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カテゴリーに基づくクラス推論の発達

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カテゴリーに基づくクラス推論の発達

著者 杉村 健, 我山 綾

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 44

号 1

ページ 219‑228

発行年 1995‑11‑24

その他のタイトル The Development of Class Inferences Based on Categories

URL http://hdl.handle.net/10105/1636

(2)

奈良教育入学紀要 第44巻 第1号(人文・社会)平成7年 Bull. NaraUniv. Educ, Vol. 44, No. 1 (Cult. &Soc), 1995

カテゴリーに基づくクラス推論の発達

杉 村   健・我 山   稜'

(奈良教育大学心理学教室) (平成7年4月3日受理)

推論とは前提から結論を導く過程であり、前提文と結論文の両方にカテゴリー名が含まれてい る場合は"カテゴリーに基づく推論"と呼ばれている。カテゴリーに基づく推論では、前提文に 含まれるカテゴリー名に与‑えた新奇な情報をもとにして、異なるカテゴリ‑名を含む結論文が正 しいかどうかの判断を求めることによって、推論の過程を検討する。その際、前提文を1つ用い るか2つ用いるかによって、単・前提推論課題(Gelman,1988; Gelman & O Reilly,1988;飯 倉・杉村, 1994; Sugimura,1993;杉村, 1994; Sugimura & Kataoka,1995)と、複数前提推 論課題(Lopez,et al.,1992; Osherson.et al.,1990)に区別することができる。本研究では、

前者の課題を用いて、カテゴリーに基づく推論の発達的変化を検討する。

単1‑‑前提推論課題では、例えば、 ̀̀赤いリソゴの内部にはペクチソがあります"というように 前提文のカテゴリー名に対して新奇な特性に関する情報を与え、結論では、黄色いリソゴ、バナ ナあるいは果物にペクチソがあるかどうかの判断を求める(Gelman,1988; Gelman &

O Reilly,1988)。この場合、前提事例(カテゴリ一名)は下位水準であり、結論事例(カテゴ リ一名)は下位水準、基礎水準、上位水準であるO 一般に、結論事例の水準が前提事例の水準よ りも高い場合を上方向推論と呼ぶ。ド位、基礎、上位の3つのカテゴリー名を前提と結論に用い ると、下位前提‑基礎結論、基礎前提‑ L位結論、ド位前提‑→上位結論の3つの推論課題ができ る。別の例として、前提で果物や食物に与えた新奇な特性情報が、結論でリソゴにも当てはまる かどうかの判断を求める(杉村1994) この場合は、前提事例は上位水準であり、結論事例は 基礎水準である。このように、結論事例の水準が前提事例の水準よりも低い場合を下方向推論と 呼ぶ。上位前提‑基礎結論、基礎前提‑下位結論、ヒ位前提‑下位結論の3つの推論課題ができ る。

従来の研究では、 2種の推論を組織的に検討してこなかったが、最近Sugimura and Kataoka(1995)は、上方向推論課題と下方向推論課題を1つの実験計画の中に組み入れて、カ テゴリーに基づく特性推論の認知過程を発達的に検討した。上方向推論においては、前提事例以 外の事例が結論事例に含まれているので、結論が必ずしも正しいとは限らず、確定できない。こ れに対して下方向推論では、結論事例が前提事例に含まれているので、結論は常に正しく、確定 できる。幼児、 2年生、大学生について実験した結果、結論文に対する肯定的応答( "はい'つ

の平均値は、幼児と2年生では上方向推論とF方向推論であまり違いがなかったが、下方向推論 の平均値は年齢と共に増加し、大学生では上方向推論よりも有意に多かった。これらの結果は、

次のような知識の利用を仮定することによって説明した。

結論が確定できる下方向推論では、結論事例が前提事例に含まれるという"包摂的知識"を利 用することによって肯定的応答が生じる。結論が確定できない上方向推論では、前提事例から結

'現在橿原市

219

(3)

論事例が想起される"連合的知識"を利用することによって肯定的応答が生じ、結論事例が前提 事例以外の事例を含んでいるという"包摂的知識"を利用することによって否定的応答( "いい

え")が生じる。

かつてSmith (1979)は、カテゴリーに基づく特性推論とカテゴリーに基づくクラス推論を区 別した。例えば、 "果物にはペクチソがあります"という前提に対して、結論で"リソゴにはペ クチソがありますか"という判断を求めたとしよう。これはド方向推論であるが、前提事例に対 して与えた新奇特性が、結論事例に対しても当てはまるかどうかの判断を求めるので、カテゴリー に基づく特性推論という。一方、 ̀̀トルビ‑は果物の仲間です"という前擬に対して、結論で

"トルビーはリソゴですか"という判断を求めたとしよう。これもド方向推論であるが、この場 合は新奇語が前提事例のクラスであり、それが結論事例であるかどうかの判断を求めるので、カ テゴリーに基づくクラス推論という。これまでは特性推論に関する研究が行われており、筆者の 知るかぎりでは、クラス推論に関してはSmithの研究しかない。

そこで本研究では、カテゴリ‑に基づくクラス推論課題を幼児、 2年生、大学生に実施し、 1二 方向推論と下方向推論における認知過程の発達的変化を明らかにしたい。先の研究(Sugimura

& Kataoka,1995)を参考にして、結論の確定性という観点から、クラス推論における認知過 程を次のように仮定した。

上方向推論では、例えば、前提が"トルビーはイヌの仲間です"で、結論が̀̀トルビーは動物 ですか''の場合、トルビー即ちイヌの仲間は常に動物に含まれるので、結論は常に正しく、確定 できる。この推論において、前提事例が結論事例に含まれるという"包摂的知識"を利用するな らば、結論文に対して肯定的応答をすることができる。また、前提事例から結論事例が憩起され る"連合的知識''を利用しても肯定的応答が生じる。これに対してド方向推論では、前提が"ト ルビーは動物の仲間です"で、結論が"トルビーはイヌですか''の場合、トルビー即ち動物の仲 間にはイヌ以外の動物が含まれているので、結論は正しいとは限らず、確定できない。従って、

結論文に対して肯定的応答をするか否定的応答をするかは、被験者が利用する知識に依存してい る。前提事例が結論事例以外の事例を含んでいるという"包摂的知識"を利用するならば、結論 文に対して否定的応答が生じ、前提事例から結論事例が想起される"連合的知識"を利用するな

らば、宵定的応答が生じる。

より下位の事例がより上位の事例に含まれるという包摂的知識は、年齢と共に確立すると考え られるので、上方向推論では肯定的応答が年齢と共に増加すると予想される。しかし、より下位 の事例からより上位の事例が想起される連合的知識は、幼児から獲得されていると考えられるの で、肯定的応答には年齢による変化が生じないと予想することもできる。より上位の事例がより 下位の事例を多く含んでいるという包摂的知識は、年齢と共に確立すると考えられるので、否定 的応答が年齢と共に増加すると予想される。しかしこの予想は、前提事例から結論事例が想起さ れる連合的知識が、年齢によってあまり変化しないという前提に立っている。

方  法

実験計画

3×2×3×2の要因計画が用いられた。第1の要田は年齢(幼児、 2年生、大学生) 、第2 の要因は頚城(動物、果物)であり、これらは被験者間要因であった。第3の要因は前提のカテ

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カテゴリーに基づくクラス推論の発達

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ゴリー名(下位、基礎、上位) 、第4の要因は結論のカテゴリ一名(前提事例の水準以外の2水 準)であり、これらは被験者内安閑であった。

前提と結論のカテゴリー名を組み合わせて、上方向推論と下方向推論それぞれに3つずつの課 題を作った。上方向推論の場合は、下位名から基礎名‑の下位前提‑基礎結論課題、基礎名から L位名‑の基礎前提‑上二位結論課題、下位名から上位名‑の下位前提‑上位結論課題であり、下 方向推論の場合は、 L位名から基礎名への上位前提‑基礎結論課題、基礎名から下位名‑の基礎

前提‑下位結論課題、 L位名からF位名‑の上位前提‑下位結論課題であった。

被験者は幼稚園児32名(男児16名、女児16名) 、 2年生40名(男児20名、女児20名) 、大学生 40名(男子20名、女子20名)であった。平均年齢(範囲)は幼椎園児は5:05 (5:02‑6:01) 、 2 年生は8:00 (7:06‑8:06) 、大学生は18:07(18:03‑22:00)であった。年齢ごとに、男女の数と

平均年齢が同じになるようにして、 2群を作った。

推論課題

表1は、推論課題に用いたカテゴリー事例と新奇語を示したものである。 4つの下位事例のそ れぞれについて、上方向推論、下方向推論それぞれに3課題ずつを作った。従って、動物領域、

果物領域それぞれについて12課題ずつができる。動物領域で下位事例を自イヌとした場合の前提 文と結論文の例は、以Fのとおりである。

(1)上方向推論

トルビーは自イヌの仲間です。トルビーはイヌですか。 (下位前提‑基礎結論課題) エクリーはイヌの仲間ですO ェクリ‑は動物ですか。 (基礎前提‑上位結論課題)

トルビーは白イヌの仲間です。トルビーは動物ですか。 (下位前提‑上位結論課題) (2)ド方向推論

カラニーは動物の仲間です。 カラニ‑はイヌですか。 (上位前提‑基礎結論課題) エクリーはイヌの仲間です。エクリーは白イヌですか。 (基礎前提‑下位結論課題) カラニ‑は動物の仲間です。カラニ‑は白イヌですか。 (1位前提‑下位結論課題) このような6つの課題について、次の2つの提示順を作った。 1つは、基礎前提‑下位結論、

基礎前提‑上位結論、下位前提‑基礎結論、ド位前提‑→上位結論、上位前提‑下位結論、上位前 撹‑基礎結論の順であり、もう1つは、基礎前提‑下位結論、基礎前提‑上位結論、上位前提‑

下位結論、上位前提‑基礎結論、下位前提‑基礎結論、下位前提‑上位結論の順であった。どち 表1 推論課題で用いた事例と新奇語

下位事例   基礎事例   上位事例    新 奇 語

動 物     白イヌ 黒ネコ

i ‑;     勅 的

ネ コ     動 物     トルビー

果 物     青リンゴ

IT''卜

エクリ‑

リソゴ     果 物      カラニ‑

ブドウ     果 物

(5)

らの順でも基礎前提を最初にしたのは、幼児は基礎水準名に馴染みがあると考えたからである。

手続き

各被験者は、 4つの下位事例のうちの1つからなる6つの課題が与えられた。各年齢群の半数 の者には一方の順で、残りの者には他方の順で提示した。

幼児の場合は個別に実施した。被験者に名前や年齢などを尋ねてから、 "今からお姉さんと、

よその国の言葉でお遊びをしようね。いろいろ尋ねるから、よく考えて答えてください。 "と教 示してから、推論課題を実施した。以下では、白イヌ課題について例示する。まず、基礎前提‑

下位結論課題では、 ̀̀ェクリーはイヌの仲間です。では、エクリーは白イヌですか。 "と質問を し、 "はい"か"いいえ''で回答を求め、その理由を尋ねた。続いて、基礎前提‑L位結論課題 では、 "エクリーはイヌの仲間です。では、エクリーは動物ですか。 "と質問して回答と理由を 求めた。以ド同様にして、 2つの下位前提課題と2つの上位前提課題を実施した。両課題で用い る新奇語が基礎前提課題と異なるので、課題が変わるたびに"今度は、違う言葉を使って遊ぼう ね。 "という教示を追加した。

2年生と大学生の場合は教室で実施した。どちらかの提示順で配列された6つの課題(動物か 果物)を印刷した用紙を配布し、次の教示を与えた。 "トルビ‑、エクリー、カラニ‑という外 国の言葉が入っている6つの質問があります。質問をよく読んでください。 ̀そうだ'と思った ら̀はい'のところに○をつけ、その理由を書いてください。 ̀ちが5'と思ったら̀いいえ' のところに○をつけ、その理由を書いてください。必ず̀はい'か̀いいえ'に○をつけてくだ さい。"

結  果

表2は、肯定的応答の平均値を示したものであり、この値は0から3の間に分布する。 3 (午 齢) × 2 (推論) ×2 (領域)の分散分析を行った結果、年齢の主効果がF(2│1ォ,‑8.40、推論の

表 i'l 'l!!1!'.J LLl午ハ十f‑1値:

ヒ方向推論 動 物  果 物  平 均

下方向推論 動 物  果 物  平 均

幼 児     2.50   2.44   2.47 2年生     2.50   2.10   2.30 大学生     2.75   2.70   2.73

1.8    1.8    1.8 1.75    2.00   l.i 0.55    0.65    0.60

表3 一貫して肯定的または否定的応答をした老(%) 上方向推論

肯 定  否 定  不 定

下方向推論

II 'til        ト <i̲'

幼 児     59.4   3.1  37.5 2年生   47.5   5.0  47.早 大学生     D.0    0.0   20.0

18.8    6.3    75.0

25.0    5.0    70.0

2.5    60.0    37.5

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カテゴリ‑に基づくクラス推論の発達

223

主効果がF(1,1M, ‑107.83、年齢と推論の交互作用がF(2,106) ‑28.84で、それぞれ1 %水準で有意で あった。有意な年齢の t効果は、幼児(2.18)と2年生(2.09)の平均値が大学生(1.67)より

も高いことを示す。有意な推論の主効果は、上方向推論(2.50)の平均値が下方向推論(1.45) よりも高いことを示す。有意な交互作用に関して単純効果の検定を行った。上方向推論では有意 な年齢差がなかったが、下方向推論では、幼児と2年生の平均値が大学生よりも高かった。どの 年齢でも、上方向推論の平均値がド方向推論よりも高かったが、両推論の平均値の差は大学生

(2.13)が幼児(0.59)と2年生(0.42)よりも著しく大きかった。

表3は、 I二方向推論と下方向推論のそれぞれについて、 3つの課題に一貫して肯定的または否 定的応答をした者の割合を示したものである。応答パターソの年齢差を見るために、各推論につ いて3 (年齢) ×3 (応答)のx2検定を行った。上方向推論ではZ%‑9.79, ♪く.05で有意で あり、下位検定の結果、 I‑1一貫して肯定的応答をした者は大学/l二が最も多かった。ド方向推論で

もZ2(4,‑42.80, pく.01で有意であり、 ‑一貫して不定的応答をした者は大学生が最も多く、応答 が・賞しなかった者は幼児と2年生で多かった。

表4は、各課題について肯定的応答をした者の割合を示したものである。年齢と領域の効果を みるために、課題ごとに角変換法による3 (年齢) ×2 (領域)の分散分析を行った。上方向推 論では、基礎前提‑上位結論課題で年齢の1:̲効果がZ2(z>‑6.02, pく.05で有意であり、大学生 (95%)の肯定的応答が幼児(81%)と2年生(78%)よりも多かった。下方向推論では、 f二位 前提‑基礎結論課題で年齢の主効果がZ2<2,‑27.98, ♪く.01で有意であり、幼児(75%)と2年 生(65%)の肯定的応答が大学牛(23%)よりも多かった。年齢と頚城の交互作用がZ (2)

‑5.60, ♪く.10で有意であり、幼児では果物商域の肯定的応答が動物領域よりも多かった。基礎 前提‑下位結論課題では年齢の主効果がZ2(2,‑ll.72, pく.01で有意であり、幼児(53%)と2 年生(65%)の肯定的応答が大学生(28%)よりも多かった。ヒ位前提‑下位結論課題でも年 齢の一三効果がZ2(2)‑30.93, ♪く.01で有意であり、幼児(59%)と2年生(58%)の肯定的応答 が大学生(10¥)よりも多かった。

L方向推論と卜方向推論のそれぞれについて、課題間の有意差を調べるために、 McNemarの 変化の検定か2項検定を行った。 L方向推論では、どの年齢でも課題間に有意差がなかった。下 方向推論では、大学牛の動物領域で、 L位前提‑下位結論課題の肯定的応答が他の2つの課題よ

表4 肯定的応答をした老(%)

L方向推論      下方向推論 F一基  基‑上  下‑上    上‑基  基‑下  上‑下

幼 児  75.0   81.3   93.8 動物 2年生  85.0   80.0   85.0 大学生  85.0   95.0   95.0

56.3   62.5   68.8 60.0    55.0    60.0 25.0    25.0    5.0

幼 児  75.0   81.3   87.5 果物 2年生  65.0   75.0   70.0 大学生  85.0   95.0   90.0

93.8    43.8    50.0 70.0    75.0    55.0 20.0    30.0   15.0

(注)下‑基は、下位前提‑基礎結論課題を示す。その他も同様。

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りも少なかった(ただし、有意ではない)。幼児の果物偵域で、上位前提‑基礎結論課題の肯定的 応答が基礎前提‑下位結論課題(♪く.01)と上位前提‑下位結論課題(♪く.10)よりも多かった。

議  論

結論が確定できる上方向推論では、前提事例が結論事例に含まれるという包摂的知識を利用す れば、肯定的応答が年齢と共に増加すると予想し、一方、前提事例から結論事例が想起される連 合的知識を利用すれば、肯定的応答には年齢による変化が生じないと予想した。

表2と表4に示したように、肯定的応答の平均値と課題ごとの割合は幼児でもかなり高く、年 齢による変化はなかった。この結果は、連合的知識を利用して推論が行われるという予想とIl一一致 する。しかし表3に示したように、一貫して肯定的応答をした者は大学生の方が多く、下方向推 論で一貫して否定的応答をした者も大学生が多かった。これらの結果は、平均値や割合ではあま

り違いがなくても、大学生では包摂的知識が利用されていることを示唆する。また、肯定的応答 に対する理由も幼児と大学生では異なっている。幼児で理由を言えた者は少なかったが、 "イヌ だから動物''という連合的知識を暗示する理由があり、大学生では̀̀ィヌは動物の仲間だから"

という包摂関係に言及している理由が多かった。

特性推論に関する研究(Sugimura & Kataoka,1995)では、結論が確定できる推論での肯定 的応答の平均値は、幼児から順に1.04、 l.< 、 2.70であり、本研究では同じ順に2.47、 2.30、 2.73 であった。同じように結論が確定できる推論でも、幼児の場合にはクラス推論の平均値が著しく 高く、 2年生でもそのような傾向があった。この違いについては次のことが考えられる。

特性推論もクラス推論も共に、前提事例から結論事例が想起される連合的知識を利用すれば肯 定的応答が生じるが、 2つの推論で連合の方向が異なっている。特性推論では、より上位の事例 からより下位の事例が想起される知識であり、クラス推論では、よりF位の事例からより上位の 事例が想起される知識であって、後者の知識の方が利用されやすい。例えば、動物にはイヌ以外 のものが多く含まれているので、動物からイヌを想起するよりもイヌから動物を想起する方がか なり容易である。また、特性推論もクラス推論も共に、包摂的知識を利用すれば肯定的応答が生 じるが、クラス推論では"〜の仲間''という包摂関係を表す文が用いられているので、包摂的知 識がより利用されやすい。

次に、結論が確定できないド方向推論では、結論文に対して肯定的応答をするか否定的応答を するかは、被験者が利用する知識に依存している。前提事例から結論事例が想起される連合的知 識を利用すれば、肯定的応答が生じ、結論事例が前提事例以外の事例を多く含んでいるという包 摂的知識を利用すれば、否定的応答が生じる。本研究では、連合的知識は年齢によってあまり変 化しないが、包摂的知識は年齢と共に確立するという仮定のもとに、否定的応答が年齢と共に増 加する(肯定的応答が減少する)と予想した。

表2と表4に示したように、大学生では、肯定的応答の平均値も課題ごとの割合も極端に小さ く、これは多くの者が否定的応答をしたことを示す。表3でも、 ・貫して否定的応答をした者が 多かった。また、否定的応答に対する理由のうち、過半数の者が"動物(前提事例)の仲間であ るからといって、必ずしもイヌ(結論事例)ではない''と述べた。以上の結果から、大学生は前 提事例が結論事例以外の事例を含むという包摂的知識を利用していることが明らかである。これ に対して幼児と2年生では、肯定的応答の平均値も課題ごとの割合も高く、しかも一貫して否定

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カテゴ1)一に基づくクラス推論の発達 225

的応答をした者は殆どいなかった。また、大学生のような理由を述べた者は1人もいなかった。

これらの結果から、幼児と2年生は前提事例から結論事例が想起される連合的知識を利用してい ることが示唆される。

幼児で応答の理由を述べた者は少なかったが、肯定的応答に対しては"動物だからイヌ"があ り、大学生では"動物と聞いてイヌが浮かんだ'という理由があったO これらは連合的知識を反 映しているが、前提事例(動物)から想起された事例(イヌ)が結論事例(イヌ)に一致してい れば、肯定的応答が生じることを示唆している。一・万、否定的応答に対しては、幼児では"トリ だから'' 、大学生では"クジラだから"などがあった。これらは、前提事例(動物)から想起さ れた事例(トリ、クジラ)が結論事例(イヌ)と一致しない場合には、否定的応答が生じること を示唆している。

前提事例から想起される事例は、前提事例が示すカテゴリ‑の外延的知識、即ちカテゴリーに 含まれる事例に関する知識を反映している。一般に、年少児の外延的知識は少数の典型事例から なっているが、年齢が増すにつれて、その他の事例を含むように拡大される。幼児と2年生が前 提事例から想起する事例は、少数の典型事例であると考えられるので、結論事例と一致する可能 性が高く、従って、肯定的応答が生じやすい。これに対して大学生では、広範囲の外延的知識か ら多くの事例が想起されると考えられるので、想起された事例と結論事例の一致する可能性が低 くなり、否定的応答が生じやすい。このように考えると、下方向推論における発達的変化は、外 延的知識の豊富さによって説明できるかもしれない。即ち、幼児のように外延的知識の範問が狭 い場合は、前提事例から結論事例が想起される連合的知識が利用され、大学生のように外延的知 識の範囲が広い場合には、前提事例以外の事例が結論事例に含まれるという包摂的知識が利用で きる。

特性推論に関する研究(Sugimura & Kataoka,1995)では、結論が確定できない推論での肯 定的応答の平均値は、幼児から順に1.16、 1.73、 1.23であり、本研究では同じ順にl.j 、 l.f 、 0.60 であった。同じように結論が確定できない推論でも、特に大学生のクラス推論における肯定的応 答が著しく少なかった(否定的応答が多かった) 。特性推論もクラス推論も共に、包摂的知識を 利用すれば否定的応答が生じるが、 2つの推論における包摂関係が異なっている。特性推論では、

結論事例が前提事例以外の事例を含んでいるという包摂関係であり、クラス推論では、前提事例 が結論事例以外の事例を含んでいるという包摂関係である。さらに、クラス推論では"〜の仲間"

という包摂関係を示す文が用いられているために、包摂的知識がより利用されやすい。

最後に、上方向推論と下方向推論の結果をまとめて、カテゴリーに基づくクラス推論の認知過 程について考察する。結論が確定できる上方向推論では、肯定的応答の平均値と割合は幼児でも かなり高く、年齢差がなかったが、一貫して肯定的応答をした者は大学生の方が多く、不定の者 は幼児と2年生の方が多かった。結論が確定できない下方向推論では、肯定的応答の平均値と割 合は幼児と2年生の方が多かったが、 I ‑質して否定的応答をした者は大学生の方が著しく多く、

不定の者は幼児と2年生の方が多かった。以上の結果から、クラス推論における認知過程は幼児 と2年生が類似しており、大学生とは異なることが明らかである。

幼児と2年生のクラス推論には、主として連合的知識が利用される。上方向推論では、前提事 例から結論事例が想起される連合的知識を利用することによって、肯定的応答が生じる。前提事 例が結論事例に含まれるという包摂的知識も利用されるかもしれないが、まだ十分に確立してい ないので応答が不安定であり、 ‑一貫して肯定的応答をした者は大学生よりも少ない。下方向推論

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でも、前提事例から結論事例が想起される連合的知識を利用することによって、肯定的応答が生 じる。この連合的知識(例えば、動物‑イヌ)は、上方向推論で利用される連合的知識(イヌ‑

動物)よりも不安定であり、 ‑一貫して肯定的応答をした者が少ない。下方向推論では、前提事例 が結論事例以外の事例を含んでいるという包摂的知識が利用される可能性は殆ゼない。

大学生のクラス推論には、主として包摂的知識が利用される。上方向推論では、前提事例が結 論事例に含まれるという包摂的知識が利用されるため、肯定的応答の平均値が高く、 ‑一貫して肯 定的応答をした者もかなり多い。下方向推論では、前提事例が結論事例以外の事例を含んでいる という包摂的知識が利用されるため、否定的応答の平均値が著しく高く、 ‑‑質して否定的応答を した者もかなり多かった。しかし、 2つの推論において連合的知識が利用される可能性が全くな いとはいえない。

上述した2つのタイプの包摂的知識は、 Markman and Callanan (1984)による包摂関係の 非相称的知識としてまとめることができる。非相称的知識とは、 "イヌは動物であるが動物は必 ずしもイヌではない"というように、下位のカテゴリー事例は上位のカテゴリー事例に含まれる が、ヒ位のカテゴリ‑事例は必ずしもよりF位のカテゴリーには含まれないという知識である。

前者の包摂的知識はより初期に獲得され、上方向推論での肯定的応答に導き、後者の包摂的知識 はより後期に獲得され、下方向推論での否定的応答に導く。入学生は、このような非相称的知識 をほぼ完全に獲得しているので(杉村・多喜, 1990) 、推論のタイプに応じて2種類の包摂的知 識を柔軟に利用することができるといえる。

要  約

本研究の目的は、カテゴリーに基づくクラス推論の認知過程における発達的変化を検討するこ とであった。幼児、 2年牛、大学生に、 L方向推論課題と下方向推論課題を与え、結論文に対し て"はい"か"いいえ"の応答を求めた。肯定的応答は下方向推論よりもL方向推論で、大学生 よりも幼児と2年生で多かった。 L方向推論では年齢差がなかったが、下方向推論のn定的応答 は大学生よりも幼児と2年生の方が多かった。上方向推論課題に一貫して肯定的応答をした者は 幼児と2年生よりも大学生の方が多かった。下方向推論課題に一貫して否定的応答をした者は幼 児と2年生よりも大学生の方が多く、 ・質した応答をしなかった者は大学生よりも幼児と2年生 の方が多かった。

以上の結果から、クラス推論における認知過程は幼児と2年生が類似しており、大学生とは異 なることが明らかである。幼児と2年生のクラス推論には、 i:̲としては、前提事例から結論事例 が想起される連合的知識が利用される。大学生のクラス推論には、羊として、前提事例が結論事 例に含まれるという包摂的知識と、前提事例が結論事例以外の事例を含んでいるという包摂的知 識が利用される。

引用文献

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杉村 健・多喜裕美1990 概念的階層関係の理解における発達的変化 奈良教育大学紀要, 39(1),123‑136.

杉村智子1994 物語推論における幼児の概念的知識の利用 心理学研究, 65,ト8.

<付記>本研究を行うにあたり、磯城郡田原本町立田原本幼椎園、磯城郡川西町立結崎小学校および奈良教 育大学の学生の協力を得ました。記して感謝の意を表します0

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The Ekvelopment of Class Inferences Based on Categories

Takeshi Sugimura and Aya Wagayama

(De妙iment of Psychology, Nara University of Education, Nara 630 , Japan) (Received April 3, 1995)

Inferences are assumed as processes which one draws some conclusions from the premises. The inferences in which the premise and the conclusion statements have category terms are called the category‑based class inferences. The purpose of this study was to examine developmental changes in cognitive processes in the category‑based class inferences.

There are two types of inferences. For the upward inference the category terms in the conclusion are higher than those in the premise, e.g. , Ekuri (novel word) is a kind of dogs. Is ekwi an animal? For the downward inference the conclusion terms are lower than the premise ones, e.g., Karani (novel word) is a kind of animals. Is karani a dog? The three tasks were provided for each inference. Kindergartners, second graders, and college students were given six inference tasks and required to answer to the conclusion statements with "Yes or ̀̀No" and to justify the answers.

The mean number of the positive answers ("Yes ) was greater for the upward than for the downward inferences, and for children (kindergartners and second graders) than for students. The interaction was significant, which showed that the mean number in the downward inference was greater for children than for students while the mean number in the upward inference was about the same for the three groups. For the upward inference the percentages of the subjects who made the positive answers to the three tasks consistently were greater for students than for children. For the downward inference those who made the negative answers ("Noつ

consistently were greater for students than for children while those who respond to the three tasks inconsistently were greater for children than for students.

I

The findings suggest that cognitive processes in children s class inferences are different from those in adults class inferences. The associative knowledge that the conclusion terms are recalled from the premise terms are mainly used in children s upward and downward inferences. Two types of inclusive knowledge are mainly used in adults inferences: for the upward inference the inclusive knowledge that the premise terms are included in the conclusion terms and for the downward inference the inclusive knowledge that the premise terms include some category terms other than the conclusion terms.

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