植物標本・資料の整理
中 村 直 美
は じ め に
手持ちの資料・文献・データの整理に苦慮している方は多いのではないかと思うが,私もその一人である。
植物分類学関係の仕事では標本というものが非常に重要な資料であり,研究や調査の中で採集された標本は,
謄葉標本として台紙に貼られ標本室に納められるのが普通である。我が学究室でも標本室があり標本が納め られてはいるが,過去の標本を貼ることで手一杯で錯葉標太台帳までは手が回らないでいた。標本台帳を作 る必要性は以前から感じてはいるものの,いざ標本の山を目の前にしてみるとその作成にかかる莫大な時間 と労力を考えてしまい,一度に気力が失せてしまうというのがここ数年前までの現状である。金井(1978,
1979)小野(ユ979)によって標本データのファイル化・カード化が紹介されても人力も予算もない 中では,実行する元気はとても起こらなかった。ところが,最近のパソコンのめざましい普及とそれに伴う 各種のデータベースソフトの出回りによって,使い方によってはパソコンが人手不足を補う武器にもなり,
また,データの入力の手間はともかくとしてデータベースを作った後の利用メリットは高まるのではないか と思うようになった。
そこで,私は膿葉標本台帳と茨城県のフロラの基礎台帳を作成することを主目的としてデータのファイル 化を試みた。現在その仕事は進行中でありまだまだ改良しなければならない点が多いが,その概要を簡単に 紹介し,いろいろの方のご批判を仰ぎたいと思う。
データベース作成
1.dBASE㎜使用の理由
私のデータのファイル化の条件は,複雑なコンピュータの知識やプログラム開発を必要としないこと,お よび極力人手が少なくて出来ること,つまりデータの無駄をなくし最小限の手間で入力ができることであっ たので,最初からデータベースソフトで仕事を進めようと決めていた。データベースのソフトはなん種類か 発売されており,群来ならどれが一番使いがってが良いのか比較した上で選ぶのが良いのかも知れないが,
私の場合はたまたまdBASEMというソフー・を使って仕事をしている方が身近にいて,これを使わせて 戴いているうちに次の点が気に入り使用することにした。
1.プログラム・ファイルとデータは別々なのでデータ・ファイルさえ作成すれば,プログラムなしで データを登録することができる。
2.データの読み書き用のプログラムとデータとが1対1の関係で結ばれていないので1つのデータ・
ファイルを複数のプログラムで共用でき,重複したデータの修正も1度の手間ですむ。
3.データ・ファイルの構造変更が簡単にできる。
この1と2は,私のデータのファイル化の条件を満たしてくれるものであり,3の機能は私のように思考 錯誤で仕事を行う者にとっては力強い味方であると思えたからである。
小数
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B:SHIDA. dbf
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幅
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小数
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フィールド GENUS SPECIES SPECIES2 WAMEI
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幅 小数 16 30 4015 102
B.
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12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 合計
フィールド WAMEICODE CNIIK玉 S42S41 S43S44 S45 S46S47 S48S49 S50S51 S52 S53S54 S55 S56S57 S58
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フィールド CODEFAMILY
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B:SHIDA. dbf
23
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図1.データベースの構造
A.茨城フロラ台帳管理ファイル,B.茨城標本台帳管理ファイル
○で囲んだほうが元になるデータ。
2.茨城フロラの基礎潜函作り
このファイルを作る上でのデータは茨城県植物誌(鈴木ほか 1981)から取らせて戴いた。この本の 中では茨城県内を5つの大地域に分けて更にその申を市町村の行政単位分けに加えて主な山で分け全体で
124の小地域に分けている。dBASE皿の1レコードは最大i28ブイールド(項目)という制限があ ることと,入力の便利さを考えて,私はこのファイルを5つに分け大地域ごとに1ファイルを作った。現在 のところ,更にシダ植物,種子植物・離弁花,種子植物・合弁花,種子植物・単子葉の4つに分けファイル を作っている。
取られたフィールドは最初,科名(LFAMILY),学名(2.GENUS,3.SPECIES,4.SPESIE S2),和名(5.WAMEI),地域(6.CHIIKI,7…47,S1…S40)である。 CHIIKはフィー ルド幅6をもち,その内の前から5幅は大地域5つ順番に幅1を与え,このレコードの種がそれぞれの大地
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図2. 茨城フロラ!ファイルのリスト
連中の小地域一ケ所でも出現すれば1,しなければ0とし,大地域別の出現状態を5桁の数字で表した。ま た残り1幅は栽培,北限種,南限種,希少等の情報があればS,K,M, R等の記号を5桁の数字の後に付 けることとした。S1… とは124の小地域をS1〜S124まで記号化したもので,その種が出現す れば1,しなければ0で表した。
その後,同時進行中であった賭葉標本台帳作りとの関係から,学名と和名の対応表ともいうべきファイ ルと科の分類体系順にふられた番号(コード)と科名の対応表にあたるファイルを,元のファイルからリレ ーショナル操作の射影という機能を利用して作り上げた後,元のファイルは構造変更を行って図ユAのよう
な茨城フロラというファイルに作り直した。図1のSHIDAというファイルとGAKUMEIというフ ァイルは,金井(1983)がいうところのシーソーラスにあたる。
図2は茨城フロラのLISTを打ち出したものである。また図3AはGAKUMEIファイルのLIST を打ち出したもので,図3BはINDEXコマンドを使い元のリストを学名のアルファベット順に並び替え たもので,図3Cは和名にINDEXをかけアイウエオ順にリストを打ち出したものである。 INDEXと いうコマンドを使えば並べ替えはいとも簡単に間違いなく出来ることになる。ここでは,図3のB,Cでは 打ち出される順番が替えられ,打ち出された項目の数が少なくなっていることにも注意して欲しい。新
しいファイルを作りださずとも,必要なデータを取り出すこと力河能なのである。
図4は吾国山(S52)と難場山(S53)それぞれに産するシダの数をCOUNTコマンドを使って数 え,さらに両方共通に産するシダ数を数え,種名を打ち出したものである。COUNTコマンドを使っての 共通種の検索は数え間違いなどの心配がないので安心である。小地域ごとの検索とそのリストはそのままで それぞれの地域のチェックリストとして使うことが出来るし,REPORTコマンドを使用すれば更に体栽 の整った印刷物とすることも可能である。
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WA麺EI
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オ寸サトメシター カラクサイヌワラヒー キヨタキシター
SPECIES
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inundatum Maxim.
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arvense Linn.
hyemale Linn.
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GENVS Acystopteris Adianturn Ad圭antum Asplenium Asplenium Asplenium
Asp夏eniur旨 Asp董3甫u隙 Asplenium Athyriu吊 Athyrium Athyr量u飢 Athyriu冊
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SPECIES japonica Nakai pedatum Linn.
monechlamys Eaton varians WalL
pseudo−wiifordll Tagawa sareHi Hoek
incisum 丁hunb,
nermale Don kobayashll Tagawa niponicum Hance.
田Ultifidu胃I Ros.
c王三v圭cola T議9awa s爆uamigerum Ohw筆
SPECIES polyblepharum Pr.
mak満no塁 Copel.
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complanatuTp Linn.
disptar Kunze
erenulatoserru1ata Nakai or蓋ent盈lis Trev,
hirsuta Mett.
palustre Linn.
ramosisslmum Dest.
niponicum Hance.
pelyblepharum Pr.
WAMEI
ヒカケ臨ノカスラ ア又ヒカズラ スギラン ヤチスギうン マンネンスキ、
承ソバ駄トウケ、シハ、
ヒ9ハノトウケシバ.
クラマコ.ケ イワヒバ ミス、ニラ スギナ トクサ イヌスキ噛ナ イヌドクサ ナカ.承ノナツハナワラヒ、
ナツノハナワラヒ、
オオハナワうヒs
図3.GAKUMEIファイルのリスト
A。入力順による打ち出し,B.学名をアルファベット順に並べ替えたもの C。和名をアイウエオ順に並べ替えたもの
3.謄葉標本台帳作り
最初,フィールドとしては学名,和名,採集地,採集年月日,採集者,標本番号の六つしか考えなかった のであるが,見知らぬ土地の地名から場所を規定することの困難さと分布図を作成するときの利用を考慮し て,後から緯度経度を加えた。更に,金井の謹の仕事(1972,!976,1979,1981)を参考に地名と 緯度経度のシーソーラスを別ファイル(CH:IMEI)として用意した。更に,先に述べたようにSH:IDAと
GAKUMEIというファイルが用意されたが,これは茨城県フロラの基礎台帳と謄葉標本台帳の両方で共通 に利用されるファイルである。元のファイルは構造が変えられ図lBに示すような4つのファイルを利用し 整理が行われている。茨城というファイルに学名および緯度経度を書き込むのは,JOINコマンドを使っ て2つのファイルを繋ぐことによって行っている。基本的にはシーンラスとなるCHIME王,SHIDA,
GAKUMEIというファイルにデータがはいらなければ,茨城というファイルにはデータがはいらな いようになっている。図5Aは茨城ファイルをコナスビの産地という条件を付けて検.索し和名と産地のみを 打ち出させたもので,図5Bは上記のうち茨城県産という条件を更に加えて検索し,同様に打ち出させたも
count for s52= 1 83レコード counし for S53=鱒1圏 32レコード
e一.ount. for S52= 1 ,and,S53= 1 26レコ・一・・ド
L list wamei for S52= 1 ,and.S53= 1
レコード warnei
15 28 33 41 47 70 71 91 98 101 114 121 130 131
イワイタチシタ●
ウ5ジロ
才才イタチシタ,
オオハーノイノモトソウ 才クマワうヒ ケ シーケ シ,シク,
コウヤコケシノブ.
シケシダ シ.ユウモンシーシタ セィタカシケシ∫グ ナブブホノナツハナワうヒ ノキシノア ハリカゆネワうヒ ヒカケ.ノカス う
● ●
茨城フロラユファイルを使ってのカウントと検索 図4
USE茨城
LIST WAMEI,県名一市町村名一地名fOR WAMEI。・ttthxヒ・一,、
レコードW醐EI,県名一市町村名一地名
1
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
コナスヒ コナスヒ コナスヒ コナスヒ コナスピ コナスビ コナスヒ コナスヒ コナスビ コナスヒ コナスピ コナスヒ コナスヒ コナスヒ コナスビ
鹿児島県大隅半島花瀬 鹿児島県大隅半島花瀬 福島県会津駒ケ岳 福岡県福岡市背・振山 福鵬県桧枝岐 茨城県花瓶藤 壷城西西金砂山 千下県清澄山
新潟県北魚沼郡守門村守門岳 茨城県鶏足山
茨城県筑波由
茨城県水戸市茨城大学 茨城県加波山
茨城累御前山
福島娯いわき市小川町背戸峨廊
A
LIST WAMEI,県名一市町村名一地名fOR WAME五= ttナスビ ・AND・県名ゴ茨by レコードWAMEI,禦名一市町村名一地名
6 7 10 11 12 13 14 16 18 19 24 25 2933
コナスヒ コナスヒ コナスヒH コナスヒ コナスヒー コナスヒ コナスピ コナスビ コナスヒH コナスヒ コナスヒ コナスヒ コナスヒ コナスic 一
茨城県花瓶山 茨城県西金砂山 茨城県鶏足出 茨城鍛筑波山
茨城県水戸市茨城大学 茨城娯加波山
茨城県御前山
茨城県那珂郡美和村鷲の子山 茨城県難台山
茨城県勝田市足崎
茨城県久慈郡金砂郷村西金砂山 茨城県笠闘町佐白,山
茨城県水戸市堀町
茨城県水戸市全隈森林公園 図5.茨城フロラ1ファイルでのコナスビの検索
A.全地域のリスト,B.茨城県のみのリスト
齢
E)Rjト1し}LA().Etf{E
L:rsirnachi.a japonica 1 hunb.
福島県会津駒ケ岳 1963/7/26 中村直美
}.)RIMVLAC.EAE L: s imaeh i. a
禰島県桧枝岐
1982/ 1. 0/30
中村直美 NO.5
japonl.ca Thunb,
PRIMULACEAE
Lysimaehia japoRiea Thunb.
茨城県西金砂山 1960/5/4 NO.7浅川敏男
PRIMULACEAE
Lysimachia japoni.ca Thunb.
薪潟県北魚沼郡守門村守門岳 1965/7/24
鴨志田洋子 NO.9
P}宅.lNUI.,ACEAE
kysimaehia 」aponica Thunb.
汢ェ県福岡市背振山
P986/10/11
?村直美NO,4
PRI凹ULACEAE
kysimaeh宝a Japonica Thunb。
?城県花瓶由1975/6/15
ト藤勝彦NO.6
PRI卜IUI。ACEAε
kysimachia japonlca Thunb.
逞t県清澄山
P959/6/4 g, kirihara
mO.8
PRi卜1ULAC£AE
@Lygi、maehia japon■ca Thunb.
?城県鶏足山
@1971/6/13
@NO.10ャ倉洋志
図6.茨城ファイルを使って作られたラベル
のである。図6は茨城標本データファイルを使い,このソフトのLABELコマンドによって打ち出された 標本のラベルである。今まででも標本を作成する時には必ずラベルを付けなければならなかったので,台帳
に標本が登録されればそのデータを使用してラベルが打ち出せるとなれば,以前と同じ労力で標本台帳とラ ベルができることになり仕事の能率化は間違いなくできる訳である。
整理の仕方としても,標本番号順に入力する必要もなく,ある程度大きい標本番号を新しい標本に打って おけば同じファイルへの入力が可能である。それぞれのデータを小分けして別のファイルに入れ,それぞれ のファイルデータをAPPEND FROMコマンドで繋ぎ一つのファイルとするのが一番能率的であろう。
勿論,人手があるのなら同時進行でデータの入力を行い次々とファイルを繋いでゆければ一番能率的である のは言うまでもない。
お わ り に
これまでの仕事は,個々のデータをデータファイルに登録するだけの仕事で,なるべく手間をかけず,共 通のデータは一度の入力ですましたいと願っては見たものの,ソフト自体を使いこなせていないため無駄な ことを随分としていたように思う。コマンド操作による表示や検索などは,使い慣れた人にとっては何ら当 たり前の機能を紹介したにすぎないのかも知れない。しかしながら,データ入力の手間はともかくとして資 料整理にかかる時間の短縮とデータの多方面への利用の可能性をみいだせたことは,大きな収穫である。今 後は今まで作られたファイルを生かして茨城フロラの台帳および標本台帳がうまく管理できるようなプログ
ラムを作ることと,共有することの多いデータをうまく関係づけて分類学関係のデータを整理してゆきたい。
謝 辞
dBASEMを使う切っ掛けを与えてくださった,茨城大学教育学部の小野義隆博士にお礼申し上げる。
更に,データを快く利用させてくださった茨城県植物誌の著者各氏に感謝する。
小野幹雄. 1979.
金井弘夫. 1972。
金井弘夫.
金井弘夫.
金井弘夫。
金井弘夫.
197 6.
197 8.
1979.
1979.
金井弘夫. 1981.
金井弘夫。 1983.
鈴木昌友・清水修・安見珠子・安昌美・藤田弘道・中崎保洋・和田尚幸・野口達也。
引 用 文 献
都立大学牧野標本館における標本カードシステム。日本植物分類学会会報,4,
6一 8.
E]本植物の分布型の研究(3)産地の表示法について。植物研究雑誌,47,
2 i5 一一221.
分布図の自動作図。日本生物地理学会会報,31,33−40.
分類学的情報処理のためのデータカード。北陸の植物,25,77−82.
標本データのファイル化.日本植物分類学会会報,4,3−6.
地図および分布図作図プログラムKL王PS2操作法.国立科学博物館研究報告B
(植物学),5,87−96.
日本地名索引(上,下)。635+1566pp.,アボック社.
長野県フロラ作製資料の電算機処理長野県植物研究会誌,16,1 ・一 7.
1981.茨城県植物誌.
339pp.,茨城県植物誌刊行会.