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(1)

統合型エネルギー経済モデルによる 2050 年までの

日本のエネルギー需給の分析

Analysis of Japan’s energy demand and supply to 2050

through integrated energy-economic model

小 宮 山 涼 一

*

・ 鈴 木 研 悟

**

・ 永 富 悠

**

・ 松 尾 雄 司

**

・ 末 広 茂

**

Ryoichi Komiyama Kengo Suzuki Yu Nagatomi Yuji Matsuo Shigeru Suehiro

(原稿受付日 2011 年 6 月 28 日,受理日 2012 年 2 月 3 日) 1.はじめに 東日本大震災,ならびに福島原子力発電事故を受けて, 日本の原子力発電を取り巻くエネルギー情勢は,その将来 ビジョンを描く上での不確実性が高まりつつあるという意 味において,大きな変化に晒されている.そのため,想定 される各種の原子力シナリオの下での日本の長期エネルギ ー需給見通しを再構築することが大変重要な課題であると 考えられる.一方,温室効果ガスの削減に関して,2050 年 の超長期目標に向けた関心が世界的に高まりつつある. 2007 年の G8 サミット等の国際的な政治的対話の場をはじ めとして,長期的な地球の平均気温上昇を持続可能な範囲 内に抑制するために,2050 年までに世界の温室効果ガス排 出量を現状比で半減することが,国際的な目標として掲げ られるようになった.この中で現在,世界の CO2排出量の 4%1)を占める日本も,2050 年までに CO2排出量を現状比で 60%から 80%削減することを目標として2),様々な低炭素 技術を普及拡大することが重要であるとの認識が広まりつ つある.しかし, 日本の 2050 年までの経済,エネルギー を総合的に考慮したエネルギー需給の分析例は少なく,と くに東日本大震災を受けて温室効果ガス排出削減の中核的 技術のひとつとみられていた原子力発電の見通しの不確実 性が高まる中,効果的なエネルギー政策を立案する上で, 日本の長期エネルギー需給見通しの作成が,大変重要であ ると考えられる. これまで,経済産業省の長期エネルギー需給見通し 3) は,計量経済モデルを用いたトップダウン的手法によりエ ネルギー需給を予測,分析してきた.このモデルは,過去 の社会経済指標とエネルギー指標の回帰分析をベースに構 築されたモデルであり,技術コストに基づく内生的な技術 導入量の決定や CO2削減費用等の経済的計算ができない欠 点がある.また佐藤ら4) 5) 6)による分析では,線形計画法に よるコスト最小化型技術評価モデル(MARKAL)を用いて, 革新的技術の導入量,エネルギー消費量を決定している. 本モデルの特徴は,工学的データに基づいた詳細な技術の モデル化により,需要・供給サイドでの革新的技術をボト ムアップで分析できる点にある.ただし本モデルは,有効 エネルギー需要(エネルギーサービス需要)を外生的に与え ているが,当該需要は経済指標と密接に連動するため, 経 済指標との相関関係を明示的に考慮に入れて設定する必要 がある.そこで本稿では,上述したモデルの長所,短所を 踏まえ,これらを統合的に活用して,日本の 2050 年までの エネルギー需給分析の枠組みを新たに構築し,各種の原子 力長期シナリオと CO2排出制約シナリオの下で,技術の普 及とエネルギー需給を分析する.

This paper describes the outline of integrated energy economic model and calculated result concerning Japan’s energy demand and supply outlook and carbon dioxide emissions to 2050. The energy model developed in this paper is integrated one which consistently combines econometric model endogenously generating various socio-economic factors and bottom-up type technology model, MARKAL, identifying cost-minimizing optimal mix of various energy technologies. Employing this model, Japan’s long-term energy outlook is evaluated under the scenario on both carbon regulation and nuclear power generation. In no carbon regulation scenario, CO2 emission in 2050 will be mitigated by approximately 40% from the level of emissions in 2005, if nuclear power plants will be constructed according to governmental electricity supply plan. Sluggish growth in nuclear power plant, however, would alternatively increase carbon-intensive coal-fired power plant which eventually boosts CO2 emissions. In carbon regulation scenario, imposing emissions cap of 60% reduction by 2050 from the emissions in 2005, renewable energy are expected to expand its portion in power generation mix, and the role of natural gas-fired power plant equipped with CCS would further expand if the deployment of nuclear power plant becomes stagnated.

Keywords : Integrated energy economic model, Energy outlook, CO2 emissions mitigation

* 東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 〒113-8656 東京都 文京区 本郷 7-3-1 E-mail : [email protected] ** 財団法人 日本エネルギー経済研究所 〒104-0054 東京都中央区勝どき 1-13-1 イヌイビル・カチドキ 本稿は,第 27 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレ ンス発表原稿(小宮山・鈴木・永富・松尾・末広「統合型エネル ギー経済モデルによる 2050 年までの日本の CO2排出削減技術 の分析」7))の内容に基づき編集している.

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2.モデルの構造 本稿で作成したモデルは,トップダウン型の計量経済モ デルと,ボトムアップ型のコスト最小化型技術評価モデル を組合せた統合型エネルギー経済モデルである.トップダ ウン型の計量経済モデルは,日本エネルギー経済研究所等 が開発した文献8)9)のモデルを用いる. コスト最小化型技 術評価モデルのベースは,日本原子力研究所(現在,独立行 政法人日本原子力研究開発機構)により開発された日本版 MARKAL モデルである4) 5) 6).本稿では,両モデルを統合 的に利用することで,2050 年までの日本のエネルギー需給 見通しを計算する. 2.1 MARKAL モデルの構造 MARKAL モデル(図 1)では,一国のエネルギーシステム が線形計画法によりモデル化されており,長期にわたるエ ネルギー需給とエネルギー技術の経済合理的な導入規模が 決定される.計算期間は 2000 年から 2050 年であり,1 期 5 年とした計 11 時点が分析可能である.目的関数は,同期間 における割引後のシステム総コスト(割引率 3%)であり, 制約式として,資源量制約,エネルギー需給バランス制約 等を考慮している.エネルギーサービス需要を所与として, エネルギーを生産,輸出入,転換,輸送,消費する技術の 導入規模,ならびに,システム内のエネルギー需給バラン スが,コスト,資源制約,CO2排出量制約等をつうじて, 最適決定される.MARKAL モデルで想定した技術やエネ ルギー需要の概要を以下に示す. (1) 一次エネルギー資源 石炭,原油,LNG,天然ウラン,太陽エネルギー,地熱, 水力,風力,都市ごみ,バイオマス,パルプ黒液,廃油 (2) 二次エネルギー 電力,熱,太陽熱,水素,都市ガス,LPG,ガソリン,ナ フサ,灯油,軽油,重油,石炭,コークス (3) 有効エネルギー需要(外生値) 産業部門(粗鋼,セメント,パルプ,紙・板紙等),業務部 門(動力,暖房,給湯,冷房) ,家庭部門(動力,暖房,給湯, 冷房),旅客輸送部門(鉄道,乗用車,バス,航空,船舶), 貨物(鉄道,トラック,航空,船舶),国際旅客(航空),国際 貨物(航空,船舶) (4) 発電技術 石炭火力(在来,IGCC,MCFC),石油火力(低硫黄,高硫黄, 産業自家発,産業熱併給,複合サイクル),LNG 火力,LNG 複合,原子力,水力,地熱,風力,太陽光,燃料電池(PAFC, PEFC,MCFC),コージェネ 8 地域熱供給 揚水発電 地熱発電 風力発電 太陽光発電 太陽エネルギー 地熱 水力 風力 都市ごみ バイオマス パルプ黒液 廃油 天然ウラン 都市ガスプロセス 石炭転換プロセス 産業 一般 石油精製プロセス LNG 原油 石炭 天然ウラン LNG 原油 石炭 核燃料 使用済み燃料 プルトニウム 減損ウラン 天然ウラン 原子炉・ 核燃料サイクル システム 石炭汽力発電 IGCC 石油火力発電 LNG汽力発電 LNGCC 在来型熱電併給 燃料電池 水力発電 発電・ 熱 供給 プ ロ セ ス CO2回収・貯留 動力 ボイラ 粗鋼生産 鋳造 圧延 加熱 動力 加熱 燃料 貨物 輸 送 鉄道 トラック 船舶 航空機 旅客輸 送 鉄道 乗用車 航空機 バス 船舶 セメ ン ト 動力 加熱 紙パ 動力 加熱 化学 動力 ボイラ 加熱 業務 動力・照明 暖房 空調・冷房 給湯・厨房 動力・照明 暖房 空調・冷房 給湯・厨房 家庭 ガソリン ナフサ 灯油 軽油 重油 石炭 コークス 電力 熱 太陽熱 水素 都市ガス LPG エネルギー源 エネルギー二次 エネルギー 供給技術 エネルギー 需要技術 ガラ ス 鉄鋼 CO2排出 送配 技術 ス ト ッ ク 資源 再生可能資 源 国産 資 源 輸入 資 源 図 1 MARKAL モデルの概要 (5) エネルギー転換技術 石炭転換プロセス,石油精製プロセス,都市ガスプロセス, 核燃料サイクルシステム,熱供給システム (6) エネルギー需要技術 鉄鋼(粗鋼生産,圧延,鋳造),セメント(動力,加熱),紙・ パルプ(動力,加熱),化学(動力,ボイラ,加熱,燃料),ガ ラス(動力,加熱),業務(動力・照明,暖房,給湯・厨房, 空調・冷房),家庭(動力・照明,暖房,給湯・厨房,空調・ 冷房),旅客輸送(鉄道,乗用車,バス,航空機,船舶),貨 物輸送(鉄道,トラック,航空機,船舶) (7) その他 CO2回収・貯留技術 本モデルでは,供給サイドの技術(発電部門等)のコスト, ならびに,需要サイドの技術(クリーンエネルギー自動車, 民生機器)のコストを同時に考慮した上で,一国の最適なエ ネルギー需給を決定できる.また,エネルギー転換等にお いて発生する CO2の回収,貯留も考慮している.二次エネ ルギーは,電力,熱,水素,ガス,石油製品,メタノール, 固体燃料等を想定している.また,本稿における原子力発 電設備の導入見通しは,後述するシナリオ(2.3 節(2))に基づ き外生的に想定する. また本稿では,後述する通り,原子力発電の導入見通し に関して感度分析を行うが,その際,電源構成の見通しが 最 も 大 き な 影 響 を 受 け る と 考 え ら れ る た め , 以 下 に MARKAL モデルでの電源のコスト等の情報を表 1 に示す. 表 1 中の発電効率は,低位発熱量での送電端効率を示して いる.また表 1 中の稼働率上限,建設費,発電効率および 運転維持費の想定の幅は,予測期間中での時間的な変化の 幅を示している.ただし,IGCC_CCS 発電やガス複合発電 _CCS の導入は 2020 年以降を想定している.

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表 1 各電源のコスト,効率等の想定 固定費 可変費 (年) (%) (%) (ドル/kW) (ドル/kW) (ドル/MJ) 石炭火力 40 70 36-41 2,600 100 1.35 IGCC_CCS 40 70 42 3,900 200 2.51 IGCC 40 70 47-49 3,200 150 1.93 石油火力 40 50 39 1,400-1,900 79 0.57 原子力 60 72-85 - 2,200-3,000 136 1.12 水力 60 45-50 - 4,500 148 -風力 20 28 - 1,800-3,200 18-32 -太陽光 20 13-18 - 2,700-13,600 27 -ガス火力 40 65 38-39 1,600-1,900 83 0.23 ガス複合_CCS 40 70 44 2,500 104 0.89 ガス複合 40 70 37-51 1,200 64 0.17 運転維持費 耐用年数 稼働率上限発電効率 建設費 また本稿で用いた MARKAL モデル4)では,太陽光発電 や風力発電の稼働率の上限に関しては,技術進歩や,日射 条件や風況条件が良好な事業採算性のある適地等を中心に 展開する等の想定をおいて設定しており,平均的な実績値 とされて一般的に用いられている稼働率(太陽光発電:12%, 風力発電:20%)より高い点に留意を要する.なお,ガス複 合発電の発電効率については,表 1 の効率よりも高いプラ ントが既に稼働しているが,本稿では MARKAL モデルに て採用されている効率を使用している. なお,MARKAL モデルでの電源構成の決定に際し,日 負荷電力需要をベース負荷,ピーク負荷へ 2 分割し簡略化 して扱っている.そして,想定した各電源に,ベース電源 とピーク電源の役割を制約として与えた上で計算を行って おり,MARKAL モデルの設定では,原子力と水力がベー ス電源,石炭火力を含むその他の発電技術がベース電源と ピーク電源の双方の役割を担える電源として設定して計算 を行っている. なお,MARKAL モデルで使用するデータ等に関しては, IEA ETSAP10)の情報を適宜用いて,更新を行っている. 2.2 統合型エネルギー経済モデルの構造 先述した MARKAL モデルでは,エネルギーサービス需 要(有効エネルギー需要)を外生的に与える必要がある.し かし,産業活動や物流活動は経済成長と密接な関係がある ため,エネルギーサービス需要は経済成長に関連する諸要 因を説明変数として,内生的に決定する必要がある.そこ で本稿では,計量経済モデル8)9) (図 2)を用いて,エネルギ ーサービス需要を内生的に決定する.図 3 に計量経済モデ ル,MARKAL モデルから構成される統合型エネルギー経 済モデルの概要を示す. 計量経済モデル8)9)では,世界貿易等の海外要因,公共投 資等の経済政策,世帯数等の人口要因,原油価格等のエネ ルギー価格を前提条件として,様々な経済指標を推計する ことが可能である(図 2).計量経済モデルは,国民総生産 (GDP)やそれを構成する投資,消費,輸出入等の動きに着 図2 計量経済モデル 目して,国民経済の資金循環を計算するモデルである.主 として,実質支出モジュール(実質 GDP とその構成項目を 決定するモジュール),賃金物価モジュール(他のモジュー ルで導出される各種需給要因と原油価格,為替水準等の外 生要因から,消費者物価,企業物価,デフレータ,賃金等 を決定するモジュール),所得分配モジュール(国民所得の 分配,名目国民総支出等を求め,実質支出モジュールで求 められた実質支出と価格モジュールで求められたデフレー タより名目の国民総支出を決定するモジュール),労働モジ ュール(労働需給が決定されるモジュール)より構成される. 統合型エネルギー経済モデル(図 3)では,計量経済モデル 8)9)により推計される経済指標等を説明変数,技術評価モデ ル(MARKAL)への入力となるエネルギーサービス需要を被 説明変数として推定した回帰分析式を通じて,計量経済モ デルと技術評価モデルが統合される.説明変数は,計量経 済モデルにより 2050 年まで推計されるため,回帰分析式を 用いることにより,被説明変数も 2050 年まで推計できる. このように,本モデルでは,エネルギーサービス需要を, 計量経済学的手法を用いることにより,従来の技術評価モ デルよりも当該需要を整合的に推計している.また,サー ビス需要の推計に用いられている同一のエネルギー価格を, MARKAL モデルでの推計にも用いることにより,従来よ りも全体の整合性を図っている. たとえば産業部門に属する鉄鋼部門での粗鋼需要であれ ば,計量経済モデルにより決定される民間設備投資,公的 固定資本形成,民間住宅投資等の経済パラメータ等を説明 変数とし,粗鋼需要を被説明変数として回帰分析式を作成 する.そして,計量経済モデルより,2050 年までの上記の 経済パラメータが推計されるため,上述の回帰分析式を用 いることにより,2050 年までの粗鋼需要を推計可能である. は、外生または 他のモデルより与えられる 実質支出モジュール 実質GDP 各コンポーネント 消費 投資 輸出入 など 財政モジュール 政府貯蓄 財政赤字 など 潜在GDPモジュール 資本ストック 税収 政 府 支 出 GDPギャップ 輸入物価 労働力人口 技術進歩 可処分所得・法人所得 賃金物価モジュール GDPデフレータ 各デフレータ 雇用者賃金 消費者物価指数 企業物価指数 など 名目支出モジュール 名目GDP 各コンポーネント デフレータ 諸物価 所得分配モジュール 国民所得 可処分所得 各種租税 など 海外要因 : 為替水準、原油価格など 経済政策 : 公共投資、税負担など 人口要因 : 人口、世帯、労働力人口など 労働モジュール 就業者数 失業率 など 雇用者所得 は、外生または 他のモデルより与えられる は、外生または 他のモデルより与えられる 実質支出モジュール 実質GDP 各コンポーネント 消費 投資 輸出入 など 財政モジュール 政府貯蓄 財政赤字 など 潜在GDPモジュール 資本ストック 税収 政 府 支 出 GDPギャップ 輸入物価 労働力人口 技術進歩 可処分所得・法人所得 賃金物価モジュール GDPデフレータ 各デフレータ 雇用者賃金 消費者物価指数 企業物価指数 など 名目支出モジュール 名目GDP 各コンポーネント デフレータ 諸物価 所得分配モジュール 国民所得 可処分所得 各種租税 など 海外要因 : 為替水準、原油価格など 経済政策 : 公共投資、税負担など 人口要因 : 人口、世帯、労働力人口など 労働モジュール 就業者数 失業率 など 雇用者所得

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図3 統合型エネルギー経済モデル ただし,海外への輸出分の需要に関しては,過去の実績 の推移等を参照して,外生的に設定している.また運輸部 門であれば,計量経済モデルより推計される可処分所得と 人口等を説明変数,旅客輸送需要を被説明変数として回帰 分析式を構築し,これに 2050 年までの説明変数の推計値を 代入し,2050 年までの被説明変数を推計できる. このエネルギーサービス需要を,MARKAL モデルの前 提条件として用い,MARKAL モデルでの最適化計算を通 じて,2050 年までの最終エネルギー消費,転換部門のエネ ルギー消費,一次エネルギー消費,CO2排出量を計算する. ただし,本稿では,エネルギー設備の新設等を通じた新 たな固定資本形成が経済成長に与える影響を,MARKAL モデルから計量経済モデルへフィードバックしていない点 に留意する必要がある. しかし実際には,エネルギー設備への投資増強は,固定 資本形成を通じて,経済成長を押し上げる効果があると考 えられるが,エネルギー関連活動が経済全体に占める比率 は一般的にそれほど大きくないことから,そのような効果 は小さいものと考えられる. 2.3 諸前提とシナリオ設定 (1)諸前提 人口や経済成長の見通しは,文献11)の見通しを用いてい る.人口推計は国立社会保障・人口問題研究所の中位推計 12)を参照する.経済社会構造を見通す上で前提となる日本 の総人口は,2005 年の約 1 億 2,800 万人から 2050 年には約 9,500 万人に推移し,長期的に減少する.本稿では,2050 年までの日本経済は,人口減少下でも緩やかな経済成長が 見込まれると想定している.経済成長の年平均伸び率の想 定に関しては,2005 年~2020 年 1.5%,2020 年~2050 年 0.9%として設定する11).労働人口の継続的減少が潜在成長 率を押し下げるが,技術進歩の向上により,緩やかな経済 成長を見込んでいる.緩やかな経済成長,人口減少を受け て,一人当たり GDP は着実に増加し,2005 年から 2050 年 までの年平均伸び率は 1.7%となる.1 人当たりの消費額が 一定ならば,人口減少により財・サービス需要が減少し, 労働生産性が一定ならば財・サービスの供給が減少する. しかし技術進展により労働生産性が上昇し,1 人当たりの 所得が増えれば,1 人当たりの消費額も増加し得る. エネルギー輸入価格(名目 CIF 価格)の想定に関しては, IEA の見通し13)を参照し,2035 年以降 2050 年までの価格 見通しに関しては一定と仮定する.原油輸入価格(名目 CIF 価格)は 2008 年の 93$/bbl から 2050 年に 302$/bbl,LNG 輸 入価格は 2008 年約 66,000 円/トンから 2050 年には約 240,000 円/トン,一般炭輸入価格は 2008 年約 14,000 円/ト ンから 2050 年に約 23,000 円/トンに上昇すると想定した. 米国の金融危機に端を発した世界的不況により世界の石油 需要は短期的に伸びが鈍化したが,長期的に途上国を中心 に需要は増大し,一方で既存油田の減退率上昇等の制約条 件が顕在化する中で,相対的に生産コストの高い中小規模 油田や深海油田等へのシフトが見込まれ,原油価格は上昇 傾向に向うと想定した.LNG 輸入価格は,JCC(Japan Crude Cocktail)と呼ばれる原油輸入価格とリンクした価格決定方 式に従うと仮定し,原油価格と同率で上昇すると想定した. 一般炭価格は,過去の傾向から原油価格に比較してその価 格上昇率は低いが,一般炭輸送用のバンカー油の価格上昇 等の影響により,緩やかな価格上昇を想定した.また本稿 では MARKAL モデルで想定する原子力発電設備容量は外 生的に設定する.ただし,その不確実性が大きいため,次 項の通り,いくつかのシナリオを設定し,日本のエネルギ ー需給に与える影響を感度分析する.なお,本稿での経済 成長,燃料価格,人口や,次章で推計した主要な産業活動 指標等の社会経済指標の見通しの設定に関しては長期エネ ルギー需給見通しと大きな差異は無い. (2)シナリオ設定 本稿では原子力発電の見通し,ならびに,エネルギー起 源の CO2制約に関してシナリオを設定する(表 2).

IP: 実質民間企業設備投資,IG: 実質公的固定資本形成 ,IH: 実質民間住宅投資,IIP: 鉱工業生産指数, CP: 実質民間最終消費支出,CG: 実質政府最終消費支出 ,SETAI: 世帯数,WARMDD: 暖房度日, COOLDD: 冷房度日: PFUEL:燃料価格,CPI: 消費者物価指数,PELE: 電力価格,GDPPOP: 一人当たり所得, PDG: GDPデフレータ, TERIDI: 第3次産業活動指数,YDP: 可処分所得, PC: 民間最終消費支出デフレータ , POPT: 人口 MARKALモデル IP, IG, IH, IIP IP, IG, IH CP, CG, IP TERIDI, IIP CP, SETAI, WARMDD CP, SETAI, COOLDD CP, SETAI, PFUEL, CPI,  WARMDD, COOLDD CP, SETAI, PELE, CPI GDPPOP, PFUEL, PDG, WARMDD GDPPOP, PFUEL, PDG,  COOLDD GDPPOP, PFUEL,PDG,  WARMDD, COOLDD GDPPOP, PELE, PDG YDP, PC , POPT CP, IP, CG, TERIDI, IIP, POPT 粗鋼需要 セメント需要 エチレン需要 延床面積 暖房需要 冷房需要 給湯需要 暖房需要 冷房需要 給湯需要 動力照明需要 旅客輸送需要 貨物輸送需要 動力照明需要 GDPコンポーネント、デフレータ、物価、産業生産指数など 海外要因 : 世界貿易、為替レートなど 経済政策 : 公共投資、税負担、社会保障など 人口要因 : 人口、高齢化、世帯、労働力人口など エネルギー価格 : 原油、LNG、石炭輸入価格 外生値 計量経済モデル <産業部門> <家庭部門> <業務部門> <運輸部門> 主な説明変数 被説明変数 回帰 分析

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表 2 シナリオ設定 原子力シナリオ 備考 (稼働率はいずれも 85%を想定) 原子力:基本計画 2030 年までに 14 基が新規建設: 2009 年 49GW,2035 年 68GW, 2050 年 68GW 原子力再起シナリオ 福島第一廃炉,10 年経過後に福島第二 運転再開,関東圏事業者の計画除く原 発は新規建設: 2009 年 49GW,2035 年 56GW, 2050 年 57GW 原子力維持シナリオ 福島第一・第二廃炉,関東圏事業者の 東通原発除く着工済み原発のみ新規建 設,運転期間 60 年: 2009 年 49GW,2035 年 38GW, 2050 年 22GW CO2制約シナリオ 備考 CO2制約なし CO2排出上限制約なし CO2制約あり 2030 年: 1990 年比 30%削減 2050 年: 1990 年比 60%削減 図4 原子力シナリオの想定 原子力発電の見通しに関して,3 つのシナリオを想定す る(表 2,図 4).「原子力:基本計画」では,経済産業省の エネルギー基本計画14)に従い,敦賀 1 号機(36 万 kW)の廃 炉を考慮した上で,2030 年までに 14 基が新規建設される と想定する.ただし,東日本大震災以降の社会情勢等に基 づくと,実際には実現が困難なシナリオであると考えられ る.「原子力再起シナリオ」では,福島第一原発の廃炉(470 万 kW)を考慮した上で,10 年経過後の福島第二原発の運転 再開,ならびに,関東圏の電気事業者が関与する計画を除 いた新規原発建設計画が予定通り進展すると想定する.「原 子力維持シナリオ」では,福島第一原発の廃炉と福島第二 原発の廃炉(計 910 万 kW)を考慮した上で,関東圏の電気事 業者が関与する東通原子力発電所を除く着工済みの新規原 発建設計画のみ,予定通り進展すると想定する.また同シ ナリオでは,運転期間が 60 年を超える原発は運転を随時停 止すると想定するため,2030 年までは原子力の設備量は一 定量で維持されるが,それ以降 2050 年にかけて原子力の設 備量は減少する.なお本稿では,現行の長期エネルギー需 給見通しの目標値に基づき,原子力の稼働率は 2015 年以降, すべてのシナリオで 85%を想定している.ただし,この稼 働率は過去の実績値を上回る値であるため,今後の政策動 向等によっては下回る可能性もあることに留意を要する. CO2制約に関しては,2030 年の排出量上限を,エネルギ ー基本計画を参考として,1990 年排出量比 30%削減13) 2050 年の排出量上限を 1990 年比で 60%削減するように制 約を設定する.なお,CO2削減対策の分析に際し,本稿で は国際間の排出量取引やクリーン開発メカニズム(CDM) 等の国際的な柔軟性措置は考慮せず,国内の技術対策のみ を考慮する. 3.計算結果 3.1 エネルギーサービス需要 2.2 節で説明した統合型エネルギー経済モデルの概要に 従い推計した最終消費部門におけるエネルギーサービス需 要を図 5 に示す. 産業部門のエネルギー需要は,産業生産活動と密接に相 関し,業種毎にエネルギー消費構造が異なるため,業種毎 の生産動向を見通す必要がある.特に産業部門のエネルギ ー消費の大部分を占めるエネルギー多消費型産業である素 材系製品(粗鋼,セメント等)の生産動向の把握は重要で ある.素材系製品の生産量は,人口減少を背景とした社会 資本設備や住宅・事務所ビルの飽和など,土木・建設需要 の頭打ちにより,概して減少傾向で推移する.既に減産が 続いているセメント生産は,今後も公共投資の抑制などに より官公需が減少し,下支えしていたマンション,オフィ スビルなど民需も徐々に減少していくと考えられる.粗鋼 生産でも建設用鋼材などの需要が落ち込むと見込まれる. 業務部門には,事務所や商業ビル,学校や病院なども含 まれ多岐にわたる.業務部門における活動指標としては, 商業販売額や第 3 次産業活動指数などの統計があるが,こ れまでの統計的検証から業務部門のエネルギー需要は業務 用床面積との相関が高いことが分かっている.業務用床面 積は経済のサービス化の進展とともに,これまでは GDP の伸び以上に増加してきた.今後も床面積は増加すること が見込まれるが,人口の減少などにより伸びは鈍化し,こ れに伴い,業務部門の空調需要等の各種サービス需要の伸 びも長期的に飽和する.家庭部門も人口,世帯数の減少に 伴い,同じく,各種サービス需要の伸びも軟調に推移する. 運輸部門のエネルギー需要を見通す上で重要な活動指標 は,旅客輸送需要(人キロ)及び貨物輸送需要(トンキロ) である.旅客輸送需要は,これまで自家用乗用車の保有台 数の増加とともに増加してきた.しかし,足元は保有台数 の増加ほど旅客輸送量は増加していない.これは,保有増 加の主体が世帯のセカンドカーとなってきており,台当た 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 0 10 20 30 40 50 60 70 80 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 20 15 20 20 20 25 20 30 20 35 20 40 20 45 20 50 稼働 率 [%] 原 発設備 量 [G W ] 原子力:基本計画 原子力再起 原子力維持 稼働率

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(a) 産業部門 (b) 業務部門 (c) 家庭部門 (d) 旅客部門 (e) 貨物部門 図5 エネルギーサービス需要 りの走行距離が短く,また乗車人数も少なくなってきてい ることを反映している.さらに,景気の低迷や人口の頭打 ちにより,最近の旅客輸送量はほぼ横ばいとなっている. 今後は,人口の減少や自動車保有台数も頭打ちとなること から,長期的に減少基調で推移する.生産活動と密接な関 係にある貨物輸送需要は,生産活動が今後も増加するもの の,製造業の軽薄短小化,経済のサービス化等により長期 図6 部門別最終エネルギー消費量の比較 図7 エネルギー源別最終エネルギー消費量の比較 的に軟調に推移する.とりわけ,粗鋼,セメントなどの素 材系生産の減少により,海上輸送(内航船舶)は減少する. サービスの付加価値化(宅配,保冷輸送など)に伴い,ト ラック輸送は 2030 年ごろまでは増加傾向を示す. 3.2 最終エネルギー消費 各シナリオの最終エネルギー消費を示す(図 6,図 7).最 終エネルギー消費の合計値とその内訳は,原子力シナリオ 間で比較すると差異は小さい.これは,基準的な原子力の 導入シナリオにおいても,最終消費部門において高効率技 術が導入されるため,原子力の導入縮小により電力供給価 格が上昇しても,省エネがあまり進展しないためである. CO2制約の無い場合,基本計画シナリオにおける最終エ ネルギー消費量は 2050 年にかけて減少し,2050 年の同消 費量は,2005 年比で 34%減少し,石油換算 2.2 億トンとな る.部門別では,旅客部門をはじめとして,最終消費部門 全般でエネルギー消費が減少する.CO2制約シナリオでは, 2050 年の基本計画シナリオの最終エネルギー消費の合計 値は,CO2制約の無い場合に比較して約 1 割省エネが進む. 60 80 100 120 140 160 180 200 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 20 15 20 20 20 25 20 30 20 35 20 40 20 45 20 50 最終需要 [2005= 100 ] その他 鉄鋼 パルプ ガラス他 化学 紙・板紙 セメント他 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 199 0 199 5 200 0 200 5 201 0 201 5 202 0 202 5 203 0 203 5 204 0 204 5 205 0 最終需 要 [2 00 5 = 10 0 ] 動力・照明 暖房 給湯・厨房 空調・冷房 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 19 90 19 95 20 00 20 05 20 10 20 15 20 20 20 25 20 30 20 35 20 40 20 45 20 50 最終 需 要 [2 00 5 = 10 0 ] 動力・照明 暖房 給湯・厨房 空調・冷房 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 最終需 要 [2 00 5 = 10 0 ] 鉄道 自動車 航空機 船舶 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 最終需 要 [2 0 0 5 = 1 0 0 ] 鉄道 自動車 航空機 船舶 0 50 100 150 200 250 300 350 400 2005 2035 2050 2050 2050 2050 2050 2050 原子力:基本計画 原子力 再起 原子力 維持 原子力: 基本計 画 原子力 再起 原子力 維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 最終エネル ギー 消 費 量 [MT O E] 貨物輸送 旅客輸送 家庭 業務 産業 0 50 100 150 200 250 300 350 400 2005 2035 2050 2050 2050 2050 2050 2050 原子力:基本計画 原子力 再起 原子力 維持 原子力: 基本計 画 原子力 再起 原子力 維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 最 終 エ ネ ルギー 消費量 [M TOE] 再生可能等 石炭製品 石油製品 LPG 都市ガス 電力

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最終エネルギー消費をエネルギー源別にみると(図 7), CO2制約の無い場合,基本計画シナリオでは,業務部門, 家庭部門等での電化の進展により,電力消費の比率が増加 し,その構成比率は 2005 年の 25%から 2050 年には 36%へ 拡大する.一方,石油消費量が減少し,その構成比率は 2005 年の 49%から 2050 年には 33%へ減少する.CO2制約があ る場合の基本計画シナリオにおける 2050 年の構成比率を みると,CO2制約が無い場合に比較して,2050 年の電力消 費の比率が 2%ポイント増加して 38%へ増加する. なお,エネルギー源別の最終エネルギー消費をみると, CO2制約がある場合,原子力が縮小するケースでは,化石 燃料の中で CO2排出原単位の小さい都市ガス消費量も増加 が抑制される.これは,CO2制約のある場合,原子力の大 幅な縮小は,発電部門での CO2削減コストの上昇を促し, その結果,最終エネルギー消費部門における都市ガスの消 費抑制(省エネ)が経済合理性のあるオプションとして選択 されるためであると考えられる. 3.3 発電部門 各シナリオにおける発電部門の計算結果を示す(図 8). CO2制約の無い場合,基本計画シナリオでの発電量の内 訳をみると,ガス火力の比率が減少する一方,石炭火力, 原子力等の比率が徐々に拡大する.発電量合計値は,電力 需要の増加により 2035 年にかけて増加するものの,それ以 降,人口減少を背景に減少する. CO2制約が無い場合,原子力比率は 2005 年の 31%から, 2050 年には基本計画シナリオで 49%まで増加するが,原子 力再起シナリオで 42%,原子力維持シナリオで 16%まで低 下する.CO2制約がある場合の 2050 年の原子力比率は,電 力の省エネを背景に若干比率が高まり,基本計画シナリオ で 52%,原子力再起シナリオで 46%,原子力維持シナリオ で 16%となる.CO2制約がある場合,再生可能エネルギー の比率は,CO2制約がない場合に比較して増加する. 図8 発電量構成の比較 図9 電源別発電量の変化量(「原子力:基本計画」を基 準とした変化量,2050 年) 2050 年における基本計画シナリオを基準とした電源別 発電量の変化量をみると(図 9),CO2制約がない場合,原子 力発電の減少分は主に石炭火力により代替される.また, CO2制約がある場合,原子力の縮小分は主に CO2回収・貯 留技術(CCS)付きガス複合火力により代替され,この結果, 原子力維持シナリオでは,天然ガス火力(ガス火力,CCS 付きガス複合火力)の比率は約 4 割(44%)へ上昇する(図 8). なお,図 8 を参照すると,CO2制約のない場合,原子力 維持ケースでの 2050 年の結果をみると,MARKAL での電 源構成決定方法に基づき,石炭火力はベース電源とピーク 電源の双方の役割を担う電源として導入されるため,原子 力と石炭火力を合わせた比率が大きい結果となっている. このように,基本的に CO2排出制約が存在しない場合, 石炭火力が,原発の代替電源として継続的に増加する一方, CO2制約が存在する場合,大幅な CO2排出量の削減を実現 するため,再生可能エネルギーや CCS 付ガス複合火力発電 が原発の代替電源として拡大する.再生可能エネルギー(太 陽光や風力発電など)は文献15)を参考に設定した上限量ま で拡大し,その上で,ガス複合_CCS が拡大する.石炭火 力_CCS(IGCC_CCS)も導入可能性が考えられるが,本稿で は,表 1 の通り,ガス複合_CCS の建設単価が石炭火力_CCS よりも安いこと,並びに CCS の CO2回収率が,ガス複合 _CCS(CO2回収率 97%)の方が石炭火力_CCS(同 92%) よりも高いことから,燃料価格は石炭がガスより安いが, ガス複合_CCS が拡大する結果が導かれたと考えられる. また,太陽光や風力等の再生可能エネルギーの導入量に 関しては,文献15)に基づき導入上限量を設定しており(太陽 光:1.4 億 kW,風力発電:2000 万 kW 等),CO2制約があ る場合,2050 年にはいずれもほぼ導入上限量まで増加する. 3.4 一次エネルギー供給 各シナリオの一次エネルギー供給の計算結果を示す(図 10).CO2制約の無い場合,基本計画シナリオの一次エネル 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 2005 2035 2050 2050 2050 2050 2050 2050 原子力:基本計画 原子力 再起 原子力 維持 原子力: 基本計 画 原子力 再起 原子力 維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 発電量 [T W h ] 再生可能等 水力 原子力 ガス複合_CCS ガス火力 石油火力 IGCC_CCS 石炭火力 ‐600 ‐400 ‐200 0 200 400 600 原子力再起 原子力維持 原子力再起 原子力維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 発電量 [T Wh] 再生可能等 水力 原子力 ガス複合_CCS ガス火力 石油火力 IGCC_CCS 石炭火力

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図10 一次エネルギー供給 図11 一次供給の変化量(「原子力:基本計画」を基準と した変化量,2050 年) ギー供給量は 2050 年にかけて減少し,2050 年の一次エネ ルギー供給量は,2005 年比で石油換算 1.4 億トン(28%)減 少し,同 3.6 億トンとなる. エネルギー源別に見ると,原 油価格,LNG 価格の上昇を反映して,石油と天然ガスの比 率が減少する一方,石炭と原子力の比率が上昇する. 現在,供給構成の中で最も重要な燃料源である石油の比 率は,運輸部門での省エネの進展等を背景に,2005 年の 45%から 2050 年に 22%へ減少する.原子力の新規建設数 が減少する原子力再起シナリオ,原子力維持シナリオと基 本計画シナリオを比較すると,電源構成の変化に対応し, 原子力は主として石炭により代替される(図 11). CO2制約がある場合,2050 年の基本計画シナリオの一次 エネルギー消費は,CO2制約の無い場合に比較して,約 1 割省エネが進む.エネルギー源別構成比率では,CO2制約 が無い場合に比較して,石炭の比率が大きく減少する一方, 天然ガス,再生可能エネルギーの比率が増加する.石炭の 比率は 2005 年の 20%から,2050 年には CO2制約のある基 本計画シナリオでは 12%まで減少する.また,非化石エネ ルギーの比率は 2005 年の 19%から 2050 年には省エネの進 展,再生可能エネルギーの増加を反映して,51%まで上昇 する(CO2制約の無い基本計画シナリオでは 44%). 2050 年における基本計画シナリオを基準とした一次エ ネルギー供給の変化量をみると(図 11),CO2制約のない場 合,原子力維持シナリオでは原子力の導入減少に伴い(基本 計画シナリオに比較して原発約 46GW 減少),石炭消費量が 約 9000 万トン増加し(2009 年の日本の石炭輸入量:1.6 億 トン),原子力再起シナリオでは(同原発約 11GW 減少),石 炭消費量が約 2300 万トン増加する.同じく CO2制約のあ る場合,原子力維持シナリオでは,天然ガス消費量が約 6500 万 LNG 換算トン増加し(2009 年の日本の LNG 輸入 量:6600 万トン) ,原子力再起シナリオでは天然ガス消費 量が約 2500 万 LNG 換算トン増加する.原子力の新規建設 が長期的に停滞する原子力維持シナリオでは,CO2制約の 有無にかかわらず,経済合理的な解として,石炭や LNG 等の化石燃料の供給が大幅に増加することから,これらの 燃料の調達拡大,安定供給の確保が重要な課題となる.特 に,CO2制約のある場合,原子力の導入が長期的に停滞す る原子力維持シナリオでは,一次エネルギー供給に占める 天然ガスの比率が約 4 割(38%)に達し(図 10),原子力の代替 エネルギーとして,天然ガスの役割が拡大する. なお,一次エネルギー供給で見た場合,CO2制約がある 場合,原子力が減少する2ケースでの”再生可能等”を見 ると(図 11),最終消費(図 7)と発電部門(図 9)で増加してい るにもかかわらず,あまり変化が見られないが,これは, CO2制約を背景に,発電部門以外での転換部門におけるエ ネルギー消費量が省エネにより減少するためである. 3.5 CO2排出量 各シナリオにおける CO2排出量の計算結果を示す(図 12). CO2制約が無い基本計画シナリオでは,2050 年にかけて, CO2排出量が減少する.2035 年にかけては,産業部門,旅 客輸送部門,民生部門における省エネ,燃料転換を背景に, これらの部門において CO2排出量が減少する.2035 年以降, 2050 年にかけては,再生可能エネルギー等の非化石電源比 率の拡大により,電力部門の CO2排出量が相対的に大きく 減少することが分かる. CO2制約が無い場合,2050 年の CO2排出量を見ると,原 子力の新規建設数が減少する原子力再起シナリオ,原子力 維持シナリオと基本計画シナリオを比較すると,原子力の 減少は石炭火力により代替されるため,電力部門に起因し て CO2排出が増加する. 石炭消費が原子力再起シナリオで約 2300 万トン,原子力 維持シナリオで約 9000 万トン増加する結果,2050 年の排 0 100 200 300 400 500 600 2005 2035 2050 2050 2050 2050 2050 2050 原子力:基本計画 原子力 再起 原子力 維持 原子力: 基本計 画 原子力 再起 原子力 維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 一 次 エ ネ ル ギ ー消費量 [M T O E] 再生可能等 水力 原子力 天然ガス 石炭 石油 ‐100 ‐80 ‐60 ‐40 ‐20 0 20 40 60 80 100 原子力再起 原子力維持 原子力再起 原子力維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり 一 次 エ ネ ルギー 消 費量 [MTO E] 再生可能等 水力 原子力 天然ガス 石炭 石油

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図12 CO2排出量の比較 出量は,基本計画シナリオに比較して,原子力再起シナリ オで約 6000 万トン,原子力維持シナリオで約 2.5 億トン増 加する.また,2050 年の CO2排出量は,基本計画シナリオ で 2005 年比 44%減少,原子力再起シナリオで 39%減少, 原子力維持シナリオで 25%減少となり,原子力導入の規模 が縮小するにつれ,CO2排出量の減少テンポが緩やかにな る. CO2制約がある場合,基本計画シナリオでは,経済合理 的観点から,再生可能エネルギー等による燃料転換や CCS の導入が進み,電力部門での排出量が大きく減少する.原 子力の影響に関しては,2050 年の CO2排出量において,原 子力維持シナリオと基本計画シナリオを比較すると,原子 力の減少,ガス複合火力の増加により電力部門で CO2排出 量が増加するが(天然ガス消費量が約 6500 万 LNG 換算トン 増加し,CO2排出量は約 1.9 億トン増加),同時に CCS の導 入拡大により,CO2排出量が安定化される.CCS 導入量は, 基本計画シナリオで 0.3 億トン,原子力再起シナリオで 0.3 億トン,原子力維持シナリオで 1.2 億トンとなる. 2050 年における CO2限界削減費用(2000 年実質価格) は(CO2排出量を 60%削減する CO2制約ありの場合),基本 計画シナリオで約 800$/t-CO2に達する一方,原子力の導入 が 長 期 的 に 停 滞 す る 原 子 力 維 持 シ ナ リ オ で は 約 1200$/t-CO2に達し,原子力の導入が縮小することで CO2 限界削減費用が上昇する結果となった.本稿の分析では, 想定した技術の中から,最小となる費用で CO2排出制約を 満たす技術の組合せが決定され,CO2限界削減費用は,CO2 排出制約のシャドウプライスとして求めているが,分析の 結果,原子力の基本計画シナリオでは,高効率給湯器(業務 部門)の導入,原子力維持ケースでは断熱技術(家庭部門)の 導入が,CO2限界削減費用の決定に関与していると考えら れる. 本稿では原子力の減少量が拡大するにつれて,CO2限界 削減費用も大幅に上昇する傾向が得られた.ただし,本稿 では MARKAL モデルで想定している技術のみに着目して 分析しているため,本想定以外の革新的省エネ技術や消費 者による省エネ行動等も考慮することが可能となった場合, CO2限界削減費用も緩和される可能性があることに留意す る必要がある. また,CO2制約が存在する場合,割引率による割引前の 2050 年時点の年間システム総コストは,原子力維持シナリ オでは,原子力:基本計画シナリオと比較して,原発の導 入縮小を背景として,約 2 割上昇する結果となった. 4.まとめ 本稿では,トップダウン型の計量経済モデルと,ボトム アップ型のコスト最小化型技術評価モデル(MARKAL)を組 合せた統合型エネルギー経済モデルを新たに構築し,これ により CO2制約と原子力の各種シナリオの下で,2050 年の 日本のエネルギー需給見通しを作成した.エネルギー基本 計画に基づく原子力のシナリオでは,2050 年の総発電量に 占める原子力比率は約 5 割に達すると想定し,原子力の長 期計画が停滞した場合(原子力維持シナリオ),その比率は 2 割以下(16%)へ低下するとした想定の下で分析を実施した. CO2制約のない場合,原子力の導入縮小(原子力維持シナ リオ)は主に石炭火力の増加を促し,エネルギー基本計画に 基づくシナリオに比較して,2050 年において石炭消費が約 9000 万トン増加,CO2排出量は約 2.5 億トン増加する.一 方,CO2制約のある場合(2050 年の CO2排出を約 6 割削減), 原子力の減少(原子力維持シナリオ)は天然ガス火力の増加 をもたらす.エネルギー基本計画のシナリオに比較して, 天然ガス消費が約 6500 万 LNG 換算トン増加し,一次エネ ルギー供給に占める天然ガスの比率が約 4 割(38%)に達し, 原子力の代替エネルギーとして天然ガスの役割が拡大する. このように,CO2削減を実現する際,原子力の代替エネル ギーとしてガス供給を主に拡大する場合,天然ガスの安定 供給の確保が重要な政策課題として位置づけられると考え られる.さらに CO2制約は 1 割程度の省エネ,最終消費部 門における燃料転換,発電部門における再生可能エネルギ ーの増加,発電部門での CO2回収・貯留技術(CCS)の導入 を促す. 本稿の計算結果より,原子力の導入が長期的に停滞する 場合,CO2排出量の大幅削減を経済合理的に国内対策のみ で実現するためには,燃料転換,再生可能エネルギー導入, CO2回収・貯留技術等の導入の拡大など,複合的な対策が いずれも必要となる.なかでも,原子力発電設備量が 2050 年に現状の半分以下まで大幅に縮小する場合,発電部門に ‐200 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 2005 2035 2050 2050 2050 2050 2050 2050 原子力:基本計画 原子力 再起 原子力 維持 原子力: 基本計 画 原子力 再起 原子力 維持 CO2排出制約なし CO2排出制約あり CO 2 排出量 [Mt ] CCS 貨物輸送 旅客輸送 家庭 業務 産業 転換(除電力) 電力 正味排出量

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おいて天然ガスへの依存度が大きく上昇し,一次エネルギ ー供給に占める天然ガスの比率が約 4 割まで上昇する.そ のため,天然ガスが中核的なエネルギー供給源として選択 された場合,天然ガス備蓄制度の整備,天然ガス海外自主 権益の獲得強化等をはじめとして,天然ガスの安定供給確 保がエネルギー政策上の重要な課題となる可能性がある. なお本稿では CO2限界削減費用を計算しているが,本稿 で用いた MARKAL モデルのような積み上げ型モデルでは, 分析対象とする技術の範囲が限定されるため,削減目標が 厳しくなれば,取りうる対策が限られるため,その結果, CO2限界削減費用の高い対策に依拠する傾向がある点16)に 注意が必要である. 今後は,本稿で構築したエネルギー経済モデルを用いて, 中国,インドなど,今後エネルギー需要の拡大が見込まれ るアジア途上国を中心にエネルギー需給シナリオを作成す る予定である. 参考文献 1) 日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編;エネ ルギー・経済統計要覧 2011 年版,省エネルギーセン ター(2011) 2)福田内閣総理大臣スピーチ「低炭素社会・日本」をめざ して, 平成 20 年 6 月 9 日. (http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/06/09speech.ht ml:アクセス日 2009 年 12 月 6 日) 3)経済産業省; 長期エネルギー需給見通し(再計算)につ いて,(2009),経済産業省; (http://www.meti.go.jp/report/data/g90902aj.html: ア ク セ ス日 2010.10.10) 4)佐藤治,「我が国の長期エネルギー需給シナリオに関す る検討」,JAREI-Research 2005-012,日本原子力研究所 (2005) 5) 佐藤治, 下田誠, 立松研二, 田所啓弘; 我が国における 二酸化炭素削減戦略と原子力の役割,JAREI-Research 99-015,日本原子力研究所(1999) 6) 後藤純孝, 佐藤治, 田所啓弘; 我が国の長期エネルギー システムのモデル化,JAREI-Research 99-046,日本原 子力研究所(1999) 7)小宮山, 鈴木, 永富, 松尾, 末広; 統合型エネルギー経済 モデルによる 2050 年までの日本の CO2排出削減技術 の分析,(2011), エネルギー・資源学会第 27 回エネルギ ーシステム・経済・環境コンファレンス. 8)栁澤明; わが国の長期エネルギー需給展望-環境制約と 変化するエネルギー市場の下での 2030 年までの見通 し, (2008), エネルギー・資源, 29(6), pp13-17. 9)室田泰弘,越国麻知子,伊藤浩吉; マクロ・産業連関分析 のためのパソコンによる経済予測入門, (2005), 275, 東洋経済新報社.

10)Energy Technology Systems Analysis Program (ETSAP), http://www.iea-etsap.org/web/index.asp, OECD/IEA 11)伊藤浩吉,松尾雄司,小宮山涼一; アジア/世界エネルギー アウトルック 2010-アジア/世界の長期エネルギー 需給展望と環境問題の解決に向けた技術の役割-, (2010), (財)日本エネルギー経済研究所第 405 回定例研 究報告会, 東京. 12)国立社会保障・人口問題研究所; 日本の将来推計人口, (2006), 国立社会保障・人口問題研究所.

13)IEA(International Energy Agency); World Energy Outlook 2010, (2010), OECD, Paris. 14)経済産業省; エネルギー基本計画, (2010), 経済産業省 (http://www.meti.go.jp/press/20100618004/20100618004-2 .pdf:アクセス日 2010 年 12 月 6 日). 15)環境省; 低炭素社会構築に向けた再生可能エネルギー 普及方策について,(2009),環境省 (http://www.env.go.jp/earth/ondanka/mlt_roadmap/comm/ com05_h20a.html:アクセス日 2010 年 11 月 15 日). 16)永田豊, 森裕子; 日本の中期 CO2 削減費用とモデル分 析の課題, 社会経済研究, No.58, pp. 3-13, 2010.

表 1  各電源のコスト,効率等の想定  固定費 可変費 (年) (%) (%) (ドル/kW) (ドル/kW) (ドル/MJ) 石炭火力 40 70 36-41 2,600 100 1.35 IGCC_CCS 40 70 42 3,900 200 2.51 IGCC 40 70 47-49 3,200 150 1.93 石油火力 40 50 39 1,400-1,900 79 0.57 原子力 60 72-85 - 2,200-3,000 136 1.12 水力 60 45-50 - 4,500 148
表 2  シナリオ設定  原子力シナリオ  備考  (稼働率はいずれも 85%を想定)  原子力:基本計画 2030 年までに 14 基が新規建設:    2009 年 49GW,2035 年 68GW,  2050 年 68GW  原子力再起シナリオ  福島第一廃炉,10 年経過後に福島第二 運転再開,関東圏事業者の計画除く原 発は新規建設:  2009 年 49GW,2035 年 56GW,  2050 年 57GW  原子力維持シナリオ  福島第一・第二廃炉,関東圏事業者の 東通原発除く着工済み原発の

参照

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