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一、鎌倉時代の文章表現について

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Academic year: 2021

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全文

(1)

はじめに

  本 稿 で は、 鎌 倉 時 代 の 文 章 表 現 の 特 徴 を、 強 調 表 現 の 一 つ で あ る 反 復 表 現 を 中 心 に 分 析 す る。 具 体 的 に は、 当 時 の 人 々 の 言 語 生 活 が よ り 反 映 さ れ る と 見 ら れ る 直 筆 の 文 書 類 に 視 点 を 当 て、 こ こ か ら 反 復 表 現 を 抽 出 し、 当 時 の 反 復 表 現 の 実 態 と 特 徴 と を 考 え て み た い。 あ え て 文 学 作 品 で は な い 文 書 類 を 取 り 上 げ て み る の は、 次の点からである。 ⑴ 文 学 作 品 が 推 敲 を 重 ね て 文 章 を 連 ね る の に 対 し て、 書 状 等 の 文 書 類 は 多 く 時 下 に 書 き 記 す 性 質 が 強 く、 よ り 時 代 語 が 反 映 さ れ て い る も の と 見 ら れ、 そ れ ら を 帰 納 す る の に 適 し て い る と認められる。 ⑵ 文 学 作 品 が 転 写 等 の 問 題 を 持 つ の に 対 し て、 文 書 類 は 直 筆 の ものが大半で、時代史研究には適した資料である。 鎌倉時代の反復表現について ─ 文書類を中心として ─ 飯  沼  千  智

⑶ 識字層の拡大で位相的に多くの階層の表現法が把握できる。 ⑷ 文 書 類 一 点 一 点 は 少 量 の 言 語 資 料 で あ る が、 多 量 な も の が 伝 存 し て い る の で、 そ れ ら を 総 合 的 に 分 析 資 料 と し て 採 用 す れ ば、適した言語資料となり得る。

一、鎌倉時代の文章表現について

  鎌倉時代の文章は平安時代のそれよりは、論理化されたものと 言われる。例えば平安時代において、文は、次に挙げるように接 続助詞を多用して繋げる。   あ づ ま 路 の 道 の 果 て よ り も、 な ほ 奥 つ 方 に 生 ひ 出 で た る 人、いかばかりかはあやしかりけむ を 、いかに思ひ始めける ことにか、世の中に物語といふもののあんなる を 、いかで見 ばやと思ひ つつ 、つれづれなる昼間、宵居などに、姉、継母

(2)

などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやう な ど、 と こ ろ ど こ ろ 語 る を 聞 く に 、 い と ど ゆ か し さ ま さ れ ど 、わが思ふまま に 、そらにいかでかおぼえ語らむ。 (『更級 日記』冒頭)   これに対して、中世では、次に挙げる文からわかるように、接 続詞が文連接の重要な機能を担ってきて、より論理化してくるの である。   永 暦 の こ ろ ほ ひ は、 御 年 二 十 二、 三 に も や な ら せ 給 ひ け む、御さかりもすこし過ぎさせおはします ほ どなり。 しかれ ども 、天下第一の美人の聞えましましければ、主上色にのみ そめる御心にて、偸かに高力士に詔じて、外宮にひき求めし むるに及んで、此大宮へ御艶書あり。大宮敢へてきこしめし もいれず。 されば ひたすら早穂にあらはれて、后御入内ある べ き 由、 右 大 臣 家 に 宣 旨 を 下 さ る。 (『 平 家 物 語 』 巻 一、 二 代 后

注1

  ま た、 中 世 の は じ め 頃 を 代 表 す る『 今 昔 物 語 集 』 の 文 章 で は、 強調表現の一つである反復表現が、漢文の修辞法の影響による対 句と共存し、一層リズミカルなものをつくり出していることが報 告されてい る

注2

。さらに、鎌倉新仏教の開祖の一人である親鸞の注 釈書における文章表現の一つに、反復表現が駆使されているとい う。これはまた、平安時代とは異なる潮流、つまり、近代の出発 点に位置する鎌倉時代の文章表現を特徴付けるものであると言わ れ る

注3

。   本 稿 は、 後 に 挙 げ る 中 世 の 仮 名 文 書 を は じ め と す る 資 料 か ら、 当時の文章表現の実態を分析しようとするものである。本稿が対 象とする「反復表現」の詳細な定義については後述する。

二、反復表現の分類基準

  本 稿 が 指 針 と す る の は、 中 村 明『 日 本 語 レ ト リ ッ ク の 体 系 』 ( 一 九 九 一 ) で あ る。 同 書 は、 こ と ば を ど う 操 作 す る か と い う 手 段の観点から、それを「展開のレトリック」と「伝達のレトリッ ク」に大きく二分し、前者から配列・反復・付加・省略、後者か ら間接・置換・多重・摩擦の計八つの原理を抽出して、二〇〇以 上の技法名をその中に位置づけている。ここで「反復」が類似の 表現がある種の規則性を保ってあらわれるという点に主眼を置く 技法として綿密に体系化されている。ただし、同書で示されてい る体系は、現代の散文から示されたものであり、中世語の文章に は不適応であるため、多くの問題が存在することも否めない。し かしながら、ひとつの指針とし、資料そのものの特徴、あるいは

(3)

資料同士の比較分析を試みる過程でやはり必要であろう。   以下に同書が示した反復法の体系を挙げると共に、各反復法の 例として、同書が挙げた用例と本稿で採録した文書の例とを掲げ る。

味を担わせる表現法   (本稿が対象とする資料からは採録できず) 3 ライト・モチーフ   同一語句を作品中に点在させ、象徴的な意   (本稿が対象とする資料からは採録できず)   ・ 人民 の 人民 による 人民 のための政治   ─リンカーン演説より ある箇所に集中的に用いる場合がある。 2 畳点法   ある単語を直後に繰り返すというより、同一の語句を 一 6 4 ~ 69 ) か へ す 〴〵 い と 〳〵 あ さ ま し う こ そ。 (「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 ・ て ゝ も ま め や か に こ の た び は か な ら ず と 思 て は べ め り つ る、 ラ していた。   ─つかこうへい『蒲田行進曲』 バ ケ バ になったのがすり切れて、まるで砂地のように ザラザ ・ カーテンが茶色い ヨレヨレ のヒモのようになってて、畳は ケ ている場合も含める]

1

畳語法   同語を直後に繰り返す表現法[構成自体が畳 語 になっ

注4

  (『日本語レトリック体系』に挙例なし)

4.1

回帰反復   しばらく間をおいて前の語句を繰り返す表現法 信尼書状」八 5 ~ 30 ) う け た ま は る 事 た に も 候 ぬ 事 よ に 心 く る し く お ほ え 候( 「 恵 ほえ候ともはる〳〵とくものよそなるやうにて候   つねに申 なにことも いきて候し時 は つねに申うけたまはりたくこそお かにしても いきて候時 たてゝみはやと思候へとも… (略) … く候へとん いきて候時 たてゝもみはやと思候て… (略) …い 候はす   さて いきて候時 と思候て… (略) …よろつたよりな ・ よろつつねに申うけたまはりたく候ともたしかなるたよりも

  (本稿が対象とする資料からは採録できず)

4.2

間投反復   一語以上を隔てて間投詞的に同語を繰り返す表現法 録できず) 部 分 を ま と め あ げ る 表 現 法  ( 本 稿 が 対 象 と す る 資 料 か ら は 採

4.3

一括反復   先行する各分の語を一括して繰り返し、それまでの

料からは採録できず)     (『日本語レトリック体系』に挙例なし)   (本稿が対象とする資 法

4.4

首句反復   先行文の文頭の語句を後続文の文頭で繰り返す表現

  (『日本語レトリック体系』に挙例なし) 法

4.5

結句反復   先行文の文末の語句を後続文の文末で繰り返す表現

(4)

・ 多

ハ大 ノコヽロナリ ・ 勝

シヨウ

ノコヽロナリ ・ 増

ソウシヤウ

上 ノコヽロナリ ・ 大 ハ オ ホ キ ナ リ ・ 勝

シヨウ

ハ  ス ク レ タ リ ・ ヨ ロ ツ ノ 善

セン

ニ ・ マ サ レ ル ト ナ リ・ 増

ソウシヤウ

上 ハ・ ヨ ロ ツ ノ コ ト ニ・ ス ク レ タ ル ナ リ・ ( 親 鸞『唯信抄文意』四七 4 ~四八 3 )

(本稿が対象とする資料からは採録できず) の 文 末 の 語 句 を 後 続 文 の 文 末 で、 そ れ ぞ れ 繰 り 返 す 表 現 法 

4.6

首句結句反復   先行文の文頭の語句を後続文の文頭で、先行文   (本稿が対象とする資料からは採録できず) 5 反照法   作品の冒頭の一文を作品の末尾で繰り返す表現法    ス・ (親鸞『唯信抄文意』六〇 5 ~六一 4 ) 法 身 法 身 ナ リ・ ハ ・ イ ロ モ ナ シ・ カ タ チ モ・ マ シ マ サ

ホフシンホフシン

佛 性 佛 性 法 性 法 性 ナ リ ・ ス ナ ワ チ ・ ナ リ ・ ス ナ ワ チ ・

フチシヤウフチシヤウホフシヤウホフシヤウ

・ コ ノ 心 ニ 誓 願 ヲ・ 信 樂 ス ル カ・ ユ ヘ ニ・ コ ノ 信 心 ス ナ ワ チ・

シムセイクワンシンケウシンシム

   ─夏目漱石『草枕』 越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、 画 が出来る。

  住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ 窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。 ・ 智 に 働 け ば 角 が 立 つ。 情 に 棹 さ せ ば 流 さ れ る。 意 地 を 通 せ ば 法

4.7

連鎖法   先行文と後続文とが部分的に絡み合って進行する表現

6.1

首 尾 同 語  文 頭 と 文 末 と に 同 じ こ と ば を 配 す る 表 現 法  ( 本 稿

五 戒 八 戒 ヲ タ モ チ  ア ル イ ハ 布 施 ・ 忍 辱 ヲ 行 シ 乃 至 三 密

フせニンニクナイシサムミチ

ア ル イ ハ 父 母 ニ 孝 養 シ  ア ル イ ハ 師 長 ニ 奉 事 シ ア ル イ ハ

フモケウヤウシチヤウフシ

諸 行 往 生 、 フ タ ツ ニ ハ 念 佛 往 生 ナ リ  諸 行 往 生 ト イ フ ハ

シヨキヤウワウシヤウシヨキヤウワウシヤウ

・ タ ヽ シ コ ノ 門 ニ マ タ フ タ ツ ノ ス チ ワ カ レ タ リ  ヒ ト ツ ニ ハ

モン

  ─夏目漱石『京に着ける夕』 われた。 尾いて行く事の出来ぬ、遐かなる国へ抜け出して行く様に思 へ浸み渡って、心の底から、心のつながる所で、しかも心の 耳の奥へ、耳の奥から、脳のなかへ、脳のなかゝら、心の底 か も 其 の 鳴 り か た が、 次 第 に 遠 く、 次 第 に 濃 か に、 耳 か ら、

こまや

・ 時計はとくに鳴り已んだが、頭のなかはまだ鳴っている。し がら次第に盛り上がらせる表現法

6.2

連鎖漸層法   一文中のある一節の語句を次の一節で繰り返しな が対象とする資料からは採録できず)

ヰチシヤウ

乗 ノ 行

キヤウ

ヲ メ ク ラ シ テ 淨 土 ニ 往 生 セ ム ト ネ カ フ ナ リ( 聖 覺 『唯信抄』一一 2 ~一二 5 ) 7 変形反復   同じ語根を有する異語に変えて繰り返す表現法 ・ 彼女は、ベッドの上で安らかな 眠りを眠って いるであろう二 人の子供たちの寝顔を思い出していた。   ─藤沢桓夫『大阪 の話』

(5)

・ 又 こ そ て た ひ 〳〵 た ま は り て 候 う れ し さ い ま は よ み ち こ そ て に て き ぬ も 候 は ん す れ は 申 は か り 候 は す  う れ し く 候 也 (「恵信尼書状」九 2 9 ~ 3 2 ) 8 倒置反復   先行する句の語順を逆転させて繰り返す表現法      (本稿が対象とする資料からは採録できず) 9 換義・異義復言   ある語を同一文中またはすぐ近くの文で、別 の 意 味・ 用 法 が 実 現 す る よ う に 繰 り 返 す 表 現 法  ( 本 稿 が 対 象 とする資料からは採録できず)

三九 1 ) ス ・浄土ヘ井テ・ユクトナリ(親鸞『唯信抄文意』三八 2 ~ キ ヒ ト ト イ フ・ コ レ ラ ヲ マ サ ニ モ テ・ エ ラ ハ ス・ キ ラ ハ

フ・モテトイフ・井テユクトイフ・ 富 貴ハ・トメルヒト ヨ

フク井

貧 窮 ハ・ マ ツ シ ク・ タ シ ナ キ モ ノ ナ リ・ 将 ハ・ マ サ ニ ト イ

ヒンクシヤウ

・ 不 簡 貧 窮 将 富 貴 ト イ フ ハ 不 簡 ハ エ ラ ハ ス キ ラ ハ ス ト イ フ・

フケンヒンクシヤウフク井フケン

・ 一切絶対 ない   やる こと なす こと   四方八方 たないことばを並べる表現法

10.1

同意反復・類語反復・トートロジー   ほ とんど同じ情報しか持 図る表現法   (本稿が対象とする資料からは採録できず)

10.2

類義累積   大同小異の表現を積極的に連ねて近似値的な接近を

11

おうむ返し   ある人の発言をその直後に別の人が繰り返して応 弖河荘上村百姓等言上状」 レ 候 ア イ タ、 ヲ ン サ イ モ ク イ ヨ 〳〵 ヲ ソ ナ ワ リ 候 イ ヌ( 「 阿 ワホタシヲウチテ、サエナマント候ウテ、セメセンカウセラ ミヽ ヲキリ 、 ハナ ヲキリ 、 カミ ヲキリテ 、アマニナシテ、ナ ・ ヲ レ ラ カ コ ノ ム キ マ カ ヌ モ ノ ナ ラ ハ  メ コ ト モ ヲ ヲ イ コ メ、 ─源実朝 ・ 大海の磯もとどろに寄する波 われてくだけてさけてちる かも

13

造句法   音数律を利用して口調をよくする表現法   (本稿が対象とする資料からは採録できず) ・ 飲 んだら 乗 るな   乗 るなら 飲 むな

ノノノノ 12

句拍子   音の配置を工夫して口調をよくする表現法   (本稿が対象とする資料からは採録できず)   凍えるように寒かったという     ─井伏鱒二『歳末閉居』   凍えるように寒かったときけば   母ちゃんとそこを歩いて来たという ・ どこに行って来たと拙者は子供にきく ずる表現法

33

34

・ みんな が 酒を呑ん で 遊ぶ為 だ。 自分独り が 手持ち無沙汰 で 苦 させる表現法

14.1

並行体・平行法   同じ形式で同じ長さのことばを対にして対立

(6)

しむ為 だ。     ─夏目漱石『坊っちゃん』 ・ ツミフカ クハ イヨヽヽ 極

コクラク

楽 ヲ ネカフ ヘシ   不

ケン

カイ

サイ

コン

シム

ト イヘ リ  善スクナ クハ マスヽヽ 弥

ヲ 念

ネム

ス ヘシ   三

サム

ネム

コネ

ムフ

ライ

カウ

ト ノヘタ リ (聖覺『唯信抄』七七 1 ~ 5 ) 振って歩いていた。     ─室生犀星『杏っ子』 街に入り、半分 微 笑 いかけてまた笑わず、紅塵の中に大手を

わら

・ この憐れな親子はくるまに乗り、くるまを降りて、街に出て き立て合いながら進行する表現法

14.2

対偶法・対置法   二つの観念の間に対照関係を設け、互いに引

・ 佛

フチ

タウ

ヲ 行

キヤウ

ス ル ニ 難

ナンキヤウ

行 道

タウ

キヤウ

タウ

ア リ  難

ナンキヤウ

行 道

タウ

ト イ フ ハ 陸

ロクロ

路 ヲ カ チ ヨ リ ユ カ ム カ コ ト シ  易

キヤウ

タウ

ト イ フ ハ 海

カイロ

路 ニ 順

シユンフ

風 ヲ エ タ ル カ コ ト シ  難

ナンキヤウ

行 道

タウ

ト イ フ ハ 五

チヨクセ

世 ニ   ア リ テ 不

フタイ

退 ノ ク ラ 井 ニ カ ナ ハ ム ト オ モ フ ナ リ  易

キヤウ

タウ

トイ   フハ タヽ佛ヲ信スル因縁 ノ ユヘ ニ 浄土ニ往生スル ナリ トイ

  ヘ リ  難

ナンキヤウ

行 道

タウ

ト イ フ ハ 聖

シヤウ

タウ

モン

ナ リ  易

キヤウ

タウ

ト イ フハ 浄

シヤウトモン

土門 ナリ (聖覺『唯信抄』三三 4 ~三五 5 )

て対比を際立たせる表現法

14.3

対句法   対をなす同形の句の両者に、互いに対照的な語を配し ・ 即身ノ證ニオイテハミツカラ 退 崛 ノコヽロヲオコシテ

タイクツ

の高みで山鳩が鳴いた     ─大岡昇平『野火』 拡がった。日暮れに暗い淵の蔭で河鹿が鳴き、夜明けには岸 ・ 川はきまぐれに岸に当って淵を作り、または白い瀬となって

  ア ル イ ハ ハ ル カ ニ 慈

ソン

ノ 下生 ヲ 期

シ テ 、 五十六 億

オク

七 千

サン

マン

サイ

  ノ アカツキ ノ ソラ ヲ ノソミ 、

  ア ル イ ハ ト オ ク 後

フチ

ノ 出

シユ

ツセ

ヲ マチ テ 、 多

タシヤウクワウコフルテン

生嚝劫流轉 生

シヤ

ウシ

  ノ ヨル ノ クモ ニ マトエリ   アルイハワツカニ 靈

リヤウセンフタラク

山補陀落 ノ 靈

レイ

ヲ ネカヒ   アルイハフタヽヒ 天

テンシヤウ

上 人

ニン

ケン

ノ 小

セウ

ホウ

ヲ ノソム (聖覺『唯 信抄』六 2 ~八 2  改行は私に施した)

は採録できず) と 意 義 の 融 合 を 企 て る 表 現 法  ( 本 稿 が 対 象 と す る 資 料 か ら

14.4

逆対句   交錯的な配語に対義的な語句を配し、対称的な外形

三、分析資料

  本 稿 で 分 析 資 料 と し て 取 り 上 げ る の は、 次 の 六 点 で あ る。 (かっこ内は、成立年) 1 藤原為房妻書状(一〇八四~一〇九三)

(7)

  久 曽 神 昇 博 士 編『 平 安 仮 名 書 状 集 』( 汲 古 書 院  一 九 九 二 年 ) に収録されているものと、金子彰・東京女子大学日本文学科有志 編「 藤 原 為 房 妻 仮 名 書 状  語 彙 総 索 引 編 」( 東 京 女 子 大 学 日 本 文 学  第八十七号   一九九七年)から用例を採録した。 2 恵信尼書状(一二五八~一二六八)   西 本 願 寺 蔵  重 要 文 化 財『 恵 信 尼 文 書 』( 法 蔵 館  一 九 七 七 年 ) よ り 作 成、 金 子 彰・ 伊 藤 守「 恵 信 尼 書 簡 総 索 引 稿( 上 )( 下 )」 ( 新 潟 大 学 教 育 学 部 紀 要  第 二 七 巻 第 二 号  人 文・ 社 会 科 学 編  一九八六年)から採録した。 3 聖覺『唯信抄』高田専修寺本(一二三〇)   平 松 令 三 他 編『 増 補  親 鸞 聖 人 眞 蹟 集 成  第 八 巻 』( 法 蔵 館  二〇〇六年)に収録されているものから完本である高田専修寺本 を取り上げ、金子彰「専修寺蔵『唯信鈔』正月廿七日本『唯信抄 文 意 』 総 索 引 編 」( 鎌 倉 時 代 語 研 究  第 十 四 輯  一 九 九 一 年 ) よ り用例を採録した。 4 親鸞『唯信抄文意』高田専修寺   正月二十七本(一二五七)   平 松 令 三 他 編『 増 補  親 鸞 聖 人 眞 蹟 集 成  第 八 巻 』( 法 蔵 館  二 〇 〇 六 年 )、 『 高 田 法 宝 留 影  第 四 編 』( 法 蔵 館  一 九 七 四 年 ) に収録されている。これより、高田専修寺正月二十七日本を取り 上げ、用例を採録した。 5 阿弖河荘上村百姓等言上状(一二七五) 6 阿弖河荘上村地頭宗親書状(一二七五)   本 稿 で は、 『 大 日 本 古 文 書 』 家 わ け 第 一「 高 野 山 文 書 之 六 」( 東 京大学出版会   一九七九年)と石井進『中世を読み解く   古文書 入 門 』( 東 京 大 学 出 版 会  一 九 九 〇 年 ) よ り 作 成、 金 子 彰 編「 高 野山金剛峰寺所蔵   阿弖河荘上村百姓等言上状   語彙総索引稿   阿 弖 河 荘 上 村 地 頭 宗 親 書 状  語 彙 総 索 引 稿 」( 東 京 女 子 大 学 日 本 文学   第九十九号   二〇〇三年)から用例を採録した。

四、反復表現について

  各分析資料ごとにその反復表現から見られる特徴について述べ る。 ( 資 料 か ら 抄 出 す る 用 例 の 句 読 点、 改 行 は 私 に 記 し た。 漢 数 字は書状番号、算用数字は行数を示す。資料 1 ~ 6 の反復表現の 出現と割合とをまとめたものは、注の表 Ⅰ に示す。 )

妻に関する記録は残っておらず、六条斎院宣旨(源頼国の女)の 年(一〇九三)の九年間に著されたものである。筆者、藤原為房 れたものである。この四十三通は応徳元年(一〇八四)~寛治七 灌頂阿闍梨宣旨官牒及び諸仏菩薩釈義の紙背文書の中から発見さ   「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 四 十 三 通 は、 青 蓮 院 蔵 の 不 空 三 蔵 表 制 集、

1

藤原為房妻書状

(8)

妹と推定されている。六条斎院宣旨は、歌人・物語作者として知 ら れ、 藤 原 為 房 妻 も そ の 素 質 が あ っ た 女 性 で あ ろ う。 し た が っ て、京に住み当時の女性の中では高い教養を身につけていた一人 と推定できる。   「藤原為房妻書状」において、採録した反復表現は

  内訳は以下の通りである。同資料から採録した用例を抄出する。

54

例であり、

1

畳語法

43

例(

  (三十九(八) 42 ~ 4 8 ) ・ よ ろ つ お ほ し や り つ ゝ な ほ 〳〵 よ く 〳〵 い の ら せ た ま へ ・ いと〳〵 あさましうたゝの事にはゝへらさめり(一 8 ~ 9 )

79.6

% )

4.1

回帰反復 8 例(

のものならふとはへるそ うれしう (三十五(四) 1 ~ 3 4 ) まことにいとをかしうはへめりしはなのありさまにそ   わか …はなはみないとかひ〳〵しうはへり   よろこひ はへめり   るを うれしう のたまはせてはへる事をそかへす〳〵   …(略) ・ 心地は よろしう 思たまへて   これわさともはへらぬ事にはへ す(〳〵) うれしう よろこひまいらせはへり(六 2 ~ 24 ) つお ほしあつかわせたまひけるありさまも ほいはへりてかへ らさりけるにこそと うれしう 思たまへられはへりてそ   よろ ・ いとようこえてさへはへれは   ありにくうなともお ほえはへ

14.8

% )  

4.5

結句反復 3 例  (

で あ る。 1 畳 語 法、   第一に、使用されている反復表現法の種類が比較的少ないこと 二点が挙げられる。   「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 に お け る 反 復 表 現 法 の 特 徴 に つ い て、 次 の (十八 2 7 ~ 4 3 ) そ い と く る し け に は は へ め る 事 を  如 何 お は し ま す に か ・ 御 か さ い て さ せ た ま て は お は し ま す に か  ぬ る み の ほ と こ (を) きせさせたまへ (十一 1 ~ 14 ) り  こ れ を は よ る 〳〵 き せ さ せ た ま へ  ひ る は ひ と へ と も ・ あ は せ の き ぬ ま い ら( す )  い と み く る し け( に ) は へ め

5.6

% )

4.1

回 帰 反 復、

しかも、副詞を重ねた

4.5

結 句 反 復 の 三 つ に と ど ま り、

  このようにして、副詞を重ねて使用することで、その感情が強 はべりてぞ。 (一九 4 ~ 7 ) ・ 心 地 も よ ろ し う な り て は べ め れ □( ば )、 い と 〳〵 う れ し う (一六 1 5 ~ 2 3 ) た の も し う、 い と 〳〵 う れ し う の み は べ り て こ □( そ )。 ・ も の と り い で に □( な ) ど い ひ て、 あ り き は べ り け れ ば、 かれる。 い。その直後には、次に挙げるように、感情を表した形容詞が置

1

畳語法の用例が占める割合は圧倒的に多

(9)

調される。またこの点から、反復の意識は単語に集中していると 考えられる。このようなことばの小さな単位の反復は、シンプル な表現法であり、率直な思いが直接的に伝わるものであるように 考えられる。   第二に、次に示すように「係り結び」や係助詞を伴いながら反 復表現があらわれることである。 ・ ま こ □( と ) □( に )、 □( り ) む が う り し も、 い と 〳〵 心 う く あ さ ま し き 心 ち の 事 な め り と ぞ は べ り け る 。( 二 2 0 ~ 2 8 ) ・ まことや、□(こ)のたらう、大ぜのすけになりては べめれ ば、 いと〳〵 うれしうはべりて ぞ 。(一三 39 ~ 4 6 )   これは、筆者が生きた時代の強調表現は「係り結び」ないし係 助 詞 が 主 な も の で あ る こ と に 起 因 し て い る と 考 え ら れ る。 ま た、 右に挙げた(一三 39 ~ 4 6 )のように、本資料において見られ た係助詞の終助詞化での文末の強調は、平安時代から鎌倉時代に かけての「係り結び」の消 滅

注5

現象として帰納される。   平安時代後期を生きた女性による書状から、強調表現が「係り 結び」や係助詞に専ら依存することなく、ことばの小さな単位で ある単語の繰り返しというかたちで、反復表現法がうかがえる。

  「 恵 信 尼 書 状 」 に お い て、 採 録 し た 反 復 表 現 法 は る。 あ っ て 当 時 の 女 性 の 中 で も 高 い 教 養 を 持 つ 一 人 だ ろ う と 思 わ れ 進 的 な 思 想 を 掲 げ た 親 鸞 と 生 活 を と も に し た こ と か ら、 地 方 に 覚信にこれら十通の書状を宛てた。中流の家に生れたことや、先 受け継いだ土地の管理の為、晩年は越後に戻り、その地から末娘 親 鸞 と 結 婚 し、 彼 に 随 っ て 関 東 で も 過 ご し た 時 期 が あ る ら し い。 られた三善氏の息女であるといわれている。越後で流罪となった 一一八二~一二六八といわれている。恵信は、当時越後介に任ぜ の 生 没 年 は、 こ の 書 状 に 記 さ れ て い る 年 齢 か ら 逆 算 し 推 定 し た、 の 伝 記 の 不 明 で あ っ た 部 分 が、 か な り 明 ら か に さ れ た。 恵 信 尼 は、 親 鸞 の 妻 で あ り、 こ の 書 状 の 発 見 に よ っ て、 親 鸞 や 恵 信 尼 年( 一 二 六 八 ) の お よ そ 十 年 間 に 著 さ れ た も の で あ る。 恵 信 尼 十通が発見された。この書状は、建長八年(一二五八)~文永五   「 恵 信 尼 書 状 」 は、 大 正 十 年( 一 九 二 一 ) に 西 本 願 寺 宝 庫 か ら

2

恵信尼書状

内訳は以下の通りである。

45

例 で あ り、

1

畳語法

21

例  (

まち候しかとも(四 12 ~ 14 ) ・ おとゝしのしも月よりこその五月まては いまや〳〵 と時日を

46.7

% )

(10)

・ よ ろ つ つ く し か た く て  か た く て と ゝ め 候 ぬ( 七 3 0 ~ 3 2 ) ・ な に よ り も 〳〵 き ん た ち の 御 事 こ ま か に お ほ せ 候 へ (十 4 9 ~ 5 0 )

4.1

回帰反復 9 例  (

(十 24 ~ 88 ) まかにお ほせたひ候へ うけ給はり候 てたになくさみ候へく候 うけたまはりたく候 也… (略) …な ほ 〳〵 きんたちの御事 こ ( 略 ) … な に よ り も 〳〵 き ん た ち の 御 事 こ ま か に お ほ せ 候 へ よ に て い ま い ち と み ま い ら せ 又 み へ ま い ら す る 事 候 へ き … ん た ち の 御 事 も よ に う け 給 は り た く お ほ え 候  あ は れ こ の ・ 又 き ん た ち の 事 よ に ゆ か し く う け 給 は り た く 候 也  上 の き (八 5 ~ 30 ) に 申 う け た ま は る 事 た に も 候 ぬ 事 よ に 心 く る し く お ほ え 候 お ほ え 候 と も は る 〳〵 と く も の よ そ な る や う に て 候  つ ね な に こ と も い き て 候 し 時 は つ ね に 申 う け た ま は り た く こ そ かにしても いきて候時 たてゝみはやと思候へとも… (略) … く候へとん いきて候時 たてゝもみはやと思候て… (略) …い 候はす   さて いきて候時 と思候て… (略) …よろつたよりな ・ よろつつねに申うけたまはりたく候ともたしかなるたよりも

20.0

% )

4.5

結句反復 2 例  (

  7 変形反復 くにやらん (五 5 0 ~ 5 3 ) ・ しんれんはうの四のとし   むさしのくにやらん   かんつけの

4.4

% )

2

例 (

(九 2 9 ~ 3 2 ) て に て き ぬ も 候 は ん す れ は 申 は か り 候 は す  う れ し く 候 也 ・ 又 こ そ て た ひ 〳〵 た ま は り て 候 う れ し さ い ま は よ み ち こ そ

4.4

% )

10.1

同意反復・類語反復・トートロジー

3

例  (

よろつつねに申うけたまはりたく候へとも(八 3 ~ 4 ) ・ ことしは八十三になり候か   こそことし はしにとしと候へは

6.7

% )

13

造句法

3

例  (

  たゝ一すちにお ほ せ候しを(三 12 ~ 1 7 ) 人 に も あ し き に も お な し や う に し や う し い つ へ き み ち を は ふ る に も て る に も い か な る た い ふ に も た ゝ こ せ の 事 は よ き ・ 又 六 か く た う に 百 日 こ も ら せ 給 て 候 け る や う に  又 百 か 日

6.7

% )

14.1

並行体・平行法 5 例  (

さ ことし 十二   又 ことり と申おんなとし さん十四   又 あんと 候むすめとおやこさんにん候也又 はつね そのむすめの いぬま 十六   又その むすめ なてし と申候はことし 十六   又九になり ・ そ れ へ ま い る へ き も の は  け さ と 申 候 め の わ ら は と し さ ん

11.1

% )

(11)

うし と申おとこ(一 2 ~ 8 )   「 恵 信 尼 書 状 」 に お け る 反 復 表 現 法 の 特 徴 と し て 次 の 二 点 が 挙 げられる。   第一に、使用されている反復表現法の種類が比較的豊富である といえる。 1 畳語法以下、 8 種類の反復表現法が採録された。 1 畳語法で繰り返される語の多様性も顕著である。単語の反復の意 識が及ぶ範囲は広く、次に挙げる例は文章の広範囲に及んでいる といえる。 ・ 御たうのまへにはたてあかししろく候にたてあかしのにしに 御たうのまへにとり井のやうなるによこさまにわたりたるも のに ほとけをかけまいらせて候か   一たいはたゝ ほとけの御 か ほにてはわたらせ給はてたゝ ひかり のま中 ほとけのつくわ うのやうにてまさしき御かたちはみへさせ給はす   たゝ ひか り はかりにてわたらせ給   いま一たいはまさしき仏の御か ほ にてわたらせ給候しかは   これはなに ほ とけにてわたらせ給 そと申候へは(申)人はなに人ともお ほ えす   あの ひかり に てわたらせ給はあれこそ   … (略) …せいし ほ さつのけしん とゆめにもみまいらする事あまたありと申うへせいし ほさつ はちゑのかきりにて   しかしなから ひかり にてわたらせ給と 候しか(三 2 8 ~ 42 ・ 三 55 ~ 5 9 )   反復の意識は、中世初期の女性として、わずかながら、単語の 単位からそれよりも広い単位ないし範囲に及びつつあると考えら れる。   第二に、先に述べた反復の意識が、単語からそれよりも広い単 位に及びつつある点について、これは、筆者・恵信尼が宗教家で あ る 夫・ 親 鸞 の 影 響 を 受 け た で あ ろ う こ と に 因 る か と 考 え ら れ る。次に挙げる例は、反復の意識は句の範囲である。 ・ 又六かくたうに百日こもらせ給て候けるやうに   又百か日 ふ る に も  て る に も い か な る た い ふ に も た ゝ こ せ の 事 は よ き 人 に も あ し き に も お な し や う に し や う し い つ へ き み ち を は たゝ一すちにお ほ せ候しを(三 12 ~ 1 7 )   恵 信 尼 は、 仏 教 者 が 用 い た 文 章 表 現 に 無 意 識 に 触 れ な が ら 過 し、消息に夫や夫が尊敬する宗教家の言葉を借りるかたちで、あ るいは、夫の行実や自身の近況を詳細に述べる際に、その表現法 が現れたといえる。ちなみに、右の用例中「たゝこせの事は よき 人 にも あしき にも おなしやうにしやうしいつへきみちをはたゝ一 す ち に お ほ せ 候 」 の 主 語 は 法 然 上 人 で あ り

注6

、 恵 信 尼 が 親 鸞 を 介 し、法然上人の言葉を読み聞きしていたことがわかる。   特に、宗教家である夫の行実を述べる際、それは社会的なもの を意識しながら、効果をねらった半意図的な表現でもあるように

(12)

思われる。愛する娘に率直な思いを訴える一方で、夫・親鸞が生 きた信仰の世界を意識した恵信尼の姿が本資料における反復表現 から読み取られる。その使用効果は十分にあらわれていると考え られる。

  聖覺『唯信抄』において、採録した反復表現は である。 に残されている。また、書写者親鸞にとっては法然門下の兄弟子 法の名人として著名であり、貴族の招請を受けたことなどが記録 著者聖覺は、僧として名門の家筋に生まれ、早くから唱導家、説 鸞( 一 一 七 三 ~ 一 二 六 二 ) 写 の 四 本 が 現 存 し て い る の み で あ る。 い。 『 唯 信 抄 』 も、 聖 覺 直 筆 の も の は 残 っ て お ら ず、 弟 弟 子 の 親 として後進の指導を行うが、その直筆書状は現存するものが少な 下の聖覺(一一七六~一二三五)が著した。法然は浄土宗の開祖   『 唯 信 抄 』 は、 浄 土 教 の 教 義 を 説 く も の と し て、 法 然 上 人 の 門

3

聖覺『唯信抄』

1 畳語法 訳は以下の通りである。

39

例であり、内

15

例  (

(六八 3 ~六九 1 ) ル 人 ノ マ ノ ア タ リ ヨ ク ヽ ヽ ミ タ ラ ム ト コ ロ ヲ オ シ エ ム ニ ・ ワ カ タ メ ニ イ カ ニ モ ハ ラ ク ロ カ ル マ シ ク フ カ ク タ ノ ミ タ

38.5

% ) イヘリ   善スクナクハ マスヽヽ 弥 陀 ヲ 念 スヘシ   三 念 五 念 佛

ミタネムサムネムコネムフチ

・ ツミフカクハ イヨヽヽ 極 楽 ヲネカフヘシ   不 簡 破 壊 罪 根 深 ト

コクラクフケンハカイサイコンシム

ライ

カウ

トノヘタリ(七七 1 ~ 5 )

4.1

回帰反復

3

例  (

佛 ハ 功 徳 コトニスクレタリ(九一 2 ~九二 3 )

クトク

佛ハコノチカラアリカタシトイヘリコレヲ 按 スルニ 臨 終 ノ念

アンリムシユ

十 念 ニ 五 逆 ヲ 滅 ス ル ハ 臨 終 ノ 念 佛 ノ チ カ ラ ナ リ  尋 常 ノ 念

コクヰヤクメチシムシヤウリムシウ

・ ツキニマタ人ノイハク   臨 終 ノ念佛 ハ 功 徳 ハナハタフカシ  

クトクリムシユ

ンコトヲモトメムカコトシ   (四六 3 ~四七 4 ) コヽロサシヲツクシテコノ人   主 君 ニアヒテヨキサマニイハ

シユクン

主 君 ニ シ タ シ ミ ナ カ ラ  カ ネ テ  マ タ ウ ト ク  ト オ キ 人 ニ

シユクン

ヲ タノミテ   ヒトスチニ   忠 節 ヲツクスヘキニ   マサシキ

チウセチ

・ タ ト ヘ ハ  ミ ヤ ツ カ エ ヲ セ ム ニ  主 君 ニ チ カ ツ キ  コ レ

シユクン7.7

% )

6.2

連鎖漸層法

5

例  (

モフテ   コレヲトナエハ   ヒメモスニトナヘ   ヨモスカラト ツ ラ ニ ク ラ ス ニ イ ヨ ヽ ヽ 功 ヲ カ サ ネ ム コ ト 要 ニ ア ラ ス ヤ ト

コウエウ

・ 往 生 ノ 業 ハ一念ニタレリトイヱトモ   イタツラニ アカシ イタ

コフ

ヲ 現シタマヒキ(一九 1 ~一九 5 ) 善 惡國土 ノ 麁 妙 ヲ  コトヽヽクコレヲ トキ   コトヽヽクコレ

センアクコクトソタウ

・ ソ ノ ト キ ニ  世 自 在 王 佛 二 百 一 十 億 ノ 諸 佛 ノ 浄 土 ノ 人 天 ノ

セシサイワウフチニヒヤクヰチシフシヨフチシヤウトシンテン 12.8

% )

(13)

ナ フ ト モ  イ ヨ ヽ ヽ 功

クトク

徳 ヲ ソ ヘ  マ ス ヽ ヽ 業

コフ

イン

クヱチチヤウ

定 ス ヘ シ (一一八 5 ~一二〇 3 )

10.1

同意反復・類語反復・トートロジー

5

例  (

・ ノチニ 百 千 人ノイハムコトオハモチ井ス(七〇 2 ~ 3 )

セン

イヘリ(四四 5 ~四五 4 ) シ 専 修 ノモノハ 百 ニ 百 ナカラムマ レ  千 ニ 千 ナカラムマ ルト

センシユヒヤクヒヤクセンセン

・ 専 ヲステヽ 雑 ニオモムクモノハ 千 ノ 中 ニ 一 人 モムマレス   モ

センサフセンナカヰチニン 12.8

% )

14.1

並行体・平行法

4

例  (

ヘタ リ (七七 1 ~ 5 )   善スクナ クハ マスヽヽ 弥 陀 ヲ 念 ス ヘシ   三 念 五 念 佛 來 迎 ト ノ

ミタネムサムネムコネムフチライコウ

イヘ リ ・ ツミフカ クハ イヨヽヽ 極 楽 ヲ ネカフ ヘシ   不 簡 破 壊 罪 根 深 ト

コクラクフケンハカイサイコンシム 10.3

% )

14.2

対偶法・対置法

3

例  (

ル ナリ トイヘリ   易 行 道 ト イ フ ハ タ ヽ 佛 ヲ 信 ス ル 因 縁 ノ ユ ヘ ニ 浄 土 ニ 往 生 ス

イキヤウタウ

モフ ナリ   難 行道 トイフハ 五 濁 世 ニアリテ 不 退 ノ クラ井 ニ カナハムトオ

コチヨクセフタイナンキヤウタウ

  易 行 道 トイフハ 海 路 ニ 順 風 ヲエタル カコトシ

シユンフイキヤウタウカイロ

  難 行道 トイフハ 陸 路 ヲカチヨリユカム カコトシ

ナンキヤウタウロクロ

・ 佛 道 ヲ 行 スルニ 難 行道 易 行 道 アリ

フチタウキヤウナンキヤウタウイキヤウタウ 7.7

% )   易 行 道 トイフハ 浄 土 門 ナリ (三三 4 ~三五 5 )

イキヤウタウシヤウトモン

  難 行道 トイフハ 聖 道 門 ナリ

ナンキヤウタウシヤウタウモン

14.3

対句法

4

例  (

  第一に、次に挙げるような 挙げられる。   聖覺『唯信抄』における反復表現の特徴について、次の二点が 一〇〇 1 ) コヽロ 切 ナル カユヘニ 極 楽 ニ 往 生 スヘシトキクニ(九八 4 ~

コクラクワウシヤウセチ

ワ チ  ク ル シ ミ ヲ イ ト フ コ ヽ ロ フ カ ク  タ ノ シ ミ ヲ ネ カ フ チ マ チ ニ オ コ リ コ レ ヲ ウ タ カ フ コ ヽ ロ ナ キ ナ リ  コ レ ス ナ ・ 善 知 識 ノ オ シ エ ニ ヨ リ テ 十 念 ノ 往 生 ヲ キ ク ニ 深 重 ノ 信 心 タ

センチシキシムチウシンシム 10.3

% )

14.1

並行体・平行法、

法、

14.2

対偶法・対置

  難 行 道 ト イ フ ハ 聖 道 門 ナ リ  易 行 道 ト イ フ ハ 浄 土 門 ナ リ

ナンキヤウタウシヤウタウモンイキヤウタウシヤウトモン

ナリ トイヘリ   易 行 道 ト イ フ ハ ヽ 佛 ヲ 信 ス ル 因 縁 ノ ユ ヘ ニ 浄 土 ニ 往 生 ス ル

イキヤウタウ

モフ ナリ   難 行 道 トイフハ 五 濁 世 ニアリテ 不 退 ノ クラ井 ニ カナハムトオ

コチヨクセフタイナンキヤウタウ

  易 行 道 トイフハ 海 路 ニ 順 風 ヲエタル カコトシ

シユンフイキヤウタウカイロ

  難 行 道 トイフハ 陸 路 ヲカチヨリユカム カコトシ

ナンキヤウタウロクロ

・ 佛 道 ヲ 行 スルニ 難 行 道 易 行 道 アリ

フチタウキヤウナンキヤウタウイキヤウタウ 14.3

対句法の使用が比較的多いようである。

(14)

(三三 4 ~三五 5 

  第二に、先に述べたように、 る。 や聴者に鮮明なイメージを与える対句の方法は非常に効果的であ る漢文による知識に裏付けられたものであることがわかる。読者 しい表現であり、この表現法は仏典や論理的性格が強いといわれ 構成にも反復の意識が及んでいると考えられる。当時の唱導家ら り、単語ということばの小さな単位の反復だけでなく、句や文の ら に 観 念 や 語 を 対 に さ せ る 反 復 が 多 い と い う こ と で あ る。 つ ま   これは、おなじ形式におなじ長さのことば(音)を使用し、さ

14.2

対偶法・対置法として採録)

14.1

並行体・平行法、

置法、

14.2

対偶法・対

14.3

対句法という技巧的な反復法の使用が多い一方で、

語法や

1

畳   そして、次のように接続詞「アルイハ」を繰り返し用いる もまた多い。

10.1

同意反復・類語反復・トートロジーのような単語の反復

ニ 靈 山 補 陀 落 ノ 靈 地 ヲ ネカヒ   アルイハ フタヽヒ 天 上 人 間 ノ

リヤウセンフタラクレイチテンシヤウニンケン

多 生 嚝 劫 流 轉 生 死 ノ ヨル ノ クモニマトエリ   アルイハ ワツカ

タシヤウクワウコフルテンシヤウシ

ツ キ ノ ソ ラ ヲ ノ ソ ミ、 ア ル イ ハ ト オ ク 後 佛 ノ 出 世 ヲ マ チ テ 、

コフチシユツセ

イハ ハルカニ 慈 尊 ノ 下生 ヲ 期 シ テ 、五十六 億 七 千 萬 歳 ノ アカ

シソンコオクセンマンサイ

・ 即身ノ證ニオイテハミツカラ退崛ノコヽロヲオコシテ   アル 鎖漸層法のような事象の枚挙の方法も多いのである。

6.2

連 にあらわれている。 信抄』には、彼の得意とする表現技法が反復にもこのように如実   著 者 の 聖 覺 は、 当 時 第 一 の 唱 導 家 と 言 わ れ た 人 物 で あ る。 『 唯 意識しながら、効果的にそれを駆使したといえる。 であるばかりでなく、単語や句、文ということばの大小の単位を   し た が っ て、 『 唯 信 抄 』 に お け る 反 復 表 現 法 は、 決 し て 技 巧 的 ろう。 うまでもなく、読者や聴者にとって抽象的概念の理解を助けただ 解を読者や聴者に求めたといえる。また、このような方法は、い   同じ語や意味を何度も繰り返し、宗教上の抽象的概念の徹底理 小 報 ヲ ノソム(六 2 ~八 2 )

セウホウ

親鸞『唯信抄文意』

  『 唯 信 抄 文 意 』 は、 鎌 倉 新 仏 教 の 開 祖 の 一 人 で あ る 親 鸞 ( 一 一 七 三 ~ 一 二 六 二 ) が 著 し た も の で あ る。 親 鸞 は、 日 野 家 の 出身で比叡山にて修学、後に法然の弟子となる。また、恵信尼の 夫である。ここで取り上げる『唯信抄文意』は、前出資料として とり上げた『唯信抄』のなかに引用されている経文や漢文等に注 釈を附したものである。いわば『唯信抄』の注釈書として位置づ けられる。現在、二本が親鸞真筆として伝存している。彼は『唯

(15)

信 抄 』 を 高 く 評 価 し、 同 書 を 自 ら 書 写 し、 最 晩 年 ま で、 彼 の 門 弟 た ち に 与 え た と い う。 本 稿 で は、 高 田 専 修 寺 正 月 二 十 七 日 本 (『 高 田 法 宝 留 影 』 第 四 編、 一 九 七 四 年 ) を 取 り 上 げ る。 こ れ と、 そ の 二 週 間 前 に 書 写 さ れ た 正 月 十 一 日 本( 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 集 成 』 第八巻所載、法藏館、一九七四年)の両書には振り仮名と句読点 の有無等の他は、大きな相違は見られない。   親 鸞『 唯 信 抄 文 意 』 に お い て、 採 録 し た 反 復 表 現 は

1 畳語法 り、内訳は以下の通りである。

67

例 で あ

19

例  (

(一〇四 3 ~ 4 ) ・ オ ナ シ コ ト ヲ・ タ ヒ ヽ ヽ ・ ト リ カ ヘ シ 〳〵・ カ キ ツ ケ タ リ・ (五五 3 ~ 4 ) ・ マ フ シ・ ア ラ ワ シ・ 候 ハ ネ ト モ ア ラ ヽ ヽ ・ マ フ ス ナ リ・

28.4

% )

4.5

結句反復

8

例  (

レ ル ト ナ リ・ 増 上 ハ・ ヨ ロ ツ ノ コ ト ニ・ ス ク レ タ ル ナ リ・

ソウシヤウ

大 ハ オ ホ キ ナ リ・ 勝 ハ  ス ク レ タ リ・ ヨ ロ ツ ノ 善 ニ・ マ サ

シヨウセン

・ 多 ハ 大 ノ コ ヽ ロ ナ リ ・ 勝 ノ コ ヽ ロ ナ リ ・ 増 上 ノ コ ヽ ロ ナ リ ・

タシヨウソウシヤウ

ハスキラハス トナリ (三九 2 ~四〇 1 ) クナキモノ トナリ ・ 高 才 ハ・ 才 学 ヒロキモノ・コレヲ・エラ

カウサイサイカク

・ 不 簡 下 智 与 高 才 トイフハ・ 下 智 ハ・ 智 慧 アサク・セハク・ス

フケンケチヨカウサイケチチエ 11.9

% ) (四七 4 ~四八 3 )

7

連鎖法

11

例  (

~六一 4 ) リ ・ 法 身 ハ ・ イ ロ モ ナ シ・ カ タ チ モ・ マ シ マ サ ス・ ( 六 〇5

ホフシン

佛 性 ナリ ・ 佛 性 スナワチ ・ 法 性 ナリ ・ 法 性 スナワチ ・ 法 身 ナ

フチシヤウフチシヤウホフシヤウホフシヤウホフシン

・ コ ノ 心 ニ 誓 願 ヲ・ 信 樂 ス ル カ・ ユ ヘ ニ・ コ ノ 信 心 ス ナ ワ チ・

シムセイクワンシンケウシンシム 16.4

% )

10.1

同意反復・類語反復・トートロジー

8

例  (

浄土ヘ井テ・ユクトナリ(三八 2 ~三九 1 ) キ ヒ ト ト イ フ・ コ レ ラ ヲ マ サ ニ モ テ・ エ ラ ハ ス・ キ ラ ハ ス ・ フ・モテトイフ・ヰテユクトイフ・ 富 貴 ハ・トメルヒト   ヨ

フク井

貧 窮 ハ・ マ ツ シ ク・ タ シ ナ キ モ ノ ナ リ・ 将 ハ・ マ サ ニ ト イ

ヒンク

・ 不 簡 貧 窮 将 富 貴 ト イ フ ハ 不 簡 ハ エ ラ ハ ス キ ラ ハ ス ト イ フ・

フケンヒンクシヤウフク井フケン 11.9

% )

13

造句法

17

例  (

リ・ (八四 2 ~八五 3 ) ルナリ・ 信 心 カクトイフハ・ 本 願  眞 實 ノ・ 三 信 ノカクルナ

シンシムホンクワンシンシチサムシン

ムマレストイフ   ナリ・一 心 カクルトイフハ・ 信 心 ノ  カク

シムシンシム

少 ハ ・ カ ク ル ト イ フ ・ ス ク ナ シ ト イ フ ・ 一 心 ・ カ ケ ヌ レ ハ・

シムセウ

・ 若 少 一 心 ト・ イ フ ハ・ 若 ハ ・ モ シ ト イ フ ・ コ ト シ ト イ フ ・

ニヤクセウ井チシムニヤク25.4

% )

14.1

並行体・平行法

4

例  (

・ 内 ハ・ ウ チ ト イ フ・ コ ヽ ロ ノ ウ チ ニ・ 煩 悩 ヲ・ 具 セ ル ユ ヘ

ナイホムナウク 6.0

% )

(16)

ニ・ 虚

ナ リ ・ 假

ナ リ ・ 虚

ハ・ ム ナ シ ク シ テ・ 實

シチ

ナ ラ ヌ ナ リ ・ 假

ハ・カリニシテ 真

シン

ナラヌナリ ・(九〇 5 ~九二 3 )   親鸞『唯信抄文意』における反復表現法の特徴について次のこ とが考えられる。   『 唯 信 抄 文 意 』 は『 唯 信 抄 』 の 注 釈 書 と し て 著 さ れ た も の で あ り、本書における文章は、親鸞が当時の注釈書の文型「─ハ─ナ リ」等に従ったものが多い。注釈文型に従いながらも、多彩な表 現技法が見られるのが本書の特徴である。そのために、

復、

4.5

結句反

7

連鎖法、

もの、つまり、彼の独自的な反復表現法であると考えたい。 著 者 の 姿 勢 か ら、 「 ─ ハ ─ ナ リ 」 の よ う な 文 型 の 反 復 は 意 図 的 な コトコトヲ・タヒヽヽ・トリカヘシ〳〵・カキツケタリ 」という 書)に記された読者に「ヤスク・ココロエ・サセムトテ・ オナジ あ ら わ れ て い る。 先 に も 述 べ た よ う に、 『 唯 信 抄 文 意 』 本 文( 奥   注釈書の文型に従いながらもその文章は親鸞の表現法が如実に とも考えられる。 規則性を予感させ、耳で理解されやすいものを積極的に採用した 人々の言語使用状況に歩み寄るために、このように文章の中にも 親 鸞 が 布 教 の 対 象 と し た、 漢 文 の 教 義 を 理 解 す る に 難 い 地 方 の る。 そ し て、 こ の 点 が 反 復 表 現 の 用 例 数 の 多 さ に 起 因 し て い る。

13

造句法という文構成の反復が多く用いられてい   また、次に挙げるように

う 点 で あ る。 識 字 層 拡 大 に 伴 う、 一 般 大 衆 へ の 文 章 の 配 慮 で あ 文章意識があった。仮名書きを重視し、且つわかり易く記すとい   この時代、日蓮・道元・一遍等、仏教者にはその底に共通する を用いたように考えられる。 子を予測させることで生じる安定感を考慮しながら、反復表現法 により、読者や聴者に鮮明なイメージを与える効果や、一定の調 たように思われる。したがって、多くの知識と強い宗教的な信念 念、 「 地 位 や 資 質 に 関 わ り な い 」 衆 生 へ の 布 教 の 信 念 が あ ら わ れ

注8

を駆使したこと、そしてその反復表現法に著者の仏教に対する信   このように、注釈するに際し、 「 トリカヘシ (繰り返し) 」表現 的かつ絶対的な慈悲を強調し た 」ことに起因すると考えられる。

注7

  このような用例が数例見られるのは、親鸞が「阿弥陀仏の包括 ハスキラハス トナリ(三九 2 ~四〇 1 ) クナキモノトナリ・ 高 才 ハ・ 才 学 ヒロキモノ・コレヲ・ エラ

カウサイサイカク

・ 不 簡 下 智 与 高 才 トイフハ・ 下 智 ハ・ 智 慧 アサク・セハク・ス

フケンケチヨカウサイケチチエ

ハスキラハス トナリ(三九 2 ~四〇 1 ) クナキモノトナリ・ 高 才 ハ・ 才 学 ヒロキモノ・コレヲ・ エラ

カウサイサイカク

・ 不 簡 下 智 与 高 才 トイフハ・ 下 智 ハ・ 智 慧 アサク・セハク・ス

フケンケチヨカウサイケチチエ

として採録した句、 「エラハス・キラハス」が幾度か用いられる。

10.1

同意反復・類語反復・トートロジー

(17)

る。 こ こ で 見 た『 唯 信 抄 文 意 』 に は そ れ が 明 瞭 に あ ら わ れ て い る。

阿弖河荘上村百姓等言上状

  5 「 阿 弖 河 荘 上 村 百 姓 言 上 状 」 と 6 「 阿 弖 河 荘 上 村 地 頭 宗 親 書 状 」 は、 高 野 山 の 金 剛 峯 寺 に 伝 来 し、 鎌 倉 中 期 の 建 治 元 年 ( 一 二 七 五 ) に、 現 在 の 和 歌 山 県 有 田 郡 有 田 川 町 付 近 に 存 在 し た 荘園の百姓たちと地頭によって記されたものである。 5 「阿弖河 荘上村百姓等言上状」は、地頭の非法を告発する内容、全十三カ 条ある。稚拙とも見られる片仮名を連ねて、文字を書くことので きる百姓が自ら記したものである。当時の口語と見られるものが 強 く 反 映 さ れ て い る 文 章 で あ る。 6 「 阿 弖 河 荘 上 村 地 頭 宗 親 書 状」は、 5 「阿弖河荘上村百姓言上状」で、荘園の百姓たちによ る地頭の非法告発に反論するかたちで記されものである。当時の 武士階層の文章表現を見ることができる文書である。   「 阿 弖 河 荘 上 村 百 姓 等 言 上 状 」 に お い て、 採 録 し た 反 復 表 現 は

14

例であり、内訳は以下の通りである。

1

畳語法 8 例   (

ミヽヲキリ、ハナヲキリ、カミヲキリテ、アマニナシテ、ナ ・ ヲ レ ラ カ コ ノ ム キ マ カ ヌ モ ノ ナ ラ ハ  メ コ ト モ ヲ ヲ イ コ メ、

57.1

% ) レ候アイタ、ヲンサイモク イヨ〳〵 ヲソナワリ候イヌ( ワホタシヲウチテ、サエナマント候ウテ、セメセンカウセラ

33

34

4.1

回帰反復 1 例  (

トラルヽコ ○ 、タヘカタク候( 2 ~ 6 )

タソノウエニ、トシヘチニ一タンニ二百文 ノ フセ レウ ヲセメ

ツツ

ヲ、ソノウエニチトウノカタエ、 ○ 四百文 フセ ラレ 候ヌ、マ

マタ

・ フ セ タ ノ コ ト、 リ ヤ ウ ケ ノ ヲ カ タ エ、 フ セ シ ツ メ ラ レ テ 候

7.1

% )

6.2

連鎖漸層法 3 例  (

エ セメツカワレ候 ヘハ( イワ チカフトマウシ 、カクノコトクノ人フヲ、チトウノカタ ・ ヲンサイモクノコト、 アルイワ チトウノキヤウシヤウ 、 アル

21.4

% )

18

22

13

造句法

2

例   (

レ候アイタ、ヲンサイモクイヨ〳〵ヲソナワリ候イヌ( ワホタシヲ ウチテ 、 サエナマント 候ウテ 、セメセンカウセラ ミヽヲキリ、ハナヲキリ、カミヲキリテ、 アマニ ナシテ 、 ナ ・ ヲ レ ラ カ コ ノ ム キ マ カ ヌ モ ノ ナ ラ ハ  メ コ ト モ ヲ ヲ イ コ メ、

14.3

% )

33

て次のことが挙げられる。   「 阿 弖 河 荘 上 村 百 姓 等 言 上 状 」 に お け る 反 復 表 現 の 特 徴 に つ い

34

(18)

  本資料で採録された反復表現法の種類は

百姓ウセ候ナンスル候( イ リ 、 百 姓 ヲ ト リ コ メ ト リ コ メ 、 セ タ ケ ラ レ 候 ヘ ハ 、 イ ヨ 〳 〵 ・ 百姓ノイヲリニ、モノヽクヒウクヲソロエテ、 フミイリフミ わる。 復の使用により、地頭の横暴さや執拗さが鮮烈な印象となって伝 に及んだ。次に挙げる「フミイリ」 、「トリコメ」ような動詞の反

1

畳語法以下、四種類

70

~ ツキ、アワ、ヒエヲトリカワルヽコト、タヘカタク候 ( マクサ、一日ニ一斗三升セメトリ候 、 ソノウエニ 、 マメ、ア 候コト、タエクラウハカリモ候ス 、 ソノウエニ ウマノカイノ リワ、ナン十日モタツマシト候テ、一日ニクリヤ三トツヽシ ノモトニシキヰ候テ、イロ〳〵ノモノヲセメトラサランカキ ・ 十月廿五日ヨリ、チトウタラウ、マコシ朗上下丗五人、 百姓 み上げるように記すことで、 「 タヘカタク候 」状態を強調する。 している。こうした方法で地頭の非法を枚挙し、悲惨な事象を積 八 2 、一 一 2 ~ 一 二 5 ) で も 見 ら れ た よ う な 添 加 の 接 続 詞 を 反 復   ま た、 次 に 挙 げ る 例 は、 先 に 取 り 上 げ た『 唯 信 抄 』( 六 2 ~

74

78

~ かがえる。また、   このような表現から、事実を確実に描写しようとする姿勢がう

87

13

造句法で採録された次に挙げる用例は本資料 レ候アイタ、ヲンサイモクイヨ〳〵ヲソナワリ候イヌ( ワホタシヲ ウチ テ 、サエナマント候ウテ、セメセンカウセラ ミヽ ヲキリ 、 ハナ ヲキリ 、 カミ ヲキリ テ 、 アマニ ナシ テ 、 ナ ・ ヲ レ ラ カ コ ノ ム キ マ カ ヌ モ ノ ナ ラ ハ  メ コ ト モ ヲ ヲ イ コ メ、 の中で最も有名である。

33

~ らず、 用 形 + テ( 接 続 助 詞 )」 の 句 が 反 復 さ れ る。 酷 い 内 容 に も か か わ リ 」の句を続ける構成が繰り返される。その後にさらに「動詞連   順に「ミミ」 、「ハナ」 、「カミ」 、「アマ」の二音節の後に「 ヲキ

34

た技巧的なものであるとは言い難い。このような口語的性格が強 付ける。しかしながら、その素朴な表現から、知識に裏付けられ ならぬ切実な訴えであり、慟哭に近いもののように読み手を惹き 事実を確実に描写することで強調効果が発揮されていよう。並々 ち は 地 頭 の 非 法 を 訴 え て い る。 本 資 料 で 見 ら れ た 反 復 表 現 法 は、   このように種々の方法を用いながら、中世初期を生きた百姓た を強調し、訴えたのである。 恐怖を覚えたことは想像に難くない。このようにして地頭の非法 常的に地頭が脅迫したこと、そして、これにより百姓たちは強い る。非常に口語的性格が強く印象に残るといえる。ここから、日

13

造句法として採録された ほ どに言いよどみない文章であ

(19)

い資料からも、種々の反復表現法が採録できたことは、当時、大 衆にも反復表現が強調の方法として、たしかに定着していたこと がうかがえる。

阿弖河荘上村地頭宗親書状

  6 「 阿 弖 河 荘 上 村 地 頭 宗 親 書 状 」 は 、 先 に 挙 げ た 、 5 「 阿 弖 河 荘 上 村 百 姓 言 上状 」 で荘 園 の 百 姓 た ち が 告 発 し た 地 頭 の 非 法に つ い て 、 地 頭 湯 浅 宗 親 が そ れ に 反 論 す る か た ち で 記 し た も の で あ る 。 本 資 料 で は 、 採 録 された反 復 表 現 、 全 6 例 は す べ て 1 畳 語 法 に 分 類 さ れ る 。 重 ね て 使 用 さ れ て い る 語 も 、「 せ う 〳 〵 」、 「 条 〳 〵 」、 「 ない〳〵 」、 「 かつ〳〵 」の四語にとどまる。専ら単語を反復し、 反復表現法の方法に多様性が認められない。本書状は、次の文章 がとってつけられたようにして結ばれる。 ・ 一先年のみしんの事、とうさいあひたつね候て、けふハ せう 〳〵 にても、 かつ〳〵 さたしまいらすへく候、この定をもん て御ひろうあるへく候(

63

反復表現法から見られた慟哭に近い訴え、つまりその真剣さのレ うな地頭の姿勢が書状から伺える。百姓たちによる「言上状」で の意を表する一方、百姓にはおどかしの言葉を忘れな い 、このよ

注9

  百姓の非法の提訴にあって大あわてで円満院には低姿勢で恭順

66

) ベルと明らかに異なるようである。

  むすび

  「 反 復 」 は、 現 代 の 私 た ち も 無 意 識 的 に し ろ、 意 識 的 に し ろ 用 いるものであり、人間の脳にとって作用の大きなものなのであろ う。鎌倉時代に記された文書類においても強調法ないし修辞法と し て 用 い ら れ、 読 者 や 聴 者 に 訴 え る 力 を 大 き な も の と し て い る。 後 世 の 人 間 に と っ て も、 そ れ は 魅 了 さ れ る 表 現 法 の ひ と つ で あ る。   1 ~ 6 の文書類で見られた反復表現は、時代語による表現法が 如実に反映されているように考えられる。中世の人々の反復表現 は、性差や階層差という位相により使用する姿勢に違いはあるも のの、強調表現のひとつとして定着し、多様性が生じているよう である。   本稿で資料として取り上げた平安後期と鎌倉中期の女性の仮名 書状のそれぞれの筆記者である二人の女性を取り巻く環境は異な る点が多い。短絡的に時代を視点として比較するに多々問題が存 するが、あえて「藤原為房妻書状」と「恵信尼書状」を比較する ならば、時代とともに反復表現の定着と多様性という変化が認め ら れ る。 「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 に お け る 1 畳 語 法 の 使 用 法 が 顕 著 で

(20)

あ り、 全 体 の 約 8 割 を 占 め、 同 書 の 反 復 表 現 法 は、 単 語 の 単 位 で 反 復 す る 方 法 が 主 た る も の で あ る こ と が わ か る。 一 方、 「 恵 信 尼 書 状 」 に お け る 同 反 復 表 現 法 は、 約 5 割 に 満 た な い。 さ ら に、 「 恵 信 尼 書 状 」 は、

法 は、 1 畳 語 法 の よ う な 単 純 な も の か ら、 識層、社会に変革をもたらした新仏教の開祖が用いた反復表現方   ま た、 『 唯 信 抄 』 や『 唯 信 抄 文 意 』 か ら、 こ の 時 期 に お け る 知 範囲は広いようである。 紀後に記された「恵信尼書状」において、反復表現の意識が及ぶ が 及 ん で い る と い え る。 つ ま り、 「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 か ら 約 一 世 の構成というよりも、単語から文章全体におけるものとしてそれ は 及 ば な い も の の、 「 恵 信 尼 書 状 」 の 反 復 の 意 識 は、 単 語 か ら 文 『 唯 信 抄 』 や『 唯 信 抄 文 意 』 で 見 ら れ た「 駆 使 」 の レ ベ ル に ま で 方 法 が「 藤 原 為 房 妻 書 状 」 に 比 べ、 非 常 に 豊 富 で あ る と い え る。

4.1

回 帰 反 復 以 下 6 種 の 採 録 が あ り、 反 復 の

4.7

連 鎖 法、

13

造 句 法、

る 姿 勢 の 浸 透 が、 知 識 層 か ら 百 姓 の 幅 広 い 層 の 文 章 で 認 め ら れ   そして、反復表現を通して、確実な描写ないし詳悉な説明をす 果を十分に考慮したうえで発揮させていると考えられる。 められる。読者や聴者に与える鮮明かつ安定的な表現は、その効 れる語同士の対応を図るという複雑な方法を用いていることが認

14.1

並行体・平行法という文構成での繰り返し、さらにその使用さ 倉時代語における「論理の明晰化、分析的表 現 うよりは訴える力をあらんかぎり発揮させていよう。これは、鎌 並存する事実の描写は、読み手に鮮烈な印象を与え、伝えるとい る。 「 阿 弖 河 荘 上 村 百 姓 等 言 上 状 」 に お け る、 反 復 表 現 の 使 用 と

注注

」の一現象として 帰納されるように思われる。   このようにして、鎌倉時代の文書等の資料から反復表現をみて きたが、多彩な反復表現が中世の文章表現の特徴の一つとして帰 納できたと考えられる。反復表現がもつ効果は大きく、わかりや すさ、そして、人が訴える力を強く発揮させているのである。こ れは、日本語史上における「新しい中世的な創 造

注注

」というものの 一 つ と し て 捉 え た い。 文 章 表 現 の う ち に、 「 反 復 」 と い う 方 法 を 意識的にしろ無意識的にしろ使用した中世の人々は、本稿での資 料を見るかぎり、それぞれの相手に、喜びも悲しさも怒りも愛し さもすべて真剣に伝えている。そして、後世の私たちにもそれが ひしひしと伝わる。反復表現から、当時を生きた人々の言語表現 生活、そして生きる姿が鮮明に浮かび上がるといえよう。

(21)

  注 1  山口仲美『日本語の歴史』 (岩波書店   二〇〇六年)に掲載 注 2  山口仲美『平安文学の文体の研究』明治書院   一九八四年 注 3  金 子 彰「 親 鸞 の 片 仮 名 交 り 注 釈 書 の 文 章 表 現 法 の 特 質 」「 訓 点 語 と 訓 点資料」第七十七輯   訓點語学会   一九八七年 注 4  「 畳 語 」( 参 考  飛 田 良 文 他 編『 日 本 語 研 究 事 典 』 明 治 書 院  二 〇 〇 七 年) 語 形 成( 造 語 ) の 面 か ら 見 れ ば、 同 じ 語 を 重 ね て 一 語 と し た も の で あ り、 語 構 造 の 面 か ら 見 れ ば、 同 じ 二 つ の 語 基 か ら 成 る 合 成 語 で あ る。 …( 略 ) …「 物 々 し い 」「 馴 れ な れ し い 」「 重 々 し い 」 の よ う に 接 尾 辞「 し い 」 を 付 け て 派 生 語 と な っ た も の は、 厳 密 に は 畳 語 で は な い。 …( 略 ) … な お、 畳 語 は、 「 人 々」 「 山 々」 の よ う な 和 語 に つ い て い う の が 普 通 で、 「 延 々」 「 刻 々」 の よ う な 漢 語 を 含 め る こ と は 少 な い。 和 語 の 畳 語 に つ い て 主 な 形 成 パ タ ー ン と 構 造( 意 味 ) を 挙 げ る と、次のようになる。

( 1 )

名 詞 を 重 ね て 多 様 性 を 表 す 名 詞 と す る( 人 々、 山 々、 木 々、 村々、家々、品々)

( 2 )

名 詞 を 重 ね て 時 を 表 す 副 詞 と す る( 時 々、 常 々、 日 々、 し ば し ば)

( 3 )

動 詞 の 連 用 形 を 重 ね て 継 続 や 反 復 を 表 す 副 詞 と す る( 泣 き 泣 き、 休み休み、思い思い)

( 4 )

動 詞 の 連 用 形 を 重 ね て 様 子 を 表 す 副 詞 と す る( 生 き 生 き、 散 り 散り、のびのび、晴れ晴れ) ( 5 )

ク 活 用 形 容 詞 の 語 幹 を 重 ね て 強 調 の 意 味 を 表 す 副 詞 と す る (広々、黒々、寒々、高々、近々) ( 6 )

副詞を重ねて副詞とする(まだまだ、まずまず) ( 7 )

感動詞を重ねて感動詞とする(あらあら、まあまあ)

中 村 明『 日 本 語 レ ト リ ッ ク の 体 系 』 に お け る 1 畳語法 は、 畳 語 も そ れに含まれる。 注 5  山口仲美『日本語の歴史』岩波書店   二〇〇六年 注 6  石田瑞麿『親鸞とその妻の手紙』春秋社   一九六八年 注 7  中村元監修『エリアーデ仏教事典』   二〇〇五年   法蔵館 注 8  注 7 に同じ。 注 9  石 井 進『 中 世 を 読 み 解 く  古 文 書 入 門 』 東 京 大 学 出 版 会  一 九 九 〇 年 注

10

沖森卓也『日本語史』おうふう   一九八九年

11

(いいぬま   ちさと   二〇〇八年日文卒)

10

に同じ。

(22)

藤原為房   妻書状   2恵信尼書状 聖覺     『唯信抄』 親鸞     『唯信抄 文意』   阿弖河荘     上村百姓等 言上状   阿弖河荘     上村地頭宗   親書状   

1 畳語法 43

(79.6%) 21

(46.7%) 15

(38.5%) 19

(28.4%) 88

(57.1%) 6

(100.0%)

4.1回帰反復 8

(14.8%) 9

(20.0%) 3

(7.7%) 0 1

(7.1%) 0

4.5結句反復 3

(5.6%) 2

(4.4%) 0 8

(11.9%) 0 0

4.7連鎖法 0 0 0 11

(16.4%) 0 0

6.2連鎖漸層法 0 0 5

(12.8%) 0 3

(21.4%) 0

7変形反復 0 2

(4.4%) 0 0 0 0

10.1同意反復・

  類語反復・

  トートロジー 0 3

(6.7%) 5

(12.8%) 8

(11.9%) 0 0

13 造句法 0 3

(6.7%) 0 17

(25.4%) 2

(14.3%) 0

14.1並行体・

  平行法 0 5

(11.1%) 4

(10.3%) 4

(6.0%) 0 0

14.2対偶法・

  対置法 0 0 3

(7.7%) 0 0 0

14.3対句法 0 0 4

(10.3%) 0 0 0

全反復表現 54 45 39 67 14 6

表Ⅰ 各資料における反復表現の出現数と割合

      

(%は各資料の各反復表現法数÷全反復表現数)

参照

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