茨城大学教育学部教育研究所紀要17号(1985)65−76 65
社会科授業改造の試み(1)
一小学校三年の「地図学習」を中心として_
片 上 宗 二 。 西 田 裕菅・ 中 嶋 浩 一罧
(1984年11月5日受理)
1.は じ め に
今日の教育現場で最も強い影響力をもっている社会科の授業論は,いわゆる「問題解決型」の社会科 授業論1⊃であろう。この社会科授業論とは,ごく単純には,子どもに学習問題を把握させ,予想を立て
させ,追究させ,確かめさせてまとめさせていく形に,社会科の授業を組み立てるべきだ,という論で
ある。
ところでこれまで,わが国の社会科教育の分野においては,社会科の目的や性格あるいは社会認識の 育成の仕方等々をめぐって,鋭い対立や論争がなされてきたllそして現在もなされているのが実情であ
る。しかし,社会科の授業の組み立て方や進め方に関しては,「問題解決型」の社会科授業論という方 向で,ほぼ基本的な一致が見られるように思われる。社会科の授業を事実提示型や詰め込み型から解放
し,子どもの追究力を育てていくためには,社会科の授業を「問題解決型」に組み立て,進めることが 必要だ,と考えられているのである。
しかし, 「問題解決型」の社会科授業論には,実は大変な問題が孕まれている,というのが私たちの 立場である。本稿は,今日の社会科授業を改造するためには, 「問題解決型」の社会科授業論にかわる 新しい社会科授業論が求められているという立場に文ち,その立場から実験的に試みられた社会科授業 の姿を,限られた紙数内ではあるが,できるだけ具体的に示すことを目的としている。なお,実験授業
o ■
の結果の考察や,一般的になされている授業との比較等々については,紙数の関係で次号に譲ることに
したい。
2. 「問題解決型」の社会科授業論の問題点
「問題解決型」の社会科授業論の問題点は,子どもを社会科の授業で落ちこぼしてしまう危険性を宿 す,一種のエリート授業論になりかねない,という点にある。というのも,この授業論に立つと,社会 科の授業が問題解決型つまりは問いかけ主導型に組み立てられ,しかも「わかる」終わり方,つまりは 一種のクローズドエンドになる傾向が強くなるからである。
社会科が好きな子どもやできる子どもにとっては,なぜだろう?どのようになっているのだろう?と いう風に学習対象に問いかけさせ,その問い=問題を追究させ,解決させていく形に授業を構成した方 がいいかもしれない。しかし,社会科がいやでいやでたまらない子どもや学習意欲そのものが衰退して しまっている子どもにとっては,どうであろうか。むしろ,授業の導入段階で子どもをゆさぶって学習 問題を把握させようとしたり,問題の解決に向けて子どもを追い立てていったりするような授業ではな
菅鹿島郡大野村立大同東小学校 苦苦東茨城郡常北町立小松小学校
くて,学習の対象を子どもが柔らかく受容でき,そこから少しずつでも追究していけるような,そのよ うな社会科授業の方が望ましいであろう。しかも,多くの調査が示しているように,今日,社会科嫌い の子どもはきわめて高いパーセンテージを占めている。問いかけ主導型の社会科授業は,いうなれば対 象受容型の社会科授業に転換される必要があるのである。
社会科嫌いの子どもやできない子どもも学習対象を柔らかく受容でき,徐々にその追究を深めていけ るような対象受容型の社会科授業が,今こそ求められている。これが私たちの一方の立場である。そし て,もう一方の立場は,社会科の授業をわからないところ(疑問や問題)から出発させて,わかる形
(問題解決)で終わらせる,閉ざされた終わり方,つまりはクローズエンドに授業を組み立てるのでは なく,その逆に,子どもがわかるところから授業を出発させ,徐々にわかることとわからないこととを
■ ● ● ■ ● ● ■
はっきりさせ,最後により深いわからなさを残すような開かれた終わり方,つまりはオープンエンドに 授業を組み立てる方が望ましいのではないか,という立場である。したがって,問いかけ主導型でクロ 一ズドエンド志向の社会科授業を,対象受容型でオープンエンド志向の社会科授業へと転換すること,
これが私たちの主張なのである。
3.対象受容型でオープンエンド志向型に社会科授業を組み立てるための基本条件
対象受容型でオープンエンド志向型に社会科の授業を組み立てるためには,思考の往復運動論と成長 型の知識論が必要である。紙数の制約もあり,また他の場所で詳しく論じているので?ここでは軽く触 れるに留めるが,思考の往復運動論とは,子どもの思考を問題から解決へというワンウェイの形で考え るのではなく,むしろ彼らの思考を,学習対象との間に展開されるさまざまな往復運動という形で考え る,という論である。また成長型の知識論とは,子どもの外に存在する質の高い知識を彼らに主体的に 発見ないしは獲得させてやるべきだという知識論ではなくて,むしろ,彼らの中にある,あるいは彼ら
が容易に手に入れることができる知識から出発して徐々にそれらを成長させてやるべきだ,という論である。
ところで,このような思考論と知識論とに基づいた対象受容型でオープンエンド志向型の社会科の授 業が,最も効果を発揮するのは,学年最初の単元の場合と,子どもに高い思考力が要求される単元の場 合であろう。そしてこの二つの条件に最もよく合うのが,小学校段階では,三年生の『わたしたちの○
○市(町,村)』の単元であると考えられる。この単元は,三年生にとって最初の大単元であるはかり でなく,彼らにとってはきわあて高度の抽象力を必要とする本格的な地図学習の開始が,その主な内容 になっているからである。子どもは,方位や縮尺や地図記号を身につけ,地域を平面地図に表現するこ とが要求されてくる。それゆえ,学習の対象は身近な地域であっても,落ちこぼれてしまったり,地図 嫌いとなってしまう子どもも少なくない。ところが,私たらの調べた限りでは,この単元については,
すぐれた先行研究も乏しく,また参考とすべき本格的な実践報告も少ない4)のである。
本稿は,およそ以上のような問題意識から,私たちの考える社会科授業論がどれほどの有効性をもつ ものかを検討する意味もこめて,小学校三年のこの単元を取り上げ,本格的な地図学習の導入をどうす るか,という観点から単元を構成し直して,実験授業に取り組んでみた。
4.実験授業の概要
実験授業は,鹿島郡大野村立大同東小学校の西田裕のクラスと,東茨城郡常北町立小松小学校の中嶋 浩一のクラスを使って行った。この両クラスを使った理由は,相互に地形の異なる地域である点と,子
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どもが作成した大きな地図を相互に交換し合って学習をオープンエンド化する場合の有効性等々を考えての ことである。なお両クラスとも,単元構成の基本は同一で,それは次のようであるが,子どもの実態等々を考 え授業化しやすいようにそれぞれのクラスで若干の変更がなされている。なおこの単元構成で思考の往復運 動論や成長型の知識論がどのように生かされているか,等々については紙数の関係で次号に譲りたい。
『わたしたちの大野村(常北町)』の単元構成
一地図学習を中心とした
第1時 通学路の地図を書こう (通学路を説明し,書いてみる。)
第一 第2時誰れの地図がよくかけているかな(襲憲贈離鰍黛けているもの)
次 第3時 学区の地図を作ろう 皆んなの通学路の地図を合体(ドッキング)
学区
させて一枚の地図につくりあげる方法を考え,第4時 学区の地図を作ろう 合体させてみる。
の地図を作ろ 第5時合体させて作つた地図を鮒るに1ま(灘rつた地図との比襯場を歩く)第6時 地図をもって学区を歩き,比べてみよう第7時 地図をもって学区を歩き,比べてみよう第8時 地図をもって学区を歩き,比べてみよう
う 第9時 学区の地図を完成させよう (わかったことや修正するところを書き込む。)
第10時 学区の形を予想する (方位と距離を考えながらハサミで切り取ってみる。)
第二 第1時 村(町)全体の地図を作ろう (村(町)全体の地図を作るにはどうしたらよいか。)
次 第2時村(町)全体の様子を学区地図から予想する耀襲響せ村(町)の地)
村(町)全体
第3時 各グループごとに村(町)全体の地図を作ろう (放課後も利用して。)第4時 各グループごとに村(町)全体の地図を作ろう
謔T時 バスによる村(町)めぐり 謔U時 バスによる村(町)めぐり
の地図 第7時 バスによる村(町)めぐり
謔W時 村(町)全体の地図を完成させよう
を作ろ 第9時村(町)全体の形と自分の家(錫在謙議ビサミで切り取る・自分)
う 第10時 常北町(大野村)の友だちに地図を送り,手紙を書こう。
第 作成した村(町)全体の地図を教室の壁面に貼りつけ,いつでも修正,あるいは精密化できるよ
三次 うに一年間残しておく。なおこの第三次では,両学校で立てている指導計画から抜け落ちた部分 簡単にフォローする。
5.授業の実際(大同東小学校の場合)
1)第一次の授業(学区の地図を作ろう)の概略
子どもにとって一番身近な毎日往復している通学路から入る。まず誰もが参加しやすいように,話さ
せてみる。多くの子が喜んで発表するが,まだ,「道を曲がっご」とか「うちがあって」とか目印が少 ない。そこで,みんながよく知っているもの(国道,山,商店等)を目印に話させ,それを,紙に書か せてみた。道路しか書けない子もおり,よく見てくることが次時の課題となる。
第2時では通学路の地図を学区の地図に近づけるため,各地区(各通学コース)からよく書けている ものを選ばせ,その理由を考えさせた上で,「1枚の学区の地図にまとめたいが,どうしたらいいか」
という課題を与えてみた。子どもたちは,ちょっと考えていたが,「道と道を重ねて作る」「くっっけ てでかい紙に書く」等とドッキング(合体)の方向が子どもの側から出されてきた。そこで,いよいよ ドッキングすることになり,教室の中央へ机を合わせて,それを取り囲みドッキングが始まった。この 段階では無論,縮尺,距離,方位等の考えがほとんど働いていないため,道路は合わず,学校がいくつ
もできて,各地区の位置がでたらめになって,どうしてもドッキングできない。どうしてできない,ど うしたらうまくドッキングできるかと少し話し合ってみると,みんなの書いた道の幅が違う,学校がい くつもできて,各地区の位置がでたらめになって,どうしてもドッキングできない。どうしてできない,
・ ● ● ●
どうしたらうまくドッキングできるのかと少し話し合ってみると,みんなの書いた道の幅が違う,学校
● ● ● ● ● ●
ェたくさんある,などといくつかその理由が出てきた。そこでこれを次時の課題として考えることにし,
第2時を終えた。(授業の終わりに次時の課題をはっきり示しておくと,意欲づけになる。その場合必ず,
子どもが考えたりやってきたことを,どんどん出す場を設け,さらに意欲づけをはかっていきたい。)
これを受けて第3時では,うまくドッキングできないわ けについて話し合い,1つ1つを板書していく。ここで,
○ 教科書を参考にさせる。(方位などについて書いてあるペー ( で
ジを大体指示する。)副読本については,村全体の地図がの 。教 。。 。 きな っているので,もう少し使用しないことにする。方位につ 方科 道道 学 なぜ
ェ書 がの 中 校 いう
いては,子どもたちから出てこなかったが,ドッキングし くか あ太 ←が のま
.た時,各地区の位置が学校から見ておかしかったという子 ェいたので.そこで,図を使って四方位について教えた。
ら わさ い だく) なが 心 つ ろド
@ いい ζま う ツ
地図では,紙の上を北にするという約束についても確認さ ろ い ゜キ せる。自分の家(通学路)が学校から見てどの方位にあた い あ ン
、 る グ るか,多くの子に聞いてみたが,ほとんどの子が,はっき
りと答えている。
● ● ■ ●
次に,クラス内を通学路別に東,西,南,北に分け,そ
■ ● ● ● ■
れそれの部分の地図を作ることになった。その際,学校を 起(基)点にし,大よその距離を考えながら作ることを確
認する。その時間内では終わらず,昼休みなども,がんばってかいていた。
次の時間は,いよいよドッキングということになって,子どもの活動もとても活発だった。そこでこ の第4時を少し詳しく書いてみたい。
授 業 の 概 要
学習活動 ・内容 留 意 点 1.各グループごとに地図を完成させる
2. ドッキングさせてみよう
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学習活動 ・内容 留 意 点
。 もしうまくいかない時 。 うまくドッキングしない時は,ドッキングの
↓ 仕方の問題に気づかせる。(海や国道などつなが
なぜか(その理由を考えてみよう) りやすいものを,まず二つつなぐ。それから一
↓ つずっつないでいく。)
つながりやすいもの(国道,海岸線など)
をまずっなげよう
。 もう一度ドッキングしてみよう 。 子どもと話し合ったり,教師がアドバイスを 与えながら,地図に書き加えたり,修正してい
く。(赤鉛筆で)
。 抜けている所がある ・ 東西南北では不十分。八方位の必要性が出て
↓ きたらそこで取り上げ,指導する。
匝]が必要だ
3.完成した喜びを味わう 。 一枚の学区の完成した喜びを全員で味わいた い。努力した点を見つけ,ほめるようにする。
。 うまくドッキングしたわけについても確認
する。
4.次時の学習内容を知る。
。 先生もがんばって地図を書いてくるので,
それと比べてみよう。
授業の記録(の一部)
・展開2の後半(4枚の地図をくっつけて,確かめている時)
T さあ,今度はどうだろう。うまくドッキングできたようだね。どうですか,よく見てみよう。
P 先生,天長井戸地区がないよ。 P ぼくの家がない。 P ぼくの家も。
T あれ,本当だ。どうしようか。
P この辺を書き直して小さくすれば書けるよ。P やだよ。せっか 北 く書いたのに。 P どうしようか。 P ここへ,紙を入れて書
けばいいじゃないの。 P そうだ,そうしょう。(しばらく作業し てから) P こっちも紙を入れればいいね。(その他も同様にやり,
西 東
道路を延長し全員の子の家が書けて,1枚の長方形の地図ができ上 文
がった。)
:
一展開の最後の所(完成した喜びを話し合ったあと)一 : 南
F T なんでうまくドッキングできたんだろうね。
@ P 学校を1つにしたから。 P 学校を中心にした。 P 道を合
L 鱒ヌ(天長井戸地区)
わせた。 P こまかくかいていったから。
T そうだね。とってもむずかしく大変だったけど,みんながやったように,地図を書く時は,中心にするものをし っかりと決めて,それから道の大体の幅や,長さ,それに北とか南とかの方向に気をつけることがとても大事です。
授業が終わって
学校を起点(基点)にし,大きな道を合わせたので今度はうまくドッキングできると思ったが,まだ うまくいかない所がある。特にもとにした道路から延長していった道路等が,距離方向等が少しあいま
いのためうまくいかない。そこで教師も入り,色鉛筆で修正しながらうまくつなげていった。その活動 の中で,子どもは,道路の長さ(距離),方向などに自然に注目していった。
また,4枚の地図をドッキングして,四隅がぬけていることから,四方位だけでは不十分だというこ とで,八方位を指導する。学校から見て自分の家はどの方位にあるか,いろいろな子に言わせてみたが,
八方位という言葉は言いづらいものの,考えながらその概念はよく言えていたようだ。
次の第5時には,でき上がった子どもの地図と教師が作成してきた地図とを比較して話し合った。子 どものものに比べ教師作成のものは,模造紙1枚大のものなので(子どものものはその数倍の大きさになる)
初め大きさの違いにとまどいを感じたものの,その比較の中から,地図は拡大しても縮小しても形は変 わらないということに,少しずつ気づいていった。
両者の比較から出てきた問題を確かめるのにどうするか,実際に歩いて調べてみようということにな り,ここで,この大きな地図を持っていけないので,手に持って歩けるように縮小図を作る予定であっ
● ● ● o ● o o o
たが,子どもの実態から,それをやめ,教師が印刷した地図を持って,各グループごとに見てくる観点 を話し合い,そこへ記入することにした。
第6・7時を,「地図をもって学区を歩き,調べよう」の活動にあてたが,学区全体は歩けないので東の 方の一部を歩くことにした。実際は作った地図の確かめというより,地図の読み取りになってしまった が,地図作りの中で,地図に親しみを感じたのか,細い道路が多数交差している所であるが,歩くコー ス通りに,よく読み取っていた。友だちどうしで考えあったり,教師に度々たずねてきて,とても楽し んで学習できた。地図に書きこんだ主なものは土地利用(田,畑,山林)道路の様子,家が集まってい る所等であった。
次の第8時では,見てきて分かったことを話し合い,各自の地図へ記入した。ここで,塗る色につい て約束を決める。教科書を参考にして,田,畑,集落,山林の色を決め,まず自分の地図を仕上げる。
地図記号について,この辺でその必要性に気づかせていきたかったが,(建物を絵でかいていると,道路
● o
、からはみ出してしまう。→どうしよう→記号を使ったらどうか)大きな施設がなく,もう少し様子を見 てみることにする。その後,みんなで分担しドッキングした大きな地図に同様に書きこむことにした。
なかなか大変な作業であったが,休み時間も利用し,多くの子どもたちが,いろいろ話し合いながら,
よくやっていた。
● ● ■ ● ● ■ ●
これで,学区の地図が,子どもの力でついに完成した。初め,自分の通学路を書くことから入り,途 中だいぶ苦労したこともあったが,大きな着色した地図を前にして,子どもたちも,さすがにうれしそ
うであった。
最後の第9時では,学区全体の形をつかませるため,学区は全体としてどんな形になっているか予想 させてみた。その際,東西,南北の距離を教え,予想させる手だてとさせた。赤で印をつけさせてみる と,山林の部分がはっきりしなかったものの,形はほとんどの子が「長しかく,長方形」と答えること ができた。さらに,ハサミで切ってみて,彼らの予想が正しかったことを確認する。(子どもが作成した ものは,模造紙数枚分の大きさなので,ハサミで切る作業は教師作成のもので代行させた。)最後に,自 分の家の位置,学校からの方位,土地の様子,道路などを確認して,第一次の授業を終えた。
2)第二次の授業(村全体の地図を作る)の実態
子どもは,第一次で,学区全体の地図を作りあげた。これまでの学習によって,地図に対する興味,
関心は高まり,地図作りの楽しさ,また難しさも経験してきた。
そこで,さらに今までの学習をもとにしてより広い地域を捉えてみようということで,村全体の地図
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を作る学習に取りかかった・(本村の胎4つの学区な呪これで村の姻のおよそ÷ができたこと
になる。)
● ● ●
ワず,村全体の地図を作るにはどうしたら良いかというねらいで,入ってみた。授業の記録のあらま
●しを示してみよう。
授業の記録
T だいぶ時間がかかったけれど,みんなで学区の地図をとうとう作り上げて,きのうでそれをまとめたわけです。
このあとどうしようかな。
P 学区の地図おわっちやったのか。今度はどこまでも見に行く。
T あれだけりっぱに作ったんだから,今度はね,大野村の地図を作ってみないか。
P え〜。 P やってみよう,やってみよう。 P 今度鹿島郡,その次茨城県,その次関東地方,その次 日本,その次地球,その次宇宙・…㌔
T あ〜澄もしろいなあ。それじゃあ最後に宇宙に行くようにがんばって。
T じゃあ,学区の地図作る時,だいぶ苦労したり,楽しいこともあったけど,さて,大野村の地図をどうやって 作ろうか。
P はい。あの学区の地図と今度の大野村の地図をつなげたら。
T つなげるね。1つでました。
P 学区の地図をま中に訟いて,あと大洋村とか。 P 大野村だよ。大洋村は書かなくていいんだよ。
T ハハハア。どうなんだそこ。
P 大野村の違う所をもっとつなげた方がいい。
T はい,康良君は。
P よその3つの小学校の人に自分の学区を書いてもらって,あとどどこかの学校の体育館でつなげればいい
と思います。
T あ一むこうの分はむこうの人に書いてもらって,なんだかいい考えだけど……
P 手紙出すほかないよ。
T おもしろい考えだね。何もしなくていいし。でも,みんなも書いてみようよ。
T 千春さんは,どうですか。
P 知っている人が書いた方がいいと思います。 P 大野村のどっか海水浴とかに行く時,知らない所をよ く見てくるのがいいと思います。
T よく見てきた方がいいということね。作るのにね。いい考え出してくれました。
P となりの学区に近い人がそこのところを書けばいい。 P 北の方の大野村を知っている人ならそこを書 いて,西の方も知っている所があったらその人がそこを書いたらいいと思います。
T なるほどな。他の人はどうですか。
P 1人1人が自分の知っている所まで書いて,それを全部つなげていったらできると思います。 P 大野 村の地図を写して書けばいい。 P あのぼくは,あっちの方は少し知っているから。(北浦の方のことを言
っている。)
T よく知っているね。
P 少し思い出して言うと,北浦の方には田んぼがたくさんあって。
T なるほどね。
P 先生が書いて,それを合わせればいいと思います。 P そしたら何もやることないよ。
T はい,正利君
P 知らない所は澄父さんやお母さんに聞いて書いた方がいいと思います。
T はい。聞いてね。大事な考えだね。
P 国道を先書いちゃって。お店があるところから道をどんどん書いていっちゃう。
T え一いろいろいい考えを出してくれました。さっき,康良君に先生が地図を書けばいいって言われたから,書
いてきました(模造紙を黒板にはる)っていいたいけど,バッハッハッ。この紙,大野村の大きさにしようか。
P え一それで。
T みんなからいろいろ出たけど,できるもので書いてみよう。
丁 初めの頃,どんなものが出たっけ。文洋君?
P なんだっけ。
T あ,思い出した。学区の地図をうまく使ってみようかっていったんだよね。
P そうだ,そうだ。ぼくも言ったよ。
T 他の学校に書いてもらうってのも出てるけど。
P でも,お・もしろくない。
T おもしろくないか,書いてみようよ。ここまできたんだから。
P 自分らの力で T なあるほど
P 協力して。
T これなんだろう。(学区の縮小図をはる)
P 地図 P ちっちやいなあ。
T ずいぶんいろんな大きさの地図作ったねえ,これをうまく使ってできるかな。
P できる。 P できない。 P そこの小さい紙を,でかい紙にはりつければいいと思います。
P おれと同じだ。
T そうすると,これをいれて。
P はじっこにはりつけちゃう。
T そして
P 道をつなげていく。 P はじっこにおけばいいじゃない。 P なんで。だって学区が2つになっちや う。 P 違う違う。はじっこにつける。 P 学区は全部で4つあるんだよ。
T はい,それではいろいろみんなの考えを出してくれて,これからの勉強のやり方が決まってきたようです。じ やこの次の時間から,これをもとにもう少し詳しく考えていきたいと思います。
授業を終えて
(子どもの発表(つぶやきも含む)を聞いているとよく考えているもの,その場に合わせたもの,ぱ っと発したものといろいろあるが,よく聞いていると,なかなか意味深いもの,とても大事なものがあ る。それをうまく取り上げて,つっこみがさらに深まればすばらしいと思う。)
これを受けて第2時では,大野村の大体の様子を,学区の地図を拡げて予想させてみた。まず,学区 が村のどの辺に位置するかを話し合い,道路やさらに田畑,山林の拡がりを学区の地図の学習をもとに予 想させてみる。今までの学習を根拠にし,ワンステップ進むとても大事な段階である。大体の予想がで
きたら,グループに分かれ,村全体の予想図を作成する。これが第3時にあたるが,グループ毎による 大野村の予想地図づくりのこの活動も,休み時間,放課後を利用して,何人もの子が意欲的に行なって
いた。
地図(予想図)ができ上がったら検証に入る。第4時では,各グループごとの地図を比較し,話し合 いながら一番よく書けているものを選び,果たしてこの通りか,実際はどうなっているか,確かめる方 法は,ということで,本物の地図を見る,家の人に聞くなどの考えが出たが,自分の目で確かめてみよ うというわけで,バスによる村めぐりの計画を立てた。そこでバス見学の1人1人の目当てが,はっき
● ● ● ● ●
り出された。その際,この地図ではとても持っていくのに不便なので,代表の者が放課後残り,地図を 縮小し,手軽な大きさに作成した。そして,その中の一番よく書けているものをプリントして各個人に 渡した。
@ 一
ず
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第5時から第7時は,バスによる村めぐりである。子どもたちは,この縮小図を下敷にしっかりと固 定し.筆記用具を持ってバスによる村めぐりを始めた。すぐ近くに農協,中学校,役場など大きな施設 が並んでおり,メモが忙しい。周りの山林,畑,集落を一生懸命メモしている。この辺までは,地図と あっており,書き込みもしやすい。北浦に近づき.田が多くなった。道路の右(台地)左(田)の土地 ■ o フ違いに注目している。学校からだいぶ離れたころ,地図もずい分違ってきた。色鉛筆などで修正して
いるが,なかなかむずかしく,限度があるようだ。途中,特色のある場所で何度かバスを降り,話し合 ったり,説明したりした。
1回では,無理な面もあるが,土地利用,道路の様子,集落など大体の様子がつかめたようだ。
第8時では,見学してきたことの整理に入る。色鉛筆で色分けし,いくつか修正を加える。地図記号 を,ここで取り上げてみる。役場,消防署,中学校など5つの大きな施設が入りくんでいる場所を書く
● ■ ● o ●
フで書きにくい。きたなくなってしまった子も多い。これを取り上げて,「書きにくそうだけど,なにか うまい方法ないかな」「四角とか,マークで書いたら」「自分で考えていいのかな」「学校は文だよ」「み んな違うとあとで分かりづらいから,同じ方がいいんじゃない」「ここに書いてあるよ。(教科書)を示し ながら」と子どもたちの話し合いが続き,赤鉛筆で,記号に変えて書いてみることにした。記号の必要 性が分かり,自分で教科書等々を見ながら書き込んでいった。
第9時では,教師が配った大野村の地図と比べさせてみた。自分(子ども)たちの地図のよくできて いる点を話し合い,大きな違いだけを修正し,ここに完成した。最後に,村全体の地図の形を予想させ,
ハサミで切って確認した。まとめの意味で,自分の家がどこにあるか,回りの様子はどうなっているか,
見学でとってきた写真はどの辺か.など話し合いながらまとめる。
全体の学習のまとめを含み,第10時では,常北町の友だちに,大野村の様子を知らせる手紙を書かせ てみる。ここで,今までの学習で大丈夫だろうか,もっと知っていた方がいいことはないか話し合い,
茨城県における大野村の位置も分かった方がいいということになり,茨城県の大体の形などを簡単に学 習する。手紙の内容は,学習したことを中心に,家の仕事のこと,学校のことなどが,楽しく書いてあ
った。なお,自分たちの作成した地図も一部同封して送ることにした。
6.授業と子どもの思考の変容(小松小学校の場合)
紙数の関係で,残念ではあるが典型的と考えられる2人の子どもについてのみ,その変容の姿を示し てみよう。(なお,クラスは全員で13名である。)
A君;学力は,算数に多少の閃きを見せるが,相対的に見てあまり芳しくなく,社会科においても,
興味・関心の度合いも薄く,理解度も低い。
彼は,最初,学校の配置図を書いた時には,1時間かけても校舎と正門を書いたのみであった。(これ は事前テストの意味で書かせたものである。)第1次第1時に入り,A君は「地図とかやらない方がよい」
という感想を述べている。この時間は,模造紙半裁をひとりひとりに与え,周知のはずの自分の家から 学校までの通学路を書かせてみた。授業中彼は,友達の書くのを見ていることが多く,自分ではほとん ど書かずじまいであった。
第2時に入り,A君はその感想で「社会の地図で4つを合体(ドッキングのこと……注)させたのが,● o
とてもおもしろかったです。」と述べ,ここで急に変化してきていることがわかる。この時間は,それぞ れの子どもが前の時間に書いた通学路の地図を修正することから始まり,修正が終わったところで,4
つの班(大よそ東西南北の位置にくるもの)を作り,その中から最もすぐれていると思うものを1点ず つ選択させ,4枚の通学路の地図を合体させようとした。A君は,自分の班の中で選ばれなかったにも かかわらず,積極的に4枚の地図を合体させようと試み,努力していた。彼の普段の生活や学習態度か
ら考えると非常に稀なことである。この合体させていくということが,彼にとり,ある種のゲーム性を も感じさせ,そこに興味,関心が湧き上がってきたものと思われる。
第3時に入り,A君の思考は,第2時にも増大して著しい変容を見せた。感想が「地図を書くのがむ ずかしいからもっとやりたい」という様に変わったのである。ここでは,合体できないわけを考えたり,
方位,距離,基点について考えたりするために2時間続けて行なった。
第5時では,縮少した地図を書いたが,A君は,「とても小さく書くのがむずかしかった」という感想 を述べている。これは,クラス全員で作った1枚の大きな地図(模造紙8枚を使ったもの)を参考に,
それを更紙1枚の大きさに縮少して書くことであった。A君は,あれほど大きな1枚の地図を書くこと ができたのだから,小さく書くことはむずかしいことはないといって,意欲的に活動していた。彼は
「むずかしかった」という感想を述べているが,「ここに橋があって……」とか「ここは田んぼ……」と か言いながら喜んで活動していたので,意外とむずかしくなるのを楽しく思っていたのではないか,と 思われた。
第8時に入り,学区の中ではあるが,A君の認識下にない土地を歩いた(前時は,子どものよく知っ ている地区を歩いている)が,「地図で書いた道をあるいて勉強した」という感想を述べている。実際に 歩いて自分の書いた地図を見比べたわけだが,A君にとってあまりよく知らない土地を歩いて確かめた
ということは,とてもうれしかったようで,「先生/学校はここから見ると西の方にあるね」とか「ここ までが学区なんだね」などと言って,意欲的な活動を見せた。
第9時に入り,地図記号について学習したが,ここでA君は「地図記号はむずかしいから,おぼえる のがたいへんだ」という感想を述べている。地図記号を2つ3つ教師の側からだしてみたら,このA君 は,「先生,図書室に行って探してきます」と言って飛び出して行ってしまった。そして,百科事典を持 ってきて,「これが山で,これが交番で」とやり始めた。
第10時に入り.感想に「小松の学区の形がわかった」という一言を残した。これは,自分たちで学習 してきた学区の地図の形を知るため,距離や方位そして基点(起点)を考えて,形に切ってみたもので ある。その中でA君は,距離というものに,異常とも思われるほど神経を使い,少しずつはさみを入れ ていった。この作業中,彼は普段だとうるさいくらいさわぐのだが,一言もよけいな事を言わないで,
黙々と活動した。 , 第2次の第1時に入り,前述のことからも推察することができるであろうが,常北町全体の町を考え るこの授業の後で,A君は「道(路)を小松(小学校)の学区から伸ばせばいい」という感想を述べて いる。彼は,学区の地図から,町の地図を書くに到って,全体的な拡がりで地図を捉えていくことがで きてきたように思われる。(A君の場合,第2時以降も,この地図学習に対して意欲的に取り組んでいく が,紙数の関係で省略する。)
次に,B君にっいて思考の変容の姿を示してみよう。
B君;学力は,各教科とも平均的である。社会科においても,興味・関心の度合いは中位で,理解度 も普通である。
このB君を見ていくと,最初に学校の配置図を書いたときには,学校にある校舎や体育館やプールなど がきちんと書けていた。しかし,遊具の花壇の配置については,書くことができなかった。
片上他:社会科授業改造の試み(1) 75
第1時に入り,B君は「地図を書くと言ったのでびっくりした」「はやく,きちんとよく書けたと思っ た」という感想を述べている。これは,A君の場合と同じように,最初どういう風に書いていこうか,
とまどっていたようである。書き始まってからは,特に自分の家のまわりを.それこそ,どんな些細な ことでも書き落とすまいと真剣に活動していた。
第2時に移り,「地図を合体させる時あわなかった」という感想を述べている。この時も,真剣に4枚 の地図を合体させようと取り組んでいた。普段は他の者が行なうのを手伝うことが多く見られるのに自 分から他の者を手伝わせて行なっていたのが印象的であった。それだけ,この合体させることに,A君 同様興味・関心が湧いたのであろうと思われる。
第4時に入り「やっと地図がつくれた。みんなでやったから,まとまらなくて疲れた」という感想が 述べられた。これは,合体させた時から,「みんなが力を合わせて作らないから,また,みんなが勝手な
ことばかりやっているから」という意識の裏側に隠された偽らざる感想であると考えられる。この時間 のB君は,模造紙8枚を使った合体地図作成の過程で,8方位の必要性を,また田や川のつながりを,友 達の家がかくれてしまうことなどを挙げ,仲間を説いていた。こ
れは,B君の心の中の地図がようやく形をとり始めた表れであろ
、が,他方では,なんとかして地図を完成させたいという気持の ○ ○
表れと見ることもできよう。それゆえ感想に述べられた,「やっと
地図がつくれた」ということも,頭の中で,かなり試行錯誤が行 学
なわれた末のこととも考えられる。 校
第6時に入って,模造紙1枚ずつを3班に分け,学区の地図を それぞれの班で作ったわけだが,B君はその感想で,「磯野の方が
@ ○わかりずらかった」と述べている。本学級には磯野地区から登校
○ する子どもがいないため,友達の中で磯野の方に遊びに行った子
に聞いたり,教室に置いておいた学区の航空写真を見たりして, ○印のところに友達の家がある場合は 作業を進めたためだと思われる。 抜け落ちる。
第7時に入り,学区内の子どもの認識下にある津部本郷地区を この○印のところに下から模造紙を入 歩いたが,「道や田んぼがどういう所にあるかがわかった。」「地図 れると8方位になる。
と比べてみたからよくわかった」という感想が述べられた。他の子どもの感想では,「社会で地図を書い たのはよかったと思う」「道がいろいろわかって勉強になった」「書いた地図が合っていた」など,自分 たちの書いた地図との比較が述べられているが,B君の場合は,単なる比較に終らず,道や田がどのよ
うな場所にあるか,といったその土地利用にも関心が移行していた。休けい時,話し合いをした時でも,
「なぜ田んぼは,川の近くに多くて,少し高いところでは.畑が多いのか」としきりに思考を巡らして
いた。
第2次の第1時に入り,「学区の地図を基にして,距離を考え,道をつなげていけばよい」という感想 を述べている。ここでは,町全体の地図を作るにはどうしたらよいだろうかということで,話し合いを 持ったわけであるが,彼は,せっかく力を合わせて学区の地図を書いたのだから,その地図を使った方 がいいと言って,最後までその意見を押し通した。普段の彼の行動等から判断すると,ここまで意見を 守り抜く事は稀なことである。
第3時に入り,町の福祉バスを使い,バスの中から,主な幹線道路を書かせてみた。B君は,「常北町 には広い道路ばかりでなく細かい道もわきにいっぱいある」といった感想を残している。(これ以後,B
君の感想に特に目立った変化はないので,省略する。)
注
P) ここでは,「問題解決型」の社会科授業論と社会科の初志をつらぬく会の「問題解決学習論」とを,区別して用い ている。
2) 例えば,船山謙次『社会科論史』(東洋館出版,1963)を見よ。
3) 片上宗二『社会科授業の改革と展望』(明治図書,1985年春発行予定)。
4) もちろん,ないわけではない。次号で紹介する。
付 記
〔実験授業の意義を認めてくださり,ご協力をいただいた,大同東小学校と小松小学校とに対して心よ りお礼申し上げます。〕