「日 本 食 品 工 学 会 誌 」,Vol.8,No.3,pp.109-116,Sep.2007
原著論文
低 カ フ ェ イ ン処 理 機 を用 い て 製 造 し た 「べ に ふ う き」 緑 茶 の
化 学 成 分 変 動 と抗 ア レル ギ ー ・活
性 へ の 影 響
山 本(前 田)万 里1,†,長
屋 行 昭2,三
森
孝2,山
口 優 一1,堀
江 秀 樹3,江
間 か お り1,
鈴 木 昌 文2,山
内 英 樹2,藁
科 文 雄2,水
上 裕 造1,廣
野 久 子1,物
部 真 奈 美1
1,3(独)農業 ・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所
,2株 式会 社 寺 田 製 作 所 技 術 部
A Change
of Chemical
Components
and
Effect
on Anti-allergic
Activity
in •eBenifuuki'
Green
Tea
Which
was
Produced
With
Low
Caffeine
Processing
Machine
Mani
MAEDA-YAMAMOTO1,•õ
Hideaki
NAGAYA2
Takashi
MITSUMOM2,
Yuichi
YAMAGUCHI1,
Hideki
HORIE3
Kaori
EMA1,
Masafumi
SUZUKI2,
Hideki
YAMAUCHI2,
Fumio
WARASHINA2,
Yuzo
MIZUKAMI1,
Hisako
HIRONO1
and
Manami
MONOBE1
1N
ational Institute of Vegetable and Tea Science, NARO, 2769 Kanaya, Shimada, Shizuoka 428-8501, Japan
3360 K
usawa, Anou-chou, Tsu, Mie 514-2392, Japan
2T
erada Seisakusho Co. Ltd., 869-1 Ushio, Shimada, Shizuoka 428-8502, Japan
The low caffeine processing machine that we developed to have infants, a pregnant woman, and a senior citizen drink •eBenifuuki' green tea was able to decrease a caffeine content more than 50% without reducing anti-allergic epigallocatechin-3-O-(3-O-methyl) gallate (EGCG3•VMe) content by processing to spray a heated water shower of 95 degrees Celsius on plucked new tea shoots more than 90 seconds. We installed this processing machine before primary tea rolling dryer at a normal processed tea production line, and put plucked new shoot slit in processing machine while adjusting tea leaf to equal thickness and atomized water of normal temperature and cooled off after having sprayed heated water showers more than 95 degrees Celsius while transferring tea leaves with a net conveyer. About 1.8 times establishment areas are necessary in comparison with conventional rotary net drum tea steaming machine (800K). Quantity of circulation heated water which it is necessary is about 360,00 L/hr, and include water injection and a rise and a loss share of green leaf temperature, and the heat capacity that it is necessary is approximately 350,000 kcal/hr. In addition, by this processing, anti-allergic activity of •eBenifuuki' green tea did not reduce.
Keywords: low caffeine processing machine, •eBenifuuki' green tea, epigallocatechin-3-O-(3-0-methyl) gallate (EGCG3"Me), anti-allergic action, infant and pregnant woman
1.緒 言 茶(Camellia sinensisL.)は,近 年,抗 酸 化 性 ・抗 腫 瘍 性 ・抗 菌 作 用 ・抗 う 蝕 性 ・生 活 習 慣 病 予 防 な ど の 生 理 機 能 性 が 多 数 解 明 さ れ[1],注 目 さ れ て き た 嗜 好 飲 料 で あ る.一 方,ア レ ル ギ ー は 近 年,急 速 に 患 者 数 が 増 え て き た 疾 病 で,厚 生 省 の ア レ ル ギ ー 総 合 研 究 事 業 (1992-1996年)研 究 班 ・厚 生 省 長 期 慢 性 疾 患 総 合 研 究 事 業 ア レ ル ギ ー 疫 学 の 研 究 調 査 で16歳 以 上 の 我 が 国 の ア レ ル ギ ー 疾 患 有 病 率 は 人 口 の 約30%と 報 告 さ れ,新 生 児 の 発 症 率 が1/3で あ る と も い わ れ て い る. 筆 者 ら は,こ れ ま で に 抗 ア レ ル ギ ー 作 用 の 強 い エ ピ ガ ロ カ テ キ ン-3-O-(3-O-メ チ ル)ガ レ ー ト(EGCG3” Me)[2-4」 お よ び ス ト リ ク チ ニ ン[5]を 茶 葉 中 に 見 い だ し,そ の 中 でEGCG3”Me,エ ピ ガ ロ カ テ キ ン ー3-O-(受付2007年4月3日,受 理2007年5月28日) 1〒428-8501静 岡県 島 田市 金 谷2769 2〒428-8502静 岡県 島 田市 牛 尾869-1 3〒514-2392三 重 県 津 市 安 濃 町 草 生360 †Fax:0547-46-2169,E-mai1;marimy@affrc.go.jp
110山 本(前 田)万 里,長 屋 行 昭,三 森 孝,山 口優 一,堀 江 秀 樹,江 間か お り,鈴 木 昌文,山 内英 樹,藁 科 文雄,水 上裕 造,廣 野 久 子,物 部 真奈 美 (4-O-メ チ ル)ガ レ ー ト(EGCG4”Me)な ど の メ チ ル 化 カ テ キ ン は,従 来,抗 ア レ ル ギ ー 作 用 が 認 め ら れ て い た 茶 葉 中 主 要 カ テ キ ン で あ るEGCG(エ ピ ガ ロ カ テ キ ン ガ レ ー ト)[6-8]に 比 べ さ ら に 強 い 即 時 型 ア レ ル ギ ー 反 応 阻 害 効 果 を 示 す こ と[4],ま た 加 水 分 解 型 タ ン ニ ン で あ る ス ト リ ク チ ニ ン がIgE抗 体 産 生 を 強 く 抑 制 す る こ と を 報 告 し て い る[5].EGCG3”Meに つ い て は, 「べ に ほ ま れ 」[9]と そ の 後 代 で あ る 「べ に ふ う き 」,「べ に ふ じ 」 と い っ た 紅 茶 用 品 種 に 多 く 含 ま れ て い る こ と [10]を 明 ら か に し て い る.「 べ に ふ う き 」 に 含 有 さ れ る EGCG3”Meが,マ ウ ス を 用 い たPCA法 に よ る1型 ア レ ル ギ ー 試 験[11]に お い て,EGCGに 比 べ 有 意 に 強 い 抑 制 作 用 を 示 す こ と,マ ウ ス マ ス ト細 胞 を 使 っ たin vitro の 試 験[12]で も細 胞 内 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼLynの リ ン 酸 化 活 性 を 抑 制 す る こ と で ヒ ス タ ミ ン 遊 離 を 強 く 抑 制 す る こ と を 明 ら か に し て い る.こ れ ら を 受 け,「 べ に ふ う き 」 は 抗 ア レ ル ギ ー 作 用 を 有 し た 機 能 性 素 材 と し て の 飲 料,菓 子 な ど へ の 利 用 が 始 ま っ て い る.一 方,カ フ ェ イ ン の 副 作 用 と し て は,動 悸,不 眠,悪 心,嘔 吐,め ま い な ど が 知 ら れ て お り,今 後,こ の よ う な 茶 品 種 を 使 い,抗 ア レ ル ギ ー 作 用 を 有 し た 飲 食 品 類 を 開 発 す る た め に は,カ フ ェ イ ン の 半 減 期 の 長 い 乳 幼 児,妊 婦 や カ フ ェ イ ン 感 受 性 の 高 い 消 費 者 も飲 用 す る こ と を 考 え, で き る だ け カ フ ェ イ ン の 少 な い 製 茶 法 を 開 発 す る 必 要 が あ る.筆 者 ら は,「 べ に ふ う き 」,「 べ に ほ ま れ 」 を 使 用 し,EGCG3”Me,ス ト リ ク チ ニ ン 含 量 を 減 少 さ せ ず に 低 カ フ ェ イ ン の 抗 ア レ ル ギ ー 緑 茶 を 製 造 す る 方 法 に つ い て 既 に 報 告 し て き た[13].本 稿 で は,さ ら に 効 率
的 か つ 高 品 質 な低 カ フ ェ イ ン 「
べ に ふ う き」 緑 茶 を製
造 す る た め,新
た に 開 発 し た低 カ フ ェ イ ン処 理 機 を使
用 して 製 造 した 「
べ に ふ う き 」 茶 葉 の 化 学 成 分 の 変 動
お よ び 抗 ア レル ギ ー 活 性 へ の 影 響 につ い て 報 告 す る.
2.実
験
2.1供
試 材 料
野 菜 茶 業 研 究 所 の 圃 場(静
岡 県 島 田 市)で
「
べ に ふ
う き」(慣 行 施 肥 栽 培)を2004年,2005年,2006年
の
一 番 茶(越 冬 後 最 初 に 萌 芽 し た新 芽)
,二 番 茶(一
番 茶
摘 採 後50日
前 後 に 萌 芽 し た 新 芽),秋
冬 番 茶(晩
秋 に
樹 形 を 揃 え る た め に 刈 り取 る 茶 芽)を
機 械 摘 み し,低
カ フ ェ イ ン処 理 機 に て 各 条 件 で 処 理 後,2kg少
量 製 茶
機 も し く は15kg製
茶 機 で 粗 揉 機,揉
稔 機,中
揉 機,
精 揉 機,棚
式 乾 燥 機 の 工 程 で 緑 茶 製 造 し た も の を供 試
材 料 と し た.実 験 に 際 し て は,あ
らか じ め そ れ ぞ れ の
試 料 を 粉 砕 機(静
岡 精 機 サ イ ク ロ ン サ ン プ ル ミル
CSM-F1,1mmメ
ッシ ュ)で 粉 砕 して使 用 した.
2.2低
カ フ ェ イ ン処 理 機
カ フ ェ イ ン の 高 温 で 溶 出 しや す い 特 性[14-16]を
利
用 して,今
ま で も熱 湯 に 茶 葉 を浸 せ き して カ フ ェ イ ン
を除 去 す る タ イ プ の 機 械 は販 売 され て い た[17].さ
ら
に 効 率 を 高 め る と と も に 品 質 を 向 上 させ る た め,生
葉
の 処 理 装 置LCT160001を
新 た に 開 発 した.本 機 は,通
常 の 製 茶 製 造 ラ イ ン上,粗 揉 機 の 前 に 設 置 し,低 カ フ ェ
イ ン処 理 は,Fig.1の(A)の
生 葉 投 入 口 か ら生 葉 を 均
低 カ フ ェ イ ン処 理 茶 の化 学 成 分 111 等 な 厚 さ に な ら し な が ら処 理 機 内 に 投 入 し,95℃ 以 上 の 熱 水 シ ャ ワ ー を(B)で 上 下 か ら ネ ッ トコ ン ベ ア に よ り 移 送 中 の 生 葉 に 吹 き 付 け た 後,(C)で 常 温 水 を 噴 霧 し て 冷 却 し て 行 う こ と で カ フ ェ イ ン 除 去 す る 装 置 と し た.従 来 機 と 異 な る 点 は,茶 葉 へ 熱 水 を シ ャ ワ ー 状 に 均 一 に 吹 き 付 け ら れ る こ と,熱 水 を 吹 き 付 け る こ と で 表 面 に 白 く 浮 い て き た カ フ ェ イ ン を 常 温 の 水 を シ ャ ワ ー 状 に 吹 き 付 け て 洗 い 流 せ る こ と で あ る.処 理 時 間 は,生 葉 を 投 入 し て(C)か ら 排 出 さ れ る 時 間 を 示 す. な お,1時 間 当 た り 約50kgお よ び120kgの 生 葉 を 処 理 し う る 処 理 機 を 使 い 試 験 を 行 っ た. な お,本 処 理 機 は,従 来 の 網 胴 回 転 攪 拌 蒸 機(800K) に 比 較 し て 約1.8倍 の 設 置 面 積 が 必 要 で あ り,必 要 循 環 熱 水 量 は 約36000L/hr,必 要 熱 量 は 清 水 注 入 と 生 葉 温 度 の 上 昇 と ロ ス 分 を 含 め 約35万kcal/hrで あ る.ま た, 本 機 を 従 来 の 製 茶 工 場(120kgラ イ ン)で 使 用 す る 場 合, 1時 間 あ た り450kgの 処 理 能 力 を も つ 本 処 理 機 を 蒸 し 機 の 替 わ り に 設 置 す れ ば,十 分 な 蒸 し度 が 得 ら れ,従 来 の 蒸 機 を 通 す 必 要 は な い. 2.3化 学 分 析 乾 燥 茶 葉 粉 末250mgを2%リ ン 酸:エ タ ノ ー ル(1:1, v/v)20mlで30℃,60分 間 抽 出 し,蒸 留 水(DW)で 25mlに メ ス ア ッ プ し た 後,濾 過 し た 上 清 を 使 用 し た. 各 抽 出 液 の カ テ キ ン 類,カ フ ェ イ ン は 以 下 の 条 件 に よ る 高 速 液 体 ク ロ マ トグ ラ フ 法 で 同 時 分 析 し た[18,19]. カ ラ ム はWakopak NaviC18-5(和 光 純 薬 製,4.6mmi.d.
×150mm),カ ラ ム 温 度 は40℃,検 出 器 はUV272nm, 注 入 量 は20μ1,流 速 は1ml/min,移 動 相AはDW: ア セ トニ ト リ ル:リ ン 酸(H3PO4)(400:10:1,v/v), 移 動 相Bは,メ タ ノ ー ル:移 動 相A(1:2,v/v)と し, 次 の よ う な グ ラ ジ エ ン ト条 件 で 測 定 し た.0分 か ら2分 ま で 移 動 相Bを20%で 保 持 し,2分 か ら27分 の 間,移 動 相Bを80%ま で 直 線 的 に 濃 度 を 上 げ,37分 ま で そ の 条 件 を 保 持 し た 後,37分 か ら45分 の 間,移 動 相Bを 20%ま で 直 線 的 に 濃 度 を 下 げ た. 乾 燥 茶 葉 粉 末 を 茶 粉 末100mg/100ml,80℃ で30分 抽 出 し て 濾 過 し た 液 に つ い て ア ミ ノ 酸 分 析 を 行 っ た. 内 標 は,グ リ シ ル グ リ シ ン を 用 い,後 藤 ら の 方 法 に 従 い 高 速 液 体 ク ロ マ トグ ラ フ 法 で 分 析 し た[20]. ま た,2004年 一 番 茶 に つ い て,前 述 と 同 様 の 条 件 で 低 カ フ ェ イ ン 処 理 し た 「べ に ふ う き 」 緑 茶 を 用 い,10 gの 茶 葉 を90℃ の 水1Lで6分 間 攪 拌 し な が ら 抽 出 し, ナ イ ロ ン 紙 で 濾 過 し た 飲 料 中 の シ ュ ウ 酸,カ フ ェ イ ン, カ テ キ ン 含 量 を 分 析 し た.シ ュ ウ 酸 は,茶 飲 料 を よ く 攪 拌 し た 後,上 澄 み 部 分 を メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ(ア ド バ ン テ ッ ク,DISMIC-13CP)に 通 し,キ ャ ピ ラ リ ー 電 気 泳 動 法 で 分 析 し た.す な わ ち,電 気 泳 動 液 は10mM ク ロ ム 酸 ナ ト リ ウ ム,0.5mMテ トラ デ シ ル ト リ メ チ ル ア ン モ ニ ウ ム プ ロ ミ ド,0.1mMエ チ レ ン ジ ア ミ ン 四 酢 酸 ニ ナ ト リ ウ ム と し,検 出 波 長 は254nmで 間 接 吸 光 度 法 に よ り 分 析 し た[21]. 水 分 含 量 は,常 法[22]に て 求 め,各 成 分 値 は,水 分 含 量 を 換 算 し て 乾 物%で 表 示 し た.1つ の 試 料 に つ き, 3回 繰 り返 し て 分 析 し,成 分 値 は 平 均 値 ±SDで 表 し た. 2.4官 能 評 価 官 能 評 価 は,茶(煎 茶)の 標 準 審 査 法[23]に 従 い, 外 観(形 状 ・色 沢),内 質(香 気 ・水 色 ・滋 味)の5項 目 に つ い て,専 門 の パ ネ ル3人 が そ れ ぞ れ20点 満 点 で 評 価 を 行 っ た.ま た,苦 渋 味 の 強 度 に つ い て も 同 時 に 審 査 し た. 2.5培 養 細 胞 に よ る 抗 ア レ ル ギ ー 性 評 価[12] マ ウ ス 骨 髄 由 来 培 養 マ ス ト 細 胞(BMMC)はNc/ Ngaマ ウ ス(日 本 チ ャ ー ル ス ・ リ バ ー,神 奈 川)骨 髄 か ら 分 離 し た 細 胞 を4ng/mlマ ウ スIL-3(和 光 純 薬, 東 京),10%非 働 化FBS(牛 胎 児 血 清,Invitrogen, USA),5mMグ ル タ ミ ン 酸Na,50μM2-メ ル カ プ ト エ タ ノ ー ル(和 光 純 薬)添 加RPMI1640(大 日 本 製 薬, 東 京)培 地 で4週 間 培 養 す る こ と で 得 た.BMMCを マ ウ ス 抗TNP-IgE抗 体(Pharmingen,USA)で1晩 感 作 (0.5μg/2×106cells)し た 後,2回PBSで 洗 浄 し て Tyrode液(0.1%glucose,0.1%gelatin,TA,1mMMgC12 含 有10mMHEPES(pH7.4))に 縣 濁 し,37℃ の 恒 温 漕 中 に て 被 験 液 を 添 加 し て10分 後,300μMCaCl2含 有 TNP-BSA(Cosmo-Bio,Tokyo)300ng/mlを 添 加 し て 20分 間 イ ン キ ュ ベ ー ト し た.4mMEDTA含 有Tyrode 液 で 反 応 を 止 め た 後 上 清 を 回 収 し,液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ 法 に て 遊 離 ヒ ス タ ミ ン 量 を 測 定 し た.測 定 機 器 は, 島 津 製 作 所LC-10Aを 用 い,カ ラ ム はShodex-Asahipak ODP50-4E(4.6i.d.×250mm,5μm径 樹 脂), 流 速 は0.5ml/min,注 入 量 は20μ1,カ ラ ム オ ー ブ ン 温 度 は37℃,検 出 器 はRF(ex.330nm,em.430nm), の 条 件 で イ ソ ク ラ テ ィ ッ ク 分 析 を 行 っ た.ヒ ス タ ミ ン 遊 離 抑 制 率 は 以 下 の 計 算 式 で 求 め た. %inhibition=100×{1-[(S-C)/(AC-C)]} C:TNP-BSA(-)被 験 液 溶 媒 ヒ ス タ ミ ン 遊 離 量 AC:TNP-BSA(+)被 験 液 溶 媒 ヒ ス タ ミ ン遊 離 量 S:被 験 液 ヒ ス タ ミ ン遊 離 量 3.結 果 お よ び 考 察 3.1低 カ フ ェ イ ン 処 理 機 に よ る 最 適 製 造 条 件 の 検 討 低 カ フ ェ イ ン処 理 機 は,1時 間 あ た り 生 葉 約50kgを 処 理 で き る 試 験 機 を 用 い た.ま ず,処 理 時 間,処 理 量 の 違 い に よ る 化 学 成 分 へ の 影 響 を 検 討 し た.Fig.2に 示 す よ う に,2004年 一 番 茶 で は,カ フ ェ イ ン は95℃ で 処
112 山 本(前 田)万 里,長 屋 行 昭,三 森 孝,山 口優 一,堀 江秀 樹,江 間 かお り,鈴 木 昌文,山 内英 樹,藁 科 文 雄,水 上 裕造,廣 野久 子,物 部 真 奈美 理 し た 場 合,処 理 秒 数 が 増 加 す る ほ ど,ま た,処 理 量 が 少 な い ほ ど 減 少 が 大 き く,120秒25kg/h処 理 が 減 少 率 が 最 も 多 く67.2%減 少 し た が,90秒 処 理 す れ ば 半 減 す る こ と が わ か っ た.本 処 理 機 に よ る 処 理 で は, EGCG3”Meの 減 少 は み ら れ な か っ た.こ れ は,前 報[13]
Fig. 2 Caffeine and EGCG3"Me contents in different •eBenifuuki' green tea of processing time and processing capacity in the first crop in 2004. Results are expressed as percentage of dry weight (n=3, mean•}SD).
Fig. 3 Catechin contents in different •eBenifuuki' green tea of processing time and processing capacity in the first crop in
2004. EGCG; epigallocatechin gallate, EGC; epigallocatechin, ECG; epicatechin gallate.
Results are expressed as percentage of dry weight (n=3, mean•}SD). と 同 様 の 結 果 で あ る.ま た,本 処 理 葉 の カ テ キ ン 類 (EGCG,ECG(エ ピ カ テ キ ン ガ レ ー ト),EGC(エ ピ ガ ロ カ テ キ ン))含 量 はFig.3に 示 す よ う に,ほ と ん ど 変 動 し な か っ た.ア ミ ノ 酸 含 量 は,処 理 間 で の ば ら つ き が 大 き か っ た が,若 干 減 少 が 見 ら れ た 処 理 区 も あ っ た(Fig.4).Fig.5に は,2005年 一 ∼ 秋 冬 番 茶 「べ に ふ う き 」 生 葉 を 低 カ フ ェ イ ン 処 理 機 に よ り処 理 し た 場 合 の カ フ ェ イ ン 含 量 の 変 動 を 示 し た.各 茶 期 に お い て 95℃,90秒 以 上 の 処 理 に よ り,カ フ ェ イ ン を50%以 上 低 減 化 で き る こ と が わ か っ た.こ の 場 合 も,低 カ フ ェ イ ン 処 理 に よ るEGCG3”Meを 含 む カ テ キ ン 類 の 減 少 は な か っ た.2006年 も 同 条 件 で の 試 験 を 行 っ た が,同 様
Fig. 4 Amino acids contents in different •eBenifuuki' green tea of processing time and processing capacity in the first crop in 2004. Results are expressed as percentage of dry weight.
Fig. 5 Effect of the tea crop season on caffeine content decrease by processing time in 2005. Processing condition was 50 kg/hr at 95•Ž. Results are expressed as percentage of dry weight (n =3
低 カフェイ ン処理茶の化学成 分 113 の 結 果 を 得 た.こ の こ と か ら,「 べ に ふ う き 」 の 抗 ア レ ル ギ ー 成 分 で あ るEGCG3”Meを 減 少 さ せ ず に ,カ フ ェ イ ン を 半 減 さ せ る た め に は,95℃ の 熱 水 を 使 い,90秒 以 上 処 理 す れ ば 良 い と考 え ら れ た. 2005年 一 番 茶 処 理 葉 の 官 能 評 価 結 果 をTable1に 示 す.低 カ フ ェ イ ン 処 理 を す る こ と に よ り,水 色,滋 味 の 向 上 が 認 め ら れ,苦 渋 味 が 緩 和 さ れ た .「 べ に ふ う き 」 緑 茶 は 渋 味 が 強 い と い わ れ,消 費 者,と く に 小 児 の 嗜 好 に な じ ま な い こ と も あ る こ と か ら,低 カ フ ェ イ ン 処 理 に よ り,苦 渋 味 が 低 減 化 し,滋 味 が 向 上 す る こ と は, 毎 日 飲 用 す る た め に も 評 価 で き る こ と で あ る. さ ら に,熱 水 で 抽 出 し た 茶 飲 料 を 製 造 し,カ フ ェ イ ン, EGCG3”Me,シ ュ ウ 酸 の 変 動 を 測 定 し た.シ ュ ウ 酸 含 量 は,カ フ ェ イ ン含 量 の 半 減 す る60秒,90秒 処 理 で 約
Fig. 6 Changes of chemical ingredient contents in •eBenifuuki' green tea beverage by difference of processing condition. Results are expressed as mg/100 ml (n=3, mean•}SD).
15%減 少 す る こ と が わ か っ た(Fig.6).そ の 際, EGCG3”Me含 量 は 変 動 せ ず,低 カ フ ェ イ ン 処 理 葉 に よ り,機 能 性 成 分 を 残 し な が ら カ フ ェ イ ン,シ ュ ウ 酸 が 低 減 化 し た 茶 飲 料 を 製 造 し う る こ と が 確 認 で き た. 3.2低 カ フ ェ イ ン 処 理 に よ る 抗 ア レル ギ ー 活 性 へ の 影 響 「べ に ふ う き 」 緑 茶 は,抗 ア レ ル ギ ー 活 性 が 期 待 で き る 機 能 性 緑 茶 と し て 流 通 し て い る.そ の た め,低 カ フ ェ イ ン 処 理 で,EGCG3”Meが 減 少 し な い こ と と 抗 ア レ ル ギ ー 活 性 が 低 下 し な い こ と が 必 要 と な る.そ こ で,低 カ フ ェ イ ン 処 理 に よ る,「 べ に ふ う き 」 緑 茶 抽 出 液 の マ ス ト細 胞 ヒ ス タ ミ ン遊 離 抑 制 活 性 へ の 影 響 を 検 討 し た. Fig.7に 示 す よ う に,処 理 時 間60∼120秒(Fig.7-1), 処 理 量25kg∼75kg(Fig.7-2)に お い て,処 理 後 に マ ス ト細 胞 ヒ ス タ ミ ン 遊 離 抑 制 活 性 は 低 下 す る こ と は な く,本 機 に よ り,機 能 性 を 保 持 し な が ら,低 カ フ ェ イ ン 処 理 さ れ て い る こ と が 確 認 さ れ た. 3.3「 べ に ふ う き 」 以 外 の 品 種 で の 低 カ フ ェ イ ン 処 理 の 効 果 カ フ ェ イ ン は,医 薬 品,医 薬 部 外 品,栄 養 ド リ ン ク な ど に 含 有 さ れ て お り,摂 取 過 剰 の 懸 念 か ら,海 外 へ の 緑 茶 の 輸 出 の 面 か ら も,今 後,低 カ フ ェ イ ン 緑 茶 の 需 要 は 拡 大 す る と 考 え ら れ て い る.そ こ で,「 べ に ふ う き 」 以 外 の 品 種 で も 低 カ フ ェ イ ン 処 理 機 の 効 果 を 検 証 す る こ と と し た.「 や ぶ き た 」(2006年 一 番 茶),「 お く み ど り 」(2006年 二 番 茶),「 か な や み ど り」(2006年 二 番 茶)を 本 機 で 低 カ フ ェ イ ン 処 理 し て 成 分 の 変 動 を 調 べ た.Fig.8に 示 す よ う に,95℃90秒 処 理 で,カ フ ェ イ ン は,総 カ テ キ ン 量 の 減 少 は ほ と ん ど な く,「 や ぶ き た 」(Fig.8-1)で68%減 少,「 か な や み ど り 」(Fig. 8-2)で69%,「 お く み ど り」(Fig.8-3)で64%減 少 除 去 さ れ た.こ の こ と か ら,本 機 に よ り,「 べ に ふ う き 」 以 外 の 品 種 の 低 カ フ ェ イ ン 緑 茶 製 造 も 可 能 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た.カ フ ェ イ ン は,他 の ア ミ ノ 酸 や カ
Table 1 A sensory quality test of a low caffeine processing •eBenifuuki' tea leaves.
Shape, Color of made tea, aroma, color of liquor, and taste were evaluated at 20 perfect scores each, and strength of bitterness and astringency express that strength is strong so that a number is small.
114 山本(前 田)万 里,長 屋 行昭,三 森 孝,山 口優 一,堀 江 秀 樹,江 間 か お り,鈴 木 昌文,山 内英 樹,藁 科 文雄,水 上裕 造,廣 野 久 子,物 部 真奈 美
Fig. 7 Effect of processing time and processing capacity on histamine release inhibitory activity of low caffeine processing •eBenifuuki' green tea in the first crop in 2004. (Left; 7-1, Right; 7-2)
Fig. 8 Caffeine and total catechin contents in three major variety of low caffeine processing green tea (Left; 8-1
(Yabukita), Center; 8-2 (Kanayamidori), Right; 8-3 (Okumidori)).
テ キ ン類 に比 べ 熱 水 で 生 葉 か ら溶 出 され や す く,と
く
に 短 時 間 で 急 激 に 溶 出 す る こ とが 報 告[16]さ
れ て い る
が,そ
の 理 由 は 明 らか で は な い.コ
ー ヒ ー の 組 織 お よ
び 細 胞 レベ ル で は,カ
フ ェ イ ン生 合 成 酵 素 の 局 在 性 が
調 べ ら れ,若
芽,茎
に 存 在 し,細 胞 で は 細 胞 膜 に 局 在
す る こ とが 報 告 され て い る[24].茶
葉 組 織 で も存 在 部
位 や 膜 透 過 性 の 要 因 が 関 係 して,熱
水 で 短 時 間 に 溶 出
され る もの と考 え られ る.
カ フ ェ イ ン は 医 薬 品,ド
リ ン ク剤 な ど に 多 く含 有 さ
れ て お り,日 本 薬 局 方 で は,1日
量500mgを
超 えて 服
用 す る と劇 薬 指 定 に な る.米 国 で は,妊 婦 で300mg/日,
4-6才 の 子 供 で45mg/日
の摂 取 上 限 が 推 奨 され て お り
[25],あ
る疫 学 調 査 で は1011人
の 妊 婦 につ い て 調 査 し
た と こ ろ,1日
あ た り71mgの
カ フ ェ イ ン を 摂 取 す る
と 胎 児 の 体 重 が 有 意 に 減 少 し た[26].以
上 の デ ー タか
ら乳 幼 児 や 妊 婦 で1日
あ た り50-60mg摂
取 を基 準 とす
る と,1杯
の 煎 茶 で30-40mgの
カ フ ェ イ ン を摂 取 す る
こ と に な るの で,1日2杯
の 煎 茶 を 飲 用 す る と基 準 を超
えて し ま う.こ れ を低 カ フ ェ イ ン 茶(約60%低
減)に
変 え る と1日2-3杯
飲 用 す る こ と が 可 能 と な る.こ の
よ う に本 機 を用 い て 生 葉 を 処 理 す る と,カ
フ ェ イ ンの
代 謝 速 度 が 遅 く カ フ ェ イ ン リス ク の 高 い,乳 幼 児,妊
婦 や 高 齢 者,カ
フ ェ イ ン に対 して 不 安 を も っ て い る消
費 者 な ど が安 心 し て 飲 用 で き る 緑 茶 を提 供 す る こ と が
で き,緑 茶 の も つ 健 康 機 能 が 幅 広 く利 用 され る こ と が
期 待 され る.
低 カ フ ェ イ ン処 理 茶 の 化 学 成 分 115 4.結 論
95℃ の 熱 水 シ ャ ワ ー を茶 葉 生 葉 に あ て て カ フ ェ イ ン
含 量 を50%以
上 低 減 化 す る装 置 を 開 発 した.本
機 処 理
に よ り,「 べ に ふ う き」 茶 葉 中 の 抗 ア レル ギ ー成 分 は減
少 せ ず,抗
ア レル ギ ー 活 性 も低 下 す る こ と は な い の で,
カ フ ェ イ ン リス ク の 高 い 消 費 者 に 有 効 で あ る と考 え ら
れ る.
謝
辞
本 研 究 は,農 林 水 産 省 先 端 技 術 を 活 用 し た農 林 水 産
研 究 高 度 化 事 業 「
乳 幼 児 飲 用 を め ざ した 抗 ア レル ギ ー
緑 茶 低 カ フ ェ イ ン化 技 術 の 開 発 」(1624)の
補 助 を受 け
て 行 っ た.こ
こ に厚 くお 礼 申 し上 げ ま す.
引
用
文
献
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