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硫黄を含むナトリウム珪酸塩の光電子スペクトル

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(1)

硫黄を含むナトリウム珪酸塩の光電子スペクトル

       (昭和57年11月30日 原稿受付)

金  子  泰  成*

中  村  英  樹**

山  根  政  博**

溝  口  数  一**

杉之原  幸  夫**

Photoelectron Spectra of Sodium Silicate Glasses

      containing Sulpher

by Yasunari KANEKO

   Hideki NAKAMURA    Masahiro YAMANE    Kazuichi MIZOGUCHI    Yukio SUGINOHARA

      Abstract

  Photoelectron measurements were made on silicate glasses containing sulphide in order to

clarify the state of existence of S ion in the silicate glasses. The Ols spectra was decomposed to two or three Gaussian peaks by a non−linear least squares method.

   The results obtained are as follows:

 (1)Na2S acted in the same manner as Na20 in the silicate glasses.

 (2)It seemed that the sulphur ion enters in the non−bridging site of the glass network.

       本研究では,Sイオンのイオン半径は0イオンより大

1瀦言        きく,また電気離度も小さいことから,0イオンをS

 溶銑および溶鋼の脱硫過程に関する研究は,従来,溶   イオンで容易に置換できるのではないかと考え,

銑および溶鋼一スラグ,スラグーガス間の硫黄移動速度や   Na、S−Sio2系ガラスを作製し, X線光電子分光装置 平衡について行われてきた。しかしながら,この脱硫過    (ESCA)を用いて,主として01s,S2Pスペクトルを測 程においてスラグ中へ移動した硫黄がスラグの物性,ひ   定し,Na、Sがケイ酸網目構造にどのような影響を及ぼ

いてはその構造に如何なる作用を及ぼしているかは,報   すか検討した。

告が少なく,いまだ不明の点が多い。ケイ酸塩スラグに

      2.試料及び実験方法

対するCaSの作用形態については,粘性変化よりCaO

と同様であると報告されている↓)HANADAら2)は,    2.1.試料の作製

Na2S−SiO、系およびNa・0−B・03系のガラス形成範囲    試料の作製にあたっては,市販特級試薬のNa2Sおよ を測定し,珪酸塩ガラス中では,Sイオンは非架橋酸素   びSiO、を用いた。 Na2SはNa2S・9H20を加熱脱水させ の位置に酸素イオンと置換するのではないかと考えている。   ることにより調整した。調合組成については,表一1に示       す。溶解中の試料からのSの揮発を防ぐために,図一1で

* 大光炉材(株)

** 金属工学教室       示すような二重ルツボを用いた。所定量秤量した試料を

(2)

含む内側のルツボはアルミナシールセメントでふたを   表面から数nm〜数十nm程度までの深さの情報である

し,外側のルツボ内に置いた。その空間はNa2Sで満た   ため,試料表面の汚染は得られる情報に大きな影響を及 し,アルミナシールセメントでふたをし密閉した。この   ぼす。そこで表面を清浄にするために,アルゴンイオン ニ重ルツボは炉内で1000〜1200°Cで30分保持後,炉外   ビームエッチング法を用いた。装置の使用条件は,加速 で空冷した。ガラス化の確認は,肉眼および赤外線吸収   電圧約5kV,電流1〜2.5μA,ビームは分散型で試料表 スペクトルにより行った。作製した試料は化学分析によ   面に対し照射角約3ぴで使用した。また,試料表面の帯電 り組成を決定した。       補正は,コンタミネーション炭素による方法と金蒸着法  試料の予備処理については前報3)を参照されたい。    とを併用して行った。両方の問題点については,研究資       料4}に詳細に述べているので本報では省略する。

       01sスペクトルは,ガウス関数を用いて波形分離を         Table 1配合組成       行ったが,その解析法も前報3)および研究資料4)で報告       しているので参照されたい。

Sample No. Na2S Sio2

S1 15 85

S2 20 80

S3

25 75

S4 30 70

S5 40 60

(in mo1%)

3.結果および考察

3.1.硫化物,硫酸塩のS2s, S2P軌道電子の結合エネル    ギー

 珪酸塩構造に及ぼす硫化物の影響を検討するために,

主として01s, S2P, S2s, Si2P軌道電子のESCAスペ クトルの測定を行った。01sスペクトルの解析について は前報3川で述べているので,ここでは省略する。

 Sulpherについては, Siegbahnら5)のグループによ り,約130種類の有機および無機の化合物についてその

㌫=° S2P結合エネルギー値が測定され・馴のパラメーター

        との相関が求められ,割に良い直線関係が得られている Bqtch     が,測定方法や測定条件が異なるため,それらの結果を         そのまま本研究に適用することができない。そこで,種々

No2S     陽イオンが異なる硫化物や硫酸塩について,どの程度

        S2p結合エネルギー値に差が現れるかなどを調べるため

A{umino

crucible    に,各種化合物のS2sおよびS2p結合エネルギーを測

        定し,それらの結果をまとめて表一2に示した。測定した

        化合物の半値幅はほぼ2.4eVであった。特に半値幅が大

    図一1 試料作成ルツボ      きなものは()内に示したが,その詳細な考察は本研

      究では行わなかった。表からわかるように,Sulpherの持

      つ価数が同一一であれば,そのケミカルシフトは陽イオン

2.1.測定装置および解析法      の種類が種々変化しても,ほぼ±0.5eV以下の変化しか

 ESCA測定装置は, DUPONT−650 Bで,励起X線源   みられなかった。そこで,このS2P結合エネルギー値と

はMgターゲットを8kV,31 mAの条件で用い,装置内   Sの電荷との関係を整理すると,図一2のようになり,両者

の真空度は測定中,約1.1×10−5P。に保持した。なお,装   間には良い直線関係が認められた。そのうえ,価数が一

置に表示される結合エネルギーの値は,Au4f・ ・(84.0   価増加すると約1eVの結合エネルギー値の増加がみら

eV)およびCu2P3 2(932 eV)内殼軌道電子の結合エネ   れることから, S2P結合エネルギー値を測定することに

ルギーを基準として調整した。ESCAから得られる情報   より,珪酸塩中に存在するSの存在形態を推定すること

は,電子の脱出深さ(escape depth)に規制され,試料   が可能である。

(3)

Table 2各種化合物のS2s, S2P結合エネルギー Group

Compound S2s(eV) S2P(eV)

Na2S 226.7 162.4

CaS 226.0 161.6

BaS 225.9 161.6

S2一

PbS 224.9 160.5

ZnS 226.0 161.6

Sb2S3 225.6 161.4

Cu3AsS4

225.8 161.6

Na2SO3 232.3(4.1) 167.4 S4+ K2SO3 233.4 167.6 CaSO3 233.4(4.0) 167.6 Li2SO4 234.1 170.1

Na2SO4 233.5 169.6 K2SO4 233.9 170.1

S6+ MgSO4 233.8 170.1 CaSO4 233.7 169.8

SrSO4

233.4 169.4

BaSO4 233.4 169.4

ZnSO4

233.4 169.4

Na2S203

233.0

Q26.4

168.6 P62.3

Na2S204

232.7(4.0) 167.6 Mix

Na2S205

232.4(3.9) 169.4

P67.8

Na2S207

232.2 168.0

K2S207

232.5 168.3

K2S208

233.3 169.4

一170

3

P

2

ξ165

ひ 岳

160

1

1

一2   0   ◆2  +4  ◆6

図一2 Sの電荷とS2p結合エネルギー

    との関係

       き

2.2.ナトリウム珪酸塩中のSの解析      窃

      に作製したガラスはすべて赤色を呈し,Na、S量が増加      £ するにしたがい,その色は濃くなっていった。Othley

ら6} ηによると,ガラス中にS2分子が存在するとガラス       聖

       ぷ 

は青色を示すが,ガラス中にポリ硫化物が形成すること      号 により,それは茶色や赤色に変化すると報告している。

またPaulら8)も同様の事を報告している。

 本実験では全試料とも赤色を示したことから,ポリ硫 化物が形成されているものと予想される。図一3に測定し た01sスペクトルを示す。なお,図中の組成は初期秤量

No2S   Sio2

mol%  mol%

組成で示してある。図よりNa2S量が多くなるにしたが       535      530 い,0一イオンの形成に起因する低結合エネルギー側の      Binding Energy / e∨

スペクトルの肩が・顕著に大きくなっていることがわか         図_3 Na2Sを含む珪酸塩の01s

る。このことから珪酸陰イオンの形態の変化が推定できる。      スペクトル

(4)

 本研究で得られた試料の化学組成は,Sは重量分析に       Table 3 Na2Sを含む珪酸塩の組成と より,Naは原子吸光分析により求め, Na2SおよびNa20       各酸素イオンの分布状態 の量を決定した。その結果を表一3に示す。この表から明

らかなように,調合組成よりかなりのSが減少してい

る。これは,二重ルツボの気密性が十分に保たれておら ず,Sの揮発や酸化反応が進行したためと思われる。

 Na、Sが珪酸陰イオンの修飾化合物として働くものと 仮定すると,本系に存在する可能性のある酸素イオンは,

Si−O−SiのOoイオンおよびSi−0−…N査の0一イオン

である。、0°イオンおよび0一イオンの解析にあたっての 先験値は,532.4eV(半値幅2.OeV)および530.6eV(半

値幅2・OeV)を用いた。この先験値を用いて各01sスペ       Table 4 Na2Sを含む珪酸塩の組成 クトルを解析し,その結果を表一3中に示す。()内の値

は各理論値である。得られた結果を見ると,高Na2S側 において理論値からのずれが大きくなっているのがわかる。

 一方,柳ヶ瀬ら9)は,Na20−SiO2(SiO2=50 mol%

const.)系で, Na、0とNa、Sを置換した試料の急冷ガラ ス化試料の赤外線吸収スペクトルの測定を行い,Na20

をNa、Sに置換しても同スペクトルの形状には大きな変

       (in mol%)

化がみられないことから,Na2SはNa20と同様に挙動

すると推定している。また,Na20−SiO2系融体にSO2ガ

ス吸収を行わせた結果,Pso、=1でSはSOi一の形態で

存在すると報告している。Finchamら1°)は,平衡論的取

り扱いによりスラグ中のSの状態とPo、の関係を研究 し,Po、≦10−6atmではSはS2一の形で, Po,≧10 4atm

ではSα一の形で存在すると推定した。前述した溶融試 料中のSが揮発および酸化されたと思われることと,こ れらの報告を考え合わせると硫酸塩の存在も十分考えら

れる。そこでESCAによりS2Pスペクトルを観測した。

composition(mo1% Distribution of oxyg㎝ion(%)

Sample No.

Na2S Na20 Sio2

oo

0一 S1 1.8

13.4

84.8 83.8(84.3) 16.2(15.6)

S2 6.7

11.3

82.0 78.6(83.3) 21.4(16.7)

S3 4.7 18.4

76.9 792(75・9) 20.8(24.1)

S4 10.9 163

72.8 77.1(73.2) 22.9(26.8)

S5 13.6 23.0

63.4 71.9(60.2) 28.1(39.8)

Sample No. Na20 Na2S Na2SO4 Sio2

S1

13.6 0.9

0.9 84.6

S2

17.4 3.3

3.3 76.0

S3 18.9

2.4 2.4 76.3

S4

17.2 6.5

4.9 71.4

S5 24.4 9.0

5.4 61.3

       あ その結果を図一4に示す。この図から明らかなように,2     喜       む つのスペクトルが存在する。すなわち高結合エネルギー     三 側のスペクトルは,SOI一の形態と思われるS6+による

      リ スペクトルで,低結合エネルギー側のスペクトルは,S2一    ξ によるスペクトルと推定できる。そのS2一スペクトルの     主 ピーク位置および半値幅から,Si−S一あるいはSi−S−Si

結合のS2一イオンであるかの区別はできなかった。しか し,前述のようにS6+によるスペクトルが存在すること から,ガラス中にSOI一イオンが存在することが確認さ れた。それで, S6+とS2一のS2Pスペクトルの面積比か

No2S Sio2 mol%mol%

     S6◆

 40 60i

       170       165       160

ら,SO葦一イオンを形成するS6+と, S2一イオンの存在割       Bindhg Ene「9y! eV

合をアS°そ(Na・S°・)の存在を考慮した試料の分析  図一4 N。,Sを含む珪酸塩のS2p

結果を不すと表一4のようになった。       スペクトル

(5)

 次に,Oo,0一ならびにSOi一の三種類の0イオンが     Table 5 N a2Sを含む珪酸塩中の各酸素イオン        の分布状態

存在するとして,実測したOlsスペクトルの解析を

行った。ooおよび0一の先験値は前述のとおりである

が,SOi一の0イオンの先験値は, Na、SO、化合物の01s スペクトルを実測した値,532.OeV(半値幅2.OeV)と した。得られた結果は,スペクトルの位置および半値幅 とも十分満足できるものであり,表一5に示すように,解

析値と()内の理論値とは良い一致を示している。こ

こで用いた理論値は,Si−0−Si networkに対してNa2S

が次式のように作用し,

Distribution of oxygen ion(%)

Sample No,

oo

0一 Na2SO4

S1

81.1(83.0) 16.7(15.1) 2.2(1.9)

S2

67.2(71.9) 23.9(20.9) 8.9(7.2)

S3 71.6(72.5) 21.5(22.2) 6.9(5.3)

S4

65.7(66.3) 23.6(22.8) 10.6(10.9)

S5 57.1(53.0) 30.1(34.2) 12.8(12.8)

4.結 言

_;i_0_;ト+Na、s=_S1_o−...Na・+_si_s−_Na・    Na2Sを含む珪酸塩のX線光電子スペクトルを測定す

  l  l        l      l

      ることにより,Na2Sの挙動について検討した。その結       果,調合組成中のNa、Sの一部は,試料作製中に揮発ま すなわち,Sイオンは0−(非架橋酸素)イオン位置に   たは酸化して, Na・0およびNa2SO・に変化しているこ 入ると仮定したもので,Na2S 1モル当量に対して同量の   とが,化学分析およびX線光電子スペクトルより明らか 0一イオンが生成することを意味している。         となった。

 それに対して,SイオンがO°(架橋酸素)イオン位置    また,ガラス中に残存しているNa2SはSio2に対し

に入ると仮定すれば,次式のようになり,         て,Na20と同様な挙動を示すことがわかり,Sは0−(非       架橋酸素)イオン位置に存在すると推定された。

       最後に,本研究を遂行するにあたり協力された佐々木

一;i−。一;i−+N、、S=一;i−S−;i−+N、、。 鵠小橋章雄両氏に深く感謝します.

  }  l       l  l

一1−・一十 2(  1−Si−0−…Na+  1)1)(鷲…÷・藁議鉱…究所一

      2)T.HANADA, N. SOGA and M. KUNUGI:Journal of Non−

      Crystalline Solids,21(1976)65

N・・S1モ・レ当量に対して2モル当量の・一イオンが形成 1;〉;原誓、《:塁意塁二:㌶欝)ll(1977)37軌

されることになる。例えばS−5の組成で,Sが架橋酸素   5)B. J. Lindberg, K Siegbahn, etal;Physica Scripta,1(1970).

の位置に入るとして求めた〇一イオンの計算値は39.2%   286・

      6)K.OOthley and W. A. Weyl, J. ApPl. Phys 23(1951)499.

となり,解析値との差が9.1%となり,後者の仮定を採用

      7)K.O. Othley and W. A. Wey1, Glass Ind.33(1952)24,

するには無理があると思われる。      8)APaul, A Ward and S. Gomolka:J. Mater. Sci.9(1974)1133.

 以上の考察から,Na2SはNa20と同様に,珪酸イオン   9)柳ヶ瀬勉・角田成夫:スラグの有効利用に関する基礎研究部 に対して修飾化合物として作用し,S}ま・一(非架橋酸1。漂慧、㌫㌫D則、h。,d,。n、P,。。R。yS。。L。∩

素)イオン位置に存在すると考えられる。         don, A223(1g54)40.

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