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担当:山口隆英教授

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Academic year: 2021

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担当:山口隆英教授 論文要旨

アジアに進出した中小製造業の

国際マーケティング・ケイパビリティの研究

経営学研究科 博士後期課程 2015年度入学 BD15B804番 守 屋 仁 視

2020年12月提出

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i 目次

1.目的と意義: ... 1

2.要旨 ... 1

3.成果: ... 5

(1)学術的貢献 ... 5

(2)実践的貢献 ... 7

4.課題: ... 7

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1 1.目的と意義:

海外に生産拠点を持つ本邦の中小製造業にとって、進出先で新しい販売先を獲 得できるかどうかが大きな課題となっている。筆者の研究目的は、アジアに進出 した本邦中小製造業を研究対象とし、どのようなケイパビリティが進出先での販 路開拓に寄与するのかという問いに答えるための理論仮説を構築することである。

中小企業の進出先での販路開拓については、あまり研究がなされてこなかった。

本邦の中小企業研究における国際化というテーマは、低廉な労働力を利用した海 外生産やグローバリゼーションがもたらす国内産業への負の影響がさかんに議論 され、海外事業活動自体に焦点は置かれてこなかったためである。21 世紀に入り、

中国やアセアンが市場としての魅力が注目されるようになって、進出先での販路 開拓についての事例研究も散見されるようになってきた。しかしながら、それら の研究は、実務上重要となるポイントの報告であり、進出先での販路開拓に役立 つ経営資源の理論的研究は殆どなされてこなかった。また、日本では国際マーケ ティング・ケイパビリティ研究はスタートしたばかりであり、中小企業への適用 はこれからという段階にある。

海外進出した中小製造業の販路開拓は重要なテーマであるにもかかわらず、販 路開拓に寄与する経営資源の理論的研究が殆どなされてこなかった。本研究を行 う意義とは、国際マーケティング・ケイパビリティ論の立場で、本邦中小製造業 の特徴を踏まえた理論仮説を提示し研究の先鞭をつけることである。

2.要旨

第1章では、過去 20 年間の中小企業白書の内容を確認し、進出先での販路開拓 が重要課題になっている現状を示した。

第2章では研究対象の特徴を検討した。大きく二つの観点を抽出した。第1に、

海外進出した中小製造業は、日本国内で長年培われたものづくり技術や、日系大 手製造企業との取引関係に頼った経営を続けており、進出後時間が経過しても、

Douglas and Craig の初期参入段階の態様を多く残しているという特徴がある。

第2に、資源に乏しい中小製造業の進出先子会社は、進出先のマーケティングオ

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ペレーションを自己完結できるわけではなく、日本本社に依存する機能も多いこ とが想定できるという点である。このような特徴は、第5章で検討する分析枠組 みを構築する留意点となる。

第3章では国内外の中小企業研究の先行研究をレビューした。日本国内の中小 企業研究については、「1970 年代から 1985 年のプラザ合意まで」、「1985 年のプラ ザ合意以後現在まで」、「2000 年以降現在まで」という3つの時代に分けて確認し た。中小企業の進出先での販路開拓については、あまり研究がなされてこなかっ たことはすでに述べたとおりである。一方、海外の中小企業研究の関心は、中小 企業の国際化である。特に BCG 出現以降は、資源に乏しいはずの中小企業がどう して急速に国際化できるのかという点に研究の中心がある。海外進出した中小製 造業の経営資源やケイパビリティに着目した研究は国際ビジネスにおけるマーケ ティング・ケイパビリティ研究でなされてきた。

そこで4章では、中小企業の国際マーケティング・ケイパビリティ研究をレビ ューした。多くの研究は Day のマーケティング・ケイパビリティ研究に依拠して いる。定量分析の研究が殆どを占めているため、マーケティング・ケイパビリテ ィと経営成果との統計的関係については研究蓄積があるが事例研究は少ない。さ らに、事例研究の中でも販路開拓のような一般的マーケティング課題を扱った研 究は殆どなされていない。また、ケイパビリティがどのように構築されるのかを 扱った研究は非常に少ないこともわかった。さらに、日本の国際マーケティング・

ケイパビリティ研究は最近開始されたこと、中小企業への適用はこれからの課題 であることを確認した。

第5章では研究の方法論について説明している。分析枠組みは、多くの研究者 が参照する Day のマーケティング・ケイパビリティの概念をベースにした枠組み を構築した。2章で得られた研究対象の特徴から、日本本社と進出先子会社の双 方のマーケティング・ケイパビリティを分析する枠組みとしている。本稿におけ る事例研究は、ケーススタディを通じて仮説を導出することが目的である。従っ て、事例は理論的サンプリングで選出していった。1社目の事例企業は研究対象 の特徴に合致するように選ぶ。そして、そのケースを再現するために、またデー

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タから現出しつつある理論を延長させるように2社目、3社目を選定した。

第6章、第7章、第8章では、分析枠組みに基づいて事例研究を行った。第6章 では、進出時は随伴進出を目的として、中国やタイに進出し自動車の部品を製造 しているK社、7章では進出時点では 100%アウトインを目的として中国へ進出 し、工作機械を生産販売するN社、そして8章では、進出時から現地販売を目的 としてタイに進出したばね製造企業のМ社である。

事例企業のプロフィール

出所 筆者作成

以上3社の事例分析により、販路開拓寄与するケイパビリティ(インサイドア ウト、アウトサイドイン、架橋プロセス)を明らかにした。

第9章にて、事例を横断し発見事実を抽出した。日本本社と進出先子会社が互 いに協働して進出先の販路開拓に取り組んでいる実態が全ての事例研究で明らか になった。事例企業は、日本本社の持つマーケティング・ケイパビリティをイン サイドアウト、アウトサイドイン、架橋プロセス全てにおいて販路開拓に活用し ていた。

発見事実は、進出先子会社は、日本本社のケイパビリティを活用しなければマ ーケティング活動を完結させることができないので、日本本社による進出先子会 社のケイパビリティの不足の補完は必須事項であるということである。さらに、

日本本社と進出先子会社は相互に連携をするためのノウハウ、仕事のやり方など のルーティン(例えば、現地材料を使った生産のための連携、新規顧客開拓の営

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業活動に関する連携、商品開発プロセス管理等のマーケティング戦略の計画や立 案に関わる連携)、それら活動をバックアップする組織体制や頻繁で密接なコミ ュニケーションを行うための風土などを有していることもわかった。

これらの事実は、進出先子会社が日本本社のケイパビリティを効率的に活用す るケイパビリティを考える重要性を示唆している。但し、日本本社が一方的に進 出先子会社に活用させるわけではなく、進出先子会社が一方的に日本本社のケイ パビリティを活用するわけでもない。観察事実を見れば、両社が連携してその効 率的な活用能力を発揮していた。また、日本本社のケイパビリティを活用するケ イパビリティは、日本本社にのみ存在しているのではないし、進出先子会社にの み存在しているのでもなく、日本本社と進出先子会社の双方に横断的に存在して いると考えられる。そこで日本本社のマーケティング・ケイパビリティを進出先 国の子会社に活用させるケイパビリティを「連携力」と名付け導入し、「日本本 社と進出先子会社が協働して、進出先現地の販路開拓を効率的に実行するケイパ ビリティ」と定義した。

なお、連携という言葉はあくまでも日本本社と進出先子会社の間の関係を示す 言葉として使っている。連携の目的は、マーケティング・ケイパビリティの活用 についてのみに限定している。一般に連携という言葉は、外部ネットワークとの 連携という意味で使われる場合が多いし、連携の目的も様々であるため誤解を受 けないよう、「連携力」と、かっこ付きで記している。

「連携力」は静的(スタティック)なケイパビリティであり、以下の3点に具 現化される。第1に、日本本社側には、進出先の販路開拓を全面的にバックアッ プするための事業部組織(製造、販売、商品開発)、第2に、進出先子会社で は、日本本社の事業部組織を活用するために、日本本社と連携できる日本人によ る組織や個人、第3に、連携を行うための仕事のやり方、そのためのノウハウな ど組織ルーティンがある。さらに、「連携力」はどのように構築されるのかにつ いて考察を行った。そして、「連携力」は日本本社の経営者により構築されるこ とを明らかにした。事例に共通する構築ステップは、第1段階は、海外現地販売 拡大への強いコミットメントと明確な方針、第2段階は、海外人材の採用と配

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置、第3段階は、海外販路開拓をスムーズに進めるために、日本本社の事業部機 能(製造、販売、商品開発)を、進出先子会社が活用しやすくする組織の変更や 構築。第4段階は、日本本社の事業部機能を、進出先子会社が活用しやすくする ための仕事のやり方、会議体、組織のルーティンの生成であった。

「連携力」の構築は、日本本社と進出先子会社の経営資源の配置や再構成であ る。「連携力」を構築する能力を連携構築力と呼ぶとすると、それは経営者に帰属 するダイナミック・ケイパビリティである。

3.成果:

成果については、学術的貢献、実践的貢献に分けて述べる。特に学術的貢献に ついては、①重要ではあるが研究されていない分野に先鞭をつけた点、②「連携 力」に関する2つの仮説の提示を成果と考えている。

(1)学術的貢献

①重要ではあるが研究されていない分野に先鞭をつけた点

海外進出した中小製造業の進出先の販路開拓という重要なテーマに取り組む ために、ケイパビリティ論の立場で学術的研究を行ったほぼ初めての事例研究で ある。特に国際マーケティング・ケイパビリティの研究対象を、中小製造業に向 けた最初の議論である。

海外においてもマーケティング・ケイパビリティの事例研究は少なく、販路開 拓といった一般的なマーケティング課題をケイパビリティ論で扱った研究は殆ど なされていない。その構築能力を検討した議論はさらに稀有である。

②「連携力」に関する2つの仮説の提示

第1の仮説は、資源に乏しい中小製造業では、日本本社のケイパビリティを効 率的に活用することが必須であり、それを可能にする「連携力」というケイパビ リティが販路開拓に必要であり、「連携力」は販路開拓というマーケティング成果 に大きなインパクトがあるという仮説である。マーケティング・ケイパビリティ 論では、市場駆動型組織として市場志向で事業活動を行うことの重要性がとかく

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強調されてきた。しかし、資源に乏しい中小製造業(特に生産財企業)では、日 本本社のケイパビリティを効率的に活用することが極めて重要である。効率的な 資源活用のためには、むしろ企業外部より内部に目を向けることが重要であると して、新しい議論を提議することができた。

Day によれば、インサイドアウト、アウトサイドイン、架橋プロセスというケ イパビリティ概念は、既存資源を活用する機能を持ち、顧客や市場機会からスタ ートするアウトサイドイン志向のケイパビリティである。一方、「連携力」は、

既存資源を活用する機能を持ち、どのように内部効率性を高めるのかという視点 からスタートするインサイドアウト志向のケイパビリティである。

以下の図は「連携力」の定義や性質を記している。

販路開拓に寄与するマーケティング・ケイパビリティと「連携力」の関係 出所 筆者作成 (本稿 図 30)

第2の仮説は、「連携力」は進出先子会社と日本本社の間に自動的に出来上がる ものではなく、日本本社の経営者が意図をもって構築していくものであるという

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点である。3つの事例を横断的に分析した結果、「連携力」は日本本社の経営者に よって構築されていることが観察できた。その構築行動は、海外人材の採用と配 置、組織体制の整備や構築などを通じた日本本社と進出先子会社の経営資源の配 置や再構成であった。従って、「連携力」を構築する能力を連携構築力と呼ぶとす ると、それは経営者に帰属するダイナミック・ケイパビリティであると考えうる。

なお、4章で述べたように、ケイパビリティの構築というダイナミズムに焦点を 合わせた先行研究はまだ少なく、本稿は、英語文献を含めても希少な研究である。

(2)実践的貢献

現地での販路開拓といえば、進出先子会社の優秀な現地マネジャーをいかに採 用するか等、進出先現地に目を向けることが多い。しかし、本稿においては、日 本本社の経営者が「連携力」を構築することが重要であるという結論を出してい る。中小企業の乏しい経営資源や生産財という製品特性を考えれば、日本本社の 資源活用の重要性を示し、「連携力」を構築することが販路開拓の必須条件である ことを強調できたことは、実務的にも意義があると考える。また、それを実現す るために日本本社の経営者は何をするべきか、経営行動について具体的な示唆を 与えることが本稿はできている。アジアに進出した生産財企業の販路開拓にとっ て実務的貢献は大きいと考える。

4.課題:

第1の課題は、「連携力」概念をより明確化することである。「連携力」は日本 本社と進出先子会社のマーケティングオペレーションの効率性に関する概念であ る。「連携力」がどのようにオペレーションを効率化しているのかを明らかにでき れば、「連携力」概念をよりクリアに定義することが可能となるはずである。その ためには、日本本社と進出先子会社の連携活動を通じて「連携力」がどのように 構築、発揮されるのかを徹底的で詳細なプロセス観察により分厚い記述で行うこ とが必要である。本稿の 3 事例の観察はそこまで分厚い記述で観察できているわ けではない。複数の事例を行うことは難しいであろうが、たとえシングルケース

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8 でも、詳細なプロセス分析を課題としたい。

第2の課題は、「連携力」と、多くの研究が参照依拠している Day(1994)のマー ケティング・ケイパビリティ(インサイドアウト、アウトサイドイン、架橋プロ セス)を比較した場合に、販路開拓成果に与えるインパクトがどちらが大きいの かを検証することである。Day の提唱した3つのケイパビリティは、マーケティ ング成果にプラスの影響を与えると考えられている。本稿の提示した内容は、資 源に乏しい中小製造業の子会社は、Day のいうマーケティング・ケイパビリティ を高めることも大事かもしれないが、それよりも本国本社の自社資源活用の効率 性のケイパビリティである「連携力」のほうが、成果に対してインパクトがある のではないかという仮説である。これを定量的に検証することが課題である。

第3の課題は、理論仮説の適用可能性をさらに検証していくことである。例え ば、①生産財企業、②進出先子会社への出資比率がマジョリティ出資とした場合、

本邦のみならず海外企業においても、本国本社と進出先子会社の「連携力」につ いての仮説が成立するのかを見極めることである。

また、生産財マーケティングの観点からの検討も重要である。生産財には組織 性、相互依存性という特性がある。資源に乏しい中小製造業だけでなく、中小企 業以外の企業についても生産財企業の販路開拓では、「連携力」というケイパビリ ティの貢献比率が高くなってくる可能性が想定できる。本稿ではこの点を検討す ることが十分ではなく今後の課題である。

また、研究対象の条件が変化しても「連携力」は常に重要なのかという点も見 極めが必要である。アジアに進出している中小製造業の特徴は、生産財企業が多 い、マジョリティ出資の子会社が多いなどの特徴がある。しかし、例えば生産財 企業ではなく消費財企業ではどうか、地場企業の出資比率が高まると、本稿の仮 説はどのような修正や条件制約が必要かを検討することも今後の課題である。

参照

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