神奈川大学審査学位論文 の要約
風力発電における消費者参加のあり方に関する研究
‑神 津 島 にお け る風 力発電 システムの導 入 を事例 と して‑
横 井 武 典
序論
本稿 は風力発電 における地域運用問題 と実証 のための技術史分析 お よび事例研究 を行 い、消費者参加形態の成立 と展開について論 じた ものである。
風力発電 は、 これ まで ドイツ、アメ リカ、デ ンマー クなどを中心 として発展 して きた が、それには各国の特質 を反映 した独 自の開発、導入形態が見 られる。風力発電 に関 し た歴史 を持 たない 日本 において も、1990年代 に入 り、急速 な導入の展 開が見 られた。 し か しなが ら、「水車文化 国」 日本 に風車 を導入す るには、風車文化が 開花 した ヨーロ ッ パ諸国の社会的 ・文化 的背景 の認識が必要である。今 か ら100年前、風力発電技術 を生 み出 し、その後風力発電の実用化 に成功 した唯一の国、デ ンマークの歴史的背景 を中心 に技術哲学が、いか に20世紀工業社会 に影響 を与 えたか を分析 した。 また今 日、デ ンマ ークで研究 された理想社会建設のための技術手段が、本来の形態 と異 なる節税投資で発 展 し、普及 していることも明示 した。
長期 的 ・具体 的視点 に立 てば、持続可能社会構築 は地域共 同体 に よる開発 を重視 し、
成員 ひとりひ とりが経済的なアプローチだけでな く、地勢的総合的な生態系視点か らの 協力体制 を必要 とす る。特 に日本では離 島な どの ような遠隔地 は、 これに該当す る。伊 豆諸島神津 島は、幸 い風 の強い島で もあるため、当地 における地域性分析 、風況分析 、 経済性分析等 を行 い、離 島における風力発電建設の可能性 を検討 し、新方向について ま
とめた。
また、地域 における適正技術 の導入が不可欠 との見地 によ り、デ ンマー クでの風力発 電開発 ・導入モデル とその技術的 ・制度的基盤 を歴史的に検証 し、その具体 的事例研 究 として、デ ンマークモデルの応用 とい うアプローチで神津 島における適応 について論 じ た。
ii 研究年報 第5号
第1章 風 力発電史
3大風力発電王国の ドイツ、 アメ リカ、デ ンマークお よび 日本 についての技術 、制度 を考 察 した。特 にデ ンマ ー クにつ いては、19世紀 の思想 家 ニ コライ ・グル ン トヴ イ (NikolaiGrundtvig 1783‑1872)、工兵士官エ ンリコ ・ダルガス (Enrico Dal苦as 1828‑ 1894)、風力発電の創始者ポール ・ラクール (FoullaCour 1846‑1908)の業績 について 詳述 し、 ドイツ、アメ リカ、 日本 については風力発電が本格的に導入 される20世紀後半 か ら分析 した。
風力発電が始 まった背景 には、 ドイツ続‑ を目指すプロイセ ンが1864年 にオース トリ ア と同盟 してデ ンマーク と戟い、最 も肥沃 なシュ レスヴイ ・ホル シュタイ ン領 を奪 い、
同国の物資生産 に多大 な影響 を与 えたことがある。 この敗戦 とい う悲惨 な状況下 におい て、「戦いで失 った もの を内 に求め よう !」運動がデ ンマーク国内に起 きる。 この運動 の中で、デ ンマーク中興の祖 グル ン トヴイが民衆‑の啓蒙教育 に活躍 し、風力 を中心 と す る自然エネルギーの利用 を提唱 した。その後、 グル ン トヴイの教 えを科学的技術 的な 実践 目標 としたp.ラクールが1891年 に補助金4,000クローネを得 て、世界最初 の風力発 電 をデ ンマーク ・ユ トラン ド半島南部 アス コウで行 った。
つ ぎに、デ ンマークのエ ジソンと呼ばれたラクールは風力発電用風車翼設計 に、航空 機用 プロペ ラに対す る 「翼素理論」 を転用 した。 また、風圧 に関す る正確 な測定のため に特殊 な風圧測定器 を考案 し、風力発電 に重要 な調速装置 (クラ トス タッ ト)の発明 も 行 った。同時 に高価 なバ ッテ リーに代 わる蓄電装置 を求め、世界で初めて水 を電気分解 して水素 を得 ている。風力発電 によ り得 た水素 を、アス コウ国民高等学校の照明 システ ムにも応用 した。 この装置 は7年 間にわた り使用 された。 さらにラクールはデ ンマー ク 風力発電協会 を設立 し、農民 に対 して風力発電 によって得 られたエネルギーを提供 し続 け、 自前の電力 を中心 とした 自給 自足経済の確立 を指導援助 した。導入地域住民の優先 的建設権 を保護す る法制や、個 人 ・協 同組合の優遇制度 もあることは注 目に値す る。参 加形態 としては協 同組合が主流である。
一方、 ドイツの本格的導入 は1990年代 か ら始 まる。同国の風力発電普及 には、1991年 に施行 された連邦買取法や250MW風力計画の影響が大であった。それ によ り北海沿岸 四州 を中心 に大規模 ウイ ン ドパー ク建設のため、独立発電事業者 (IPP)に対 し特別 な 支援 を推進 した。 ここ数年 、個人や協 同組合 よ りむ しろ、IPPを中心 とした投資開発 の 増加が明確 になった。
アメリカは、1973年のオイルシ ョックを契機 に本格的技術 開発 を始めた。1980年代 か ら政府主導の大型風力発電 (MOD‑0シリーズ)や民間のカリフォルニア州 ウイン ドファ ームが建設 された。 アメ リカの風力発電が急速 に普及 した背景 には、1978年 のパ ーパ (PURPA)法お よび1983年のス タンダー ド・オファー・4(SO4)によるところが大 きい。
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iii1999年現在、アメ リカには電力協 同組合 こそ存在す るが、風力発電所有者 による協 同組 合はな く、ほとん どがPpであることを明 らかに した。
一方、 日本では1990年代 に入 り新エ ネルギー産業技術総合 開発機構 (NEDO)や新 エ ネルギー財 団 (NEF)の支援制度が急速 に充実 して きた。その結果、三菱重工業 による 風車 と、デ ンマーク、 ドイツか らの輸入風車 を中心 に設置が進 んだ。 1985‑ 1998年 まで の内訳 は、中央省庁 ・自治体が24基、電力会社が40基、一般企業が35基 である。 しか しヨーロ ッパ諸国な ら多数見 られる個人や協 同組合所有の風力発電 システムが、1999年 現在 、 日本 には全 く存在 しない。 このため、欧州型協 同組合が 日本の僻地、特 に離 島で の風力発電導入 に極めて有効 であ り、検討 に値す る と提案 した。
第2章 風 力発 電 にお ける消 費者 の参加 形態
第2章では 日本 の風力発電 における消費者の参加形態 について検討 し、広範 な参加形 態 を可能にする前提条件 としての電力買取 り法、税制 に関する諸問題の解決 を指摘 した。
また、消費者の参加形態 としてはグリー ン電力制度、政府の規制政策、電力協 同組合 に ついて論 じた。その結果、風力発電の特徴 に適合 しうる企業形態 は協 同組合方式である ことを明確 に した。
1999年現在、 日本 に協 同組合所有 の風力発電 は存在 しない。ただ し、現在 の農協法の 前身である産業組合法の利用組合形式で電力協 同組合 (水力)が多数存在 した。 この水 力発電協 同組合 は送電網 の届 かない山間僻地‑の電気供給が 目的であった。 これ らの組 合 は1930年代 に 日中戦争がは じま り、統制経済の中で電力会社 に吸収 された。 しか し、
戦後農協 として出発 した後、農 山漁村電気導入促進法 (略称農電法)が制定 されて協 同 組合 による発電事業 は再建 され、1957年 まで発電所建設が続いた。以上の ように電力協 同組合 は日本 にも存在 していたのである。
日本の離島において風力発電 を協 同組合 に適応することは、地域性、規模性、公正性、
情報公 開性 か ら見 て も実現可能 とい う見解 もでて きた。風力発電協 同組合 は、生産か ら 消費 まで を行 う自給 を目的 とす る自家発電協 同組合型 と生協 の ように消費 を目的 とす る 共同購入協 同組合型の二つ に分類 される。現行法制下、 自家発電協 同組合 は運営困難で あるが後者 よ りも自給 自足が達成で きると明示 した。
そこで、 日本で も電力の完全 自由化 (規制緩和)が認め られる趨勢 にあ り、 この対応 として市民 に と り、最 も経 済的に優位 で、安定的 な制度す なわち、「離 島における風力 発電協 同組合設立」 に向けた準備が必要である。
第3章 神 津島 にお ける風 力発電 システム
風力発電 を当該地域 に最 も適 した形態で導入す ることを第一義 とし、神津島村役場 お
iv 研 究年報 第5号
よび電力会社の協力 によ り、離 島における風力発電 を実現 させ るための導入研究 を行 っ た ものである。
導入上の問題 について、神津 島はインフラ分類上では最 も風力発電 に適 したイ ンフラ 大の地域 に属 し、地形分類上 は乱れの影響の大 きい高島に属す る。 また、風 向 きは東西 方向が卓越 し風速が高 く、逆 に南北方向は頻度 も少 な く風速 も低 い ことが、明 らか とな った。
神津島風力発電 システム と導入形態 は次の通 りである。同島の年間平均風速7m/Sの レ イ レ分布 によるエネルギー密度が最大 となる風速 は11m/Sであ り、 これ を設計風速 とし た。運搬上の問題か らロー タ直径20m、定格出力 は100kWとした。 また、神津 島風力発 電 システムの タイプ としては水平軸風力発電が最 も有利 であるが、神津 島は地震多発 、 台風多通過、設置可能面積が非常 に限定 されている とい う各地域特性 を考慮 した結果、
垂直軸風力発電 も有力 な候補機種 として提案 された。 さらに神津 島‑の適用案 について 説明する。同島の全世帯消費電力量 を100kW風力発電機で供給す るためには約40基 を必 要 とす る。 また建設サ イ トについては、 イ ンフラ、風況 の両面 か ら、神津 島北西部沢 尻 ・長浜 ラインを設定 した。
法的問題 については、神津 島で協 同組合が風力発電 を運営す る場合、農 山漁村電気導 入促進法の利用 とそのための法改正 について も触 れている。経済的問題 については、設 備投資額 と発電 コス トとの分析 によ り、売電であるか ぎりIPPをは じめ、いかなる事業 主体 であって も神津 島で同事業 を行 うには条件が悪い。 しか しなが ら、電力会社が現在 の電力 を風力発電で補完、代替 した場合、硯在 の コス トよ りも低価格で発電で きること も判明 した。次 に、協 同組合では設備投資額が1億 円あ るいは8千万 円で支援 団体補助 率が2/3の場合 と6千万円で補助率が1/2,2/3の場合が有力 と明示 した。
したが って神津 島風力発 電 システム40基 を運営す る と、補助金 な しで は1戸 あた り 15.4万 円/年、補助金1/3の場合 は10.3万 円/年、補助金1/2では7.7万 円/年、補助金2/3で は5.2万 円/年 となった。設備投資 と発電 コス トの関係 の ように、投資額6千万 円では補 助金1/2、2/3の場合のみ通常価格 よ りも有利 であることが示 された。ついで、環境問題 については騒音、安全性、電波障害、景観問題 、鳥類問題、 自然破壊の観点か ら分析 し た ものである。
結論
本論文 は風力発電 における消費者参加のあ り方 に関す る研究 を行 った ものである。第 1章ではデ ンマーク、 ドイツ、 アメ リカの世界三大風力発電王国 と、 日本 の風力発電の 歴史的経過 を論 じた。 ここでは主 にデ ンマークでの風力発電の開発 ・導入モデルに関 し て、その社会的、文化的基盤 を歴史的に検証 し、 日本 において風力発電 を健全 な形で社 会 システムに導入す るための指針 を明 らかに した。第2章では風力発電 における消費者
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Vの参加形態 について言及 し、広範 な参加形態 を可能 にす る前提条件 として電力の買取 り 法、税制 に関する諸問題 を解決 した。つ ぎに消費者の参加形態 としてグ リー ン電力制度、
政府の規制政策 (電力小売政策)、電力協 同組合 について論 じた。第3章では、具体的な 事例研究 として伊豆七 島の神津 島をモデルに、風力発電 システムの導入 を想定 し、島内 のイ ンフラ、地形 による分類、風況、神津 島風力発電 システムの仕様策定、技術 的対処 お よび発展性 について明示 した。
引用文献 (一部)
本論文 に関す る研究発表論文 を中心 に掲載
1.楼井武典 (神奈川大学大学院生) ・牛 山泉 (足利工業大学教授/日本風力エネルギー 協会副会長) 『デ ンマークにおける風力発電 ‑その技術史的考察 ‑』技術 史教育学会研 究発表講演論文集、1999年5月、16‑18頁。
2. 関和市 (東 海大学教授/日本風 力 エ ネルギー協 会副会長 ) ・笹本 直衛 (八丈 島町 長) ・山下奉成 (八丈町役場) ・磯崎典雄 (八丈町役場) ・金山育男 (八丈町役場) 中川武彦 (中川電気社長) ・楼井武典 (神奈川大学大学院生) ・長井浩 (日本大学助教 揺) ・相 良啓太 (東海大学生)『八丈 島に於 ける独立電源 としての小型風力発電 システ ム』 日本太陽エネルギー学会/日本風力エネルギー協会講演論文集、1999年11月、463‑
466頁。
3. 関和市 (東 海大学教授/日本風 力 エ ネルギ ー協 会副 会長 ) ・相 良啓太 (東 海大学 坐) ・緑川秀芳 (東海大学研究員) ・棲井式典 (神奈川大学大学院生) 『風車用二次元 翼の実験 的研究』 日本太陽エ ネルギー学会/日本風力エ ネルギー協会講演論文集、1999 年11月、467‑470頁。
4. 関和 市 (東 海大学教授/日本風 力 エ ネルギ ー協 会副会長 ) ・相 良啓 太 (東 海大学 坐) ・緑川秀芳 (東海大学研究員) ・楼井武典 (神奈川大学大学院生) 『直線翼垂直軸 風車の 自己始動 ・起動特性 に関す る実験的研究』 日本太陽エネルギー学会/日本風力エネ ルギー協会講演論文集
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5. 関和市 (東 海大学教授/日本風 力 エ ネルギ ー協 会副 会長 ) ・相 良啓太 (東 海大学 坐) ・緑川秀芳 (東海大学研 究員) ・楼井武典 (神奈川大学大学院生) 『直線翼垂直軸 風車の実験的研究 ‑垂直軸風車の 自己始動 ・起動特性 ‑』 日本太陽エネルギー学会/日本 風力エネルギー協会講演論文集、1999年11月、105‑ 108頁。
6. 関和市 (東 海大学教授/日本風力 エ ネルギー協 会副 会長 ) ・相 良啓太 (東 海大学 坐) ・緑川秀芳 (東海大学研究員) ・楼井式典 (神奈川大学大学 院生) 『風車用二次元 翼の風洞実験』 日本太 陽エ ネルギー学会/日本風力エ ネルギー協会講演論文集、1999年 11月、62‑65頁。