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離婚時における養育費の取決めと確実な支払い方法について
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU17711 古谷 友理恵
1. はじめに
ひとり親家庭とは、離婚などの理由で「父又は母と生 計を同じくしていない児童が育成される家庭」を指す (「児童扶養手当法」第1条)が、ひとり親家庭では厳しい 経済状況が継続している。この状況の原因の1つとして ひとり親家庭の子どもに対する養育費が十分に支払われ ていないことが挙げられる。
本稿は、離婚後の養育費支払い率が低水準で推移して いる問題について、養育費支払いの根拠に関して法学的 および経済学的に分析したのち、現行の養育費算定方式 では子育てにかかる時間的費用が考慮されていないこと を指摘し、時間的費用相当分を加算すべきであると提言 した。さらに、アメリカ・韓国の状況を参考にしつつ日 本において離婚後の養育費支払い率を向上させるための 改善策を検討し、離婚時の養育費取決めを義務化すべき ことを提言した。
2. 民法上の養育費と養育費取決めの流れ 2-1. 民法上の扱い
養育費に関しては、民法では「子の監護に要する費用」
とされ、協議離婚時の取決めに関する第766条に規定さ れており、その分担については「協議で定める」ことと されている。同条第1項の後段「子の利益を最も優先し て考慮しなければならない」という、養育費取決め時の 義務内容に関する文言については 2011 年の改正時に追 加されており、これは義務規定であるがその基準は民法 その他の法令でも明示されていない。また、同条は第771 条に規定される裁判による離婚においても準用される。
本稿では養育費の算定方式や取決めの義務化について論 じるが、民法は私的自治の原則から成り立っており、同 条からは離婚した後の子どもの養育費に関する取決めに ついては義務化がされていないと解せる。
2-2. 離婚時または離婚後の養育費取決めの流れと取決 めをしている割合
養育費は、一般的には子どもの代理人である子どもを 監護する父または母(以下、「監護親」と言う)が、もう一 方の父または母(以下、「非監護親」と言う)から受け取る。
図1は、夫婦の離婚から養育費の取決め、養育費が支払
われなかったときの確保に関する一連の手続きのフロー 図である(概要版中省略)。養育費の取決めに関しては、ま ず、離婚時または離婚後に協議または司法手続きによっ て定めることができる。日本では夫婦が協議で合意すれ ば離婚でき(協議離婚)、協議不調の場合には調停離婚ま たは裁判離婚に進む。離婚後は、協議離婚をした場合で 約束が守られない場合には養育費の調停を、事情の変更 が生じたために養育費の金額を変更したい場合は養育費 増額または減額の調停を、家庭裁判所に申立てすること ができる。さらに、「養育費の確保」の手続きに関しては、
養育費の支払いが履行されない場合、公正証書で事前に 取り決めていれば家庭裁判所に強制執行の申立てをして 差押えができる。公正証書がなく支払い履行がない場合 は、家庭裁判所に調停の申立てや履行勧告の申し出をし たのちに、強制執行の申立てができる。
養育費を取り決めている家庭の割合については、厚生
労働省(2017)「平成28年度ひとり親世帯等調査」の結果
によると、母子家庭で42.9%、父子家庭で20.8%となっ ており、一方では養育費を受け取っている割合が母子家
庭で24.3%、父子家庭では3.2%と低く、うち養育費の取
決めをしている場合に養育費を受け取っている割合は、
母子家庭で53.3%、父子家庭で14.3%に上がり、対して 取決めをしていない場合の養育費を受け取っている割合 は母子家庭で2.5%、父子家庭で0.0%という結果だった。
3. 経済学的観点からの養育費を支払うべき理由 本章では、養育費を支払わなければならない理由を経 済学的に分析した。
子どもには、親にもたらす私的便益と、親以外にもた らす正の外部性があり、それらを合わせたものが社会的 便益である。前者の便益は親に帰着し、後者の便益は社 会に帰着すると考えられるため、子育てにかかる費用負 担についても、親と社会負担とが負担する部分を分割で きる(図2)。また、子どもから得る私的便益に応じて親が 費用を負担すべきという原則が、ひとり親であってもふ たり親であっても変わらないとすると、その私的便益分 と見合う分の子育てにかかる費用を監護親と非監護親が 協力して負担すべきであり、子どもの公平性の観点から
2 も、ひとり親家庭となった後もふたり親家庭と同等水準 の費用が子どもにかけられるようにすべきであり、監護 親・非監護親の両方によって負担されるべきである(図3)。
よって、経済学的観点からも養育費を支払うべきと結論 付けられる。
4. 現行の養育費の算定方式と時間を考慮した実際の子 育てにかかる費用の乖離
4-1. 現行の養育費算定方式
実際の養育費調停や調停離婚、裁判離婚においては東 京・大阪養育費等研究会(2003)による養育費算定方式と これに基づく簡易養育費算定表が広く使われている。
(東京・大阪養育費等研究会(20036288-292)における子 ども1人の場合の養育費の算定式)
・ 養育費=義務者の基礎収入×子の生活指数 ÷ (100+子の生活指数)×義務者の基礎収入÷(義務者 の基礎収入+権利者の基礎収入)
・ 基礎収入=総収入×0.34~0.52
・ 子の生活指数:最低生活費に教育費を加算。子ど もの年齢0~14歳=55、15~19歳=90
※ 本稿で言う「監護親」・「非監護親」をそれぞれ「権 利者」・「義務者」と言う
この養育費算定方式では、義務者と権利者それぞれの 収入および職業、子どもの年齢と人数によって計算され
る。うち、「子の生活指数」では、子どもの年齢を0~14
歳と15~19歳の2区分に分けており、子どもが0~14
歳のときよりも、15~19歳のときの方が、養育費が高く なっている。この理由は、この算定方式においては専ら 子育てにかかる金銭的費用を想定しているからである。
4-2. 子育てにかかる金銭的費用と時間的費用から言え る現行の養育費算定方式の問題点
ここで注意すべき点として、子育てには金銭と時間の 両方がかかるということである。
内閣府(2010) 「インターネットによる子育て費用に関 する調査報告書」によると、第1子にかかる年間費用の 平均は、第1子の年齢別に、未就園児で 843,225円、幼 稚園児・保育園児で 1,216,547円、小学生で 1,153,541 円、中学生で1,555,567円、全体では1,168,935円とな っており、未就園児の養育費用が最も安くなっている。
一方で、図4は総務省(2017)「平成28年社会生活基本 調査」における、直接子どもの面倒を見る1日あたりの 育児時間を児童年齢別にグラフ化したものであるが(概 要版中省略)、0歳児は372分、1~2歳児では267分と、
子どもの年齢が低いほど、時間が多くかかっている。
金銭的費用と時間的費用を合わせたものが本当の子育 てにかかる費用であり、この本当の費用を監護親と非監 護親が分担するように養育費は算定されるべきであり、
子育てにかかる時間的費用が現行の養育費に算定される べきであるが、現行の養育費算定方式にはそのような調 整は行われていないことから、現行の養育費算定方式で は離婚後の子どもに不利益が生じていると考えられる。
4-3. 概念図を用いた現行養育費算定方式の問題点の指摘 ひとり親家庭において子どもに投資できる時間が少な くなっていることについての概念図化を試みた。図5は、
金銭と時間を子どもの質に投資した場合の無差別曲線を グラフ化したものである。縦軸はある家庭が子どもに投 資できる金銭、横軸は投資できる時間とする。この概念 図上ではその家庭が投資する金銭や時間が多いほど、つ まりグラフの右上に行くほど、投資の結果としての子ど もの質、たとえば子どもの学力や進学率などが高くなる と考える。このとき、同一の子どもの質を達成できる金 銭および時間の投資水準をつないだ無差別曲線はUのよ うになる。また、子どもの正の外部性部分に対する社会 的負担、たとえば義務教育部分は、社会的に金銭を負担 していると考えられるので、グラフでは下方に現れる。
ふたり親家庭であるときとひとり親家庭になったとき
図2 子どもに関する費用負担
社会的便益
私的便益 正の外部性 両親が自己負担 社会的負担
図3 子どもに関する費用負担(ふたり親家庭・
ひとり親家庭)
社会的便益
監護親と非監護親の
負担 社会的負担 私的便益
ふたり親 家庭
ひとり親 家庭
正の外部性 両親が自己負担 社会的負担
3 の子どもに投資できる時間の違いに着目すると、一般に ふたり親家庭のときには子どもの面倒を見る時間を2人 で分担できるが、ひとり親家庭になったときには基本的 には1人で面倒を見ることになるため、投資できる時間 が減ると考える。そのため、横軸上でふたり親家庭が右、
ひとり親家庭が左に位置する。なお、図5においては単 純化のため子どもの年齢を固定し概念図化を行っている。
さらに、ひとり親家庭になった理由で最も多い離婚の 場合を考える。両親が両方とも働いており、離婚前の子 どもの質への投資水準が図 5 上での F であったとする と、まず時間の投資水準については、離婚後は子どもの 面倒を見る時間を親2人で分担できなくなり子どもに投 資できる時間が減少するため、左に移動する。一方、金 銭の投資水準については、現行の養育費算定方式では「生 活保持義務」の考え方に基づき養育費の額が決定される ので子どもについては非監護親の生活と同程度の水準を 保証できる金銭的費用を養育費として支払うと考えられ る。非監護親からの養育費の支払いがある場合、金銭の 投資水準は変わらずFから左方のBに移動する。また、
もし非監護親から養育費の支払いがなければ、F から左 下のCに移動する。このとき、離婚前の投資によって実 現される子どもの質にとっての投資水準は無差別曲線U の上であるが、離婚後の投資水準はU’やU’’に低下する。
つまり、非監護親が支払う養育費が、離婚前までの生活 を金銭的に維持する水準であったとしても、到達するの は図5のBになり、子どもの質への投資が従前の水準に は達していないことになる。そのように考えると、養育 費の算定方式について、現行のように生活水準の保持だ けではなく、離婚後の時間が不足する点を補うように、
さらに高い水準として設定しなければ不十分である。
4-4. 時間相当加算方式の検討例
養育費算定方式について、簡易に子育てにかかる時間 的費用の加算を試算した。内閣府(2013)による家事労働 の時給換算は約950円となる。これと、例えば前述の子 どもの年齢別の育児時間を用いて試算すると、0 歳児の 場合の育児時間は372分/日であり、これをふたり親家庭 では親2人がそれぞれ1/2ずつ負担していたと考えると およそ3.1時間/日となることから、時間相当の加算額は
107.5万円/年となる。また仮に前提条件を変えて、時給
を 1.5 倍の 1,425円とするならば 161 万円/年、2 倍の 1,900円とするならば215万円/年となる。
ただし時間相当加算方式を導入する際には、育児を外 部委託する場合にかかる費用を踏まえた算定が必要とな ると考えられる。表1(概要版中省略)は公益財団法人全国 保育サービス協会(2017)による同協会加入事業者を対象 とした調査における、ベビーシッター利用料金に関する 回答である。育児を外部委託する場合、ベビーシッター のほかに保育所や祖父母の協力などが考えられるが、こ こでは、市場における受給調整による価格決定が行われ るベビーシッターが相当と考えられるため、試算の比較 としている。調査結果では、時間帯別、東京または東京 以外に区分して集計しており、たとえば東京では基本時 間、東京以外では早朝または夜間で1,900円台のベビー シッター代がかかる。そのため、仮に育児の費用をベビ ーシッター代の1,900円で評価した場合には年間相当額 は215万円となる。
5.確実な取決めと支払い:諸外国の制度と日本への導入 5-1. 養育費取決めに関する先行研究
山口(2016)は、養育費取決めにかかる取引費用から取 決めをする・しないの決定を監護親が行うモデルを検討 しており、「父母が離婚時の養育費取り決めおよび離婚後 の養育費支払い確保のために負担する取引費用を低減さ せるとともに、養育費取り決め確度を高めるように促す べきである」(p.20)としている。
5-2. 各国の離婚制度
養育費に関連する制度については、アメリカでは養育 費の強制徴収にかかる仕組みを構築しており、また韓国 は近年制度変更により養育費の取決め制度を整備してお り、特に参考となると考えられる。それに際し、離婚制 度について概観する。日本では協議離婚、調停離婚およ び裁判離婚があり、協議離婚では夫婦の協議によって離 婚届を記載し、自治体窓口に提出すれば成立する。アメ
図5 子どもの質への投資の無差別曲線の概念図
4 リカについては、「離婚は重大な事項であり、全て裁判所 の判決によらなければならない」(篠崎・竹澤・野崎 (20156141))とされている。韓国については、宋・二宮 (20126576)によると、協議離婚・裁判離婚ともに家庭法院 への出頭が必要となる。
5-3. アメリカの養育費強制プログラム
アメリカでは養育費を強制徴収するための制度、「養育 費強制プログラム」を実施しており、また、打矢(201062
79-282)はプログラムの主な内容を次の 4 つに区分して
いる。①非監護親の居所探索(州行政内部局や民間企業情 報、連邦政府を利用可能) ②法的父子関係の確定(任意 認知のプログラム、強制認知の法制度、DNA鑑定の強制) ③養育費命令の確定(行政による養育費命令内容の見 直し) ④養育費の徴収(税還付の充当、先取特権、口座凍 結・差押え・財産換価・旅券回収などの強制執行) 前澤(201563)によると、このプログラムの利用は権利 であるが、生別ひとり親家庭が「貧困家庭への一時扶助」
(TANF)を利用するためには必須となっている。下夷
(2008628-30)によると、「制度を利用した総件数は年々増
加して」いる中で、養育費の徴収については「件数も徴 収額も著しく増加している」が、これらの一方で連邦と 州の財政支出は「2005年には33億1,200万ドルのマイ ナスであ」り、「養育費制度の整備・強化には多額の公費 が投入されている」としている。
5-4. 韓国の養育費取決め制度
次に韓国の例を取り上げる。韓国では1977年、1990 年、2007年に離婚に関する民法改正があった。このうち 2007年の改正では、宋・二宮(20126574)によると、離婚 意思や親権者の確認だけではなく、家庭裁判所での離婚 案内を受けることの義務付けや子どもの養育費・面会交 流に関する協議書の提出の義務化などがなされた。
5-5. 日本への導入の是非
日本に導入する場合の留意点について整理する。まず アメリカの制度の場合、強制徴収によって親の責任履行 の確保を政府介入によって実現することで、TANFなど の社会保障に流れるなどの安易な公費利用を抑制できる と考えられる。ただし、新規に日本で実施するとして、
アメリカの養育費強制庁や養育費強制局のような行政組 織の新設をするとなると大規模な財政負担が必要となり、
またアメリカにおける収支状況をみると制度運営にもか なり大きな費用がかかると予想され、日本で導入する際 には現行の組織体形内で実現でき、初期投資を抑えられ
るような制度としつつも、安易な情報伝達をすることの ないよう慎重を期する必要がある。
韓国の制度の場合、取決め義務化の制度については強 制徴収よりも財政負担が少ないと考えられるが、日本の 現状では夫婦の協議によって離婚できるため、たとえば 協議離婚であっても離婚届に養育費に関する協議書を附 帯書類として添付することの義務付けなどが考えられる。
6. 政策提言
以上の考察を踏まえ、①現行の養育費の算定に、非監 護親は子育てにかかる時間の分担ができなくなる分を加 算すること、②養育費の取決めを義務化するなど確実な 支払い方法を導入すること、の 2 点を提言する。以下、
主な補足について述べる。
政策提言②補足:義務化と家庭裁判所の介入
仮に養育費取決めを義務化したとしても、制度が整っ ていない現状からは自力での養育費取決めができない父 母が続出するとも考えられる。よって、義務化に際して は父母が任意に取決めをする、または家庭裁判所の介入 によって取決めをする、いずれかの方法での取決めが離 婚時に要請されるような制度設計とすべきである。
政策提言①・②補足:養育費取決め義務化と法整備 現行の養育費算定方式は法令ではないが、仮に養育費 の取決めを任意から義務に変更する場合には、家庭裁判 所がその実務において算定する際に根拠となる法令が別 に必要となるため、新たに法令を作成するべきである。
たとえばひとり親家庭を対象とする福祉政策の所管で ある厚生労働省が所管し、子育てにかかる時間的費用に 関する統計を定期的に最新のものに更新するとともに、
法令を定めるべきである。
政策提言①・②補足:国と地方自治体の分担
政策提言①および②については地域の実情を個別具体 的に反映するまでもなく日本全体で共通であるので、国 主体で立法措置を含めて制度を構築し、地方自治体は相 談窓口業務を担うといったように、国と地方で役割を分 担するべきである。
7. 今後の課題
本稿では、ひとり親家庭となった理由別の対応方策の 検討や、非監護親が子どもから受け取る私的便益の減少 と面会交流、養育費と公的負担の分析、養育費制度の改 善と人口政策の両立など、論じられなかった重要事項が あり、今後の課題としたい。
(文献情報および注釈は、概要版でない論文に掲載します。)