論文審査の結果の要旨
氏名:西 山 未 紗
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:レット症候群モデルマウスにおける無呼吸に対する延髄GABA神経系の関与 審査委員:(主 査) 教授 髙 橋 富 久 ㊞
(副 査) 教授 白 川 哲 夫 ㊞ 教授 岩 田 幸 一 ㊞ 教授 大 井 良 之 ㊞
レット症候群は,エピジェネティクスを司る基本的な分子であるメチル化 CpG 結合タンパク 2(methyl CpG binding protein 2, MeCP2)をコードする遺伝子MECP2の異常により,約1万人に1人の確率で主に女児に 発症する遺伝性疾患である。エピジェネティクスには DNA メチル化・ヒストン修飾などが関与しており,
DNA メチル化は DNA 配列の変化なしに特定の遺伝子の発現に影響を与える。MeCP2 はメチル化された CpG に 結合して複数の遺伝子の発現を制御する機能があり,MECP2 の変異は,レット症候群のほか認知障害,自 閉症,若年発症統合失調症,早期の致死率が高い脳症など,数種類の神経発達障害の原因となっているこ とが明らかにされている。レット症候群は,早期の成長は外見上正常であるが,生後 12~18 ヵ月以降に退 行,呼吸異常,てんかん発作,自閉症状,運動異常,特に手の常同行動が現れる。しかしこれらがどのよ うな機序で発現するのかについてはほとんど解明されていない。
これまで,Mecp2 を完全に欠失させたマウスおよび γ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid,GABA)作動性 ニューロンに特異的にMecp2を欠失させたマウスについて無呼吸の増加が報告されているが,呼吸中枢での GABA産生に関連する変化,特にGAD1 mRNAの変化と無呼吸数との関連性について調べた報告はない。そこで 本研究ではレット症候群モデルマウスの呼吸異常の一端を解明する目的で無呼吸に着目し実験を行った。
全身型プレチスモグラフを用いて生後2,3,5,7週で1時間の呼吸波形記録を行い無呼吸回数を測定すると ともに,生後2週における延髄腹側の呼吸関連ニューロン群(ventral respiratory group, VRG)でのGAD1 mRNAの発現量ならびにGAD1プロモーター上のCpGのメチル化をリアルタイムPCRおよびバイサルファイトシ ーケンス法により調べ,無呼吸との関連性について検討した。実験動物として,Mecp2ヘテロ欠損雌マウス (B6;129P2(C)- Mecp2tm1.1Bird/J, STOCK#003890: Jackson Laboratory)ならびにC57BL/6J野生型雄マウス(オ リエンタル酵母)を交配して得たMecp2欠損雄マウス (hemi)を用い,コントロールとして,C57BL/6J野生型 雌マウスから生まれた野生型雄仔マウス(wild)を用いた。
その結果,以下の知見を得ている。
1. 2,3,5,7 週齢における無呼吸回数は,いずれの週齢においても hemi が wild と比べ有意に多かった。
2. 2 週齢での VRG におけるGAD1 mRNA 量は,hemi が wild と比べ有意に少なかった。
3. 2 週齢での VRG におけるGAD1プロモーター領域のメチル化率は,hemi が wild に比べ有意に高く,メ チル化部位の分布は hemi と wild で大きく異なっていた。
以上の結果より,hemi では生後発達の早期においてGAD1プロモーター領域の CpG でのシトシンの高メチ
ル化がGAD1 mRNA の発現量を低下させ,VRG における GABA 神経伝達を低下させることで無呼吸回数を増加
させている可能性が考えられた。
本論文は,hemi の延髄呼吸中枢における GABA の量的変化と無呼吸との関連性について,エピジェネティ クスの観点から詳細な検討を加えており,得られた結果はレット症候群ほか MeCP2 の異常によって生じる 様々な疾患の発症機序を解明するうえでの基礎データとなり,小児歯科学および関連歯科医学分野の研究 発展に寄与するところが大である。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成26年3月5日