癖 説 一
微化石を教材に..….
は じ め に
微 化 石 と よ ば れ て い る も の が あ る 。 生 物 の 分類学とは直接の関係はなく、人によって定 義はまちまちであるが、顕微鏡を用いて観察 する化石に対しての総称とみなされることか ら、薄片を作って石灰質の隔壁を観察する必 要のあるサンゴについても微化石の範勝に含 める場合がある。微化石の代表的なものとし ては、古くから有孔虫類が知られているが、
種々の顕微鏡の開発や、岩石から標本を摘出 す る 技 術 が 進 歩 し た こ と な ど に よ っ て 、 我 々 が日頃の研究対象とする微化石は、地質時代 的にみても分類学的にみても多岐にわたって いる(第1表)。これら微化石の大きさは、
2〜Samもあるようなコノドントや0.8皿前 後の有孔虫から、数浬、程度のコッコリスまで さまざまであり、超微化石(またはナンノ化 石)ともよばれる小さな方については、光学 顕微鏡の拡大倍率では到底手に負えない。生 層序をきめるためには大型化石よりも有利な 場合が多く、石油会社などでは広く利用して いるし、最近では従来、化石に乏しいとされ ていた遠洋性の地層の層序を確立する上で、
放散虫や珪質鞭毛藻などが威力を発揮してい ることは御承知の通りである。
私の所属する熊大理学部地学教室では三年 次の古生物学実験の際に、 化石の処理法 といったテーマで種々の微化石を取り扱って いるが、その内容は大学生にしか出来ないよ うな高度の技術や特殊な機器類を必要とする ものばかりではなく、小学生や中学生でも十 分に利用できる材料であると考えられるので、
今までの経験をもとにして、その概要を述べ る。私共の古生物学実験で取扱っている微化 石には1)花粉・珪藻、2)有孔虫・貝形虫、
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熊 大 ・ 理 岩 崎 泰 頴
第 1 表 ご く 一 般 的 な 微 化 石 と 、 化 石 と し て 残る硬組織を示した。
Radiolaria Foraminifera
Spongespicule Bryozoa
Ostracoda Conodont Otolith Faecalpellet Diatom Dinoflagellata S i l i c o f l a g e l l a t a Coccolithophorida Charophyta Pollen
S s r 放 散 虫 C.Agg有孔虫
s,c海綿骨針 C 蒔 虫
C,A稚患ラコータ)
A錐歯類(コノドント)
A 耳 石 ( 魚 類 ) A g g 糞 石 S 珪 藻 M 双 鞭 毛 藻
S 珪 質 鞭 毛 藻
c雫雲蕊)
C , M 輪 藻 M 花 粉 胞 子 含 む )
S:SiO,C:CaC03,A:Ca5(P04)3CH,
Sr:SrS04,M:membraneous, Agg:agglutinated
3)フズリナの三単元があるが、ここでは有 孔虫・貝形虫に話題をしぼる。
微化石を扱ったときの長所と短所
貝などの大型化石に比べたとき、微化石に は有利な点もあれば不利な点もある。有利な 点としては、
イ)標本が文字通り微小であるため、野外 で地層から採集する試料は極く少量ですむ。
一度に持ち帰って処理できる量は限られて
いて、貝化石などは十分な個体数を望めな
い が 、 そ れ と 等 量 の 堆 積 物 か ら と り 出 せ
る微化石の数は莫大なもので、得られる情
報量は比例して大きいし、このような沢山 の個体に基づいて統計処理もできる。多人 数で一つの露頭から大型化石を採集すると、
すぐに採りつくしてしまう恐れがあるが、
微化石ではそのようなことは滅多にないか ら、大勢の生徒にも安心して採集させるこ と が で き る 。
ロ)大型化石が見当らないような地層にも 含まれている場合が多い。つまり堆積物の 中での分布が広く、かつ一般に個体数も多 い。さらに微化石の中には浮遊性生物(例 えば放散虫や浮遊性有孔虫)に由来するも のも少なくないので、底棲生物が居ないよ
うな底質にも含まれることがある。
ハ)整理済みの化石を保存するスペースは 僅かですむ。微化石用のフォーナルスライ
ド(ファウナルスライド)の中には楽に500 個体を収納できるから、大きな標本室や整 理箪笥を必要としない。私が現在まで集め たり学生実験で提出されたりした400点余 りのスライドが、部屋の片隅みにある引き 出しに収まっている。
まだこのほかにも利点はあるが、ごく一般 的なものに留めた。しかし、これと裏腹の関 係で不利な点もいくつかあげられる。
イ)微化石は専門家の間でしか知られてい ないものが多いので、一般の人達を対象と した図鑑や教科書が少ない。したがって採 集した標本の種を鑑定する際に手間がかか る。また多くの種には和名が与えられてい な い か ら 馴 染 み に く い か も し れ な い 。 し か し学術論文の図版などで曲りなりにでも同 定できるのは恵まれた方で、未開拓の分野 では、鏡下で観察されるものは実は未記載 の新種であることが多い。
ロ)標本が小さいために、ごく一部の例外 を除いて露頭では肉眼で観察するのが難し い 。 実 際 に は ル ー ペ で も 見 つ け ら れ な い こ とがある。したがって、居るか居ないか判
らない堆積物を適当な基準で採集し、ひと 通 り の 処 理 作 業 を 経 た 後 で 化 石 が 含 ま れ て いないことが確認されるという無駄骨折り を強いられる例が少なくない。
ハ)貝化石などは、多くの場合殻が溶失し ていても鑑定が可能だが、微化石は殻が溶 けてしまうと鑑定はほぼ不可能である。し たがって貝化石の型だけが残っているよう な地層(例えば長洲層)では、貝と同じ石 灰質殻をもつ微化石の採集はあきらめねば ならない。貝殻が溶け残っているような場 合でも、微化石の方は既に溶けていること がある。
二)これは些細なことかもしれないが、大 型化石に比べて微化石は一般大衆に甚だア ピールしないものである。例えば博物館の 展示物を見ても判るように、象や恐竜の威 力には微化石は到底かなわない。小学生や 中学生の教材とした場合、小さいがために 一向に興味を示されない恐れはある。
サ ン プ リ ン グ
野外で試料を採取する際には通常の地質調 査の装備のほかに特別の道具は不要である。
海底の底質を採取する場合は、そのための採 泥器を使うが、熟練者ならば数m程度の深さ の底質を潜水して採取することもできるし、
その方が採取地点の情況を目で確認できるの で、船上からの採取よりも有利でさえある。
海浜の砂や底質の試料を採取するときには、
後述する目的のために小さなピンに詰めたホ ルマリンを持参すればよい。
採取する量は200cc程度で十分である。そ の際、一ケ所から一つの塊を採るのもよいが、
貝化石ほどではなくても地層の中における分
布が一様ではないので、一つの露頭の数ケ所
から少しづつ分けて採取した方が無難である
ようだ。もちろん貝化石など石灰質のものが
溶けていないような、なるべく未固結で細粒
磨滅しているので(例えば下島の高浜とか牛 深下須島の砂月海岸)、波の蔭になるような 場所が良い。また、粗粒の砂には極めて数が 少ない(例えば下島二江の海岸)。有孔虫を はじめ底棲の微小生物の中には海藻や海草に 付着しているものが多いので、岩礁中の汐溜 りの海藻や海岸に打ち上げられた藻類をよく 洗うと良好な生体標本がたくさん得られるこ とがある。また大潮のときに干出するアマモ 帯の底質は、種数・個体数共に豊富である。
今まで知り得た限り、有明海については島原 半島側の方が天草側の浜より種数・個体数共 に変化に豊む。原城蹴から口之津にかけて低 潮線付近の細砂には多産する。
の地層を選ぶ。貝殻が掃き寄せられたような 産状を示す粗粒の地層には、含有量が以外に 少ない場合がある。
熊本を中心とした九州各地で今まで比較的 容易に微化石が採集できた地層を下に示す。
。天草下島・小串層(但し貝化石の溶けてい ない田んぼの脇に限られる)
・湯島・ロノ津層群(但し北東海岸に露出す る貝化石を含む直立した地層に限られる)
o島原半島・ロノ津層群(海成の北有馬層が よい)・原城下の海岸に露出する大江貝層 o鹿児島市北部・河頭層
・鹿児島県国分付近・吉田貝層
o宮崎県下の宮崎層群(固結度の弱い北半部 で高鍋、川南付近がよい)
・北九州芦屋海岸・正津ケ浜層(但し、千畳 敷海岸付近に露出する含貝化石層だけに限
られる)
採 集 (定性定量)
乾 燥 固 定
(ホルマリン)
ー
計 量 計 量
(重量) 熔 量 )
=↓ 水↓ 琵
粉 砕 染↓一言
驚謬な匂 水 ↓ 洗
海岸で採取した砂や泥にも有孔虫や貝形虫 は含まれている。このような現世堆積物は、
そ の ほ か の 微 小 生 物 も 含 ま れ た な ま 物 だ から持ち帰ってすぐに処理するならば差支え ないが、採集後しばらく放置するのだったら、
ホルマリン固定を施して置かないと腐敗して 折角の標本を傷める。ホルマリンは通常用い る1096液でもよいのだが、海浜で採取した試 料には既にかなりの海水が含まれているので、
注入する液は希釈せずにそのままか、あるい は50影程度に薄めた位の方が効果がある。生 体と遺骸を区別する目的で後に染色処理をす
乾 燥
定理
←←鑑整
︸一画一一一一︵るのであれば、ホルマリン固定は必須である。
ホルマリン固定をせずに冷凍保存する方法も 写
考えられるが、解凍後の腐敗が早いことと、 再
凍結した際に有孔虫などは殻が壊れることが 統 あ る と 聞 い て い る の で 、 こ の 方 法 は 用 い な い し あ る と 聞 い て い る の で 、 こ の 万 法 は 用 い な い レ ポ ー ト 方がよいようである。
試料採取はなるべく大潮の干潮時に最低潮第1図:微化石(現生も含む)処理のフロー
線付近まで行って採った方が良好な標本が得 チ ャ ー ト 。 バ イ パ ス は 、 目 的 に よ っ て られる。磯波のくだけるような浜では標本が 省略できる工程
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室 内 作 業
第1図に示したフローチャートに従って作 業をする。先に掲げたような新第三紀以降の 未固結堆積物からは水洗するだけで標本を取 り出すことができる。多少とも固結している 場合は水だけではほぐれないので、粒子と粒 子 の 間 に 浸 透 し た 物 質 が 膨 脹 す る 力 を 利 用 し て堆積物をほぐす工程分だけ処理手続きが多 くなる。この工程では、ある程度のサイズま で こ ま か く 割 っ た 試 料 を 1 ) 過 酸 化 水 素 水
(約10鋤を加え煮沸する、2)乾燥器で乾燥 し未だ冷却しない内に硫酸ナトリウム過飽和 溶液を加える。3)加熱乾燥した後にガソリ
ンあるいはナフサを加えるというような作業 を行う。上記の二つの方法が併用されること もある。ガソリンまたはナフサを用いる方法 は引火する危険があるので注意する必要があ る。石灰化したり(例えば琉球石灰岩)珪化 した(例えば凝灰質のもの)堆積物では、た と え 第 四 紀 層 で あ っ て も 水 だ け で は ほ ぐ れ に くいし、上記の処理を施してもうまく行かな い場合が多い。
さて、室内作業にはいる前に、これから必 要な道具類を列挙する。
。ふるい:真鋪またはステンレス製で、軽20 cm,深さ6cmのもの。網の目は200メッ
シュ(0.074 )。試料の中の粗粒の粒子を 除くために9メッシュ(200 )のものも 用 意 す る と 便 利 で あ る 。
。乾燥器:609 80Cで使う。100cまで温度 が上昇しないように調節機能のあるものが よい。
。双眼実体顕微鏡:15倍前後と、60〜80倍位 の倍率の得られるものがよい。この場合、
前者の倍率で摘出作業を、後者の倍率で観 察やスケッチなど行う。
。電気スタンドなど照明装置;顕微鏡下で作 業をするため、太陽光では高倍率にしたと
き暗くなる。蛍光灯スタンドは不適。
。試料を播く皿:顕微鏡下で試料から有孔虫
などを拾い出すために用いる。市販のもの もあるが使いにくい。一辺が7〜9cm前後 で底が平端で縁の浅い皿であれば金属でも 紙でもよいので、手製する方が便利であるく
目を疲れさせないため、内面に艶消しの黒 を塗る。
。筆:顕微鏡下で標本を摘出するためのもの で、 点付筆 とか 面相筆 として市販 されている毛筆の中で最も細いもの。水彩 用の筆は毛が硬すぎる。このほかに普通の 細字用の筆を一本用意する。ピンや皿に付 着した試料の残りを掃き落すためである。
。微化石用スライド:円形の窪みのあるホー ルスライドと、一つの試料中に含まれる種 を仕分けして並べられるように、60の区画 が作ってあるフォーナルスライドがある。
後者にはアルミニウムの枠とスライドグラ ス の ふ た と が セ ッ ト さ れ て い る 。 フ ォ ー ナ ルスライドは輸入品なので一組で500円程度 するが微化石を扱う際には便利である。
。糊:上記スライドに摘出した標本を貼りつ けるためのもので、上質の澱粉糊または薄 めた木工用ポンドを使用する。一度貼りつ けた標本が、水を含ませた筆で剥ぎ取れる 程度の間結力であればよい。私は試薬用と して市販されている粉末の タラガカント
・ガム を水で溶いて加熱し、薄い糊状に してピンに保存している。その際、防腐剤 としてクレオソート油またはサリチル酸を 少量加えておかないと、すぐ腐敗するし、
かつカビだらけになる。
o試料保存用のピン:水洗乾燥後の試料を保
存するためのもので、ありあわせのピンで
よい。広口で200m程度の容量のもの2O
cc程度の容量のものまで利用できる。堆
積物の粒度組成によって、水洗前に3001
程の砂は200CC位の量が残る反面、泥だ
と僅か数CC位しか残らないというような
ばらつきがある。私はカップ入り清酒の空
ピンなどを利用している。何もないときは
ビニール袋でもよいが、静電気の関係で袋 に付着した粒子を掃き出すのに苦労するの で、なるべくならピンの方がよい。
このほかに薬包紙、ピンセット(先端の尖 ったもの)などあると便利である。最近は微 化石の研究に走査電子顕微鏡が重要な役割を はたしているが、このような傾向はここ10年 位のことで、目的次第では電顕がなくても十 分に優れた研究ができる。
それでは作業に移ろう。定量的な取扱いを する場合は水洗する前に計量する必要がある。
化石試料では多くは重量で統一するために予 めよく乾燥させなければならない。天日乾燥 だと季節によっては一週間かかることもある。
一度に水洗する量は上記のふるいを用いる場 合、200〜3001位が適当である。ふるいが小
さいときには、水洗中にかなりの量がこぼれ落 ちて計量した意味がなくなるので、それに応 じて量を減らす。ふるいの目の200メッシュ
(0.074 )は砂とシルトの境界よりも僅かに 砂寄りのサイズに当たるので、砂質堆積物で は殆どすべての粒子が網の上に残る。操を含 むような淘汰の悪い試料は砂粒の上限に当た る9メッシュのふるいを上に重ねてとり除い た方が乾燥後の作業がしやすくなる。水洗に は水道などの流水を使うが、あふれさせない ことが肝要である。有孔虫などは堆積物から 離れると、一時的に水に浮くものがあって、
これらがあふれた水と一緒に流れ去ってしま うからである。水をかけただけではほぐれに くい堆積物、とくに泥質堆積物の場合は指で つまんで操みほぐすとよいが、あまり念入り にすると標本が壊される。泥の塊をほぐすた めに網にこすり付けたくなるものだが、こう すると丈夫な殻でも間違いなく壊れるから避 けねばならない。
未固結の第四紀層では、網の下に流れ出た 水に濁りがなくなり、かつこまかい粒子が殆 ど出てこなくなるまで砂で15〜20分、泥
質なもので20〜30分位要する。この時点 で水洗を終る。水洗を終ってふるいに残った 砂などの粒子は、ビーカーなり蒸発皿なりに 完全に移して乾燥する。残置をふるいから少 ない水で完全に移す作業には一寸した要領が 必要だが、ここでその記述は省く。定量した 試料ではふるいの中に少しでも残したのでは、
最初の計量の意味がなくなってしまうが、定 性的な試料で、ふるいの中の砂の量が多い場 合は、少々とり残しても影響は少ない。
ホルマリンで固定した海岸の砂や泥は、完 全に固定されるまで約一昼夜放置する。これ ら試料は多量の海水とホルマリンを含んでい るので計量のために乾燥させると時間がかか り、かつ臭気が甚しいので、水に濡れたまま の状態で150〜200CCをカップなどで測り 取って水洗する。生体と遺骸を識別する目的 があるときは、水洗を完了して蒸発皿に移し た後に染色を行う。染色にはローズベンガル を用いる。水l必にローズベンガル粉末1〜
1.51の割合いで溶かして原液とし、水洗済 み試料のはいった蒸発皿中に2〜3滴加えて よく撹伴する。このまま一昼夜放置した後、
再び200メッシュのふるいに移して水洗し ローズベンガル液をとり除く。生体は染色さ れたまま残るが、他のものに付着した色素は すべて洗い落とされる。そして再度蒸発皿に 戻す。ローズベンガルの染色は、このように
水洗後に行うのが正規の手順だが、採集後ホ ルマリン固定して一昼夜放置した試料に直接 ローズベンガル液を加えて更に一昼夜放置し た後水洗する方が、手間の面で幾分楽になる。
結果は大して違わないが、正規の手順の方が きれいに染まるし、ローズベンガルの消費量
が少なくてすむ。
水洗後の試料は乾燥器に入れて乾燥する。
同時に多数の試料を乾燥する場合は、ビーカ ーや蒸発皿の中に紙片に試料番号や記号を鉛 筆(インクやボールペンインクは湯に溶けて
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消える)で書いて浮かせて置くか、何等かの 目印を付ける必要がある。乾燥後の試料の外 観は水に濡れた状態のそれとは著しく異なっ ていて、はじめに記憶したつもりでも間違え ることがしばしばある。
乾燥温度は水が沸騰しない程度に留めるた めに60〜釦。C位がよい。沸騰すると軽い有孔 虫などは飛沫と共に皿の外に放出されてしま う恐れがある。したがって2001程度の砂で は乾燥までに一昼夜位を要する。乾燥器のな い場合はバーナーなどを使うこともできるが 沸騰を避ける意味から、直火は避けるべきで ある。自然乾燥で放置するときには、ごみが 入らないように処置するので、冬期は一週間 以上かかることがある。
乾燥した試料は、ひとまず試料ピンに移し て保存する。水洗前に計量した試料は乾燥後 の重量も測定しておく。摘出作業を始める前 に、筆先を濡らすための水を小さな入れ物に 用意する。準備ができたら摘出作業に入ろう
試料ピンから極少量をサジなどでとり出し て予め用意した黒塗りの皿に播き、双眼実体 顕微鏡の下で穂先を水で湿めらせた筆に吸い 付けるようにして目的とする標本を拾い上げ る。筆先に付いた標本は、ひとまずホールス ライドに移す。この作業を繰返し、ホールス ライドにある程度標本が溜まったならば、形 の同じもの(この段階で鑑定ができるならば 同じ種)同志をひとまとめにしてフォーナル スライドの夫々の区画に移す。筆で拾い出す 作業は案ずるほど難しいものではなく、馴れ れば一時間に100個位は拾える。摘出作業の 重要なポイントは次の三つである。1)顕微鏡 の倍率は10〜15倍程度が適当である。あまり 高倍率にすると、視野の中に筆の穂先を捕え にくいからである。2)筆先には僅かに水を 含ませる程度がよい。あまり濡らすと、試料を 入れた皿の方に水をこぼすことになるし、標 本が吸い付きにくくなる。3)ピンからとり
出した試料は皿に万遍なく薄く広がる程度と する。山盛りになると、下の方に埋もれてしま った標本を見過すことがあるし、見つけても 筆で拾い出す際に周囲の砂粒毎吸い付けてし まう。目的とする標本を拾いつくしたら皿に 残った試料は棄てる(少なくとも、元の試料 ピンには戻さない)。このような作業を繰返 すが、有孔虫や貝形虫が密集している試料で は、一回播くだけで100個体位も拾えること がある。反面、少ないものでは一回播いて僅 か1個体しか認められないこともある。いず れにしても2001の試料すべてを検鏡するの は容易ではないし、10,000個体集めても統計 的にも大して意味はないから、一つの試料か ら200〜300個体位を目途として次の試料に 移る。
さて、摘出した標本を整理するフォーナル スライドは、そのまま置いただけでは標本が 動いて混ざり合ってしまうので糊で貼り付け なければならない。標本を1個置くたびに糊 を使っていたのでは手間が大変だから、フォ ーナルスライドには予め全体に糊を塗り付け て置く(糊の塗り付けには別の筆を使う)。
当然すぐ乾燥するが、水に濡れた標本を置け ば接着する。塗り付ける量は、少なすぎると 接着力が弱くて大きな標本は振動ですぐ動い てしまうし、逆に多すぎると標本全体に糊が まとわり着いて、後日とり出して観察する際 には、この除去作業が大変だから適量を経験 的に覚える。
試料中の標本の濃集作業
ある砂の試料から有孔虫や貝形虫を摘出す
るとき、含まれている個体数が砂の量に比べ
少なくて、フォーナルスライドの中が満足の
いく数に達するまでには、20回以上も皿に播
かねばならないことがある。このようなとき
に、石油会社などでは作業の能率を上げるた
めに、重液を使って標本だけを濃集させる方 法がしばしば用いられる。この作業のために 用意するものとして、
oビーカー2個(200〜300CC用程度が使 いやすい)
・徳紙(直径15cmより大き目の定性用臆紙)
・ロート(上記の臆紙のサイズに適した大き さのもの)
oロート支持台
。四塩化炭素(CCl4)5009入lピン(1 回の作業で200CC位使う)
・薬包紙(市販の大きめのもの)
・清掃用の筆
作業は次の通りである。まず四塩化炭素を よく乾いたビーカーに半分位入れる。試料ピ ンに入った乾燥済みの砂を、この中に少しず つ入れる。砂の量は四塩化炭素の量の半分位 でとめる。このようにすると四塩化炭素の表 面に軽い粒子が浮くが、臆紙を装着したロー トに、この上澄みを注ぎ込む。ロートの下は もちろん、もう一方のビーカーで受ける。四 塩化炭素に浮いた粒子は臆紙に残り、液体だ けが下のビーカーに回収される。回収した四 塩化炭素は元のピンにもどさないで別のピン に入れ、二度目の作業に使う。癒紙が乾燥し たら表面に残った粒子を清掃用の筆で薬包紙 の上に掃き集める。このような作業を残りの 試料についても行う。
薬包紙に集められた粒子は砂粒中に含まれ る軽いもので、有孔虫などのほかに小さな巻貝 の殻や、木片、雲母片、火山ガラスなどであ る。四塩化炭素は比重が1.6前後だから、有 孔虫の殻を構成する方解石や砂粒の石英など よりはずっと軽い。したがって浮き上がる粒 子は、いずれも気泡が空隙に含まれているも のばかりである。雲・母片や火山ガラスが浮き 上がるのはこのためで、逆に気泡の入ってい ない壊れた有孔虫殻や、左と右の殻がばらば らになって、かつ内面に泥が詰まっているよ
うな二枚貝や貝形虫の殻は浮かない。四塩化 炭素で濃集させた試料中には、石英や長石の 砂粒は皆無であるから摘出作業は大いにはか どり、標本の個体数密度の小さい砂の試料を 扱うときには威力を発揮する。
しかしながら、上にも記したように浮かな い殻が少なからずあるから、試料中に含まれ る有孔虫や貝形虫全体の種構成や個体の頻度 分布を調べるには適さない。私は、島原半島 大屋海岸の砂の試料を四塩化炭素によって浮 選したものと、浮かなかった残りの砂とから 摘出したそれぞれの標本の種の頻度分布に無 視できない相違があるのを確かめたことがあ る。したがって時間的に制約を受けない大学 の研究室では、あまり用いない。
さらに注意すべきは、四塩化炭素には弱い 揮発性があり有毒の塩素ガス(Cl2)を発 生することである。従来からドラフトを使って 作業した方がよいともいわれているが、有孔 虫学者はあまり神経質にならずに部屋の中で 処理する場合が多い。換気には十分気をつけ ることと、連続してガスを吸い過ぎないこと である。とくに上澄みを臆紙に流し込んだ後 の砂の入ったビーカーには、まだかなりの四 塩化炭素が残っているから、窓外にでも出し て放置した方がよい。急ぐあまり、このビー カーを乾燥器に入れて乾燥すると命にかかわ る大変なことになる。
どんな研究ができるか
双眼実体顕微鏡で観察すると、試料の中に は様々な生物の殻が含まれてることがわかる。
有孔虫や貝形虫は、どの試料にも普遍的にみ られるものだが、このほかに円盤状の大型底 棲珪藻や微小な貝殻、海綿の微小骨針なども 含まれている。それらの全てを片端から拾い まくって、どのような生物(あるいは生物の 部分)があるか認識するのも一つの方法だ し、ある特定の分類群に着目するのも一つ
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の方法である。それにしても、フォーナルス ラ イ ド に 整 理 さ れ た そ れ ぞ れ に つ い て 如 何 な る生物か鑑定を試みるのが第一段階の作業だ が、これは貝化石ほどには容易ではない。す なわち日本産の化石や現生の有孔虫とか貝形 虫 と か を 網 羅 し た 図 鑑 は な い の で あ る 。 し た がって、かなり専門的な論文をかき集めて参 照しなければならない。小学生・中学生には 相当な負担になる可能性があるので、便宜的 な呼び名を付けるのもよいだろう。未だ和名 のない種が殆どだから、正式な和名として採 用される場合もあり得る。そのようなわけで、
種類の鑑定には拘泥せずに、目立ったものに ついてスケッチを試るのもよいと思われる。双 眼実体顕微鏡でのスケッチは、生物顕微鏡で 行うスケッチよりもやや難いが、片方の接眼 レンズだけを用いてもよい。この際、こまか な特徴をみるために60〜帥倍位の倍率は欲し い。形態を観察するポイントや各部分の名称 については参考書がある。スケッチを通して
標本を見馴れてくると、有孔虫の同じ種の中 にも大きさの異なる世代交番による二形があ ることに気付くかもしれないし、貝形虫では 別々の種と思っていたのが実は脱皮を重ねて 形態に違いを生じた幼形と成形であったこと が判るかもしれない。
複数の試料を扱えば、産地毎あるいは岩相 毎に個体数頻度を比較したり、同一種につい て地域による形態の違いを比較することもで きる。定量的に処理した場合は、複数の試料 を同じ質で直接比較できる利点がある。その ような処理の結果として例えば湯島のロノ津 層群の貝形虫群は、島原半島田平小学校周辺 の同じロノ津層群の貝形虫群にくらべて構成 種が少なく頻度に偏りが認められ、棲息場所 が比較的に湾奥と推定されるのに対して、田 平の方は構成種の混じり具合からデルタの前 縁に近い位置と推定されるのである。
海岸の同じ場所で時期を違えて採集し比較 すると、生体の個体数頻度が異なることが判
第2図:学生実験の際の微化石スケッチの例 ずしも上手なものばかりではない)
る。大型生物にも認められるのだが、いわゆ る耐渡り"・のような現象で、貝形虫のような 移動力をもった高次の消費者では顕著にみら れるようだ。
微化石(現生のものも含む)を取り扱った 研究は本質的に大型化石の研究と変わること はない。しかし大型化石では一つ一つの個体 に対して目が向くのに対して、微化石ではむ しろ、群集(フォーナあるいはフローラ)と して眺めたり、たくさんの数を扱うのに適し ていると思われる。
お わ り に
地層の中に豊富に含まれながら、肉眼では 見えにくいが故に専門家の間でしか問題にさ れていない微化石は、上に述べたような一寸 した処理さえ施せば大型化石と同じように取 り扱えることを示した。貝形虫もそうだが、
有孔虫はもともと層準を定める材料として化 石研究家や石油技術者の専売特許のようなも のであった。だから生物学的吟味が十分行わ れているとは言い難い面があると共に、水産 関係の面で無価値とされているため、一般に はあまり知られていないきらいがある。動物 図鑑の中に掲載されている頁数をみても、そ のことがよく判る。しかしながら、はじめて 顕微鏡下に眺める砂の中には、これほど多く の種類の千差万別の形をした微小な生物の遺 骸が含まれているのに驚嘆する人が少なくな いに違いない。現在、地学分野で脚光を浴びて いる化石の大半は微化石なのだし、確か中学 生の理科には池や沼の中の微生物の単元もあ ったと記憶するから、それと同類の微化石が
如何なるものであるか、少しばかり眺めてみ るのも意義あることではないだろうか。
最後になったが、一つの試料を採取して上 記諸手続きを完全に行うと、作業完了までに は少なくとも数日は要することを付記する。
熊大理学部ではこのテーマに対して、手続き 上かなりの手抜きをして午後の実験の時間を
6〜7回分あてている。
参 考 文 献
1.は大まかな分類や形態の観察のための手 引書として、3.4.5は微化石処理の手引書と して、6.は教材として扱った実際例として掲 げた。いわゆる絵合わせに必要な図鑑は皆無 に近いが、不備ながら実用性のある一点とし て2を掲げた。珪藻や花粉については現生生 物の図鑑を参照すれば新第三紀以降ならば、
ほぼ同定できると思う。
1.浅野清編、1970,1976,微古生物学'二P中・下.
朝倉書店 2.藤山家徳・浜田隆士・山際延夫監修、1躯2,
学生版日本古生物図鑑北隆館 a池谷仙之、1971,化石・現生小型有孔虫
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アノレ