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ワクチンデリバリーを基盤とした粘膜ワクチン開発 医薬基盤 健康 栄養研究所ワクチンマテリアルプロジェクト / 腸内環境システムプロジェクト *1) 東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 / 国際粘膜ワクチン研究開発センター *2) 大阪大学大学院医学系研究科 薬学研究科 歯学研究科 *3) *4) 神

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医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト/腸内環境システムプロジェクト*1) 東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野 / 国際粘膜ワクチン研究開発センター*2) 大阪大学大学院 医学系研究科・ 薬学研究科・ 歯学研究科*3)・神戸大学大学院 医学研究科*4)

鈴木英彦

*1)

・國澤 純

*1~4)

ワクチンデリバリーを基盤とした

粘膜ワクチン開発

Development of antigen delivery system for mucosal vaccine

Mucosal tissues are constantly exposed by exogenous materials including various pathogens and thus they invade into our body through mucosal tissues. Mucosal vaccine is an effective strategy against mucosal infectious diseases, and has been already clinically used. Unlike injectable vaccines, mucosal vaccines induce immune responses at mucosal as well as systemic compartments. Because administration of protein vaccine alone to mucosal tissues dose not induce sufficient immune responses, mucosal vaccines require antigen delivery system to deliver the antigen to mucosa-associate lymphoid tissues for the induction of effective immune responses. In this review, we focus on the development of vaccine delivery system for the prospective mucosal vaccine.  “内なる外”と呼ばれる粘膜組織は絶えず外来因子に暴露されており、多くの病原体の侵入経路と なっている。病原体が引き起こす感染症に対する予防法として有効なのがワクチンである。特に近年 実用化されてきている「吸う・飲む」といった方法でワクチン接種を行う粘膜ワクチンは、従来行われ てきた注射型ワクチンと異なり粘膜面にも免疫応答を誘導できることから、粘膜を介し感染する病原 体に対して極めて有効である。現在、効果的な粘膜免疫応答を誘導するためにワクチンを適切な場所 に送達し、ワクチン効果を増強しようとするワクチンデリバリーの開発が盛んに行われている。本稿 ではワクチンデリバリーシステムを基盤とした粘膜ワクチン開発に関して、筆者らが得ている知見も 交えて紹介したい。

Hidehiko Suzuki*1), Jun Kunisawa*1~4)

Keywords: Mucosal vaccine, IgA, Mucosa-associated lymphoid tissues

感染症領域における DDS の活用

*1) Laboratory of Vaccine Materials and Laboratory of Gut Environment System, National Institutes of Biomedical Innovation,

Health and Nutrition(NIBIOHN)

*2) Division of Mucosal Immunology and International Research and Development Center for Mucosal Vaccines,

The Institute of Medical Science, The University of Tokyo *3) Graduate School of Medicine, Graduate School of Pharmaceutical

Sciences, and Graduate School of Dentistry, Osaka University *4) Graduate School of Medicine, Kobe University

1.はじめに  ジェンナーによる天然痘ワクチン開発を皮切り に、現在までにさまざまなワクチンが開発され、感 染症の減少に大きく貢献している。しかしながら、 世界規模での気候の変化や交通機関の発達に伴い、 感染症の発症地域の拡大やパンデミックが危惧され ている。このような社会的背景のもと、新興・再興 感染症に対するワクチン開発の必要性が再認識され ている。  これまでに感染症に対する数多くのワクチンが開 発されてきているが、そのほとんどは注射型ワクチ ンである。注射型ワクチンは体内の免疫応答の誘導 により、体内に侵入した病原体や感染細胞を排除す ることができるため、感染症の重篤化を予防するの に効果的である。一方で粘膜組織を侵入門戸として いる病原体に対しては、粘膜組織にも免疫応答を誘 導し、初発感染を防ぐことが望ましいが、注射型ワ クチンでは粘膜組織における免疫応答の誘導はあま り期待できない。この点においてワクチンを「吸う・

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飲む」といった方法で投与する粘膜ワクチンは、体 内の免疫システムのみならず粘膜組織における免疫 応答も誘導可能であることから、粘膜を介し感染、 発症する感染症の予防に理想的なワクチンであると 言える。また免疫学的な有効性のみならず、シリン ジや針といった医療廃棄物がでないことや侵襲性が 低いことなど、実用性にも優れるワクチンとして認 識されている(表1)。すでに粘膜ワクチンは実用化 のステージに突入しており、日本では2種類のロタ ウイルスワクチン、海外ではインフルエンザ、サル モネラチフス、コレラに対する粘膜ワクチンが上市 されている(表2)1)  前述の実用化されている粘膜ワクチンは、コレラ を除き生ワクチンである。生ワクチンは有効性に優 れるものの、ときに病原性を示す危険性があり、安 全性が危惧されることがある。一方、組換えタンパ ク質を用いたサブユニットワクチンは安全性に優れ るが、単独では免疫原性などの問題から有効なワク チン効果が得られないことが問題である。特に物理 的・化学的障壁の多い粘膜組織を介したワクチン投 与においては、デリバリー技術によりワクチンを分 解から回避し、適切な免疫誘導組織に送達すること が必要である。本稿では、デリバリー技術を活用し た粘膜ワクチンの開発に関し、近年筆者らが得てい る知見を交えて概説する。 2.粘膜ワクチンによる粘膜免疫誘導機構  粘膜免疫を誘導することで粘膜組織に生体防御機 構を構築し、初発感染予防効果を得ようとするのが 粘膜ワクチンの概念である。粘膜免疫を誘導する中 核組織として機能するのが、粘膜関連リンパ組織 (Mucosa-associated lymphoid tissues:MALTs)で ある。MALTs はさまざまな粘膜組織に存在してお り、鼻腔では鼻咽頭関連リンパ組織(Nasopharynx-associated lymphoid tissue:NALT)、腸管では腸 管関連リンパ組織(Gut-associated lymphoid tissue: GALT)が知られている2)。体内に存在するリンパ組 織では、抗原を捕捉した樹状細胞が輸入リンパ管を 介して侵入することで免疫応答が開始される。これ に対し、MALTs には輸入リンパ管が存在せず、そ の代わりに抗原取り込み口として上皮細胞層に M 細胞が存在する。M細胞は隣接する上皮細胞に比 表1 粘膜ワクチンの特徴 注射型ワクチン 粘膜ワクチン 投与経路 皮下・筋肉注射など 経口・経鼻など 免疫応答 全身免疫 全身・粘膜免疫 予防効果 全身免疫による重篤化予防 粘膜免疫による  初発感染予防    + 全身免疫による  重篤化予防 侵襲性 高い 低い 表2 臨床応用されている粘膜ワクチン 対象病原体 形 態 投与経路 主な生体防御機構 日本での承認 ロタウイルス 弱毒生ワクチン(RotaRix® Strain:Human rotavirus 89-12 経口 VP4、VP7に対する 粘膜IgA、血中IgG 済 弱毒生ワクチン(RotaTeq® Strain:Bovine rotavirus WC3 経口 済 コレラ菌 不活化ワクチン+ コレラ毒素Bサブユニット(Dukoral® Strain:O1型 経口 コレラ毒素Bサブユニット およびリポサッカライド に対する腸管IgA 未 不活化ワクチン+ コレラ毒素Bサブユニト(Shanchol® Strain:O1型、O139型 経口 未 チフス菌 弱毒生ワクチン(Vivotif® Strain:Ty21a 経口 粘膜IgA、血中IgG、細胞傷害性T細胞 未 インフルエンザウイルス 弱毒生ワクチン(Flumist® Strain:H1N1pdm、H3N2、 Yamagata、Victoria 経鼻 ヘマグルチニンおよび ノイラミニダーゼ 特異的粘膜IgA、血中IgG 未

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図1 粘膜関連リンパ組織を介した粘膜免疫誘導

①粘膜関連リンパ組織上の M細胞を介して粘膜ワクチンが取り込まれ、直下に存在する樹状細胞に捕捉される。②その後、T細胞を活性化させる。③ IL―4や TGF―βなどの存在下、胚中心において T細胞と樹状細胞からの刺激を受けた IgM陽性B細胞は IgA陽性B細胞へとクラススイッチする。④IgA 陽性B細胞は血流を経て、粘膜固有層に遊走し、⑤IgA産生形質細胞へと分化する。⑥産生された IgA はポリイムノグロブリン受容体を介して、管腔側 に分泌され、⑦病原体や毒素と結合することで侵入阻害や中和に働く。 べ、①絨毛が短く疎い、②粘液産生が少ない、③取 り込んだ抗原を分解することなくリンパ組織内にト ランスサイトーシスできる、④基底側がポケット構 造になっており、樹状細胞が存在するなどの抗原取 り込みとその後の効率的な免疫誘導に適した構造と 機能を有している3)。M細胞から取り込まれた抗原 は速やかに樹状細胞に捕捉、提示され、抗原特異的 な免疫応答が誘導されていく。  粘膜ワクチンにおける代表的な実効分子の1つは 分泌型IgA抗体である。M細胞を介して MALTs に取り込まれた抗原は樹状細胞を介して提示さ れ、T細胞や B細胞の活性化を引き起こす。特に MALTs では IL―4や TGF―βが豊富な環境となって いるため、B細胞の IgM から IgA へのクラススイッ チが優位になる。このような環境下において活性化・ 分化した IgA陽性B細胞は、血流を経て粘膜固有 層へと遊走され、IgA抗体を産生する形質細胞へと 最終分化する。その後、産生された二(多)量体IgA 抗体は、上皮細胞の基底側に発現するポリイムノグ ロブリン受容体を介して管腔側に分泌され、病原体 や毒素に結合し侵入阻害や中和を行うことで生体防 御を行う(図1)。これら一連の免疫誘導経路を考え ると、MALTs、特に M細胞への抗原送達が重要で あると言える。 3. 微生物の M 細胞結合能を利用した ワクチンデリバリー  病原体の中には M細胞を介して侵入するもの が存在する。その侵入機構を利用した粘膜ワクチ ンデリバリーが考案されている。例えば、M細 胞上の C5 a受容体に結合するエルシニアの outer membrane protein H を用いたワクチンデリバリー が考案されており、outer membrane protein H に デングウイルス抗原を融合したタンパク質を経口投 与することで、デングウイルス抗原特異的な免疫 応答の誘導が可能である(表3)4)。またレオウイル スの膜表面分子であるσ1は M細胞上のα2 ,3―シア ル酸や JAM―A と結合することが知られている5 ,6) これまでに、σ1の H domain を用いたワクチンデ サイトカイン (IL-4、TGF-βなど) -④ ① 粘膜ワクチン M細胞 樹状細胞 ② T 細胞 細胞T T 細胞 ③ IgA陽性 B細胞 IgM陽性 B細胞 B 細胞 細胞B 胚中心 粘膜関連リンパ組織 血流 B B B ⑤ IgA産生形質細胞 粘膜固有層 IgA ポリイムノ グロブリン受容体 ⑥ ⑦ 管腔

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リバリー開発が行われており、H domain に卵白ア ルブミンを融合したタンパク質を経鼻投与すること で卵白アルブミン特異的な免疫応答が誘導されるこ とが報告されている7)  さらに病原体だけではなく共生細菌に着目した ワクチンデリバリー開発も行われている。例え ば、Lactobacillus acidophilus L―92株の表層に発 現している surface layer protein A は M細胞上の uromodulin と結合し、パイエル板内部に取り込ま れる(表3)8)。さらにLactobacillus の中には IgA

を促進するアジュバント作用を有するものも存在 する。筆者らは、Lactobacillus pentosus strain b240がパイエル板から取り込まれた後、樹状細胞 に作用し IL― 6の産生を促進することで IgA産生が 増強することを報告している(表3)9)  さらに筆者らは、ヒトやサル、マウスのパイエ ル板の組織内部に共生する細菌としてAlcaligenes を同定している(表3)10)Alcaligenes は M細胞を 介してパイエル板内部に入り、樹状細胞に取り込 まれる。Alcaligenes の刺激を受けた樹状細胞は

BAFF や IL― 6といった IgA産生増強に関わるサイ トカインを分泌する10 ,11)。すなわち、Alcaligenes は M細胞指向性のみならず、IgA産生を促進する サイトカイン誘導能も併せもった理想的な経口ワ クチンデリバリー担体であるといえる(図2)。最近 筆者らはAlcaligenes の主要菌体成分であるリポポ リサッカライドが、過剰な炎症を誘導せず適度に 免疫の活性化が可能なアジュバントであることを 見出している12)。現在はこれらの知見を発展させ、 Alcaligenesの経口ワクチンデリバリーやアジュバ ントへの応用を進めている。 4.M細胞特異的抗体を用いたワクチンデリバリー  微生物機能以外に、M細胞に特異的に結合する 抗体やレクチンを用いたワクチンデリバリーも考案 されている。古くから M細胞上のα1 ,2―フコース を認識するUlex europaeus agglutinin―1(UEA―1) レクチンを用いたワクチンデリバリーの可能性が提 唱されていた13)。さらに UEA―1陽性細胞を免疫す 表3 ワクチンデリバリー担体の特徴 ワクチンデリバリー担体 標 的 特 徴  病原体由来成分  エルシニア

 (outer membrane protein H) C5a受容体 ・ 菌由来分子であるため、菌そのものを用いるよりも 安全性が高い

・M細胞やclaudin-4への指向性を有する  レオウイルス(σ1) α2, 3-シアル酸、JAM-A

 Clostridium perfringens enterotoxin

 (C末断片) Claudin-4  共生細菌

 Lactobacillus acidophilus L―92 uromodulin ・ M細胞を介してパイエル板内に侵入する

・ 樹状細胞に取り込まれIgA産生促進サイトカインを 誘導

・共生細菌であるため安全性が高い  Lactobacillus pentosus strain b240 不明

 Alcaligenes 不明  M細胞特異的抗体  NKM 16―2―4 α1, 2-フコースを含む糖鎖複合体 ・ M細胞への指向性を有する ・ 杯細胞などのM細胞以外に結合性を示さない  2F11―C3(mouse) Glycoprotein 2  人工粒子  陽電荷ナノゲル 負電荷を帯びた鼻腔上皮細胞層 ・ 表面修飾が可能・ サイズ調整が可能  植物  コメ 不明(受動取り込み?) ・ 消化酵素耐性・ 長期室温保存可能 ・ M細胞に取り込まれやすい粒子径

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ることにより M細胞特異的抗体(NKM 16―2―4)が 樹立されている(表3)。NKM 16―2―4は UEA―1と 異なり、杯細胞などの他の UEA―1陽性上皮細胞に は結合せず、M細胞に高い選択性を示す。これら の機能を反映し、破傷風やボツリヌスのトキソイド を融合したものを経口投与することで、これらの毒 素に対する防御免疫の誘導が可能であることが報告 されている14)  さらには NKM 16―2―4陽性M細胞と陰性上皮細 胞の遺伝子発現解析から、M細胞特異的マーカー として glycoprotein 2(GP2)が同定されている15) GP2はマウスやヒトのパイエル板M細胞の管腔側 に局在して発現しているため、M細胞標的型粘膜 ワクチンの標的として有効と考えられる16)。実際に GP2抗体にサルモネラタンパク質を修飾したもの は、M細胞から効率的に取り込まれ、サルモネラ 特異的な粘膜免疫と全身免疫の誘導が可能であった (表3)17)。抗体をワクチンデリバリーとして実用化 するには製造コストなどの課題の解決が必要になる が、1つの有用なアプローチになる。 5.Claudin―4 を標的とした粘膜ワクチンの開発  MALTs を含む粘膜上皮細胞層を形成する上皮 細胞間にはタイトジャンクションからなる強固 な物理的バリアが存在する。M細胞以外を介し た MALTs への抗原取り込み経路として、タイト ジャンクションを通り抜ける経路が考えられる。 タイトジャンクションを構成する claudin は少な くとも27種類以上のファミリーが存在し、組織 特異性を示す18)。MALTs の M細胞を含む粘膜上 皮細胞には claudin―4が高発現しており、筆者ら は claudin―4が粘膜ワクチンのデリバリー標的と なることを示している19 ,20)。Clauin―4結合分子と してはウエルシュ菌毒素の C末断片(C―terminal fragment of Clostridium perfringens enterotoxin: C―CPE)が知られている(表3)。C―CPE は、①細胞 傷害性領域である N末端を欠損しているため、細 胞傷害性を示すことなく claudin―4に結合するこ と、②claudin―4はクラスリン領域を有するため、 claudin―4に結合した C―CPE はクラスリン依存的に 図2  による IgA 産生増強機構 ① はパイエル板上の M細胞を介して、組織内へと侵入する。②その後、 は樹状細胞に捕捉され、③IgA産生増強に関わるサイトカ

イン(IL―6や BAFF など)産生を誘導し、④IgA産生を促進する。

樹状細胞 ① M細胞を介した   パイエル板内部への侵入 ② 樹状細胞への取り込み ③ I gA産生増強サイトカイン  (e.g. IL-6、BAFF)の産生 Alcaligenes UEA-1(M細胞) 管腔 パイエル板 CD11c(樹状細胞)DAPI Alcaligenes ④ IgA誘導 Alcaligenes M細胞 パイエル板

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細胞内に取り込まれることが報告されている21 ,22) このような背景をもとに筆者らは現在、C―CPE を 用いた claudin―4標的型粘膜ワクチンを開発してい る。モデル抗原として卵白アルブミンと C―CPE の 融合タンパク質を用いた検討から、①C―CPE の claudin―4結合依存的に融合した抗原に対し特異的 な免疫応答が粘膜組織と体内において誘導できる こと、②投与に伴う炎症症状などが認められない こと、③肝臓や腎臓での毒性が認められないこと を明らかにしている19 ,23 ,24)。さらに筆者らはより実 用的なモデルとして肺炎球菌ワクチンへの応用も 行っている。肺炎球菌は90種類以上の血清型が存 在し、肺炎、髄膜炎、中耳炎などの症状を呈する呼 吸器感染症である。これら複数の肺炎球菌の共通抗 原である Pneumococcal surface protein A(PspA) と C―CPE との融合タンパク質(PspA―C―CPE)を作 製し、claudin―4を標的とした肺炎球菌経鼻ワクチ ンの可能性を検証した。鼻腔における粘膜免疫誘導 組織である NALT上皮細胞への結合性を検証した ところ、PspA単独では上皮細胞への結合性が見ら れなかったのに対し、PspA―C―CPE は M細胞を含 む NALT上皮細胞への結合性が認められた。この 機能を反映し、PspA―C―CPE投与群では、PspA特 異的な免疫応答が全身および呼吸器において認めら れ、これらの免疫応答は肺炎球菌の感染に対し十分 な防御効果を示した(図3)25)。C―CPE の標的である claudin―4は NALT のみならず、パイエル板にも発 現しているため、本システムを用いた腸管感染症へ の応用も期待できる。 6.人工粒子を用いた粘膜ワクチンデリバリー開発  リポソームやナノゲルなどの人工粒子にワクチン 抗原を封入したワクチンデリバリーの開発が行われ ている。人工粒子を用いることの利点としては、サ イズ調整や表面修飾を行うことで、MALTs への取 り込み効率を上げられる点がある。例えば、ポリ乳 酸/ グリコール酸共重合体粒子に M細胞結合ペプ チドを修飾することで、パイエル板からの取り込み 効率が向上し、優れた免疫応答が誘導できることが 報告されている26)。また一般に上皮細胞は負に帯電 しているため、ナノマテリアルに陽電荷を付与する ことで上皮細胞への結合強度を上げ、デリバリー効 率を向上させることも可能である。実際に、コレス テロール置換プルランに陽電荷を付与したナノゲル 粒子は、長時間鼻腔上皮細胞層に保持され、封入し 図3  Claudin―4 を標的とした肺炎球菌経鼻ワクチン

肺炎球菌抗原(PspA)と claudin―4結合分子である C―CPE との融合タンパク質(PspA―C―CPE)は経鼻投与することにより、M細胞を含む NALT上皮層の claudin―4に結合し、組織内に取り込まれる。この機能を反映することで、PspA特異的鼻腔IgA が誘導される。誘導された PspA特異的IgA により肺炎 球菌に対する生体防御機構が構築される。 希釈率(Log2) 生 存 率 ( %) M細胞を含むNALT上皮細胞の

claudin-4に結合し、取り込まれる PspA-C-CPEによりPspA特異的鼻腔IgAが誘導 PspA特異的鼻腔IgAにより肺炎球菌に対する生体防御機構が構築

NALT結合性 PspA特異的鼻腔IgA 肺炎球菌感染 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0 4 5 6 7 8 100 80 60 40 20 0 0 2 4 6 8 10 12 14 鼻咽頭関連 リンパ組織 PspA-C-CPE M細胞 PspA PspA-C-CPE PspA PspA-C-CPE 鼻腔 吸 光 度 感染後日数

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たワクチン抗原を効率的に送達し、免疫誘導するこ とが可能である(表3)27)。ナノマテリアルの中には 徐放性医薬品としてすでに上市されているものもあ り、製造面からも実績があるため、実用化に向けて 有利である。 7.植物を用いた粘膜ワクチン開発  従来から行われてきた大腸菌などを用いた組換え ワクチンと異なり、タバコ、ジャガイモ、トウモロ コシなどの植物に遺伝工学技術を用いてワクチン抗 原を発現させた植物型ワクチンが開発されてきて いる。日本ではゲノム解析などの研究が進んでい るコメに着目したワクチン開発が進められている (表3)。コメを用いる利点としては、①消化酵素耐 性を示すプロテインボディと呼ばれるタンパク質貯 蔵体が存在し、人為的にワクチン抗原をプロテイン ボディに蓄積させることで消化酵素による分解を回 避できる、②プロテインボディがパイエル板に取り 込まれやすい大きさである、③長期間常温保存可能 であるといったことがあげられる。特に③について は、ワクチンの保存設備が十分でない発展途上国な どでの使用を考えた際には大きな利点となる。すで にコレラワクチンとしての有効性がマウスやサルで 確認されており28 ,29)、現在、ヒトでの臨床試験が開 始されている。 8.おわりに  最近、世界的な問題となったエボラ出血熱やデン グ熱、ジカ熱だけではなく、病原性大腸菌や梅毒な ど日本国内においても感染症が社会的問題となって いる。さらには多剤耐性菌の問題などもあり、今後 さらにワクチン開発が必要となる感染症が増加する と思われる。その中で粘膜ワクチンは有効性と利便 性の両者において開発が期待されているが、その実 現に向けては本稿で紹介したようなワクチンデリバ リー技術の開発が必要不可欠である。より実用化に 適した粘膜ワクチンデリバリーの開発のためには、 微生物学、免疫学、薬剤学の密接な連携と融合が重 要である。今後、関連領域の先駆的研究が連動する ことで、日本発、世界初の粘膜ワクチンが開発され ることを期待したい。 謝辞  本稿で紹介した研究の多くは、複数の研究費のご支援の もと、大阪大学大学院薬学研究科 八木 清仁先生、近藤 昌 夫先生、東京大学医科学研究所 清野 宏先生をはじめとする 多くの先生方との共同研究として遂行したものである。本 研究に参画していただいた皆様に深く御礼申し上げます。 文献

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