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相関色温度と覚醒水準との関係 -昼食後の時間帯における光環境の影響- [ PDF

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Academic year: 2021

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相関色温度と覚醒水準との関係

―昼食後の時間帯における光環境の影響―

渡辺 亮 1. はじめに 光が睡眠や覚醒、概日リズムに与える影響について、 特に夜間における光の覚醒作用に関する研究が多く行 われてきた。しかし、人間が健康で快適に過ごせるた めの視環境の設計や工業規格の策定には、夜間だけで なく、昼間や早朝など、一日の他の時間帯に浴びる光 の生理的作用に関する知見を得る必要がある。特に昼 間においては、ポストランチディップと呼ばれる、覚 醒水準が落ち込む時間帯があり、この時間帯における 強い眠気は判断ミスや事故につながる可能性があり、 危険である 1)。しかし昼間は夜間に比べ、光による生 理的影響が実験結果に顕著に表れにくいということも あり、昼間に浴びる光の生理的作用に関する研究は少 なく、研究の余地があると言える。 夜間において、短波長光成分が覚醒水準の上昇を促 す と い う こ と が 報 告 さ れ て い る 一 方 、Sahin と Figueiro は 2013 年に、昼食後の時間帯に単色光を用 いた実験において、赤色光の方が青色光に比べ、覚醒 を促す可能性があるということを示した2)。また、Rea らも2014 年に、早朝に単色光を用いた実験において、 同様の傾向を示した3)。近年、短波長光成分が覚醒を促 すということが広く知られるようになり、青色光に注 目した製品を見かけるようになったが、上記のように、 短波長光成分だけでなく、長波長光成分も覚醒作用を 持つ可能性があると考えられ、学界は正しい知見を得 るとともに、ユーザーに対して正しい知識を提供して いく必要がある。 そこで本研究では、実際の照明光は単色光ではなく 白色光であること、昼間に白色光を用いて覚醒水準を 検討した実験は少ないことから、Sahin と Figueiro の 研究を参考に、青色光を高色温度光に、赤色光を低色 温度光に置き変え、検証的に実験を行った。脳波測定 と眠気の主観評価を指標とする被験者実験により、昼 食後の時間帯における相関色温度と覚醒水準との関係 を調べた。また、同様の照明条件における相関色温度 と作業性との関係を調べるため、午前と午後の 2 回に わたる単純作業の成績比較による作業効率の検討を行 った。 2. 覚醒水準の検討 相関色温度と覚醒水準との関係について調べるため、 脳波測定と眠気の主観評価を行った。 2-1. 実験方法 研究室内に実験装置(縦600 mm×横 900 mm×高さ 600 mm)と顎台を設置し、椅子の高さを調節すること で被験者が安静な状態を保てるようにした。研究室は 暗幕を用いて昼光が入らないようにし、実験装置の外 側をアルミ箔で覆うことで、装置内部に外光が入らな いようにした。実験装置にはのぞき穴と注視点を設け、 被験者の視線を固定できるようにした。LED 電球を使 って装置内を照明し、照明条件は顔面照度100 lx、放 射照度50 μW/cm2で一定とした。LED 電球は被験者か らは見えない位置に設置して間接照明方式とし、装置 内を白色にすることで輝度分布を均一にし、グレアの ない状態にした。実験装置の断面図を図1 に示す。 実験条件は高色温度光(約6800 K)と低色温度光(約 2300 K)、及び、対照条件の Dark(照明光なし)の 3 条件とした。1 時間装置内を見せ、生理的指標として脳 波測定、心理的指標として眠気の主観評価による覚醒 水準の検討を行った。1 回目の脳波測定と主観評価を基 準とするため、12 分経過した時点で光照射を開始し、 48 分間光照射を続けた。実験中、被験者には残り時間 を伝えなかった。実験条件と実験手順を図2 に示す。 実験は2014 年 8 月~2015 年 1 月の 14:30~15:30 に1 日 1 条件行った。実験回数は 1 条件当たり 1 人 2 回、1 人当たり計 6 回行った。実験への慣れを考慮し、 図 1 実験装置断面 LED 電球 注視点 顎台 600 mm 6 00 mm 側方に開口部

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47-2 実験日の間隔は最低 1 週間を設けた。被験者は健康な 大学生4 名(男性 2 名、女性 2 名、平均年齢 23.0 歳) を用いた。実験中、室温は被験者にとって不快でない ように調節した。被験者としての要件は①喫煙してい ないこと②色覚が正常であること③心身ともに健康で あること④現在服用中の薬がないこと⑤3 か月以内に 交代勤務や海外旅行の経験がないことの5 つとした。 色覚検査は標準色覚検査表を用いて行った。被験者に は実験日当日までの 1 週間の起床時間と就寝時間、当 日の朝食と昼食を記録させた。実験日前日の就寝時間 は23:00~24:00、当日の起床時間は 7:00 まで、昼食の 時間は12:00~13:00 とした。実験日前日と当日におけ るアルコールやカフェインの摂取と、当日における昼 寝、うたた寝を控えるよう指示した。 脳波測定は経過時間9 分 30 秒から 1 回目を開始し、 2.5 分間の測定を 7 回行い、各測定の間には 5.5 分間の インターバルを設けた。測定にはActiwave を用いて行 い、国際10-20 法に従い、Fz,Cz,Pz,Oz の 4 か所、及 び基準点として、左(または右)の耳たぶA1(または A2)に電極を取り付けた。解析には EDFbrowser を用 いて高速フーリエ変換(FFT)を行い、周波数分析を 行った。測定データに0.3~40 Hz の範囲でバンドパス フィルタをかけた後、各試行の150 s 間を 30 s×5 個の 区間に分け、それぞれの区間に対しFFT をかけた。サ ンプルレイトは512 Hz とした。Pz,Oz を α 波の解析に、 Fz,Cz を θ 波の解析に用いた。α 波を 4~8 Hz、θ 波を 8~12 Hz とし、各区間の振幅を平均値化することで、 各測定における振幅を算出した。一連の解析方法は既 往研究に従った。眠気の主観評価は 4 回、脳波測定の 奇数回目の終了時に行い、KSS(Karolinska Sleepiness Scale)の日本語版を用いて口頭で回答させた4)。これ は眠気を9 段階(1:非常にはっきり目覚めている、3: 目覚めている、5:どちらでもない、7:眠い、9:とて も眠い)で回答させるもので、スコアが大きい程、眠 気が強いことを表す。 図 2 実験条件・実験手順 2-2. 実験結果・考察 既往研究を参考に、7 回の脳波測定において振幅を算 出し、1 回目の測定で得られる振幅を基準として、比率 として扱うこととした。比率が高い方が振幅が大きく、 α 波ではよりリラックスした状態、θ 波ではより眠気が 強い状態であることを意味する。α 波では Dark に対し 高色温度光、低色温度光ともに2 回目の測定において 振幅の減少が見られた。これは光の点灯で装置内が明 るくなったことにより、リラックス感が抑制されたた めと考えられる。4~7 回目の測定では、低色温度光の 方が高色温度光よりα 波を減少させ続ける結果となっ た。それぞれの照明条件についてt 検定を行った結果、 4~7 回目において、低色温度光-Dark 間に、4,5 回目 において、高色温度光-低色温度光間に、5 回目におい て高色温度光-Dark 間に有意差が見られた。(p<0.05) しかし、θ 波では 3 つの条件にほとんど違いが見られ ず、それぞれの照明条件について t 検定を行った結果 においても、有意差は見られなかった。213 lx の赤色 (λmax=630 nm)の単色光と 361 lx の電球色(2568 K) の白色光ではどちらもθ 波の抑制が見られなかったと するWood 等の報告も考慮すると、今回の光量(100 lx) の白色光ではθ 波への影響はほとんどないものと考え られる5)。脳波の解析結果を図3 に示す。 (a)α 波 (b)θ 波 図 3 脳波解析結果 0 10 20 30 40 50 60 経過時間(分) 高色温度光 6800[K] 主観評価 (4 回) 経過時間 (分) 脳波測定 (7 回) 低色温度光 2300[K] Dark 10 20 30 40 50 60 0 (ⅲ) (ⅰ) (ⅱ) (ⅰ) (ⅱ) (ⅲ) 光照射開始 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 1 2 3 4 5 6 7 8 比率 高色温度光 低色温度光 Dark 0 10 20 30 40 50 60 経過時間(分) 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 1 2 3 4 5 6 7 8 比率 高色温度光 低色温度光 Dark

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(p<0.05) 0 10 20 30 40 50 60 経過時間(分)

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47-3 次に、眠気の主観評価においても 1 回目のスコアを 基準として扱うこととした。比率が高い方がスコアが 大きく、より眠気が強い状態であるということを示す。 Dark に対し高色温度光、低色温度光ともに比率が小さ い値となった。スコアにおいてもDark では比較的に 6 ~9 の回答が多く、高色温度光と低色温度光の 2 条件 にほとんど違いは見られなかった。しかしそれぞれの 照明条件について t 検定を行った結果、各条件間に有 意差は見られなかった。これはSahin と Figueiro の報 告と類似している2)。以上のことから、相関色温度の違 いが主観的眠気に与える影響は小さいと考えられる。 主観評価の解析結果を図4 に示す。 図 4 主観評価解析結果 3. 作業性の検討 次に、相関色温度と作業性との関係について調べる ため、letter cancellation、文章校正、計算問題の作業 をさせた。 3-1. 実験方法 前の実験装置に腕を通す穴を設け、装置内での作業 を可能にした。照明条件は顔面照度100 lx、放射照度 50 μW/cm2で一定とし、実験条件は高色温度光(約 6800 K)と低色温度光(約 2300 K)の 2 条件とした。 45 分間一定の照明環境下で紙媒体を用いた単純作業を させ、1 日 2 条件、午前(11:00~11:45)と午後(12:15 ~13:00)に行った。最初の 5 分間は明順応とし、作業 内容はletter cancellation 回答用紙 4 枚分(約 15 分間)、 文章校正 10 分間、計算問題 10 分間とした。letter cancellation は 1 枚当たりに要した回答時間と正答率、 文章校正と計算問題はそれぞれ回答数と正答率による 作業効率の検討を行った。11:45~12:15 の 30 分間は休 憩時間とし、被験者に昼食を取らせた。 実験は2015 年 1 月の 11:00~13:00 に 1 日 2 条件行 った。実験回数は1 条件当たり 1 人 1 回、1 人当たり 計2 回行った。被験者は健康な大学生 5 名(男性 3 名、 女性2 名、平均年齢 23.2 歳)を用いた。 3-2. 実験結果・考察 高色温度光、低色温度光のそれぞれにおいて午前と 午後の成績を比較した。letter cancellation においては、 高色温度光において被験者5 名中 3 名について午後に 正答率が上昇し、低色温度光において5 名中 5 名につ いて午後に正答率が低下した。平均回答時間において も高色温度光の方が午前、午後ともに短かった。文章 校正においては、高色温度光、低色温度光ともに、午 後に回答数が減少し、正答率も低下した。平均回答数 においては高色温度光の方が午前、午後ともに多く、 平均正答率も高色温度光の方が午前、午後ともに高か った。計算問題においては、高色温度光において被験 者5 名中 4 名について、低色温度光においても 5 名中 3 名について午後に回答数が増加したが、平均回答数は 午後に高色温度光は+8.0 題、低色温度光は-0.2 題で あった。2 つの照明条件について t 検定を行った結果、 いずれの作業項目においても有意差は見られなかった。 実験結果を図5~7、表 1~3 に示す。 (a)高色温度光 (b)低色温度光 図 5 実験結果(letter cancellation) 表 1 letter cancellation(回答時間・正答率) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 50 100 150 200 250 300 350 ss tk kt ma ns 正答率 [- ] 回答時間 [s /枚 ] 午前 午後 午前 午後 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 50 100 150 200 250 300 350 ss tk kt ma ns 正答率 [ー ] 回答時間 [s /枚 ] 午前 午後 午前 午後 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 1 2 3 4 5 6 7 8 比率 高色温度光 低色温度光 Dark 0 10 20 30 40 50 60 経過時間(分) 色温度 午前 午後 高色 160.5 164.5 低色 170.4 168.7 高色 0.94 0.96 低色 0.97 0.94 平均回答時間 [s/枚] 平均正答率 [-]

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47-4 (a)高色温度光 (b)低色温度光 図 6 実験結果(文章校正) 表 2 文章校正(回答数・正答率) 4. おわりに 相関色温度と覚醒水準との関係について調べるため、 脳波測定と眠気の主観評価による覚醒水準の検討を行 った結果、Dark に対し、高色温度光よりも低色温度光 の方がα 波を減少させた。これは青色の単色光よりも 赤色の単色光の方が α 波を減少させたという、Sahin とFigueiro の報告と類似している2)θ 波については、 各照明条件にほとんど違いが見られなかった。KSS に ついては、Dark に対し 2 つの照明条件において眠気が 抑制されているという結果になったが、各照明条件間 に有意差は見られなかった。今回の実験により、従来 注目されてきた短波長光成分だけでなく、長波長光成 分も覚醒水準を上昇させる可能性があり、それは単色 光だけでなく、白色光においても同様のことが考えら れるということが示された。また、相関色温度と作業 性との関係について調べるため、単純作業による作業 効率の検討を行った結果、有意差は見られなかったが、 高色温度光の方が低色温度光より比較的に良い成績と なった。 (a)高色温度光 (b)低色温度光 図 7 実験結果(計算問題) 表 3 計算問題(回答数・正答率) 謝辞 本研究は科学研究費補助金・基盤研究 B(課題番号 24360237)、および基盤研究 C(課題番号 24570260)に よった。記して謝意を表する。 参考文献

1) Timothy H. Monk: The Post-Lunch Dip in Performance, Clinic in Sports Medicine 24, pp.15-23, 2005

2) Levent Sahin&Mariana G. Figueiro: Alerting effects of short-wavelength (blue) and long-wavelength (red) lights in the afternoon, Physiology & Behavior, 116-117, pp.1-7, 2013 3) Mark S Rea , Yosuke Okamoto, Mariana G.

Figueiro: Temporal dynamics of EEG activity during short- and long-wavelength light exposures in the early morning, BMC Research Notes, 2014 4) Kaida K, Takahashi M, Akerstedt T, Nakata A,

Otsuka Y, Haratani T, Fukasawa K: Validation of the Karolinska sleepiness scale against

performance and EEG variables, Clinical Neurophysiology, 117, pp1574-1581, 2006

5) Brittany M. Wood, Levent Sahin, Barbara Plitnick, Mariana G. Figueiro: Daytime light exposure: Effects on biomarkers, measures of alertness, and performance, Physiology & Behavior, 274, pp176-185, 2014 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 50 100 150 200 250 ss tk kt ma ns 正答率 [ー ] 回答数 [題 ] 午前 午後 午前 午後 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 20 40 60 80 100 ss tk kt ma ns 正答率 [ー ] 回答数 午前 午後 午前 午後 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 20 40 60 80 100 ss tk kt ma ns 正答率 [ー ] 回答数 午前 午後 午前 午後 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 50 100 150 200 250 ss tk kt ma ns 正答率 [ー ] 回答数 [題 ] 午前 午後 午前 午後 色温度 午前 午後 高色 54.6 45.6 低色 51.2 43.0 高色 0.72 0.70 低色 0.73 0.69 平均回答数 平均正答率 [-] 色温度 午前 午後 高色 171.0 179.0 低色 165.8 165.2 高色 0.98 0.98 低色 0.98 0.99 平均回答数 [題] 平均正答率 [-]

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