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ヘンリー・ジェイムズの『大使』におけるストレザーの意識について

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(1)Title. ヘンリー・ジェイムズの『大使』におけるストレザーの意識について. Author(s). 伊藤, 仙一. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. A, 人文科学編, 31(2): 123-131. Issue Date. 1981-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/4102. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . ヘ ンリ ー. ◎. ジ ェイ ム ズの 『大使』 における. ストレ ザー の意識につ いて. 伊. 藤. 仙. 『大使』 を読む場合,まずt he rene s sという概念を把握しておかねばなるまい. ヨーロ ッ パに例を とるならば, 歴史が営々と築きあげてきたものが, そこに存在するという考え方 である. 文明の凝 縮さ れたもの, それは時には, 寺院であったり, 宮殿であっ たり, 美術館であったりする。 場所を パリに限定するならば, かつての殺りくを内に秘めながら, きらびやかな装いをみせる, チュイ レ リー宮殿, ルー ブル美街館, ノートルダム寺院などが存在しているということ である。 こう した文 明は, そこに住まう個人の生活のすみずみにま で渉み渡っ ているということができる. たとえば, 晩さんの時にまとう正装, たしなむぶどう酒のいっ ぱい, くゆらせる煙草の煙, 会話のひとことひ と こ と, な ど, 全 て に 惨 透 して い る。 こう した 歴 史の か な た か ら の こ だ ま と い っ て よ い manner は, 社 交 の 場 面 では, ま と わ ね ば な ら な. い衣となっ ている。人間の精神はこう したものとの交わりの中から形成されていくものであるから, これを精神風土といってよい。 ヨーロ ッパの精神風土は, 内にくずれていく果実の甘さ, すなわち 道徳の退廃を秘めているかも知 れないが, きらびやかで豊かそうにみえる appearance の 世 界 を 作 り あ げ て い る と い っ て よ い.. he 次に, 前述のt rene s sの概念と同様に, ジェイムズを理解するために重要な小説の技巧 である 「視点」について述べ てみたい. 「視点」とは, 視ることのできる人物を登場人物の一人に限定しよ うとする試みである. 小説における「外の世界」すなわちappea ranceは, 視点を通してしか見るこ とができなくなる. 「視点」は感覚のかぎりなく薄い被膜である眼と, その下に厚みをなしている意 識, すなわち 「内なる世界」 とで構成されている。 しかし流れこんだ 「外の世界」 の印象が, その まま意識に写しだされるようには作用 しない。 ではどのように作用するのか. 印象は意識に対して, 二つのはたらきをする, 一方 では, 過去の経験の層とかかわりを持ち, 新しく経験の層を作ってい くが, 他方では, 「視点」の想像力をかりたてるよう作用していくのである( . ) 。 想像力は意識の表層 のところで作用する。 時には, 現実を背景に美しいイメージを作りあげるが, 時には, 本来の性質 により, 理想化していくあまり, 現実から遊離してしまう. 想像力が幻想を作りあ げるのである. 想像力を刺激していた 「外の世界」 の別のアス ペクトが 「視点」 に投げかけられると, 想像の世界 は壊さ れる. この時, 意識の経験の層から外に向かって流れでていく ものがある. 「視 点」 が ap‐ i ty を認識するの である それを真実の認識というならば この pearance と real . ,. ・説の技巧は, 技巧. inat ion であ り な が ら, 技巧 を 越 え て い る と い っ て よ い。 あ る 批 評 家 は memory と imag 2 ( )と い う 言 123.

(3) . 伊. 藤. 仙. 葉を使用している. この論文に即 していうならば, memory とは単に 「過去の記憶」 のこと ではな i i t く, 意識の経験の層のことである. imag na onとは, 意識の表層のところ で作用する「視点」の想 像力のことである. 作家ジェイム ズの想像力とは異なるものである. この論文においては, 同じ様に 「視点」 の技巧を使用したフロベ ールと比較しながら, まずジェ イ ム ズの こ の 技 巧 の 使 い 方 の 特 徴 を 明 ら か に し た い. 次 に, パ リ と ウ レ ッ ト と い う, ヨ ー ロ ッ パ と. アメリカの平板な比較が, 実は意識の経験の問題であることを示 したい. 最後に, チャ ドや, ヴィ オネ夫人の人生を生きる態度から, ストレザーが想像をたくましく して得た理想像が幻想であった と い う 過 程 を た ど っ て み た い. そ れ は ス ト レ ザ ー の 意 識 が 現 実 に か え る と い う こ と で も あ る. こう. した過程を通 して, ストレザーの意識の経験の意味を明らかに してみたい.. ある小説の文章と, 他の小説の文章と比較して, 作家の文体の特徴を論ずるには, 様々な困難が 伴なう. 都合の良い部分 を切り取って比較するため, 比較そのものが意味をなさない場合もあるし. また, ある作家が常に等質の文章で書いているわけでもないからである. それにもかかわらず比較 してみたい誘惑にかられるのは, 少しでもジェイムズの 「視点」 の性格, 特徴を明らかにしたいか らである. 引用文は, フロ ベールの 「ボヴァリー夫人」 の第三章からである. エンマが恋人のレオ ンと, あいびきするため, 早朝, 馬車で丘の上を通りかかり, 一目のうちに, 現われた光景と接す る場面 である. ’ l l 1argi i Descendanttouten amph l lard i 6 tau theat ssa ebroui e [Rouen] s reetnoyee dansl ,e ’ t ensui te d un l dela des ponts confusement ] nouve l : 1 [ lent lnpagne re l r 1 〔 1 ー ontai . La pleine ca , ’en haut l ’ d h l A l i d i d i l i i t t l i b e a a ouc er au on a as mono one e n cse u ce p e usqu . ns , e ,i ’a ier avai tl l i e comme une peinture ;les navires a l’ancre se rimmobi paysage tout ent. w. l ines vertes etl l tassaient dans un coin;lef eddescol es euve arrondissait ascourbe aupi , ’ les def i orme oblongue,semblaient sur 工eau de grands poissons noirs arretes‐ 3 ( ) ,. 半過去形は, 状景描写をする際, フロ ベールが好んだ時制 で, いつもの光景が眼前で次々と展開 する様子を描くのに適している. 注意しなければならないのは, 光景を見ているのも, エンマ であ り, 描写提示しているのも, エンマの眼であるということである. フロベー ルは光景に 「幾何学的 均整美」「秩序」「絵模様」などを与えようとしている( 4 ) . 光景は背景となり, その前でエンマは行動 す る( 5 ) .. 次に, ジェイ ム ズの場合を検討してみたい. 引用文はストレザーが, パリへの途中立ち寄っ たチェ スターで, ゴストリ嬢に案内され, 古い城跡を訪れる場面である. ldin place l l i l fhe i l-gi le i t t ty Thetortuous wal enc eswol rd ncesnapped,ofthel ,ha ,longs i l by careful ci e between parapets smoothed by peaceful n narrow f vi c hands- wandersi i h h idgedgap i t d i l thrisesand edgate or abr or a smant generat ons ,wi ,paus ng ere and eref l i h drops stepsup and steps down,queertwi sts ,peeps nto ome y streetsand ,queercontacts , l d i f h d f l l ide i he brows of gabl ed eds under t es v ews o cat e ra tower an waters , of hudd. ,. 124.

(4) . 『大使』 におけるストレザーの意識. l Engl i l i ightof shto→wn and ordered Eng sh country. Too deep almostfor words wasthe de hi 1y mixed Wi theset thi t were certain images ofhi t as deep ther;ye sinward ngsto stre ftime, at twenty‐five ; but that lki tead of ‐of n thefar rodthi s wa picture . He hadt ,ins l ingi l i ing and marked hi t tfor present fee spoi ng sub‐ s renewal as a thi chedi y enr ,onl ialenough to share( stant ) .6. 現在形によって, 城壁の光景が提示されている. すると直ちにその光景の印象は過去の経験に作 用して, 25歳の時, この同じ道を通っ た時の喜びの経験を呼び起こす. 過去と過去完了の時制の使 用 に よ り, 二 つ の 経 験 の つ な が り が一 層 明 確 に な る. 光 景 を み る と い う こ と では, ス ト レ ザ ー も, エ ン マ も 同 じ立 場 に い る。 し か し, エ ン マ と 比 較 し て, ス ト レ ザ ー は, 光 景 に ず っ と 接 近 して い っ. て, その中にすっ ぽり入っ てしま っているので, 光景はストレザーの印象として描かれるようにな る( 7 ) . ストレザーが見たものから見えないものを想像するのもこの点と関係 がある。. 3. ストレザー が, パリの生活を始めると間もなく, ゴストリ 嬢が訪れてくる。 彼女は長期のヨーロ ッ パの滞在によって, その文化の粋を吸収し, 洗練された女性である. 観劇を前にして, ストレザー が彼女と夕食を共にする時ストレザーの意識は変化のき ざしをみせる. ろうそくがバラ色の影を落 と す 小 さ な テ ー ブ ル, こ の 彼 女 の く す ぐる よ う な 香 水 の に お い. こ れ ら す べ て は ヨ ー ロ ッ パ の も の. である。 彼の観察は, ただちに, 意識の中で, ウレッ トのニュ ーサム夫人との比較に転ずる. ニュー サ ム 夫 入に つ い て は, 一 度 な ら ず, 劇 場 や ボス ト ン の オ ペ ラ に も, でか け て い っ た け れ ども, さ し 向か い で 食事 す る こ と な どな か っ た し, ピ ン ク の あ か り も 香 水 の に お い も な か っ た. ヨ ー ロ ッ パ に あ っ て ニ ュ ーイ ン グラ ン ドに な いも の の カ タ ロ グ が 繰 り 広 げ ら れ て い る. し か し, ス ト レ ザ ー が「何. 故, こうした ものがないのか」 と問いかける時には, 平板な比較の問題が意識の ドラマとして把握 さ れ て い る( 8 }. ウ レ ッ ト の ニ ュ ー サ ム 夫 人 の 黒 い ドレ ス よ り, ゴス ト リ 嬢 の 赤 いリ ボ ン を 出 発 点 と. して, 新しい眼で見ていこうとするストレザーの姿勢の中に, ローロ ッ パ文明に傾斜している様子 が感じられるが, その意識の底には, 過去の経験があるはずである. パリ に や っ て き た ス ト レ ザ ー は, チ ャ ドの 住 居 を 訪 れ よ う と, パ リ の 町 を 歩 い て い く. チ ュィ レ. リー公園では, 人の姿が 「偉大なパリという時計が時をき ざむように」 動いているのを見, 今はな い宮殿の跡からは, 歴史をなつかしむ気持を抱く。 リュクサン ブル グの公園では, テラスの小 道, 泉水, みどりの鉢の小さい植木など 「調和のとれた絵」 として眺める。 このようにしてたどりつい たチャ ドの住むア パー トは窓がすみれ色の空にむかって開かれており, 節度と調和のあるこの家か ら, 中に住む人の人生を想像したりする. このように, ストレザーの意識は 「外の世界」 をそのま ま写し出すのではなくて, 宮殿の跡から宮殿を想像したり, ア パー トのたたずまいから, 人生を想 像したりする. 視覚に写るものが前景となり, 背景となり, 想像されるものは, ますます美化され ていく。 しかしそれは意識の表層のところ で起こっている現象である. 次に ストレザーが, グロリアーニの庭園へ でかけていっ た時の模様をたどっ てみたい. 庭園のは ずれにパヴィ リオンがあり, それが磨かれた寄木細工, 白いパネ ル, 薄い黄色の金ぱくなどで飾ら 125.

(5) . 伊 藤 仙. れていて, そこに立って観照しているストレ ザーに感銘を与える. フロベ ールと比較した時のジェ イムズの特徴が, ここでもそのまま 表現されている. 荘重な邸宅と, 庭園との境をなす高壁から「強 い伝統の存在」 を感じたりするのは 「人間の尊厳」 が表象されているからであると思われる. ヴィ オネ婦人の過去の履歴を語る ゴストリ嬢の 言葉に「過 ぎゆく一瞬一瞬の歴史」を感じたり, 彫刻家, グロリアーニの顔のしわにも 「年月の経過が高貴な風格となって現われている」 と思っ たりするの と軌を一にしている.こう したさま ざまな印象の中で,特にすさまじい印象を投げかけた グロリア- ニ と の 出 逢 い に つ い て 引 用 し て み よ う. i ips s VV i th hi slong Career behind him and h sl s eyes, his manners on hi s geniusin hi ,hi i l f t i dl k d i i th lround the greatart honoursandrewardsal st , n eCourseo as ng esus a ne oo an ,. igy oftype. l ingprod i fected ourf ivinghim,af l ight atrece r end as adazz af ew wordsofde l as, morereverently,later on, l Strether had seeni n museums-inthe Luxembourg as we l l ionai in t he New York ofthe bi s hand; knowing too that after an res-the work ofhi h P i ih id ier t i ・nei earl n hi s native Rome he had migrated ,in m ‐Career,to ars, w ere, wt a. l lof whi l lat ion:a h h i te ch was morethan ・nost violent personallustre al , e s one n a cons i ththeromance ththel t ory sgues enoughto C ght rownhim,forhi .Strether,in ,ofgl ,wi ,wi ththa telement ashehad never yetsointimately been,hadtheconsciousnessof Contact wi ingthi t t l lthe windowsofhi srather grey tant s mind t openingtoi ,ofle ,a ,forthehappyins ld geography. l ime not markedin hi ior d inter inkinfor onCethesun of a c so 1 0 r ( ) マ ッ シ ー セ ン が, 性 格 描 写 に 深 み が 増 し た 例 と し て あ げて い る よ う に( ・ . ) ,『ロ ドリ ッ ク・ハ ドソ ン』. の中の, 俗物的彫刻家 グロリア ーニは, ここでは, 微笑の背後に, おそろしい人生を隠している 天 才として描かれている. ヨーロッ パの栄光とロマンが, この彫刻家の 上にさんぜんと輝いている. ストレ ザーの 「心の窓がすべてそれに向かって開かれ, くすんだ灰色の内部へ, 彼の古い地図には 書き記されていない風土の陽光を, ほしいまま飲みこむの を意識した.」という文章から, 現実を前 にして, みずからの想像力 で作りあげた美の世界へ自分から傾斜していく姿が思い浮かぶ. 『大使』 を, 想像と現実との対比として読んでいくと, 意識は議論から抜け落ちてしまう であろ う. しかし何故ストレザーの心は灰色にくすんでいたかと考えると, ストレザーの意識の問題につ きあたる. ス ト レ ザ ー が, 最 初 チ ェ ス タ ー に 渡 っ た 時 点 で, 『メ イ ジ ー の 知 っ た こ と』に お け る メ イ ジ ー の 意. 識がタブララサ であったのとは異なって, 彼の意識には経験の層があることが解る. その一例とし て, 新妻をともなって, 南北戦争の直後に, ヨーロ ッ パを旅して歩いたことがあげられよう. その 旅をヨーロ ッ パの高い文化とのきずなにしようと考え, 書物を買いこみ, 数年の後の再訪 を誓った のであっ たのだが, それを果たす ことができないまま, ニュ ーイングラン ドの精神風土の中で年老 いてしまっ た. この痛恨の人生をわずかに, ウレッ トの文化評論雑誌にた ずさわることで, 慰めて いたの である.「人生には, いや しくもやっ てくる ならば, 手遅れにならないうちにや って来なけれ ば, 永遠に失なわれてしまう.」というストレ ザーの言葉からも, 痛恨の念の激しさがうかがわれよ つ.. しか しま た 一 方 では,「人 間 の 意 識 は,た よ り な い ジ ェ リ ー の よ う な も の で,型 に 流 しこ ま れ て … …. 形を与えられて どうにか恰好がつく.」とストレ ザー自身もい っているように, 彼の過去の経験の層 l i ta には, 一種のf a sm がある. ニュ ーイングラン ドの精神風土の中で, 精神構造の基礎を形作られ 126.

(6) . 『大使』 におけるストレザーの意識. てしまったからには, もはや, 知的な面, あるいは論理的な面, 以外において, 過去のきずなをた ちきっ て精神の革命をやってのけるのは不可能だというのである( . 2 ) . ス ト レ ザ ー の 心 は, や は り 灰 色 な の で あ る.. 彼が, グロリアーニの庭園で, 青年ビラムに向かって 『……若さにふさわしい人生を生きてほし. l lyou can ぞ( い。 力 の か ぎり 生 き た ま え. … …』 ”Livea , 3 )と 発 す る 言 葉 は, 以 上 の よ う な context. の中で意味をもってくる。 圧倒的にせまっ てくるパリの現実に身を浸せというのである. ヨーロ ッ パの快楽に身をまかせというのである( 4 . 〉 . それは, ウレッ トが提示する物事を善と悪で割り切ろう と す る の と は, 別 の 範 ち ゅ う に 属 す る こ と で あ る。 だ が, こ の 言 葉 は, ス ト レ ザ ー に と っ て, 前 述 i の fatal sm に 裏 う ち さ れた は か な い 自 由 へ の 渇 望 で あ る か も 知 れ な い. フ ォ ー ス タ ー は, こ の 作 品 ” l l を批 評 す る の に, 砂 時 計 の 比 噛 を 使 っ て, 「そ の 中心 に パ リ が あ る.」( , 5 )と 述 べ て い る が, Livea ” you can; を 中 心 に して 考 察 し て み る と, ヨ ー ロ ッ パ と ア メ リ カ の 平 板 な 比 較 の 問 題 が, 意 識 の Drama に 転 ず る の であ る .. 4. ストレ ザーは, だんだん パリでの生活にのめりこんでいく. チャ ドの相手であるヴィ オネ夫人の 部屋の模様を描写してみたい. 客間の美しい板ばりや円形浮彫, 鏡などには古いパリが息づいてい る. 第一帝政時代の栄光, ナポレオン時代の趣味や伝統などの光輝が感じられる。「おぼろげな歴史 の影と偉大な帝国のかすかな響きに満ちている」部屋のたたずまいに触発されて, 想像力によって, 美の極致を示すヴィ オネ夫人の姿が浮かんでくる. それはノートルダム寺院で祈りを捧げているこ の女性の限りなく 美しい姿であり「朝雲になお円身を包んだ女神」「夏の海に腰から上をあらわにし て い る 妖 精」な どのイ メ ー ジ で 描 き 出 され る こ の 女 性 の 姿 であ る。 確 か に, マ シ ー セ ン の い う 通 り, ペ イ タ ー の 魅力 を ほ う ふ つ と さ せ る 描 き 方 であ る( . 6 ) .. チャ ドはパリ で習い覚えた manne rに 身を包ん で, 少なくとも, 過去の自己からは, 全く自由に な っ て いる と い う appearance を み せ て い る. こ の こ と は, 洗 練 さ れ た 彼 の 顔 に よ っ て も う か が え. る. ストレ ザーは, ホラン ドもいっているように, 潜在意識の中で, 彼を自分の息子と考えている ふしがある( . 7 ) 。 すなわち, かつて妻を失っ た時, 不注意から息子をも死に追いや ってしま ったので あるが, いまや, ニュ ーサム夫人との結婚により, 自分の義子になるかも知れないチャ ドに愛情を 抱いているというのである。 またこれまでのチャ ドとのま じわりの中からも愛情は育くまれてきて いる. こうした愛情とチャ ド自身の変貌によって, チャ ドはますます理想化されていく. だから, ビラム が, 彼のこのような変貌の過程において, 女性の愛情があったに しても, その 愛情関係 は t tachmentだ と 断 ず る とき, ス ト レ ザ ー が そ れ を, 清 ら か な 交 際 だ と 受 け と る の も 当 然 の rtuous a vi. ことと思われる。 ニューイン グラン ドの道徳的力を, 抽象的な形 で表象しているニューサム夫人と, それを具体的に生活信条として身につけている友人のウエイ マーシュ とを背景にしてみると, スト レ ザ ー は パリ の appearance の 世 界に の め り こ ん で, 遥 か 彼 方 へ き て し ま っ た こ と に な る. こ う し た. のめりこみ方を止めさせようと, ゴストリ嬢は,「チャ ドの愛情は, やましいものだと信 じられない か.」 と注意する. このことばには, ス トレザーに対する愛情がある。 「このうえ確かめる必要など あるものか.」と切り返すストレザーには, チャ ドを理想化しようとする意図がある. ニュ ーサム夫 人がポコック夫妻とチャ ドの婚約者メイ ミーを第二の使者として, パリへ送りこんでくる頃から, ストレ ザーの意識の底にある過去の経験がうずき出す. たとえば到着した汽車の窓越しに写るサア 127.

(7) . 伊 藤 仙. ラの髪をみて, ニュ ーサム夫人の洗練された髪 を思い出し, 彼の婚約者でもあるこの夫人との間に 「わだかまり」 でもできたら大変だと思っ たりするのもその一例 である. その時, ストレザーは彼 女に対する忠誠心をしばらくとりもどす. “Hehadsuddenysoundedthewholedepth,hadgasped. “ に の 文 章 は そ の 時 の 彼の 意 識 を示 して い る ‘ = t the might have los at wha , 8 .( . dept と は 深 み の あ る 経 験 の こ と で あ り, 「失 っ た か も 知 れ な い も の」と は, 意 識 の 下 の 方 に あ る ニ ュ ー イ ン グラ ン ドへ つ な が っ て い る き ず な の こ と で あ る.. この頃の揺れ動くストレザーの意識は, 推理小説として読んでも, 喜劇として読んでも, 小説と しての興味を誘うものがある. 自分が帰国するかしないか をストレザー の決定にゆだねるチャ ドに トレザーは, 大使の役目とは逆の役目を演 じているこ 対して, パリ の生活を続けさせようとするス, it t t h チ ヴ オネ夫人 ド とになる.その中心には, ャ , ィ ,娘のジャンヌを中心に演じられる v r uousa ac ‐ lの oo ment を支えようとする使命感があっ た. しかし, チャ ドに対する 理想像がくずれると, 彼はf と結婚させると ジ ンヌを別の男 実際 ヴ オネ夫人が 役目を演じていたことに なってしまう. , ャ , ィ tutusat tach曲entは, そ の 美 し いイ メ ー ジ を 失 い は じめ る. 可 憐 な 娘 が, 母 告 白 す る と こ ろ か ら vi r. rの残酷さを表わす-典型であろう がきめたというだけで, 愛のない結婚を強いられるのは,manne l f been f he had even himse l ing as i t;fee Vaguely and confusedly he wast roubl ed by i h t b lowedfor depths concernedi n something deep anddim・Hehad al , utt ese were grea er: iblefor wha id d b h tthey i l dl f t was asi a l ュdi ,oppressve y ---- n ee a sur y---- e wasrespons t---- t was----throughsomething ancientandcoldini had now thrownuptothesurface .l. l l ld have ca what he wou edtherealthing. , 9 ( ) tuous at tach-nent だ と 想 像 し て r 今 ま でチ ャ ドの 相 手 を 娘 の ジ ャ ン ヌ だ と 考 え, 二 人 の 関 係 を vi. いた. その理想像がくずれ, 意識の中の経験の層から, 何かが流れでようとする 時, 「外の世界」に l i ty が 見 え て く る. こ の 論 文 では, お い て も, そ れ と 呼 応 す る か の よ う に, appearance の 蔭 か ら rea lthing そのことを真実の認識と呼んできたが 「奥深い底から表面に浮 びあがっ たもの 」それをrea. . , と呼ぶという表現は, 意識が真実に触れようとする事 情を説明している. チャ ドが帰国したいと希望を述べる過程の中からも 理解できるように, 彼は新しいタイ プの男で r あっ た. ヴィ オネ夫人から, 情事の快楽を味わいつく し, 夫人を通してヨーロッ パの世界の manne を吸いとるように身につけると, 傷心の彼女を思いやることもなくウレッ トヘ去っていこうとして い る. tuousa t tachIDent r ス ト レ ザ ー に と っ て, vi 2 。 )と は, 結 局 どう い う こ と で あ っ た の か. そ の 意 味 が ( ionscene に お い て であ る. t 決 定 的 に 明 ら か に な る の は, reco≦mi. こうしたいろいろの事があっ た後, 田園風景を楽しみたいという素朴な願いから, ストレザーは 田舎へ でかけていっ た. 風景が目に入るとす ぐに, 彼はかつてボストンの画廊で見たランビネーの 絵を想像していた. その時の絵の題材は, フランスの田園風景であった. 時がめく り め ぐ っ て, ト レモント街の, えび茶色の天窓のついた画廊 でみたあの絵そのものを見ることができ なくても, せ め て, あ の 絵 の 題 材 と な っ て い た フ ラ ン ス の 田 園 風 景 を こ こ で 見 る こ と が で き た ら どん な に 楽 しか. ろうと思っ ていた. あの遠い昔の時をこの自然の中へ復元させるのである. 逆にいえば, この田園 風景が, 彼の意識に流れこんでくると, その印象は, どんどん意識の層を下へ 突き抜けてはるか昔 の, え び茶 色 の ボ ス ト ン の 画 廊 へ ゆ き つ い て しま う の で あ る. パ リ と ニ ュ ー イ ン グラ ン ドと の 間 に 128.

(8) . 『大使』 におけるストレザーの意識. 横たわる mora1と manner の 決 定 的 な 差 異 を 痛 感 し て い た ス ト レ ザ ー に し て み れ ば, 風 景 に こ と よ せて, 融合を夢みても不思議ではない. ストレ ザーは, 想像により, 理想的姿を描いていく。 灰色 がかった青い流れ, ひたひた寄せるさ ざなみ, 平野, 空, 点在する家。 彼はこの絵を完全なものに するためには, ボートが一隻浮かん でいるべきだと思う。 するとその時, 一隻のボートがオールを 握った男とピンクの日傘をさした貴婦人をのせて, 川筋の曲がり目から, 姿を現わしたのだっ た。 彼の想像力が一隻のポートをこの絵のような風景の中へよんだというのは超自然的発想かも知 れな い. しかしそう思いたい ぐらいボートがぴたりと, この時出現して, 絵を完全なものに しようとす る。 理想像は, はてしなく続くように 思われた. しかしこうした理想像を作りあげていく 想像力も, 結局は, 意識の表層のところ でしか作用しないことが理解される。 現実の別のアス ペクトが姿を見 せ る と, 理 想 像 は 幻 想 で しか な か っ た こ と が, は っ き り す る の で あ る。 ボ ー ト の 中 に は, チ ャ ドと ‐ ヴィ オネ 夫 人 が 乗 っ て い た の で あ る。 二 人 の 関係 の 隠 れ た 部 分 が あ ら わ に な っ た の であ る。 recog ionscene に お い て, 彼 は, 自 己の 問 い か け に 終 止 し て い る. 彼 は 男 女 の 仲 と い う も の は, あ る 時 t ni. 点までくれば, あのよう であるはずなのに, ちがったものであっ て欲しいと思っ たのは, 自分では なかったかと自省する. あの二人の暖昧な関係の衣をは ぎとっ たのは自分なのだから, 二人が認め ざるを得なかっ たその関係を, 想像をまじえることなく, そのまま認めなければならないという認 識が, 彼の意識の中から生まれでている。 ストレザーの意識から良心がうねり でているといってよ い。 良心とは「悔恨と誘因の中で, さま ざまな既知の事柄をかみしめること」「事柄の意味をまとめ る こ と」 2 . ( ) であ る。 こ の 言 葉 は, ブ ラ ッ マ ー の 引 用 であ る。 表 面 こ の 論 文 の 主 旨と 一 致 し て い る が,. 検討してみると不一致の点が目立つ. ブラックマーは, たとえば, 若い男, チャ ドに捨てられ, 下 女のようにとり乱しているヴィ オネ夫人の姿を前にしても, 夫人そのものには関心をみせずにいる ストレザー が, 夫人の姿に象徴される「美と情念」 , そこから洩れてくる 「可能性」 には, 魅せられ 良心の働きを見ようとしている ているところに, . そう した選ばれた美と知識のイメージをどんど ん上昇させ理想化しようとするところに良心の働きをみようとしている。しかしこの論文の主旨は, そのイメージが砕かれ, 現実にかえった瞬間における, 良心の働きをみようとしている。 だから, パリにとどまっ て結婚してく れと ゴストリ嬢に要請され, それをしりぞける時のストレ ザーの意識 を, ジェイムズが 『創作ノート』 に記したように推測できるのである。 ス トレザーの経験は, 外か らみるとつまらないものであっ たかも知れないが, 内面においては, 魂をゆり動かすほど全的なも のであって, ゴストリ嬢との結婚を考えるという 次元を, 遥かに越えて対岸の岸辺にきてしまって. ‘Hehascomesofarthroughhi lexper i ta encethathehascome on いる。 と いう の で あ る。 ‘ sto ’ ’ t ide i de-ontheothers th Mi th Gos theothers ry 2 2 .( 〉と い う の が ス ト レ ザ ー の 意 識 ,ofaunion wi. である。 彼は, その時, あらゆる存在の背後にあって, 彼の人生の最終評価を下そうとしているも t のの存在を感 じ, それが, 介在する多くの経験の肩越しに彼をみていると意識するの である。 ”l. ◆ ’ こ う した 意 識 の 一 連 の う ね i heshoulderof muchinterpos ingexper facedhim・ ・…・overt ence…’ 2 3 } (. り が 良 心 であ り, こ の 点 で, ジ ェ イ ム ズ に お い て 意 識 は 良 心 であ る と い っ て よ い。 そ して ス ト レ ザ ー. の意識が読者に感銘を与えるとするならば, それは, ジェイムズの想像力のなせるわざである。 ヨ ー ロ ッ パ と ア メ リ カ の manner と moralの 比 較 は, 結 局, ス ト レ ザ ー の 意 識 の 経 験 の 問 題 で. あったということ。 「視 点」という小説技巧は, 技巧の問題を遥かに越えて, 意識の経験, 意識と良 心, の問題であると論じてきた。 ジェイムズの前期の国際性をテーマにした小説と 『大使』 など, 後期の小説との差異は 「視点」 の技巧がより徹底して追求された結果, 意識がより鮮明に表現さ れ て き た こ とに あ る。. 129.

(9) . 伊. 藤. 仙. 一. 註 l l i l thaca 1) Cf f 嵐8〃“ 超伽倦 ( es 2d Pe鴛戊 メカ8ば れ 物B MO健な q ea r s .Sa , ,Z脳 亙増訪れ81粥曜粥のあれ′ Eoγ粥 α7 “968 New York:Corne IUni P 1 2 6 ) r e v s s p . . . , , i i ion にニ分し t t expe r enceを ac on とreac ’ ion:theact iveim i ionofone l lupontheext l wor ld t act ー s wi erna pos i t reac on:aresponseofthemi nd と 説明 して いる. 「外 の世 界」 との 接 点での経験と, 精神がそれにどう反応す るか と いう こ と であ る, Cf lham Edgar l l& Rus l llnc ) se 2α A”劫 “ (New York:Rus se 7 2α7 .Pe , ,323一324 . , 品eれり 超加餐 ′ 肌α ,1964 ,pp i i iv i dimag inat ion が ある こ とを指 摘 して い る. 324 timag sbl es nat on と a morev . ス トレザーに は, hi l l ip M. We i dge i i t t t 2) Phi 2α云海 産gqziだmB%な qf 物81粥 唯 物のめ〃(Cambr s: n ns e Sα7 ,Massachuse ,鼠鋤か 超伽B 日award Un i ) v ,Pre熊,1971 ,164 , ,p Lawrence B. Ho l l d E an , ゆ8れs gq f 湾鋤o〃′ Essのsoれ 効≧ Cm就 P 1 4 Pr inceton Un i 9 6 2 3 3 ) r e s s v . . . , ,p. け. 鼠eれり 超伽B i S(Pr nceton rs ey: , New Je. i i ) 3) Gustave F1aubert s:Garn er .244 , , 肌α吻 粥8 Bo如 か (Par ,1955 ,p IE1 物 廃 物ズm 飾れ(London:Pau l ipGo 劫 野 物 ム AS 鼠 ) d M 彰の ek 4) Phi 如創 だ 姥 ve r B Sα れ e ” o 鋤か . .166 ,1974 ,p , 1 Z Z Z f 霧中鰯,i 5) Cf en Tate s αれd Es sのs 加 川od n Cγ e創 霧中鰯 ヱ920-5ヱ(New York: Q“e . AI , 8物諺郷8q Rona ld Pres ) s Company .40一43 . ,1952 ,pp ’ A H Z彬 ら ぬ I i i l i bner J m t e 6) enry am s 餌sα 符,VO onofHenryJames(New York:Char esscr s .1:New YorkEd , 1 6 1 sons 1 5 9 3 7 - ) . . ,pp ,. 7) この論旨をもっとはっきらと示している文章をすぐ次のp .17より引用する. ing inthe i l l ine----cons t tant te rs rol They hads topped rnoonsunsh ypaus , ,forthesharper ,intheaf ighs i desoftheo lds tonygrooveofthe therres t re edononeoftheh senseof whattheysaw ----and st l i i t wi th h r ofthe cathedra l t l i s face to the towe t ssuppor t eaned back on th ー e ram par , now , He l d d d b d i l i t h i h d b ion i l tat s rs rab admi y commanded bythe ,squarean su or naeyspre an ,the g re ‐rown mas i ht h f i l l fthe h h l l d d i i t t h d d b t d d t e r s s w a o w so tore , u c arm ng o s ong ‐ seae eyesan w t touc e an res e ,re crocke l lroundi l i ingthe t i rf ght a year weav . i l IUn ) l thaca v s 8) HenryJames .50 , .Pres ,p ,1969 , New York:Corne , 亙αw云わ 創e( T脳 T脳創鐙 qf 品8〃“ 超伽郎′ A 励財伽 q f obseγりのわれ 劫のz省ゑ 劫e VZSメメ A71s(New 9) Edwin T.Bowden,7 l iv ) Haven:Ya e Un .99 . .Press ,p ,1956 I Z Z 10 ) HenryJames . .1 ,196 . ,p , の,c , VO i Y k o f d Un i ) v th sl963 sen es 11 ) F.0. Mat .Pres .37 . ,p , 鼠鋤け 加伽8篇 肌の“ P跨餌e(New or : x or. i T脳 T劣昭eあ げ 肌αれ”e γNweゐ げ 品貌“ 加伽B S(Hamden cCrews 12 ) Cf 7 s′ 肌omZDm朔α 初 物eLの2 , . Freder ,7 1 1 3 6 9 7 i Connec ) t cut: Archon Books p ,. . , 1 と いう 言 葉 を使 っ て 論 旨を 進め て いる. i i losoph 1と ph l l tua ca そこ ではi nte ec I ZL VO 13 ) HenryJames .217 . . 1,p .c ,op. ) l l ing so 7 sqy 2 LZ勿如彰惚 αれd L8の 効”g(New York:Viking Press ) LioneITri 14 y鯛d C“#“舵 ′ Es ,1965 , a ,B pp . .194-196 l d Ltd ) Z eな (London:Edward Arno c s け 劫β Moむ ) E.M.Forster P8 15 . .143 . ,p ,AS すん 力 i th 16 ) Cf es sen . .じ .p .236 . F.〇. Mat ,oの l land 1 ) Cf p 7 . . Lawrence B. Ho .αL P.236 ,o I 1,p 18 ) Henryjames .74 . .1 .c鷲 . ,op , VO 19 ) 必須. .129 . ,p l l:Lαれg加増e 伽d k”ow/ th Bernard Yeaze edge 初 物B Lの8 M仰d f 猛e〃“ 超mgs(Chicago:the sq 20 ) Cf . Ru d d f i い て 参考に なる. P 4一7 5 い 考 察 して fC h i 1 9 7 6 7 t ゆ れに て iv そ の つ Un ) の n e n o cago res s . . .o ,pp , 〆 α C“ Z S 傷 Z t E i α 劫 勾 7 1 乃 L 品 ろ ” 7 2 ”〃(New York: Harcour s ” O ” 〃 ′ s s 21 ) R.P.B1ackmur 2 e e o 7 2α 7 o れ の伽 q y 砂 , , l d Brace & Wor ) .279 . .1955 ,p ,lnc. b ) Henry james f 品B”“ 超伽e sed.by F.○. Matthissen and K. B. Murdock (New York: 22 o o廓 q , TぬB M所β. 130.

(10) . 『大使』 におけるストレザーの意識. i l l George Brez )p er . .415 . ,lnc ,1955 α V l ≠ 23 ) HenryJames 1 o ,1 ,293 . , . ,op ,p. (なお, 訳本に青木次生訳ヘンリ-ジェイムズ 『大使』 (講談社)と大島仁訳 『使者たち』(八潮出版社)を利用 させ て い た だ いた,) (本 学助 教 授 ・ 旭川 分 校). 131.

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