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(1)

道衛研所報Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health,58,69−71(2008)

2007年度の北海道における麻疹PA抗体保有調査

Surveilance of PA Antibody to Measles Virus tn Hokkaido in Fiscal Year 2007

地主 勝   伊木 繁雄*  長野 秀樹 奥井 登代   岡野 素彦

Masanl J㎜sHI, Shigeo IKI, Hideki NAGANo,

   Toyo OKul and Motohiko OKANo

Key words:Hokkaido(北海道);皿easles(麻疹);PA antibody(PA抗体)

 麻疹はパラミクソウイルス科モルビリウイルス属の麻疹 ウイルスによって起こる急性熱性の発疹を伴う感染症であ るエ).感染経路は空気感染,飛沫感染,接触感染など様々 であり,その感染力は極めて強い.麻疹の発症を抑制でき

る十分な抗体を持たない麻疹感受性者が感染するとほぼ 100%発症する.また,中耳炎,肺炎,脳炎などの合併症

を起こしやすく,特に,小児では1,000人に0.5〜1人が脳

炎を起こすことが知られている.

 2001年に全国的な麻疹の流行を経験したことから,国や 地方自治体及び関連学会によって麻疹対策の強化が行われ てきた2】.その結果,乳幼児の予防接種率が上昇し,報告 数も減少した.しかし,野生株による免疫強化を得る機会 なども減少したため,特に,10〜20歳代における抗体価の 低下が見られた.そこで,麻疹感受性者の減少や免疫強化

を目的として2006年4月から麻疹の定期予防接種時期が1 歳児と5歳から7歳未満の小学校就学までの2回接種となっ た3).さらに,2008年4月1日から5年間限定で,中学1 年生相当の第3期,高等学校3年生相当の第4期も定期予

防接種に追加された4).

 今回,われわれは,感染症流行予測調査事業に基づき,

2007年度の各年齢層におけるワクチン接種歴及び麻疹抗体

保有状況を調査検討したので報告する.

材料及び方法

1.調査対象

 検体は市立札幌病院から分与された血清を用いた.対象 は0〜1歳,2〜3歳,4〜9歳,10〜14歳,15〜19歳,

20〜24歳,25〜29歳,30〜39歳,40歳以上の9群,各25名,

合計225名である.

2.測定方法

 麻疹ウイルス抗体価測定キット(富士レビオ(株))を用

いて,血清中の麻疹ゼラチン粒子凝集(particle aggluti−

nation l PA)抗体価を測定した.方法はキット添付の使 用書に従った.

*現国立感染症研究所バイオセーフティ管理室

1.麻疹ワクチン接種状況

 各年齢群におけるワクチン接種状況を表1と図1に示し た.接種歴不明152名を除いた73名のワクチン接種率は68

%(50/73)であった.年齢群別にみると0〜1歳38%(8/

21), 2〜3歳85% (17/20), 4〜9歳93% (14/15),10〜

14歳64%(11/17)であった.しかし,15歳以上の年齢群を はじめ,各年齢群においてワクチン接種歴不明者が多く,

本調査からはワクチン接種状況を的確に把握できなかった.

2.年齢別麻疹PA抗体保有状況

1)0〜1歳

 本年齢群の抗体価の分布状況を図2に,月齢別に細分し た抗体保有状況を表2に示した.0カ月齢の2名は抗体陽 性(1:16以上)であったが,1〜1!カ月齢の12名すべて が抗体陰性(1:16未満)であった.予防接種対象となる

1歳児の抗体陽性者は11町中8名(73%)であった,

2)2歳以上

 2歳以上の抗体保有状況を図2に示した.15〜19歳及び 40歳以上の2群の抗体陽性率は92%であったが,他の年齢

群は96〜100%の陽性率であった.平成17年度(2005年度)

感染症流行予測調査報告書5)によると,PA抗体価が1:

256以上で麻疹ウイルスの中和抗体がほぼ100%認められ,

ウイルスに感染してもほとんど発症しないとされている.

一69一

(2)

表1 年齢別ワクチン接種率

(%)

100

□不明  國未接種   囲既接種

年齢(歳) 合計 既接種   未接種 不明

 0  1 2〜3

4〜9 10〜14 15〜19 20〜24 25〜29 30〜39

40〜

14 11 25 25 25 25 25 25 25 25

2 6 17 14 11

10 3

3 1

6

2 2 5 10 8 25 25 25 25 25

80 60 40 20

0

0124101520253040    〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

   391419242939

       年齢群

  図1 年齢別ワクチン接種率

○ワクチン接種者 △非接種者 ●不明

表2 乳幼児月齢別PA抗体価(〜23カ月齢)

       月  齢

PA抗体価

    0123456789 101112〜23

≧8192  4096

 <16   2 2 1

 16 32  64  128 1

 256

 512 1

 1024  2048  4096

≧8192

1 2  1 1(1)1(1) 1  3(1)

1 2(1)

3(2)

1(1)

1(1)

  2048   1024 葦  512 渥  256

託 128

   64    32    16   〈16

():ワクチン接種済(内数)

      ●   ●●●

  O    O       ●

     ●   o      ●  ●●●●  ●●●

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  ●●

  ●●

02410152025 〜 〜 〜  〜 〜 〜  〜

13914192429

        年齢導 引2 年齢別PA抗体保有状況

30 40

39〜 〜

そこで,1:256以上の陽性率についてみると,2〜3歳

群及び30〜39歳群は88%であるが,10〜14歳群及び15〜19 歳群は56%であり,10歳代における陽性率の低下を認めた.

また,40歳以上の年齢群において1:256以上の陽性率が

52%と低く,抗体陰性の麻疹感受性者も2名みられた.

考 察

 感染症流行予測調査は,予防接種事業の効果的な運用と 長期的視野に立った疾病の流行予測を目的とした事業であ り,麻疹の感受性調査は1978年から実施されている5).こ の調査は,健常人における麻疹抗体価を測定している.抗 体測定法は1996年に,赤血L球凝集抑制法から,より高感度 で中和法との一致率も高いとされるPA法に変更された6).

PA抗体価1:16未満の麻疹感受性者の確認とワクチン接

種状況を明らかにすることは,集団の免疫状況を把握する 上で重要である.各年齢群の検体数は少ないが,今回の調

査からいくづかの知見が得られた.

1)移行抗体を保有していると考えられる6カ月齢未満の 8名のうち,0カ月齢の2名のみが抗体陽性であった.抗 体が陽性であった0カ月齢を除く1〜11カ月齢の12名は抗 体陰性であった.ワクチン接種歴がある9,!0カ月齢の2

名も抗体陰性であったが,調査用検体の採取時までに検出

可能な抗体価に達していなかった,または,ワクチン接種 によっても免疫が得られなかったことなどが考えられた。

今回の調査では,6カ月未満の抗体保有率が25.0%(2/8)

と非常に低いため,過去3年間の調査結果と比較し,移行 抗体の保有状況を確認した.2004年度83.3%(5/6)7),2005

年度100%(5/5)8),2006年度85.7%(6/7)9)であり,過去3 年間においては,経年的な抗体保有者の減少傾向は認めら れなかった.しかし,今回の調査結果は,特徴ある傾向と

して,1〜5カ月齢のすべてが抗体陰性者であり,生来の

抗体陰性者の増加や移行抗体の早期消失が示唆された.ま た,ワクチン未接種者が多く,かつ,ワクチン既接種者に おける抗体価の減衰があるとされる定期予防接種が開始さ れた1978年以降に生まれた母親が増加したことも反映して いると思われる10).今後もこの傾向が継続する可能性もあ

るため,1歳未満の乳幼児と母親世代における抗体保有状

況の調査を継続するとともに,母親世代の抗体価の維持及 び抗体陰性者への予防接種を含めた対策も必要であると思 われた.また,,著者らの検討では,2007〜2008年の発生増

加において,1歳未満の報駈上が1歳児の報告数を上回っ

ており11),1歳児への定期接種は言うまでもないが,麻疹

の発生状況によっては,1歳未満でも任意接種の奨励など を考慮する必要がある.

一70一

(3)

2)定期予防接種の対象となる1歳児では11名中8名

(73%)が抗体陽性であり,3名(27%)が抗体陰性であっ

た.抗体陰性者のうち1名は既接種者であったが,前述し た9,10カ月齢の2名と同様,ワクチン接種による抗体が

まだ上昇していない,または,免疫自体が得られなかった

ことなどが考えられた.1歳児におけるワクチン接種率の

向上は重要な麻疹対策であるが,平成18年度(2006年度)

の1歳6カ月検診で調査した麻疹ワクチン接種率は90.4%

であった12}.麻疹撲滅へ向けた95%以上の接種率を達成す

るには、さらなる努力が必要である.

3)2〜3歳以上の年齢群では,1:16以上の抗体保有率 は92〜100%と顕著な差は見られなかったが,1:256以上

の抗体保有率では10〜14歳群及び15〜19歳群の10樽代で56

%,40歳以上の年齢群では52%と低値を示した.

4)40歳以上の年齢群は他の年齢群に比べ幅広い年齢で構 成されている.そこで,1:256以上の抗体保有率を年代 別に調査すると,40歳代75%(6/8),50歳代62%(5/8),60

歳代22%(2/9)であった.さらに,抗体価が1:16未満で あった60歳代の2名を除いた各年代の幾何平均抗体価は,

40歳代29・5(724.1),50歳代279(234.8),60歳代2a4(86.1)

であり,年齢の増加に伴う抗体価の低下傾向がみられた.

40歳以上の多くは,野生株の暴露を受けており,免疫強化 を含め,高い抗体価を維持していたと考えられる.しかし,

2001年の流行以来,麻疹報告数の激減に伴い,野生株によ る免疫強化などの機会も失われたことなどが一因となり,

従来、高い抗体価を維持していた年齢群においても,抗体

価が低下する可能性が示唆された.

 国立感染症研究所が実施した2007年度第2期麻疹・風疹

(Measles−Rubella:MR)混合ワクチンの接種に関する全 国調査において,2006年度(2007年3月31日現在)13)の最 終報告では,麻疹含有ワクチンの接種率が8α9%であった が,2007年度(2008年3月31日現在)14)では各自治体など の努力により,89.7%まで上昇した。しかし,2007年に10

〜20歳代を中心とした麻疹が全国的に増加し,2008年にお いてもその傾向が継続している15).北海道でも2007年4月 下旬から10歳代を中心とした発生増加を認めた16).北海道 における2007年度の麻疹発生状況を調査した結果,「北海

道麻疹ゼロ作戦」や小学校就学前の第2期接種などの対策 により低年齢層の報告数が低下し,特に,第2期接種を終 えた7歳児の報告数は20歳以下では最も少ない12例であっ

だ3).これは,第2期接種によるワクチン未接種者,麻疹 免疫未獲得者などへの免疫強化によるものと思われる.な お,第2期定期予防接種の対象にならない8歳以上では,

ワクチン既接種者の発生報告数が増加しており,年齢の上

昇に伴う免疫の減衰が推察された.

 WHOは2012年までに日本を含む西太平洋地域からの麻

疹排除を目標に掲げており,わが国においてもその目標に

向けて,ワクチン2回接種の完全導入,麻疹の全数把握,

サーベイランスシステムの強化などの対策を行っている17>.

 今後も感染症流行予測調査を継続し,第1〜4期の定期

予防接種対象者におけるワクチン接種率や抗体価及び接種 後の抗体価の推移を調査するとともに,麻疹感受性者の詳 細を把握することは,麻疹排除のために有益な疫学情報を

もたらすものと思われる.

 稿を終えるにあたり,血清材料の採取及び本事業の推進 に御協力頂きました市立札幌病院感染症科の滝沢慶彦先生

に深謝いたします.

1)Katz SL, Gershon AA, Hotez PJ:Measles(Rubeola)一   KrUgman s I㎡ectioUS DiseaseS of Children,11th ed.,

  Mosby−Year Book, Inc,, New York,2004, pp.353−371

2)国立感染症研究所感染症情報センター:病原微生物検出情

  懸垂 (月幸侵), 25, 60−61 (2004)

3)平成17年7月29日付井田第0729001号厚生労働省健康局長通

  知

4)平成20年2月27日付政令第35号

5)厚生労働省健康局結核感染症課,国立感染症研究所感染症   情報センター:感染症流行予測調査報告書 平成17年度,

  平成19年2月

6)Sato TA, Miyamura K, Sakae K, Kob㎜e F, Inouye S,

  Fujino R, Yalnazaki S:Arch. VioL,142(10),1971−1977

  (1997)

7)長野秀樹,伊木繁雄,佐藤千秋:道衛研所報,55,55−57

  (2005)

8)長野秀樹,伊木繁雄,佐藤千秋,奥井登代,岡野素彦:道

  衛研所報,56,71−73(2006)

9)地主 勝,伊木繁雄,長野秀樹,奥井登代,岡野素彦:道

  衛研所報,57,83−85(2007)

10)清水博之編:厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症

  研究:事業)「ウイルス感染症の効果的制御のための病原体サー

  ベイランスの検討」平成19年度総括・分担研究報告書,国   立感染症研究所,東京,平成20年3月,pp.87−91

11)地主 勝,長野秀樹,工藤伸一,横山裕之,中野道晴,岡   野素彦,田邊寛樹,山口 亮,矢野公一:病原微生物検出

  情=報(月報),29,128−129(2008)

12)北海道保健福祉部保健医療局健康推進課:平成18年度北海   道感染症危機管理対策協議会資料,札幌,平成20年 13)国立感染症研究所感染症情報センター:病原微生物検出情

  幸艮 (月幸艮), 28, 259−260 (2007)

14)国立感染症研究所ホームページ:平成19年度定期の予防接   種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について

  (第2報)

  (http://idsc.nih.gojp/disease/measles/index.htm1)

15)国立感染症研究所感染症情報センター:感染症発生動向調

  査(週報),10,6−11(2008年第27週)

16)国立感染症研究所感染症情報センター:感染症発生動向調

  査(週報),9,8−13(2007年第51週)

17)平成19年12月28日付厚生労働省告示第442号

一71一

参照

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