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低温高湿度条件によるジャガイモの長期貯蔵 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 樋 元 浮 一

学 位 論 文 題 名

低温高湿度条件によるジャガイモの長期貯蔵 学位論文内容の要旨

1.背景・目的

  我が国 の年間 のジャ ガイモ 生産量 は約300万tであり ,その 用途は 大きく 生食用 ,加工食 品用, 澱粉原 料 用及び種子用の4っに分けられる。北海道におけるジャガイモの作付面積は,61,400ha,収穫量は2,962,500t(平 成11年) で,全 国に占 める北 海道の 割合は 作付面 積で65% ,収穫 量で76% であり ,ともに全国第1位となっ ている 。北海 道では ,8〜 10月 に収穫 された 生食用 ジャガ イモを 翌年の4月ごろま で貯蔵を行っているが,

その後 西南暖 地産の 春作の ジャガ イモが流 通する までの 期間には全国的に品不足となり,価格も高騰する。

従って 北海道 産ジャ ガイモ の貯蔵 期間を2〜3ケ月 延長させ ることができれぱ,国内産の生食用ジャガイモを 安定的に周年供給することが可能となる。

  そこで 本研究 は生食 用ジャ ガイモ の長期 貯蔵技 術を確立 することを目的として,ジャガイモの貯蔵基礎特 性を把 握し, これに 基いて 基礎実 験により 新規貯 蔵技術 を提案し,これを用いた実用規模貯蔵庫において貯 蔵期間 を延長 するこ とが可 能であ ることを 実証し た。さ らに,この技術を用いた貯蔵方法により貯蔵したジ ヤガイモの流通段階における品質維持向上技術についても検討を行った。

2.ジ ャガイ モの貯 蔵に関 する基礎 特性

  青 果物の 呼吸速 度は主 として貯 蔵温度 に依存 し,低 温であるほど低下するのが一般的である。しかしジャ ガ イモの ように収 穫後休 眠し, 貯蔵中 に覚醒 する青 果物では,呼吸速度は温度のみではなく貯蔵期間によっ て も変化 する。そ こで, 温度別 ,貯蔵 期間別 にジャ ガイモの呼吸速度の測定を行った。その結果,収穫直後 で は急激 に温度低 下させ ること によっ て,逆 に呼吸 速度の増加をもたらす可能性があること,貯蔵期間が進 行 す る に 従 っ て , 呼 吸 速 度 は 温 度 が 低 い ほ ど 低 下 す る 傾 向 に あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。   ジ ャガイ モは貯 蔵温度 が低いほ ど呼吸 が抑制 される ことがわかったが,過剰な低温は凍結を招き,品質低 下 に繋が る。従っ て,ジ ャガイ モの凍 結温度 を知る 必要がある。そこで,ジャガイモの凍結温度の測定を行 っ た。凍 結温度は個体差が非常に大きく,部位や水分にも影響を受けるが,最も高い凍結温度で約‑1.4℃であ っ た。従 って,貯 蔵庫の 温度制 御精度 等を考 慮して も,従来の貯蔵温度より低い温度での貯蔵が可能である こ とがわ かった。

3.低温 高湿度 条件に よるジ ャガイ モの貯 蔵基礎実 験

  従来の 貯蔵よ りもさ らに低 温で, 且つ高湿度を維持することが,ジャガイモの長期貯蔵に有効であること を確認 するた めに, 貯蔵基 礎実験 を行った 。

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  収穫翌年4月まで低温貯蔵されたジャガイモを用いて,低湿度条件として段ボール貯蔵,高湿度条件とし てデシケータ貯蔵を行い,品質変化を測定した。貯蔵温度は10,3,−1℃とした。貯蔵中発芽,腐敗固体数の 割合は高温度ほど高く,また質量減少率は貯蔵温度が低いほど,湿度が高いほど小さくなることが確認され た。

  この結果より,低温高湿度を正確に制御できる貯蔵庫を試作した。この貯蔵庫では冷却器に対して送風を 行わない,自然対流型の冷却器を採用し,デフロスト回数を低減するために冷却器のフィンピッチを18mm と大きくした物を採用した。また,加湿器として平均直径7um最大直径15 umの微細な水滴が得られる二 流体ノズルを採用した。これを用いて2品種の生食用ジャガイモの長期貯蔵基礎実験を行った。この結果,

特に「男爵薯」については,従来の貯蔵方法による貯蔵と比較して,2〜3ケ月の貯蔵期間の延長が可能であ ることが明らかとなった。

4.小規模実用施設におけるジャガイモの低温高湿度貯蔵

  低温高湿度がジャガイモの長期貯蔵に有効であることが確認されたため,これを実用施設に応用し得るか 否かを検討するため,100t規模のプレハブ式低温高湿度貯蔵庫を用いて,約100tのジャガイモの貯蔵実験を 行 った。貯 蔵条件 は温度2℃,湿度95%RHとした。貯蔵期間は1999年9月29日〜2000年7月21日までの 299日間とした。貯蔵初期には,外気導入による冷却を行い,貯蔵設定温度に達した時点で,冷却器と加湿 器の運転を開始した。貯蔵中,貯蔵位置による温度変化は非常に小さく貯蔵庫全体が均一に冷却された。貯 蔵した試料は,従来の貯蔵方法による貯蔵より約3ケ月問貯蔵期間が長いにもかかわらず,貯蔵終了時にお け る質量減 少率は 約4% となり,非常に良好な貯蔵を行うことが可能であることが明らかとなった。

5.大規模実用施設におけるジャガイモの低温高湿度貯蔵

  低温高湿度貯蔵庫として実際に建設され,運用されている8,OOOt規模のジャガイモ貯蔵施設において,低 温高湿度の制御状況を確認し,さらに貯蔵されたジャガイモの品質変化を把握して,低温高湿度貯蔵の実用 施設での有効性および問題点を明らかにした。

  本施設は従来方式と同様地下ピット通風方式を採用しているが,その冷却,加湿方式は,第3章で述べた ものと同様のものを採用している。貯蔵初期においては地下ピットを利用して外気導入による通風を行い,

設定温度に達した後,冷却器,加湿器の運転に切り替える方法を採用した。設定条件は温度2℃,湿度95%RH とした。

  1室に約4,OOotの試料を貯蔵し貯蔵期間は1999年10月12日〜2000年3月18日までの158日間とした。

  大規模な実用施設においても,貯蔵庫内の温湿度を均一に制御できることが明らかとなり,ジャガイモの 品質も良好に貯蔵することが可能であることがわかった。

6.低温高湿度貯蔵におけるジャガイモの品質向上

  長期間低温貯蔵したジャガイモは,夏期に市場に出荷されるが,このときの急激な温度上昇が,発芽や内 部褐変の原因となり,商品価値を著しく損なう恐れがある。そこで,出荷前に一時的に貯蔵温度より高い温 度に置くことで,高温による障害を抑制することが可能であるか否かを検討した。その結果,出荷前に10℃ で4日間貯蔵することにより,出荷後の萌芽,内部褐変の発生を抑制することが可能であることが分かった。

  また,低温高湿度で長期間貯蔵を行った場合,出荷される時期は夏期間であり,西南暖地産のいわゆる新

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じやがとの品質競争となる。従って,さらに高付加価値化が必要となる。そこで,ジャガイモのアスコルビ ン酸含量に着目した。ジャガイモのアスコルビン酸含量は低温貯蔵により,低下するとされてきたが,急激 な低温ショックにより,一時的に増加することを確認した。特に収穫直後においてその増加は著しく,また 長期貯蔵後にアスコルビン酸含量の低下したジャガイモにおいても,低温ショックにより一時的に増加させ ることが可能であることがわかった。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

低温高湿度条件によるジャガイモの長期貯蔵

  本 論 文 は7章か ら 構 成 され て 韜 り ,図 ユ18,表7, 写 真21, 引 用 文 献47を 含 む総 頁 数134 の 和文論文 である 。別に 参考論 文8編が 添えら れてい る。

  本 研究は 生食用 ジャガイモの長期貯蔵技術を確立することを目的として,主として「男爵薯」

の 貯蔵基礎 特陸を 把握し ,新規 貯蔵技 術及び 貯蔵庫 の設計 基準を提 案している。続いて本技術 を 採用した ′』哺 髄鷏謝 験用崩 凋搬ぴWヽは実 用尉備潤卦こおいて貼減実験を行い,従来の臓方 式 に 比 較し て 貯 蔵 期間 を2 ‑3カ 月間延 長する ことが 可能で あり, さらに大 型実用 貯蔵庫 にお い ても本技 術を採 用する ことが 可能で あるこ とを明 らかに した。さ らに,本技術を用いて長期 間 の 貯 蔵を 行 っ た ジャ ガ イ モの流 通段階に おける 品質維 持向上 技術に ついて も検討 を行っ て い る。

  得 られた 結果の 概要は以 下のと おりで ある。

1.ジャガイモの貯蔵に関する基礎特性

  崩凋 麟披弓I亅及U淑 穏臓日 翻引に 呼吸速 度の測 定を行っ た結果 ,呼吸遠渡は馬璃激が低いほ ど,また財凋t期間が灸E‐長されるほど低下することを明らかにしてレヽる。しかし,収穫直後に急 激に 温度を 低下さ せた場合は,呼吸速度の増加をもたらす一可能性があることも明らかにした。

  ジャ ガイモ の凍結 温度は 個体差 が大きく ,部位 や水分 にも影 響を受 けるが,最も高い凍結温 度で 約ー1. 4℃ であっ た。従 って, 生食用 ジャガ イモの設 定貯蔵 温度は,貯蔵庫の温度制御精 度等 を考慮 しても ,従来の 設定値(5℃前後 )より も低い 温度に 設定す ることが可能であること を明らかにした。

2.低温高湿度条件によるジャガイモの貯蔵基礎実験と貯蔵庫の設計

  貯蔵に関する基礎実験を行った結果,賭璃氈中の発芽及び噸眼攵個体数の割合は高温度ほど増加 し , ま た 質 量 減 少 率 は 貯 蔵 温 度 が 低 く , 湿 度 が 高 い ほ ど 減 少 す る こ と を 確 認 し た 。   基礎実 験の結果 を参考 に,「 男爵薯 」の最 適貯蔵条件は温度2℃,相対湿度95%であることを 確 認した 。この 条件を 正確に 制御で きる貯 蔵庫を 設計した 。貯蔵 初期には品温を可能な限り貯

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彦 一

三 人

和 俊

從 和

藤  

  田

間 村

伊 端

松 岩

授 授

授 授

   

   

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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蔵温 度まで 低下さ せるた めに貯蔵 庫床下 から送 風を行 ない, 品温が 貯蔵温度に達した後には冷 去B器 を用い て温度 制御を 行う方 式を想定 した。 この場 合,自 然対i鹹を拐ミ用し,デフロスト 回数 を低減 するた めにフ インピッ チを18nrnと大き くした 冷却器 を採用し た。高 湿度条 件を安 定 し て保 っ た め に, こ 流 体 ノズ ル を 用 いた 加 湿 器を 取り付 け,平 均直径7ルm最大 直径15 um の微細な水滴を貯凋簿内に直接麑霧するカ式を採用した。本方式を採:用したパ澑鸚胡険用貯備潤£

を用 いて,2品種の 生食用 ジャガ イモの長 期貯蔵 基礎実 験を行 い,「 男爵薯 」につ いては ,従 来 の 貯 蔵 方 法 よ り2〜3ケ 月 貯 蔵 期 間 を 延 長 す る こ と が 可 能 で あ る こ と を 確 認 し た 。

3. 小規模 実用施 設にお けるジャ ガイモ の低温 高湿度 貯蔵

  開 発し た 購 潤 窃式 を 採 用 した 小 規 模 の実 用 貯 蔵 庫を 用いて, 約100tの ジャガ イモを299日 間 に亘っ て貯蔵 した。貯 蔵期間 中は貯 蔵庫内 の温湿 度は均 一に保 たれ,温湿度変化も少なく経 過 す る こと を 確 認 した 。 貯 蔵した 試料は ,従来 の貯蔵方 法によ る貯蔵 より約30月間貯 蔵期間 が 長いに もかか わらず, 貯蔵終 了時に おける 質量減少率は約4%となり、貯蔵終了時のほう芽・

腐 敗の発 生は認 められな かった。従来の貯蔵方式においてはほう芽・腐敗の発生は避けられず,

質 量減少 率が讎 以上を示 すこと から本 方式の 有効性 を確認 した。

4.大規模実用施設におけるジャガイモの低温高湿度貯蔵

  開発した貯蔵方式を採用した「JAようていJ所有の8,0001ン規模の大型実用貯蔵庫(4,000卜ン づ っ2室に 分離) におい て実証実 験を実 施した 。実験 は1室,4,000トン を対象 に158日 間実施 した 。貯蔵 初期に おいて は地下 ピットを 利用し て外気 導スに よる冷 却を行い,設定温度に達し た後 ,冷却 ・加湿 装置の 運転に 切り替え る方法 を採用 した。 実験の 結果,大規模な実用施設に おい ても貯 蔵牽内 の温湿 度を設 定値どお りに均 一に制 御でき ること が明らかとなり,ジャガイ モ の 品 質 を 良 好 な 状 態 に 保 ち つ つ 貯 蔵 す る こ と が 可 能 で あ る こ と を 確 認 し て い る 。

5. 低 温 高湿 度 貯 蔵 にお け る ジ ャガ イ モ の 品質 保 持 向 上技 術

  長 期 間 低 温高 湿 度 条 件下 で 貯蔵し たジャ ガイモ を夏期 に出荷 する場 合,出荷 前に10℃の温 度 条件 下に4日 間保持 するこ とによ り出荷 後のほ う芽, 内部褐変 の発生 を抑制 するこ とが可 能 で ある こ と を 明ら か に し た。

  ま た ,ジャガ イモに 急激な 低温ス トレス を与え ること により ,アスコ ルビン 酸含量 を2週間 程 度 高 い 値 に 保 持 す る こ と が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。

  以 上のよう に本研 究では ジャガ イモの 貯蔵基 礎特性 を把握 し,これ に基いた基礎実験により 新規 貯蔵技 術を開 発し, 貯蔵庫 の設計 基準を 提示して いる。 また, 実用規模貯蔵庫において,

従来 よりも 貯鴻溯 間を延 長する ことが 可能で あること を実証 した。 さらに,この技術を用いた 貯蔵 方法に より長 期間貯 蔵した ジャガ イモの 流通段階 におけ る品質 維持向上技術を提案した。

この ように ,本研 究は基 礎研究 から新 規貯蔵 技術の開 発,応 用技術 に至るまでの広範囲な研究 であ り,そ の成果 は学術 的に高 く評価 される とともに 実用施 設にお けるジャガイモの貯蔵およ び 流 通 過程 で の 品 質維 持 向上 に有効 に反映 させる ことが 可能で あるこ とが明 らかにな った。

  よ っ て審 査 員 一同は 、樋元 淳一が 博士( 農学) の学位を 受ける のに十 分な資 格を有 するも の と 認 め た。

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