著者 長尾 年恭
雑誌名 静岡地学
巻 86
ページ 1‑9
発行年 2002‑11‑10
出版者 静岡県地学会
URL http://doi.org/10.14945/00025065
8 6
号( 2 0 0 2 )
海地方の地下で何が起こっているか?
一地震予知研究最前線一
尾 年 恭 *
1
.はじめにはまだ発生していないにもかかわらず、すでに 名前"のついている世界で唯一の地震で す。つまり、地震予知の
3
要素(いつ、どこで、どれくらいの)のうちの「どこで、どれくらいのjという事についてはすでに予測されている訳です。
「予知
J
という言葉が世間で取り上げられる時に、実は研究者と一般市民との間とで大きなギャッ プのある1 9 9 5
年の阪神大震災を契機にクローズアップされました。つまり一般には「いつJ
に関 して、数日ないし数時間といった「直前の予知J
を予知と考えているのですが、研究者は「予知」と いう音葉により複雑な意味をもたせていたのです。 阪神大震災は「長期的に j予測されていましたが、そのような予測 には役に立たなかったのです。
2
.物事を理解することとそれがいつ発生するかを知ること地震学の進歩により、我々の地震現象そのものに対する理解は格段に深まりました。そして地震現 象が極めて複雑な現象である事も分かり、逆に 予知"が困難である されるようになりまし た。我々は地震について、それがどこで発生するのか、どのような統計的性質があるのか、といった
は、極めて良く分かるようになりました。
つまり、
1
)地震は急激な断腸運動の結果 であるO そして、2
)断層運動はプレート運動の結果 であるO そして3
)プレート はマントル対流が原因である そして4
)マントル対流は地球が冷えつづけている事を示している という事を知っています。しかし、地震が いつ開発生するのかを予測する事は、これらの地震のしくみを完全に理解しても、
難しい訳です。つまり、 いつ"を知るには、何らかの前駆的現象が存在しない限り、統計的な議論か ら一歩も踏み出す事はできないのです。あまり例えは良くありませんが、ある講演会場に
1 0 0
人の方 がいらしたとします。r 1 0 0
年後には90%
を越える方は亡くなっているだろう jという予測は医学の急 激な進歩が無い限りほぼ 当たる"と考えられます。これがいわゆる 長期的予測"です。例えば1
年後の?丹X
日の天気"~ま統計的にしか予測できません。それに対し、“ 5 分後に雨が蜂るか"は、窓を開けて空を観察すれば、かなりの確度で予測する事ができます。文部科学省の地震調査研究本部で は地震の長期予測(評価)しか行わない(行えない)という方針ですが、我々はいわゆる長期予測よ
り、何らかの前駆的現象を用いる短期予測のほうが、その結果を評価する事も可能であるし、ある意
* ンタ
‑ 1 ‑
する事が極めて髄難であるという本質的な問題を含んでいるのです。
丸東海地震想定震源域の拡大
2 0 0 1 年 6 丹、中央防災会議は、東海地震の想定震源域をこれまでより西に拡大し、ナス型とする を発表しました。これこそ過去 3 0 年以上の地震研究、地震予知研究の成果の賜物で、東海地震像がよ
り具体的に示された訳です。これにより、強化地域の見直しも実施され、現在に至っています。静岡 はすでに相当程度ノ¥ードウエアを含めた対策が進んでいますが、新たに強化地域に指定された地域 では、これからが正念場といったところでしょう
Oまた名古屋市などでは、何十万人にも上る帰宅困 難者といった新たな問題が発生しています。
しかし静関では、確かに住民の方は「最近東海地震の報道が多くなったね
jという会話はするもの の、現実には情報過多であまりに 危機感"
~こ慣れっこになってしまい、逆に防災意識の低下が見受けられます。
特に現役の高校生、大学生は 生まれてからず、っと地震が来る円と言われ続けている訳です。つま り人生の全てで 地震が来る円と言われている訳ですから、彼らにとっては無限の時間 地震が来る押 と言われ、実際には斜地震は来ない押訳です。ですから もう東海地震は来ないのでは円という印象 っている学生が多数いるのです。我々は巨大地震のような低頻度大規模災害への上手な対処法を まだ知らないようです。
仁 静 関 県 の 被 害 地 震
それでは機械的(科学的)な計測がなされていなかった時代の地震はどのようにして復元されたの でしょうか。日本や中国は古くからの記録が古文書等に残されています。またお寺の過去帳といった ものも参考にすることがあります。このような記録にある地方で同じ日に f 地面が大きく揺れたム「海 から大きな波が押し寄せた J 等の記録があれば、それらを利用して震源を求めたり、マグニチュード を推定したりします。また過去の地形や植生なども歴史資料を用いて推定したりします。
図 1 は「慶安 3年内海御定 J と呼ばれるもので、これは慶安 2 年(1 6 4 9 ) 、折戸湾に面した旗本榊原
領の村と朱開地三保社領の折戸、三保村がマテ貝漁で争いとなり、江戸の評定所(今の最高裁)で訴
訟になったそうです。その時、検使役人は領地境の墨筋と松の見通しで漁区を決め、絵国へ書き入れ
たそうです。この絵図は三保髄が受け取った原本で、このような古文書を調べるとおおよその当時の
地形やどこに松林があったか等の情報を得る事ができます。このような絵図と古文書を調べることに
より、たとえば津波の被害や松の植生がどのように変化したかを推定する事が可能となります。地震
という分野があり、そこでは計測器が無かった時代の地震についての研究をしてい
ます。
8 6
号( 2 0 0 2 )
国
1.
5
0 東海地方の地下で何が起こっているか?2 0 0 1
年7
月訪日、国土地理院から東海地方に設置されている地殻変動のデータに異常が見られる との発表がありました(東海スローイベント) 0
この現象に対して、多くの地震研究者が、「ひょっと したら大きな地震につながる可能性があるかもしれないJ
と感じたと思われます。最悪の場合、2 0 0 2
にも東海地震発生に歪るとの解析結果も公表されました。最新のデータで異常変化を詳細に検討 すると
2 0 0 2
年中に東海地震が発生するという最悪のシナリオからは脱したようですが、もちろん確実 ではありません。今蓄える事は、東海地方の地下では明らかな異常現象が進行しているという事だけ ですOそれは東海地震説の発表以来漠然と言われ続けてきた
f
いつ発生しでもおかしくないjという 実際に観測データとして「いつ発生しでもおかしくないj という状況になったという事なのです。つまりこれまでタブーであった地震発生時期の予測が科学的なデータ(と仮説)に基づきなされるよう になったのです。現在公表されている代表的なモデルは
1
)名古屋大学による破壊時期予測モデルによるもの (浜名湖罵辺での地殻変動データをもとに)2
)防災科学技術研究所による想定震源域での地震エネルギーの解放3 )
東大理学部による御前崎の沈蜂を説明する臨界状態予測モデルによるもの4)
東大地震研による御前崎の沈降を説明するフラクタル理論によるもの‑ 3 ‑
れる現象の急増が確認され、同時に東海地震の想定震源域でも明らかな地震活動の変化も観測されて います。確実に事態は進行しており、
2 0
年以上前から苦われている「いつ発生しでもおかしくないj という東海地震は客観的な観澱事実をもって、本当に「いつ発生しでもおかしくないJ
と言える状況 になったという事を我々は考える時期に来ているのです。図
2 .1 9 9 9
年の台湾の集集地震の際に現れた手抜き工事の一例@コンクリートの 代わりにー斗缶が壁の中から出現した@1
日本の建物と地震防災対策の富点、についてちょっとおかしな事を言いますが、実は地震では人は死なないのですO それではなぜ人は死ぬので しょう?それは地震ではなくて 建物円:人間の作ったもの、に殺されるのです。基本的に日本の建築 物は新しいものは磁めて地震に強い事が証明されています。ですから最も大切な地震防災対策は「家 具の国定、ガラスの飛散防止
J
といった対策なのです。良く「あなたの家でどのような防災対策をしていますかj という質問に対し、非常食の備蓄や飲料 水を確保しているという答えがかえってきます。しかし極論を言えば、「生き残らないと非常食を食べ られないj という事なのです。ですからまず家具の固定、ガラスの飛散防止を行って頂き、その次に 非常食等の備蓄をお願いしたいと思います。
1 9 9 9
年の台湾の集集地震では手抜き工事の問題が大きくクローズアップされました(国2)
0 日本の 住宅は確かにちゃんと作った物は強いのです。しかし手抜き工事がどの程度の割合で行われているの8 6
号( 2 0 0 2 )
カ〉 はなさ ありません。
人地震予知顎究の歴史と現状 わ
した(1
9 6 2
がら の状況は、いわゆる ブループリント"と呼ばれる文章の成立に始まりま
O その中で、各種観測鰐が整錆され、相当の科学的知見がえられてきましたが、残念な 予知に成功した併はありません。そのような状況の中で阪神大震災が発生し、
つにのです。しかし、
>8
であれば、短期予知の可能性はあるが、阪神大震災のよう は現状では期待できないというのが共通認識だと思います。私は阪神大震災以後の風 潮であるf
地震予知は困難だ、からやめようJ
というのは大きな間違いで、「これまでのやり方のまず、かっ た部分を修正して、より一生懸命地震予知研究を推進しよう j というのが筋だと思いますが皆様いか がでしょうか?そして地震予知研究は全国土が地震発生帯である日本ができる最大級の国際貢献の一 つであると確信します。そして、地震学以外の分野では実は地震予知研究は極めて盛んになっているのです。ここでは短期@
直前予測に関する電磁気学的な地震予知研究について紹介します。
8 .
電磁気学的な地震予知萌究1 9 8 0
年代に入札パソコン技術の飛躍的進歩により、それまで不可能と思われていた高速でのデジ タルデータ取得が可能となりました。1 9 9 5
年の阪神大震災では実は様々な電磁気学的な異常が観測さ れていたのです。このうち最も驚くべき事は地震の前にその上空の電離層に異常が観測されるという ものです。 地震は地下の現象であり、電離層に異常が観測されるというのは、にわかには信じがたいと思いますが、統計的にも有意であることが判明しています。これに関連し、プランスでは
2004
ための人工衛星が国家プロジェクトの最優先項目として打ち上げがすでに決定してい ます。私どもでは
1 9 9 6
年から2 0 0 1
年までf
理化学研究所@地震国際アロンティア研究」を実施してきま した。そして全国に約4 0
の地電流、3
成分地磁気観測点、を展開してきました。この中で最大のイベン トとなった2 0 0 0
年夏の三宅島噴火に始まる しい群発自身活動に伴いどのような電磁 気学的な変動が観測されたのか紹介したいと思います。本論に入る前になぜ電磁気的な手法が有効な のかを説明したいと思います。一例として1 9 9 0
年代になってソビエト連邦(当時)からもたらされた 情報を紹介します。1 9 7 9
年、ソ連によるアフガニスタン侵攻という事件があり、モスクワオリンピッ クがボイコットされるという事件があった事をご記'諒されている方も多い事と患います。当時アフガ ニスタンに進行したソピエト箪はA T O
軍の攻撃に備え、全天を防空レーダーで監視していました。そうこうしているうちに全てのレーダーに突然妨害電波が観測され出したのです。当然の事ながらソ ビエト軍は
NATO
軍の攻撃があるものと思い、あやうく核戦争一歩手前まで行ったとの事でした。そして約
2
日間続いた妨害電波は、隣国のイランで発生したM7.0
の地震とともに消失したのです。、~
'‑
は1 9 9 0
年代に入り、ペレストロイカのもとでようやく西側研究者にもたらされました。この‑ 5 ‑
また 1 9 9 5 年の阪神大震災の時には以下のインタビューが残されています。
は阪神大震災発生時に震央付近を走行していたトラックの福山通運@高橋淳一運転手より、中波のラ ジオ関西 ( 5 5 8kHz 、20kW) の雑音状況についての証言を詳細にまとめました。氏は元電話級アマ チュア無線技師の経験があり、幸いにも極めて明確に雑音レベルの変化を記
J憶していました。芳野に
よれば
「高橋運転手は l 月 1 7 日午前 1 時頃、約 6トンの鏑材を積み福山市郊外の福山通運貨物ターミ ナノレを名古屋にむけて出発した。途中福山東インターから間山インターまで山陽自動車道を走り、
次いで備前インターまで国道 2号を、備前インターから再び、山陽自動車道に戻った。その後山陽 姫路東インターで国道 2号線に下り、 5時頃東加古川付近に差し掛かった。高橋運転手は長距離 トラック@ドライパーの常で、眠気防止を兼ねて中波放送を開きながら運転を続けていたが、こ の時はいつもの通り神戸に接近するにつれラジオ関西
(JO C R 、神戸、 5 5 8kHz) を受信しなが ら走行した。東加古川付近を過ぎる頃、最初に放送に雑音が漉入しているのに気付いた。明石市 を過ぎる頃からノイズレベルが放送波レベルに近くなり、非常に耳障りとなった。この様な事は 以前に経験した事が無かったので、不思議に思いプレチューンしたプッシュスイッチを押して、
阪神で受信可能な 1MHz 前後の他の放送局 5 局を試しに受信してみたところ、 5 5 0kHz から1. 6 MHz までのすべての放送波帯内で同様のノイズの混入が観測された。
不思議に思った高橋運転手は 5 5 8kHz に戻し、このノイズはどこまで行けば消えるかとそのま まにして走行を続けた。 5 時 2 0 分頃舞子を通過し垂水に入った途端、急に強烈なノイズが受信さ れた。この時思わず、ボリュームをしぼって前と向じ程度のレベルに調整し、そのまま走行を続け た。この後数回、他の放送局の竜波に切り換えてみたが、常に中波放送帯すべてに渡り強力なノ イズでまったく放送内容は聞き取れない状態であった。その後、 JR 兵庫駅付近で急に放送内容 が判明できる恕度にノイズレベルが下がり、神戸市兵庫区に入ると再び前と間程度のノイズレベ ルに戻った。その後神戸市東灘区を通過する墳一層レベルが上がり、そして高架橋崩壊部分を通 過した産後の 5時 4 6分、強烈な振動にハンドルを取られて左右に振り回され、夢中で急停止し、
何事が起こったかを確認し安全を確かめるつもりで直ちに車外に出た。その後 1 5 ‑ 2 0 分後に車に ったところ、つけっぱなしであったラジオが地震発生を告げているのが関こえた。すなわち本
に放射されていた激烈なノイズは浩えていたのである(一部省略 ) o J
このように地震時に、ほぼその断層産上を走行していたと考えられる車両からの雑音レベル変化の 報告はおそらく初めてのものと思われます。芳野は本文で「常に一般大衆が聞いている中波放送帯で、
持ならぬ強烈なノイズが混入し始めた時には、直下型大地震の予兆である可能性が非常に高いと言え
る事を示唆している。
jと述べています。なお電蔽気学的な地震予知研究全般については著者が 2 0 0 1 年
に総合的な研究報告を出版(地震予知研究の新展開、近未来社)していますので興味のある方はぜひ
ご参照ください。またほとんどの電磁気学的な研究は純粋の地震学者ではなく、物理学者や天文学者、
8 6
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により開始さ も き と思います。また研究を開始したきっかけ が碑然であった窺測も存在します。
本論では特に
2000
年の夏 の噴火で始まつし し
に先行したU L F
帯の龍盛界異常を伊!とし したいと思います。9 . 2 0 0 0
三宅島噴火に始まる静豆蕗島での激しい地震活動は、
2000
年G
月2 6 E I
突然開始、し、およそ2
ヶ月の間続きました。ほぽ同時に伊豆 も活発になりました。この群発地震活動ではマグニチュード6
(以下M 6
と表記)クラスの比較的規模の大きな地震がいくつか発生しています(国3)
0殻変動
(GPS)
データでは神津島一新島問の距離が約2
ヶ月の間におよそ90cm
伸びてい ました。この群発地震活動に先行して観測された電場、磁場の異常について紹介します。晴 創
6 . 1 ( 8 J
説"i v 1 6
.4 (1 J t
社Y ) 0:
ごO
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関
3 . 2 0 0 0
年8
月のM6
以上の地震と観潟点分布.t 尋 1
による士宮 も判明し
(1)地電イ立差および地越気の変化について:我々は新島で
1 9 9 7
より地電位差観測を、2 0 0 0
年初 頭より伊豆半島で3
成分磁力計3
台を用いたアレー観測を行っていました。地建位差観測では電極は 鉛一塩化鉛龍極を用い、2 0ピット分解能で観測していましたは LSB=20μV)O
図4
は新島観測点の3
年間の地電位差データおよび伊豆半島の地磁気データです。ここで示したのは地電位差データの生 データではなく、0.01Hz
帯(ULF
帯)でのスペクトル強度の変化です。また地磁気データは後述す るPC A ( P r i n c i p a l Component A n a l y s i s
、主成分解析と呼ばれる手法)を適用した後のデータです。いずれも今回の群発地震活動の始まる約二ヶ月前から通常とは明らかに違う変化をしていた事がわか ります。そして地電流データがこのような顕著な変動を示したのは観測開始以来始めてのものでした。
また群発地震活動開始後の欠測は、地震活動と台風により観測点が土砂の下に埋まったためです。な お磁力計はロシア製のトーション型
3
成分磁力計を使用しています(分解能1pT)
。‑7‑
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2000
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1998
伊豆半島の
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符;地磁気変動 0.1¥
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f J i i f
ザそ手持:4 5 6 2000
年地援活動
4 2
1 0 8 9
3 ア O 2
図
4 .
新島および伊豆半島で観測された地電流と地織気の変化.(a) 3年間のデータ.
( b ) 2 0 0 0
年の拡大国.(c)気象庁による地震活動の推移.縦軸は発生した地震のマグ ーザュードを示す@
8 6
号( 2 0 0 2 )
(2)地礎気データの主成分解析:多くの地震の前兆的変化が様々なノイズに埋もれてしまうという 従来の経験から、今回は
PC A ( P r i n c i p a l Component A n a l y s i s
、主成分解析)と呼ばれる手法を伊 豆半島の地磁気三観測点、のデータに適用しました。一般に地磁気や地電位差データには1
)太陽活動 る地磁気変動(磁気嵐など)およびその誘導電流、2
)人工ノイズ、3
)それ以外のもの(地 に関連する地磁気変化を含む)から構成されると考えられています。主成分解析では信号源(前述のグローパルな地磁気活動による変化、 ノイズ、それ以外の成分 など)を区別するために、今回は地磁気
3
成分のうち南北成分のデータを用い、0 . 0 1Hz
帯および0 . 1 Hz
帯で解析を実施しました。主成分解析では原理的に測定系の数だけの成分にシグナルを分離でき る事が知られています(この場合、3
笛所の地謡気データがあるので3
つの成分となる)。言い換えれ ば3
地点間の磁場の関探を調べることで、異なる起源を持つ(と推定される)3
つの成分に分離するこ とが出来ます。図4
はこのようにして求めた3
番目の間荷備の時間変化です。図4
において3
番目の は、地需流データと同期するように4
月下旬以降それまでより大きくなっている事が判り ます。また期間中に発生した3
つのM 6
クラスの地震において、いずれもその直前に匝有値の値が急 激に増加していた事も判りました。さらに間有値の大きさから、もしこの変動が地震先行シグナルであったとすると、磁場変化の大きさは
1 0 ‑ 1 nT
程度か、それ以下であった事を意味しています。これまでの地震予知研究は、色々な観測を続けていれば、 大きな"前兆的変化が観測されるであろ うという考え方で進められてきた傾向があります。確かに直下型の大きな地震の場合、シグナルは非 に大きく現れるだろうから、従来の解析方法でも異常な電磁気的変化に気が付く可能性もありまし た。しかし我々が学んだ、ことは
f
地震に関する前駆的電磁場変動は極めて小さいJ
という事ではなか ろうかと思います。今回、我々はPCA
を解析に用いましたが、新しい情報理論を用いた解析は、これ まで見えなかった微小なシグナルの分離に効果的であることを示したと考えています。1 0 .
終わりに電磁気学的な地震予知研究は国際的にはまずます盛んになっています。このような動きを受け、地 球物理最大の国際組織である
1U G G
(国際測地学@地球物理学連合)では、地震学会、火山学会、にまたがる国際的なワーキンググループ(
E M S E V ; E l e c t r o m a g n e t i c S t u d i e s o f Earth
中akesand V o l c a n o e s )
を設立し、活動を開始しました。地震予知は確かに国難な研究ですが、不可能ではありません。着実に研究を進歩させていきたいと思います。