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自己株式取得と監査

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(1)

自己株式取得と監査

著者 大野 浩

雑誌名 金沢大学経済論集 = The Economic Review of Kanazawa University

31

ページ 31‑47

発行年 1994‑03‑25

URL http://hdl.handle.net/2297/37251

(2)

自己株式取得と監査

AcquistitionofTI℃asurySt"kandAuditing

大 野 浩

序IⅢⅢ結

自己株式と会計的接近 自己株式の取得と経営効果 自己株式の取得と監査

三五 口口

株式会社における自己株式の取得に係わる論議は,.一般に商法(株式会社 法)の論理構造に帰因する論理的規制と政策論に帰因する政策論的規制があ る。例えば,自己株式取得に係わる取得規制事由としては,(1)資本維持に係 わる諸問題一出資の払戻他,(2)株主平等に係わる諸問題一機会均等,イソサ イダー取引等がある。又自己株式取得規制の方法として,目的規制,財源規 制による自己株式取得論議がなされる。一方,自己株式取得規制緩和の効用,

目的として,資本調達,資産確保(株価との関連において)他が指向される。

自己株式の取得の目的,規制の必要性,規制の具体的方法について,次の 様に示されている(')。

当該稿においては,「自己株式」と企業実態との関連の下に,自己株式の 機能一会計学的接近,経営学的接近,監査論的接近を試行し,自己株式の取 得の是否又は規制の是否,在り方について試論する。

注(1)龍田節,「自己株式取得の規制類型」,『法学論議』,第90巻,4.

5.6合併号,206〜207頁

(2)新美一正,「自己株式取得は株主に利益をもたらすか」,「Japan ResearchReview」,1993,vo1.3,NQ4,P.62

− 3 1 −

(3)

表1(1)

取得許容の効用として,

a・構造的調整1.減資・消却 2.包括承諾 3.買取請求権 b . 資 産 確 保 1 . 権 利 の 実 行

2.債権担保 c ・ 資 本 調 達 1 . 安 定 操 作 2.市場維持 自己株式取得規制の必要性として,

a ・ 資 本 維 持 1 . 出 資 払 戻 の 禁 止 2.資産の健全性 3.資産の流動性 b . 株 主 平 等 1 . 機 会 均 等

2.危険負担の公平 3.価格の公正 自己株式取得規制の方法として,

第1指標 A.包括禁止

B . 目 的 規 制 B 】 限 定 列 挙 B2一般条項 C . 財 源 規 制 c 】 資 本 金 C2資本剰余金 C3利益剰余金 C4支払不能 第3指標

G . 実 質 規 制 G 】 従 属 企 業 G2計算帰属 G 3 融 資

, 自 己 株 式 と 会 計 的 接 近

3.転換・選択権 4.端数株・失権株 d.資金運用

e ・ 企 業 防 衛 1 . 企 業 政 策 の 維 持 2.外資に対抗 3.企業取得 f・従業員対策

c,支配の公正 d.株式取引の公正

(副作用)

a.法の尊厳 b.規制の経済

第2指標

(閑繍)D・限度規制 E.価格規制

F.手続規制 F】決定方法 F2買付方法 F3開示方法

自己株式に係わる会計学的接近として,次の事が上げられる。(1)自己株式 の資産性の有無,(2)会計目的との関連(自己株式の認識・測定・報告)

自己株式の取得については,法的には,商法第210条(原則禁止)を基本 としながら政策的に1〜4号として自己株式の取得を認めている。①株式消 却のため,②合併または会社の営業全部の譲受によるとき,③会社の権利の 実行に当り,その目的を達するために必要なとき,④営業の譲渡または譲受 の場合,株式の譲渡制限についての定款の変更の場合または合併の場合につ いて,その決議に反対する株主の株式買取請求によりその株式の買取を行う とき,他に,単位株制の導入により単位未満株式の買取請求による自己株式

(4)

の取得がある。一方,自己株式の取得と性格については,自己株式の取得後 は相当の時期にこれを処分しなければならない。又自己株式は流動資産の部 において,他社の有価証券(株式)とは別個独立した科目として表示されな ければならないとされている。かかる現行制度は,自己株式の取得に対し,

株式会社法体系に占める資本金の物的債権者保護機能と会計思考に対時した 資産性の上に立脚した認識の下における株式の認識であって,会計的判断主 体としての資本主主体論一株式会社は株主の集合体と思考し,自己株式の取 得(有償取得)は会計学上の資本取引と位置付け,自己株式の有償取得は株 式会社の実質的減資一資本(広義)を財源として自己株式が取得されると考 え,それらは実質的には資本の払戻しであり,ひいては会社債権者の利益を 害することになる。−自己株式の取得による資本の形骸化(!ととして,自己 株式を認識するのである。端数株式の資産性について貸借対照表上における 流動資産としての有価証券一自己株式一の認識は,証券市場における売買等 の合理化施策の一環として,位置付けられた例外的許容として,又自己株式 の取得,保有における一時的所有という限定の下に,法の政策的規制として,

資産性の容認をはかったのである。それ故に自己株式の売買による差損益の 認識は資本剰余金の増減として処理されることとなる。(資本取引説)

他は,法的には,「社団自身が社員になることの背理性といったような概念 法学的な形式論理のみ…たとえ株式会社についてもその社団性を強調する立 場に立ったとしても,社員権が株式として物化され,商品性をもちうるもので ある以上,事実として会社が自己株式を取得しうるということは動かし難い('%」

と述べられるごとく,社員権としての株式の証券化及び株式会社の実在化一 企業自体の思想一株式会社それ自体が株主より独立した人格を有する社会的 実在として認識する見解である。かかる観点より自己株式の性格規定すると,

株式会社における「資本金」の増減変化に直接的関係を有しない,自己株式の 取得は,これを他の会社の株式を保有する場合と同様に資産とみなし,有価証 券勘定に記載すべきものと規定される。それ故,株式の消却のために取得した 場合を除いて,その他の場合に取得した自己株式の売買を損益取引として認識 し,その差額は営業上の損益として認識されるのである。かかる思考は,例えば 株式会社の資本調達手段としての株式の証券化の高度化によって,証券市場に

− 3 3 −

(5)

おける価格形成という過程を経て,自己株式の商品化とともに客観化され,同 時に資本金構成単位からの離脱と資産化が促進されたことに求められる。

会計機構と自己株式についてみると,財務会計の基本的機能は企業の一定 期間における分配可能利益(又は処分可能利益)の計算確定と経営成果及び 財政状態の開示として認識される。株式会社の法的機構と財務会計構造に占 める会計の基本的機能は,株式会社における資本金を中核として構成される。

株式会社における資本金は,一般的に計算上の数額であって,有限責任制の 下における会社債権者保護に対する担保額の抽象的な表示として認識される。

静態会計思考に下においてはかかる法定資本の債権者保護機能は,資本の具 体的運用形態としての具体的な財産価値物によって保証され,資本金額の超 過額をもって利益(処分可能利益)として認識され,分配されるのである。

それ故静態会計論の下においては財産価値物との対時の下に,法定資本の認 識による債権者保護機能が具体的な会計構造として構築されたのである。

動態会計思考の下における法定資本の債権者保護機能は,資産性の基本的思 考としての価値性(換価能力)から用役性(量)への乖離による資産の担保性 (換価能力)からの離脱の上に,法的資本の債権者保護機能の構築が指向され たのである。ここに,財産価値性をもって債権者保護機能を論理化した思考から 企業の収益性をもって論理化する債権者保護機能へと展開することとなった。

法定資本による債権者保護機能に係わる財務会計機構は,基本的原則とし て資本と利益の区分一資本取引と損益取引の区分一による資本維持と分配 (処分)可能利益算定規制をもって論理化する債権者保護機能の展開と

な っ て き た の で あ る 。

株式会社は株主の出資額を限度とする有限責任制を基本とした,物的会社 と位置付けられ,会社債権者は,その弁済を会社資産に求めることとなる。

動態会計思考の下における会社資産は,一定時点における投下資金額(取得 に係わる支出額)を表示するにすぎず,測定時点における市場価格(時価)

を表示しているものではない。その結果,株式会社の資本金は,財産価値に 裏付けられた資本比較法による資産性と資本,収益としての認識ではなく損 益法的会計思考の下における資産性の確保による資本金として位置付けられ,

損益法的会計構造を基礎とし,資本取引と損益取引の区分と配当規制による

(6)

資本維持が図られているである。

自己株式の資産性認識は具体的には,資本金の構造(内容一資産観)に依 拠し,静態観的資産観における資本は,財産価値性を基本とし,自己株式の 取得は,結果として資本の減少(財産価値の減少)となる。一方,動態論的 資産観における資本は,費用配分原理を基本的思考とした回収計算構造の下 における資産性認識となる。その結果,資産価格は,財産価値(時価)との 乖離化が顕著となる。自己株式の取得は,財産価値の取得(減少)−資本減 少一を表象するものではなく,資本金を中核とした債権者保護機能の維持

(資本維持)という観点からは,自己株式の取得による資産としての株式の 取得であって,資本の減少ではない。ここに会計思考を基礎とした,自己株 式の認識の差異が醸し出されるのである。

注1倉沢康一郎,「公開会社の自己株式取得規制緩和」,『ジュリスト』,

伽1029,14頁

2倉沢康一郎,「前掲論文」,伽1029,12頁

II自己株式の取得と経営効果

株式会社における自己株式の取得は経営に如何なる効果,機能を与えるか についてみると,(1)次の様に示される。

図1自己株式取得によるステークホルダ一間のメリット・デメリット

主 体

経営者

株主。

投資家

債權者 従業員

メ リ ツ ト o外部流出コスト(配当,法人税)の節約

・リストラクチャリソグによる収益力向上(資本 コストの低下)

・機動的な資本構成変更(資本コスト低下)

・株式オプショソ制度婦対応(経営者利得)

o株価へのアナウソスメソ卜効果(新たなIR活 動手段の獲得)

・M&A対策(経営者権の強化)

・株式相互持ち合いの解消の受け皿

・株主利益還元策の多様化

・リストラによる収益力向上(株価上昇)

・アナウソスメソ卜効果による株価上昇 o企業実態の正確な把握

・株主持ち分の増加

・収益力の向上(債権価格上昇)

・ESOP制度対応(従業員福祉)

デ メ リ ッ

・内部留保の流出(投資政策の拘束)

o株価変動リスクの負担

・株主権の相対的後退(経営者暴走)

・経営者の放漫な投資決定(株価下落)

・負担すべき経営リスクの増大

・現金配当の減少(配当の謎→株価下落)

oM&Aの障害(リストラクチャリソグ進展の阻害)

o株主権平等を阻害(配当,内部留保選好)

・負担すべき経営リスクの増大(債権価格の下落)

・ 内 部 留 保 の 流 出 ( 債 権 価 格 の 下 落 ) o労使関係の変動(労働条件の悪化)

−35−

(7)

公正な資本市場を前提とし,自己株式の取得の目的,動機における異同は 除外し,主要なる自己株式取得,効果についてみると,(1)資本コストの低減 による収益率の向上が上げられる。資本コストの低減は企業資本運用におけ る運用益〜自己株式への投資益〜配当等の内部留保益の拡大(2),(2)自己株式 の償却(名目的減資)等による配当負担の軽減による外部流出コストの削減 がある。(3)は自己株式取得による派生的効果として,株式取得による株価上 昇期待と時価発行増資(転換社債,新株引受権付社債他)によるエクイティ・

ファイナソスー資本コストの低減と自己株式取得による余剰株式株(株式需 給改善効果)の削減による株価効果がある。

本来,自己株式の取得は経営における資本コストの引き下げにあって,具 体的には資本運用益に対時した収益改善策に対する意思決定としてあらわれ,

一般的には,企業における最適資本構成の模索と配当等の内部留保(他社株 式との比較による)益の拡大として認識されるのである。

ただ,今日的には自己株式と配当による収益性について全国証券取引所協 議会による,「全国証券取引所上場会社の平成三年度の配当状況調査3)」を

示し検討すると

オ 淵 ・ 収 盗 の 斗 犬 〉 h l − 全 金 融 ・ 保 険 業 を 台

2.()内数値は前年度比増減率を示す。

3.株主資本利益率(ROE)の算出に当たっては平均株主資本(B':期首・期 末平均)を使用して求めた。

4.諸比率及び増海津は百万円単位の数値を用いて算出してある。したがって、

この表の数値から算出したものと異なる場合がある。

年度 社 数

総 資 本 総 額

A

株 主 資 本 総 額

B

株主資本 比 率 B / A

税引後利益総額 C

︾︾︽垂

師記開帥刷他聞123

1,762 1,781 1,799 1,814 1,帥9 1,777 1,810 1,971 2,047 2,鮒4

5,926,189( 6,456,869(

89GQ

7,288,293(+12. 7,719,386(5 8,738,404(+13. 9,705,293(+11. 11,m6,642(+13. 5

0

9

9

2

1

4

13,282,019(+20.7) 13,771,568(3.7 13,683,301(A0.6)

533,035(+10.3) 589,348(+10.6) 650,818(+10.4) 717,107(+10.2) 798,786(+11.4) 7,006(13.5 1,044,7(15.1 1,363,853(+.6 1,棚,274(+9.9) 1,567,(4.7

8.99 9.13 8.93 929 9.14 9.35 9.49 10.27 10.88 11.49

43,586( 5

47,582(9

●●

55,531(+16. 59,054(+6. 58,575(A0. 73,052(+24. 83,223(13. 102,038(+22. 兜,㈹9(▲3.

79,190(A20. 5

2

7

3

8

7

9

6

O) O)

8.59 8.46 8.94 8.63 7.66 8.62 8.63 8.19 6.87 5.16

(8)

各種資本の利益率 一金融・保険業を除く一

即伽

図 3 先 進 資 本 市 場 国 企 業 の 配当性向推移

25

98765432

門︲・日内叫UniU内︲︼内l︼RlU内︲︼Ru

イ キ

株主資本経営利益率 ア メ j 力

20

(

3..トイツ

15

負 債 倍 率 一

§x・ 日本

7273747576777879帥81828384858687明89卯9192

(資料)MSCIP

(注)配当性向=PER×配当利回 り、として算出した数字。

108.58株主資本利益率2.36

5

(注)負債利子率=(金融費用/負債)

負債倍率=(負債/株主資本)

負 債 利 子 率

1 1 1 1 1 1 1 1 1

0

57585961616263123年度

表3配当の状況一全社集計(金融・保険業を含む)− (億円・%)

(注)1 2 3

各年度とも変則決算会社等を用いた。

()内数値は前年度比増減率を示す。

株主資本利益率(ROE)の算出に当たっては平均株主資本(D':期首・期 末平均)を使用して求めた。

諸比率及び増減率は百万円単位の数値を用いて算出してある。したがって、

この表の数値から算出したものと異なる場合がある。

4

− 3 7 −

年度 社数 総 資 本

総 額 A

糊腰矛蟠総額 B

配 当 金 総 額 C

配 当 性 向 C / B

株 主 資 本 総 額

姓資本 利益率 (ROE) B/D'

株主資本 毘当率 C/D

師鎚鋤帥田123 減刑油所帥叩蝿1111111122 11︐179919︐ 5,"6,1$(+8.5)

6,4","(+9.0) 7,",2m(+129) 7,719,"(+5.9) 8,7W,4M(+13.2) 9,",2m(+11.1) 11,,642(+13.4 13,2m,019(+20.7) 13,771,"(+3.7) 13,6,(0.6

43,5(5.5 47,(9.2

$,531(+16.7) ,4(6.3 ,575(0.8 73,(+24.7 ,2Z(+13.9) l,(+6

弱,噸(▲3.0)

79,1"(M.0)

16,"(+5.1) 17,451(+6.6) 18,"(+6.6) 19,(4.6 別,知(+4.6)

21,Wl(+4.9) ,412(9.6 ,(+20.5 ,(6.4

",143(+0.5)

乳闘副銘測泌B例釦防●GOCC甲●■■●訂諦羽記別均路〃釦羽

顕,"(+10.3) ,348(+10.6

",818(+10.4) 717,107(+10.2) 油,7W(+11.4) W7,M(+13.5)

1697暗釦94十十十+〃細鯏服似細郷剛1111 的輔別田闘団田凹師賂●●●●●●●●●■8888788865 翅︑側闘儲団⑬路侭切り●0G■■■0■03332222221

(9)

財務収益状況のうち,総資本総額に占める株主資本総額は平成3年で 11.46%(前年度10.88%)へと上昇は,総資本中の借入金の返済と増資によ るものである。収益及び配当状況についてみると,税引後利益総額は大幅減 益となり,同時に株主資本利益率も低下している。一方,配当状況について みると,大幅減益にもかかわらず,配当性向(38.06%)の上昇による配当 総額(30.143‑+0.5%)を前年度並に維持している。又税引後の利益総額 の大幅低下は株主資本利益率及び株主資本配当率として表わされ,配当利廻 りは平成3年,1.97%と2%を割った。ちなみに「92年3月末時点での主要 国の配当性向をみると,米国75%,英国80%,ドイツ56%(5ー日本(6)は30.30

(平成2年),38.06(平成3年)となっている。一方,自己株式取得等,

企業の株式投資収益率と配当依存率の推移をみると次のようになる。

図 4 株 式 投 資 収 益 率 と 配 当 依 存 率 の 推 移

( 資 料 ) 日 本 証 券 経 済 研 究 所

( % ) ( % ) 「 株 式 投 資 収 益 率 ' 9 1 1 日 本 証 券 経 済 研 究 所

「株式投資収益率'91」

株式投資収益率は、東証 1部全銘柄を5年間保有 した場合の年間加重平均 収益率(福利)。ただし、

毎年各銘柄への投資額が そのときの時価総額の比 率に等しくなるように資 金の再配分を行うものと する。配当依存率は配当 利回り=投資収益率×配 当依存率、として算出し た数字。

40

30

20

配 当 (左目盛)

10

0

80

70 60

+ l o 50

40AVG 30

20‑1o

10 0

l%760657075808590(暦年)

株主資本配当率1.97%(平成3年)の低下と株式投資収益率に占めるキャ ピタルゲイン増大と配当依存率の低下は経営内部資金による自己株式取得と いう投資機会の有利性はなく,自己株式取得による配当効果は資本の有利な 投資政策として株価に左右される因素が多いということが判明する。

自己株式取得と財務効果は,商法第212条株式の消却一株式ハ資本減少ノ 規定二従ウニ非ザレバ之ヲ消却スルコトシ得ズ但シ定款ノ規定二基キ株主二 配当スベキ利益ヲ以テスル場合ハ此ノ限二在ラズとの規定による自己株式の 取得と消却による利益の内部留保として機能するのである。株式の消却は実

(10)

質的な減資としての株式の消却と形式的減資がある。自己株式の取得による 有償減資(実質的減資)は買入消却とも称され,株金の払戻しによる資本金 と株式数の減少である。かかる事例は企業の最適な資本構成と資本コストの 低減を図る目的で,例えば強制消却として,過剰資金の払戻し等にもみられ る。又株式市価との関連,株式の合併,分割等に対応した株式の買入減資

(任意消却)による減資産益の欠損慎補への充当等がある。一方,一定の消 却財源規制一配当に充当すべき利益をもって自己株式を取得する−の下にお いて,株式数のみを消却し,資本金は変更しない一利益消却による株式数の 減少策がある。これらは,商法第212条規定による,配当すべき利益で株式 を消却し,発行済株式数を減ずる方策である。かかる思考は,端堵的には,

企業の清算手続の過程において採用された手法であるが,継続企業において も,配当負担の軽減化,資本と株式との関連の希釈化等によって,企業財務 との関連において自己株式取得効果として,外部流出コストの企業内留保確 保策として機能している。経営財務の観点から自己株式の取得は,1株式当 りの資金コストの低限策としての関連の下に検討されるのである。経営財務 上,株式数の利益消却による資本維持策に自己株式取得効果が見出される。

注(1)新美一正,「前掲論文」,62頁

(2)最近になってにはかに自己株式取得禁止規定の見直しを求める声が強 まってきた。その根拠として,①自己株式取得禁止規定の立法趣旨で ある資本の空洞化,内部者取引,不公正な会社支配などについては,

その後の諸規制の整備によって現在ではいずれもクリア可能であるこ と(立法趣旨の希薄化),②海外では幅広く自己株式取得が認められ ていること(国際的な潮流),③企業買収への備え(M&A対策),

④株主利益還元策多様化の必要性,⑤機動的な資本構成の変更による 企業収益力の向上などが指摘されているが,⑥直接・即効的な株価対 策として自己株式取得に期待が集っている面が強いのではないかと想 像される。なぜならば①〜⑤については,とくに最近になって現実化 してきた問題とはいえないからである。1990年以降の株価急落過程で,

自己株式取得を巡る論議が活発化してきた経緯からも,有力な株価上 昇手段として自己株式取得にあらためて注目が集中していることは明

− 3 9 −

(11)

らかであろう。新美一正,「前掲論文」,34頁

(3)西久保泰夫,「平成三年度の配当状況調査の概要」,『商事法務』,

伽1306,20〜26頁.

(4)新美一正,「前掲論文」,58頁.

(5)西久保泰夫,「前掲論文」,23頁.

(6)新美一正,「前掲論文」,61頁.

III自己株式の取得と監査

我が国における株式所有構造を示すと次の通りである(1)。

表 4 所 有 者 別 株 式 数 (1)(単位:単位,%)

所有者別持株比率の推移

FD︑図% 釦釦如釦加皿0

個人

一 ● − ● −

昭和40年度以降は、単位数ベース。

金融機関は投資信託を除く。

(注)1 2 政府・地方公共団体

3 0 3 5 4 0 4 5 5 0 5 5 釦 平 1

年 度 平 1 2 3 増 減 [ 増 減 率 ]

平 2 3

構 成 比 増 減

平 2 3

会 社 数 佳 日 2,田1 2,079 2,1 48 27

合 計 鋤,4翅377(1.O 狸,閃4549(1m.0 ,770,779(1m.0 10,432,1722.7 10,916,22.8

① ・鰄公共団体

② 金 融 機 関 a長鼠・郁鼠・勉農 b § 託 鼠 行 (a,bのう 0 (a,bのう嘘0 c生、保険会社 d禍習保険会社 e上副外の金醗畷

③ 事 業 法 人 等

④ 証 券 会 社

⑤ 個 人

⑥ 外 国 人

2祁飼釣測3別噛8弱7師測 知師噸砺皿畑師池畑師蠅跳

蝿 ( 0 (46 錨(16 池(10 537(3 知 ( O 瓢(13 節 ( 4 246(2

Ⅸ6(24 757(2 483(22 161(3

jjjjjjjjjjjjj7043791118069

2氾創認M3腿陥7兜6馴陥 池畑即酬妬皿以咽畑顕那姻

9記(0 1田(45 躯(16 卿 ( 9 躯 ( 3 1兇(0 3四(13 通 ( 4 497(l 師(25 547(1 1釦(23 131(4

りり0$09の︑帥即りり別

2,狸,1肥(0.6 181,512,211(44.7

,973,1m(16.3 39,2田,狸(9.7)

13,125,6(3.2 4,101,6161.0 53,578,2(13.2 16,湖,頸(4.0)

6,湖,咽(1.6)

,,1(24.5 6,2,71.5 94,252,44(.2 21,774,9495.4

33,5271 721,6751 噸,432〔2 噸,732〔△2 129,427O 論,醜〔1 944,噸3 4論,631〔2 1,914 弱8,543〔4 1

1弱,加〔△15 259,鮪7〔4 616,9710

99︐r

1 1

1

1 3 1 4

△△△

1

副町田田印U則副幻︑切朗則

9,1760

12t1羽略01099921

773,弱2〔2

△1,1随,期〔△7 626,41818 1,斑,蛾〔2 狐,鮪5〔1

△7弱,細〔△10 羽,551〔0

△318,劇O〔△4 2,946,2693 5,311,81832 4

6

0

O

8

0

7

3

4

o

9

2

3

△0.1

△0.8 00

△0.5

△0.1 00 0.1 0.0

△0.3 0.4

△0.3 05 03

△0.1

△0.8 0.0

△0.5

△0.1 0.0 0.1 0.0

△0.3 04

△0.3 0.5 0.3

(12)

上場株式の75%弱は法人相互の所有となっている。具体的には株式所有構 造は,法人相互間の株式相互持ち合いの特質を示している。株式相互持ち合 いは,通常経営資本の固定化となり,同時に資本の空洞化,形骸化となる。

一方,株式会社内(企業経営内)における株式所有構造について例示する と次のようになる。

表 5 松下電器産業 関 係 会 社 名

1 日 本 ビ ク タ ー

2 松 下 精 工

3 松 下 冷 機

4 九 州 松 下 電 器 5 松 下 寿 電 子 工 業 6 若 山 精 密 工 業

7 松 下 電 工

8 ナ シ ョ ナ ル 住 宅 産 業 9 ナ シ ョ ナ ル 証 券

10宮 田 工 業 11朝 日 ナ シ ョ ナ ル 照 明

12松 下 通 信 工 業

発行済賊総数(千株) 松 F 新有する株式数 238,441 121.301 171,837 91,635 157,058 78,750 144,495 74,938 158,145 90,739 10,000 4,696 600,985 185,192 124.710 32,919 67,143 11.711 26,400 11,558 10,000 2,551 184,219 105,989

A(%) 50.87 53.33

50.78 51.86 57.38 46.97 30.81 26.40 17.44 43.80 25.51 57.53

各 企 業 が 所 有 す る 松 下 電 産 株 式 数

21,603 (転換社債300百万円)

119

*1989年の各社決算期現在。

A=各企業の発行済株式総数に対する割合。

B==松下電器産業の発行済総数(1,955,629千株)に対する割合。

*松下電産が10%以上の資本参加を行う関係会社(公取委の定義)で、上場会社を対象。

*すべて筆頭株主として参加。

(資料)各企業の有価証券報告書により作成。

− 4 1 −

B(%)

1.104

0.006

(13)

表6松下電器産業㈱の横の相互保有関係

989年3月31日現在。

A=松下電器産業の発行株式総数(1,955,629,195株)に対する割合。

B=各企業の発行株式総数に対する割合。

(注)−は20位以下の参加。()の数値は、当該会社の有価証券報告書による。

(資料)「企業系列総覧'90」および、「有価証券報告書」により作成。

株式所有(横・縦)構造と企業権力ネットワークー所有構造と支配一関係 に経営者支配の実態に対する実証的な指標を明示する(2)とともに経営者像一 権力集中システムが明らかになる。同時に経営者システムに対時した社会的 効果と統御(経営者行動に対するコーポレイトガバナソス)の問題が社会シ ステム内において提起される。すなわち,株式所有構造に占める法人化比率 の上昇は,個人株主比率の低下及び経営者株式(自社株)所有実態において みる如く,株主による経営者から専門経営者による経営支配へと変化をよぎ なくされてきたのである(3)。かかる制度的基盤と関係を図示すると次のとお

りである(イ)。

順番123456789岨皿哩Eu咀陥Ⅳ肥岨別 大 株 主 名 同賄撤(千株) A(%) 漣が所有する賊散 B(%) 参加順位 住 友 銀 行

住 友 生 命

日 本 生 命 松 下 興 産 住 友 信 託 三 菱 信 託 東 洋 信 託 松 下 幸 之 助 協 和 銀 行 住 友 海 上 火 災 三 井 信 託 東 京 海 上 火 災 日 本 興 業 銀 行 中 央 信 託 日 産 火 災 海 上 安 田 信 託

生 命

大 和 銀 行 松 下 電 工 安 田 信 託 特 金 信

87,284 83,662 77,541 58,440 56,235 48,691 46,403 41,923 39,421 34,658 33,988 27,588 24,871 23,913 23,142 23,044 22,534 22,233 20,574 18,319

4.46 4.27 3.96 2.98 2.87 2.48 2.37 2.14 2.01 1.77 1.73 1.41 1.27 1.22 1.18 1.17 1.15 1.13 1.05 0.93

88,919

36,808 5,320 170

34,828 5,460

2,130 24,503

5,574 158,192

3.52

0.45 0.01

2.93 0.91

0.14 1.04

0.40 26.33

3

4 19

9

1

1〜20位計 814,470 41.64

(14)

図6経営者支配を支える制度的基盤の概念図(4)

0000︑●0▲鍔⁝

0000︷■マュニ■一己唖の一皿役一岫査一皿匪皿一■一▲ロ凸︾・幟靴一睡締機一皿取無一

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8

0

;経営チェック

; 機 能 の 不 在 : : 経 営

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| 義 嘉 一 |

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経 営 者 の :

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事 実 上 の i

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;従業員からの;

i内部昇格の慣行1

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機関投資家に かかわる制度上の不備 機関投資家に かかわる制度上の不備

法人企業の株式保有 (特に株式相互保有)

に関する制度

ここに経営者の社会的責任又は株主等間におけるステークホルダーとして,

コーポレイトガバナンスの問題が提起されるのである。自己株式の取得は経 営者権限の強化,拡大,企業買収に対する防衛等会社支配権の操作に連動し,

例えば会社不祥事件(証券不祥事件,角川,リクルート,ゼネコンと称され る建設業界の談合,献金他)にみられる株主の意思介入とは別個の経営者の 専断による経営者行動の結果としての倒産,粉飾が表面化してきたのである。

ここに株主(株式)を中核として構築された株式会社法体系の見直しがせま られてきたのである。具体的には経営者権限に対するインフラトラクチャー の構築が指向され,経営組織機構としての監査役機関一社外監査役制の導入 他一株主代表訴訟,会計士監査制度の整備等が論議されている。企業のチェッ

ク機能強化に有効な方策についてアソケート調査(5)を示すと次のようになる。

− 4 3 − 制度上の

内在的矛盾

株主代表訴訟 制度の不備

株式市場に かかわる制度上 の不備

参照

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