地理学 における理論の再検討
TheRe e xami nat i o nofThe o r i e si nGe o gr aphy
後 藤 雄 一 *
Yu j iGOTO
論文要 旨
地理学 の学問的性格 を再検討 し, それ に基づいて地理学 における理論化 の問題 を中心 として 論述 した。 はじめに,地理学 は 「空間的な認識 の論理」であ り, 「空間的な ものの見方」である ことを述べた。次 に,地理学 は一般的 には系統地理学 と地誌学 に分類 され るが, これ らの基盤 として地理学基礎論 をお き, その上 に系統地理学 と地誌学 をお くとい う構造 を示 した。 この よ うな認識 に立 ち, フィー ドバ ック構造 を基 にして,理論的深化 をはか る必要性 を強調 した。最 後 に,地理学 の理論化 には地域 スケールの問題 と,形態 と機能 の関係 を明 らかにす ることの重 要性 について指摘 した。
キーワー ド :地理学基礎論, フィー ドバック,地域 スケール,形態 と機能
1
.は じめに後藤
( 1 9 9 5 )
は空間のゆがみの視点か ら,「従来お こなわれて きた研究 を再検討す ることが必 要」であ り,「地理学 の理論的発展の基礎 として,距離,分布,空間な どの概念 の再定義 ・再検 討 をお こな うことが重要であると考 える。」と述べた。本稿 で は,空間論 の視点か ら 「地理学固 有 の理論 の構築 と, それによる現象説明 をめざす (杉浦,1 9 8 4 )
」ため,従来お こなわれて きた 研究 を再検討す る試みのひ とつ として,地理学 の学問的性格 と学問体系の中での位置づけにつ いて論述す ることを目的 とす る。そ こで以下で は, はじめに地理学 の学問的性格 と位置づ けについて述べ,次 に,地理学内部 にお ける理論的発展の条件 について検討 し,最後 に地理学固有の方法 について,上述 した内容 との関係 を考慮 しなが ら説明 してゆ く。
2.
地理学の学問的性格地理学 の学問体系の中における位置づ けは,複合領域 として とらえられ ることが一般的であ る。 これ は,学問領域 を分類す る ときには, その対象領域 を基 に してお こなわれていることが 多い ことに関係 しているのであ ろう。地理学 は,一般的 には人文地理学, 自然地理学,地誌学 な どに分類 されてお り,対象領域が広範囲に関わっていることか ら, その講座が, ある大学で
*弘前大学教育学部社会科学科教室
De p a r t me n to fSo c i a lS t u d i e s ,Fa c ul t yo fEd u c a t i o n,Hi r o s a kiUn i ve r s i t y
は理学部 に, また, ある大学で は文学部 な どにおかれ ることか らも知 られ る
。
それ は,地理学 の学問的特質 に対す る認識 と深 く関わ る問題 である。
地理学 においては,空間的視点, あるいは地域 的視点がその特性 としてあげ られてお り,辛 塚
( 1 991)
は, これ らを分布論,環境論,空間論,景観論,地域論 に分類 している。 これ らの 中で筆者が重視す るのは空間論であるが, これ は, あ らゆる対象 について適用す ることが可能 である と考 える。
研究対象 とな らない もの は,空間的差異 を生 じない現象である。
また,空間 的相互作用 を生 じない現象 について もこれ を対象 とす ることはで きない。 これ らは後述す る地 域 スケールの問題 と深 く関わ ることは言 うまで もない。地理学 の特質 は上述 した点 に帰結す る のである。
この ことを押 し進 めてい くと,地理学 の性質 は, システム と同 じように関係概念 に 基づ く,研究方法 による字間分野である とい うことがで きよう。
松 田
( 1 973)
は 「システム とは一つの認識 の論理」,「システム とはものの見方」 と述べてい る。同様 に地理学 も一つの空間的な認識 の論理であ り,空間的な ものの見方であるとい うこと がで きるので はなか ろうか。対象 によ り分類 され る学問分野で はな く,認識 の論理, ものの見 方 とす るのが, よ り適切 なのである。 そのため,歴史学,経済学, 自然科学 な ど様 々な分野 に おける空間的な現象 にその方法 を適用で きることに もなる。 これ を実行す るためには,応用範 囲が広 い理論 の構築が必要であ り,学際的研究の必要性 も増大す るのである。一方,地理学 内 部 において も,学問体系 を明確 に した研究態度が重要 となる。3.
地理学内部の学問体系前章 の論 をふ まえて, あ らためて地理学内部 の学問体系 について考察 を加 えてみる
。
地理学 の分類 は,一般的 には,図1
の右 に示 したように系統地理学 と地誌学 に分類 され る。
系統地理也 読
学
人 目 也誌学
文
然
地 地
理 理
学 学
図1.地理学の学問体系
学 とは地形学,気候学 な どの自然地理学 と都市地理学,村落地理学,人 口地理学,工業地理学 な どの人文地理学である。 また,地誌学 は上述 した地形,気候,都市,村落,人 口,工業 な ど の要素 に満 たされた具体的な地域 を対象 として,地域性や地域 的相互関連 とその要因 を追求 し ようとす るものである
。
一方,空間 とは,対象 と関係 の弱い要素 を捨象 した ものであ り,地域 とは異 なる概念である。
地理学研究者が対象 とす る ものには広範囲な内容が含 まれ るが,地域的 ・空間的視点 とい う
点か らは共通性が認 め られ るのであ り,地理学 としての まとま りが存在す るのである
。
しか し, 通常 はこれ らの共通部分 について は,従来の理論 を踏襲 しているのが現状 であろう。つ まり, 地理学基礎論 の部分 には,かな り静態的な部分があると考 えられ る。しか し,前章で述べた ように地理学が 「一つの空間的な認識 の論理」であ り,「空間的な もの の見方」である とすれば,地理学 にはそれ らの基礎 としてのさらなる学問的追求が必要なので ある。 それぞれ を個別的にお こな うのではな く,基礎的な研究 をお こなった上で, それぞれの 研究 の深化が はか られ るべ きものである と考 える。 そこで筆者 は地理学 の学問体系 を再構築 し てい くことが重要である と考 える。 しか し,近年の傾 向をみる と, このような基礎的な部分が 不足 しているように思われ る。
そ こで図
1
の左 にあるような図式 を提案 したい。 これ は,他 の学問分野へ も適用が可能であ る。 この ことによって, よ り理論化が進 む といえる。 そ うす るためには,地理学研究者 によっ て,地理学基礎論 に基づ く理論 を地理学 の範囲 を越 えて, よ り一般化す る必要がある。ここで は,谷 口集落 の成立要因 を例 として説明す る。谷 口集落 の事例 として は関東平野 の西 蘇,関東 山地の東側 に立地す る中心、集落 をあげることがで きる。 これ は河川が山地か ら平地 に 流れ出す谷 口に発達 した地方核心集落 の ことで,地理学 において は昭和初期か ら研究がお こな われて きた。 山地 と平地 とい う異 なった生産活動がお こなわれていたため,両地域 の接触地点 に山地 と平地 の物産 を交易す るために発達 したのである。八王子,青梅,寄居,沼田な どが こ の例 としてあげ られ る。つ ま り境界地点 に中心集落が生 じるとい う理論である。
一般化 のためには,用語の革新が求 め られ る。地理学 における中心地論やチ ュ‑ネ ンの理論 は結節地域 として一般化 されている。 これに結節構造 とい う用語 を用い ることは,地理学 の理 論 の適用範囲 を広めることになるであ ろう。前述 した谷 口集落 について も,地理学 の術語か ら
よ り一般化 した名称,「境界 中心点」, また, その特質 を 「境界 中心性」 とい う用語 を用い るこ とが,適用範囲 を広 げることになるのである。 この ような用語 の変更 は大 きな意味 をもってい る。従来 の地理学の用語 の中で,一般化が可能 な ものについて は,一般化が可能 な用語への変 更が必要である と筆者 は考 える。 この ような行為が地理学 の側か ら必要 になるのである。
で は,具体的 にはどの ような方法 によって,理論化 を推 し進 めてい くことがで きるのであろ うか。図
2
は筆者 の考 えを模式化 して示 した ものである。理論 と応用 とはある学問分野 の中で,地 理 学 基 礎 論
継 続 的
系 統 地 理 学
地 誌 学
フィー ドバ ック
図
2.
地理学基礎論 と応用地理学の関係それぞれが分離 して存在す るわ けで はな く, また, ひ とりの研究者 の中に も両者 の考 えが共存 してい る。理論 を深 めることによって,応用が模索 され,進歩 し, それが地理学理論 にフィー ドバ ックされて理論 の構築 ・深化 をうながす とい う構図が描 かれ よう。 筆者 の考 えで は,地理 学 は地理学基礎論 と応用地理学 に大別で きる と考 える。 ここで応用地理学 とは,従来 の系統地 理学 と地誌学 の双方 を含 む ものである。 この ような考 えには異論 も多い と思 うが, このように 考 えることによって,地理学 における研究 の方向性が明確 になると考 えるのである
。
そ こで,次 に理論化 の中でい くつかの重要な概念 について,地理学基礎論 の視点か ら再検討 す ることにす る
。
4.
地理学 における地域 スケール と形態 ・機能地理学 における地域 スケールの重要性 については,浮 田
( 1 97 0)が次 の ように指摘 している 。
地域 スケール は地理学 に固有 の視点であ り,「さまざまのスケールで とらえてみて,それ らを比 較検討す ることが重要で」 ある としている。 この視点 を深 めてい くことが,地理学 の理論化 の 基礎 として必要欠 くべか らざる条件 となる。
た とえば,地域的差異 については,マ クロスケールで は, それが見 られない ことがあるのに 対 して, ミクロスケールで は差異が明瞭 な場合があるの は当然 の ことであ ろう
。
そのため地域 スケール として どれ を選択 してい るかが重要なのである。 また, これ らの考察 には浮 田 も指摘 しているように,当然,時間スケール も関連 して くるo長 い時間スケールで は変化がみ られ る のに対 して,短 いスケールで は変化 はみ られない ことになるか らである。
以上 のような概念 を 前提 として,理論化 を進 めてい くことが重要である。
次 に筆者が述べたいのは,地域 (より一般的 には空間) スケールの階層性 であ り, ク リスタ ラ‑理論 の適用範囲の広が りに関わ る ものである. また,香川
( 1 9 87 )の 「
高齢人 口特化地 区 な らびに人 口特別減少地 区の地域的展開」 のモデルで は,6
県庁所在都市 の規模 の問題がある。これ らはそれぞれ都市規模 を異 にす るが, これ らを同一 のモデルで説明す ることが, はた して 適切 なのか とい う問題 である。つ まり, モデルの具体化 の程度 に関す る点である。 これ をよ り 一般化す るとすれば,他 の条件がすべて同一である と仮定 した場合, 日本で作成 したモデル を 世界全域 に適応可能か どうかな どの問題 もある。
この階層性 と地域 スケールの異 なる現象のモデル化 には解決 しなければな らない多 くの問題 点が予想 され るが, ここで はその重要性 を指摘 して課題 としたい。
次 に,空間構造 の解釈 に関 して問題 となるのは,形態 と機能 の関係である。 これ らについて は景観論 との関わ りが従来 よ り指摘 され続 けて きた。後藤
( 1 98
1)で は,家屋密度 の地域 区分 か ら,城下 の拡大 を要因 として,侍屋敷 の敷地面積 と,侍 の階層 との偏差 を図化 し,歴史的要 因 を検討 したが, これ は形態 と機能 の相互作用の結果 と見 な しうる。
すなわち, この偏差 の説 明要因 として,城郭 とい う結節地域 の中心か らの距離 と城下 の拡大 とい う時間の経過 を もちい て説明 を加 えたのであるが, この地域 的偏差 の分布 は,地域 を構造的 ・動態的 に把握す る方法 と見 なせ る。 この地域 的偏差 によ り,城下町 における侍 の居住パ ター ンの特性 と近世城下町の 性格 の説明 を試 みた。地理学 において は景観論 を中心 として,視覚的な現象 に対象 を限定 し, それ を基礎 として地 域 の解釈 をお こな う方法が とられて きた。 しか し,形態的 には同 じに見 えるものが機能的 ・内 容的 には異 なることも多い。地理学 において は, このような視点 に基づ く空間構造 の解釈 と説
明が多 くお こなわれ て きた ように思 われ る。形態 と機能 を分離 して それ ぞれの特性 と相互関係 を研究す る ことが,理論地理学 の基礎 として必要で はなか ろうか。
6.まとめ
地理学 の学問的性格 を再検討 し, その中で,地理学 は 「空間的な認識 の論理」であ り,「空間 的 な ものの見方」 であ ることを述べ た。次 に,地理学 は一般 的 には系統地理学 と地誌学 に分類 され るが, これ らの基盤 として地理学基礎論 をお き, その上 に系統地理学 と地誌学 をお くとい う構造 を示 した。 この ような認識 に立 ち, フ ィー ドバ ック構造 を基 に して,理論 的深化 をはか る必要性 を強調 した。最後 に,地理学 の理論化 にお ける地域 スケールの重要性, お よび,形態 と機能 の関係 について課題 を示 した。
参考文献
浮田典良
( 1 9 7 0 )
香川貴志
( 1 9 8 7 )
後藤雄二
( 1 9 8
1) 後藤雄二( 1 9 9 5 )
杉浦芳夫
( 1 9 8 4 )
手塚 章( 1 9 9
1) 西川 治( 1 9 9 6 )
地理学における地域のスケール ー とくに農業地理学における‑
人文地理
2 2, 4 0 5‑4 1 9
東北地方県庁所在都市内部における人口高齢化現象の地域的展開 人文地理
3 9, 3 7 0‑3 8 4
1 7
世紀の城下町仙台における侍の居住パターン 地理学評論5 4, 5 1 3‑5 2 9
日実験地域"としての青森県における分布の類型化の試み弘前大学教育学部紀要
7 4,1‑8
地理学における数理的手法の発達 地学雑誌
9 3‑7,8‑1 5
地理学の古典 古今書院, 4 2 2
ページ地理学概論 朝倉書店