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雑誌名 東北学院大学社会福祉研究所研究叢書

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教育から日本の格差と貧困を考える―県内私立大学 生へのアンケート調査から見えてきた奨学金問題―

著者 佐藤 滋

雑誌名 東北学院大学社会福祉研究所研究叢書

巻 11

ページ 23‑37

発行年 2017‑03‑15

URL http://id.nii.ac.jp/1204/00023915/

(2)

教育から日本の格差と貧困を考える

――県内私立大学生へのアンケート調査から見えてきた 教育財政の矛盾――

佐 藤   滋

1.国際比較からみる日本の教育財政――過重な自己責任

「奨学金訴訟」という言葉がある。日本学生支援機構が原告に立ち、貧困 に喘ぐ若者たちを相手に次々と訴訟を起しているという。日本学生支援機 構側が取り立てを強化したこともあり、訴訟件数は2012年度には6193件に まで増大し、わずか8年間で「100倍」になったというのだから驚くべき事 態である。奨学金を借り入れた以上、それを返還せよというのはもっと もらしく聞こえるが、教育財政の矛盾を若者たちのみに帰すだけでは問題 は解決しない。どういうことだろうか。

まずは図1をみてほしい。図1は公的高等教育機関の平均授業料を縦軸 とし、横軸に奨学金の受給者割合を示したものである。これをみれば日本 の高等教育機関の授業料の高さは一目瞭然である。日本よりも授業料が高 い国はアメリカとチリのみである。日本のデータがプロットされていると ころの左に図示されている矢印は、年々日本の授業料が高騰している様子 を表している。

1 2014年8月10日付朝刊『朝日新聞』。

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こうした高い授業料は、日本の教育財政の規模が極めて小さいことに由 来している。図2は、教育段階別にみた公的教育費の対GDP費を示したも のであるが、日本の高等教育支出が世界で最も小さい部類にあることが読 み取れる。この事実は、家計の教育費負担が重いということにも直結す る。図3は高等教育費の公私分担関係を示したものであるが、日本の家計 部門の負担の重さは明らかであろう。

図1 公的高等教育機関の授業料と奨学金の受給者割合 出所)OECD 2014,Education ata Glanceより作成。

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図2 教育段階別にみた公的教育費の対GDP費 出所)OECD 2014,Education ata Glanceより作成。

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3.44.2 3.7 3.0 2.7

4.8 4.7 3.8

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3.3 3.8 2.6

3.73.04.1 3.6

2.4 4.43.4 1.1

1.6 1.4

2.0 1.01.2

2.4

1.3 2.2

1.3 1.41.1

1.4 1.3

0.9 0.8

0.8 0.8 0.00.9

1.7 1.9

2.6

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問題は、あまりにも重い教育費負担に人々が徐々に耐えられなくなって きたことにある。ワーキングプアやブラック企業という言葉に象徴される ように、雇用はすでに生存を支えるに十分なものではなくなりつつあり、

所得は急速に落ち込んできた。結果として、教育費や生活費の負担を子ど もへと転嫁せざるを得なくなった。奨学金を利用する学生が一般化してき たのは当然である。

もっとも、これだけをみれば多額の教育費負担を奨学金の給付によって 相殺するアメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドといっ たアングロサクソン型の教育財政に近づきつつあるだけのように見える

(図1)。しかし、図4をみれば、日本の特異な教育費負担のあり様が分か るであろう。日本における「奨学金」のほとんどが、返済が必要な貸与型 奨学金だからである。アングロサクソン諸国はたしかに学費は高くなって いるが、日本よりも返済不要の給付型奨学金が充実しており、これが学生 負担の軽減につながっているのである。

冒頭で紹介した「奨学金訴訟」は、若者たちの怠惰ゆえでは決してない。

図3 高等教育費の公私分担関係

出所)OECD 2014,Education ata Glanceより作成。

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(5)

雇用が劣化するなかで、数百万円もの奨学金=借金を返済していくことは 極めて困難になりつつある。

2.奨学金アンケートから見えてきた教育財政の矛盾

さて、こうした日本特有のローン型奨学金の問題について、当の大学生 たちはどのように考えているのであろうか。私は、2015年11月から12月に かけて、宮城県内の三つの私立大学の1年生から4年生を対象に奨学金に 関するアンケート調査を行った(「みやぎ奨学金問題ネットワーク学生奨学 金調査」)。母数は537名である。ここからいくつか主だったものを紹介し よう。なお、設問項目の詳細については本論最後の資料を御覧いただきた い。

まず、「おうちの暮らし向き(経済状況)にはゆとりがありますか」とい う設問に対しては、およそ半数の261名の学生が「ゆとりがない」と回答し た(図5)。このうち、「全然ゆとりがない」と答えたものは58名おり、生 活の厳しさを感じさせる。「学費は誰が払っていますか」という設問につい ても、「保護者と自分」「自分」と答えた学生が77名いたこともこのことを 裏付けている。いまや生活費部分のみならず、学費そのものを学生自身で

図4 高等教育費に対する家計への公的教育支援の割合 出所)OECD 2014,Education ata Glanceより作成。

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賄っているのである。

結果、奨学金利用者は267名とほぼ半数にのぼった。これは全国的な動 向と同様である。これらの学生のほとんどが日本学生支援機構の貸与型奨 学金を利用している(図6)。他方で、「利用していたがやめた」「利用した ことがない」と答えた学生についてはどうか。彼らの多くは、「親からの仕 送りで十分なため」と回答しているが、「将来の返済が不安なため」という ものも多くいた(図7)。また、「アルバイトをしているため」と回答する 学生も無視できない数おり、これが学業に集中する時間を奪っている。こ のうち、「アルバイトは1週間で何時間程度行っていますか?」という設問 に対しては、週20時間以上と回答するものが29名いた(図8)。週20時間以 上ということは、日に5時間以上アルバイトをしていることになる。学費 の問題は明らかに学業に影響を与えている。

図5 おうちの暮らし向き(経済状況)にはゆとりがありますか

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図6 どういった種類の奨学金を利用していますか

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「1ヶ月の奨学金の借入額はおおよそいくらですか」という設問に対して の回答として最も多かったのは5万円である。これらの学生は、親の仕送 りなど生計を立てる手段を他に持ちつつ、生活費を補完するものとして奨 学金を利用していると思われる。もっとも、有効回答者219名のうち、8万 円以上を借り入れている学生が58名いた(最大で12万円の借り入れ)。これ らの学生は将来、毎月2〜3万円程度の返済を迫られることになる。所得 が低落しているなかにあって、そのような返済額は彼らの肩に重くのしか かることが予想される。関連して、「アルバイト代を「将来の奨学金の返済 にあてる」ことを考えていますか」という設問に対しては、驚くべきこと に78名の学生が「考えている」と回答している。奨学金の返済に備えるた めにアルバイトをするというのは、本末転倒な事態といってよい。

以上のように、現行の奨学金制度は学生へのセーフティネットとして十 分に機能しているとは言い難い状況にある。このことを反映し、多くの学

図7 奨学金を利用しなかった理由は何ですか

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図8 「アルバイトをしているため」と答えた方にお聞きします。アルバイトは1週間 で何時間程度行っていますか?

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(8)

生が返済不要の給付型奨学金を導入すべきと回答した。

最後に、自由記述欄に記入された学生の声をみておこう。多くは現行の 奨学金制度を不安視する声であった。

・安定した職につけるかも分からないのに、卒業したと同時に借金返せと 言われる毎日はイヤです。

・返済に何年かかるか不安。親には頼れないし迷惑をかけたくない。

・ちゃんと返済していけるか不安。父がこの間全額払い終えたらしく、

ずっとこの先も払い続けなければならないことを実感した。

・もし自分が仕事につけなかった時の返済の対応が不安

・30代後半まで返済しなければならないと考えると、将来自分の子どもの 為の習い事やレジャー費などに使うお金の余裕があるか不安である。

・もっと給付型の奨学金制度を取り入れていくべき。日本の教育が充実し

図9 現在、アルバイトをしている方にお聞きします。アルバイト代を「将来の奨学 金の返済にあてる」ことを考えていますか。

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図10 現在の奨学金制度について、どのように考えていますか。下記からもっとも近 いものを1つ選んでください。

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ない。

・40歳近くまで返済が続くことへの不安

・利息ありの借入を行った場合、返済で100〜200万円借入額と違ってくる というのは返済する上で大きな障害となる。

・返済のことばかりに気をとられて将来の具体的な計画を立てられない。

学力社会のくせに大学へ行くのも大変な状況をつくっている。そんなに 大学進学が大事な国なら返済しなくてよくて、負担がかからず誰にも夢 をもたせた奨学金にしてください。

・親は「自分の子どもに借金をさせたくない」と強く言いながらも、仕方 なく奨学金を借りなければ学べないというのが現状です。本当はもっと やりたいことがあるけれど勉強の時間のことを考えるとこれ以上アルバ イトを増やすことはできません。

・奨学金という名の借金を学生に与えている。今の奨学金制度を見なおし てほしい。また、ちゃんと奨学金を返済できるのかとても不安である。

・利子がついていくので、きちんと返すことが出来るのか不安です。妹も 大学に通っているのでどうしても奨学金を借りなければならないです が、本当は借りたくないです。

・奨学金はある種の借金なので、将来結婚のことを考えると、すべて返済 し終わったあとにしかしたくないと思ってる。

3.教育財政改革論議への示唆

以上、本論では、世界的にみて高い学費が多額の奨学金の借り入れにつ ながっていること、そしてまた、多くの学生がこうした現状に不満を感じ、

何らかの改革を要望していることを明らかにしてきた。

そうした意味では、政府が2018年度からの導入を検討している給付型奨 学金制度は大きな前進であるといってよいであろう。現在までのところ、

住民税非課税世帯2万人を対象に月3万円の奨学金が給付される予定であ

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る。貸与型の奨学金が多くの若者の貧困を拡大させていることを考えれ ば、歓迎するものも多いであろう。

ただし、政府が検討している給付型奨学金が不十分なものであることも また明らかである。現在、大学・短大に進学する学生数はおよそ60万人ほ どであることを考えれば、給付型奨学金の対象となる学生数はわずか3%

ほどであり極めて少ない。加えて、本アンケートでも多くの学生が5万円 以上借りていたことを思えば、3万円のみでは足らず、貸与型との併用を 希望する学生が多くいることが予想される。

結果として、給付型奨学金が導入されたあとも、奨学金による若者の貧 困化という事態は生じ続けるであろう。いずれにせよ、教育財政のあり様 に根本的な変化がない以上、改革の手を休めてはならない。給付型奨学金 が機能する前提条件を作るために、教育を無償化する方向性を模索するこ とも一案であろう(佐藤 2016)。日本の教育費負担の自己責任主義は根強 いが(中澤 2014)、若者の現状は厳しく、過酷である。議論の活発化が望 まれる。

参考文献

OECD 2014,Education ata Glance.

佐藤 滋(2016)「選別主義を強化する?給付型奨学金をめぐる議論の陥穽

――教育サービスの現物給付化による普遍的な保障を」『POSSE』堀之 内出版、第32巻、78〜87頁。

中澤 渉(2014)『なぜ日本の公教育費は少ないのか 教育の公的役割を問 いなおす』勁草書房。

広田照幸(2013)『大学とコスト』岩波書店。

2 2016年12月1日付朝刊『朝日新聞』。

(11)

謝辞

アンケート調査を行うにあたって、宮城学院女子大学の田中史朗先生と 日本キリスト教団仙台北三番丁教会の川上直哉牧師にご協力いただいた。

ここに記して感謝したい。

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参照

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