2
章 生涯消費者教育 と大学
1
高度経済成長
谷村 賢治
高度経済成長の話か ら始めたい と言 うと、いまさらなにを、 と思われる向 き もお られ よう。しか しなが ら、改革、変革の国民的な大合唱の こうい う時 こそ、
一見遠 回 りの ようだが、歴 史 を振 り返 るべ きではある まいか。あるいは何か
「 見 えて くるもの
」があるか もしれない。
となれば どこか ら始めるかだが、高度経済成長期 はライフス タイルの変革期 で もあったか ら、私の ようにその真 っ只中で もの想 う時期 を過 ごした世代 な ら い ざ知 らず、そ うでない人たちがかな りの程度 を占める昨今では、身近な生活 風景 を瞥見す るのが効果的だろう
。衣か ら始めるのにはわけがある
。じつは戦後の生活革命は衣料か ら始 まった といわれているか らにはかな らない。 ちなみ に
1950年 ( 昭和
25)のお年玉年賀 葉書の特賞が ミシンで、一等賞が洋服生地だった と言えば、納得 して頂け よう か。 ミシンこそ戦後、家庭 に入 った初めての器械 だったのである
。だが今、 ミシンが ( か りに)あって も、それで作 った物 を着ている受講学生 は皆無 に近いことを私は、授業中での聞 き取 りで知 っている
。いわゆる三種 の神器で、最初 に手 に入れることが出来たのは洗濯機だった。
とはいって も、売 り出された
1949年 ( 昭和
24)当時は一台が
5万数千円 もした。
これは大学新卒の公務員の年俸 ( 基本給) に匹敵す るとい うか ら、おいそれ と は庶民 には手が届 く代物ではなかったのだが、高度経済成長がそれを可能 に し た とい うわけである
。た しかに子 どもの頃、洗濯槽か ら取 り上げた洗い物 を手回 しローラーに巻 き 込んで<脱水遊 び>をやったことが思い出される
。煎餅状 になったタオル、相 当硬かった記憶が残 っている
。ところで、「三種の神器」 は生活水準 の象徴 として捉 え られていたため高所 得層か ら順 に購入す るとい う普及経路 をみせ た。「 三
C」も、かな りの程度そ
‑
23‑ういう傾向が見 られたが、昨今の耐久消費財の購入には、個々人の個性的な生 活パ ター ンを反映 して、そのような普及経路 は現れていないようだ。
耐久消費財の所有 に対 して所得格差が意味を持たな くなったことを、『国民 生活自書 ・平成元年版
』は 「 高級消費の大衆化現象」 といっているが、消費欲 望のフロンティアが、ある種行 き詰 まった観 を里 しているとみることもで きよ
う 。
食については、食物その ものを風上にのせ るの もいいが、食卓の移 り変わ り を見てみるの もや かなか興味深い ものがあるO. 一家団奨の象徴であるチャブ台 が銘々膳 ( はこぜん) を数のうえで上回るのが1
920年代の前半で、以降、他 を 圧 していたが、 高度経済成長 とともに増 えていったテーブルにその座 を譲った0
1970年頃のことだ。高度経済成長がチ ャブ台 を駆逐 したのである
。もっと知 りなければ、下川
(1998)の 『昭和 ・平成琴族史年表』をめ くれば いろいろ面白いことに出 くわすか らそれに譲 るとして、数百年に一度 ( もしか す ると戦国期以来)の変革期 を、わずか数十年で突っ走 ったと、そ う後世の歴 史家たちは記すわけであろうか。要するに :谷村
(1996)まえが き、
し, ,うな らば子や孫たちの資源 を借 りて営む消費生活。消費 と云 う行為を 通 し て しか 自己実現で きなし . , L 現代人の消費生活のあげ くが、等身大 をはるかに超え た消費による急激な地球環境の悪化の招来であ り、現代社会の内包する致命的 ともいえる環境問題の発生である。にもかかわらず、かかる事態を真に自分た ちの問題 としてとらえようとする姿勢が弱い、 との感 じは今の ところ拭い去れ ない。無理 もない。消費は美徳だった、あの高度経済成長期の、われわれの乗 った 日本経済 と云 う車のスピー ドは、 Jゎれわれの予想 もせぬ ものだったのであ る
。幸いなことに、高速ではよく見えなかった 「 車窓の ( 暮 らしを取 りまく)風 景」が、低速運転の時代 に入 り、 くっきりと見えはじめた。すると、僅かの間 に暮 らしがか くも大 きく様変わ り、 したことに気がつ くとともに、その有様 に半 ば停然 としている、 とい う. のが現在のわれわれであろう
。要するに、 この程度の時代認識をわれわれは弁 えてお くべ きなのだろう
。‑ 24 ‑
2
章 生涯消費者教育 と大学
2 人生80年時代
かかる高度経済成長が推進役 を務めた結果、社 会構造 を根幹か ら変 える事態 が生 まれつつ あ る
。ほかで もない、 や っ と昭和
22年 に 「人生
50年 時代」 ( 男
50.06年、女
53.96年) を迎 えた と思 った ら、 なん と数十年後 には 「人生
80年時 代」の誕生であ り、その結果 としての超高齢社会の到来、 これである
。平均寿命の伸 びに貢献 したのは、 なん といって も乳幼児死亡率の ドラスチ ッ クな低下であるが
(1 ) 、 これは、パーキ ヤピタ ・イ ンカムの上昇 に基づ く栄養面 や衛生面の向上 に加 えて、それ までの家庭 内出産か ら医療施設 出産‑ の転換が 効 いていた模様 だ。
また医療施設 とい えば
、1958年 ( 昭和
33)の国民健康保険法 の改正 による国 民皆保険が、風邪 ぐらいではなかなか医者 にかか らなか ったひ とび との受療率
を飛躍的に高め、 と りわけ高齢者へのその効 き目は高か った ようだ。
か くしてか ぐや姫 の昔 か ら日本人の夢 であ った長寿社会が誕生 した
。ただ、
それがあ ま りにも急速 に実現 したことで、それを受 け入 れる体制が未だ整 って お らず、高齢社会問題 を引 き起 こしつつあることは周知の ところである
。その一つが消費者 間題。際立 って 「 長 くなった」 この老後期 は
(2)、老人 を消 費社会の渦 中に巻 き込 む確率 を著 しく高めた ことは、近年の 『 消費生活年報』
の教 える ところである
。年報 によってその一例 を示す と、ふ とんな どの 「 住居 品」、電気治療器や磁気マ ッ トレスなどの 「 保健衛生品」、屋根工事 な どの 「 工 事、建築、加工」、健康食 品な ど 「 食料 品」 の割合が高い。 これ らは
SF商法 や家庭訪問販売 とい う新手の商法 による ものである。
終わ り良ければ全 て良 しと言われるほ どに重要 なこの時期 に 「 落 とし穴」 に はまった ら、たまった ものではない。それゆえ予防策 を講 じた り、不幸 に して そ うなった場合 には、効 き目の早 い 「 治療」 を施す とい う新 たな仕事がい ま、
要請 されている。
3
販 売方法の多様化
眼 を供給 ( 生産者)側 に移す と、大量生産 ・大量消費型の大衆消費社会 は今
‑251
図
1フォーデ ィズムのエ ッセンスイ
スケール ・メリッ ト を効かす :大量生産
Iei iil
T
型モデルの
抵価 格 化
i i
l生産 形で スラ E 性 の イ i
賃金上ドさ昇 せる 上昇
に有効需要 を引き上げる
世紀の初め、アメリカで誕生 したといわれている。その成立の原理 と云われて いるのが フォーディズムで、それを簡略に表 した ものが図 1である。
要するにフォー ドは、「 一生懸命 に仕事 に精 を出 しなさい。そうすれば、い ま君たちが造 っている車
T型 フォー ドは、君たち自身の ものになるのだか ら 」 と生産意欲をか きたて、 実際に生産性の上昇に見合 う形で賃金 をスライ ドさせ、
有効需要 を拡大 し、それ に合わせて生産規模 を高めていった、 というものであ る
。そ うすれば規模の経済が利 き、 コス トが下が るか ら車の値段 も低下す る
。となると、さらに買い易 くなって もっと売れる、 というスパイラルが生 まれた というわけである
。かかる原理の移植 に成功 し、のみならず もう一歩、高みに上げた ものが、い わゆる日本的経営だ とした ら、いわばフォーディズムのバージ ョンアップ版 と みなせるわけで、その果実 こそが、戟後の 日本における高度経済成長だったと いえよう。
ここでいう日本的経営 とは、終身雇用、 日本型労使慣行そ して年功序列賃金 をさすが、図 2に示 した よ◆ うな年功序列賃金 こそが、「月給倍増論」 を支 え、
可能に したのである。
ところで考 えてみれば、かかる生産拡大は販売拡大があってこそ成立 し得る わけで、実際、 ( 第二次)小売商業革命が起 こったことは周知の通 りである。
その丁断面を措いた ものが図
3で、これは<販売方法の多様化 >と呼ばれてい る事象 を含む。
‑ 26‑
2
章 生涯消費者教育 と大学
図
2年功所得曲線の移動 と世帯別家計所得のモデル
20 30 40 50 60歳
注 家計A,B,C, は,それぞれ,世帯主が昭和25年,35年, 45
年 に
30歳 だった とす る.歴史的にみれば、消費者の方か ら店 に出向いて用 をなす、 という営業所 での 対面販売が明治 ・大正期 における ( 第一次)小売商業革命の主役 を演 じていた、
といえば意外 に思われる方 もあろう
。だが都市において さえも行商が依然 とし て活躍 していた当時 としては、 これは生産性 を高める画期的な商いだったので ある
。しか し昨今ではとりわけ昭和5
0年代 に入って、 ライフス タイルの多様化 に伴い、あるいは消費者信用の展 開によって じつ に多様 な販売方法が生 まれ、
われわれの消費生活 をたいそ う便利 に して くれている
。さてこの多様 な販売方法であるが、それを示 した図
3の横軸 は売 り手 と買い 手が対面か否か、縦軸は売場が営業所か否か、によって
4つの局面 ( 販売方法)
を設定 した ものである
。そ うす ると現在、下の図
4の矢印で示 した ような形で もって販売方法が多様化 して きていること、 またご覧の ように新手の方法 は、
売場が営業所以外の ところ となっていること、それゆえこの場合 には買い手が 店 に出向 く必要がないわけで、 これ らが特徴 となっている
。具体的にみてゆ くと、新規?販売方法② は対面販売で、その代表は訪問販売。
‑
271図 3 ‑ 販売方法の多様化
手 段
場
節 ( 対 面) ( 非対 面)
普
(業 節 望
営 業所等 に お け る店頭販 売 [
店舗 類 似 の場 所
展 示販 売
A
営
菓
̀( 欝 T i ・チ ラ シ等) G h 許 墓 誌 莞 畠 誓 書 購 通 Z S
購入者の住 居 職場 路上
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以外 て住 パ ホ 職
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t 販 ムロ DMロ グ送付 等 .カ タ
し 売
資料 :「 訪問販売等に関する法律の解説」(通産省)
図
4販売方法の多様化
・ 対 面 非対面
また販売方法③ は売 り手 と買い手の対面 もない 「 新手
」の方法 を指 し、通信販 売 を想起すればいい。
以下ではこの新規の販売方法について少 しばか り言及 してみ よう
。( む 訪問販売
訪問販売はセールスマンによる営業所以外 (したがって路上キャッチ ングも 含 まれる) rの販売 ・誘引方法 をさし、通常、
2つに分かれる
。すなわち、.
家庭訪問販売 職場訪問販売
一28‑
2 章 生涯消 費者教育 と大学
が、それであ る。家庭訪問販売 は、旧 くは富 山の薬売 りな どが有名であるが、
新手の一類型 に、ホームパーテ ィ ( セールス)がある
。② 通信販売
テ レビや イ ンターネ ッ トなどのマス メデ ィア ( 通信) を利用 しての商品販売 が近年活況 を里 しつつある
。宅配便 な どの輸送手段 の革新 も相 まって、買い物 時 間に制約の多い20、30 歳代の女性労働者 な どに人気が高い ようで、手 に入れ に くい食品、書籍や趣味用 品、 フ ァッシ ョン性 の高い衣類 な どが対象 となって いる
。ただ、その信頼性 は高い とはいえず、不安が大 きい ようだ :今光 ・服部
( 1998)。
不安 といえば、注文 していない商品 を送 りつけ、買わせ るネガテ ィブオプシ ョンや、電話や ち らしな どで営業所 に呼び出 し、商品を売 りつ けるアポイ ン ト メ ン ト商法 な どの悪徳商法 も、増 えている
。訪問販売法の改正 について も触 れてお こう
。近年 トラブルの多発 してい る電話勧 誘販売 な らびに連鎖販売法 に対応すべ く、「 訪問販売等 に関す る法律」 ( 訪問販売法)が改正 された ( 平成 8年11月に 施行)。 これ まで電話勧誘販売は通信販売の一類型 として扱 われていたのだが、
じつ は通信販売の規制は広告等 に限 られてお り、電話勧誘販売‑の対応 は不十 分 だったので通信販売か ら独立 させ、新設 した とい うわけである。
4 都市 ・生活型環境問題の叢生
(1 )消費者間題の流れ
高度経済成長期 に、いわば生活革命が起 こったことをみて きたが、 このプロ セスは同時に、情報の非対称性 に基づ く製造企業 と消費者 との間の力 関係 に大
きなギ ャップを生ず るとともに、 また同時 に欠陥商品を生み出 した。昭和4
0年 代以降の ことである
。昭和50 年代後半 ともなる と、サー ビス経済化が加速す るなか、先 にみた販売 方法の多様化 に ともない契約 をめ ぐる消費者間題が発生 し始め、 しだいに消費 者間題の主流 となった。要す るにモ ノか らサー ビスへの消費者間題の変化が起
こったわけである
。‑
29 ‑のみならず、 ここにきて、消費者問題に大 きな転換点 を迎 えることになる。
われわれは消費の選択軸に 「 環境配慮
」という新たな軸 を 1 本加える必要が出 て きたことである
。原因は内 ‑われわれに在 ると言 う意味での、いわゆる内在 的消費者問題の叢生に他 ならない。われわれ消費者が環境破壊 ・汚染の張本人 ということで、これまで とは異なる対応、すなわち環境 に配慮 した消費者教育 ( 略 して環境消費者教育)が要請 されるところとなった。
(2)複眼の視点
その結果、なんとか消費者被害に遭わないよう、上手 く環境 に適応 していこ う、 という生活環境適応型消費者教育か ら、人類の生存 に関わる問題だ し、む しろ積極的に環境に関わっていこう、 という生活環境醸成型消費者教育へ、 と いう動 きが生 まれて きた。
むろん消費者被害の面 を軽視 して良いということではもうとうな く、その意 味では、両者 を視野においた 「 複眼の視点」が現在、消費者教育に要請されて いるといえよう
。5 学校消費者教育のパワー不足
消費者教育に大 きくは、生活環境適応型消費者教育か ら生活環境醸成型消費 者教育へ、 という動 きが生 まれて きた と先に述べた。 ここではい くぶん詳 しく 消費者教育の歴史を振 り返ってみよう
。その際、一般には中心的な役割を果た すべ きだと言われている学校消費者教育に注視 し、その現状 をとらえ、課題に 触れたい。
(1 )消費者教育の生い立ちと展開
まずは じめに、わが国では消費者教育が産業、行政そ して最後に学校で、 と い う展開過程 をたどったことを押 さえてお きたい。
つ ぎにその流れをみてみると、いわば導入期 ともいえるのが昭和 30 年 、40 年 代で、具体的には、昭和 33 年、米国に倣って 日本生産性本部に 「 消費者教育委 員会
」が設置 され、
3年後には、 ( 財)日本消費者協会へ と発展 した。昭和3
8年、国民生活向上対策審議会 「 消費者保護に関する答申」・ はわが国における消 費者教育の推進 ・充実を撞言。同
41年、国民生活審議会 「 消費者保護組織およ
‑30‑
2
章 生涯消費者教育 と大学
び消費者教育 に関す る答申」 は、欠陥商品に用心す る<賢い消費者 >の育成 を 提言 している
。さらに同
43年の 「 消費者保護基本法」は文字通 り、消費者保護 の主柱であるが、消費者教育推進 に関する国の責任 を明 らかに した。同 45 年に は国民生活セ ンター も、消費者情報提供や調査、研究の活動拠点 として設け ら れた
。展開期 とも呼べ るのが昭和
50年代以降。国や地方の消費者行政部門の充実 と ともに、国における消費者教育は各省庁の消費者情報の伝達 を主 とし、他方、
地方 自治体のそれは、契約 をめ ぐる トラブルに関す る消費者情報の提供、消 費者教育講座の開催等 を中心 に進め られた。対象者 は主 に成人。活発 な教育活 動 を展開 した。
消費者教育の理論的、実践的 な研究 を目指す 日本消費者教育学会の設立 は、
昭和
56年。行政 はもとより、 と りわけ " 後発の"学校 に とって大 きなよすが と なった。
5年後の昭和61 年、国民生活審議会か ら学習指導要領改訂中の教育課 程審議会 に対 し、要望書 「 学校 における消費者教育 について」が出され、学校 消費者教育の充実が図 られ、ついに平成元年
3月の新学習指導要領 に結実 し、
家庭科、社会科、商業科 に消費者教育が積極的に取 り入れ られることになった 意味は大 きい。平成 2年の消費者支援セ ンターの設立 も特記すべ き事柄である
。なおここでい う、消費者情報
(consumerinformation)とは企業や行政や消 費者団体の知識 ・情報提供 を指 し、具体的には商品やサー ビスの機能、品質、
価格、内容あるいは表示等、事実 に関わるものである
。紛 らわ しい言葉に、消 費者啓発
(consumerawareness)があるが、 これは行政の消費者被害防止や 消費者利益政策志向の世論形成 を目指す。
(2
)学校消費者教育の現状 と課題
① 現状
それでは学校消費者教育の現状 はどうだろ うか。端的に言って、割 り振 られ た時間の乏 しさ、厳 しい制約下の カリキュラム、増 えつつあるとはい うものの まだまだ熱意在 る教員の数の少 なさ、の 「 三無い」。 これではい きおいア ップ ツーデー トな消費者問題‑の、表面的な接触 に限 られざるを得 ないため ( 3 ) 、学 校 内だけで もとうてい十分 とは言いがたい状況にある
。ー 3 1 ‑
② 課題
しか しなが ら、消費者 として環境に配慮 し、 自立 した行動のできる生活力を 培 う消費者教育を行 うには、暮 らしを囲む社会経済事象への基礎的な理解力が 不可欠 となろう
。なぜ な ら消費者教育の 目的は選択の軸 を打 ち立てることで、
そのためには個々人が然 るべ き価値基準 を持つ ようにならねばならず、その形 成には暮 らしの経済や法律 に関する基礎的な理論の把握が必要であるか らにほ かならない。それゆえ、かかる基礎理論 こそを学校で押 さえてお くべ きもの と 考える
。ただ し、児童、生徒の耳 目を引 きつけるには事例研究などが有効 なこ とは経験的に知 られてお り、また彼 らの理解力などを踏 まえて教育内容に差異 を持たせ ることが肝要か と考える
。その模式図は以下のようになろうか。図上 の斜線部が、当該教育現場の担当教育内容をさす。
、 内容 現場 小学 中学 高校 大学
臨床的領域 / /
‑/ /
/1J6
生涯消費者教育の構築 と大学の役割(1 )生涯消費者教育の構築
要 となるはずの学校 においてこのような現状では、生涯消費者教育は有機的 な分業体制で しか効果的な役割 を果たせない。そこで、その分業体制を以下、
①場
(place)と②教育内容に分けて検討 しよう
。̀場に関 していえば、生活課題 と人間の発達 を考えると、ライフステ⊥ジ別が 適当とお もわれる。
教育内容は、いわば臨床領域 と基礎理論領域に分けて ( 4 ) 、上述の場 と突 き合 わせてみると、図
5が措ける
。さて問題は、かかる生涯消費者教育 とい う舞台に、「 役者
」‑教育主体 をど う配 し、その教育主体間にいかにネッ トワークを構築するか、である0
た しかに各主体の仕事の ドメイン ( 主領域)は異な り、理念や 目的が違 う
。‑
32‑
2 章 生涯消 費者教育 と大学
図
5生涯消費者教育の場 と内容
ライフステージ別 冊者教育 学習配分状況 の内容
Bhuロ
=計仇桜十期止別
社 会 教 育
学校教育
だか らネ ッ トワークなど無理だとい う説 もあるが、そ もそ も今井 ・金子がい う ように ( 1 988 、第 4章)、 自己は関係のなかで しか認識 されないのである
。ネ ッ トワークの相互浸透 によってた とえ各主体が独 自の理念や 目的をもっていて も互いに関連 しあい、ある一つの主体の動 きが他の主体の動 きを導 くように結 ばれることが重要だ と考える
。そ こでは、消費者 を支える家庭や行政、学校 あ るいは企業 とい う教育主体 間のネ ッ トワークが、ス タティックな ものではな く、
関係のなかで再構築 されるような もの となるはずである
。(2
)大学の役割
最後に生涯消費者教育における大学の役割 を紙幅 も限 られているので簡単 に 述べてお こう
。① 消費者教育の研究の場
残念なが ら、上述の ような主体 間ネ ッ トワークが作動 しているとは、現在の ところ言 いに くい。未だ し、の観が強い。や っ と始 まったばか りなのだか ら、
無理 もない。だ とすれば、その辺 りを調査 ・研究す る役割 を大学は果たすべ き であろう
。‑33一
( 多 数貞養成
なん といって も大学に課せ られている役割 は、教育主体の構成員 となる学校 教員の養成であろう
。ただこの点において も、大 きな問題 を学 んでいる。
現行では教員になるのに必ず しも消費者教育 ( 関連)科 目の履修 は必要 ない とい う制度がそれである。直ちに改正の要が認め られる ( 5 ) 0
( 郭 公開講座
大学単独の公開講座 も必要であるが、他の教育主体 と連帯 しなが ら公開講座 な どを催す ことが、今 日、大学 に要請 されているのではあるまいか。その際、
生涯学習セ ンターの役割はネ ッ トワークのハ ブの一つ として、大 きなものがあ ると考 える。
注
( 1 ) 乳幼児死亡率 は
1950年 ( 昭和
25)60.1( 出生千対)か ら
1975年 ( 昭和
50)
には
10.0に急速 に している。
(2)
戦前 に結婚 した親たちの経験 しなかった、子育て期 を終 えての数十年間 ( これをエ ンプティネス. ト期 と呼ぶ) をどう過 ごすかが、 これか らの暮 らしの重要な課題である
。( 3) 先生方の旗色が悪い ようだが、消費者教育の出発点は 「 関心 を呼び起 こ す こと」であるか ら、動機付 け としては、上記の ような制約下では、や
むを得 ない といえよう
。(4)
その具体的な内容 に関 しては、谷村
(1996).p.9で触 れているので参 照 されたい。
( 5 ) 日本消費者教育学会では学会長名で文部省教育課程審議会へ要望書 を出 してはいる。すなわち、消費者教育が不十分な 「 最大の原因は指導 にあ たる教員の認識や力量の不足 にあると考え」、「 教育職員免許に必要な専 門科 目に 「 消費者教育 」 を必修 として加 えること、現職教員の研修の場 の確保 を要望
」している :日本消費者教育学会
(1997)pp.81183。引用文献
今井賢一 ・金子郁容
(1988)『ネ ッ トワーク組織論』岩波書店
‑ 34 ‑
2
章 生涯消 費者教育 と大学
今光広一 ・服部好 ( 1 998) 「 無店舗販売 と消費者行動」 日本 中小企業学会編
『 大転換す る市場 と中小企業
』同友館
奥村美代子 ・谷村 賢治編著 ( 1 999) 『 生涯消費者教育論』晃洋書房 下川秋史 ( 1 998) 『 昭和 ・平成家庭史年表』河出書房新社
谷村 賢治 ( 1 996) 『 消費の人間生活研 究』晃洋書房
日本消費者教育学会 ( 1 997) 『日本消費者教育学会会報 : 1 7
』‑ 35‑