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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository バンコマイシンによる腎障害発現機序の解明および保護薬物の探索に関する研究 坂本, 裕哉 出版情報 : 九州大学, 2

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

バンコマイシンによる腎障害発現機序の解明および

保護薬物の探索に関する研究

坂本, 裕哉

http://hdl.handle.net/2324/1806961

出版情報:九州大学, 2016, 博士(臨床薬学), 課程博士 バージョン: 権利関係:やむを得ない事由により本文ファイル非公開 (3)

(2)

バンコマイシンによる腎障害発現機序の解明および保護薬物の探索に関する研究

臨床薬物治療学分野 3PS13027G 坂本 裕哉

【序論】 バンコマイシン塩酸塩(VCM)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の第一選択薬である が、腎障害への配慮が不可欠である。VCM による腎障害の発現時には、治療の変更や中止を余儀なく され、感染症治療の失敗につながる恐れもあることから、臨床では、有効性の確保と腎障害の回避を目 的として治療薬物モニタリング(TDM)が実施されている。しかしながら、重症感染例や高齢者等の腎機 能低下例においては、血中濃度管理が困難なケースも少なくなく、TDM 以外の対策法は確立していな いのが現状である。一方で、VCM による腎障害の発現機序に関しては、ラットでの検討から尿細管へ の直接的な障害や酸化ストレスの関与が示唆されているが、詳細は依然として不明である。当研究室で はこれまでに、VCM が培養尿細管上皮細胞(LLC-PK1 細胞)に対し、カスパーゼ依存性のアポト-シス を引き起こし、その発現に活性酸素種(ROS)の増加やミトコンドリア障害が関与することを明らかとし てきた。一方で、酸化ストレスを含めた細胞のストレス応答やアポトーシスの誘導に、Mitogen-activated protein kinase (MAPK)が重要な役割を担っている。そこで本研究では、ROS やミトコンドリア、および MAPK に着目して、VCM による尿細管上皮細胞障害の発現機序の詳細を解明し、得られた分子機構を 考慮した保護薬物の探索を行うことを目的として研究を行った。 【方法】 細胞培養および薬物処置 ブタ腎由来培養尿細管上皮細胞(LLC-PK1)は、10%ウシ胎児血清含有 199 培地を用いて、37℃、5% CO2 湿地条件下で培養した。細胞を各種プレートに播種し、細胞がサブコンフルエント(70-80%)に達した時 点で、VCM (1-5 mM)を無血清培地下で処置した。各種併用薬は、VCM 処置 30-60 分前より実験終了ま で添加した。 細胞障害およびアポトーシス関連因子の評価

細胞生存率は Presto Blue cell viability reagent を使用して測定した。アポトーシスの評価には Terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick end-labeling (TUNEL)法を使用し、フローサイトメトリー により解析を行った。カスパーゼ-3/7 活性は、Apo-ONE homogeneous caspase-3/7 assay kit を使用して測 定した。ミトコンドリアから細胞質へのチトクロム c の遊離は、細胞質画分のタンパク質を抽出後、ウ ェスタンブロット法を用いて評価した。

ROS 産生の評価

細胞内 ROS およびミトコンドリアスーパーオキシド産生は、それぞれの蛍光プローブである carboxy-H2DCF-DA および MitoSOX Red を用いて評価し、フローサイトメトリーにより解析を行った。

(3)

ミトコンドリア機能障害の評価

ミトコンドリア膜リン脂質であるカルジオリピンの過酸化は、カルジオリピン結合色素 NAO を用い て、ミトコンドリア膜電位の変化は、膜電位感受性試薬 JC-1 を用いてそれぞれ評価した。細胞内 ATP 量は、ATP assay kit を用いてホタルルシフェラーゼ発光法により測定した。

MAPK 活性の評価

MAPK の活性化はウェスタンブロット法を用いて、MAPK タンパクの総発現量に対するリン酸化体発 現量の比により評価した。

統計解析

データは平均値±標準誤差で示した。多群間の比較には one-way analysis of variance (ANOVA)で解析後、 Tukey-Kramer test により検定を行った。有意水準は 5%とした。 【結果・考察】 バンコマイシンによる尿細管上皮細胞障害におけるミトコンドリアの役割と抗酸化薬の効果 VCM は LLC-PK1 細胞に対し、時 間依存的にアポトーシスによる細胞 死を引き起こすとともに、細胞内 ROS やミトコンドリアスーパーオキ シドの産生を増加させた(Fig. 1)。さ らに、VCM の処置によりミトコンド リア膜リン脂質であるカルジオリピ ンの過酸化や、ミトコンドリア脱分 極等のミトコンドリア機能障害が生 じ、それらは脱共役薬 FCCP により 有意に抑制された(Fig. 2)。FCCP は、 VCM に よ る ミ ト コ ン ド リ ア 由 来 ROS の増加や、細胞障害の発現に対 しても抑制効果を示した。その一方で、脂溶性抗酸化薬ビタミン E や、ミトコンドリア標的抗酸化薬 MitoTEMPO が、VCM による LLC-PK1 の細胞障害やミトコンドリア機能障害の発現に対して抑制効 果を示したが、水溶性抗酸化薬ビタミン C や、N-アセチルシステイン、グルタチオンは、有意な効果 を示さなかった(Fig. 3)。これらの結果より、VCM による尿細管上皮細胞のアポトーシスの発現に、 ミトコンドリア由来 ROS の産生増加、ならびにカルジオリピンの過酸化等のミトコンドリア機能障 害が重要な役割を担うことが明らかとなった。加えて、ビタミン E や MitoTEMPO を用いて、ミトコ ンドリア ROS を効果的に消去すると、VCM による尿細管上皮細胞死が抑制されたことから、ミトコ ンドリア ROS の制御が腎障害の低減に有用である可能性が考えられた。 50 100 150 200 250 0 3 6 9 12 0 ** ** ** †† †† †† M ito SO X fl u o re s c e n c e i n te n s ity (% o f Ve h ic le a t 1 h ) ††

Time after the initiation of VCM treatment (h) ** ** ** †† †† †† † 80 100 120 140 0 3 6 9 12 Time after the initiation

of VCM treatment (h) DC F fl u o re s c e n c e i n te n s ity (% o f Ve h ic le a t 1 h ) 0 Vehicle VCM VCM + Vitamin E 100 µM Vehicle VCM VCM + Vitamin E 100 µM Fig. 1. LLC-PK1 細胞における VCM による細胞内 ROS の産生増加 LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 1-12 時間後の(A)細胞内 ROS の産 生を carboxy-H2DCF-DA 染色法により、(B)ミトコンドリアスーパーオキシド の産生を MitoSOX 染色法により評価した。抗酸化薬ビタミン E (100 µM)は、 VCM 処置 30 分前より添加した。値は平均値±標準誤差を示す(N=4)。**P<0.01 vs. vehicle, †P<0.05, ††P<0.01 vs. VCM 単独群 A B

(4)

バンコマイシンによる尿細管上皮細胞障害における MAPK の関与と cAMP アナログの効果 VCM は LLC-PK1 細胞に対し、各種 MAPK である、c-jun

N-terminal kinase (JNK)、p38 MAPK および Extracellular signal-regulated kinase (ERK)の活性化を引き起こしたが(Fig. 4)、VCM によるアポトーシスやミトコンドリア脱分極に対 しては、JNK 阻害薬が最も顕著な抑制効果を示した(Fig. 5)。 しかしながら、VCM による ROS の増加に対して JNK 阻害 薬は効果を示さず、VCM による JNK 活性化はビタミン E の併用下においても抑制されなかった。一方で、細胞膜透 過性 cAMP アナログである DBcAMP は、VCM による JNK 活性化を有意に抑制するとともに(Fig. 6A)、JNK 阻害薬と 同様に VCM によるアポトーシスやミトコンドリア脱分極 を有意に抑制したが(Fig. 6B)、ROS の増加には効果を示さ なかった。これらの結果より、VCM によるアポトーシス誘導因子として ROS と共に JNK が重要な役 割を担うこと、および JNK は ROS と異なる分子機構で、細胞障害やミトコンドリア機能障害の発現 に関与することが明らかとなった。さらに、cAMP アナログは、JNK 活性化の抑制を介して VCM に よる尿細管上皮細胞死を抑制したことから、細胞内 cAMP や JNK 活性化の制御が、VCM による腎障 害の抑制に有用である可能性が考えられた。 Fig. 3. VCM による LLC-PK1 細胞障害に対す る各種抗酸化薬の効果 LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 48 時間後のアポトーシスの発現を TUNEL 法に より評価した。抗酸化薬は、脂溶性抗酸化薬 ビタミン E、ミトコンドリア標的抗酸化薬 MitoTEMPO、水溶性抗酸化薬ビタミン C、N-アセチルシステイン(NAC)、グルタチオン (GSH)を使用し、それぞれ VCM 処置 30 分前 より添加した。値は平均値±標準誤差を示す (N=4)。**P<0.01 vs. vehicle, ††P<0.01 vs. VCM 単独群 A B 0 100 200 300 400 T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le ) Veh. Con. 30 100 3 10 Vitamin E MitoTEMPO VCM (48 h) ** †† †† †† †† (µM) 0 100 200 300 400 500 600 T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le ) Veh.Con.30 100100300 Vitamin C VCM (48 h) 10 30 (µM) NAC GSH ** pJNK JNK 12 0 0.5 1 3 6 24 VCM (h) pp38 p38 pERK ERK Fig. 4. LLC-PK1 細胞における VCM 処置後の MAPK リン酸化の経時変化 LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 0-24 時間後の総 JNK, p38, ERK 発現量およびそれら のリン酸化体(pJNK, pp38, pERK)発現量をウェ スタンブロット法により評価した。 Fig. 2. LLC-PK1 細胞における VCM によるミ トコンドリア機能障害と脱共役薬の効果 LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 24 時間後の(A)ミトコンドリア膜リン脂質カル ジオリピンの過酸化を NAO 染色法により、(B) ミトコンドリア膜電位の変化を JC-1 染色法に よりそれぞれ評価した。脱共役薬 FCCP (0.5 µM)は、VCM 処置 30 分前より添加した。値 は 平 均 値 ± 標 準誤 差 を 示す (N=4) 。 *P<0.05, **P<0.01 vs. vehicle, †P<0.05, ††P<0.01 vs. VCM 単独群 A B 0 25 50 75 100 N AO fl uo res c en c e i nt en s ity (% o f Ve h ic le ) * †† VCM (24 h) FCCP 0.5 µM + + + -+ 0 25 50 75 100 JC -1 Red / G re e n (% o f Ve h ic le ) VCM (24 h) FCCP 0.5 µM + + + -+ ** †

(5)

【結論】 本研究によって、VCM による尿細管上皮細胞障害の発現機序として、ミトコンドリア由来 ROS の産 生や JNK 活性化、ミトコンドリア機能障害が重要な役割を担うことが明らかとなった。さらに、脂溶性 抗酸化薬やミトコンドリア標的抗酸化薬が、ミトコンドリア ROS を効果的に消去することで、cAMP アナログが JNK 活性化を抑制することで、VCM による尿細管上皮細胞のアポトーシスを抑制したこと から、これらの薬物は VCM による腎障害に対する保護薬物としても有用である可能性が示された。 【発表論文】

Sakamoto Y, Yano T, Hanada Y, Takeshita A, Inagaki F, Masuda S, Matsunaga N, Koyanagi S, Ohdo S. Vancomycin

induces reactive oxygen species-dependent apoptosis via mitochondrial cardiolipin peroxidation in renal tubular epithelial cells. Eur J Pharmacol. (In revision)

Arimura Y, Yano T, Hirano M, Sakamoto Y, Egashira N, Oishi R.Mitochondrial superoxide production contributes to vancomycin-induced renal tubular cell apoptosis. Free Radic Biol Med 52: 1865-1873, 2012.

0 100 200 300 400 ** T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le ) †† †† Vehicle Control VCM (48 h) SP600125 (μM) 1 3 0 100 200 300 400 ** T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le ) †† Vehicle Control VCM (48 h) SB203580 (μM) 3 10 0 100 200 300 400 ** †† T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le ) Vehicle Control VCM (48 h) U0126 (μM) 1 3 A B C Fig. 5. VCM による LLC-PK1 細胞障害に対する各種 MAPK 阻害薬の効果 LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 48 時間後のアポトーシスの発現を TUNEL 法により評価した。各種 MAPK 阻害 薬である SP600125 (JNK 阻害薬)、SB203580 (p38 阻害薬)、U0126 (MEK 阻害薬)は、VCM 処置 1 時間前より添加した。値は 平均値±標準誤差を示す(N=4)。**P<0.01 vs. vehicle, ††P<0.01 vs. VCM 単独群 0 1 2 3 ** †† p J NK / to ta l J NK (fo ld o f Ve h ic le ) VCM (1 h) DBcAMP 1 mM + + -- + pJNK JNK

Vehicle Control DBcAMP 1 mM VCM (1 h) T UN EL fl u o re s c e n c e in te n s ity (% o f Ve h ic le a t 1 2 h ) 0 100 200 300 400 500 0 †† ** †† ** * * 12 24 36 48 Time after the initiation

of VCM treatment (h) †† Vehicle VCM VCM + DBcAMP 0.3 mM VCM + DBcAMP 1 mM A B Fig. 6. LLC-PK1 細胞における VCM による JNK 活性 化および細胞障害に対する cAMP アナログの効果 (A) LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 1 時間 後の総 JNK 発現量およびリン酸化体 JNK (pJNK)発現 量 を ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 に よ り 評 価 し た 。 (B) LLC-PK1 細胞における、VCM (4 mM)処置 12-48 時間 後のアポトーシスの発現を TUNEL 法により評価し た。細胞膜透過性 cAMP アナログである DBcAMP (0.3-1 mM)は、VCM 処置 1 時間前より添加した。値は 平均値±標準誤差を示す(N=4)。*P<0.05, **P<0.01 vs. vehicle, ††P<0.01 vs. VCM 単独群

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