カーボン紙を用いたコラグラフの研究
教科・領域教育専攻 芸術系(美術)コース 新 野 哲 人
1 .研究の課題
学部での筆者の作品は、対象(人物)を直 接的に捉え、三次元的な奥行きを求めつつ、
人物の心象を表現することに努めていた。
しかし、教職に就き、中学生たちの自由で 柔軟な作品にふれて、自分の作品の中にもそ の時々の心情をより素直に反映させることを 望む気持ちが高まってきた。加えて、筆者が 知らず知らずのうちに抱いていた、対象の強 いデフォルメや色彩の冒険的な組み合わせに 対する抵抗感が、自身の自由な広がりのある 表現を制約していることに気づかされた。
そうした経緯から、今回の研究では技法と してコラグラフを用いることとした。コラグ ラフは、比較的新しい技法のひとつであり、
素材や刷り方などに多くの工夫の余地が残さ れている。そして、版に直接描画しない、切 り抜いて貼り付けなくてはならない不自由さ が、かえって自由な制作につながるのではな いかと考えたからである。
ll. 技法と素材
1 .技法について
1年次に試みたのは、ひとつの版を分割し、
部分によって凹部にインクを詰め、凸部にロ ーラーでインクをつけてから組み合わせて刷
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指 導 教 員 武 市 勝
る、 [ジグソープリントj とも呼べる凹凸併 用技法であった。
2年次に入り、テーマとの整合性を考えた とき、素朴さ、あたたかさをより追求するた めに新たな技法を模索する必要を感じたD そ の時出会ったのが、大学版画学会誌に掲載さ れていたカ}ボン紙をインクの代わりに用い た木版画についての論文*であり、それをコ ラグラフに応用しようと考えたのであった。
市販のカーボン紙では色数が限られてお り、力強い表現は難しいが、従来のコラグラ フにはない、やわらかい、水彩画のような表 現が可能である。
2.素材について
カーボン紙に塗布されたインクは低粘性で あり、量としては少ない。このためプレス機 の強い圧力によって、貼り付けた素材の細か い凹凸までも繊細に、かつ正確に拾うことが できる。コラグラフに使う材料の中ではイン クを含みすぎて使いづらい布なども用いるこ ともできる。
しかし、インクが低粘性であるために、凸 版摺りしかできない、繊細さゆえにプレス機 の回転速度の変化にも敏感に反応してしまう
という難点もある。また、一度使用したカー ボン紙を再使用すると、インクが部分的に少 なくなっているため、鮮明な刷りは 2'"'‑'3枚
程度しか得られなかった。
これらの難点については、制りの際にプレ ス機のローラーを往復させることである程度 の解決をみた。
色数やサイズの問題を解消するために、カ ーボン紙の自製にも取り組んだ。非常に困難 であったが、メーカーに間合わせを重ねるこ とで、身近な材料で最も近い効果を得られる のがトレーシングペーパーにオイルパステル を塗布する方法であることがわかってきた。
一度の刷りでは発色が不十分であるが、版を 分ける代わりに自製カーボン紙を複数使用し て重版することで、視覚的な混色効果とハッ チングによる立体感の表現も可能で、ある。
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作例1 .テーマについて
作 品 の テ ー マ と し て 取 り あ げ て い る の は
「沖縄へのあこがれj である。とりわけ、琉 球 方 言 ( =
r
うちなーぐちJ)への関心が高 まった。日本の古語が残り、そこに外国語が ちゃんぷるー(=かきまぜる)された沖縄の 言葉の響きに人々の気質や生活が透けて見え るように思われた。r
うちなーぐちj をタイ トルに、沖縄の生き物たちをモチーフとして 制作を進めてきた。2.作品解説
『うちなーぢら ‑‑1 まっとーばー(正直者)~
82X 59 (cm) 3版 9色刷り
鳥の子紙 2007. 12
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本作品は強烈な日差しゃ台風の風雨にさら され、色あせたシーサーの姿を描いている。
沖縄には、都会では薄れてしまった「ゆい まーる(相互扶助)精神Jが息づいている。
朽ちかけたシーサーも見捨てられるのではな く、温かく見守られ、シーサ}もその役割を 一途に全うしようとする。そんな情景を通し て、沖縄の人たちのもつ温かさを表現したい
と考えた。
自製のカーボン紙による刷りと、市販のカ ーボン紙による刷りを併用した口自製のもの は広い面を均質に覆うのには不向きであり、
市販品は色数が限られている。作品に厚みを 与えるため、木版凹版の技法を加えた。
版の大部分はシート状のコルクを貼り合わ せたもので、石目のような模様が特徴であり、
温かさの表現に適している。線の部分には木 工用ボンドを用いた。刻みを入れたへらなど で塗り広げれば大きな流れも表現できる。
w.
終わりに本研究のひとつの大きな目的は、版画の手 順をできるだけ省くことである。時数縮減に よって取りあげにくくなった版画を美術科の 授業に復活させたいとの思し、からである。
自己の制作において、ひとつの新しい技法 をつかんだとの手応えを感じるとともに、教 材としても十分活用できるものになったと考
えている。
〈参考文献〉
*岩佐徹「カーボン紙を用いた摺りについて ばれんを生かすJ
大学版画学会誌第 35号 pp.21‑24 大学版画学会 2006年4月