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ダイズ遺伝子組換え技術の改良と成分育種への利用

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 喜 多 洋 一

学 位 論 文 題 名

ダイズ遺伝子組換え技術の改良と成分育種への利用 学位論文内容の要旨

  遺伝 子組換え 技術は 、交配で は不可能 な異種 生物由来の遺伝子による新規形質の付与 を可能にし、農業生産そのものを変革する影響カを持っている。また、植物のゲノム研究や 分子 生物学研 究などに おいて 遺伝子の 機能解 析に利用 される基盤的な技術である。1983 年に タバコにおいて初めて遺伝子組換え体の作出が報告されて以降、数多くの作物におい て遺伝子組換え体が作出されてきた。直ちに、ダイズ(Glycine max (L.) Merrill)においてもア グロ バクテリウム法や遺伝子銃法を用いた遺伝子組換え技術が開発され、除草剤耐性や高 オレイン酸などの有用形質が付加された実用的な組換え体が作出された。とくに、除草剤耐 性ダイズはアメリカを中心に世界の栽培面積の約60%に作付けされるに至っている。しかし、

遺伝 子組換え体の作出効率は低く、現在においても一般的な研究室で適用できる技術とは なっ ていない。遺伝子組換えでは形質転換した細胞から植物を再生させる技術が重要であ る。Finer and Nagasawa(1988)は体細胞胚(不定胚)を経由する効率的な再分化系を確立 した 。その後、不定胚への遺伝子導入により組換え体を作出する技術が開発され、再現性 の高い方法として多くの研究室で利用されるようになった。そこで本研究では、ダイズの遺伝 子組 換え技術を習得、改良するとともに、種子成分の改変を目的に遺伝子導入を行い組換 え体を作出した。

  第1章では、ダイズの生産やゲノム研究における遺伝子組換え技術の重要性を論じた。ま た、国内外のこれまでの遺伝子組換え研究の経緯や最近の進展を概説し、普及を進める上 での問題点に関して論究した。

  第2章では、すでに確立されている遺伝子銃を用いた不定胚への遺伝子導入技術を習得 するために、「Jack」から誘導した不定胚を用いて組換え体の作出を試みた。導入遺伝子と して、除草剤耐性の付与が期待できる放線菌に由来する新規なホスフィノスリシンアセチル 転移 酵素(PAT)遺 伝子で ある、hpatあるいはmatを用いた。hpatあるいはmatを含む発現 カセットを遺伝子導入用プラスミドに組み込み、金粒子に塗布して不定胚へ撃ち込んだ。同 じ遺伝子導入用プラスミドを用いた過去の報告(Khalafalla etaI.2005)よりも効率は低いもの の、hpat遺伝子を導入した組換え体2系統(hー7とh―9)、mat遺伝子を導入した組換え体1 系統(m―12)を得ることができた。これらの組換え体は葉からはそれぞれのPATタンパク質

(2)

が検出され、PAT活性が認められた。また、有効成分としてホスフィノスリシンを含む除草剤 バスタに対して耐性を示した。

  主要な貯蔵タンパク質を欠失したダイズ系統「QF2」は種子にアルギニン、アスパラギンや グルタミン酸などの遊離アミノ酸を高濃度に蓄積している(Takahashi eta|,2003)。そのため、

外来タンパク質や有用なアミノ酸あるいはその誘導物の合成と貯蔵の場(植物工場)として の利用が期待される。しかし、不定胚の誘導と再分化には品種間差の存在が報告され、一 部 の品 種 で しか 第2章で 用いた 遺伝子組 換え技術 の適用 例はない 。そこ で第3章では、

「QF2」に「Jack」を戻し交配することにより、遺伝子組換えに適した貯蔵タンパク質欠失系統 の作出を試みた。BC、F3世代の戻し交配系統「JQ1」と「JQ2」を温室で栽培し、登熟途中の未 熟子葉を使用して不定胚の誘導能と再分化能を比較した。「Jack」は未熟子葉から鮮やかな 緑色の不定胚を誘導し、再分化能を維持したまま良好な増殖を示した。一方、「QF2」は黄色 で小さい不定胚を誘導したものの、培養を継続してもほとんどが褐変し、それ以上増殖する ことはなかった。また、「QF2」の不定胚からは正常に成熟した胚を得ることはなく、再分化植 物体を得ることはできなかった。「JQ1」と「JQ2」では「Jack」に類似した鮮やかな緑色の不定 胚を誘導し、また、「Jack」に匹敵する良好な増殖能を示した。また、「Jack」と遜色ない頻度 で子葉と胚軸を分化した胚へと成熟し、植物体へと再分化した。これらの結果から、不定胚 の誘導および再分化の能カは遺伝的に制御された形質であり、交配によって他のダイズに 導入できることが明らかになった。次に「JQ1」、「JQ2」とそれらの兄弟系統である「JQ6」から 誘導・増殖した不定胚へ遺伝子を導入し、組換え体の作出を行った。18処理を行い、総計3 系統の組換え体を得た。以上のように、不定胚の誘導能と再分化能を改良することにより組 換え体の作出に成功した。これらの能カが高い品種・系統を探索し、遺伝子導入に用いるこ と で 、 「Jack」 以 外 の 品 種 や 系 統 で も 組 換 え 体 を 作 出 でき る も のと 考 え られ た 。   「JQ」は主要な種子貯蔵タンパク質を欠失すると同時に、アルギニン、アスパラギンやグル タミン酸などの遊離アミノ酸を高度に蓄積することにより窒素含量の恒常性を維持していた。

そこで第4章では、「JQ」にトリプトファン(Trp)生合成の鍵酵素である、イネ改変型アントラニ ル酸合成酵素遺伝子(OA SA ID)を導入することにより、「Jack」のような普通品種よりも高濃 度にトリプトファンを生産する可能性について検討した。「JQ1」ならびにその兄弟系統である

「JQ7」の不定胚にOA SA IDを導入し、両系統から組換え体を得て、種子中の遊離トリプトフ ァン含量を比較した。非組換え体と比較して組換え体は約12〜17倍の遊離トリプトファンを 種子に蓄積した。しかし、その含量はOA SA IDを導入した普通品種「Jack」の組換え体と同 程度であった。また、アルギニンやアスパラギンなどの遊離アミノ酸の含量は組換え体にお いても高いまま維持された。以上の結果から、貯蔵タンパク質の欠失によってアルギニンや アスパラギンなどの特定のアミノ酸が優先的に生合成され、窒素成分が取り込まれるものと 考えられた。あるいは、遊離トリプトフんンの蓄積量には限界があり、高遊離アミノ酸系統で も「Jack」と同程度しか蓄積できない可能性も考えられた。

  第5章の総合 考察で は、本研 究成果から示されるダイズの遺伝子組換え技術の応用と問 題 点 に つ い て 考 察 を 行 い 、 今 後 の 研 究 の 進 展 に つ い て 総 合 的 な 見 解 を 述 べ た 。     ―93―

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ダイズ遺伝子組換え技術の改良と成分育種への利用

本論文は5章104頁からなる和 文論文であり、図19、表9を 含む。

  

遺伝 子組 換え 技術 は、 交配 では 不可 能な 異種 生物 由来 の 遺伝 子に よる 新規 形質の付与を 可能にし、農業生産そのもの を変革する影響カを持っている。また、植物のゲノム研究や分子 生 物学 研究 など にお いて 遺伝子の機能解析に利用される基盤的な技術 である。しかし、ダイ ズ にお ける 遺伝 子組 換え 体の作出効率は低く、現在においても一般的 な研究室で適用できる 技 術と はな って いな い。 遺伝子組換えでは形質転換した細胞から植物 を再生させる技術が重 要 であ る。

Finer and Nagasawa

1988)

は体 細胞 胚(不定胚)を経由 する効率的な再分化系 を 確立 した 。そ の後 、不 定胚への遺伝子導入により組換え体を作出す る技術が開発され、再 現性の高い方法として多くの研究室で利用されるようになった。そこで本研究では、ダイズの遺 伝 子組 換え 技術 を習 得、 改良するとともに、種子成分の改変を目的に 遺伝子導入を行い組換 え体を作出した。

1

. ホ ス フ ィ ノ ス リ シ ン 耐 性 遺 伝 子 を 導 入 し た 組 換 え 体 作 出 と 除 草 剤 耐 性 評 価

  

こ れま でに 確立 され てい る遺 伝子 銃を 用 いた 不定 胚ー の遺 伝子 導入 系の 技術を習得す る ために、「Jack」から誘導した不定胚を用いて組換え体の作出を試みた。導入遺伝子として、除 草剤耐性の付与が期待できる新規なホスフィノス リシンアセチル転移酵素(PAT)遺伝子である ゅロfあるいはmatを用いた。hpatあるいはmatを組み込んだ遺伝子導入用プラ スミドを金粒子 に塗 布し 不定 胚へ 撃ち 込んだとこ ろ、hpat遺伝子を導入した組換え体2系統(h‑7とh‑9)、mat 遺伝子を導入した組換え体1系統(m‑12)を得ることができた。これらの組換え 体は葉からはそ れぞれのPATタンパク 質が検出され、PAT活性が認 められた。また、有効成分としてホスフィノ スリシンを含む除草剤バスタに対して耐性を示し た。

2

. 遺 伝 子 組 換 え に 適 し た 貯 蔵 タ ン パ ク 質 欠 失 系 統 の 育 成 と 組 換 え 体 の 作 出

  

主要な種 子貯蔵タンパク質を欠失した系統「QF2」は遺伝子組換えに適した不定胚を得るこ

    

―94−

介 男

啓 政

村 本

喜 石

授 授

敦 教

査 査

主 副

(4)

と が困 難なため、これまでの ところ組換え体を得るには 至っていない。そこで、「QF2」に「Jack」を 戻 し 交 配す るこ と によ り、 遺伝 子組 換 えに 適し た貯 蔵タ ン パク 質欠 失系 統 「Jo」 (BCIF3世 代) の 作 出 を 試 み た 。 「JQ1」 と 「JQ2」 を 温 室 で 栽 培 し 、 登 熟 途 中 の 未 熟 子 葉 を 使 用 し て 不定 胚の 誘 導 能 と 再 分 化 能 を 比 較 し た 。 「Jack」 は 未 熟 子 葉 か ら 鮮 や か な 緑 色 の 不 定 胚 を 誘 導 し、 再分 化 能 を 維 持し たま ま 良好 な増 殖を 示し た 。一 方、 「QF2」 は黄 色で 小 さい 不定 胚を 誘導 し たも のの 、 培 養 を 継 続 し て も ほ と ん ど が 褐 変 し 、 そ れ 以 上 増 殖 ・ 再 分 化 す る こ と は な か っ た 。 「JQ1」 と

「JQ2」 で は「Jackj,に 類 似し た鮮 やか な緑 色 の不 定胚 を誘導・増殖した。また、 「Jack」と遜色な い 頻 度 で 植 物 体 へ と 再 分 化 し た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 不 定 胚 の 誘 導 お よ び 再 分 化 の 能 カ は 遺 伝 的 に 制 御 さ れ た 形 質 で あ り 、交 配に よっ て 他の ダイ ズに 導入 で きる こと が明 らか に なっ た。 次 に 「JQ1」 、「JQ2」と 兄弟 系統 の「JQ6」か ら 誘導 ・増 殖し た不 定 胚を 用い て組 換え 体 の作 出を 行 っ た 。 各 系 統 そ れ ぞ れ6シ ャ ー レ の 不 定 胚 に 遺 伝 子 を 撃 ち 込 み 、 「JQ1」 か ら1系 統、 「JQ6」 か ら2系 統 の 組 換 え 体 を 得 た 。 以 上 の 結 果 か ら 、 不 定 胚 の 誘 導 能 と 再 分 化 能 は 組 換 え 体 作 出 に 重 要 で あ り 、 こ れ ら の 能 カ が 高い 品種 ,系 統 を探 索し 、遺 伝子 導 入に 用い るこ とで 、 「Jack」 以 外 の品 種や 系統 で も組 換え 体を 作出 で きる もの と考 え られ る。

3. イ ネ 改 変 型 ア ン ト ラ ニ ル 酸 合 成 酵 素 遺 伝 子 の 導 入 によ る 高ト リプ トフ ァ ン含 有ダ イズ の作 出   「QF2」は 種 子貯 蔵タ ンパ ク 質代 わり に遊 離ア ミ ノ酸 を高 濃度 に蓄 積 してい る。この「QF2」にト リ プ ト フ ァ ン の 過 剰 合 成 を も た ら す 、 イ ネ 改 変 型 ア ント ラニ ル酸 合 成酵 素aサブ ユニ ット 遺伝 子

(〇イェSAID)を導入することにより、「Jack」のような普通品種よりも高度にトリプトファンを蓄積した 組 換 え ダ イ ズ の 作 出 の 可 能 性 を検 討し た 。し かし 、第3章 で述 べた よ うに 、「QF2」は これ まで 組 換 え体 を得 る には 至っ てい ない 。 そこ で、 「QF2」 に「Jack」 を戻 し交 配す る こと によ り作 出し た

「JQ1」 な ら び に そ の 兄 弟 系統 で ある 「JQ7」 の不 定胚 ヘOASAIDを 導入 した 。 「JQ1」と 「JQ7」 は 両 系 統 と も 「QF2」 と 同 様 に 種 子 に 遊 離 ア ミ ノ 酸 を 高 濃 度 に 蓄 積 し て い た 。OASAIDの 導 入 に よ り 「JQ1」な ら びに 「JQ7」 両系 統か ら組 換 え体(JQl‑6とJQ7‑3)を得て、種子 中の遊離トリプトファ ン 含 量 を 比 較 し た 。 非 組 換 え 体 と 比 較 し て 、 組 換 え 体 は 約12〜17倍 の 遊 離 ト リ プト ファ ンを 蓄 積 した 。し か し、 その 含量 はOASA IDを 導 入し た「Jack」組 換 え体 と同 程度 で あっ た。 また 、ト リ プ トフ ァン を除 くア ル ギニ ン、 アス パラ ギ ンや グル タミ ン 酸な どの 遊離 アミ ノ酸の含量は非組換え 体 と 比 較 し て ほ と ん ど 差 が を かっ た。 以 上の 結果 から 、貯 蔵 タン パク 質の 欠 失に よっ てア ルギ ニ ン や ア ス パ ラ ギ ン な ど の 特 定 の ア ミ ノ 酸 の 生 合 成 が 優 先 的 に 発 動 さ れ 、 窒 素 成 分が 取り 込ま れ るものと考えら れた。

本 研 究 は 、 ダ イ ズ 遺 伝 子 組 換 え 技 術 を 改 良 す る と と も に 、 成 分 育 種 へ の 応 用 に 重 要 な 道 筋 を 立 て る も の で あ り 、 学 術 的 に 高 く 評 価 で き る 。

よ っ て 、 審 査 員 一 同 は 、 喜 多 洋 一 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

    ―95―

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