精神薄弱児における記憶属性の研究
松 村 多美恵*・木 村 裕 子**
(1985年9月28日受理)
ヤ
̀Study on the Memory Attributes in the Mentally Retarded
Tamie MArsuMuRオand Ynko KIMuRA**
(Received September 28,1985)
Abstract
The dominance of memory attributes in 54 mentally retarded children and 36nonretarded children was investigated. Sublects studied a familiar word list followed by a recognition test;relative dominance was inferred from the types
of the errors(semantic and acoustic)on the test.While the retarded children at mental age of 4 years and 6 years made equal numbers of errors on these two types of distractors, retarded children at MA 8 years and all nonretarded children made more errors on the seman.
tic than the acoustic distractors. The nonretarded children performed better
at the recognition test than the retarded children at MA 4 years and 6 years.は じ め に 「
精神薄弱児の記憶に関する研究は,リハーサルや群化といった効果的な記銘方略の使用をいかに 訓練することができるかに焦点が当てられてきた(Glidden 1979,松村・小川1983,Reichhart
&Bowkowski l978)。さらに,最近になって意味的処理の方略の訓練が行われている。対連合課 題においては従来から刺激項と反応項を関係させる言語的あるいは絵画的精緻化の方略訓練の研究 はなされていた(松村1984,Taylor&Turnure 1979)が, Engle&Nagle(1979)とGlidden&
Warner(1983)は自由再生課題において意味的な処理を要する方向づけ課題(orienting task)を用
い,効果をあげている。これは,精神薄弱児においてもCraik&Lockhart(1972)のいう深い水 準の処理を行い得ることを示唆している。しかし,こうした精神薄弱児における意味処理の方略の*茨城大学教育学部障害児教育学科Department of Education for the Handicapped, Faculty of
Education, Ibaraki University.**伊奈養護学校Ina Special School for Mentally Retarded Children.
効果については,否定的な研究結果もある(Borys 1978, Engle, Nagle,&Dick 1980, Glidden・
Bilsky, Mar, Judd,&Warner 1983)。
本研究は,意味的処理の方略の訓練効果を検討する前提として,精神薄弱児が言語的情報をどの
程度意味的に処理しているかを検討する。
言語材料のどのような属性が記憶されるかに関しては,健常児を対象としていくつか検討されて いる(Bach&Underwood 1970, Freund&Johnoson 197a豊田1983)。それらの研究によれば㌧
年齢の増加に伴って,感覚的属性(音韻的・形態的属性)が優位な段階から意味的属性(意味的・
連想的属性)が優位な段階へ移行することが明らかにされている。しかし,精神薄弱児に関しては 記憶属性の研究はされていない。本研究の目的は,精神薄弱児における記憶属性を従来の研究方法
(虚再認法)により,発達的に検討することである。
方 法
1)被験者 被験者は,茨城県内の養護学校に在籍している精神薄弱児54名と保育所に在籍して いる健常児36名である。精神薄弱児は顕著な言語,運動および情緒の各障害は示さない,いわゆる
生理型の精神薄弱児であるが,ダウン症も含まれている(13名)。また,精神薄弱児の知能指数につ
いては鈴木ビネーおよびWISCにより測定された。健常児については,標準的な精神発達を示す と推定されたものが選択された。精神薄弱児は精神年齢(MA)により3群に,健常児は生活年齢(CA)により2群に配分された。各群の内訳は, Table 1に示されている。
Table 1. CA, MA, and IQ of the sublects
CA MA
IQ
Group
N
Mean Range Mean Rang Mean Range MA 4
18 12:1
8:8−17:0 4:93:7−5:9
41.131−62 Retarded MA 6 18
15:10 10:7−19:2 6:76:1−7:2 43.5 36−66
MA 818 16:7
10:7−20:7 8:4 7:3−10:450.5 37−68
CA 4Normal CA 6
18 P8
4:10
U:34:9−5:1 T:9−6:9
2)刺激材料記銘試行と再認テストで用いられた記銘語(32語)と追加刺激の一部を,Tabl e 2に示す。記銘語と再認テストにおける意味的追加刺激については,まず類義語辞典から拾い出し た類義語の対のうち,保育所4歳児10名が理解できる語を選び,それぞれの対の一方を記銘謡他 方を意味的追加刺激とした。音韻的追加刺激は記銘語と1文字のみ異なる語であり,統制追加刺激 は記銘語と文字数のみ等しい語である。なお,意味的追加刺激と音韻的追加刺激の記銘語に対する 類似度を,大学生10名に5段階評定させ,類似度得点の低い語は除外した。再認リストは,豊田
(1983)と同様の手続きで作られた。記銘および再認リストの項目は,実験者の声によって(4秒 に1語の割合で)テープに録音され,呈示された。
Table 2. Samples of target words and the three types of distractor words.
Distractor words
NαTarget Semantic
Acoustic Control
1 kurumajid6sha
daruma mikan2 kizu
kega miZU kasa3 tsukue t百bule tsukune
onaka 4 miruku 一一№凾浮獅凾shiruku
yakan5 ie uchi
ikeashi
6 dδro michi
dowatokei
7 naifu h6chδ saifu
tabako 8 b6ru tama 9δru k6ra 9 0bake@ …
R2 isu
y{irei
@…
汲盾唐?奄汲≠汲
omake
@…
奄唐?
.
浮唐≠№戟
@…
狽唐浮高
3)手続き 実験の手続きは,豊田(1983)の聴覚呈示群と同様である。
結 果
各群の総虚認数および3種類の虚再認の数の平均を示したのが,Tabl e 3である。再認テスト において,意味的追加刺激,音韻的追加刺激,および統制追加刺激に対して, あった と反応し た者を,それぞれ意味的虚再認,音韻的虚再認,および統制虚再認とした。各群における虚再認数 について被験者タイプおよび年齢を被験者間要因,虚再認型を被験者内要因とする分散分析を行っ
た結果がTabl e 4である。 Table 4より明らかなように,すべての主効果が有意であった。
Table 3. Mean number of errors
Type
Total
Group
Semantic
Acoustic Control
MA 4
4.33 40.21 3.3931.44
3.0628.35
10.77(2.12) % (2.11) % (2.67) % (5.62)
MA 6
3.2844.69
2.22 30.31 1.8325.00
7.33 Retaded (1.93)% (1.98) % (2.00) % (4.44)
MA 8
2.83 51.52 1.61 29.30 1.06 19.18 5.50(2.00) % (1.73) % (1.50) % (4.51)
CA 4
2.78 54.95 1.44 28.57 0.83 16.48 5.06(2.01) % (1.38) % (1.25) % (3.92)
Normals
CA 6
2.50 60.01 1.06 25.32 0.61 14.674」7
(1.64) % (1、12) % (0.67) % (2.79)
Table 4. The analysis of variance of errors on each type of distractor
Source of variation SS df MS F
Between subjects 604 71
Subjects type(A) 118.51 1 11&51 18.00**
Ages(B) 2&16 1 2&16 4.28*
AB 9.79 1 9.79 1.48 error(between) 447.51 68 6.58
Within subjects 379.33 144
Type of distractor(C) 103.44 2 51.72 25.79**
AC 2.92 2 1.46 0.72
BC O.11 2 α05 0.02
ABC O.14 2 0.07 0.03 error(within) 272.70 136 2.00
**:P<.01,*:P〈.05
総虚再認数は4歳児においても6歳児においても精神薄弱児の方が健常児より有意に多かった
(t=3.31,df=34, P〈.Ol;t=2.4a df=34, P〈.01)。さらに,健常児においては年齢間の差が
認められないのに対して,精神薄弱児においては,MA 4歳児の方がMA 6歳児およびMA 8歳児より総虚再認数が多く(tニ1.91,df=34, Pく05;t=2.91, df=34, P〈.01), MA 6歳児とMA 8
歳児では有意な差が認められなかった。虚再認型については,精神薄弱MA 4歳児においては,各虚再認型間に有意な差は認められず,精神薄弱MA6歳児群では,意味的虚再認が統制的虚再認よ
り有意に多かった(t=2.13,df=34, P<.05)。精神薄弱MA 8歳児群では,意味的虚再認が音 韻的虚再認や統制虚再認より有意に多かった(t=1.90,df=34, P<.05;t=2.92, df=34, P〈.
01)。健常児においては,4歳児も6歳児も意味的虚再認が音韻的虚再認および統制虚再認より有
意に多かった(4歳児t=2.25,df=34, P<.05;t=3.38, df=34, P〈.01,6歳児t=2.99, df=
34,P〈.01;t=4,39, df=34, P〈.01)。
精神薄弱児について小学部,中学部,高等部別の虚再認数について比較したが,有意差は認めら
れなかった。
考 察
まず,健常児においては,総虚再認数の年齢差はみられなかった。記憶属性の発達的変化に関す る従来の結果(Bach&Underwood 1970, Freund&Johnson 1972,豊田1983)によれば,研究に よって学年に多少違いはみられるが,小学校低学年は感覚的属性が優位であり,6年生になると意 味的属性が優位になる。本研究の被験者は4歳と6歳であるので,両年齢とも感覚的属性が優位な 段階であると考えられるが,3種類の虚再認数をみると,意味的虚再認が音韻的虚再認および統制 的虚再認より有意に多かった。したがって本研究の被験者は従来の研究の被験者より低年齢である にもかかわらず,意味的属性が優位であると解釈することができる。この先行研究と本研究の結果 の不一致は何が原因であろうか。主として考えられるのは,学習材料の違いである。先行研究(豊 田(1983)では学習材料は1部しか記述されていない)のうち,Freund&Johnson(1972)と Bach&Underwood(1970)は,教科書から選択された名詞,動詞,および形容詞を含む40項目で
あり,その約50%の項目が形容詞と動詞である。それに対し,本研究の学習材料は,被験者が低年 齢ということもあり4歳児が理解できると思われる名詞が大部分を占める(約87.5%)32項目であ った。Bach&Vnderwood(1970)は,「子どもにとってなじみの薄い語は,意味をとらえること
ができないために音韻的属性が優位になる。.と述べている。本研究ではこの反対に非常になじみの
ある語ばかりであったため意味的属性が優位になったと考えられる。なお,Bach&Underwood
(1970)とFreund&Johnson(1972)が視覚的呈示法を用いたのに対し・本研究は被験者が低年齢で であったので聴覚的呈示法を用いた。この呈示法の違いによる影響は,豊田(1983)によれば,ほ
とんどないと考えられる。
精神薄弱児においては,総虚再認数に発達差がみられた。総虚再認数に占める3種類の虚再認数 の割合は4歳では差がなく,6歳で意味的虚再認が統制虚再認より多いが音韻的虚再認とは差がな
く,8歳で意味的虚再認が他の虚再認型より有意に多かった。Craik&Lockhart(1972)は.意 味的処理の度合が高いほど保持がずぐれることを指摘しており,精神薄弱児における総虚再認数の 発達差は,年齢とともに意味的属性が優位(意味的処理の度合が高い)になることによって説明さ
れるであろう。
また,4歳児と6歳児の比較において,健常児の方が精神薄弱児より再認成績がよかったのも健 常児において意味的属性が優位であったのに対し,精神薄弱児では優位でなかったことによると考
えられる。
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