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遺伝子組換え技術を使った害虫防除

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植 物 防 疫  第 63 巻 第 8 号 (2009 年) 490 ―― 22 ―― 組換え体を選抜するためのマーカー遺伝子を ITR の間 に挿入したベクタープラスミド,もう一つは,ITR を取 り除いて,自身は転移しないが,転移酵素のみを供給で きるようにしたヘルパープラスミドである(図― 1)。こ れらを発生初期の胚に注入し,転移酵素を産出させる と,ベクタープラスミドの ITR に挟まれた領域が切り 出され,ゲノム内に挿入される。マーカー遺伝子の発現 を目印にして,その子孫から遺伝子組換え体を選抜して 系統化する。マーカー遺伝子としては,緑色蛍光タンパ ク質(GFP)などの,蛍光タンパク質遺伝子が用いられ, これらを種にかかわらず眼特異的に発現させる 3xP3 と 呼ばれる人工プロモーターも開発された(BERGHAMMER et al., 1999)。 II 不妊虫放飼法への利用

不妊虫放飼法(Sterile Insect Technique : SIT)は,そ の有効性が証明された遺伝的防除法である(伊藤・垣 花,1998;DYCKet al., 2005)。放射線照射により不妊化 した大量の雄を野外に放すことで,特定の種を広範囲に わたって制御できる。しかしながら,放射線照射のため の大規模な施設が必要である,誘発される不妊の原因が 一様ではない,不妊化虫の生存率や交尾競争力が低下す は じ め に

昆虫における遺伝子組換えは,RUBIN and SPRADLING

( 1 9 8 2 ) が キ イ ロ シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ ( D r o s o p h i l a melanogaster)で,P 因子というトランスポゾン(=ゲ ノム上で位置を転移することができる「動く遺伝子」) を用いて初めて成功して以来,様々な昆虫で試みられ, 現在では四つの昆虫目の 20 以上の種で,遺伝子組換え 技術が確立されている(畠山,2005)。モデル昆虫であ るキイロショウジョウバエの遺伝子組換え技術は,主に 遺伝子機能解析の道具として使われてきたものである が,農業害虫や病原性媒介昆虫では,これらを遺伝的に 改変して無害化するという応用も目的として開発されて きた(O’BROCHTA, 2005)。さらに,近年の昆虫ゲノム解 析による遺伝情報の蓄積によって,遺伝的改変に利用で きる導入遺伝子候補の探索が容易になりつつある。ここ では,昆虫の遺伝子組換えの現状,遺伝的防除への利用 を目指した技術開発,実用化に向けた動向を紹介する。 I 遺伝子組換えの方法 昆虫の遺伝子組換え技術は,高等なハエ目昆虫にしか 適用できなかった P 因子ではなく,Minos,Hermes, piggyBac,mariner 等の別のトランスポゾンをベクター (運び屋)として開発したことで飛躍的に進展した。な かでもイラクサキンウワバ(Trichoplusia ni)から単離 された piggyBac をもとにしたベクターは種を越えて利 用でき,昆虫の遺伝子組換えのベクターに汎用されてい る(HANDLER, 2002)。piggyBac トランスポゾンは,ゲノ ム内での転移を触媒する転移酵素遺伝子の両端に,逆方 向末端反復配列(Inverted Terminal Repeat : ITR)をも つ。転移酵素は ITR に挟まれた自身の遺伝子をゲノム DNA から切り出し,DNA 上の標的配列(TTAA)を認 識し,切り出した自身の遺伝子を挿入する。遺伝子組換 えには,トランスポゾンのこの特性を利用して,2 種類 のプラスミドを準備する。一つは,導入したい遺伝子と

Insect Management Utilizing Transgenic Technology. By Masatsugu HATAKEYAMA (キーワード:遺伝子組換え昆虫,遺伝的防除,不妊虫放飼,病 原性媒介昆虫)

遺伝子組換え技術を使った害虫防除

はたけ

やま

まさ

つぐ 農業生物資源研究所 特集:ポストゲノム時代の害虫防除研究のあり方∼昆虫ゲノム情報と IPM ∼ プロモーター 目的遺伝子 3xP3 マーカー遺伝子 ベクタープラスミド プロモーター 転移酵素遺伝子 ヘルパープラスミド 図 −1 昆虫の遺伝子組換えに用いられる,トランスポゾ ンを利用したベクタープラスミドとヘルパープラ スミド これらのプラスミドを初期胚に注入すると,ヘルパ ープラスミドの転移酵素の触媒により,ベクタープ ラスミドの ITR(矢尻)に挟まれた領域が切り出さ れ,ゲノムに挿入される.

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遺伝子組換え技術を使った害虫防除 491

―― 23 ――

遺伝子の代わりに tTA 遺伝子を TRE の下流に連結して 自己制御させると,より簡単に優性致死を誘発できるこ とが示された(GONGet al., 2005 ; PHUCet al., 2007)。

害虫の増殖を抑制するためには,雌を特異的に殺すこ とができれば都合が良い。雌特異的致死遺伝子を用い る,あるいは tTA 遺伝子を雌特異的に発現する遺伝子 のプロモーターで制御すると,RIDL による防除の対象 を雌に限定できる。性決定遺伝子の性特異的なスプライ シングによって性が決まるハエ目では,導入する致死遺 伝子の ORF 内に雌でのみ取り除かれるイントロン配列 を挿入して,雌のみを致死にすることもできる(FUet al., 2007)。生き残った雄には,雌を特異的に致死にする 遺伝子が残っているので,次の世代で再び不妊化個体と しての役割を果たす。 IV 有用形質導入による病原性媒介昆虫の 制御 農業害虫の防除では,効果的に対象害虫を殺すための RIDL が有効な手段だと考えられるが,病原性媒介昆虫 の制御では,個体群の広範囲な分布や個体の移動を考慮 すると,RIDL による個体数の抑制よりも,感染性や伝 播能を抑制するほうが現実的で効果的である。マラリア を例にとると,マラリアに感染したヒトがハマダラカ Anopheles 属に刺されると,感染血液がハマダラカの中 腸に入る。マラリア原虫はハマダラカ中腸内のヒトの赤 血球内で受精,増殖する。その後,中腸から体液中に放 出されて唾液腺に移行する。このハマダラカが再びヒト る等の問題点も指摘されている。このような問題を克服 できるものとして,遺伝子組換えを利用し,優性致死に なるような遺伝子を導入した昆虫を利用する SIT が試 みられはじめた(HANDLER, 2004 ; WIMMER, 2005)。このよ うな新しい SIT は,“Release of Insects carrying a Dominant Lethal(RIDL)” と呼ばれる(THOMAS et al., 2000)。遺伝子組換えを利用すると不妊や致死の原因遺 伝子が明らかで,遺伝子が挿入された部位も特定できる。 優性致死を誘発する遺伝子としては,過剰発現させる と細胞死に至る原癌遺伝子の ras 遺伝子,異所的に発現 するとアポトーシス(細胞死の 1 種)を誘導する head involution defective(hid)遺伝子などが利用されている。 キ イ ロ シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ や チ チ ュ ウ カ イ ミ バ エ (Ceratitis capitata)では,このような遺伝子を導入した 個体を野生型の集団と交配し,胚発生の初期に導入遺伝 子を発現させると,ほとんどすべての子孫を孵化前に殺 すことができる(THOMASet al., 2000 ; HORNand WIMMER, 2003 ; SCHETELIGet al., 2009)。 III 導入遺伝子の発現制御 優性致死遺伝子を導入した個体を RIDL に用いる場合 には,優性致死遺伝子を導入した個体をあらかじめ増殖 させる必要があるが,当然ながら,その過程で致死遺伝 子を発現させるわけにはいかない。したがって,プロモ ーター制御によって致死遺伝子を特定の条件で発現させ ることとは別に,系統維持や増殖のために,致死遺伝子 の発現を抑制する制御が必要になる。そこで,プロモー ターに依存せずに遺伝子発現調節が可能な,大腸菌のテ トラサイクリン耐性オペロンを利用したシステムが開発 されている(BELLOet al., 1998)(図― 2)。テトラサイクリ ン制御活性化因子(tTA)が転写調節応答エレメント (TRE)に結合すると,その下流にある遺伝子の発現が 誘導される。ところが,抗生物質のテトラサイクリンが 存在すると,tTA が TRE に結合できなくなるため, TRE 下流の遺伝子は発現しない。したがって,致死遺 伝子をもつ個体の増殖の際にはテトラサイクリンを含む 飼料で飼育すればよい。キイロショウジョウバエやチチ ュウカイミバエでは,0.01 ∼ 0.1 mg/ml の濃度のテト ラサイクリンを飼料に加えると,胚期に死ぬはずだった 個体の 70%以上が生き残る(THOMASet al., 2000 ; HORN and WIMMER, 2003 ; GONG et al., 2005 ; SCHETELIGet al., 2009)。このシステムは,チョウ目やハチ目の種でも機 能する(田村ら,2006;畠山ら,2006)。さらに,チチ ュウカイミバエやネッタイシマカ(Aedes aegypti)では, 過剰発現して蓄積した tTA には致死作用があり,致死 プロモーター tTA TRE 致死遺伝子 転写 ON 転写 OFF テトラサイクリン テトラサイクリン:なし(野外放飼) テトラサイクリン:あり(系統維持・増殖) 図 −2 テトラサイクリン耐性オペロンを利用した遺伝子 発現制御システム(Tet ― Off) テトラサイクリンがない場合には,TRE 下流の遺伝 子の発現が誘導されるが,テトラサイクリンが存在 すると遺伝子発現は抑制される.

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植 物 防 疫  第 63 巻 第 8 号 (2009 年) 492 ―― 24 ―― V 導入遺伝子のゲノム内での安定化 昆虫の遺伝子組換えに広く用いられているトランスポ ゾン由来のベクターは,転移酵素の触媒活性によりゲノ ム内を転移する。したがって,遺伝子を組換えようとす る昆虫が,ベクターに用いたトランスポゾンと同一の内 在性の転移酵素,あるいは機能的によく似た酵素をもっ ていると,挿入された遺伝子がゲノムから切り出されて 脱落したり,再転移したりする可能性がある。RIDL や 病原の伝播抑止に用いる遺伝子組換え昆虫から導入遺伝 子が失われることは,害虫や病原性媒介昆虫を大量に放 飼することにほかならない。昆虫の遺伝子組換えで最も 懸念される問題の一つは,導入された遺伝子の安定性で ある。 そこで,転移酵素が認識する ITR 部分を含むトラン スポゾン由来の DNA 配列を完全に取り除き,導入遺伝 子を不動化する技術が開発されている(DAFA’ALLA et al., 2006)。まず,導入する遺伝子を,両端に ITR をもつマ ーカー遺伝子で挟むような構成のベクタープラスミドを 用いて,遺伝子組換えを行う(図― 3)。この遺伝子組換 え体を,転移酵素を産出する遺伝子組換え体と交配して 転移酵素に曝露すると,ITR を両端にもつマーカー遺伝 を刺すと,マラリア原虫が唾液とともにヒトの体内に注 入されて,マラリアが伝播する。そこで,自然免疫機構 に関わるセクロピン遺伝子やディフェンシン遺伝子,あ るいはマラリア原虫の唾液腺への移行を妨げる効果のあ る遺伝子を導入すると,ハマダラカ体内でのマラリア原 虫の生活環を阻害できる(CHRISTOPHIDES, 2005)。ハチ毒 ホスホリパーゼ A2(PLA2)や,唾液腺と中腸の上皮に 特異的に結合するポリペプチド(SM1)には,マラリ ア原虫が中腸から唾液腺へ移行するのを妨げる作用があ り,これらの遺伝子を導入したハマダラカでは,マラリ ア原虫の増殖が 70%以上阻害される。野生型のハマダ ラカがほぼ 100%マラリアを伝播するのに対し,このよ うな遺伝子組換えハマダラカのマラリア伝播率は 30% 以下になる(ITOet al., 2002 ; MOREIRAet al., 2002)。また, 溶血作用のあるレクチンの一種をコードする遺伝子をハ マダラカに導入して中腸で発現させると,吸った赤血球 が溶解される。その結果,マラリア原虫の増殖は 90% 以上阻害され,伝播率は 20%程度になる(YOSHIDAet al., 2007)。導入遺伝子の作用で,ハマダラカ体内でのマラ リア原虫の生活環を阻害することによって,今後マラリ ア伝播を抑止できるようになるかもしれない。 3xP3 マーカーA 目的遺伝子 3xP3 マーカーB 3xP3 マーカーC 3xP3 マーカーA 3xP3 マーカーB 3xP3 マーカーC 3xP3 マーカーC 目的遺伝子 ヘルパープラスミドと共に初期胚に注入: ゲノムに挿入 転移酵素を産出する系統と交配: マーカー遺伝子が脱落 3xP3 マーカーA 3xP3 マーカーA 3xP3 マーカーB 目的遺伝子 3xP3 マーカーB 目的遺伝子 転移酵素を産出する系統と交配: マーカー遺伝子が脱落 ベクタープラスミド 図 −3 トランスポゾン由来配列の除去による導入遺伝子の不動化 導入したい遺伝子を,ITR を両端にもつマーカー遺伝子で挟んでゲノムに組み込む.このよ うな遺伝子組換え体と転移酵素を産出する個体との交配を繰り返すと,ITR を両端にもつマ ーカー遺伝子 A および C は切り出されて脱落する.トランスポゾン由来の配列が完全に取り 除かれた遺伝子組換え個体は,マーカー遺伝子 B の発現を指標にして選抜できる.

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遺伝子組換え技術を使った害虫防除 493 ―― 25 ―― 残念ながら現時点では,発現時期や発現場所の明らかな 遺伝子のプロモーターが非常に少ないので,「特定の条 件で殺す」ことはまだ容易ではない。今後,昆虫のゲノ ム解析が進展して,遺伝子の機能や発現様式が明らかに なると,導入遺伝子候補の選択肢が増えるだけでなく, 発現を制御できるプロモーターの探索も容易になると期 待される。また,害虫の食性や天敵の寄主選択にかかわ る遺伝子が明らかになると,これらに改変を加えて防除 に応用する,あるいは天敵の性能を向上させることも可 能になるだろう。ゲノム情報が充実すると,昆虫の遺伝 子組換えは,殺すことよりも,病原性媒介昆虫で試みら れているような,新しい形質を付与して利用するという 方向に進むのかも知れない。 引 用 文 献

1)BELLO, B. et al.(1998): Development 125 : 2193 ∼ 2202. 2)BERGHAMMER, A. J. et al.(1999): Nature 402 : 370 ∼ 371. 3)CATTERUCCIA, F. et al.(2003): Science 299 : 1225 ∼ 1227. 4)CHRISTOPHIDES, G. K.(2005): Cell. Microbiol. 7 : 325 ∼ 333. 5)CUMBERLAND, S.(2009): Bull. World Health Organ. 87 : 167 ∼

168.

6)DAFA’ALLA, T. H. et al.(2006): Nature Biotech. 24 : 820 ∼ 821. 7)DYCK, V. A. et al.(2005)Sterile Insect Technique : Principles

and Practice in Area ― wide Integrated Pest Management, Springer, Dordrecht, 787 pp.

8)FU, G. et al.(2007): Nature Biotech. 25 : 353 ∼ 357. 9)GONG, P. et al.(2005): Nature Biotech. 23 : 453 ∼ 456. 10)HANDLER, A. M.(2002): Insect Biochem. Mol. Biol. 32 : 1211 ∼

1220.

11)――――(2004): ibid. 34 : 121 ∼ 130.

12)畠山正統(2005): 昆虫テクノロジー研究とその産業利用,シ ーエムシー出版,東京,p. 238 ∼ 245.

13)――――ら(2006): 蚕糸・昆虫バイオテック 75 : 167 ∼ 173. 14)HORN, C. and E. A. WIMMER(2003): Nature Biotech. 21 : 64 ∼

70.

15)IRVIN, N. et al.(2004): Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 : 891 ∼ 896.

16)ITO, J. et al.(2002): Nature 417 : 452 ∼ 455.

17)伊藤嘉昭・垣花廣幸(1998): 農薬なしで害虫とたたかう,岩 波書店,東京,208 pp.

18)LI, C. et al.(2008): J. Hered. 99 : 275 ∼ 282.

19)MOREIRA, L. A. et al.(2002): J. Biol. Chem. 277 : 40839 ∼ 40843. 20)―――― et al.(2004): Genetics 166 : 1337 ∼ 1341.

21)O’BROCHTA, D. A.(2005): Insect Biochem. Mol. Biol. 35 : 647 ∼ 798.

22)PHUC, H. K. et al.(2007): BMC Biol. 5 : 11.

23)RUBIN, G. M. and A. C. SPRADLING(1982): Science 218 : 348 ∼ 353.

24)SCHETELIG, M. F. et al.(2009): BMC Biol. 7 : 4.

25)田村俊樹ら(2006): 蚕糸・昆虫バイオテック 75 : 155 ∼ 159. 26)THOMAS, D. D. et al.(2000): Science 287 : 2474 ∼ 2476. 27)WIMMER, E. A.(2005): Nature Biotech. 23 : 432 ∼ 433. 28)YOSHIDA, S. et al.(2007): PLOS Pathog. 3 : e192.

子部分が脱落した個体が得られる。この交配を繰り返す ことで,導入したい遺伝子だけを安定にゲノム内に維持 できる。 VI 実用化に向けた国外の動向 前章までに述べたように実験室レベルの研究から,遺 伝子組換え昆虫の遺伝的防除への利用は技術的には可能 であると考えられる。国外では,これらの遺伝子組換え 昆虫を放飼した場合の適応度についての検証が,野外ケ ージや開放圃場で試行されている。チチュウカイミバエ ではケージ内での放飼実験から,優性致死遺伝子を導入 した雄の交尾競争力の低下は見られず,RIDL に利用で きると報告されている(SCHETELIGet al., 2009)。一方, ハマダラカやネッタイシマカ(Aedes aegypti)では,系統 によって適応度に差が生じ,導入遺伝子をホモにもつ個 体の適応度が低下すると報告されている(CATTERUCCIAet

al., 2003 ; IRVINet al., 2004 ; LIet al., 2008)。しかしながら, このような適応度の低下は,遺伝子組換え系統を増殖す る際の近親交配や,調査した個体数の少なさに起因する もので,これらの条件を排除すると適応度は低下しない ともいわれている(MOREIRAet al., 2004)。有用な形質を 導入した場合には,今後遺伝子組換え昆虫を集団内に積 極的に残すようなシステムの開発も必要になるだろう。 いまのところ,遺伝子組換え昆虫を野外に放飼した場 合の適応度,行動,周辺環境への影響について明確な回 答が出ているわけではない。しかしながら,米国農務省 (USDA)はアリゾナ州の開放圃場で,マーカー遺伝子 を導入した,遺伝子組換えミバエ 3 種と遺伝子組換えワ タアカミムシ(Pectinophora gossypiella)の大規模な放 飼実験を行い,既存の放射線照射に代えて遺伝子組換え 技術を SIT に利用することを提言している。また,優 性致死遺伝子を導入したネッタイシマカについては,マ レーシアで開放圃場での放飼実験が計画されている (CUMBERLAND, 2009)。 お わ り に 農業害虫や病原性媒介昆虫の遺伝的防除に遺伝子組換 え技術を利用することは,理論的にも,実験室あるいは 野外放飼実験の結果からも可能であろう。しかしなが ら,残された課題も多い。防除の対象となる昆虫では,

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