5実体験を通して
「情報倫理」を学ぶことができる教材開発
松蔵利明(教育学部学校教育教員養成課程技術コース4年)
指導教員
阿濱茂樹(教育学部学校教育教員養成課程講師)
1.はじめに
高度情報社会の中で,様々なインターネットサービスが提供されている。小・中・高等学 校の児童・生徒もそれらのサービスを受け,インターネット上でコミュニケーションをとる 機会も増えていると考えられる。同時に,高度情報社会の中で起こりうる影の部分に対応す るために情報倫理に関する学習指導は,様々な場面設定を行った上で,丁寧に行われなけ ればならないと考えられる。平成14年度に中学校の家庭・技術科の技術分野で情報が必須 になり,平成15年度からは高等学校において普通教科「I情報」が導入された。初等教育に 関しての情報教育の扱いは,「総合的学習の時間」での活用,また他教科との融合が望まし いとされ,言及はされてはいない。しかし,先行研究から,初等教育での'情報倫理教育の必 要性は明らかになっている。
「'情報倫理」,すなわち携帯電話のマナーや,情報の取り扱い,個人情報の保護などの言葉 は社会にありふれており,生徒はこれらの言葉を全く聞いたことがないわけではない。しか し,それをなかなか守ることができないのは,「情報倫理」で扱う内容が目にみえるもので はないためと思われる。目にみえないことであるからこそ,生徒にとって「自分とは関係の ないもの」「どこか別の話」と身近に感じることができない原因ではないかと考えられる。
そこで,本研究では情報倫理について実体験を通して学ぶことが出来る教材の開発を試みた。
2.情報倫理教育に関する調査
まず、小,中学校および高等学校の発達段階に適した'情報倫理教育の内容を明確にするた めに児童・生徒のインターネットに関する実態について調査を行った。
2.1調査項目
項目は大きく2つに分けて調査を行った。1つ目は「インターネットの使用目的」につい て聞いたものであり,「メールをするため」,「知りたい`情報を得るため」,「自分のHPを作 ったり内容を更新するため」,「ネットショッピングやチケットの予約,ネットオークショ ン」,「画像や音をダウンロードするため」,「チャットや掲示板をみたり書き込むため」,
「オンラインゲームをするため」の7項目について問を設け,利用頻度について質問した。
また,2つ目は「`情報社会の影の部分」の体験について聞いたものであり,「インターネ ットを利用していてトラブルにあった経験」及び「自分の振る舞いによって相手を嫌な気持
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ちにさせたことがあるか」という質問に対して「ある」.「ない」で答えさせた。
2.2調査対象・時期
調査対象はM小学校4~6年300人,F中学校1~3年336人,K中学校l~3年406 人,K高等学校l~3年299人,S高等学校1~2年228人の各学年3クラスずつ約
1569名とした。
調査時期は2004年12月から2005年1月にかけて調査を行った。
2.3調査結果
調査の結果を図l及び図2に示す。今回図1の質問紙では利用頻度を回答させたが,結果 では頻度を関係なく「利用したことがある」か「利用したことがない」で集計をした。
インターネットの使用目的について全体を通じて最も高かった項目は「知りたい‘情報を得 るため」であった。これは,学校の調べ学習等で実際に行っていることが多いからではない かと推察される。
また,各発達段階でみると小学生の間でオンラインゲームを利用する児童が多いことが分 かる。特に小学校中学年からオンラインゲームに親しむ児童は多いことが明らかになった。
中学生では「画像や音をダウンロードする」「メール」の利用など,様々な形でインターネ ツトを利用する生徒が増えてくることがわかる。
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一十メールをするため 丹-知りたい情報を得るため
80%
70%
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-ラーネツトショッピングやチケット の予約、ネットオークション 引一画像や音をダウンロードす
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+チャットや掲示板を見たり、
書き込むため
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図2.「情報社会の影の部分の体験」について
そして高校生になると「知りたい情報を得る」「メール」「画像や音をダウンロードする」
以外を利用する生徒が減少していくことが分かる。特に,中学校2年生と高校1年生によく
インターネットを利用するという傾向が見られた。
「』盾報社会の影の部分」の体験について,「トラブルに巻き込まれたことがある」と答え た生徒は各年代にそれぞれおり,特に中学校1,2年生に多いことが分かった。また「相手 を嫌な気持ちにさせたことがあるか」という質問に対して「ある」と答えた生徒も中学生が 一番多かった。
これらのことから,’情報倫理教育は中学校の「技術・家庭科」及び高校の「情報科」で取 り扱うことになっているが,より早い段階での情報倫理教育が必要であると考えられる。特 に,中学校1,2年生のときにインターネット利用率が最も高くなり,トラブルに巻き込ま れる生徒や相手に嫌な気持ちを与える生徒が多いことから,中学校段階でも早期の段階で情 報倫理についての教育を行わなければならないと考えられる。
3.教材開発
3.1携帯電話用アンテナインジゲータの製作
モバイル社会研究所の遊橋裕泰氏が示した調査結果によれば,小学生の24%,中学生の 67%,そして高校生の100%近くが携帯電話やPHSを保有している。子どもの携帯電 話・PHS所持率は急激に上がっており,特に普及が伸びているのが中学生であるという。
しかし「携帯電話が医療機器や電子部品に影響をもたらす」ということを聞いてはいても,
実際に電磁波の影響が目に見えないため,その意識は低いと考えられる。
そこで携帯電話から出る電磁波の影響を知ってもらうために,携帯電話用アンテナインジ ゲータを製作した。これは携帯電話から出る電磁波を感知すると,電流を流し発光ダイオー ドが光る仕組みである。電池をつないでいないのに,発光ダイオードが光ることで,携帯電 話の電磁波の影響を児童・生徒は目にみえる形で理解できると考えられる。また,それによ って携帯電話のマナー向上の意識にもつながるのではないかと考えられる。
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この教材は教育プラザ富樫において行われた「モバイル解剖!?プロジェクト」の中で実 際に使用された。写真1は実際に製作した携帯電話用アンテナインジゲータである。
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写真I携帯雷託用アンテナインジゲータ
32ロールプレイング 321内容
生徒が体験的に学ぶ手段の一つとして,ロールプレイ(寸劇)が考えられる。そこで,情 報社会の影の部分を表現したストーリーを考案し,ロールプレイ教材を制作した。そのロー ルプレイの中では,どういったトラブルがあるか,その対処法にはどういったものがあるか ということを実写で示し,生徒に台本を考えさせることによって,自分の問題として捉えさ せる活動を試みた。
具体的には,金沢大学附属中学校の技術。家庭科.(技術分野)の学習時間において紙芝居 による実践が行われた。写真2に実践の様子を示す。
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」写真2牛株の活riillの様子
生徒は紙芝居を完成させるためにインターネットなどを用い,実|際のトラブルの実態や対・
処法を調べ,グループで議論することにより積極的に活動をしていた。そのため,生徒の情 報倫理に関する意識や知識が,この取り組みを通じて向上したと考えられる。
また,金沢市立工業高校1年情報システム科の80名の生徒を対・象として,ロールプレイ を撮影した「コンピュータウイルスの被害と対処法」に関するビデオ教材を用いて授業実践 を行った。生徒からは「コンピュータウイルスの被害について分かりやすかった」「自宅の
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パソコンでもコンピュータウイルスに対して予防しなければならないと思った」などの感想 が多数あり,情報倫理の影の部分を表したビデオを作製することも,非常に有効な教材では
ないかと考えられる。
3.3ゲーム
3.3.1教材開発のきっかけ
体験的に学ぶ手段の一つとしてロールプレイが挙げられ,ロールプレイ教材を開発した。
しかし,小学生や中学校1年生においては,自分たちで台本を作りビデオ撮影をするという のは内容的に高度であると推察される。また「情報」の世界を体験するのに,現実に演劇を するのではなく,「情報」と同じコンピュータの中でロールプレイをさせた方が,より効果 的ではないかと考えた。そこで,子どもたちに人気のあるRPGを用いて学習させる教材開 発を試みた。RPGという児童・生徒にとって興味。関心の高い教材を用いることで学習効 果が上がり,またそれぞれのペースで行えるため知識の習得も深まるのではないかと推察さ
れる。
3.3.2ゲームの内容
このゲームには9つのユニットが存在する。9つのユニットは,それぞれ「情報の信懸性」
「買い物」等の情報倫理で扱う各カテゴリーを表している。
主人公はそれぞれのユニットを訪れ,そこで様々なイベントが発生する。そのイベントは それぞれ,各カテゴリーにまつわるものであり,主人公はイベントを通じ,情報社会の影の 部分を体験することになる。また,同時に情報の性質や,情報社会を生き抜く知識や態度を 学ぶこととなる。
各ユニットでは最後にテストを設け,そのユニットで起こったイベントを通じて学んだ知 識や態度を確認することができる。このテスト問題は,情報倫理に関係する書籍を参考に作
成した。
そして,9つのユニットをすべて回り,9つのテストに合格することでゲームクリアとな る。このゲームで発生したイベントは,比Ⅱiii的に現実社会で起こりうる情報社会の影の部分 を表しているため,ゲームクリアをした児童。生徒は,現実の情報社会で起こるトラブルを 回避し解決する方法や知識を習得し,情報倫理が高まるものと考えられる。
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L正欝「>4.まとめ
本研究では,学校教育における盾報倫理教材を制作するために,小・中学生および高校生 のインターネットに関する実態について調査を行った。また,その調査を踏まえ,発達段階 に即した教材開発を試みた。以下に本研究での取り組みと成果を示す。
・どの発達段階までにどのような情報倫理教育が必要であるかを明らかにするために,児 童・生徒のインターネットに関する調査を行った。
・調査の結果,中学2年生と高校1年生においてインターネットをよく利用することが明ら かになった。
.「メールをするため」「掲示板やチャットに書き込むため」「自分のホームページを作ったり 内容を更新するため」にインターネットを利用している児童・生徒が女子に多く見られた。
・中学1,2年生の女子の40%がチャットや掲示板を利用していることが明らかになった。
.「チケットの予約,ネットオークション」「オンラインゲーム」を利用する児童・生徒は 男子に多く見られた。
・小学4年生の40%がオンラインゲームを利用していることが明らかになった.
・インターネットを利用して「トラブルに巻き込まれたことがある」と回答した児童・生徒 は中学二年生が最も多かった。
・インターネットを利用して「相手を嫌な気持ちにさせたことがある」と回答した児童・生 徒は中学1年生が最も多かった。
・携帯電話から発生する電磁波を感知して発光ダイオードが光る,携帯電話用アンテナイン ジゲータを作製した。
・携帯電話用アンテナインジゲータは,教育プラザ富樫において行われた「モバイル解 剖!?プロジェクト」で実際に使用された。
.「コンピュータウイルスの被害と対処法」を表したビデオ教材を作製し,金沢市立工業高 校において実際に授業実践を行った。
・小学生から中学1年生程度を対象として,情報倫理を題材としたロールプレイングゲーム を製作した。
参考文献
阿濱茂樹,西野和典,高橋参吉,松浦正史:中学校における』情報倫理教育について-学習モ デルと教育方法の検討一教育システム情報学会研究報告,VoL2001』3,(2002)
高橋参吉,阿濱茂樹,金田忠裕,河俣英美,北野健一,田中規久雄,中条道雄,西野和典,
野口紳一郎,宮下直子,村田育也,山上通惠:インターネット社会を生きるための`盾報倫 理(2002),実教出版
高橋参吉,金田忠裕,田中規久雄,中條道雄,西野和典,野口紳一郎,山上通惠他:イン ターネットの光と影Ver、2-被害者・加害者にならないための」情報倫理入門一(2003),
北大路書房モバイル社会研究所URLhttp://www・moba-ken・jp/index・html