文の意義 --- 172

参考文献 --- 174

(8)

1 は じ め に

本 論 文 で は 、 日 本 に お け る 「 鉄 道 愛 好 」 と い う 文 化 現 象 が 、 い か に し て 現 在 見 ら れ る よ う な 幅 広 い 担 い 手 を も つ に い た っ た の か を 考 察 し て い く 。

鉄 道 愛 好 文 化 に お け る 関 心 の あ り よ う は 、1964 年 ご ろ を 境 と し て「 文 明 」と し て の 鉄 道 の 追 求 ( 鉄 道 の 技 術 へ の 関 心 ) か ら 「 文 化 」 の 探 求 ( 消 費 の 対 象 と し て の 鉄 道 へ の 関 心 ) へ と 変 化 し て き た 。 こ れ は 日 本 社 会 が モ ー タ リ ゼ ー シ ョ ン や 消 費 社 会 化 と い っ た 変 化 を 経 験 す る な か で 生 じ て き た も の で あ り 、 国 鉄 を 中 心 と し た 鉄 道 産 業 の 再 編 を う な が し つ つ 、 鉄 道 愛 好 の 担 い 手 の 拡 大 に つ な が っ て い っ た 。 本 論 文 で は こ の よ う な 見 立 て を 示 し つ つ 、 鉄 道 愛 好 者 を 対 象 と し た イ ン タ ビ ュ ー 調 査 と 、 鉄 道 雑 誌 の 読 者 欄 の 内 容 に 関 す る 調 査 の 結 果 を 具 体 的 な 事 例 と し て 提 示 す る 。 そ れ に よ っ て 、 鉄 道 愛 好 者 た ち が 変 容 を 続 け る 鉄 道 と 鉄 道 愛 好 文 化 を ど の よ う に 経 験 し て き た の か を 明 ら か に す る 。

本 論 文 は 8 つ の 章 か ら な る 。第 1 章 で は 本 論 文 の 目 的 と 研 究 対 象 で あ る 鉄 道 愛 好 文 化 の 概 要 、 依 拠 す る 方 法 構 成 に つ い て 述 べ る 。 第 2 章 で は 鉄 道 文 化 ・ 鉄 道 愛 好 文 化 に 関 す る 先 行 研 究 を 示 し た う え で 、そ の 限 界 と 本 研 究 の 視 点 を 示 す 。 第 3 章 と 第 4 章 で は 、1964 年 の 新 幹 線 開 業 の こ ろ を 境 と し て 、 鉄 道 と 鉄 道 愛 好 の 歴 史 的 流 れ を 描 く 。 第 5 章 か ら 第 7 章 で は 、 鉄 道 愛 好 者 の 経 験 を 、 イ ン タ ビ ュ ー と 鉄 道 雑 誌 の 読 者 欄 の 内 容 に つ い て の 分 析 か ら 詳 述 す る 。 ま ず 第 5 章 で は 、本 論 文 で「 鉄 道 再 発 見 世 代 」と 呼 ぶ 1960 年 代 後 半 か ら 1970 年 代 半 ば 生 ま れ の 鉄 道 愛 好 者 た ち の イ ン タ ビ ュ ー ・ デ ー タ を 分 析 す る 。 つ づ く 第 6章 で は 雑 誌『 鉄 道 ジ ャ ー ナ ル 』の 1980 年 代 か ら 2000 年 代 に か け て の 読 者 欄 の 内 容 を 分 析 す る 。 第 7 章 で は 2000 年 代 以 降 に 存 在 感 を 示 し て い る 女 性 鉄 道 愛 好 者 に つ い て 、 大 学 鉄 道 サ ー ク ル の 参 加 者 、 お よ び 個 人 的 に 「 ラ イ ト 」 な 鉄 道 愛 好 に 親 し む 人 々 の そ れ ぞ れ に つ い て 、 イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 っ て い る 。 第 8章 で は 本 論 文 の 議 論 を ふ り か え り 、研 究 に よ っ て 得 ら れ た 知 見 と 今 後 の 課 題 を 検 討 す る 。

(9)

2 第1章 鉄 道 愛 好 と い う 文 化

本 章 で は ま ず 、 本 論 文 の 目 的 ・ 対 象 ・ 方 法 に つ い て 述 べ る 。 次 に 鉄 道 愛 好 文 化 の 変 容 過 程 に つ い て 概 観 し 、 つ づ け て 鉄 道 愛 好 の 文 化 的 立 ち 位 置 に つ い て の 見 立 て を 示 す 。 そ し て 最 後 に 本 論 文 の 意 義 を 論 じ る 。

第1節 本 論 文 の 目 的 ・ 対 象 ・ 方 法

本 論 文 の 目 的 は 、日 本 に お け る「 鉄 道 愛 好 」と い う 文 化 現 象 が 、い か に し て 、 現 在 見 ら れ る よ う な 幅 広 い 担 い 手 を も つ に い た っ た の か を 考 察 す る こ と で あ る 。 ま た 、 こ の 問 い を 明 ら か に す る た め に 、 鉄 道 愛 好 文 化 に お け る 関 心 の あ り よ う が 、1964年 ご ろ を 境 と し て「 文 明 」と し て の 鉄 道 の 追 求( 鉄 道 の 技 術 へ の 関 心 ) か ら 「 文 化 」 の 探 求 ( 消 費 の 対 象 と し て の 鉄 道 へ の 関 心 ) へ と 変 化 し て き た 過 程 に 注 目 す る 。

鉄 道 愛 好 と い う 文 化 は 、 よ り 大 き な 鉄 道 文 化 の 一 部 分 を な す も の と し て と ら え る こ と が で き る 。 鉄 道 は 近 代 国 家 や 都 市 の 交 通 基 盤 と し て 、 ま た あ る 時 に は 投 資 行 動 の 対 象 と し て 建 設 ・ 運 営 さ れ て き た 。 鉄 道 の 歴 史 で は そ う し た 側 面 に 加 え て 、 人 々 の 日 常 生 活 場 面 に 浸 透 し た 存 在 と し て の 鉄 道 、 人 々 に な ん ら か の 感 情 を 喚 起 す る も の と し て の 鉄 道 と い う 側 面 も 形 成 さ れ て き た 。 こ の よ う な 歴 史 性 を お び た 鉄 道 の 社 会 の 中 で の 位 置 づ け や 、 人 々 の 鉄 道 に 対 す る 意 識 と い っ た も の の 総 体 を 「 鉄 道 文 化 」 と 呼 ぶ こ と が で き る 。 な お 「 鉄 道 文 化 」 概 念 に つ い て は 2章 で 先 行 研 究 に ふ れ つ つ 詳 し く 検 討 す る 。

鉄 道 愛 好 文 化 は 鉄 道 を 単 に 移 動 手 段 と 認 識 す る の み で は な く 、 鉄 道 に 乗 る こ と 自 体 を 楽 し む 、 写 真 を 撮 る 、 切 符 や 資 料 な ど を 収 集 す る 、 鉄 道 模 型 で 遊 ぶ と い っ た 様 々 な 角 度 か ら 鉄 道 を 楽 し む 文 化 で あ る 。 こ う し た 文 化 に つ い て 現 在 で は「 鉄 道 趣 味(Railway Hobby)」と い う 呼 び 方 が 広 く 使 わ れ て い る が 、本 研 究 で は 「 鉄 道 愛 好 (Railway Favor)」 と い う 呼 び 方 を 総 称 と し て 用 い る 。「 鉄 道 愛 好 」 と い う 語 を 採 用 す る こ と で 、 明 確 な 趣 味 意 識 や そ れ に ふ さ わ し い と み な さ れ る よ う な 行 動 を 継 続 的 に 取 る 人 々 ( 本 論 で は 「 鉄 道 趣 味 者 」 と 呼 ぶ ) だ け で は な く 、 鉄 道 に 対 す る 局 所 的 ・ 一 時 的 な 関 心 を 示 し た り 、 観 光 行 動 と 不 可 分

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3

な 形 で 関 わ っ た り す る よ う な 、 い わ ば 「 ラ イ ト 」 な 鉄 道 へ の 嗜 好 を 示 す 人 々 を も 視 野 に 入 れ る こ と が 可 能 と な る 。

本 論 文 で は イ ン タ ビ ュ ー 調 査 と 文 献 調 査 を 主 な 調 査 方 法 と し て 用 い つ つ 、 鉄 道 愛 好 文 化 の 変 遷 と 鉄 道 愛 好 者 の 経 験 に 接 近 し て い く 。 イ ン タ ビ ュ ー 調 査 は 、 1960年 代 後 半 の「 第 1 次 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 」の 発 生 以 後 に 鉄 道 愛 好 に 参 入 し 、世 代 ・ 性 別 お よ び 鉄 道 系 サ ー ク ル へ の 参 加 経 験 の 有 無 と い っ た 属 性 差 を も つ 鉄 道 愛 好 者 30 名 程 度 を 調 査 協 力 者 と し て 実 施 し 、 鉄 道 を 愛 好 す る よ う に な っ た き っ か け や 愛 好 者 と し て の 行 動 ・ 経 験 、 鉄 道 に 対 す る 志 向 や イ メ ー ジ 、 他 の 鉄 道 愛 好 者 と の 関 係 性 な ど に つ い て 聞 き 取 り を 行 っ た 。 ま た 文 献 調 査 で は 1967 年 の 創 刊 か ら 現 在 ま で 、 ほ ぼ 同 一 形 式 の 読 者 投 稿 欄 を 継 続 的 に 掲 載 し て い る 『 鉄 道 ジ ャ ー ナ ル 』 誌 ( 鉄 道 ジ ャ ー ナ ル 社 、 の ち に 成 美 堂 出 版 ) を 中 心 に 、 戦 後 に 発 刊 さ れ た 鉄 道 愛 好 雑 誌 お よ び 旅 行 雑 誌 の 鉄 道 関 係 記 事 ・ 読 者 投 稿 欄 に つ い て 内 容 を 分 析 す る 。

こ れ ら の 調 査 に よ っ て 、1960 年 代 後 半 か ら 現 在 に い た る 鉄 道 愛 好 の 変 容 の 実 態 を 描 き 出 し 、そ の 背 景 に 、鉄 道 に 対 す る 社 会 的 イ メ ー ジ の 変 容 、す な わ ち「 文 明 」( の 利 器 ) と し て の 鉄 道 か ら 「 文 化 」( 消 費 の 対 象 ) へ の 重 心 の 移 行 が あ る こ と を 示 す 。

第2節 鉄 道 愛 好 文 化 の 変 容 過 程 に つ い て の 概 観

鉄 道 は 日 本 社 会 の 近 代 化 の シ ン ボ ル と し て 、 資 本 主 義 の 拡 大 と 結 び つ き な が ら 発 展 し た 。 そ れ ゆ え に 実 用 的 ・ 経 済 的 な 鉄 道 観 こ そ が 、 高 度 経 済 成 長 期 前 半

(1964年 ご ろ ま で )の 社 会 に お け る 中 心 的 鉄 道 観 で あ っ た と い え る 。ま た 高 度 経 済 成 長 期 後 半(1964 年 ご ろ か ら )は 、従 前 の も の に 加 え て 文 化 的・消 費 的 な 鉄 道 観 が 広 ま る よ う に な り 、 現 在 で は 両 者 が 並 立 ・ 重 層 し て い る 。

鉄 道 愛 好 に 関 し て は 、 日 本 で は 鉄 道 創 業 期 に あ た る 明 治 時 代 か ら 、 ご く 少 数 の 富 裕 層 の 間 で 、 鉄 道 写 真 撮 影 な ど の 鉄 道 愛 好 活 動 が 行 わ れ る よ う に な っ た 。 さ ら に 1920 年 代 か ら 30 年 代 に か け て 中 産 階 級 の 男 性 の あ い だ で 拡 大 を 見 せ 、 鉄 道 模 型 の 販 売 や 、 鉄 道 雑 誌 の 発 刊 、 鉄 道 同 好 会 の 設 立 と い っ た 動 き が 見 ら れ た ( 青 木 2001:131-3)。

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4

第 2 次 世 界 大 戦 後 、 特 に 1960 年 代 以 降 、 鉄 道 愛 好 は さ ら に す そ 野 を 広 げ る と と も に 「 消 費 文 化 」 と し て の 色 彩 を 強 め て い く 。 こ の 時 期 以 降 に は 「 S L ブ ー ム 」(1960年 代 後 半 か ら 1970 年 代 前 半 )、「 ブ ル ー ト レ イ ン ・ ブ ー ム 」(1970 年 代 後 半 か ら 1980 年 代 前 半 ) と 、 鉄 道 愛 好 ブ ー ム が 連 続 し た 。 本 論 文 で は こ れ ら 一 連 の 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 現 象 を 総 称 し て 「 第 1 次 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 」 と 呼 ん で い く 。

ま た 1970 年 の 大 阪 万 博 を 契 機 と し た 国 内 観 光 旅 行 ブ ー ム も 背 景 と し て 、 1970年 代 後 半 に は 、鉄 道 旅 行 の 紀 行 文 を 数 多 く 執 筆 し た 宮 脇 俊 三 や 鉄 道 旅 行 ガ イ ド を 執 筆 し た 種 村 直 樹 ら の 著 作 が 、 女 性 読 者 を 含 め た 支 持 を 集 め る よ う に な り 、風 光 明 媚 な ロ ー カ ル 線 を は じ め と し て 、「 鉄 道 に 乗 る こ と 」そ の も の を 目 的 と す る 鉄 道 旅 行 愛 好 も 広 ま っ て い っ た 。 こ の 鉄 道 旅 行 愛 好 に つ い て は 、1982 年 の 国 鉄 ( 現 J R )「 青 春 18 の び の び 切 符 」( 翌 年 以 降 「 青 春 18 き っ ぷ 」) 発 売 を は じ め 、 鉄 道 各 社 が 様 々 に 展 開 し て い る 旅 客 誘 因 策 や マ ス メ デ ィ ア で の 鉄 道 コ ン テ ン ツ の 充 実 な ど に よ り 、 現 在 に い た る ま で ほ ぼ 一 貫 し て 活 性 化 の 様 相 を み せ て い る 。

こ れ ら の 鉄 道 愛 好 現 象 が 関 心 を 向 け た 蒸 気 機 関 車 、 ブ ル ー ト レ イ ン 、 ロ ー カ ル 線 な ど は 、 い ず れ も 新 し い 技 術 の 登 場 で 「 無 用 」 と さ れ て し ま っ た モ ノ や 、 相 対 的 に 見 て 有 用 性 が 低 下 し つ つ あ る モ ノ で あ っ た 。無 用 性 を 帯 び た モ ノ は「 文 明 の 利 器 」 と し て で は な く 、 そ れ 自 体 が 価 値 を 持 っ た 「 文 化 」 と し て 愛 好 の ま な ざ し を 向 け ら れ た の だ (「 文 化 」 の 概 念 に つ い て は 2章 で 詳 述 す る )。 こ の 新 し い 鉄 道 愛 好 の 潮 流 に お い て は 、 従 来 か ら の 「 鉄 道 愛 好 」 の 担 い 手 と 比 べ て い わ ば 「 ラ イ ト 」 な 鉄 道 愛 好 者 た ち が 数 多 く 参 入 し た 。 彼 ら は 従 来 か ら の 鉄 道 愛 好 者 た ち に 動 揺 を 与 え つ つ も 存 在 感 を 増 し 、 鉄 道 愛 好 市 場 を 拡 大 さ せ た 。 ま た 鉄 道 愛 好 の 盛 り 上 が り を 受 け 、 鉄 道 事 業 者 が 蒸 気 機 関 車 を 復 活 運 転 す る な ど 、 鉄 道 を 観 光 資 源 と み な し は じ め る と い う 変 化 を も た ら し た 1

1980 年 代 か ら 1990 年 代 は 鉄 道 に 大 き な 変 動 が 生 じ た 過 渡 期 で あ る 。1980 年 ご ろ か ら 焦 点 と な っ た の は 経 営 が 悪 化 し た 国 鉄 の 再 建 を 目 的 と し た 合 理 化 の 進 展 と 、分 割 民 営 化 の 実 施(1987 年 )で あ っ た 。鉄 道 愛 好 者 の 愛 好 対 象 で あ る

1 1970年 代 の 蒸 気 機 関 車 復 活 運 転 に つ い て は 、大 井 川 鉄 道(1976年 ~ )と 国 鉄 山 口 線(1979 年 ~ ) が 代 表 的 で あ る 。

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赤 字 ロ ー カ ル 線 の 廃 止 ・ 転 換 や 長 距 離 列 車 の 統 廃 合 、 食 堂 車 営 業 の 縮 小 、 駅 の 無 人 化 と い っ た 合 理 化 が 行 わ れ 、 最 終 的 に は 国 鉄 と い う 組 織 自 体 が 消 滅 し て J R 各 社 が 登 場 し 、徐 々 に 国 鉄 時 代 の 鉄 道 風 景 が 上 書 き さ れ て い っ た 。そ の 反 面 、 1980年 代 か ら 国 鉄・J R を は じ め と す る 鉄 道 事 業 者 は 消 費 社 会 化 へ の 対 応 を 図 っ て 列 車 そ の も の を 消 費 対 象 と し て 積 極 的 に 提 示 す る 傾 向 を 強 め 、1990 年 代 に か け て 列 車 の 商 品 化 ・ 差 異 化 が デ ザ イ ン 面 を 中 心 に 進 行 し た 。 ま た 地 方 の ロ ー カ ル 鉄 道 で は 鉄 道 そ の も の を 観 光 の 対 象 と し て 提 示 す る 事 例 が 増 加 し て い っ た 。

鉄 道 の 変 化 は 、 従 前 か ら の 愛 好 者 に と っ て は 常 に 愛 好 の 対 象 の 消 滅 と い う 経 験 を も た ら す 。 ま た 消 費 社 会 的 な 文 脈 で 形 成 さ れ る 「 商 品 」 や 「 観 光 対 象 」 と い っ た よ う な 鉄 道 の あ り よ う は 、 鉄 道 が 基 幹 的 な 生 活 イ ン フ ラ と い う 意 味 で

「 人 々 の 役 に 立 つ 」 存 在 で あ る べ き だ と す る 愛 好 者 に と っ て は 、 違 和 感 を 抱 か せ る も の で も あ っ た 。 一 方 で 消 費 社 会 的 な 鉄 道 の あ り よ う が 「 消 費 」 と 親 和 性 の 高 い ラ イ ト 層 の 鉄 道 愛 好 者 た ち を 中 心 に 鉄 道 の 新 た な 魅 力 と し て と ら え ら れ た 面 も あ る 。

1990年 代 後 半 以 降 は イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 に と も な い 、鉄 道 愛 好 者 や 鉄 道 事 業 者・鉄 道 愛 好 関 連 企 業 な ど に よ る 情 報 発 信 が さ ら に 拡 大 し た 。2000年 代 以 降 に は 女 性 鉄 道 愛 好 者 に 対 す る 認 知 が 拡 大 し 、 彼 女 ら を 大 き く 取 り 上 げ る か た ち で 、2010 年 前 後 に は マ ス コ ミ で 「 鉄 道 ブ ー ム 」 の 到 来 が 報 じ ら れ た 。 こ れ は 1960年 代 後 半 か ら 1980年 代 前 半 ま で の「 第 1次 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 」に 対 す る「 第 2次 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 」 と 呼 ぶ こ と が で き る 。

ま た 2000 年 代 以 降 に 各 地 で 新 規 ・ 移 転 開 設 さ れ た 「 鉄 道 博 物 館 」 施 設 2が 多 様 な 客 層 を 集 め る こ と で 、「 第 2 次 鉄 道 愛 好 ブ ー ム 」 で 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 さ ら に 博 物 館 に 近 い 存 在 と し て 、 実 用 的 な 意 味 を 失 い 、 観 光 の 対 象 や 産 業 遺 産 と い う 文 化 的 意 味 に 特 化 し た 存 在 で あ る 「 保 存 鉄 道 」 3も 小 規 模 な が ら 地 方 で 増 加 し て い る 。 こ の よ う に 鉄 道 の 「 文 化 」 の 側 面 を 探 求 し 消 費 し て い

2 近 年 オ ー プ ン し た JR東 日 本 の 鉄 道 博 物 館( さ い た ま 市 、2007年 ~ )、JR東 海 の リ ニ ア ・ 鉄 道 館 ( 名 古 屋 市 、2011年 ~ )、JR西 日 本 の 京 都 鉄 道 博 物 館 と い っ た 施 設 は 、 い ず れ も 元 に な っ た 鉄 道 展 示 施 設 に 対 し て 、 よ り エ ン タ ー テ イ メ ン ト 要 素 を 強 化 し 、 幅 広 い 客 層 を 満 足 さ せ る よ う に 作 ら れ て い る 。

3 こ こ で は 主 に 、営 業 廃 止 と な っ た 鉄 道 を 、「 保 存 」の 意 図 を も っ て 動 く 状 態 で 維 持 し て い る も の を 想 定 し て い る 。具 体 的 に は 、ふ る さ と 銀 河 線 り く べ つ 鉄 道( 北 海 道 、2008年 ~ )、

小 坂 鉄 道 レ ー ル パ ー ク ( 秋 田 県 、2013年 ~ )、 片 上 鉄 道 保 存 会 ( 岡 山 県 、1992年 ~ ) な ど が 、 い ず れ も 短 距 離 な が ら 車 両 の 体 験 運 転 を 中 心 と し た 活 動 を 行 っ て い る 。

(13)

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く こ と は 、 現 在 の 鉄 道 愛 好 文 化 に と っ て 中 心 的 な 営 み に な っ て い る の だ と い え る 。

第3節 鉄 道 愛 好 の 文 化 的 立 ち 位 置 に つ い て の 本 論 文 の 見 立 て

鉄 道 は 近 代 国 家 建 設 、 経 済 振 興 、 産 業 創 出 、 都 市 開 発 と い っ た さ ま ざ ま な 目 的 や 環 境 の 要 求 を 受 け て 建 設 ・ 運 営 さ れ て き た 。 ま た 鉄 道 の 歴 史 は そ う し た 側 面 に 加 え て 、 人 々 の 生 活 に 不 可 欠 な 存 在 と し て の 鉄 道 、 人 々 に な ん ら か の 感 情 を 喚 起 す る も の と し て の 鉄 道 と い う 側 面 を も 形 作 っ て き た 。 本 論 文 で は 、 そ う し た 歴 史 性 を お び た 鉄 道 の 社 会 の 中 で の 位 置 づ け や 、 人 々 の 鉄 道 に 対 す る 意 識 と い っ た も の の 総 体 を 「 鉄 道 文 化 」 と 呼 ぶ こ と と す る 。

鉄 道 文 化 は 、 都 市 の 鉄 道 / 地 方 の 鉄 道 、 広 域 移 動 に 用 い ら れ る 幹 線 / 地 域 移 動 に 用 い ら れ る ロ ー カ ル 線 、 と い っ た 属 性 差 に よ っ て 、 そ れ ぞ れ に 異 な っ た 姿 を 示 し て い る 。 ま た 鉄 道 文 化 は 時 代 に 応 じ て 変 化 す る も の で あ る 。 そ の よ う な 鉄 道 文 化 の 中 に 含 ま れ る 鉄 道 愛 好 文 化 は 、 鉄 道 文 化 の 差 異 お よ び 変 遷 と 強 い 関 連 を も ち な が ら そ の 姿 を 変 化 さ せ て き た 。

鉄 道 を も っ ぱ ら 、 近 代 国 家 建 設 の た め の イ ン フ ラ や 、 経 済 発 展 に 対 し て 直 接 的 に 効 用 を も つ 存 在 と み な し て い た 時 代 、 い わ ば 「 実 用 的 鉄 道 観 」 が 中 心 で あ っ た 時 代 に は 、 そ う し た 鉄 道 観 と 親 和 的 な 技 術 志 向 の 鉄 道 愛 好 文 化 が 支 配 的 で あ っ た 。 す な わ ち 、 第 2 次 世 界 大 戦 以 前 の 大 日 本 帝 国 の 時 代 に お い て は 臣 民 お よ び そ の 予 備 軍 ( 少 年 や 少 女 ) た ち 4に よ っ て 、 ま た 戦 後 に お い て は 民 主 主 義 国 家 日 本 の 国 民 た ち に よ っ て 、 国 家 ・ 社 会 の 近 代 化 ・ 産 業 化 に 主 要 な 価 値 を 置 く 文 化 と い う 意 味 で の 「 メ イ ン カ ル チ ャ ー 」 が 共 有 さ れ て い た 。 そ し て こ の よ う な 時 代 に は 、近 代 国 家 建 設 に 資 す る 技 術 文 明 と し て の 鉄 道 に 思 い を 寄 せ た り 、 将 来 的 に そ の 発 展 に 貢 献 し た り す る こ と を 志 向 す る よ う な 鉄 道 愛 好 の あ り よ う が 主 流 で あ っ た 。そ の 意 味 で 当 時 の 鉄 道 愛 好 は 、「 文 明 」を 追 求 す る メ イ ン カ ル

4 宮 台 真 司 ら は 明 治 末 か ら 大 正 期 に か け て 成 立 し た 少 年 小 説 や 少 女 小 説 の 分 析 か ら 、「 少 年 は 日 本 男 児 の 予 備 軍 と し て『 明 る く 正 し く 強 く 』、少 女 は 良 妻 賢 母 の 予 備 軍 と し て『 清 く 正 し く 美 し く 』、と い う〈 理 想 〉を 目 指 す べ き 規 範 的 身 体 だ と 考 え ら れ て い た 」( 宮 台, , 大 塚 2007:27) と 指 摘 し て い る 。

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チ ャ ー の 文 脈 に 即 し て 理 解 す る こ と が で き る 5

一 方 で 、1950 年 代 か ら 1960 年 代 前 半 ご ろ ま で の 時 期 に は 、鉄 道 愛 好 者 の 全 国 組 織 の 成 立 、 鉄 道 雑 誌 ・ 鉄 道 模 型 雑 誌 の 商 業 的 確 立 、 大 学 鉄 道 サ ー ク ル の 増 加 な ど に よ っ て 、 鉄 道 を 遊 び や 文 化 の 対 象 と し て ま な ざ す 、 い わ ば 「 文 化 的 鉄 道 観 」 を も っ た 鉄 道 愛 好 者 の 存 在 が 顕 在 化 し て く る 。 こ れ は 鉄 道 愛 好 が 「 少 年 文 化 」 か ら 「 若 者 文 化 」 へ と 拡 大 し 、 日 本 的 な 意 味 で の 、 消 費 文 化 と し て の 色 彩 が 強 い ( 狭 義 の )「 サ ブ カ ル チ ャ ー 」 に 近 づ い た こ と を 意 味 す る 。

1960年 代 後 半 に は 懐 古 趣 味 的 な S L ブ ー ム の 到 来 で 、文 化 的 鉄 道 観 が 鉄 道 愛 好 者 の 主 流 派 と な っ た 。こ の 時 代 は 日 本 社 会 全 体 の 中 で 、「 よ り 速 く 、よ り 大 量 に 」 と い う 価 値 観 に 代 表 さ れ る 近 代 化 ・ 産 業 化 志 向 か ら 離 脱 し よ う と す る 、 オ ル タ ー ナ テ ィ ブ な 価 値 観 が 拡 大 し つ つ あ る 時 期 で あ り 、 ま た マ ン ガ な ど の い わ ゆ る 「 サ ブ カ ル チ ャ ー 」 の 発 展 期 で も あ る 。 戦 前 か ら の 歴 史 を も ち 、 も と も と メ イ ン カ ル チ ャ ー と 親 和 的 だ っ た 鉄 道 愛 好 が ( 狭 義 の ) サ ブ カ ル チ ャ ー と し て 語 ら れ る こ と は 少 な い 。 し か し 、 こ の 時 期 の 鉄 道 愛 好 に お い て は 、 日 本 社 会 の 近 代 化 ・ 産 業 化 の 途 上 に お い て 重 視 さ れ て い た 技 術 へ の 志 向 が 以 前 よ り 目 立 た な い も の と な っ て い っ た 。 そ れ に 対 し て 、 鉄 道 を 消 費 の 対 象 と し て と ら え る 傾 向 は 社 会 的 に 強 ま っ た 。 こ の こ と か ら 、 鉄 道 愛 好 文 化 の 重 心 は メ イ ン カ ル チ ャ ー の 側 か ら サ ブ カ ル チ ャ ー の 側 へ と 移 行 し て い っ た と い え る 。

1987年 の 国 鉄 分 割 民 営 化 前 後 か ら は 、鉄 道 企 業 側 が 鉄 道 に 遊 戯 性 を 取 り 入 れ る こ と を 模 索 し 始 め た 。 こ の こ と は 、 イ ン フ ラ 事 業 と し て 現 代 日 本 の メ イ ン カ ル チ ャ ー の 担 い 手 に 位 置 す る 鉄 道 事 業 者 が 、 消 費 社 会 を 背 景 と し て 文 化 的 鉄 道 観 の 一 部 を 取 り 込 む よ う に な っ た と い え る 。 こ の 流 れ は 1990 年 代 以 降 も 徐 々 に 拡 大 し て い き 、 現 在 の 観 光 列 車 の 隆 盛 へ と 結 び つ い て い く 。

さ ら に 2004 年 ご ろ か ら は 、 鉄 道 愛 好 に か か わ る 文 化 事 象 や 鉄 道 愛 好 者 が マ ス コ ミ で 取 り 上 げ ら れ る 機 会 が 増 え 、 こ れ ま で ほ と ん ど 不 可 視 で あ っ た 女 性 の 担 い 手 も 存 在 感 を 強 め た 6

5 後 に 詳 し く 見 て い く が 、辻 泉(2008)は 、こ の よ う な 鉄 道 愛 好 文 化 の あ り よ う に つ い て 、 当 時 の 「 少 年 文 化 」 と の か か わ り か ら 詳 細 に 描 き 出 し て い る 。

6 マ ス コ ミ で は 、2004 5月 か ら 6月 に か け て 、宮 脇 俊 三 の『 最 長 片 道 切 符 の 旅 』に 範 を と っ た 旅 番 組 で あ る「 列 島 縦 断 鉄 道 12000キ ロ の 旅 ~ 最 長 片 道 切 符 で ゆ く 42 日 ~ 」( 旅 人 : 関 口 知 宏 、本 放 送 :NHK BShi、 再 放 送 お よ び ダ イ ジ ェ ス ト 版 :BS2、ダ イ ジ ェ ス ト 版 の み :NHK総 合 )が 、放 送 期 間 中 の 毎 朝 、旅 程 に 含 ま れ る 各 地 の 駅 か ら の 生 中 継 で 放

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こ う し た 変 化 を 経 て 、 現 在 で は か つ て 鉄 道 愛 好 者 を 特 徴 づ け て い た 文 化 的 鉄 道 観 が 、 社 会 的 に 広 く 共 有 さ れ て い る と 考 え る こ と が で き る 。

メ イ ン カ ル チ ャ ー ( イ ン フ ラ ) の 担 い 手 で あ る 鉄 道 事 業 者 が 文 化 的 鉄 道 観 を 取 り 入 れ 、 マ ス メ デ ィ ア の メ ジ ャ ー コ ン テ ン ツ の 一 環 と し て 鉄 道 が 取 り 上 げ ら れ る 。 こ う し た 時 代 に お け る 鉄 道 愛 好 は 、 か つ て メ イ ン カ ル チ ャ ー の 側 か ら サ ブ カ ル チ ャ ー の 側 へ と 分 離 し た の と は 反 対 に 、 サ ブ カ ル チ ャ ー 側 か ら 再 び メ イ ン カ ル チ ャ ー 側 へ と 戻 り つ つ あ る の だ ろ う か 。 実 際 は む し ろ 、 メ イ ン カ ル チ ャ ー ( ハ イ カ ル チ ャ ー ) と サ ブ カ ル チ ャ ー ( ポ ッ プ カ ル チ ャ ー ) と の 境 界 が 曖 昧 化 し た 「 フ ラ ッ ト ・ カ ル チ ャ ー 」 7的 な 状 況 の 中 に 、 今 日 の 鉄 道 愛 好 が 位 置 づ け ら れ る の だ と い え よ う 。

第4節 本 論 文 の 意 義

本 節 で は 本 論 文 の 意 義 を 論 じ る 。 ま ず 文 化 研 究 と し て の 意 義 に つ い て 述 べ て み た い 。

前 節 ま で を ま と め る と 、 お お よ そ 1950 年 代 ま で の 鉄 道 は 、 近 代 化 を 担 う 交 通 手 段 と し て 、 ま た 近 代 社 会 そ の も の を 象 徴 す る メ デ ィ ア と し て の 意 味 付 け が 優 越 し て い た 。 こ の 時 代 の 鉄 道 は 後 に ふ れ る 少 年 文 化 に お け る 鉄 道 愛 好 を 含 め て 、 実 用 的 価 値 に 重 き を 置 く メ イ ン カ ル チ ャ ー の 一 部 と し て 位 置 づ け 可 能 な も の で あ っ た 。 し か し 1960 年 代 後 半 以 降 の 「 第 1 次 鉄 道 ブ ー ム 」 に お い て 鉄 道

送 さ れ た 。 本 編 以 外 に 特 番 が BS お よ び 地 上 波 で 放 送 さ れ た ほ か 、 国 内 ・ 海 外 の 鉄 道 を 舞 台 に 続 編 も 制 作 さ れ る 人 気 を 博 し た 。同 年 11 月 に は 、菊 池 直 恵 の ル ポ マ ン ガ『 鉄 子 の 旅 』(『 週 刊 ビ ッ グ コ ミ ッ ク ス ピ リ ッ ツ 増 刊 IKKI』『 月 刊 IKKI』 で 2002年 ~2006年 連 載 ) の 単 行 本 (IKKI COMIX) が 刊 行 さ れ (11月 )、 女 性 鉄 道 愛 好 者 を 指 す 「 鉄 子 」 の 呼 称 が 広 ま る き っ か け と な っ た ( 同 語 彙 は 2007年 の 「 ユ ー キ ャ ン 新 語 ・ 流 行 語 大 賞 」 に ノ ミ ネ ー ト さ れ た )。 ま た 同 年 に は 芸 術 総 合 誌 『 ユ リ イ カ 』6月 号 が 「 鉄 道 と 日 本 人 」 を 特 集 し て い る 。

7 「 フ ラ ッ ト ・ カ ル チ ャ ー 」 に つ い て 遠 藤 知 己 は 「 さ ま ざ ま な 文 化 形 象 が 分 厚 く 蝟 集 し 、 と く に 強 い 価 値 的 な ヒ エ ラ ル キ ー を 伴 う こ と も な く 併 存 す る こ と が 構 成 す る 実 在 感リアリティ。 諸 領 域 を 平 板 に サ ー フ ィ ン で き て し ま う こ と が 発 生 さ せ る 、 横 並 び を あ て に し た あ る 種 の 感 覚 の 成 立 。 そ し て 、 か か る 併 存 の 事 実 性 が 社 会 の 領 野 に も た ら す 、 複 数 的 な 効 果 の 広 が り … … 。自 分 の 生 以 前 か ら 連 綿 と 続 い て い る 歴 史 が あ る と い う 感 覚 を も ち に く い の も 、 そ の 一 つ の 構 成 要 素 で あ り 帰 結 で も あ る 」と い っ た 特 徴 を も つ 文 化 様 式 、あ る い は 、「 多 様 性 の 社 会 的 承 認 の 特 定 の 形 式 が 、 逆 説 的 に も 、 あ る 種 の 平 板 な 風 景 を か た ち づ く る 。 そ う し た 書 き 割 り め い た 風 景 、 そ し て ま た 、 そ ん な 風 景 の も と に あ る 文 化 様 式 」 と 記 述 し て い る ( 遠 藤 2010:10-1。)

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愛 好 的 な 関 心 が 広 ま り 、 幅 広 い 鉄 道 愛 好 者 層 が 形 成 さ れ る と と も に 、 サ ブ カ ル チ ャ ー と し て の 鉄 道 と い う 様 相 も ま た 強 ま っ て い っ た 。 ま た こ の 時 期 以 降 、 交 通 手 段 の 多 様 化 の 中 で 鉄 道 の 実 用 性 が 相 対 的 に 低 下 し た こ と も 、 鉄 道 文 化 の サ ブ カ ル チ ャ ー 的 な 色 彩 を 強 め る 要 因 と な っ た と い え る 。

一 方 、1980 年 代 の 国 鉄 路 線 の 縮 小 ・ 地 域 化 や 、2000 年 以 降 の 規 制 緩 和 に よ る ロ ー カ ル 線 の 縮 小 8が 目 に 見 え て 進 ん だ こ と 、 環 境 意 識 や 地 域 再 生 へ の 要 請 の 高 ま り と い っ た 背 景 の も と 、 鉄 道 の 価 値 が 社 会 的 に 再 評 価 さ れ る 傾 向 が 強 ま っ た 9。 ま る で ゆ り 戻 し 現 象 の よ う に 、 サ ブ カ ル チ ャ ー 化 の 傾 向 を 強 め つ つ あ っ た 鉄 道 文 化 が 、 再 び メ イ ン カ ル チ ャ ー ( イ ン フ ラ ) と し て の 価 値 を 強 調 さ れ る 傾 向 が 出 て き た の だ 。 と は い え 、 鉄 道 の サ ブ カ ル チ ャ ー 化 を 経 て 鉄 道 そ れ 自 体 の 文 化 的 価 値 が 重 視 さ れ る よ う に な っ た こ と も 、 鉄 道 が 再 評 価 さ れ る 要 因 と し て 見 逃 せ な い 事 実 で あ る 。

以 上 を ふ ま え て い え ば 、 鉄 道 は 現 代 の 文 化 状 況 を と ら え る 視 点 と し て の 「 フ ラ ッ ト ・ カ ル チ ャ ー 」 を 背 景 と し な が ら 、 ソ フ ト 面 ( 文 化 ) と ハ ー ド 面 ( イ ン フ ラ ) の 両 面 か ら 価 値 づ け ら れ て い る と い え る だ ろ う 。 鉄 道 愛 好 文 化 が メ イ ン カ ル チ ャ ー と サ ブ カ ル チ ャ ー と い う 2つ の 領 域 に ま た が っ て 展 開 し て い る こ と は 、 本 論 文 を 文 化 研 究 と し て 展 開 す る う え で 、 よ り 広 い 視 野 を も た せ る こ と に つ な が る で あ ろ う 。

鉄 道 愛 好 文 化 の 内 部 に 目 を む け る と 、 鉄 道 は サ ブ カ ル チ ャ ー 的 な 消 費 の 対 象 と さ れ つ つ も 、 社 会 的 イ ン フ ラ と し て の 性 質 が 影 響 を 及 ぼ し 続 け て い る と 考 え ら れ る 。 鉄 道 が イ ン フ ラ と し て 、 ま た 「 公 共 」 交 通 機 関 と い う 点 か ら も 社 会 的 な 存 在 で あ る 以 上 、 愛 好 者 た ち も あ る 程 度 は 鉄 道 の 社 会 的 な 性 質 や 社 会 的 意 味 に つ い て 意 識 せ ざ る を え な い だ ろ う 。詳 し く は 後 に み て い く が 、鉄 道 愛 好 は「 フ ラ ッ ト ・ カ ル チ ャ ー 」 と い う 現 代 社 会 特 有 の 文 化 様 式 に 包 含 さ れ つ つ も 、 ハ ー ド 面 へ の 関 心 を 保 持 し つ づ け て き た 。

本 論 文 は 鉄 道 愛 好 者 の 経 験 に 着 目 す る こ と で 、「 フ ラ ッ ト・カ ル チ ャ ー 」的 な

8 規 制 緩 和 を 目 的 と し た 1999 年 の 鉄 道 事 業 法 改 正 (2000年 施 行 ) に よ っ て 、 鉄 道 事 業 者 が 不 採 算 路 線 か ら 地 元 と の 協 議 を 経 ず に 撤 退 す る こ と が 可 能 と な り 、 地 方 私 鉄 の み な ら ず 、 大 手 私 鉄 や J R の ロ ー カ ル 線 に お い て も 廃 止 が 増 加 し た ( 堀 内 2010:2)。

9 法 律 面 で は 2007年 に「 地 域 公 共 交 通 の 活 性 化 及 び 再 生 に 関 す る 法 律 」( 地 域 公 共 交 通 活 性 化 法 ) が 制 定 ・ 施 行 さ れ た 。

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文 化 状 況 に お け る 愛 好 者 ( フ ァ ン ) 研 究 の ひ と つ と し て 位 置 づ け る こ と が で き る 。 ま た 、 そ う し た 文 化 状 況 に お い て も 、 鉄 道 の ハ ー ド な 特 性 と 結 び つ き 続 け る 愛 好 者 の あ り よ う を 、 質 的 手 法 に よ っ て 丹 念 に 描 き 出 す こ と に 意 義 を も つ だ ろ う 。

な お 、 愛 好 者 に 関 す る 研 究 ( フ ァ ン 研 究 ) の 代 表 的 な も の と し て 、 フ ァ ン カ ル チ ャ ー を 研 究 す る 社 会 学 者 ら に よ る に よ る『 そ れ ぞ れ の フ ァ ン 研 究 』( 東, 岡 井, 小 林, 玉 川, 辻, 名 藤 2007) が 、 ま た 趣 味 縁 と 公 共 性 に 焦 点 を 当 て た 研 究 と し て 浅 野 智 彦 『 趣 味 縁 か ら は じ ま る 社 会 参 加 』(2011) が あ げ ら れ る 。

『 そ れ ぞ れ の フ ァ ン 研 究 』 は 、 自 ら も ま た 何 ら か の 愛 好 者 で あ る 複 数 の 論 者 が 、 さ ま ざ ま な タ イ プ の 「 フ ァ ン 」 に 対 し て 当 事 者 、 ま た は そ れ に 近 い 視 点 か ら 個 別 に ア プ ロ ー チ す る こ と で 、 多 様 な フ ァ ン の あ り よ う を 内 側 か ら 描 き 出 そ う と し た も の だ 。 こ う し た ア プ ロ ー チ は 当 時 と し て は ( 現 在 で も ) 斬 新 な も の で あ り 、 フ ァ ン 研 究 に お い て 重 要 な 意 義 を も つ も の だ と 考 え ら れ る 。 一 方 、 こ れ ら の 論 考 に 登 場 す る 愛 好 者 は い わ ば「 熱 い 」「 深 い 」愛 好 者 と し て の「 フ ァ ン 」 で あ り 、「 フ ラ ッ ト・カ ル チ ャ ー 」的 な 文 化 状 況 に つ い て は 必 ず し も 十 分 に 反 映 さ れ て は い な い 。

『 趣 味 縁 か ら は じ ま る 社 会 参 加 』 は 社 会 関 係 資 本 と し て の 趣 味 縁 に 着 目 し 、 愛 好 を と お し た 社 会 参 加 に よ っ て 構 築 さ れ る 公 共 性 の あ り よ う が 模 索 さ れ て い る 。 こ の な か で 浅 野 は 、 趣 味 を 媒 介 と し た 人 間 関 係 で あ る 趣 味 縁 が 、 人 々 の 公 共 性 や 政 治 参 加 を 高 め る 資 源 と い う 意 味 で の 社 会 関 係 資 本 に 対 し て も つ 効 果 に つ い て 検 討 し た 。 そ し て 趣 味 縁 と 社 会 関 係 資 本 に 関 す る 全 体 的 な 分 析 で は 、 断 定 的 な 結 論 は さ け つ つ も 、 若 者 た ち の 趣 味 縁 が 公 共 性 と 社 会 参 加 に 対 し て 可 能 性 を も つ こ と を 示 し た 。

た だ し 浅 野 は 鉄 道 愛 好 の 趣 味 縁 に 関 し て は 言 及 し て い な い 。 こ れ は 浅 野 が 依 拠 す る 、 青 年 文 化 研 究 会 が 2007 年 に 実 施 し た 、 東 京 都 杉 並 区 の 16 歳 か ら 29 歳 の 男 女 を 対 象 と し た 調 査 デ ー タ ( 有 効 サ ン プ ル 数 :719) に お い て は 、 自 ら の 趣 味 と し て「 鉄 道 関 係 」を あ げ た 割 合 は 1.8 パ ー セ ン ト 、「 最 も 力 を 入 れ て い る 趣 味 」 と し て 「 鉄 道 関 係 」 を あ げ た 割 合 は 0.2 パ ー セ ン ト に す ぎ な か っ た こ と か ら ( 浅 野 2011:101-2)、 サ ン プ ル 数 の 少 な さ ゆ え に 、 計 量 分 析 の 対 象 に で き な か っ た か ら と 思 わ れ る 。

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と は い え 、 鉄 道 と い う 社 会 的 存 在 に 対 す る 愛 好 が 、 社 会 に 対 す る 想 像 力 や 、 愛 好 者 た ち に よ る 公 共 圏 の 形 成 を 結 果 と し て 生 み 出 し て き た こ と を 提 示 す る 本 論 文 は 、 浅 野 の 論 考 と そ の 目 指 す と こ ろ は 異 な る も の の 、 一 部 分 に お い て は 関 心 を 共 有 し て い る と い え よ う 。

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第 2 章 先 行 研 究 と 本 論 文 の 視 点

本 章 で は 鉄 道 愛 好 文 化 研 究 に か か わ る 先 行 研 究 を 概 観 す る 。 ま ず ヨ ー ロ ッ パ に お け る 代 表 的 な 鉄 道 文 化 研 究 に ふ れ た 上 で 、 ヨ ー ロ ッ パ と は 異 な っ た 日 本 の 鉄 道 文 化 に 対 す る 研 究 の 方 向 と し て 、 ① 史 学 的 ア プ ロ ー チ 、 ② 文 化 研 究 的 ア プ ロ ー チ を 紹 介 す る 。 そ し て 鉄 道 愛 好 者 に 焦 点 を 当 て た 研 究 成 果 を 検 討 し 、 今 後 の 鉄 道 愛 好 文 化 の 研 究 に 向 け た 課 題 を 示 す 。

第1節 鉄 道 文 化 を ま な ざ す

現 代 の 私 た ち が イ メ ー ジ す る と こ ろ の 、 本 格 的 な 陸 上 交 通 機 関 と し て の 鉄 道 が 成 立 す る の は 1830 年 に イ ギ リ ス で 開 通 し た リ バ プ ー ル ・ マ ン チ ェ ス タ ー 鉄 道 か ら だ と さ れ る ( 湯 沢 2012:7-9)。 そ の 後 ほ ど な く し て 西 欧 社 会 に 広 が っ た 鉄 道 は 、 当 時 の 西 欧 の 人 々 の 時 間 ・ 空 間 意 識 に 多 大 な 影 響 を 与 え る こ と と な っ た 。 ド イ ツ の 歴 史 学 者 ヴ ォ ル フ ガ ン グ ・ シ ヴ ェ ル ブ シ ュ は 、 鉄 道 の 普 及 に よ る 時 間 ・ 空 間 意 識 の 変 化 が 当 時 の 西 欧 の 人 々 に と っ て 「 時 間 と 空 間 の 抹 殺 」 と し て 映 っ た の だ と い う (Schivelbush 1979=1982:49)。

抹 殺 さ れ た も の と し て 体 験 さ れ る の は 、 伝 統 的 な 空 間 お よ び 時 間 の 連 続 性 で あ る 。 こ の 連 続 性 は 、 自 然 と 有 機 的 に 結 び つ い て い た 昔 の 交 通 技 術 の 特 徴 で あ る 。 昔 の 交 通 技 術 は 、 旅 を し て 通 過 す る 空 間 と 模 倣 的 関 係 に あ っ た の で 、 旅 行 者 に は 、 こ の 空 間 を 生 き 生 き と し た 統 一 体 と し て 知 覚 さ せ た の で あ る 。(Schivelbush 1979=1982:52)

鉄 道 が 作 り だ す 時 間 ・ 空 間 の 関 係 は 、 技 術 以 前 の 時 代 の そ の 関 係 に く ら べ る と 、 抽 象 的 な も の に 見 え 、 時 間 ・ 空 間 感 覚 を 阻 害 す る も の と 写 る 。

(Schivelbush 1979=1982:53)

人 々 が 「 抹 殺 」 さ れ た と 感 じ た も の と は 、 鉄 道 に よ っ て 代 替 さ れ る こ と で 失 わ れ た 馬 車 旅 行 時 代 の 交 通 技 術 で あ る 。鉄 道 の 登 場 に よ っ て 、動 力 は 身 近 な「 自

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然 」 で あ る 馬 か ら 蒸 気 機 関 車 へ と 機 械 化 さ れ る 。 ま た 鉄 道 は 古 く か ら の 街 道 と は 異 な り 、築 堤・鉄 橋・切 通 し・ト ン ネ ル な ど に よ っ て 地 形 を 克 服 す る こ と で 、 ヨ ー ロ ッ パ の 風 景 と 旅 行 者 の 知 覚 を 変 貌 さ せ た ( Schivelbush 1979=1982:27-32)。こ れ ら の 特 性 に よ っ て 、鉄 道 は 伝 統 的 な 時 間・空 間 意 識 を

「 抹 殺 」 し た と 考 え ら れ た の で あ る 10

一 方 、 日 本 で 鉄 道 が 初 め て 開 業 し た の は 1872 年 の こ と で あ る 。 こ れ は 「 世 界 史 的 な 視 点 か ら み て 各 国 蒸 気 鉄 道 開 業 順 位 上 、 第 40 番 目 と い う 、 き わ め て 後 発 的 な ス タ ー ト 」( 宇 田 2007:18)で あ っ た が 、そ の 20年 後 に は 官 設 ・ 私 設 合 わ せ た 鉄 道 営 業 キ ロ は 3000 キ ロ を 越 え る に い た っ た 。

鉄 道 の 登 場 と 延 伸 が 、 ヨ ー ロ ッ パ と 同 様 に 、 日 本 の 人 々 の 意 識 ・ 生 活 ・ 旅 行 と い っ た 各 方 面 に 影 響 を 及 ぼ し た こ と は 明 ら か で あ る 。 ま た こ う し た 鉄 道 の 文 化 的 影 響 に つ い て は 、 昭 和 初 期 の 段 階 で 柳 田 國 男 『 明 治 大 正 史 世 相 篇 』

(1931=1993) で も 言 及 さ れ て い た 。 柳 田 は 「 鉄 道 の 歴 史 は い つ も 専 門 家 の 手 に 成 り 、 そ の 専 門 家 は み な 営 業 人 で あ っ た ゆ え に 、 外 側 か ら そ の 影 響 を 考 え て み る こ と が で き な か っ た 」( 柳 田 1931=1993:209) と 指 摘 し 、 民 俗 学 の 視 点 か ら 「 汽 車 の 巡 礼 本 位 」 と 題 し た 考 察 を 行 っ て い る ( 柳 田 1931=1993:209-13)。

一 方 で 日 本 の 鉄 道 史 研 究 全 体 に お い て は 、 戦 後 に い た る ま で 文 化 面 か ら の 研 究 は 立 ち 遅 れ て い た 。 こ の こ と に つ い て 経 済 史 学 者 の 宇 田 正 は 1985 年 初 出 の 論 考 ( 宇 田 2007) 11で 、 近 代 日 本 史 の 領 域 で は 鉄 道 に 関 す る 「 文 化 史 的 な 視 角 か ら の 固 有 な 研 究 分 野 は 未 開 発 で あ り 」( 宇 田 2007:13)、交 通 史 学 に お い て も 鉄 道 を「 交 通 文 化 史 と し て と ら え る 問 題 意 識 を 持 合 わ せ て い な か っ た 」( 宇 田 2007:13) と す る 。

10 シ ヴ ェ ル ブ シ ュ は 鉄 道 の 登 場 に よ る 文 化 的 影 響 に つ い て「 抹 殺 」と い う 語 彙 に 焦 点 を 当 て な が ら 議 論 し て い る が 、 当 然 の こ と な が ら 鉄 道 の 登 場 が 人 々 の 移 動 可 能 性 を 拡 大 し た と い う 面 を 無 視 す る こ と は で き な い 。 鉄 道 で の 大 衆 団 体 旅 行 を 考 案 し 、 旅 行 代 理 店 を 営 ん だ ト マ ス ・ ク ッ ク の 功 績 は 著 名 で あ る ( 小 池 2012:112-3)。 ま た 鉄 道 の 登 場 が 大 衆 の 観 光 旅 行 を 促 し た こ と は 、近 代 の 重 要 な 要 素 と し て の 観 光 文 化 の 発 展 、「 観 光 の ま な ざ し 」

Urry 1990=1995)の 形 成 と い う 点 か ら も「 抹 殺 」に と ど ま ら な い 意 義 を 見 出 す こ と が で き る 。

11 宇 田 正「 鉄 道 文 化 と 近 代 社 会 ― 鉄 道 日 本 文 化 史 へ の 試 論 ― 」『 鉄 道 史 学 』2, 鉄 道 史 学 会

1985) を 改 稿 し た も の で あ る 。

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14 第2節 日 本 人 と 鉄 道 文 化 に 関 す る 史 学 的 考 察

日 本 に お け る 鉄 道 の 文 化 史 的 研 究 の 立 ち 遅 れ を 指 摘 し た 宇 田 は 、 日 本 人 と 鉄 道 と の 関 係 に つ い て 批 判 的 な 考 察 と 、 文 化 史 的 な 意 味 の 考 察 を 試 み て い る 。 本 節 で は 鉄 道 の 文 化 史 的 検 討 の 先 駆 的 事 例 と し て 、 宇 田 の 議 論 を 詳 し く み て い き た い 。

宇 田 は ま ず 、 日 本 に お い て 鉄 道 の 文 化 史 的 研 究 が 進 ん で い な い こ と の 原 因 が 日 本 人 の 鉄 道 に 対 す る 認 識 の 偏 り に あ る と 指 摘 す る 。

わ が 国 に お い て 、 鉄 道 が 明 治 維 新 後 い ち は や く 欧 米 先 進 国 か ら 導 入 さ れ 、 い わ ゆ る 「 文 明 の 利 器 」 の シ ン ボ ル 的 存 在 と し て 、 わ が 国 内 政 治 ・ 軍 事 ・ 社 会 ・ 経 済 の 近 代 化 の た め に 果 た し た デ ベ ロ ッ パ ー 的 役 割 は 、 ま こ と に 大 き い も の が あ っ た 。し か し 、そ の 導 入 以 後 す で に 一 世 紀 を 越 え た こ ん に ち 、 鉄 道 は 後 発 の 自 動 車 や 航 空 機 に 国 内 交 通 市 場 の シ ェ ア を 大 幅 に 奪 わ れ 、 と り わ け 産 業 輸 送 に お け る 主 導 的 役 割 を 失 っ て い る 。 社 会 全 般 に 高 度 な 技 術 革 新 の 進 展 す る な か で 、鉄 道 交 通 シ ス テ ム に は 、「 文 明 の 利 器 」と し て の か つ て の 輝 か し い シ ン ボ ル 性 を も は や 求 む べ く も な い 。そ し て 、そ の こ と――

鉄 道 が 国 内 輸 送 経 済 上 の 最 も 有 効 な 手 段 で な く な っ た こ と――だ け か ら 、鉄 道 の 持 つ 社 会 的 存 在 意 義 を 軽 視 、 過 小 評 価 し て 、 鉄 道 を 「 時 代 遅 れ 」 の 交 通 機 関 と し て 非 情 に 切 り 捨 て よ う と す る 企 業 経 済 の 単 眼 的 認 識 や 、 あ る い は S L 全 盛 時 代 の 鉄 道 の 「 過 去 の 栄 光 」 に 眩 惑 さ れ て 問 題 の 本 質 を 直 視 せ ず 、 た だ 情 緒 的 に 鉄 道 へ の 挽 歌 を う た い 上 げ よ う と す る 社 会 的 ム ー ド も 、 な か な か に 根 深 い 。( 宇 田 2007:7-8)

宇 田 は 、 日 本 で は 「 鉄 道 が も っ ぱ ら 陸 上 交 通 近 代 化 の す ぐ れ て 有 効 な 手 段、 、 、 、 、 と し て 認 識 さ れ 受 容 さ れ た 」一 方 で 、「 鉄 道 が『 利 器 』= 手 段 と し て し か 認 識 さ れ な か っ た 」と い う 点 に「 問 題 」を 見 出 し て い る( 傍 点 は 原 著 者 )。彼 は 、日 本 人 の 鉄 道 へ の 関 心 が も っ ぱ ら 経 済 的 メ リ ッ ト に 置 か れ 、「 そ の 機 能 的 メ リ ッ ト が 減 少 、減 失 し た と き 、『 鈍 器 』と し て 錆 び る に ま か さ れ 、や が て 用 を 廃 さ れ る 」と

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し て 、 日 本 人 の 鉄 道 に 対 す る 認 識 を 批 判 し た の で あ る 12

宇 田 は 観 念 と し て の 「 鉄 道 文 化 」 が 日 本 社 会 に 根 付 い て い な い 理 由 を 、 日 本 に お け る 鉄 道 の 始 ま り 方 に 求 め る 。 近 代 化 の 開 始 時 に お い て 日 本 で は 、 陸 上 交 通 を い ち 早 く 欧 米 の 水 準 に 引 き 上 げ る べ く 、 日 本 の 伝 統 的 な 交 通 制 度 と は 断 絶 し た 鉄 道 シ ス テ ム を イ ギ リ ス か ら ま る ご と 輸 入 し た 。 こ の 「 性 急 」 な 鉄 道 整 備 の 結 果 、 日 本 人 に と っ て の 鉄 道 と は 、 欧 米 と 比 べ て 歴 史 的 な 基 盤 を 欠 い た 実 用 的 な 交 通 手 段 と い う 位 置 づ け に 偏 り 、 経 済 的 メ リ ッ ト の み に よ っ て 存 在 価 値 が 評 価 さ れ が ち に な っ た と い う 13

た だ し 宇 田 は 、 日 本 人 に と っ て の 鉄 道 が 「 文 明 の 利 器 」 と い う 手 段 的 な 存 在 と い う だ け で は な か っ た 点 も 認 め て い る 。 鉄 道 は 「 日 本 人 の 内 面 に お い て 、 近 代 社 会 の 主 体 的 形 成 に 適 合 す べ く 、 伝 統 的 な 意 識 の 変 革 を 一 般 的 な か た ち で う な が 」 す 役 割 を 担 う と と も に 、 鉄 道 が 「 近 代 的 な 感 覚 や 心 情 の 表 現 に お け る 多 彩 な 文 化 的 イ メ ー ジ 、 シ ン ボ ル と し て 展 開 し て い っ た 」( 宇 田 2007:22) と い う 側 面 は 無 視 で き な い も の で あ り 、 そ れ ゆ え に 鉄 道 文 化 は 史 学 的 観 点 か ら 研 究 さ れ る べ き 領 域 と い え る の で あ る 14

近 代 初 期 の 人 々 に と っ て の 鉄 道 の イ メ ー ジ に つ い て 宇 田 は 、 哲 学 者 の 和 辻 哲 郎 (1889-1960) が 、 幼 少 期 に 兵 庫 県 下 に 開 通 し た 播 但 鉄 道 に ま つ わ る 思 い 出 を 記 し た 次 の 一 文 に 着 目 し て い る 。

外 の 世 界 と い う 意 識 が そ う い う 形 〔 引 用 者 注 : 母 に 連 れ ら れ て 神 戸 の 親 せ き を 訪 ね る と い う 経 験 〕 で 芽 ば え て 来 て か ら ま も な く 、 わ た く し の 村 に は 鉄 道 が 開 通 す る こ と に な っ た 。 山 陽 鉄 道 の 姫 路 駅 か ら 但 馬 の 生 野 へ 通 ず る 播 但 鉄 道 で 、 こ の 後 外 の 世 界 と の 連 絡 を 、 事 実 上 で も ま た 象 徴 的 な 意 味 に

12 こ う し た 日 本 の 状 況 に 対 し て 、西 欧 各 国 で は「 一 般 に『 鉄 道 は 文 化 で あ る 』と い う コ ン セ ン サ ス が 確 立 し て い る 」( 宇 田 2007:12)と い う 。宇 田 は 、西 欧 の 鉄 道 は 近 代 的 市 民 精 神 の 形 成 と 歩 調 を 合 わ せ て 発 達 し た た め 、 西 欧 人 は 鉄 道 を 自 己 を 歴 史 的 に 再 確 認 す る た め の ひ と つ の 契 機 と す る こ と が で き 、 そ の た め に 彼 ら は 鉄 道 を 「 文 化 」 と し て 認 識 す る こ と が で き た の だ と と ら え て い る 。

13「 鉄 道 に た い す る 日 本 人 の 一 般 的 関 心 の 経 済 的 有 用 性 ・ 即 物 的 功 利 性 へ の 偏 重 」 と 「 鉄 道 を た ん に 外 的 手 段 と し か 見 な い 価 値 判 断 」 を 指 し て 、 宇 田 は 「 ま さ に 『 鉄 道 文 化 』 の 対 極 概 念 」( 宇 田 2007:21) だ と 評 し て い る 。

14 こ の 論 考 が 1985年 に 執 筆 さ れ た こ と に つ い て も 考 慮 し な け れ ば な ら な い 。 当 時 は 国 鉄

( 公 共 企 業 体 ) の 分 割 民 営 化 が 取 り ざ た さ れ る さ な か で あ っ た 。 鉄 道 の 存 立 基 盤 に 対 す る 危 機 意 識 が 、 鉄 道 を 文 化 史 的 に と ら え よ う と す る 宇 田 の 主 張 の 背 景 に あ っ た と 考 え ら れ る 。

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お い て も 、 表 示 す る こ と に な っ た 。 わ た く し に と っ て 「 旅 人 」 の 姿 と い う よ う な も の が あ ま り 注 意 の 的 に な ら ず 、 む し ろ 車 窓 か ら 明 か り を 洩 ら し な が ら 遠 ざ か っ て 行 く 列 車 の 姿 の 方 が 、 外 な る 世 界 を 指 示 す る も の と し て 強 い 意 味 を 持 つ よ う に な っ た の は 、そ の た め で あ る 。( 和 辻 1961=1963:176)

こ の 文 章 に つ い て 宇 田 は 、 和 辻 が 「 わ た く し の 村 に は 鉄 道 が 開 通 す る こ と に な っ た 」 と 記 し た 出 来 事 は 、 和 辻 の 住 む 仁 豊 野 ( 兵 庫 県 南 部 ) を 通 っ て 寺 前 ま で 開 業 し て い た 播 但 鉄 道 が 、 県 北 の 生 野 ま で 延 伸 し た こ と を 指 す と 推 測 し 、 鉄 道 が 中 国 山 脈 の 分 水 嶺 を 越 え て 兵 庫 県 北 部 の 但 馬 ま で 延 伸 し た こ と が 、 県 南 部 の 播 磨 に 住 む 和 辻 が 「 外 な る 世 界 」 を 意 識 す る 契 機 と な っ た の だ ろ う と し て い る ( 宇 田 2007:146-147)。

第3節 「 鉄 道 文 化 」 の 定 義

前 節 で み た と お り 、 宇 田 は 鉄 道 を 「 世 俗 的 に 横 行 す る 『 文 明 の 利 器 』 と い う ご と き 一 元 的 判 断 で 片 付 け る こ と を せ ず 、『 文 化 の 鏡 』と し て の 鉄 道 の 歴 史 的 位 置 づ け に 立 っ て 問 題 に 取 組 む こ と 」( 宇 田 2007:27) を 主 張 し て 鉄 道 文 化 史 研 究 に 取 り 組 ん だ 。 そ し て 、 宇 田 を 始 め と す る 歴 史 学 ・ 地 理 学 系 の 研 究 者 た ち に よ る 鉄 道 文 化 研 究 は 1980 年 代 以 降 、 徐 々 に 蓄 積 さ れ て き た 。

そ れ で は 歴 史 学 系 の 鉄 道 文 化 研 究 者 た ち は い か な る 「 文 化 」 概 念 を 念 頭 に お い て き た の だ ろ う か 。

宇 田 は「 鉄 道 文 化 」の 範 疇 を 、「 鉄 道 の 開 設 と 発 達 と を 直 接 の 契 機 と し て 新 た に 歴 史 的 に 形 成 さ れ た 近 代 人 の 感 覚 と 認 識 お よ び 行 動 の 体 系 と そ の 外 的 表 現 と を す べ て ひ っ く る め 」( 宇 田 2007:12) た も の と 定 義 し て い る 。 ま た こ う し た 観 点 に よ る と 鉄 道 と は 、「 近 代 社 会 に 固 有 な 記 号 の 体 系・情 報 シ ス テ ム な い し 文 化 シ ン ボ ル と し て 人 間 の 内 面 的 生 活 に も 広 く ふ か い 影 響 を イ ン プ ッ ト し 、 そ れ ら の『 文 化 』と し て の 多 様 な ア ウ ト プ ッ ト を う な が す……『 文 化 』的 実 在 」( 宇 田 2007:14)で あ る と す る 15。宇 田 は「 文 化 」そ の も の に 関 し て 定 義 を 行 っ て

15 な お 宇 田 は こ の 論 考 の な か で 、「 文 化 」 と い う 語 彙 を あ る 程 度 評 価 的 に も 用 い て い る 。 例 え ば 「 わ が 国 の 鉄 道 が 、 す ぐ れ て 早 い 時 期 か ら 軍 事 輸 送 に 、 後 年 そ れ が 外 延 化 し て 植

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は い な い も の の 、彼 が 定 義 し た「 鉄 道 文 化 」の 範 疇 か ら は 、「 文 化 」を 人 々 の 感 覚・認 識・行 動 の 体 系 、お よ び そ れ ら の 表 出 と と ら え て い る こ と が 読 み 取 れ る 。 歴 史 学 者 の 原 田 勝 正 は 「 わ た く し が 考 え て い る 文 化 と い う 概 念 は 、 文 学 と か 芸 術 と か 、 い わ ば 常 識 と な っ て い る 狭 い 意 味 で の 文 化 で は あ り ま せ ん 。 人 が 自 然 に は た ら き か け て 、 新 し い も の を つ く り 出 す と い う ヨ ー ロ ッ パ に お け る 文 化 概 念 の 、 も と も と の か た ち か ら 出 発 し て 、 そ れ に 人 と 人 と の 交 流 を つ け 加 え 、 そ の は た ら き か け や 交 流 の 推 移 、 そ こ に つ く り 出 さ れ る 成 果 を ふ く む 広 い 意 味 を 持 た せ よ う と い う の が 、 わ た く し の 立 場 で す 」( 原 田 1998:2-3) と 述 べ る 。 具 体 的 に は 原 田 は 、「 資 本 主 義 確 立 期 に お い て そ の 輸 送 機 能 に よ っ て 近 代 化 の

『 牽 引 車 』 と し て の 役 割 を 果 た し た 」( 原 田 1991:1) と い う 第 1 の 役 割 に 対 し て 、「 社 会 の 制 度・組 織 を は じ め 、人 間 関 係 の あ り 方 な ど 、あ ら ゆ る 面 に お け る 近 代 化 の 課 題 に つ い て 、 常 に 近 代 市 民 社 会 に お け る 基 本 的 か つ 構 造 的 な 要 因 を 提 示 し 、そ れ を 現 実 化 す る と い う 」( 原 田 1991:1)第 2 の 役 割 が あ っ た と し て 、 日 本 の 近 代 化 過 程 に お け る 鉄 道 の 文 化 的 な 意 味 を 位 置 づ け て い る 。 ま た 、 蒸 気 機 関 車 が「 郷 愁 を さ そ う と 言 わ れ 」、駅 に は「 人 々 の 心 の 拠 り ど こ ろ が あ る と 言 わ れ 」 る よ う に 、「 鉄 道 が 120 年 を 超 え る 歴 史 の 中 で 、 人 々 の 心 情 や 生 活 意 識 に し っ か り と 根 を お ろ し た こ と 」を 指 摘 し 、「 そ こ に 文 化 の 現 わ れ を 感 じ る こ と が で き 」( 原 田 1998:2) る と す る 。

『 鉄 道 と い う 文 化 』を 著 し た 小 島 英 俊 は 、「 い ろ い ろ な 国 語 辞 典 を 紐 解 い た 結 果 の 最 大 公 約 数 は『 人 間 が 目 的 を 持 っ て 働 き か け 生 活 を 発 展・充 実 さ せ る 行 為 』 と い っ た 辺 り に 落 ち つ き そ う で あ る 。 し た が っ て 文 化 に は 政 治 ・ 経 済 ・ 科 学 技 術 ・ 芸 術 な ど 広 範 に 含 ま れ 、 そ れ が 歴 史 的 に 前 向 き に 動 く 動 態 を 指 す こ と に な ろ う 」( 小 島 2010:9) と い う 。

宇 田 や 原 田 と い っ た 研 究 者 を は じ め と す る 鉄 道 文 化 史 の 論 者 た ち の い う 「 文 化 」の 内 容 は 、以 上 の よ う な 共 通 了 解 を も つ 。彼 ら の い う 文 化 の 内 容 と は 、人 々 の 意 識 や 行 動 の 体 系 お よ び そ の 結 果 と し て 現 れ た 状 態 全 般 を 包 摂 し て い る 。 し か し 、 論 者 に よ っ て 認 識 の 細 部 に は 違 い が あ り 、 必 ず し も 一 定 の 定 義 の も と に 鉄 道 文 化 が 論 じ ら れ て き た わ け で は な い こ と が わ か る 。

民 地 支 配 に 、 そ の 高 い 機 動 性 と 効 率 性 と に よ っ て 政 治 的 に 重 視 さ れ 、 そ の 目 的 に 沿 っ て 整 備 ・ 強 化 の 動 き も 見 ら れ た が 、 こ の 面 で の 鉄 道 の い と な み は 反 『 文 化 』 の 範 疇 に 含 ま れ る も の で し か な か っ た 」( 宇 田 2007:21) と い っ た 記 述 が 挙 げ ら れ る 。

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