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日本産ハダニ亜科の系統関係の考察

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 坂 神 た か ね

学 位 論 文 題 名

日本産ハダニ亜科の系統関係の考察

ーー特にcelarZ彫SSpeCleSgroupにつしゝて−一

学位論文内容の要旨

  ハ ダ 二 類(Tetranychidae)は、 重要 な農 林害 虫を 多く含 むた めに 、こ れま で応 用動 物 学的 な面 から 膨大 な研究 が蓄 積さ れて きた 。1960年 代初 頭に は、 単に アカ ダニと総 称 さ れ 、 こ の グ ル ― プ の 構 成 種 ・ 生 態 も不 分 明 で あ っ た が、 現在 では 世界 で74属、

1189種 が分 類記 載さ れ、ま たそ れら の生 態・ 行動 には 大き な多 様性 があ るこ とがあき ら かに され てい る。 こうし た、 生態 ・行 動学 的な 研究の発展によって、それまで1っと さ れて いた 種が 、多 くの種に分割されたり、また、主に形態形質をもとに、いくっかの 系統樹も提案されてきた。

  しか し、 近年 の生 態・行動研究の発展によって、従来の上位分類群を分ける上で重要 な 形態 形質 の機 能が 次々と あき らか にさ れ、 例え ば属を分けるメルクマールの1つであ る 歩行 器の 形態 が、 それぞれの種の固有の生態、っまり寄主葉への適応によって収斂し う るも ので ある こと などが判明してきた。これらの生態・行動に関する新しい知見は、

従 来の 形態 形質 によ って構築されてきたハダ二類の系統関係に重大な疑問を提出すると と もに 、記 載分 類に おけるカテゴリー(属、族等)が、このグループの進化的歴史性か ら乖離しているのではないかという疑問を生じさせている。

  そこで、本論文においては、ハダ二科(T、etranychidae)のうち、その主要な亜科で あ るハ ダ二 亜科 (TetranycMnae)を とり あげ 、属 およ び種 の系 統関 係を 分子 系統学的 手法を用いて解析を試みた。

  ま ず 、 ハ ダ ニ と い う0.5mm内 外 の 微 小 動 物 か ら コ ン ス タ ン ト にDNAを 抽 出 す る と い う 方 法 の 確 立 を 試 み た 。 そ の 結 果 、1個 体 か らPCR法 に よっ て特 定領 域を 増幅 する た め に は 、 従 来 のDNA抽 出 法 が、 属に よっ ては きわ めて困 難で あり 、不 安定 であ るこ と が わ か っ た 。 ま た 、 一 部 の ハ ダ 二 類 にお い て 分 析 が 行 われ てい たmtDNA、COI領域 の 一部 の塩 基配 列を 決定、解析したとしても、その部分の変異は配列間の塩基置換が全 て のコ ドン ポジ ショ ンにおいて飽和しており、ハダ二類の属レベルの系統関係を解析す る に 足 る 系 統 情 報 を 持 っ て い な い こ と が 、 塩 基 配 列間 の 突 然 変 異 率 の 推 定 に よ る saturationtestによ ってあ きら かに なっ た。 この こと は、 これ まで 断片 的に 出されて い た 同 領 域 を 用 い た 系 統 解 析 に 信 頼 を お け な い こ と を 示 す も の で あ っ た 。

(2)

  そ こ で 、 最 近 の 分 子 系 統 学 にお い て 高次 分 類 群の 系 統解 析 に 用い ら れて い るrDNA の28S領域 の 解析 を 試 みた。 日本全国 におけるハ ダ二類の 採集調査 を繰り返 し実施し 、 わ が 国 に 分 布 す る ハ ダ 二 亜 科11属70種 の う ち 、 9属39種 を 採 集 し 、 そ れ ら の rDNA28S領 域 約930bpに つ い て の塩 基 配列 を 決 定し た 。塩 基 配 列の 多 重 整列 の 結果 、 得 ら れ た963bpのconsensus配 列 のsaturationtestに よ っ て 、 各OrI丶U間 の 分 岐 後 経 過 時 間 と 塩 基 置 換 数 の 間 に 比例 関 係 のあ る こと が あ きら か に なり 、28SのPCR増 幅 領 域 の 塩 基 配 列 が 、 ハ ダ 二 亜 科 の 系 統 情 報 を 十 分 に 反 映 す る こ と が わ か っ た 。   次 に 、 塩 基 配 列 の 多 重 整 列 結 果 を も と に 、 近 隣 結 合(NJ)法 お よ び 最 節 約(MP)法 に よ っ て 系 統 推 定 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 得 ら れ た 分 岐 図 は 、(TetranWカus,

〇ロg.0ny曲uSめrロユ〇Sanus冫,仏mpわj亡e釘an刪ユuS),(Ce伽uS種群),(Ap〇n刪1uS C〔 ) ゆL珊e,  Schめ 絶 鰤 蚰uSの 一 部 ,E〇 絶 餓my曲uS冫 ,  ( .P細0ny曲us冫 ,

(例轡〇n刪1uSの一部),(.SaSan刪1uS,Yを勿nWhuS,S出i勿むer洳粥カuSの一部)(()

内 が ク レ ー ド ) と な り 、 各 ク レ ード 間 の 関係 は 、従 来 の 形態 形 質 およ びmtDNA、COI 領域 で提案さ れていた 系統仮説と は大きく 異なるも のとなっ た。同時 に従来の 系統仮説 の 最 大の 欠 点は 、 世 界的 にみても 大きな属を 形成して いるS匸悩 勿絶Cran刪】us属が欠 落 し てい た こと に よ ると 判 断さ れ た 。さ ら に 、特 筆す べきは、1980年初頭ま では、わ が 国 から1種 の みが 記 録 され 、 その 後 行 動・ 生 態の 違 い をも と に 日本 で3種 十2変種 、 中 国 で2種、 東 南ア ジ ア から3種 、 また プ ラ ジル で1種 が記 載 さ れたceぬ ガus種 群 が、

それ がおかれ てきたS匸 由i勿絶frany,cぬUs属とは明確に分離して、1つのクレ―ドを形 成すること、また従来はもっとも派生的とされていたT、efranユ′cんus属が、ハダ二亜科 内 で も っ と も 古 く 分 岐 し た グ ル ― プ で あ る こ と 、Eb絶fran刪 ユ us属 と Sくめi勿絶ほan刪 ユus属が単系統性を示さないことなど、これまでの定説からは予想もし ない新知見が得られ、新しい系統仮説を構築することができた。

  さら に、ceぬガUs種群内の 種の系統関 係を分析 した結果 、寄主植 物を異に する種間が 近縁 であり、 寄主植物 が同じで巣 のサイズ を大きく 異にする 種間の方 が、分岐 が古いこ とが あきらか になった 。っまり、 巣サイズ を基準に 系統をみ ると、巣 のサイズ が大きい グル―プと小さいグル―プがそれぞれクレードを形成していた。

  また 、ceぬガus種 群のスス キスゴモリ ハダ二(Schi勿絶打a瑯′c.カusmおcant脚の中 に2つ の 異な る グル ― プが 存在する ことが、行 動や生殖 的隔離か ら報告さ れていた 。そ こ で 、 そ れ ぞ れ の グ ル ー プ か ら 各6個体 群 に つい て28Sお よ び 並行 研 究で 発 見 され た マイ クロサテ ライトの 近接領域を 分析した 。その結 果、これ らのグル ープそれ ぞれに特 有 の 塩基 配 列の あ る こと が判明し 、この2つの グループ が遺伝的 に異なる 集団であ るこ とを 確認した 。これら の情報は、 今後この 種群の分 化プ口セ スを生態 ・進化等 の視点か ら追求する上で、重要な基礎となるであろう。

  もと より、本 研究でえ られた分子 系統が、 形態情報 による系 統より必 ず正確であるこ とを 保証する ものでは ない。今後 、さらに いくっか の遺伝子 領域につ いて同様 の解析を 行い 、その信 頼性を増 していく必 要がある だろう。 それでも 、本研究 で得られ た系統仮 説は 、休眠性 、生活型 あるいは寄 主植物と いった生 態・行動 面で、こ れまでの 系統仮説

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よりも、高い整合性をもっており、少なくとも従来の仮説をみなおす必要性を指摘する に十分なものであった。したがって、今後系統仮説に整合する分類体系を考える上にお いても有効であると考える。

90

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   齋 教 授   諏 教 授   伴 助 教 授  綿

藤    裕 訪 正明 戸 久徳 貫    豊

学 位 論 文 題 名

日本産ハダニ亜科の系統関係の考察

ー―特にcelarius species groupにつしゝて――

  本 論 文 は 、 図 表 を 含 め121ぺ ー ジ から な り、 引 用 文献118を含 ん で いる 。 他に 、 参 考論文2編が添え られてい る。

  ハ ダ 二 科(Tetranychidae)は 、 重 要 な 農 林 害 虫 を 多 く 含 み、 現 在 まで に 世 界で74 属 、1189種 が 分類 記 載 され 、 ま たそ れ らの 生 態 ・行動 には大きな 多様性が あること が 明らか にされて いる。

  近年の 生態・行 動研究の 発展によ って、従来 の上位分 類群を分 ける上で 重要な形態形 質 の機 能 が 次々 と 明ら かにされ 、例えば 属を分け るヌルクマ ールの1つ である歩 行器の 形態が 、それぞ れの種の 固有の生 態、っまり 寄主葉へ の適応に よって収 斂しうるもので あるこ となどが 判明して きた。こ れらの新し い知見は 、従来の 形態形質 によって構築さ れてき たハダニ 類の系統 関係に重 大な疑問を 提出する とともに 、記載分 類におけるカテ ゴリ− (属等) が、この グループ の進化的歴 史性から 乖離して いる可能 性を示唆してい る。

  そ こ で 、 本 論 文 に お い ては 、 ハ ダ二 科 のう ち 、 その 主 要な 亜 科 であ る ハダ 二 亜 科

(T丶etranychinae)を とりあげ 、属およ び種の系 統関係を分 子系統学 的手法を用いて解 析を試 みた。

  ま ず 、 ハ ダ ニ か ら コ ン スタ ン ト にDNAを 抽出 す る とい う 方法 の 開 発を 試 み、1個 体 か らPCR法 に よっ て 特定 領 域 を増 幅 する た め に必 要 な方 法 を 確立 し た 。ま た 、従 来ハ ダ 二 類 に お い て 分 析 が 行 わ れて い たmtDNA、COI領 域 の一 部 の塩 基 配 列変 異 は配 列 間 の塩基 置換が全 てのコド ンポジシ ョンにおい て飽和し ており、 ハダこ類 の属レベルの系 統 関 係 を 解 析 す る に 足 る 系 統 情 報 を 持 っ て い な い こ と を 明 ら か に し た 。   そ こ で 、 最 近 の 分 子 系 統学 に お いて 高 次分 類 群 の系 統 解析 に 用 いら れ てい るrDNA の28S領 域 の 解析 を 試みた 。日本全 国におけ るハダ二 類の採集調 査を繰り 返し実施 し、

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日 本 に 分 布 す る ハ ダ 二 亜 科 11 属 70 種 の う ち 、 9 属 39 種 を 採 集 し 、 そ れ ら の rDNA28S 領域約 930bp についての塩基配列を決定した。塩基配列の多重整列の結果、

得 ら れ た 963bp の consensus 配 列 の saturationtest に よ っ て 、 各 OTU 間 の 分岐 後経過時間と塩基置換数の間に比例関係のあることが明らかになり、28S のPCR 増幅 領 域 の 塩 基 配列 が 、 ハ ダ ニ亜科 の系 統情 報を 十分に 反映 する こと がわか った 。    次に、゛塩基配列の多重整列結果をもとに、近隣結合 (NJ) 法および最節約(MP) 法 によって系統推定を行った。その結果、得られた分岐図は、従来の形態形質および mtDNA 、COI 領域で提案されていた系統仮説とはかなり異なるものとなった。同時に 従 来 の 系 統 仮 説 の 最 大 の 欠 点 は 、 世 界 的 に み て も 大 き な 属 を 形 成 し て い る Schizotetranychus 属 が欠 落して いた こと による と判 断さ れた 。さら に、本属の ce ぬガus 種群が、本属とは明確に分離した1 つのクレードを形成すること、また従来は もっとも派生的とされていたT をほ如刪】us 属が、ハダ二亜科内でもっとも古く分岐し たグループであること、E 〇絶と:ran 刪1us 属とS 曲ヱZ 〇絶ぬny 曲us 属が単系統性を示さ な い こ と な ど 、 こ れ ま で の 定 説 と は 異 な る 、 新 し い 系 統 仮 説 を 構 築 し た 。    次に、ce ぬr .ms 種群内の種の系統関係を分析した結果、寄主植物を異にする種間が近 縁であり、寄主植物が同じで巣のサイズを大きく異にする種間の方が、分岐が古いこと が明らかになった。つまり、巣サイズを基準に系統をみると、巣のサイズが大きいグル ープと小さいグル―プがそれぞれクレ―ドを形成していた。また、行動や生殖的隔離に よ っ て 知 ら れて い た cebr 山 s 種 群 の ス ス キス ゴ モ リ ハ ダ ニ( S 曲 Z め絶触 n 刪1us m お can 出 D の2 つの異なるグループを、それぞれのグループから各6 個体群について 28S および並行研究で発見されたマイクロサテライトの近接領域を分析した。その結 果、これらのグル―プそれぞれに特有の塩基配列のあることが判明し、この2 つのグルー プが遺伝的に異なる集団であることを確認した。これら一連の情報は、この種群の分化 プロセスを生態・進化等の視点から追求する上で、重要な基礎になるものである。

   今後、さらにいくっかの遺伝子領域について同様の解析を行い、その信頼性を増して いく必要があるものの、本研究で得られた系統仮説は、休眠性、生活型あるいは寄主植 物といった生態・行動面で、これまでの系統仮説よりも、高い整合性をもっており、少 なくとも従来の仮説をみなおす必要性を指摘するに十分なものであった。このように、

本研究の成果は、基礎、応用の両面から重要なハダ二科の研究に、新しい視点をあたえ るものであり、高く評価される。

   よって、審査員一同は,坂神たかねが博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を

有するものと認めた。

参照

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