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(1)

2009年度修士論文

高等学校における海外教育研修の教育的意義に関する研究 ――― 海外教育研修プログラム参加生徒のナラティヴを通して ――

Research on Educational Significance of International Exchange Program in High School : Through Narrative Approach to the Students who participated International Exchange Program

埼玉大学大学院教育学研究科 学校教育専攻学校教育学専修教育学分野

木下 永子Eiko Kinoshita

(2)

序章 本研究の目的・方法と意義

(1)研究題目設定の背景

(2)なぜ海外教育研修プログラムの教育的意義に関する研究なのか

(3)研究の目的

(4)研究方法

第1章 国際理解教育の動向と課題 第1節 国際理解教育の動向

第2節 国際理解教育の課題

第2章 高等学校における海外教育研修プログラムの事例研究 1 国際理解教育における海外教育研修の位置づけ

(1)国際交流の意義と目的

(2)高等学校における国際交流等の状況について

2 海外教育研修プログラムにおける研究事例 3 海外教育研修プログラム参加生徒のナラティヴから見えてくるもの

1 研究方法

(1)インタビューについて

(2)インタビューの方法

(3)ナラティヴ分析について

(4)ナラティヴのなかで起こること

(5)青少年海外研修における研究「対象」の設定

(6)インタビューの対象

第2節 海外教育研修プログラムの教育的意義

(1)目に<見える>「成果」と<見えない>「成果」

(2)経験としての<旅をすること>

(3)参加生徒のナラティヴからの考察する海外教育研修における教育的意義 第3節 これからの海外教育研修プログラムの方向性

(1)なぜ「ふりかえり」が必要なのか

(2)「ふりかえり」のなかから生起するもの

終章 まとめ・結論 本研究の成果と今後の課題

(1)本研究の成果

(2)今後の課題

(3)

序章

本研究の目的と意義

(1)研究題目設定の背景

国際連合の一専門部局であるユネスコ(UNESCO:United Nations Educational,

scientific, and Cultural Organization)、すなわち国際連合の教育・科学・文化機関の「憲

章」冒頭部分に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を 築かなければならない」という有名な文章がある。続いて、四段落下に「政治及び経済的 取り決めにのみ基づく平和は、永続する平和ではなく、平和は人類の知的及び精神的連帯 の上に築かれなければならない」とある。0F1 この基本的理念のもとに、第二次世界大戦後、

国際連合の一専門部局であるユネスコは一貫して国際理解教育を推進してきた。

日本の国際理解教育は、1951年に日本がユネスコに加盟したことから始まった。そして 1974年ユネスコにおける「国際理解、国際協力および国際平和のための教育ならびに人権 および基本的自由についての教育に関する勧告」を契機に、その重要性が注目されるよう になった。日本ユネスコ国内委員会は1984年に「国際理解教育の手引き」を刊行し、基本 目標として「①人権の尊重 ②他国文化の理解 ③世界連帯意識の育成」をあげた。国際 理解教育を研究する学校は、この基本目標を研究のスタートにしている。また「21 世紀を 展望した我が国の教育の在り方について-- 子どもに生きる力とゆとりを--1996 年第 15 期中央教育審議会第一次答申)は、「国際理解を深め、国際性を養う」教育を実現する方途 として「単に知識理解にとどめることなく、体験的な学習や課題学習などをふんだんに取 り入れて」いくこと、より具体的には、「外国への修学旅行、姉妹校提携、国内の外国人や 外国の学校との交流学習等々」などの「国際交流活動」への参加、などを例示する。

埼玉県を例に挙げると「海外諸外国の高校と学校単位の国際交流を推進し、緊密で継続 的な相互理解と友好の絆を深めることにより、世界の平和と人類の福祉に貢献する国際人 の育成を図る」ことを念頭にいれた埼玉県のインターリンクス事業の発足もこうした流れ を反映している。埼玉県は平成 7 年度に、世界の高校と密接な絆を結ぶ学校単位の国際交 流をねらいとした、“彩の国”県立高校インターリンクス事業」(この事業は 2005 年度で 終了し、2006年度より「高校生体験活動推進事業」の中に「海外授業体験事業」として実 施されている)を開始した。この事業は、埼玉県の高校生が海外諸地域の同世代の若者と学 校単位の国際交流を図るために実施されている事業である。海外教育研修プログラムの質 の改善に向けて、高等学校では研修プログラム実施後に参加生徒に研修に対するアンケー トを取ることや報告書を提出させ、研修の記録を冊子にまとめていることを中心に行われ てきた。

先行研究においては、Furnham and Bochner(1986)は、「長期滞在者、留学生、帰国子女 らの異文化体験研究は多いが、海外短期滞在者(観光やビジネスのための海外出張)の異

1岩間浩『ユネスコ創設の源流を訪ねて』学苑社 2008 p.7

(4)

文化体験研究は少ない」と述べている。1F2

しかし最近では、海外修学旅行などを行う高等学校が増加している傾向にあり、短期海 外研修の異文化体験研究も徐々に増えつつある。しかし研究において研修そのものが直接 的に生徒にもたらした異文化理解や英語力の向上などを検討するに留まっている。しかし 生徒にもたらした異文化理解や英語力の向上などを検討するだけでなく、それが研修後の 彼らの意識や態度に及ぼした持続的な影響を考察する必要があるが、海外教育研修プログ ラム参加生徒の卒業後の内面的経時変化に関しての研究が少ないのが現状である。

(2)なぜ海外教育研修プログラムの教育的意義に関する研究なのか

『英語教育改善実施状況調査(2006年度・2007年度)』主な結果概要(高等学校)」を通 して見る国際交流の実施状況

実際に、2003331日に策定した「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画 の策定について」において示した各目標の達成状況について調査したもののなかで、特に 国際交流の実施状況結果を2006年度、2007年度と概観してみる。全国の公立高等学校(全 日制)を対象に、文部科学省が調査しており、2006年度は3,779校を対象に調査した。2F3 平成18年度(2006年度)英語のモチベーションの向上について

(1)都道府県・指定都市教育委員会等が主催した高校生を対象とした英語の授業以外で 英語を使う取組の実施状況

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実 施 自 治 体数

4県市

6.5%)

31県市

50.0%)

17県市

27.4%)

17県市

27.4%)

21県市

33.9%)

5県市

8.1%)

(2)英語の授業以外で英語を使う取組状況(学校主催)

①国際関係(語学を含む)の学科・コースを有する学校(419校)

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実施校数 74

17.7%

248

59.2%)

206

49.2%)

287

68.5%)

263

62.8%)

72

17.2%)

②国際関係(語学を含む)の学科・コースを有しない学校 (3,360)

2 曽田陽子・飯塚雄一 「短期海外研修における異文化体験」『島根県立看護短期大学要』

5 2000 pp.51-58

3文部科学省「『英語教育改善実施状況調査』主な結果概要(高等学校)20062007

(5)

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実施校数 276

8.2%

642

19.1%)

164

4.9%)

828

24.6%)

1,075

32.0%)

73

2.2%)

平成19年度(2007年度)英語のモチベーションの向上について

平成19年度は、3,710校を対象に調査した。

(1)都道府県・指定都市教育委員会等が主催した高校生を対象とした英語の授業以外で 英語を使う取組の実施状況

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実 施 自 治 体数

0県市

0.0%)

23県市

35.9%)

8県市

12.5%)

15県市

23.4%)

18県市

28.1%)

5県市

7.8%)

(2)英語の授業以外で英語を使う取組状況(学校主催)

①国際関係(語学を含む)の学科・コースを有する学校 (407)

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実施校数

76

18.7%

245

60.2%)

180

44.2%)

267

65.6%)

242

59.5%)

53

13.0%)

②国際関係(語学を含む)の学科・コースを有しない学校(3,303校)

取組内容

英 会 話 サ ロ

ス ピ ー チ コ ンテスト等

サマーキャンプ等の 英語合宿

留 学 生 や 海 外 生 徒 等 と の交流

海外研修 その他

実施校数

262

7.9%

642

19.4%)

148

4.5%)

831

25.2%)

1,057

32.0%)

65

2.0%)

ここでは文部科学省が英語のモチベーションの向上について留学生や海外生徒等との交流 のパーセンテージをみると、国際関係(語学を含む)の学科・コースを有する学校では68.5

(平成18年度)から 65.6%(平成19 年度)に2.9%減少しているが、国際関係(語学を 含む)の学科・コースを有しない学校では24.6%(平成18年度)から25.2%(平成19

(6)

度)と国際関係(語学を含む)の学科・コースを有する学校に比べて非常に実施数は少な いが、割合は若干増えている。海外研修のパーセンテージをみると、国際関係(語学を含 む)の学科・コースを有する学校では62.8%(平成18年度)から59.5%(平成19年度)

3.3%減少しているが、国際関係(語学を含む)の学科・コースを有しない学校では32.0

(平成1819年度)と実施校の割合は変化していない。

以上、「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画の策定について」において示し た各目標の達成状況について調査したもののなかで、『英語教育改善実施状況調査(2006 年度・2007年度)』主な結果概要(高等学校)」を通して見る国際交流の実施状況を概観し てきたわけであるが、「英語のモチベーションの向上について」というタイトルからみる限 り、国際交流を英語のモチベーションの向上の目的として位置付けていることが伺える。

またその中心としていちばんパーセンテージが大きいのが海外研修である。つまり、「英語 が使える日本人」の育成のための英語学習への動機付けという位置づけで、海外研修等の プログラムが作成され、実施されているのが主流である。

大谷泰照(2007)は、「旧運輸省の国際的な相互理解の増進や国民の国際感覚の涵養のため

にと、昭和62年に「海外旅行倍増計画」を打ち出した。(中略)旧文部省はまた、昭和58 年、教育・研究の国際化と国際理解の推進、国際協力の精神の醸成を図るためにと「21 紀への留学生政策」を発表した。(中略)しかし、これら各省の諸計画の目標の達成が、実 際に「国際理解の増進」や「国際感覚の涵養」のために「所期の成果を挙げた」といえる かどうかについては、もう少し慎重な検討が必要であると思われる」3F4と述べている。大谷 の言うように、文部科学省が「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画の策定につ いて」において示した各目標の達成状況についても、「国際理解の増進」や「国際感覚の涵 養」のために「所期の成果を挙げた」といえるかどうかについては、もう少し慎重な検討 が必要である。文部科学省が、上の調査から、国際交流を英語のモチベーションの向上の 目的として位置付けていることが伺えるわけであるが、国際交流の一環としての海外研修 の教育的意義を、英語のモチベーション向上のために限定すべきなのであろうか。それよ りもむしろ、「国際理解の増進」や「国際感覚の涵養」のために「所期の成果を挙げた」と いえるかどうかについては、動機づけ理論とは違った視点から、この国際交流の一環とし ての海外研修の教育的意義を検討するべきであると考えるのである。

また、毛受敏浩(2003)は「国際交流は従来から語学研修の実践の機会として捉えられ てきた面がある。青少年を対象として海外でホームスティをおこなう国際交流事業や、青 年同士の交流を目的とした国際ワークキャンプなどの事業は、語学能力のみならず、さら に国際対応能力の向上を目指したものといえる。教育プログラムとしての国際交流活動は、

単に会話能力を身につけるものから、異なる文化をもつ人々との間で信頼関係を構築する

4 大谷泰照『日本人にとって英語とは何か― 異文化理解のあり方を問う―』大修館書店 2007 pp.166167

(7)

コミュニケーション、能力育成への重視へとその重点は移りつつある」4F5 と述べているの である。高校生が参加する海外教育研修旅行とは、英語の勉強のモチベーション向上とい う枠ぐみだけでは捉えられない、異なる文化をもつ人々との間で信頼関係を構築するコミ ュニケーション、能力育成の教育的意義をも兼ね備えているものと考えられる。従って、

本研究において、語学研修の実践の機会として捉えられてきたような語学の勉強に特化し た動機付け理論とは違う角度から海外教育研修の教育的意義を捉え直してみたい。

これまで高校生を対象にした国際理解に関する意識調査・研究は、外国や英語、留学にど の程度興味をもつのか、国際化に関すること、今日の日本がすべきこと(佐藤2008)また はアジアなど特定の国や地域に対してどのように考えているか(城戸1988)が主であった。

あるいは、授業者が設定したねらいに対する成果の検討に重点をおいたものであり、いず れも、学習者である生徒自身の国際理解の捉え方、それが自己とどのように繋がるかを明 らかにしたものではない。

学習者である生徒自身の国際理解の捉え方が自己とどのようにつながるのかを高松

2007)は高校生の国際理解に対する意識調査から国際理解の実態を検討し、さらに学習 者の自己と学習をつなげる方向において、具体的にどのような課題と可能性があるかを明 らかにした。その高校生を対象にした研究では小学校時代からの異文化の子どもとの友人 体験があることによって現在の問題意識や異文化理解に対する考え方に影響を与えている。

また単発的なイベントとしての経験を重ねても、連続的、発展的な体験・学習とはならな いということを考察した。また参加型学習の問題点として、参加方法の画一性や「気づき」

の強制、学習内容と日常生活との乖離を指摘し、学習内容をいかに学習者自身の生活や関 心、日常的に抱えている問題と結びつける必要性を主張する。5F6一時的なイベントではなく 継続的かつ親密な人間活動でなければ現在の問題意識や異文化理解に対する考え方に影響 を与えないとすれば、一時的なイベントとして捉えられなくはない短期の高校生対象の海 外教育研修プログラムにおいては、連続的、発展的な体験・学習とはならないのか。さら に海外教育研修プログラムが国際理解教育において教育的意義を持ち合わせているのであ ろうか。また海外教育研修は生徒たちの内面において現在の問題意識や異文化理解に対す る考えに影響を及ぼしているのであろうか。

曽田・飯塚(2000)は、「参加学生にとってホームスティは、異文化体験を深め、内面環 境に影響を与える重要な役割を果たす」と述べている。6F7また、北川・箕浦(1991)は、高 校生のアメリカでの 4 週間のホームスティ経験についての質問紙調査を実施した。ホーム スティ群は不参加群に比べて、「海外情報への関心・意見交換」「性格の自己認識」「日本

5 毛受敏浩『草の根の国際交流と国際協力』明石書店 2003 pp.2122

6 高松美紀 「国際理解に関する高校生の意識~自己とのつながりという視点から~」

『教育学研究年報』 26 200710 pp.85-104

7 曽田陽子・飯塚雄一 「短期海外研修における異文化体験」

『島根県立看護短期大学紀要』第5 2000 pp.5158

(8)

人意識」「外国人への接近・受容の態度」「外国人ホームスティへの受容的態度」「国際問題 への認識・意見」「DIT(道徳性判断を見るための質問紙)」のいずれにおいても、肯定 的、積極的な傾向があった。ホームスティプログラムの事前準備と約一ヶ月の体験が、高 校生の外国人への心理的抵抗を低減させただけではなく、高校生自身のパーソナリティ形 成にも大きな影響を与えている様子がうかがえると考察している。7F8この研究において、一 ヶ月のホームスティという短期の異文化体験でも、情緒や態度のレベルでは肯定的な変化 を起こす効果があると言えそうである。またホームスティ体験が生徒自身のパーソナリテ ィ形成にも影響を及ぼしているようである。これらの先行研究から明らかなように、ホー ムスティは、異文化体験を深め、内面環境に影響を与える重要な役割を果たし、高校生自 身のパーソナリティ形成にも大きな影響を与えている様子がうかがえるわけであるが、海 外でホームスティをするという経験がどのように生徒のパーソナリティ形成に影響するの かという点については明らかにされていない。また異文化体験の中で生徒たちの内面にお いて、何が情緒や態度のレベルで肯定的な変化を引き起こす要因となるのであろうか。

佐藤郁哉(2008)は量的研究における事例理解の限界について次のように述べている。「統 計的調査によって得られる数値中心の情報は、個々の事例の特殊性や個別性を理解する上 ではおのずから限界があることが少なくない。つまり、統計的研究の場合は、かなり多く の事例(森)を見渡すことによってはじめて、そこに見いだすことができるパターンや法 則性を明らかにしていくことはできたものの、それが一つひとつの事例(木)の理解には ほとんど役に立たない、ということが起こりがちなのである」8F9 以上、述べられていたよ うに、ホームスティを体験前後(約 2 週間前と一ヶ月後)の変化を質問紙調査で明らかに している研究ではあるが、個々の事例の特殊性や個別性を理解する上ではおのずから限界 がある。やはり表層的な部分で理解するしかないという限界を包含している。またホーム スティを体験前後(約 2 週間前と一ヶ月後)の変化を調査するだけでは生徒一人ひとりの 内面的変容は捉えるのには不十分であると考える。

それらのことを鑑みると、本研究において参加生徒の内面でどのように変化し、生き方 に影響を及ぼすのか、さらにホームスティ体験が参加生徒の人間形成において何らかの影 響を及ぼすのかということを考察していく必要がある。そのために、質的調査による、ホ ームスティを体験後、ある程度の時間が経過しての交換研修参加生徒の調査が必要である と考えるのである。

国際交流に関する研究は大学等においての短期海外研修において先行研究は多い。松田、

滝川(1998)は「全国の短期大学では 8割がホームスティ・語学研修・専門分野の実習等 を目的としたなんらかの海外研修による単位認定科目を設置し、重要な役割を担うカリキ ュラムの一つとしてその教育効果に期待するところとなっている。近年では公立・私立を

8北川歳昭・箕浦康子 「高校生の海外ホームスティ効果(Ⅲ)-態度・認識における変化-」

『日本社会心理学会大会発表論集』1991 p.362363

9佐藤郁哉『質的データ分析法』新曜社 2008 p.72

(9)

問わず各高等学校での海外修学旅行に関する規制緩和の傾向があらわれ、多様な教育機関 が積極的に海外研修を実施するようになり、以後若年層における海外研修に拍車がかかっ てきた」9F10と述べている。その研究において研修後アンケートと報告書から次のようにまと めている。学生の自立性を養うための事前研修の重要性、英語力向上のための事前研修及 び自学自習の徹底、現地で得た交流の機会を持続できるような、また「いずれの年度も帰 国後に報告書を作成し研修を記録に止めているが、現行の海外研修は短期間なので実際は 異文化理解への動機づけにしかなっていないとも考えられる。しかし、今後は学生たちが 自分の体験をどのように消化し、これからの生活に役立てていけるか確認できるような事 後ケアの場を考えていく必要もあるだろう」10F11ということで、事後ケアの場の必要性が今後 の課題として挙げられている。

この課題の中の一つである研修の事後に、参加生徒を対象にしてなぜ「ふりかえり」が 必要なのか、またどのような「ふりかえり」が必要なのかをこの研究で提案する。

(3)研究の目的

本研究では、まず国際理解教育の海外教育研修に参加した高等学校の卒業生を対象とし、

参加生徒のナラティヴを通して研修の教育的意義を明らかにすることを試みる。研修の経 験から数年経過した後の調査参加協力者(以下インフォーマント)の意識や態度の変容を 促した契機やそのプロセスを明らかにすることで、インフォーマント自身の内面の変化を 考察し、研修の教育的意義を研究することができると考える。つまり、教師の視点からで はなく、学習者の視点から、研修での実体験を調査し、その調査を通じて得られた知見を、

これからの教育にどう活かすことができるか考察する。具体的には、国際理解教育に関わ る行事「オーストラリア海外研修」および「オーストラリアの生徒受け入れ事業」に参加 した卒業生 8 名に、生徒自身の海外教育研修プログラム参加の経験を語ったナラティヴ・

データを用いた質的研究手法を取り入れ、海外教育研修プログラムを通しての参加生徒の 経験から得た内面的経時変化を考察する。

(4)研究方法

国際理解教育に関する文献を研究し、国際理解教育の動向や課題を明確にする。勤務校 である埼玉県立川口北高校のオーストラリアのフランクストン高校とのオーストラリア教 育研修プログラムを事例研究とする。教育研修プログラムに参加した卒業生8名(平成18 19 年度卒業生中心)にインタビューを実施し、卒業生の主観的な体験の解釈から、オース

10松田康子、滝川桂子「短期大学における短期海外研修の意義とこれからの課題-学生のア ンケート調査の結果から-」『名古屋文理短期大学紀要』 23 1998 p.158

11松田康子、滝川桂子『短期大学における短期海外研修の意義とこれからの課題-学生のア ンケート調査の結果から-』名古屋文理短期大学紀要 23 1998 p.163

(10)

トラリア教育研修プログラムを通して高校卒業後の生徒のナラティヴから研修の影響より どのような内面的な経時変化が生成されるのかを推察し、海外教育研修プログラムの教育 的意義を研究する。データ収集の手法として質的研究手法を用いる。質的研究は自然な状 態において、相互作用や意識の変化の過程を重視した研究手法である。本研究では、生徒 の内面的な部分における海外教育研修の影響に着目した研究であり、また、様々な人的資 源との相互作用が生徒の経時変化の重要な要因であると考えたため、ナラティヴ・データ を用いた質的アプローチを研究手法に取ることとした。

1 国際理解教育の動向と課題 第1節 国際理解教育の動向

国際連合の一専門部局であるユネスコ、すなわち国際連合の教育・科学・文化機関の「憲 章」に「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑 惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があま りにもしばしば戦争となった。」と述べられている。真の平和の実現は、教育の力によって こそ実現することができる、として国連内に1946年に創設されたのがユネスコである。恒 久平和を確立しようと願うならば、人の心の中に平和が確立されなければならず、そのた めには教育の力を必要とする、というのである。つまりユネスコの精神は「平和の文化」

の創造という方向で表されており、平和のための教育のキーワードは、他の国との「相互 理解」ということになる。その基本理念の基に、ユネスコ創設と同時に「国際理解教育」

は推進されることになった。

日本の第二次世界大戦後の国際理解教育の起源はユネスコに求められる。ユネスコの推 進した「国際理解教育」には、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中 に平和のとりでを築かなければならない」(ユネスコ憲章)の理念が横たわっている。そし てこの教育は、その後、「世界市民の教育」「世界共同社会に生活するための教育」などさ まざまに論議があって定まらなかったが、1954年第8回総会で「国際理解と国際協力のた めの教育」が採択されて一般にこの名称で呼ばれるようになった。わが国では、これを略 して「国際理解教育」といわれてきた。わが国は第二次世界大戦後における敗北を機に、

平和・文化国家としての再建を期し、19516月ユネスコへの加盟を承認された。日本国 憲法と教育基本法にしたがって行われた我が国の教育は、国連憲章やユネスコ憲章とも基 本的に一致するものであったので、ユネスコの国際理解教育の理念はそのまま生かされる ことになった。日本では協同学校計画への参加など、1970年代まではユネスコの国際理解 教育の影響を強く受けていた。この協同学校計画は、国際理解のための教育を加盟国で実 験的に取り上げて世界規模で推進していくためのプロジェクトであり、日本でも20校以 上の小・中・高校が参加していた。

1974年第18回総会を開いたユネスコは、「国際理解、国際協力、国際平和のための教育 並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」を採択した6か月前の19745

(11)

月、わが国の中央教育審議会(中教審)は、「教育・学術・文化における国際交流について」

と題する答申を提出した。川端(1993)は、「そこでは、「近年の国際社会は南北間の格差 解消、人口・食糧問題、エネルギー資源の確保等多くの世界的課題に直面し、・・・国際的 協力と協調の精神がかつてなかったほど強く求め」られている中で、「国際性豊かな日本人」

の育成がわが国の教育の重要な課題となったとし、国際理解教育、外国語教育および国際 的に開かれた大学について具体的な提案が行われた。

答申は、これまでの国際理解教育が「観念的な知識としての理解にとどまり、具体的な 実践にまでつながらない傾向のあったことを指摘し、一部の有志校で実践しているユネス コ協同学校や姉妹校活動等も、その内容、規模においてまたきわめて貧弱」であるとして 改善を求めた。

ユネスコ「国際教育」勧告は、採択から8年を経過した1982年、日本ユネスコ国内委員 会編『国際理解教育の手引き』でとりあげられた。そこでは、国際理解教育の目標が従来 の<人権の研究><他国の研究><国連の研究>からやや具体的になっているが、発展途 上国の貧困の緩和、先進国との格差解消のための国際的な協力と理解のための開発教育

development education)については、なんの言及も実践事例も収められていなかった」

11F12と述べ、日本では1970年代半ば以降、日本において、ユネスコの協同学校等の取り組み が急速に後退していくこととなる。その後退の要因として、佐藤(2007)は次のように述 べている。「ユネスコ主導の取り組みは、国際理解のための教育を実現する壮大なプロジェ クトであり、学校全体に位置づけられ、複数の教科や学校行事などを通して実践が行われ、

しかも、実験であるため生徒の知識、態度の変容を実証的に把握しようとしたものである。

しかし、世界的規模での実験であることからその実践には枠がはめられ、個々の学校の実 践との間に齟齬がでてくることになり、また、生徒の態度変容を把握する方法も十分なも のではなかった。協同学校における実践は観念的であると同時に、その枠が規定されたた めに十分に広がらなかった。しかも、崇高な理念が先行したため、各学校の実践との間に は大きな距離があったのである」12F13と述べている。

代わって、1975年から日米文化教育会議(United States-Japan Conference on Cultural

and Educational Interchange, 略称カルコンCULCON)が開始され、2国間の国際理解教

育の協同研究事業を行うことになる。日本側ではアメリカ理解、アメリカ側では日本理解 について協同の実験が開始された。この事業は、ユネスコの国際理解教育と違った立場や 問題意識を持って試みられ、国際理解教育に関する国際的協同研究多様化の顕著な例であ る。共に異質文化を持つ日米間の協力と交互作用を特色とし、その後の二国間の相互理解 教育の発展に大きな影響を与えた。

米田(1993)は、1970年代後半から1980年代のわが国の国際理解教育をみると、「国

12 川端末人「国際理解教育の歴史」『国際理解教育辞典』創友社 1993 p.140

13 佐藤郡衛「国際理解の現状と課題―教育実践の新たな視点を求めて―」『教育学研究』

74 2 20076 p.216

(12)

際教育勧告」ラインより、どちらかといえば中教審答申ラインにそって進められてきたと いってよく、これは、1987年の臨時教育審議会(臨教審)答申にも基本的には継承されて いる。ちなみに、平成 3 年度の文部省の「わが国の文教施策」には、わが国の国際化に対 応した教育の具体策として特に重視しているものについて述べられている。それらは、① 国際理解教育の推進、 ②外国語教育の充実、③教育・文化・スポーツにおける国際交流・

協力、④留学生交流の推進、⑤日本語教育の推進、⑥海外子女・帰国子女教育の推進、等 である。ここで述べられている国際理解教育については、「国際的な相互依存関係の重要性 とともに、諸外国の文化やそれぞれの立場を理解させ、併せて、わが国の文化や伝統を大 切にする態度を身につけさせることが重要である」と解説されており、どちらかといえば 異文化理解を中心とした定義がなされている。つまり、経済大国としてのわが国がこれか ら厳しい国際社会を生きていくためには、異文化理解のうえに立って外国語を習得し国際 交流の実をあげていくことが大切であり、これこそが国際化に対応した教育とでもいった おさえ方になっており、「国際教育勧告」との間にかなりの距離を置いていることがわかる」

13F14と述べている。つまり、学校教育における「国際化」は1984年に始まった臨時教育審議 会の答申の中で「国際化」が教育改革の基本方針となったことで急速に具現化したわけで ある。臨時教育審議会の答申の中で「国発展にかかわる重要な課題である」(臨教審第四次 答申、1987年)との認識のもと、新たな国際理解教育の方向として「国際社会において真 に信頼される日本人を育成すること」“世界の中の日本人”の育成を図ること」(同答申)

が強調されている。すなわち時代の変遷とともに国際摩擦及び国際競争がますます進むこ とを予測し、積極的に国際社会に参加し、対処できる人材育成を意識している。また国際 化の中で日本が直面しつつあった海外・帰国児童生徒教育という現実的な課題が上がり、

この課題に即した実践を国際理解教育と位置づけるようになる。

佐藤(2007)は「日本の国際理解教育は、現実的な課題とは別に1980年前後に「開発 教育」や「グローバル教育」が導入され、グローバルな課題をテーマにした実践も行われ るようになった。その結果、ユネスコの流れをくむ国際理解教育、開発・環境などのグロ ーバルな課題に焦点をあてた教育、さらに現実的な課題に即した海外・帰国児童生徒教育 が混在して進められることになった。この 3 つは、その起源や理念・目標、目ざす方向が 違っていたため教育現場に入っていったとき、当然、混乱を引き起こすことになる。教育 現の「国際理解教育はなにをしていいかわからない」といった声は、こうした多様な教育 が概念整理を経ないままに、教育現場に持ち込まれたことに由来している。14F15 と述べて いる。

さらに、佐藤(2007)は、1990年代には「グローバル化」「グローバリズム」「グロー バルマインド」「世界市民性」「グローバルアイデンティティ」といった言葉が頻繁に、し

14 米田伸次「国際理解教育の課題」『国際理解教育辞典』創友社 1993 p.151

15佐藤郡衛「国際理解の現状と課題―教育実践の新たな視点を求めて―」『教育学研究』

74 2 20076 p.217

(13)

かも重要なキーワードとして登場しており、「グローバル」という言葉が日本の国際理解教 育の中心課題になってきた。たとえば、多田孝志(1997)は、今後の学校教育の教育課題 はグローバルマインド(地球市民意識)の育成にあるとし、そのための最も直接的かつ効 果的な教育が国際理解教育である。(中略)この時期、注目すべきは、「グローバル教育」

が「日本人の育成」「国際社会で活躍できる日本人の育成」といった国家的な枠組みで展開 される教育を相対化するための対抗的な概念として主張されてきたという点である。(中 略)金谷敏郎(1994)は、「国際公民」を「国家公民」との対比で説明し、「国家公民」を

「国際公民」概念に含まれるものとしてとらえている。そして、「国際公民」とは、「たえ ずなにごとにおいても、地球全体の中での位置づけを図りながら観察し、考察し、想像し、

表現していくものの見方、そして絶えず何事においても、自らの視点だけではなく、他の 視点からも観察、考察、想像、表現できる能力」と定義している。(中略)

以上のようにこの時期は、国際理解教育の概念整理がなされたものの十分ではなく、教 育現場に多様な考え方が導入されることになった。(中略)また、総合的な学習では、「発 表」が重視されることから「コミュニケーション力」「表現力」の育成といった個人的資質 の形成に傾斜していくことになったのである」15F16と、国際理解教育を「グローバル教育」と して統合する試みを述べている。

中央教育審議会「第一次答申」1996年、以下「答申」という)は、「共生の時代」を迎 えた「地球社会」に生きる子どもたちが必要とする能力・資質・態度の育成を目標として いる。まず、「国際理解の充実」の視点から「答申」は、「広い視野を持ち、異文化を理解 するとともにこれを尊重する態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく資質や能力 の育成を図ること」「国際理解のためにも、日本人として、また個人としての自己の確立を はかること」「国際社会において、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意思を表現でき る基礎的な力を育成する観点から外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーション能力 の育成を図ること」を留意点としてあげる。また「多様な異文化の生活・価値観などにつ いて、“違い”を“違い”として認識していく態度や相互に共通している点を見つけていく 態度、相互の歴史的伝統・多元的な価値観を尊重し合う態度を育成していくこと」などを 強調している。

2000年以降、多文化共生と結びついた国際理解教育は、「市民性」を育成する教育との 関連を強めつつある。国際理解教育を市民性育成のための教育との関連で再構成する動き があり、この流れはユネスコの「21 世紀のシチズンシップ教育」にも読み取れる。ユネス コ『学習:秘められた宝』に生涯に通じた学習として「知ることを学ぶ(learning to know

「為すことを学ぶ(learning to do )「共に生きることを学ぶ(learning to live together, learning to live with others) 「人間として生きることを学ぶ(learning to be)」という学 習の四本柱を基として掲げてある。特に「人間として生きることを学ぶ(learning to be)

16佐藤郡衛「国際理解の現状と課題―教育実践の新たな視点を求めて―」『教育学研究』

74 2 20076 pp.217218

(14)

においてユネスコ「21 世紀教育国際委員会」は「人間開発の目的は、個性の豊かさと自己 表現や信念の多様さにおいて、個として、家族の一員として、市民として、創造者として、

発明家として、そして夢想家としての個人の全き完成にある」16F17という原則に賛意を表して いる。これまでの人間としての普遍の権利である「人権」から、改めて特定の国家のなか での「市民権」を捉えなおす動きが出てきている。ユネスコにおいても、普遍的な人権を 基礎にした「市民」の育成が課題になっているのである。

この市民の育成に関して、佐藤(2007)は、「ユネスコにおいても、普遍的な人権を基礎 にした「市民」の育成が課題になっているのである。国際理解教育の実践では、あくまで 多文化化する地域社会の改革に参加できる市民の育成に焦点化しており、「外国人市民会 議」などを教材化し授業展開する動きもみられる。しかし、まだ開始されたばかりであり、

こ の 課 題 は 従 来 の 国 際 理 解 教 育 の 枠 組 み で は と ら え き れ な い 側 面 を 含 ん で お り 、 実践上の課題は多い。ただ、市民性を育成する教育で重視される「参加」「共同」「未来へ

の創造」といった視点をとりいれ、体験を通して学ぶ参加型の学習方法が重視されるよう になり、活動のみが先行するという問題がでている」17F18と述べている。やはり、市民性を育 成する教育の実践上の課題は多い。けれども、この一連の動向は、国際理解教育を市民性 育成のための教育との関連で再構成する動きとみることができるのではないかと考える。

さらに多田(1997)は「グローバルマインド(地球市民意識)をもった人々の育成のためには、

単なる手法の工夫だけでなく、理論的背景をもった、どっしりと根をおろした実践が必要 である。今後の学校現場では「どのように実践を進めていくか」とともに「どのような考 えによる実践か」を追及していかなければならない」18F19と指摘する。市民性育成のためには、

参加型の学習において、活動のみが先行しない、理論的背景をもった国際理解教育の実践 が今必要とされているのである。

第2節 国際理解教育の課題

中央教育審議会が2008年に『教育振興基本計画について-「教育立国」の実現に向けて

-』という答申を出した。第 1 章の我が国の教育をめぐる現状と今後の課題の中で「グロ ーバル化が一層進むとともに、中国などの諸国が経済発展を遂げ、国際競争が更に激しさ を増す。同時に、国内外の外国人との交流の機会が増え、異文化との共生がより強く求め られるようになる」とあり、これからの学校教育のビジョンを構想するとき、異文化との

「共生」を柱にした国際理解教育という視点は不可欠である。グローバル化の進行ととも

17 天城勲「学習:秘められた宝」『ユネスコ「21世紀教育国際委員会」報告書』

ぎょうせい 1997 p.75

18佐藤郡衛「国際理解の現状と課題―教育実践の新たな視点を求めて―」『教育学研究』

74 2 20076 p.219

19多田孝志『学校における国際理解教育-グローバルマインドを育てる-』東洋館出版社 1997 p.2

(15)

に、日本の社会の多文化化が急速に進行しているためである。それだけでなく、人とのか かわりを中核にすえた「共生」のための国際理解教育の重要性は増している。

また佐藤郡衛(2007)は、「学校における外国籍の子どもの増加とともに、共生が目の前の 課題になり、それが国際理解教育にも反映したのである。大津和子(1997)は、こうした 現状を踏まえ、国際理解教育を「自己と他者の人権を尊重しながら、異なる文化を認め、

世界の人々と共に生きていこうとする人間を育てようとする教育である」ととらえ、「共生 社会の現実とそこでの自己充実をめざす教育」と定義している。(中略)教育現場では、国 際化の進展とともに生じた多文化共生という課題を受け止め、共生を核にして、異文化、

相互依存、地球課題などの内容を再構成する動きがみられる」19F20と述べている。また、佐藤

郡衛(2006)は「共生」を軸にした国際理解教育では、3つの視点から定義される共生の概念が

重要になると述べている。

①自己との共生

共生の基本は、多様な学びの中で、自己を知ることから始まり、自己と他者との関係を 築いていくことである。自己への気づきは、個性を含めて自分の自分らしさ、あるがまま の自分を受け入れることであり、それは自尊感情や自己肯定感へと結びつき、自己との共 生が可能となる。多元的なアイデンティティの形成は、多様な自己を認め、それと向き合 っていく必要があり、この意味でも自分との共生をベースに位置付ける必要がある。国際 理解教育における「個の確立」「自己の確立」「自尊感情」などの個人的資質が重視される のは、こうした自己との共生を基底に据えているためである。

②他者との共生

他者との共生は、身近な生活のレベルで異なった文化を持つ人々と交流してゆくことで はじめて可能になる。共生とは、単に民族や国籍の違いだけでなく、様々な文化的背景や 生活背景を異にする多様な人々と交流し、違いを認め合い、相互に理解を深めていくこと である。

③環境との共生

他者との共生を通して、新しい生活環境を作り上げていくことである。他者との共生を ポジィティブにとらえ、有効に活用することにより独創的な文化の作り手、担い手になる ことができる。20F21

以上のように3つの視点から定義される「共生」は国際理解教育を実践していく上で大 変重要なキーワードとなってくる。さらに佐藤(2007)は、国際理解教育を多文化共生といっ た現実の社会的な課題に正面から向き合い、共生を可能にする新しい市民を創出する未来 指向型の実践的営為としてとらえ、これまでの実践をもとに、国際理解教育の理論的枠組 みをつくりあげ、そこからさらにまた新たな実践の視点を提示することが今後の課題であ

20佐藤郡衛「国際理解の現状と課題―教育実践の新たな視点を求めて―」『教育学研究』

74 2 20076 pp.217218

21佐藤郡衛『国際理解教育:多文化共生の学校づくり』明石書店2006 pp.3334

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