医療福祉研究 第5号 2009 13
介護観に関する考察(1)
一介護福祉士養成施設における学生のレポートから一
木村淳也
Astudy about image of care(1)
一From student s report in the training facilities fbr certified care workers
Junya Kimura
要旨:本稿の目的は,介護福祉士養成施設における学生の介護観の構成要素を分類し 考察することにある.具体的には,介護福祉士養成施設で学ぶ学生の記したレポート からキーワードを抽出し,KJ法を参考に分類することで,介護観を構成する要素の整 理と考察を行った.その結果,学生たちの介護観は①理念的記述あるいは理想とする 介護に関するグループ②身体的介護に関するグループ③自らの成長ややりがいに関す
るグループ④不安や困惑に関するグループ⑤模索に関する記述が含まれるグループ⑥ 介護の適性に関する記述が含まれるグループに分類された.
各グループを考察した結果,学生たちにはある一定の介護観が形成されていたもの の,経験内容により各グループ間を移動する可能性があり,介護観は常に再構成され 続ける不確実性を有することが示唆された.
Keywords:介護観, KJ法,介護福祉士養成施設
Image ofcare,KJ method,Training facilities for certified care workers
1.研究の背景と目的
財団法人介護労働安定センターは,2002年度から「介護労働実態調査」を実施している.この調 査は,介護労働者の就業状況を把握するために行われている.2007年度には,17,146事業所を対 象にした「事業所調査」と, 51,438人の介護労働者を対象にした「労働者調査」が実施された.
介護労働者の就業状況は,2007年度の調査結果からみても,年々過酷化の様相を呈している.そ の内容からは,介護労働者の介護労働に対する複雑な胸の内が浮き彫りになっている.
離職率の悪化は,その現れの一つであろう.調査結果によると,離職率は21.6%であり,前年度 に比べて1.3ポイント上昇した.これは全産業の平均離職率16.2%に比べても高い水準となってい る.離職者のうち,当該事業所に勤務した年数が「1年未満の者」は39.0%,「1年以上3年未満の 者」は35.7%であり,離職者の74.7%が3年未満で離職しているという結果であった.
数多くの調査項目の中でも注目すべきは,「仕事に対する考え方」である.介護労働において「や りがい」を強く感じている人は55%であった.しかし,介護労働者の約5割にあたる49.4%が「仕 事内容のわりに賃金が低い」と答えており,前年度の40.3%から9.1ポイントも増加している.続
けて「業務に対する社会的評価が低い」が38.4%,「精神的にきつい」が35.7%の順であった.こ れらは先に述べた離職率の上昇を引き起こす要因であると考えられる.
介護労働者の離職率が悪化する一方で,各種介護事業所が抱える喫緊の課題としては,介護労働
者の確保があげられる.新聞各紙の日曜版に挟まれる大量の折り込み広告には,求人広告が読み切
れないほどに詰め込まれ,介護労働者を求めるメッセージに事欠くことは無い.応募者が殆どない
中からやむを得なく雇用したあげく,数日後には出勤してこないといった施設関係者の話も耳にす る.さらには,人材の確保ばかりに目を向けることによって,介護労働者の質の低さの問題が浮上 してくる.というように,悪循環とも呼べる堂々巡りが繰り広げられているのが実情である.
2007年11月28日「社会福祉士法及び介護福祉士法等の一部を改正する法律」が成立した.改 正法の成立により2011年には,介護労働者の確保と介護の質の向上を目指し,介護福祉士養成施 設(以下,養成施設とする)のあり方に関していくつかの改正が行われる.
たとえば,資格取得の方法に関する改正である.現在,介護福祉士を取得するためには,3つの ルートが用意されている.①養成施設ルート②福祉系高校ルート③実務経験ルートである.①養成 施設ルートでは,国家試験が免除されており,2年以上(1,650時間)の養成課程を修了すること で介護福祉士の登録が可能である.②福祉系高校ルートでは,3年間(1,190時間)の課程を経て,
国家試験の受験資格が与えられ,国家試験受験が可能となる.③実務経験ルートでは,実務経験3 年以上で国家試験の受験資格が与えられ,国家試験受験が可能となる.
しかし,改正後はつぎのように変更される.①養成校ルートでは,養成課程2年以上(1,800時 間程度)を修了すると,国家試験の受験資格が与えられ,国家試験受験が必須となる.②福祉系高 校ル・一一一トでは,養成課程にかかる時間数が,1,190時間から1,800時間程度に変更される.③実務 経験ルートでは,3年以上の実務経験に加えて養成施設6ヶ月以上(600時間程度)を修了するこ
とで国家試験の受験資格が発生することになる.
さらに,資格取得方法の改正に加え,准介護福祉士の資格制度が新たに設けられる.これは,① 養成施設ルートを修了した者が国家試験に不合格であっても,准介護福祉士の名称を与える救済的 措置である.この准介護福祉士制度の成立は,国家試験の合否にかかわらず,介護労働市場に労働 力を担保しようとする国の政策的意図が含まれるように考えられる.このような介護福祉専門職制 度の二段階構造を生み出す国の政策は,介護労働者や介護労働市場において,雇用や賃金に関する 新たな課題を生み出す可能性を孕んでいる.
法改正の一連の流れを概観しても,養成施設への入学者が極端1に減少している状況において,こ れらの取り組みが効を奏するのか否かは楽観視できない.
それでは,さらに政策から視点を身近に引き寄せ,養成施設の日々に目を向けてみる.先に述べ た社会からの要請的視点から見れば,養成施設で学ぶ若者たちが,これからの介護労働者として期 待を一身に背負っているようにも思える.しかし,学生たちにとって介護労働者の不足や,質の向 上,云々の政策的議論はそれほど重要なことではないだろう.
むしろ,学生らにとって高校を卒業し養成施設に進学することは,介護福祉士の供給拠点とみな される養成施設であっても,自らの人生をどのように考え歩むかという進路の一つであり,人生の 通過点でしかないはずである.しかも,養成施設で体験する介護福祉実習(以下,実習とする)は,
高齢者たちが過ごしてきた濃密な歴史に触れ,驚き,恐れ,立ち尽くすことも少なくない.
仮に養成施設が人生の通過点であるとした場合,養成施設における介護福祉教育は,学生らにと って,早急な成長を要求することにもなる.早い時期での人生の選択や,過酷ともいえる実習体験 に基づく「介護をするということ」の意味は,同年齢の若者が抱くそれとは違う意味を持っと考え
られる.
よって本稿は,養成施設の2年課程に在籍していた学生が書き残したレポートから,学生の介護 観を構成する要素を分類整理し,学生の介護観について考察することを目的とする.
1文部科学省が実施する学校基本調査によれば,2006年度の介護福祉学科定員充足率が68%(入学者10,410
名)であったのに対し,2007年度は10ポイント減の58%(8,883名)であった.
介護観に関する考察(1) 15
2.方法
(1)対象
調査対象は,関東地方のA県にある養成施設の2年生(77名)である.内訳は男性44名,女性33名 である.うち,高校新卒入学者は65名(男性31名,女性34名)である.高校新卒入学者以外の12名 の最終学歴はつぎの通りである.高校既卒者2名(男性1名,女性1名),定時制高校卒業者1名(男 性),ビジネス系専門学校卒業者1名(男性),看護学校中退者2名(男性),4年制大学卒業者4 名(男性3名,女性1名)であった.学内留年者1名(男性)であった.年齢は,19歳65名,20歳3 名,21歳3名,24歳2名,25歳2名,27歳1名,28歳1名であった.
77名の学生のうち,看護学校中退の2名は,介護療養型病院での介護経験があり,その他75名は,
養成施設における実習がはじめての長期介護経験といえる.
なお,養成施設卒業時の進路であるが,77名のうち75名が就職しており,69名が介護福祉士とし て介護労働を選択した.その他4名が福祉系4年制大学に編入し,2名が一般企業へ就職をした.
(2)手続き
分類対象となるデータは,筆者が担当していた社会福祉援助技術演習において学生に課したレポ ートから得た.レポートは,10週間(実習は1年次の夏季に2週間,冬季に3週間,2年次の夏季に5 週間が行われ,合計10週間となる)の実習を終えた学生に対して課したものである.提出条件とし ては,1,600字以上とし,2週間の時間を用意した.その結果,調査対象の学生77名全員がレポート
を提出した.
レポートのテーマは「介護をするということ」である.テーマの発表に際して,記述内容に対す るイメージ等の「型」を伝えることはしなかった.あくまで「介護をするということ」という文字 を見て,学生各々がイメージした内容について記述することだけを伝えた.
レポートのテーマを抽象度の高いテーマに設定した理由はつぎの通りである.抽象度の高いテー マは,学生にどのような内容を記述すればよいのか混乱を引き起こす.レポートの記述に関するポ イントを提示しなかったことで,その混乱は強化された.しかし,その際に,学生にきわめて私的 なことも含めて,瞬間的に思いついた自らの直感にしたがって記述することでかまわないと伝える ことにより,記述内容がより学生自身の感覚に近づくと考えたためである.
また,テーマを学生に伝える際には,自分が感じたことを良いことも,悪いことも気にすること なく,自由に記述するように伝えた.さらに,できるだけ学生が安心して本音に近い内容の記述を ためらわないような雰囲気作りに努めた.
(3)分類
収集したデータは,KJ法を参考に分類した.具体的には,筆者が77本のレポートを精読し, 「介 護をするということ」に関する記述であると文脈から判断した一文節(キーワード)を抽出した.
記述内容がきわめて抽象的で,一文節に絞れないレポートも見受けられたが,抽出対象前後の文脈 から筆者が判断した.
77件のうち,テーマから離れた内容で提出されたレポート3件にっいては,対象から除外した.結 果,74件のレポートを分類対象とした.抽出した記述の内容が近いものを集合させ,グループを編 成した.その上で,編成したグループを簡潔に表すタイトルをっけた.さらにグループの編成を繰
り返しながら相互関係を考慮し構造図を作成した.
分類および構造図の作成は筆者が行ったが,筆者単独の判断では,グループ編成等に際して恣意
的な分類になる可能性がある.分類結果の妥当性を高める工夫として,研究協力者に分類結果につ
いて意見を求め,検討した.その結果,研究協力者から分類結果に対する合意が得られたため,一
定程度の妥当性を確保したものと判断した.
なお,本稿では「介護をするということ」から学生が連想したイメージ全般を「介護観」として
用いた.
3.結果と考察
(1)グループの分類と考察
レポートを概観すると,養成施設で学ぶ学生にとって, 「介護をするということ」に対する志向 性は多様であった.ある学生は,介護を将来の職業と仮定した上で理想を語り,また,ある学生は,
介護という現実に向き合う中で膨らみ続ける不安について語った.ひとりひとりの表現方法に違い はあるが,未知への期待と不安が交錯した様は多様に表現されていた.
これらの結果は,特にレポートを課した時期が強く影響していたとも考えられる.養成施設にお ける実習の課程すべてが終了し,夏季休業を終えた時期は,養成施設の学生にとって就職を強く意 識させる時期でもある.そのため,各学生には,職業人としての介護観が強調されたと考えること
ができる.
抽出した記述は,つぎの6っに分類された.①理想・理念的記述,②身体的介護に関する記述,③ 成長ややりがいに関する記述,④不安や困難さに関する記述,⑤模索に関する記述,⑥介護への適 性に関する記述の6グループである.(図D
なお,記載した学生の記述は,レポートに記述されていた一文をそのまま使用し,加筆訂正はし ていない.表現に不自然な点も見受けられるが,原文のままである.
①理想・理念的記述:27件
主に理念的記述あるいは学生の理想とする介護に対する記述が含まれているグループである.代 表的な記述は「介護は,介護を必要とする人たちの生活の質を高め,自己実現を図るための仕事で す」 「介護をするということは,利用者が満足できる生活の自立を図れるようにすることであると いえる」 「楽しみがあり,安心感の持てる老後生活の提供というのが,自分の中の介護をすること の意義だと思っています」である.
その他には,つぎのような記述があげられる. 「私にとって介護は,自分の理想とする〈笑顔に 囲まれる日々〉の仕事なのです」「介護をするということは笑って楽しく利用者が生活することで はないかと考える」 「楽しみがあり,安心感の持てる老後生活の提供というのが自分の中の介護を することの意義だと思っています」 「介護は,介護を必要とする人たちの生活の質を高め,自己実 現を図るための仕事です」である.
分類した記述の中で最も件数の多かったグループである.その内容は,介護福祉士養成テキスト から抜き書きしたようなもの,あるいは,自らの経験をふまえ理想とする介護について記述された
と推察できるものまで多岐に渡る.
その中でも,将来自らが介護労働者になることを前提に,目標となる理想について語ったのであ ろうと解釈できる記述が多く見られた.仮に,実習において経験された現実の介護実践が,想像し ていた理想とする介護実践と一致していたならば,これほど多くの記述は見られないのではないか と考えられる.しかし,分類結果において最も多い27件が,理念あるいは理想的な介護観の記述に より「介護をするということ」について表現していることを考えると,実習経験においてそれぞれ の学生が訪れた介護施設では,理想とされる介護がなされていなかったと想像することもできる.
ここでは,実際に介護施設においてどのような介護が実践されていたかは知る由もないため,これ
以上の言明はできない.
介護観に関する考察(1) 17
.・・ ・・.
②身体的介護 17件
◆・・・… ..・・.・・.・・.・… . ・° ・.°・・・・・・…
私は,お年寄りの日常生活,身の回りの ことを手助けすることだと思います.
.◆一 ■■■■ ・.
介護というのは,食事.排泄.入浴介助
だけではなく.人の心を理解し.・利用者との信頼関係をきつく場であると,私は
そう思います..■・.・.・.・.・.・・・… .・・… .・.・...… .・・.…
◆◆一t ・◆
対象者の方の今までの生活を十分把握 し,対象者の自立を図るため,ADLに合 わせて,必要なところで介助支援を行う ことだと考えています.
■●・●■●・●■●●■●■■■●■●●●●■●●●●■●●●●●■●●●●●・
①理想
・・⑨●…
理念 27件
◆°. ・.
介護は,介護を必要とする人たちの生活の質を高め,
自己実現を図るための仕事です.
●・… .・・・・・・・・… .・.・・・・・・・・… .・・・・・・・… .・・・・・… ●
・°■t 朋 ◆.
介穫をするということは,利用者が満足できる生活 の自立を図れるようにすることであるといえる.
◆●・・.・・.・・..・ ・.・・・・… .開 ・・.… ・・・・・・・・・・・… .■
!°一 ・◆
楽しみがあり.安心感の持てる老後生活の提供とい うのが,自分の中の介護をすることの意義だと思っ
ています.◆・.................................. ..............■
④不安 困難 11件
… .・… ..・.・・.・・… .・.・・.・… .… ■
がんばるだけではダメなんじゃな
いかとおもうようになりました.●..・・.・.・・■■t.・・.・・.・..… .… .・・●●
.・一 ・°・
介護は私にとってとてもつらい
仕事です.■ ・・.… .・・… ■・・.●・・・・・・・・・・… ●◆
◆◆ ° ° ° ° °°・
僕は介護を甘く見ていました.
▲
⑤模索
.・ ̀
介護をすることの 意味についての答 えはまだ.出そうに ありません.
◆● .… ..・.・・...・ ・●●
◆°・°°°t°°° °° ° °・..
自分は正直.介護を するということにつ いて,今まだ答えが ないと思う.
◆●・・・・・・・・・・・・・・・・・… ■
゜◆・......
⑥適性 1件
.・一 °°・◆
介蹟という職業にも 向き不向きが人によ ってあるなと思いま
した.■・・・・・・… .・・… … ●.
③自己成長 やりがい 16件
◆・・.・・・・… ..・・・… .・・.・・..・・… te■・… .・■
介護士の仕事は,私を成長させるものに
なると思います.◆.・.… ●●■●●●・・●■●・■●■●●■●■●・・●・・■●・■●●●●.
◆■・.… ・. ・・ … ..・■.・.・・・・・・・… .・…
私は介護をするということは,自分自身の 「学び」につながるのだと実感しました.
◆●・●・・●●■●●■●●■●●■■●■■●●■●●●●■●●●●●■●●●●●●
・■.・・・・・・・・・… .・・・・・… .・..・・・・・・… ■… ◆
介匝というのは「結果」ではなく,常に 「成長」していくものだと思う.
■....・.・・・・・・… ●・■・●●●■●■●●●■●■●●●●●●■■●・
図1:学生の介護観を構成する要素
しかし,ここで重要なことは,現職の介護労働者が取り組んでいる介護実践を,学生が評価判断 し,理想とする状態ではないと受け止めていると考えられる点である.これは,現在の介護施設に おける日々の実践が,学生たちの持ついわゆる一般的な感覚から乖離している可能性を示唆してい
る.たとえば,学生たちが実習先で経験したあらゆる介護実践の現状に納得あるいは満足するなら
ぱ,理想や理念をレポートに改めて強く語る必要性は無いと考えられるのである.仮にあまり良好 ではないといえる介護実践が現実だとするならば,学生たちは近い将来その場に身を置き,状況を いずれかの方法によって変革し,より良好な介護実践を創出しようとする積極的な介護への姿勢を 含んでいると解釈できる.
②身体的介護に関する記述:17件
主に身体的介護に関する記述が含まれているグループである.代表的な記述は「私は,お年寄り の日常生活,身の回りのことを手助けすることだと思います」 「介護というのは,食事,排泄,入 浴介助だけではなく,人の心を理解し,利用者との信頼関係をきつく場であると,私はそう思いま す」 「対象者の方の今までの生活を十分把握し,対象者の自立を図るため,ADLに合わせて,必要 なところで介助支援を行うことだと考えています」である.
その他には,つぎのような記述があげられる.「介護をするということは,その人の手足となり 世話をすること,だがその人の命も預かっている」 「介護をするということは〈身体上又は精神上 の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者〉を対象に食事,入浴,排泄等を介助し 支援していくようなことが定義されている」 「介護をするということは,身体や精神に障害あるお 年寄りの方々に対し,入浴,食事,排泄などその方々の身の回りのお手伝いをさせていただき,日 常生活を少しでも快適に過ごしていただくことだと思います」 「介護するということは,食べる,
排泄することにはじまり,衣服の着脱,入浴などの日常生活の営みの根幹に直接的に関わる複合的 な援助のことだと思う」である.
このグループは,身体的介護に関する記述が中心に見られ,実習において自らが中心的に経験し てきた事柄を「介護をするということ」としてあげている.具体的記述としては,特に食事,排泄,
入浴に関する記述が多く見られた.
食事,排泄,入浴に関する身体的介護は,三大介護と呼ばれることがある.法改正により介護福 祉士の行う介護の定義が,三大介護から中心のものから,心理社会的支援を重要視する方向に変更 されることが予定されているが,実習を行う介護施設においては,三大介護は日常業務の中心に据 えられている現状がある.
実習において学生は,三大介護に関する手技の習得度によって評価されることが多く,学生自身 も「介護ができる」という表現を用いる場合,この三大介護の習得度を指していることが多い.
つまり,実習先では三大介護の習得度により「できる実習生」 「できない実習生」の分かれ目と なることが多いことから,学生にとって三大介護の存在は相当大きなものであると想像できる.筆 者の体験では,実習巡回時の学生との会話は,おむつ交換がうまくできるか,衣服の着脱がうまく できるかに集中することが多く,学生たちの関心は,三大介護に向いていたといえるだろう.
学生にとって「介護」をイメージする場合,身体的介護がきわめて身近であり,実習中の自分に 対する評価対象と成りうる技術であることから考えると,記述が多くなるのは自然な傾向であると 考えられる.
③成長ややりがいに関する記述:16件
「介護をするということ」により,自らの成長を介護の中に感じた記述が含まれるグループであ る.代表的な記述は「介護士の仕事は,私を成長させるものになると思います」 「私は介護をする ということは,自分自身の〈学び〉につながるのだと実感しました」「介護というのは〈結果〉で はなく,常に〈成長〉していくものだと思う」である.
他にはつぎのような記述があげられる. 「様々な発見ができる場所でもあり,とてもやりがいの
介護観に関する考察(1) 19
ある仕事だと思います」 「一生満足することがないと思いますが,それほど奥が深く,やりがいの ある仕事だと思っています」 「私にとって介護をするということは,大きくいってしまえば喜びを 知ることの手段だと思う」 「介護をするということは,自分の生き方を見直すことにもつながると 思う」である.
これらは,実習において学生が経験した「介護をするということ」の肯定的側面に関する記述と いえるであろう.肯定的側面の具体的記述には学生により違いがあるものの,介護の対象となる高 齢者とのかかわりの中から,学生自身の喜びややりがいを記述したものや,実習前と比較して成長
した学生自身の実感など充実感に関する記述が見られた.
これらの成功体験とも受け取れる学生の介護観は,仕事観にも大きな肯定的影響を与えていると 考えられる.
たとえば,養成施設入学前から介護に対して肯定的印象を有していた学生であれば,実習等の介 護経験を通して,印象がさらに強化されるのではないかと考えられる.
また,介護労働に対して否定的印象を有していた学生が,実習等の介護経験を通して充実感を得 られたならば,介護労働に対する否定的印象は薄らぎ,魅力的な職業として介護労働を認識するよ うになるということも考えられる.
さらに, 「私を成長させるものになると思います」 「自分の生き方を見直すこと」等の記述から は, 「介護をするということ」が学生の職業観ばかりか人生観へも影響を与えている可能性も考え
られる.
しかし,養成施設を終えた後,本人の意志に反して介護労働者になることが既に決まっている学 生や,介護労働を選択せざるを得ない状況にある学生にとっては, 「介護をするということ」によ って得られる肯定的側面を自らに強くいい聞かせることで,不安を払拭しようとしている可能性も
ある.
いずれの解釈も可能性としては考えられるものの,自らの成長ややりがいなどの充実感を得られ た介護経験は,職業として介護労働を選択するかどうかにかかわらず学生にとって得難い経験であ
る.