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Academic year: 2021

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子どもによる授業分析の研究

キーワード : 授業分析,重松鷹泰,授業の事実,子どもの参加,授業改善 所属 教育システム専攻 氏名 清水 良彦 1. 論文構成 第1章 研究の目的と方法 §1.問題の所在と研究の目的 §2.先行研究 §3.研究の対象 §4.研究の方法 第2章 子どもによる授業分析の開発 §1.授業分析シートの修正 §2.授業記録と授業映像 §3.子どもによる授業分析の手順 第3章 子どもによる授業分析の実際 §1.子どもによる授業分析の実施 §2.子どもによる授業分析の結果 第4章 授業分析における子どもの視点 §1.コーディングの手続き §2.授業分析における子どもの視点の析出 §3.授業分析における子どもの視点 §4.従来の授業分析との比較 §5.授業分析における子どもの視点の考察 第5章 子どもによる授業分析の意義 §1.インタビューの概要 §2.子どもによる授業分析の教育的意味 §3.子どもによる授業分析の研究的意味 §4.子どもによる授業分析の改善 第6章 課題と展望 §1.課題 §2.展望 2. 研究の概要 第1章 研究の目的と方法 本研究では、重松鷹泰(1961)以来の「授業分析」の方 法を発展させるために新たな授業分析方法の提案を行う。 授業分析は「現場における実践の事実をありのままにとら えること」(重松 1965)によって行われる。しかし、実践 の事実をありのままに捉えることや、授業のあらゆるすべ ての事実を把握することは不可能である。実際は、その時 点で捉えることのできる授業の事実を基にして授業分析を 行うことになる。であるからこそ、授業分析は常に「事実 がもつ発展の可能性について新しい意味の発見」(小川 1971)に努める必要があり、併せて「授業の新しい事実」(柴 田 2007)に開かれている必要がある。 従来の授業分析は、授業者・現場教師・研究者を実施主 体とし、その協力のもとで連綿と受け継がれてきた。しか しながら、このことは彼らに授業分析が“閉じられている” と言い換えることもできる。授業分析を新たな実施主体に “開く”ことで、従来の授業分析にはない新しい視点から 授業の事実を解釈することや、従来の実施主体が把握する ことができなかった授業の事実を捉えることが可能となる と考えられる。 そこで、本研究では授業分析の新たな実施主体として学 習者である子どもに注目し、「子どもによる授業分析」を実 施する。その理由は二点である。まず第一に、子どもは授 業の当事者である。従来の実施主体とは違った視点から授 業を検討すると予想される。第二に、子どもが授業分析を 実施することは、「子どもの参加の権利」の観点からも意義 を有していると考えられる。「子どもによる授業分析」は、 子どもにもっとも影響を及ぼしているであろう授業につい て、「関与としての参加」をもたらす可能性を有しているの である。 以上のような問題意識から、本研究では「子どもによる 授業分析」を実施し、授業分析における子どもの視点を解 明することを目的とする。 授業分析において子どもの視点を活用しようとする取り 組みや研究は極めて少ない。ここでは、以下の 4 つの先行 研究を紹介したい。 ① 長岡文雄「子どもの行った授業分析」(1972) ② 白岩善雄「学級・学校経営と授業研究」(1978) ③ 林さと子「授業分析における学習者の視点」(1992) ④ 小松弘幸「事後省察法」(1999)

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長岡(1972)は、「くつ下工場」(小学 5 年)の実践のな かで、子どもたちが授業に「熱中して、楽しそうだった」 理由をメモ紙に記入させた。子どもたちの分析は、教材が 内蔵しておくべき条件や発表者の具備していた要件などの 分析を綿密に行っており、「子どもの行った授業分析」とい う言葉で表現するに相応しいものであった。また、白岩 (1978)は、子どもが授業の録音をとり、記録を作成して 自分の発言を他との関連において検討した事例を紹介して いる。これら2つの事例からは、子どもたちが授業を分析 的に検討する姿が読み取れる。 また、林(1992)では、外国語教育のなかで実施される 授業分析について、授業が教師の視点での記録・分析され ているという問題点を指摘している。林は学ぶ主体である 学習者の視点に着目し、学習者視点による授業の観察・記 録の方法の提案を行っている。 そして、小松(1999)はドイツの政治教育における「事 後省察法」を用いた質的授業研究について紹介している。 「事後省察法」とは、授業の終了後に、授業の参加者であ る教師及び生徒に授業のビデオ映像を見せ、各場面で《何 を考えどのように判断したのか》を発言させ、授業記録に 追録する方法である。この授業分析方法の目的は、授業記 録の質を高めることであり、子どもに授業を分析させ、そ の解釈を授業改善に活用するものではない。 以上のように、授業分析における子ども(学習者)の視 点の重要性が注目される一方で、具体的に研究が進んでい ない現状にあると言える。 本研究では、X県W市立東小学校第 5 学年秋山学級を対 象としている。なお、これ以後表記される地名・人物名は すべて仮名である。授業分析の対象としては、2009 年度に 秋山教諭によって実施された小学 5 年総合的な学習の時間 「東の浜たんけんたいプロジェクト」のうち、子どもたち による話し合いが含まれる 3 つの授業を選定する。 次に、本研究の方法を簡潔に示したい。 ① 「子どもによる授業分析」の開発 ② 授業の観察・授業の記録 ③ 授業記録の作成 ④ 「子どもによる授業分析」の実施 ⑤ 「授業分析シート」記述データの分析 ⑥ 授業者・子どもへのインタビューの実施 ⑦ インタビュー記録の作成・質的分析 本研究では、まず「子どもによる授業分析」の方法を開 発する。次に、対象学級での授業の観察・記録を行い、授 業記録を作成する。そして、実際に「子どもによる授業分 析」を実施し、得られた「授業分析シート」記述データを 分析することで授業分析における子どもの視点を析出する。 また、授業者・子どもを対象とした半構造的インタビュー を行い、「子どもによる授業分析」の意義について明らかに する。 第2章 「子どもによる授業分析」の開発 まず、拙稿(2009)で開発した「授業分析シート」を、「子 どもによる授業分析」の対象が小学校高学年であることに 配慮し、修正を行った。 また、「子どもによる授業分析」では、授業記録として逐 語記録を使用する。そして、子どもが授業の雰囲気を想起 するための補助として、授業分析実施に際して授業映像を 提示する。 本研究では、以下の手順で「子どもによる授業分析」を 実施することとする。 子どもは、③授業記録や授業映像に基づいて、④〈気に なる発言〉のチェックを行い、⑤「授業分析シート」への 記入を行う。その後、「授業分析シート」への記述をもとに ⑥発表を行う。所要時間は 60 分程度である。 第3章 「子どもによる授業分析」の実際 「子どもによる授業分析」は継続的に、計 3 回実施した。 各回の概要について以下にまとめる。 まず、第 1 回は 2009 年 12 月 10 日に実施した。対象授業 は同年 11 月 6 日実施の総合的な学習の時間である。初回と いうこともあり、授業記録は後半部分に限って配布した。 授業内容は「東の浜の未来予想」である。 次に、第 2 回は 2010 年 3 月 23 日に実施した。対象授業 は同年 3 月 10 日実施の総合的な学習の時間である。授業記 録は 1 時間分配布した。授業内容は「6 年生での取り組みの 継続」についての議論である。 最後に、第 3 回は第 6 学年に進級後の 2010 年 6 月 30 日 に実施した。対象授業は 2009 年 11 月 16 日実施の総合的な 学習の時間である。子どもが過去の授業をどのように検討

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するのかを明らかにする目的で、約 7 か月前の授業を対象 とした。授業の内容は、「東の浜を未来に残すために自分た ちにできること」についての話し合いである。授業記録は 1時間分配布した。 「子どもによる授業分析」の結果については、紙幅の都 合上、省略する。 第4章 授業分析における子どもの視点 「子どもによる授業分析」における子どもの視点を析出 するために、収集された記述データに対する定性的コーデ ィングを行う。ここでは、子どもが《どのように》授業記 録を検討しているのか、記述の性質に着目し、下記のよう な手順でコーディングを行った。 ① 記述を意味内容で要素に分ける。 ② それぞれの要素にコードをつける。 ③ 一文に複数の要素がある場合は「+」でつなげて表 記する。 ④ 二文以上記述されている場合は「・」でつなげて表 記する。 コーディングの結果、記述の性質は 10 個のコードに分類 された。それぞれのコードの適用条件については、表1に 示す。 コード 適用条件 感想 記述対象の内容に対して感じたことや思った ことを記述している。 賛成 記述対象の内容に同意している。 反対 記述対象の内容に同意していない。 疑問 記述対象の内容の正しさを疑っている。 納得 記述対象の内容の正しさを認めている。 評価 記述対象の価値を認めている。 確認 記述対象を対象に含まれる言葉で要約し、理 解している。 解釈 記述対象を自分の言葉で言い換え、理解して いる。 意味付け 記述対象を他の事象との関連から意味を付加 している。 反省 記述対象をもとに、振り返りや改善点の指摘 を行っている。 表 1:析出されたコード 記述の性質は、子どもが授業記録を通して授業を《ど のように》検討したのかを意味するものである。本研究 では、コーディングによって得られた10 のコードを授 業分析における子どもの視点と考える。 さらに、これら 10 の視点は、対象の内容に着目した 視点と対象それ自体に着目した視点に大別できる。前者 を授業に対する「内在的視点」、後者を「外在的視点」と いう名称で規定する。以下にそれぞれのモデルを示す。 図 1:内在・外在的視点モデル 授業に対する「内在的視点」(図左)は、授業記録を通 して授業を学習者としての立場から再経験的に検討する 視点である。「内在的視点」には、「感想」「賛成」「反対」 「疑問」「納得」の5つが含まれる。 一方、授業に対する「外在的視点」(図右)は、授業記 録を通して、メタ認知的、俯瞰的に授業を検討する視点 である。この視点は、対象の持つ意味や価値に着目する ものである。「外在的視点」には、「評価」「確認」「解釈」 「意味づけ」「反省」の5つが含まれる。 続いて、授業分析における子どもの視点と従来の視点 とを比較し、子どもの視点に特徴を考察する。 比較対象となる従来の授業分析の視点としては、八田 昭平(1965)が「授業分析視点」として網羅的にまとめ ているので、それに依拠したい。 八田の「授業分析視点」は、3つの視点群で構成され ている。第Ⅰ視点群は、「授業の何を見たらよいか」とい う観点から、子どもや教師の発言など目に見える現象的 なものを把握する視点である。第Ⅱ視点群は、「よい授業 とは何か」という観点から、対象授業の目標や子どもの 追及力・思考について価値判断を含む視点である。第Ⅲ 視点群は、「授業を動かしているものは何か」という観点 から、授業を総合的に分析する視点である。 授業分析における子どもの視点との比較を行う。その 結果、まず「内在的視点」は、第Ⅰ視点群・視点2「子 どもたちの間の考えのちがい」に類似していることが分 かった。また、「外在的視点」は、第Ⅱ視点群・視点3「子 どもの追及力の評価」、第Ⅱ視点群・視点4「集団思考」、 第Ⅱ視点群・視点5「生活経験」に位置づくことが分か

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った。 次に、授業分析における子どもの視点、「内在的視点」 と「外在的視点」のそれぞれについて考察を行う。 まず、「内在的視点」には3つの機能があると考えられ る。第一に、「話し合いを充実させる」機能である。第二 に、「子どもの追究のきっかけになる」機能である。第三 に、「子どもの追究を発展させる」機能である。これらは 授業改善に直接的に活用させることができる。 一方、「外在的視点」は2つの機能を有していると考え られる。第一に、「子どもの授業観を明らかにする」機能 である。第二に、「子どもの子ども理解を深める」機能で ある。これらは授業者の子ども理解を深めることにつな がると予想される。 第5章 「子どもによる授業分析」の意義 「子どもによる授業分析」に対する授業者、子ども双 方の認識を把握するため、授業者を対象としたインタビ ューと子どもを対象としたインタビューをそれぞれ実施 した。授業者へのインタビューは個別に、子どもへのイ ンタビューは個別若しくは 2 名ずつで行い、半構造化さ れたインタビューの手法を採用した。 授業者である秋山教諭は、子どもが授業記録の検討を 通して「再学習」していると認識している。これについ て、子どもの側からも「子どもによる授業分析」は、「算 数ドリルでやる復習よりはランクが上」(龍太)と語られ ている。「復習」が既習の内容を繰り返し練習するもので あるのに対して、「再学習」はもう一度改めて学習しなお すものであると考えられる。授業時と「今とで意見が違 う」(和樹)と振り返るように、「復習」とは異質なもの として認識されている。 以上のように、「子どもによる授業分析」は「再学習」 という教育的意味を有している。 また、授業分析における実際的な目的の1つは、授業 改善に活用することである。「子どもによる授業分析」の 結果を授業改善に活用する可能性について検討する。 まず、「子どもによる授業分析」を通して子どもが認識 した自身の反省点を、これからの授業において実践して いくことが考えられる。 さらに、「子どもによる授業分析」を通して子どもが考 えたことを、単元の中で取り上げることによって、授業 が充実することが考えられる。以上の二点で「子どもに よる授業分析」は授業改善に資すると考えられる。 しかし、「子どもによる授業分析」は、授業改善に十 分に活用されていない状況にある。それは、秋山教諭が 「子どもはお客さんみたいな見方をしている」と話すよ うに、子どもが「子どもによる授業分析」に切実性を感 じることができなかったことが要因である。 「子どもによる授業分析」の改善点として、授業分析 の手法に関して①授業記録を分節に分けておくこと、② 授業分析シートの設問を再考することの2つが見いださ れた。また、授業分析の結果については、③子どもに授 業分析の結果を返すことの工夫が必要である。そして、 子どもが授業記録を深く検討するために④授業記録の練 習を行うこと、以上4点の改善点が見いだされた。 第6章 課題と展望 「子どもによる授業分析」には以下の3つの課題が残 されている。 ① 「子どもによる授業分析」事例の積み重ね ② 授業改善の様相の解明 ③ 「子どもによる授業分析」の意義について 筆者の関心は、授業の事実の新しい見方を可能とし、 把握されていない授業の事実を捉えることのできる新た な授業分析の方法を開発することである。本研究では、 授業者、現場教師、研究者に続く、新たな実施主体とし て子どもを選定し、授業分析を実施した。そして、子ど もから学習者特有の視点を得ることができた。今後は、 引き続き「子どもによる授業分析」の研究を深めていき たい。 また、授業分析を子ども以外の新たな実施主体に“開 く”ことも考えなければならない。現在、筆者が次なる 参加者として想定しているのが保護者である。保護者は、 子どもを介して授業に関係している。言わば授業の間接 的な当事者である。「保護者による授業分析」を通して、 保護者の視点の解明、子どもの視点や従来の視点との比 較などについて研究を進めていきたい。 3. 主要引用文献・参考文献 ○重松鷹泰『授業分析の方法』明治図書,1961 年 ○重松鷹泰・上田薫・八田昭平『授業分析の理論と実際』 黎明書房,1965 年 ○長岡文雄『考えあう授業』黎明書房,1972 年 ○帝塚山学園授業研究所編『授業分析の理論』明治図 書,1978 年 ○日比裕・的場正美編『授業分析の方法と課題』黎明書 房,1999 年

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