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乳酸輸送担体monocarboxylate transporterの 発現調節に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 生 命 科 学 ) 鳴 海 克 哉

学 位 論 文 題 名

乳酸輸送担体monocarboxylate transporter の 発現調節に関する研究

学位論文内容の要旨

骨格 筋は収縮 速度によ って速筋 と遅筋に分類され、前者はミトコンドリアが少なく、

乳 酸 を産生し やすい繊 維である 。一方、 遅筋はミト コンドリ アが多い ため乳酸 産生 は少 なく、ま た、乳酸 を外から 取り込ん で利用す ることができる。Monocarboxylate transporters (MCTs)は低 分子のモ ノカルボ ン酸を輸 送する膜夕ンバク質として同定 さ れ 、 骨 格 筋 で は 主 にMCT1お よ びMCT4が 発 現 して い る。 近 年 の研 究 によ りMCT1 は 遅 筋繊 維 を 豊富 に 含む 赤 筋 や心 筋 など に 多 く分 布 し 、MCT4は 速筋繊維 が豊富な 白 筋 に多いこ とが明ら かとなっ ている。 したがって 、速筋で 産生され た乳酸はMCT4 に よ って 放 出 され 、MCT1によ っ て 遅筋 や 心筋 に 取 り込 ま れ完 全 に酸化さ れると考 え ら れている 。したが って、こ れらのト ランスポー ターの調 節メカニ ズムを明 らか に す ることは 乳酸代謝 の恒常性 を理解す る上で非常 に重要で あり、生 体内で生 じて い る 物質輸送 の生理的 意義を明 確にする 上で重要な 情報を与 えうると 考えられ る。

本研 究では運 動時に活 性化され るニつにシグナル分子AMP‑activated protein kinase (AMPK)お よ びprotein kinaseC(PKC)に 着 目し 、 骨 格筋 に おけ るMCTの発 現 調 節機 構 お よ び 乳 酸 代 謝 へ の 関 与 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。

(1)骨格 筋のMCT発現 に及ぼすAMPK活性化の 影響

  骨 格 筋 のMCT発 現 に 及 ぼすAMPK活 性 化の 影 響をin vivoお よびin vitroの 両面 か ら 検 討 し た 。AMPK活 性 化 剤 で あ るAICARが ラ ッ ト 骨 格 筋 のMCT1、MCT4な ら びにGLUT4の タ ン バク 質 量に 及 ぽ す影 響 を検 討 し たと こ ろ、 速 筋 繊維 が 有 意な筋 組 織 に お い てMCT4お よ びGLUT4の タ ン バ ク 質 量 が 増 大 し た 。一 方 、遅 筋 に おい てGLUT4、MCT4は ほ と ん ど 変 化 し な い こ と が 明 ら か と な っ た。 ま た、MCT1は 各 筋組 織 に おい てAICARの影響を 受けなか った。次 に、in vitro骨格 筋モデル として ヒ ト 横 紋 筋 由 来RD細 胞 を 用 い てAMPKの 活 性 化 がMCTの 発 現 に 及 ぽ す 影 響 を 検 討し た 。 その 結 果、MCT4 mRNAお よ び タン パ ク質量は ,AICARの処理 により顕 著に 増 大 す る こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、 こ のMCT4 mRNA量 の 増 大 はAMPK阻 害 剤 compoundC(CC)に よ り 抑 制 さ れ た 。 一 方 、MCT1はAMPK活 性 化 の 影 響 を 受 け な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 よ り、 骨 格 筋、 特 に速 筋 に おい てMCT4はAMPK活 性 化 を介 して発現 が増大し 、細胞外 への乳酸 排出の亢 進に寄与し ているこ とが示唆された。

(2)骨 格 筋 のMCT発 現に 及 ぽ すPKC活 性化 の 影 響

  AMPKは 乳 酸の 産 生が 急 上 昇す る よう な 高 い強 度 の 運動 に よる 細 胞 内ATPの 減少

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により活性化する一方で、PKC は比較的強度が低い運動でも活性化すると考えられ て い る。 そこ で、 RD 細胞を 用いて骨格 筋の MCT 発 現に及ぼす PKC 活性化 の影響 を検 討した。は じめに、PKC 活性化剤であるPMA がグルコース取り込みおよび細 胞産生量に及ぽす影響について検討したところ、 PKC 活性化により RD 細胞内への グルコ,ス輸送が亢進し、それに伴い乳酸産生量が増加した。次に、 MCT1 及びMCT4 の発 現量に及ぼ す PMA の 時間依存的な影響について検討したところ、MCT4 mRNA 量は 乳酸産生量 の増加とともに増大した。一方、 MCTl mRNA 量はPMA 処理後短時 間内に顕著に増大し、その後は乳酸産生量の増加とともにコントロールレベルまで 減少 した。また 、 PMA に よるMCT4 夕ンバク質量の増大は乳酸産生量と同様、 PKC 阻害剤であるBIM により顕著に抑制された。さらに、細胞外への乳酸排出に及ぼす MCT4 ノッ クダウンの 影響を評価 したところ 、 MCT4 ノックダウンにより PMA によ る細胞外乳酸量の増大が有意に減少した。したがって、PKC 活性化を介した乳酸産 生の増大に伴いMCT4 の発現が増大し、細胞外への乳酸排出を亢進することが示唆 された。

(3 ) PKC を介したMCT の発現制御機構

   これ までの結果 より、 MCT1 およ び MCT4 の発現には異なる調節機構が存在して いる可能性が示された。そこで、これらの転写制御に着目し、PKC 活性化を介した 発現 制御機構を 明らかにす るべく検討 を進めた。 RD 細胞において MCT1 のプロモ ーター活性は PKC 活性化を介して速やかに上昇した。また、阻害実験の結果から、

このプロモーター活性の上昇にはPKC くが寄与している可能性が示唆された。一方、

MCT4 のプ 口モーター 活性に及ぼ す PMA の影 響を検討し たところ、 PMA は添加 後1 時間 から 6 時間では MCT4 プロモーターの活性にほとんど影響を及ぽさず、 24 時間 から 48 時間という 長期的曝露 より MCT4 プロモ ーター活性を顕著に上昇させた。

した がって、 PMA によるMCT4 の 発現誘導は MCT1 と異なるメ カニズムを 介してい るこ とが示唆さ れた。そこで、 PMA による MCT4 の誘導メカニズムについて詳細に 検討した。はじめに MCT4 遺伝子の 5 :上流領域を段階的に欠失したレポータープ ラスミドを作成し、 MCT4 プロモーター領域におけるPMA 応答配列の探索を行った。

その 結果、 MCT4 遺伝 子 5 . 上流 ‑505 から ‑23 の領域が PMA による MCT4 の転写活 性化に重要であることが示唆された。この領域について詳細に解析したところ、

nucler factor‑kappaB(NF‑KB) 、specificity proteinl(SP1 )結合配列およびhypoxia responsive element (HRE) が存在することが明らかとなった。したがって、PMA によ る MCT4 プ口モーター活性の増大にこれらの候補配列が寄与している可能性が示唆 さ れ た。 そ こで 、 NF‑KB 結 合 配列 お よび HRE に 変 異を 導 入し 、 PMA に よる MCT4 プ口 モ冖夕ー活 性に及ぼす影響を検討したところ、PMA によるMCT4 プロモーター 活性の上昇は 2 ケ所の HRE に変異を導入することにより顕著に抑制された。また、

SP1 阻害剤であ るミスラマ イシンは PMA による プロモーター活性の上昇に影響を 与 え なか っ た。 以 上の 結 果よ り 、 PMA によ る MCT4 転写活性の 上昇には HRE 、す なわち低酸素応答に関与する配列が重要であることが示された。Hypoxia‑inducible factor la (HIF‑la) は低酸素時に安定化し、HRE に結合することにより解糖系関連遺 伝子の発現を誘導することが明らかとなっている。そこで HIF‑la に着目し、MCT4 発現 誘導への関 与について 検討を行っ た。その結 果、長時間 の PMA 処理 により HIF‑la 夕ンパク質量が増加することが明らかとなった。また、HIF‑la ノックダウン 条件 下において PMA による MCT4 プロモータ ー活性の上 昇およびタ ンパク質量 の

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増大は顕著に抑制された。以上の結果より、PMA によるMCT4 プロモーター活性の 増大にHIF‑la が関与していることが強く示唆された。

以 上 、 本 研 究 に よ り骨 格筋 におい てMCT の 発現 はAMPK や PKC の活 性化を 介し て 厳密に 制御 され 、乳 酸代謝 の変化に適応していることが明らかとなった。

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学位論文審査の要旨 主査    教 授    井関    健 副査    教 授    菅原    満 副査    准教授   武隈    洋 副査    准教授   山口浩明

学 位 論 文 題 名

乳酸輸送担体 monocarboxylate transporter の 発現調節に関する研究

  Monocarboxylate transporters (MCTs)は低 分子のモノカルボン酸を輸送する膜タンパク質 であ り、 骨格 筋で は主 にMCT1およ びMCT4が 発現 して いる 。骨 格筋 は収 縮速 度に よ ってfast タイ プの 筋繊 維( 速筋 ) とslowタ イプ の筋 繊維 (遅 筋) に分 類さ れ、 前者 にはMCT4が 多く 発現 して おり 、後 者に はMCT1が多 いこ とが 明ら かと なっ てい る。 した がっ て、 運 動時 に速 筋 で 産 生 さ れ る 乳 酸 はMCT4に よ っ て 放 出 さ れ 、MCT1に よっ て遅 筋に 取り 込ま れ エネ ルギ ー 源 と し て 利 用 さ れ る と 考 えら れて いる 。こ のよ う に骨 格筋 にお いてMCTは運 動 機能 を維 持す る上 で重 要な 役割 を果 たし てお り、乳酸 代謝の一端を担っている。骨格筋では運動によ りMCTの 発 現 量 が 増 加 し 、 乳 酸の 輸送 能が 増大 する こと が明 らか とな って いる が 、そ の制 御機 構に 関し ては ほと んど 情報 がな く、生理 的意義にっいても不明な点が多いのが現状であ る 。 本 研 究 で は 運 動 時 に 活 性化 され る2つ のシ グナ ル分 子AMP‑activated protein kinase (AMPK)お よ びprotein kinaseC(PKC)に 着 目 し 、 骨 格 筋 に お け るMCTの 発 現 調 節 機 構 およ び 運 動 時 の 乳 酸 代 謝 へ の 関 与 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 種 々 検 討 を 行 っ た 。

(1)骨 格筋 のMCT発現 に及 ばすAMPK活性 化の 影響

  骨 格 筋 のMCT発 現 に 及 ば すAMPK活 性 化 の 影 響 をin vivoお よびin vitroの両 面か ら検 討 し た 。AMPK活 性 化 剤 で あ るAICAR投 与 に よ ル ラ ッ ト 骨 格 筋 、 特 に 速 筋 繊 維 が 有 意 な 筋 組 織 にお いてMCT4のタ ンパ ク質 量が 増大 した。また、in vitro骨格筋モデルであるヒト横紋筋 由 来RD細 胞 に お い て 、AICARに よ るMCT4発 現 量 の 増 加 はAMPK阻 害 剤compoundCの 併 用 に よ り 抑 制 さ れ た 。 一 方 、in vivoおよ ぴin vitroにお いてMCT1の発 現量 はAMPK活 性 化 の影 響を ほと んど 受け なぃ こと が明 らかとなった。以上の 結果より、骨格筋、特に速筋に お い てMCT4はAMPK活 性 化 を 介 し て 発 現 が 増 大 し 、 細 胞 外 へ の乳 酸排 出の 亢進 に寄 与し て い る こ と が 示 さ れ た 。 し た が っ て 、AMPKの 活 性 化 を 誘 導 す る強 度の 高い 運動 時に はMCT4 の 発現 が増 大し 、速 筋で 産生 され る過 剰の乳酸を排出するこ とで恒常性を維持していること が 示唆 され た。

(2)骨 格 筋 のMCT発 現 に 及 ぼ すPKC活 性 化 の 影 響

  骨 格 筋 のMCT発 現 に 及 ぽ すPKC活 性 化 の 影 響 を 検 討 し た 結 果 、PKC活 性 化 剤 で あ るPMA

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処 理 に よ りRD細 胞 のMCT1お よ ぴMCT4 mRNA量 が 増 大 す る こ と が 明 ら か と な っ た。 また 、 各 種 阻 害 実 験 の 結 果 か らMCT4はPKC活 性 化 を 介 し た 乳 酸 産 生 量 の 増 加 と と も にそ の発 現 量が 増大 し、 細胞 外へ の乳 酸排 出に 寄与 して い るこ とが 明らかとなった。一方、MCTl mRNA 量 の 増 大 は 乳 酸 産 生 量 の増 加と 相関 しな かっ た。AMPKと同 様、PKC活 性化 は骨 格筋 内の 乳 酸濃度を維持するために重要な応答であることが明 らかとなった。

(3) PKCを介したMCTの発現制御機構

  MCT1お よ びMCT4の 転 写 制 御 に 着 目 し 、 プ ロ モ ー タ ー 活 性 に 及 ば すPKC活 性 化の 影響 に っ い て 詳 細 に 解 析 し た 。RD細 胞 に お い てMCT1の プ ロ モ ー タ 一 活 性 はPKC活 性 化に より 速 や か に 上 昇 し た 。 ー 方 、PMAに よ るMCT4の プ ロ モ ー タ ー 活 性 の 上 昇 は 、PKC活 性 化 を 介 した 速や かな 応答 では なく 、副 次的な応答であること が示された。欠失解析および点変異解 析の 結果 からMCT4プロ モー ター 活性の上昇にhypoxia responsive elementが重要であること が明らかとなった。また、骨格筋においてMCT4は低酸素誘導因子hypoxia‑inducible factor la の 発 現 に 依 存 し て そ の 発現 が誘 導さ れる こと が明 らか とな った 。PKC活性 化に よるMCT4の 応答 は運 動強 度に 応じ て過 剰に 産生される乳酸を細胞 外へ放出し、骨格筋内の乳酸濃度を維 持するための代償的な機構である可能性が示唆され た。

  以 上 、 本 研 究 に よ り 骨 格 筋 に お い てMCTの 発現 は運 動強 度 に応 じて 活性 化さ れる2つ の シ グ ナ ル 分 子AMPKお よ ぴPKCを 介 し て 厳 密 に 制 御 さ れ 、 骨 格 筋 に お け る 乳酸 代謝 の変 化 に 適応 して いる こと が明 らか とな った 。ま た 、発 現制 御の 観点 から 、骨 格筋 におけるMCT1 お よびMCT4の役 割を 明確 にし た。 これ ら知 見 は、 運動 時の 乳酸 代謝 ひい ては 運動機能の恒 常 性を 考え る上 で非 常に 有益なものになり得る。 また、運動による代謝改善すなわち目的に 応 じ た 運 動 を 提 案 す る 上 で 非 常 に 有 用 な 知 見 とな る。 以上 の点 で本 論文 「乳 酸輸 送担 体 monocarboxylate transporterの発現調節に関する研究」に含まれる研究成果は、博士(生命科 学)の学位を受けるに 十分値するものと認めた。

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