52-1
戸建住宅の通風利用による省エネルギー効果
中野 誠司 1. はじめに 古来より、日本の住宅では通風が室内環境の改善に 有効な手法と考えられてきた。だが、現在多く利用さ れている空調機器による冷房は、自然風利用による涼 房とは対になるものである。そのため、室内熱環境を 考えるに当たり開口部は弱点として考えられ、現代で は高気密・高断熱住宅が多くなり、開口部の断熱性能に のみ着目した研究・開発が進められている。しかし、高 気密・高断熱の建物はピーク時の負荷削減に効果があ るものの室内に熱がこもりやすく、夏季の空調開始時 に立ち上がり負荷が多くなるという欠点も持ち合わせ ている。今後の持続可能な社会形成には、建築のパッ シブ手法・アクティブ手法による省エネルギー対策だ けでなく、住まい手の自然エネルギーを有効利用しよ うとする意識が重要になってくると考えられる。 本稿では、自然風を利用する場合と、しない場合の 空調負荷を算出し、自然風の利用が室内の熱環境やエ ネルギー消費にどのような影響を及ぼすのか、シミュ レーションにより検討を行う。 2. シミュレーション概要 2.1 負荷計算プログラム概要 本研究では、動的熱負荷計算プログラム THERB1)を 用いて室内熱環境のシミュレーションを行う。既往の 研究 2)で用いていたプログラムは、設定温湿度を与え 顕熱・潜熱負荷の算出を行っていた。しかし、この方 法は冷房時の空調機による除湿が成り行きにより行わ れず、潜熱負荷を過剰に算出する問題点があった。本 研究では既存のプログラムに空調機のモデルを組み込 み、より実態に近い状況を想定したシミュレーション を行う。図 1 に冷房期間の熱負荷算出フローチャート を示す。PMV[-]が設定値+1.0 以下の場合は空調せず次 の計算に進み、PMV が設定値より高い場合は、設定値 を満足するまで冷房を行い、負荷を算出する。冷房時 の室内空気の状態推移を図 22)に示す。算出した負荷 L[W]、室内空気温度 Tr[o C]、室内機風量 Mr[m3/min]か ら、一定の割合(BF[-] : バイパスファクタ)の空気が 熱交換器に触れず、残りの割合の空気が熱交換器と接 触し熱平衡状態になるとの仮定のもと、(式 1)より熱 交換器表面空気温度Tevp[o C]を求める。 除湿が行われる場合、熱交換器表面空気の相対湿度 は 100%となり、絶対湿度の差から潜熱負荷を算出す る。算出した顕熱負荷・潜熱負荷から空調後の室内空気 温湿度を算出する。熱交換器を素通りした空気①と、 接触した空気②の混合空気③が吹出し空気となる。空 調 機 の 最 大 処 理 能 力 は 3.3[kW] 、 室 内 機 風 量 は 12.1[m3/min]、バイパスファクタは 0.2[-]で一定とする。 2.2 通風量・室内通風速度算出法 通風量 Q[m3 /s]は(式 2)3)より算出する。流量係数 α[-]は 0.66、干渉係数 m[-]は 0.82 と設定する。風圧係 数差ΔC[-]は風向が窓面に対して 0 度から 45 度の場合 0.5、45 度から 90 度の場合 0.2 と設定する。室内通風 速度v[m/s]は(式 3)より算出する。(式 2)より求め た通風量を対象建物の断面 A[m2 ]で除した値を室内通 風速度の算出値とする。 2.3 設定条件 検討モデルは単純住宅モデル(図 3)を使用し、各 部位構成は熱損失係数 Q 値の次世代省エネルギー基準 値を満たすものとする。検討地域は福岡市、気象条件 は拡張アメダス気象データ 4)(標準年)を使用する。 検討モデルの開口部は、福岡市の夏季における卓越風 向(北)を考慮し南北に設ける。平均外気温度が 20[o C] を上回る 6 月から 9 月を空調期間とし、24 時間 PMV による空調制御を行う。建物内部に大人 1 人がいるこ とを想定し、内部発熱は 58[W]、内部発湿量は 10[g/h] で一定とした。立地条件は、日照障害がなく自然風利 用が容易な郊外型立地を想定した。自然風利用の効果 を 検 討 す る に 当 た り 、 自 然 風 を 利 用 し な い 場 合 を L Tevp=Tr −(
(
1 BF) )
1.2・ Mr・ − (式 1)A
Q
v
=
(式 3) (式 2)( )
( )
θ α cos 1 2 1 V A m C Q w ・ = ∆ ・52-2 Case_1 とし、室内空気と外気の入れ替えはないものと し、換気回数は隙間風を想定し常に 0.1[回/h]とする。 自然風利用による通風で PMV が設定値を満足する際、 空調を止め自然風利用を行う場合を Case_2 とする。こ の場合、空調を行う際の換気回数は 0.1[回/h]とする。 夜間(0 時から 5 時)のみ自然風を利用し外気を室内 に取り込み、それ以外の時間帯は Case_1 同様に外気を 室内に取り入れない場合を Case_3 とする。この場合、 夜間以外の換気回数は 0.1[回/h]とする。 3. 結果・考察 3.1 月積算負荷比較 各ケースの月積算冷房負荷比較を図 4 に示す。比較 的気温の低い期間では通風による冷房負荷削減効果は 期待でき、Case_2 は Case_1 に対して、6 月・9 月では 約 20%冷房負荷が削減される。しかし、外気温湿度が 高くなる 7 月・8 月では約 10%冷房負荷が増加、特に潜 熱負荷が多く発生し冷房負荷削減効果は期待できない。 6 月から 9 月まで Case_2 を採用した場合、Case_1 と比 較して約 5%冷房負荷が増加する。Case_1 と Case_3 の 比較から、夜間換気の効果は各月とも期待ができ、6 月・9 月では約 10%、7 月・8 月では約 5%冷房負荷が削 減される。6 月から 9 月まで Case_3 を採用した場合、 Case_1 と比較して約 5%冷房負荷が削減される。 3.2 通風利用の効果 6 月の代表日(6 月 18 日)における外気条件、Case_1、 Case_2 の室内熱環境、熱負荷を図 5 に示す。Case_2 では外気温度が低く、湿気も少ないため通風により室 内空気温湿度、PMV ともに Case_1 より低くなる。ま た、通風による体感温度低下から、Case_2 は空調を行 わずに PMV が設定値+1.0 を満足する時間が日中にあ り、冷房負荷は Case_1 と比較して大幅に削減される。 しかし、Case_1 と異なり空調機による除湿を行ったと しても、通風の際外気の湿気を室内に取り込むため、 空 調 時 再 び 除 湿 が 行 わ れ 潜 熱 負 荷 の 発 生 頻 度 は Case_2 より多くなる。 8 月の代表日(8 月 14 日)における外気条件、Case_1、 Case_2 の室内熱環境、熱負荷を図 6 に示す。非空調時 は通風による体感温度の低下から Case_2 の PMV は Case_1 より低い値となる。しかし、6 月に比べて外気 が 高 温 多 湿 な た め 、 通 風 利 用 後 の 室 内 空 気 湿 度 は Case_1 と比較して高くなる。そのため、空調時の潜熱 負荷も Case_1 と比較して高くなる。また、空調後の通 風によって外気の湿気を室内に取り込むため再び湿度 が上昇し、次の空調時の潜熱負荷が増加する。この影 響から、Case_2 は 7 月・8 月において自然風利用による 7 月 6 月
Case_1 Case_2 Case_3 Case_1 Case_2 Case_3 Case_1 Case_2 Case_3 Case_1 Case_2 Case_3
8 月 9 月 400 300 200 100 0 月積算冷房負荷 [kWh] 顕熱負荷 潜熱負荷 図 4 月積算冷房負荷比較 空調判断 ループ END 除湿判断 ループ END 負荷>処理能力 START 室温湿度算出 顕熱負荷算出 END 全熱負荷算出 負荷 = 最大処理能力 室温湿度算出 吹出し空気温度算出 Yes Yes Yes Yes No No No No No 図 1 負荷計算フローチャート (a)非除湿時 図 2 空調機モデル (b)除湿時 絶対湿度 [g/kg(DA)] 乾球温度 [oC] 飽和水蒸気圧曲線 比エ ンタ ルピ ー[k J/kg (DA )] Tr Tout Tevp Xr BF 1-BF ① ② ③ 絶対湿度 [g/kg(DA)] 乾球温度 [oC] 飽和水蒸気圧曲線 比エ ンタ ルピ ー[k J/kg (DA )] Tr Tout Tevp Xr Xevp Xout BF 1-BF ① ② ③ 図 3 単純住宅モデル[mm] (a)立面図 250 3,000 2,500 250 (b)平面図 4,000 2,000 1,000 1,000
52-3 通風を行った際、負荷が増大していると考えられる。 以上より、比較的気温が低く、湿気の少ない 6 月・9 月においては、自然風利用による通風は有効な冷房負 荷削減手法といえ、日中においても通風効果で空調を 行わずに涼しい環境を作ることが出来る。しかし、外 気が高温多湿となる 7 月・8 月においては、空調時に潜 熱負荷が増加するため、有効な手法とはいえない。図 7 に Case_1 と Case_2 の各月における積算空調時間を 示す。Case_2 は Case_1 と比較して、6 月・9 月では約 30%空調時間が削減される。一方、7 月・8 月では空調 時間に差は殆ど現れない。 3.3 夜間換気の効果 6 月の代表日(6 月 18 日)における外気条件、Case_1、 Case_3 の室内熱環境、熱負荷を図 8 に示す。夜間の外 気温度が低いため、換気を行うことで Case_3 の午前中 の室内空気温度は Case_1 より低くなる。そのため Case_3 の空調開始時の立ち上がり負荷は Case_1 と比 較して低い値となる。また、Case_2 と異なり空調機に よる除湿後、外気を室内に取り込まないため室内湿度 は低い値となり、PMV も Case_1 と比較して低くなる。 8 月の代表日(8 月 14 日)における外気条件、Case_1、 Case_3 の室内熱環境、熱負荷を図 9 に示す。非空調時 は夜間冷気を室内に取り込むため、室内空気温度、 PMV ともに Case_1 より低い値となる。そのため、6 月同様に空調開始時に立ち上がり負荷は Case_1 と比 較して低くなる。また、空調後の換気を行わないため Case_2 の際、問題となっていた湿度の上昇が抑えられ、 潜熱負荷の増加が抑制され、Case_1 と比べて熱負荷は 低い値となる。 以上より、自然風を利用した夜間のみの換気は、外 気温湿度が低い時期だけでなく、外気が高温多湿な時 期においても有効な手法であり、空調開始時の立ち上 がり負荷の削減に効果がある。 1:00 12:00 24:00 28 26 24 22 90 80 70 60 0.018 0.016 0.014 0.012 温度 [ oC] 相 対湿度 [% ] 絶対湿度 [g/kg(DA)] P M V [-] +1.0 -1.0
Case_1 Case_2 Outside
0 1:00 12:00 24:00 顕 熱負荷 [k W h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 潜 熱負荷 [k W h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 Case_1 Case_2 1:00 12:00 24:00 28 26 24 22 90 80 70 60 0.018 0.016 0.014 0.012 温度 [ oC] 相 対湿度 [% ] 絶対湿度 [g/ kg(D A )] P M V [-] +1.0 -1.0
Case_1 Case_2 Outside
0 1:00 12:00 24:00 顕 熱負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 潜 熱負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 Case_1 Case_2 (a)室内熱環境 (b)冷房負荷 図 6 Case_1 と Case_2 比較(8 月) (a)室内熱環境 (b)冷房負荷 図 5 Case_1 と Case_2 の比較(6 月) 図 7 積算空調時間(6 月・9 月) 7 月 6 月
Case_1 Case_2 Case_1 Case_2 Case_1 Case_2 Case_1 Case_2
8 月 9 月 200 150 100 50 0 月積 算 空調 時 間 [hour]
52-4 4. おわりに 本稿では、PMV による空調制御を行った際の空調負 荷を算出し、自然風の利用が室内の熱環境やエネルギ ー消費にどのような影響を及ぼすのか、シミュレーシ ョンにより明らかにした。自然風を利用し通風を行っ た場合、外気温湿度の低い期間では空調時間の削減か ら冷房負荷の削減が見込まれる。一方、外気が高温多 湿な時期では、通風の際、外気の湿気を室内に取り入 れるため潜熱負荷の増加をまねき、負荷削減効果は見 込めず、逆に負荷の増加をまねく可能性がある。しか し、夜間のみ自然風による換気を行う場合、外気温湿 度が低い時期だけでなく、外気が高温多湿な時期にお いても冷房負荷削減効果は期待でき、自然風を利用し ない場合と比較して約 5%冷房負荷が削減される。 6 月・9 月では自然風利用による通風を行い、7 月・8 月 で は 自 然 風 利 用 に よ る 夜 間 換 気 を 行 う 場 合 を Case_4 とする。Case_1 と Case_4 の月積算冷房負荷比 較を図 10 に示す。Case_1 と比較して Case_4 の冷房負 荷は年間で約 10%削減される。今後は、建物内部の吸 湿性能や、地域による気候の違いが自然風利用にどの ように影響するか検討を行う。
【参考文献】
1) Ozaki A, Watanabe T and Takase S: Simulation Software of the Hydrothermal Environment of Buildings Based on Detailed Thermodynamic Models, eSim 2004 of the Canadian Conference on Building Energy Simulation, pp.45-54,2004
2) 中野誠司, 尾崎明仁, 渡辺俊行, 赤司泰義, 松田千怜: 自然エ ネルギーを使用した戸建住宅の暖冷房負荷削減手法の評価 (その 2)自然風利用による冷房負荷削減効果について,日本 建築学会大会学術講演論文集, pp.59-60, 2010 3) 上野剛, 北原博幸, 宮永俊之, 占部亘: 住宅用エアコンの冷房 時熱源特性モデルの開発(第 1 報)冷房時熱源特性のモデル 化, 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集, pp.85-88, 2010 4) 石原正雄: 建築換気設計, 朝倉書店, 1969 5) 赤坂裕, 他 11 名: 拡張アメダス気象データ, 日本建築学会, 2005 7 月 6 月
Case_1 Case_4 Case_1 Case_4 Case_1 Case_4 Case_1 Case_4
8 月 9 月 400 300 200 100 0 月積 算 冷房負 荷 [kWh] 顕熱負荷 潜熱負荷 図 10 積算冷房負荷 1:00 12:00 24:00 28 26 24 22 90 80 70 60 0.020 0.015 0.010 0.005 温度 [ oC] 相対 湿度 [% ] 絶対 湿度 [g/kg(D A )] P M V [-] +1.0 -1.0
Case_1 Case_3 Outside
0 1:00 12:00 24:00 顕 熱負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 潜熱 負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 Case_1 Case_3 1:00 12:00 24:00 28 26 24 22 90 80 70 60 0.020 0.015 0.010 0.005 温度 [ oC] 相対 湿度 [% ] 絶対 湿度 [g/kg(D A )] P M V [-] +1.0 -1.0
Case_1 Case_3 Outside
0 1:00 12:00 24:00 顕 熱負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 潜熱 負荷 [kW h ] 1.2 0.9 0.6 0.3 Case_1 Case_3 (a)室内熱環境 (b)冷房負荷 (a)室内熱環境 (b)冷房負荷 図 9 Case_1 と Case_3 比較(8 月) 図 8 Case_1 と Case_3 の比較(6 月)