Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
「駆け出し新聞記者時代のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)」 ―"虚実皮膜"の問を楽しませたハーンの記事と作品― A study on young Lafcadio Hearn's life as the reporter for American Newspapers
Author(s) 真貝 義五郎(Yoshigoro Sinkai)
Citation 研究紀要(SHOIN REVIEW),第 41 号:131-226
Issue Date 2000
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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序 ﹃ ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ ﹄ 紙 の ︽ 衝 撃 的 な 殺 人 ︾ 事 件 報 道真
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一 八 七 四 年 (注 ・ 日 本 年 号 明 治 七 年 ) 十 一 月 九 日 ・ 月 曜 日 付 け ﹃ ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ ﹄ 紙 は 、 一 面 七 欄 組 み の 左 側 第 二 欄 に 地 方 ニ ュ ー ス の ト ッ プ 記 事 と し て A P 電 ( 注 ・ 0 ) か ら ︽ シ ン シ ナ テ ィ ( オ ハ イ オ 州 ) 発 、 十 一 月 入 日 ︾ の ︽ 衝 撃 的 な 殺 人 ︾ 事 件 記 事 を 掲 載 し て い る 。 こ の 記 事 の 最 左 欄 に は 首 都 ・ ワ シ ン ト ン 発 の 政 治 記 事 が 、 当 然 な が ら 一 面 ト ッ プ 記 事 と な っ て い る が 、 シ ン シ ナ テ ィ と い う ア メ リ カ 中 西 部 地 方 の 一 都 市 で の 殺 人 事 件 が そ の す ぐ 右 欄 に 配 置 し て 組 ま れ 、 し か も 見 出 し と も で 五 十 行 を 越 す 長 い 詳 細 な 報 道 記 事 と な っ て い る こ と は 、 あ れ こ れ と 事 件 の 多 い ニ ュ ー ヨ ー ク の 新 聞 で は 、 別 格 と も 言 え る 大 き な 扱 い だ ろ う 。﹃ ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ ﹄ 紙 は 、 ま ず イ タ リ ッ ク 体 大 型 活 字 の 大 文 字 体 で ー ︽ 衝 撃 的 な 殺 人 ︾ と 一 行 見 出 し で 訴 え 、 罫 線 を ひ い て 行 替 え し た の ち 四 行 に わ た っ て 中 型 の 大 文 字 体 で ︽ 1 殺 害 さ れ た な め し 革 工 員 ー ︾ ︽ 1 半 焼 け に さ れ た 胴 体 1 ︾ ︽ ー 若 い 婦 人 を 誘 惑 し た こ と へ の ー ︾ ︽ 復 讐 が 殺 人 の 動 機 ー ︾ と 、 文 の 前 後 を 空 白 で 空 け て 目 立 つ よ う に 編 集 し て い る 。 た だ ﹁ 若 い 婦 人 を 誘 惑 ﹂ の 英 文 は ﹁ 月 円 田 ω 国 O d ∩ 目 O Z O 団 ﹀ 図 O 自 O ≦ O 定 田 Z ﹂ と 、 老 O 寓 > Z と あ る べ き な の に 白 O ぞ 田 Z と し て お り 、 つ ま り ﹁ ] 人 の 婦 人 た ち ﹂ と 誤 植 し て お り 、 ほ か に も 、 本 文 に 出 て く る 容 疑 者 の 一 人 、 ル ー フ ァ ー 園 ロ 甘 H の 名 前 が 二 度 目 に 出 て く る と き に は 皆 皆 と な っ て い た り 、 皮 革 製 作 所 の 工 場 名 ヘ ン リ ー ・ フ ラ イ バ ー グ が 、 モ ー デ ル の 編 著 (注 ・ 1 ) で は 口 ゜犀 o 子 巽 町q と な っ て い る の に 、 こ こ で は = ・ 月 累 津 9 宮 母 ゜Q と な っ て い る な ど ス ペ ル の 違 い が あ る な ど 、 配 信 電 文 の 違 い か 、 ま た は 急 い で 原 稿 を 組 ん だ た め か 校 閲 の 目 が 間 違 い を 発 見 で き な か っ た よ う に も 見 え る 。 つ い で 本 文 一 ︽ シ ン シ ナ テ ィ ( オ ハ イ オ 州 ) 発 、 十 一 月 八 日 ︾ ︽ な ん と も 野 蛮 な 、 む か つ く よ う な 、 し か も ミ ス テ リ ー じ み た 殺 人 事 件 が 、 リ ヴ ィ ン グ ス ト ン 通 り の ヘ ン リ i ・ フ ラ イ 一132一
バ ー グ な め し 革 工 場 で 発 生 し た 。 犯 行 は 、 昨 夜 の 十 時 か ら 今 朝 明 け 方 ま で と 推 定 さ れ て い る 。 一 人 の 工 員 が 今 朝 、 な め し 工 場 内 に 入 っ た と こ ろ 、 ボ イ ラ ー 用 焼 却 炉 の 中 で 、 ほ ぼ 半 分 燃 え 尽 く し た 燃 料 の 上 に 、 腕 、 脚 の 焼 け 落 ち た 人 体 一 個 を 発 見 し た 。 同 皮 革 工 場 の 工 員 で あ り 、 夜 間 は 工 場 で 寝 て い る ヘ ル マ ン ・ シ リ ン グ の 姿 が 見 え な く な っ て い た 。 焼 か れ た 体 は 焼 却 炉 か ら 取 り 出 さ れ た が 、 シ リ ン グ の も の と 判 定 さ れ た 。 厩 (馬 屋 ) に は 死 に 物 狂 い で 争 っ た 痕 跡 が 残 さ れ て い た 。 血 の り の つ い た 乾 し 草 用 三 ツ 叉 (ピ ッ チ フ ォ ー ク ) が 横 に し て 地 面 に 置 い て あ り 、 皮 革 工 場 の 焼 却 炉 ま で は ︼ 筋 の 血 痕 の 道 が つ い て い た 。 厩 が 建 っ て い る 工 場 敷 地 内 に は 、 檸 猛 な マ ス チ フ 種 の 大 型 犬 三 頭 が 放 し 飼 い に し て あ っ た 。 こ う し た 種 々 の 状 況 か ら 見 て 、 殺 人 犯 た ち は 殺 害 さ れ た 男 の 日 頃 の 行 動 様 式 に も 、 工 場 構 内 の こ と に も 熟 知 し た 者 た ち と 推 測 さ れ た 。 嫌 疑 は ア ン ド レ ア ス ・ エ グ ナ ー と そ の 息 子 の フ レ ツ ド ・ エ グ ナ ー 、 さ ら に こ の 皮 革 工 場 を 解 雇 さ れ た 工 員 の ジ ョ ー ジ ・ ル ー フ ァ ー に か け ら れ た 。 人 々 の 証 言 で は 、 上 記 三 人 が シ リ ン グ の 命 を 狙 っ て 脅 し を か け て い る の を 聞 い た と い う 。 エ グ ナ ー 父 子 は 、 皮 革 工 場 の 隣 で ビ ヤ ホ ー ル と 樽 屋 を 経 営 し て い て 、 し ば し ば 、 工 場 に も 出 入 り し て い た 。 こ の 夏 の 初 め こ ろ 、 エ グ ナ ー の 子 供 で あ る ふ し だ ら 娘 が 、 病 院 で 分 娩 の さ い に 死 亡 し た 。 エ グ ナ ー 父 子 は シ リ ン グ が 娘 を 誘 惑 し た と し て 責 め た て た 。 そ し て 皮 革 工 場 へ 押 し か け て 、 酒 樽 用 の 樽 板 で 激 し く シ リ ン グ を 打 ち の め し た 。 こ の た め 、 父 子 は 警 察 裁 判 所 で 重 い 罰 金 を 科 せ ら れ た う え 、 一 年 間 は 騒 動 は 起 こ さ な い と 、 誓 約 さ せ ら れ た 。 な め し 革 工 の ル ー フ ァ ー は 、 昨 晩 解 雇 さ れ た の だ が 、 今 年 夏 に は エ グ ナ ー の 店 に 雇 わ れ て い た 。 彼 は シ リ ン グ に は な ん の 悪 意 も 持 っ て い な い と 言 い な が ら も 、 た だ ﹁ エ グ ナ ー の 息 子 は シ リ ン グ の 命 を 狙 っ て い た ﹂ と も 、 ま た ﹁ エ グ ナ ー の 店 で 働 い て い る 者 の う ち 数 人 が ﹃ シ リ ン グ は 吊 る し 首 に し て 焼 き 殺 し て や ら な き ゃ ﹄ と 言 っ て い た ﹂ と も 証 言 し て い
る 。 ル ー フ ァ ー の 靴 に つ い て い る も の を 除 い て 、 こ の 者 た ち の 衣 服 か ら は な ん の 血 痕 も 発 見 で き な か っ た 。 推 定 に よ れ ば 、 こ の 男 た ち は シ リ ン グ が 眠 っ て い る 間 に 厩 に 侵 入 し 、 シ リ ン グ を こ ん 棒 と 三 つ 叉 で ぶ ち の め し 、 焼 い て し ま お う と 企 て た も の で 、 町 の 興 奮 は 極 め て 大 き い ︾ (注 ・ 2 に 英 文 ) ( 注 ・ 0 ) A P 11 > °。 切o 。 巨 & 津 。 の゜・ の 略 称 で 、 ア メ リ カ で 最 大 の 国 際 的 通 信 網 を も つ 通 信 社 。 一 八 四 入 年 、 欧 州 記 事 の 共 通 取 材 の た め 、 ニ ュ ー ヨ ー ク の 六 新 聞 社 が 共 同 し て 結 成 し た ハ ー バ ー ・ ニ ュ ー ス ・ ア ソ シ エ ー シ ョ ン = 震 σ 自 Z 。 壽 諺 ゜・ 。・守 9 巴 8 が そ の 始 ま り で 、 一 八 五 七 年 、 改 組 し て ニ ュ ー ヨ ー ク A P と な っ た 。 そ の 後 ア メ リ カ 国 内 に 生 ま れ た い く つ か の 通 信 社 と と も に 一 八 九 二 年 、 改 組 し て A P と 改 称 、 一 九 〇 〇 年 以 後 は ニ ュ ー ヨ ー ク に 本 社 を 置 い て い る 。 ア メ リ カ の 新 聞 、 放 送 局 に よ る 組 合 組 織 の 非 営 利 法 人 。 日 本 の 共 同 通 信 社 は こ の 組 織 を モ デ ル に し て い る 。 た だ し 、 こ の A P 電 に よ る 十 一 月 九 日 付 け ﹃ ニ ュ ー ヨ ー ク タ イ ム ズ ﹄ 紙 の 記 事 が ハ ー ン の 書 い た ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 か ら 取 ら れ た も の で あ る か ど う か は 、 わ か ら な い 。 (注 ・ 1 ) モ ー デ ル ー1 ≧ σ 窪 竃 。 巳 o 後 出 。 ブ イ ラ デ ル フ ィ ア の 法 律 家 、 精 神 医 で 、 熱 烈 な ハ ー ン の 愛 好 家 で あ り 、 ハ ー ン 作 品 の 熱 心 な 蒐 集 家 と し て 知 ら れ る 。 ハ ー ン の シ ン シ ナ テ ィ 、 ニ ュ ー オ ー リ ン ズ 時 代 の 新 聞 論 説 記 事 か ら 四 十 七 編 を 抽 抜 し て 、 ま ず 一 九 二 三 年 に ﹁ 国 の。・ 亀 。。 ヨ 団 日 o 唱 o き き O O 9 昌 昌巴 = 8 曇 日 。 ﹂ ( ﹃ 東 西 文 学 評 論 ﹄ ) を 単 行 本 と し て 出 版 。 つ い で 、 翌 一 九 二 四 年 、 ﹁ > 8 0 警 き 峯 ゜・8 ロ き 望 切 k ピ 昏 餌 α δ = 鎚 日 ﹂ ( ﹃ ア メ リ カ 雑 録 ﹄ ) に ハ ー ン の 記 事 五 十 三 編 を 収 録 、 1 ・ H の 二 冊 の 本 と し て 刊 行 し た 。 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ は こ の ー の 二 九 ∼ 四 九 ペ ー ジ に 採 録 さ れ て い る 。 つ い で 一 九 二 五 年 、 ﹁ 0 8 置 〇 三 巴 9 。 畳 謡 ゜・﹂ ( ﹃ 西 洋 落 穂 集 ﹄ ) 1 ・ H の 二 冊 を 出 版 し た 。 そ の 後 も 一 九 二 九 年 、 東 京 ・ 北 星 堂 か ら 出 版 さ れ た 一134一
市 川 三 喜 編 ﹁国 ゜・ °。麸 ゜。 8 > 日 9 。 き = 8 H導 ﹂ (﹃ ア メ リ カ 文 学 評 論 ﹄ ) で も ハ ー ン の 論 説 記 事 蒐 集 に 協 力 し 、 そ の 序 文 を 書 い て い る 。 モ ー デ ル の ハ ー ン 論 説 記 事 捜 検 の 仕 事 は 日 本 の 西 崎 一 郎 に 引 受 け ら れ 、 五 冊 の 本 と し て 一 九 三 九 年 ( 昭 和 十 四 年 ) 東 京 . 北 星 堂 か ら 出 版 さ れ た 。 ﹁ § 鴨 さ ミ 寄 ミ § 融 § 靴 O ミ ミ 砺 無 § 膏 ら 鶏 馬 § 題 ﹂ (新 発 明 の 電 磁 波 放 射 、 そ の ほ か の 科 学 的 ス ケ ッ チ ) 、 冨 蓬 営 恥 9 譜 § 暑 智 h § 栽 O 、ぎ ・ 穿 向 ミ と ( ク リ ス マ ス 玩 具 購 入 の 記 、 そ の ほ か の エ ッ セ イ ) 、 ﹁ O 託 § ミ ﹄ ・誉 N象 ﹂ (東 洋 論 集 ) 、 ﹁卜 譜 ミ q 穿 免 亀 と (文 学 評 論 集 ) 、 ﹁寒 ミ 窺 き 竃 寒 さ 亀 鳶 § 儀 O 、曹 ・ Q ミ ・ § ﹂ ( 野 蛮 な 理 髪 屋 、 そ の ほ か の 物 語 ) の 五 冊 で あ る 。 モ ー デ ル に は こ の 他 に も 、 ハ ー ン が ア メ リ カ 時 代 に 新 聞 に 掲 載 し た フ ラ ン ス 文 学 の 英 訳 を 著 者 別 に 集 め た 単 行 本 も 出 版 し て い る 。 11 ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン 著 作 集 第 五 巻 ﹂ ( 一 ゆ oQ QQ °刈 ゜P O ) 恒 文 社 刊 の 解 説 ・ 斉 藤 正 二 (翻 訳 当 時 . 創 価 大 学 教 育 学 部 教 授 ) と 、 ﹁著 作 集 第 一 巻 ﹂ ( 一 〇 Go O °q °一 〇 ) 恒 文 社 刊 の 解 説 ・ 平 川 祐 弘 (翻 訳 当 時 ・ 東 京 大 学 教 養 学 部 教 授 ) の 解 説 に よ る 11 (注 ・ 2 ) 11 関 西 学 院 大 学 図 書 館 所 蔵 の マ イ ク ロ フ ィ ル ム か ら コ ピ ー 。 Z O ≦ 曜 O 鼻 目 宣 Ho 。・ °< O r × 酋 ︿ °°Z ρ 刈 P P P 2 聞 ≦ -団 O 閃 困 層 7 自O Z ︼) ﹀ 尾 Ψ Z O < 国 ≦ 切 団 閃 P 一 〇◎ q 嘉
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this morning and discovered, upon some half-consumed fuel in the boiler furnace, a human body, with the arms and legs burned off. Hermann Schilling, a workman in the tannery, who slept there at night, was missing.
The body was taken from the furnace and identified as that of Schilling. In the stable were signs of a desperate encounter. A bloody pitchfork lay on the ground, and blood stains formed a trail to the furnace in the tannery. Within the inclosure in which the stable is located three fierce mastiffs were running loose. From this and other circumstances it was inferred that the murderers must be per-fectly familiar with the premises as well as with the habits of the murdered man. Suspicion has settled on Andreas Egner, Fred Egner, his son, and George Rufer, a discharged employe of the tannery. Persons testified to bearing threats against Schilling's life from all three named. Egner and son kept a beer-saloon and cooper-shop next to the tannery, and were often in and out of the latter place. Early last August a seduced daughter of Egner's died in childbirth at the hospital. Egner and son charged Schilling with her seduction, and went into the tannery and beat him severely with cooper staves. For this they were fined heavily in the Police Court, and bound over to keep the peace for one year.
Rufer, the tanner, who was discharged last night, was an employe of the Egners last August. He denies enmity against Schilling, but says Egner's son threatened Schilling's life, and that several of the Egner's workmen had said Schilling ought to be hung, and burned. No traces of blood have been found on the clothing of these parties, except on Rufus' shoes. The supposition is that these men entered the stable while Schilling was asleep, beat him with clubs and pitchforks, and attempted to burn him. The excitement is very great.
第 一 章 ﹃ シ ン シ ナ テ ィ ・ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ ( 注 ・ 0 ) 報 道 こ の 同 じ 日 の 朝 、 西 に 遠 く 離 れ た オ ハ イ オ 州 の シ ン シ ナ テ ィ 市 で は 同 じ 九 日 付 け ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 (甲 田 ∩ 同写 Q Z Z > 目 団 Z ρ 臼 田 国 ) が 、 朝 刊 一 面 の ほ と ん ど 全 面 ( 六 欄 の う ち 五 欄 ) を つ ぶ し て こ の ︽ 衝 撃 的 な 殺 人 ︾ 事 件 の 詳 報 を 掲 載 し て 、 シ ン シ ナ テ ィ 市 民 の ド ギ モ を 抜 い て い た 。 長 文 の 記 事 に 囲 ま れ た ド 真 ん 中 に は 、 男 二 人 の そ れ ぞ れ 大 き な 肖 像 ス ケ ッ チ と 、 そ の 左 側 に 犯 行 現 場 ら し い 横 長 の 大 き な 建 物 の 絵 を 、 縦 向 き で は 収 容 で き な い の で 横 向 き に 並 べ て 掲 載 、 左 下 に も う 一 人 の 男 の 肖 像 ス ケ ッ チ 一 枚 、 さ ら に そ れ よ り や や 下 の 右 側 に 、 横 た え ら れ て い る 焼 け た だ れ た 人 間 の 肋 骨 と 頭 蓋 骨 の ど ぎ つ い ス ケ ッ チ 一 枚 、 合 計 五 枚 の ス ケ ッ チ を 配 し て い る 。 骸 骨 の 横 長 の ス ケ ッ チ 絵 は 、 専 門 の 挿 し 絵 画 家 が 描 い た と 思 わ れ る 他 の 四 枚 の ス ケ ッ チ に 比 べ て 、 い か に も 素 人 っ ぼ く む し ろ 幼 稚 と も 言 え る が 、 そ れ だ け に か え っ て な ん と も 不 気 味 な 絵 で 、 白 い 頭 蓋 骨 の 頭 頂 部 分 が 吹 っ 飛 ん で 欠 け て お り 、 両 眼 の あ っ た 部 位 は 黒 い 洞 穴 の よ う に 描 か れ て い て 、 新 聞 を 読 む 読 者 を 燭 膜 が 睨 み つ け て い る よ う で あ る 。 こ の ス ケ ッ チ も 新 聞 紙 面 で は 縦 向 き に は 組 み 込 め な い た め に 、 横 向 き で 組 ん で い て 、 絵 の 説 明 キ ャ プ シ ョ ン の 後 に ﹁ = 鎚 日 ﹂ と 読 め る 署 名 が 認 め ら れ て い る 。 ハ ー ン は ス ケ ッ チ ま で 描 い て い た の で あ る 。 ( 注 ・ 1 ) ﹁皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ と し て 知 ら れ る こ の 事 件 記 事 の 筆 者 が ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン 記 者 ( 注 ・ 2 ) 。 こ の と き 、 二 十 四 歳 。 こ の 記 事 に よ っ て 、 こ の 日 、 シ ン シ ナ テ ィ 市 き っ て の " セ ン セ ー シ ョ ナ ル 記 者 " が 誕 生 し 、 新 米 記 者 が 一 躍 花 形 ス タ ー 記 者 と な っ た ー と さ れ る の だ が 、 実 際 に は ハ ー ン の こ の 頃 の こ と は 、 伝 説 の よ う に な っ た 部 分 が 多 く 、 長 い 間
あ い ま い で 過 ぎ て き た 。 ハ ー ン は こ の の ち も 、 新 聞 記 者 と し て 、 ま た フ ラ ン ス 文 学 作 品 の 英 訳 紹 介 者 、 紀 行 文 作 家 、 民 族 学 者 、 短 編 小 説 作 者 と し て ア メ リ カ で 活 動 す る が 、 ハ ー ン の 多 く の 伝 記 を も と に し て 、 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ に 始 ま る 、 若 き ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン の 駆 け 出 し 新 聞 記 者 時 代 を 想 像 し て 見 よ う と い う の が 、 こ の 紀 要 で の 研 究 短 文 の 意 図 す る と こ ろ で あ る 。 (注 ・ 0 ) ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 (目 目 -団 臼 O 蜜 百 a 臼 ) ﹂ 11 こ の 記 事 を 書 い た ハ ー ン の 原 題 は ﹁ ≦ 9 巨 ρ 。日 註 8 ﹂ (暴 力 的 な 火 葬 ) で あ る が 、 英 文 の 伝 記 で も 日 本 語 訳 で も 、 ビ ス ラ ン ド や グ ー ル ド が 最 初 に ハ ー ン の 記 事 を 紹 介 し た さ い に 用 い た ﹁ 目 目 露図 貰 馳 竃 ⊆ 巳 置 ( ﹁日 目 k 醇 α ﹂ は な め し 革 を 作 る 工 場 、 あ る い は そ の 工 場 で 作 っ た な め し 革 置 場 、 な ど の 意 味 V を 受 け て 、 ﹁ タ ン ・ ヤ ー ド 事 件 ﹂ ﹁ タ ン ・ ヤ ー ド 殺 人 事 件 ﹂ ﹁ 製 革 所 ( タ ン ヤ ー ド ) の 人 殺 し ﹂ ﹁皮 革 工 場 殺 人 事 件 ﹂ ﹁ な め し 革 工 場 殺 人 事 件 ﹂ ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ な ど 、 い ろ い ろ に 呼 ん で い る が 、 こ の 紀 要 で は ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ と 統 一 す る こ と に し た 。 一138一 (注 ・ 1 ) ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ に 掲 載 さ れ た ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 の 紙 面 は ﹁ 山 陰 放 送 ﹂ の テ レ ビ ・ ド キ ュ メ ン タ リ ー ﹁ 小 泉 八 雲 -松 江 に ニ ッ ポ ン を 見 た ー ﹂ の 画 面 か ら 説 明 し た 。 こ の ド キ ュ メ ン タ リ ー は ﹁ 山 陰 放 送 ﹂ が 開 局 四 〇 周 年 記 念 番 組 と し て 制 作 、 T B S 系 列 で 平 成 六 年 ( 這 O 轟 ) 九 月 十 日 に 放 映 さ れ た も の で 、 シ ン シ ナ テ ィ の 市 立 図 書 館 に 保 存 さ れ て い る ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 紙 面 を 克 明 に 接 写 し て 見 せ て い る 。
(注 . 2 ) ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン 冒 昏 巴 δ 缶 雷 3 (一 ゜。 い O 1 6 宝 ) " 略 伝 ハ ー ン は ギ リ シ ア の レ フ カ ス 島 で イ ギ リ ス 駐 留 軍 の 軍 医 を 父 と し 、 島 の 女 性 を 母 と し て 生 ま れ た 。 幼 時 、 父 の 実 家 で あ る ア イ ル ラ ン ド に 移 っ た が 父 母 の 離 婚 な ど で 父 側 の 大 伯 母 に 育 て ら れ た 。 フ ラ ン ス 、 イ ギ リ ス の カ ト リ ッ ク 系 の 神 学 校 で 教 育 を 受 け る 。 左 眼 の 失 明 、 大 伯 母 の 破 産 な ど の 不 幸 に 会 い 、 十 九 歳 の と き 、 放 り 出 さ れ る よ う に ア メ リ カ に 一 文 無 し で 渡 る 。 苦 労 の す え 、 シ ン シ ナ テ ィ で 新 聞 記 者 と な る 。 の ち 、 南 部 の ニ ュ ー オ ー リ ン ズ に 行 き 、 こ こ で も 新 聞 記 者 と し て 働 く か た わ ら 、 フ ラ ン ス 文 学 の 翻 訳 紹 介 な ど を 続 け る 。 そ の 後 、 仏 領 西 イ ン ド 諸 島 の 探 訪 、 紀 行 文 を 発 刊 し た 。 一 八 九 〇 年 来 日 、 松 江 中 学 校 の 英 語 教 師 と な り 、 日 本 人 女 性 ・ 小 泉 節 子 と 結 婚 、 翌 年 熊 本 の 第 五 高 等 中 学 校 へ 移 っ た 。 一 八 九 四 年 十 月 、 神 戸 に 移 住 、 英 字 新 聞 ﹁ 神 戸 ク ロ ニ ク ル 紙 ﹂ で 論 説 記 事 を 書 い て い た 。 神 戸 市 在 住 中 の 一 入 九 六 年 、 日 本 人 に 帰 化 し て ﹁ 小 泉 八 雲 ﹂ と な っ た 。 一 八 九 六 年 九 月 か ら ⊥ ハ 年 半 に わ た っ て 東 京 大 学 で 英 米 文 学 を 講 義 し 、 早 稲 田 大 学 に 移 っ た 一 九 〇 四 年 に 亡 く な っ た 。 ︽ 日 本 瞥 見 記 ︾ ︽ 東 の 国 か ら ︾ ︽ 心 ︾ 日 本 昔 話 な ど の 再 話 で あ る ︽ 怪 談 ︾ や ︽ 神 国 日 本 ︾ な ど 十 数 冊 に 及 ぶ 日 本 時 代 の 著 作 が あ り 、 世 界 へ の 日 本 の よ き 紹 介 者 と な っ た 。 第 二 章 シ ン シ ナ テ ィ の 辛 い 新 聞 記 者 生 活 へ の 回 想 十 九 歳 で ア メ リ カ に 渡 っ た ラ フ カ デ ィ オ . ハ ー ン は 、 数 カ 月 以 上 に わ た る 放 浪 に 似 た 生 活 の の ち 、 ア メ リ カ 中 西 部 の 中 心 都 市 シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 社 に 勤 務 し 、 衝 撃 的 な 事 件 記 事 を 書 く 報 道 記 者 と し て 名 を は せ た の ち 、 数 年 後 に は 南 部 の
ニ ュ ー オ ー リ ン ズ に 移 り 、 こ こ で も 新 聞 記 者 と し て 活 躍 し た 。 四 十 歳 の と き 来 日 す る が 、 在 日 生 活 の う ち 、 神 戸 市 で の 二 年 間 は 、 再 び 新 聞 論 説 記 者 と し て 働 く な ど 、 ハ ー ン と 新 聞 と は 、 切 り 離 せ な い も の と な っ て い た は ず だ が 、 ハ ー ン 自 身 は 新 聞 記 者 活 動 を ど う 思 っ て い た の だ ろ う か 。 ニ ュ ー オ ー リ ン ズ に 移 っ て 同 市 の 新 聞 社 ﹃ ア イ テ ム ﹄ 紙 で 働 い て 三 年 、 す で に ベ テ ラ ン 記 者 と な っ て い た ハ ー ン は 同 紙 の 一 八 八 〇 年 四 月 一 一 日 付 の 紙 面 で 次 の よ う な 記 事 を 書 い て い る 。 (注 . 0 ) ﹁ 西 部 の 新 聞 社 仕 事 ﹂ 十 年 前 の 西 部 (注 ・ 1 ) で の ジ ャ ー ナ リ ス ト の 暮 ら し な ど 、 羨 ま し い と 言 え る よ う な も の で は な か っ た し 、 今 で も そ の 記 者 生 活 が 非 常 に 魅 力 的 な も の と な っ て い る か ど う か 疑 わ し い と 私 は 思 っ て い る 。 こ の 仕 事 で は 鉄 の よ う な 身 体 、 疲 れ を 知 ら な い エ ネ ル ギ ー 、 無 尽 蔵 の 忍 耐 力 が 要 求 さ れ た 。 取 材 記 者 は 午 後 一 時 か ら 午 前 三 時 ま で 、 気 を 緩 め る こ と な く 、 年 が ら 年 じ ゅ う 、 日 曜 日 も 週 日 も 、 降 ろ う が 照 ろ う が 、 雪 降 り で も 炎 暑 で も 働 い て い た 。 記 者 た ち の 生 活 は 、 不 自 然 で あ る と 同 時 に 不 健 康 で あ り 、 ガ ス 灯 と 夜 気 の 中 の 生 活 だ っ た 。 両 面 印 刷 の 新 型 印 刷 機 が 導 入 さ れ て も ( 注 ・ 2 ) 、 そ の 結 果 は た だ 、 労 働 時 間 を 明 け 方 の 午 前 四 時 ご ろ ま で 引 き 延 ば す こ と に な る だ け の こ と で 、 こ う し て 夏 は 、 記 者 た ち は お 日 さ ん が 上 が っ て か ら 家 に 帰 る こ と に な っ た 。 特 派 記 者 、 コ ラ ム 記 者 、 編 集 整 理 部 デ ス ク 、 と 言 っ た 持 ち 場 に 変 え て 貰 え る こ と が 多 く の 記 者 た ち の 唯 一 の 望 み で あ っ た 。 し か し 、 結 局 の と こ ろ 、 昇 進 の 栄 誉 は 、 担 い き れ な い ほ ど の 重 荷 を 軽 く す る こ と に は 、 た い し て な ら な い こ と が す ぐ に わ か る の だ っ た 。 時 間 は 相 変 わ ら ず 長 く 、 仕 事 は 相 変 わ ら ず 全 く の 疲 労 困 態 も の だ っ た 。 一140一
新 聞 社 内 の 各 部 局 の 面 々 は み ん な が 事 実 上 、 二 人 分 の 役 目 を こ な し て い た 。 政 治 的 な 興 奮 時 に は 、 特 派 記 者 た ち は 眠 る こ と も な く に 、 三 十 六 時 間 ぶ っ 通 し で 働 く な ん て こ と は 里 ハ常 な こ と で も な か っ た 。 電 信 を 打 つ 仕 事 は 全 部 、 た っ た 一 人 の 人 間 に か か っ て い て 、 わ ず か 二 、 三 年 間 で あ っ て も 、 こ の 緊 張 に 耐 え る こ と が で き る 視 力 や 知 力 は 、 ま さ に 強 靱 で あ っ た 。 報 道 記 者 と し て ジ ャ ー ナ リ ス ト の 職 業 に 進 ん で き た 多 く の 若 者 た ち は 、 教 育 と 文 章 的 才 能 さ え あ れ ば 、 十 分 に 、 自 分 た ち に 成 功 が も た ら さ れ る も の と 想 像 し て い た 。 彼 ら は 、 か の 恐 る べ く 実 務 的 な 西 部 の 新 聞 の 世 界 で は 、 単 な る 文 才 な ど 何 の 役 に も 立 た な い こ と を 知 ら な か っ た 。 つ ま り 、 新 聞 の 仕 事 は 過 酷 な 職 業 で あ る こ と が 教 え 込 ま れ な く て は な ら な い し 、 こ の 職 業 で は 、 競 争 は 最 も 強 い 者 の も の で あ る 、 と い う こ と を 知 ら な か っ た の だ 。 そ し て こ の よ う な 実 態 は 、 記 事 の 書 き 手 を 必 要 と す る 日 刊 新 聞 の ほ と ん ど す べ て の 部 門 を 通 し て 同 じ だ っ た 。 才 気 換 発 の ラ イ タ ー な ど 必 要 で は な か っ た 。 た だ 、 可 能 な 期 限 内 で 最 も 短 時 間 に 、 最 大 数 の 事 実 を 収 集 し 、 分 か り や す い 形 で 、 提 出 す る こ と の で き る 者 が 必 要 と さ れ た 。 閑 散 時 に は 、 ヒ マ 種 の フ ァ ン タ ジ ッ ク な 論 説 記 事 が 歓 迎 さ れ る 。 し か し 、 こ う い う 記 事 は 、 こ の 仕 事 が な け れ ば 無 駄 に 時 間 を 過 ご さ せ て し ま う こ と に な る 、 こ れ ら の 安 給 料 で 抑 え ら れ て い る 記 者 た ち に 仕 事 を 与 え る た め で あ っ て 、 ほ か の い か な る 理 由 か ら で も な い 。 そ の 当 時 、 ジ ャ ー ナ リ ズ ム 仕 事 が 文 筆 家 人 生 へ の な ん ら か の 入 門 に な る も の と 夢 想 し て い た 若 者 た ち は 、 間 も な く 、 欺 か れ て 不 愉 快 な 思 い を し て い る 我 れ と 我 が 姿 を 見 る こ と に な っ た 。 そ し て 、 最 も 実 務 的 な 働 き 屋 だ け が 、 新 聞 社 内 の
高 い 地 位 へ 登 っ て 行 く チ ャ ン ス に 恵 ま れ る と い う こ と を 学 び 取 っ た 。 す ば ら し い 記 事 が 書 か れ た と し よ う 。 し か し 、 こ れ ら の 記 事 が 、 新 聞 仲 間 以 外 で 、 な ん ら か の 関 心 を 引 き つ け る の は 稀 に し か な か っ た 。 そ し て そ れ ら の 記 事 の 筆 者 た ち は 、 ま も な く 、 機 械 の 単 な る 一 部 品 と し て 行 動 す る よ う に 押 し つ け て く る 運 命 な る も の に 逆 ら っ て 戦 う の を 止 め て し ま っ た 。 個 性 と い う も の が 存 在 し 得 た の は 、 人 の エ ネ ル ギ ー を 他 の 方 向 に 向 け さ せ る よ う な 実 務 的 な 仕 事 が 獲 得 で き な い と き だ け の こ と で あ っ て 、 そ し て そ れ は ご く 稀 の こ と で あ っ た 。 チ ョ ー ン シ イ . ニ ュ ー ト ン ( 注 ・ 3 ) と 同 じ こ ろ に 、 こ の 職 業 に 入 っ た ほ ぼ 十 人 の ジ ャ ー ナ リ ス ト の う ち 、 数 人 は 肺 結 核 で 死 亡 し て し ま っ た し 、 数 人 は そ の 仕 事 を 全 く 捨 て ざ る を 得 な く な っ て し ま っ た 。 そ し て 、 今 後 二 、 三 年 内 に は 、 お そ ら く そ の 中 の 一 人 も ジ ャ ー ナ リ ス ト と し て 残 っ て は い ま い 。 一142一 ( 注 . 0 ) ﹁ 西 部 の 新 聞 社 仕 事 ﹂ 11 .、 ≦ o °・ 8 ヨ 2 。 ≦ °。 噂 巷 。 〒 ≦ 。 昊 、、 富 暴 ﹀ ヨ = 仁 ゜。 °。 ρ フ ロ ス ト ﹃ 若 き ハ ー ン ﹄ ( 寄 § Q・ 寒 。 壽 O °≦ °甲 8 二 9 噌 ゜ ﹁ 臼 ゜ ≦ Φ 目 δ Ω 目 ゜ 宣 昌 毘 ) に 収 録 さ れ て い る 。 (注 . 1 ) ハ ー ン は ほ か の 文 章 、 ニ ュ ー ヨ ー ク か ら 西 ヘ シ ン シ ナ テ ィ へ 向 か う 列 車 の 中 で の 文 で 芝 o °・器 目 を ﹁ ア メ リ カ の 西 部 ﹂ の 意 味 に 使 っ て い て 、 シ ン シ ナ テ ィ も そ の 中 に 入 れ て 表 現 し て い る 。 こ こ で ﹁ 西 部 の ﹂ と 言 っ て い る の は ﹁ シ ン シ ナ テ ィ ﹂ 市 の こ と で あ る 。 な お 、 現 在 は シ ン シ ナ テ ィ が 位 置 す る オ ハ イ オ 州 は ﹁ 米 国 中 西 部 ﹂ (]≦ α ≦ 婁 ) 地 方 と 呼 ば れ て い る 。
( 注 ・ 2 ) 新 聞 印 刷 機 は 特 に 高 速 印 刷 が 要 求 さ れ る も の で あ り 、 ロ ン ド ン の タ イ ム ズ 社 で 一 八 六 六 年 、 輪 転 機 が 製 作 さ れ た 。 こ こ で の ハ ー ン の 記 事 は 、 お そ ら く 、 こ の 種 類 の 印 刷 機 が 導 入 さ れ た 頃 の こ と で あ ろ う 。 の ち 、 一 入 九 〇 年 に は フ ラ ン ス の マ リ ノ ニ 社 で 高 性 能 の 輪 転 機 が 製 作 さ れ 、 日 本 な ど 世 界 各 地 に 輸 出 さ れ て い る 。 ハ ー ン が シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 社 で 働 い て い た こ ろ は ま だ ガ ス 灯 の 時 代 。 ア メ リ ヵ で 電 灯 が 灯 る の は 一 八 八 〇 年 代 以 降 の こ と で あ る 。 (注 ・ 3 ) チ ョ ー ン シ イ ・ ニ ュ ー ト ン (∩ ゴ 碧 日 。 建 Z o ≦ 8 ロ ) 。 シ ン シ ナ テ ィ 市 の 新 聞 、 一 八 八 〇 年 に 結 核 で 死 亡 し た 、 と 原 著 の 注 に あ る 。 (∩ 訂 巨 。 超 宕 o ヨ 8 0 h 9 。 穿 ミ 譜 、 臼 9 0 h 。 8 °・口 日 官 一8 ロ 一 。。 。。 O °) イ ン ク ワ イ ア ラ ー 紙 の 記 者 で 、 第 三 章 ク レ イ ビ ー ル へ の 手 紙 こ の 新 聞 論 説 記 事 の ほ か に も 、 ハ ー ン は ニ ュ ー オ ー リ ン ズ に つ い て ま だ 間 も な い こ ろ の 一 入 七 七 年 ( 月 日 不 明 ) 付 け ( 注 ・ 0 ) で 、 シ ン シ ナ テ ィ 時 代 の 友 人 の ク レ イ ビ ー ル (注 ・ 1 ) へ 宛 て た そ の 手 紙 の 中 で も 次 の よ う に 書 き 記 し て ﹁ 二 度 と 新 聞 社 で の 警 察 記 事 取 材 は ご め ん だ ﹂ と 言 っ た 趣 旨 の 感 想 を 書 い て い る 。
︽ 親 愛 な る ク レ イ ビ ー ル へ 私 は た っ た い ま 、 貴 方 か ら の 二 通 目 の 楽 し い 手 紙 -音 楽 に つ い て の 最 高 に 面 白 い 切 り 抜 き 記 事 を 同 封 し た 手 紙 1 を 受 け 取 っ た と こ ろ だ 。 か ず か ず の 挿 絵 は 大 い に 私 の 興 味 を そ そ っ た 。 か の 百 歳 に も な ろ う と い う 老 年 の 、 貴 方 が 言 う よ う に 、 自 分 で 見 た も の を 描 写 す る だ け の こ と し か で き な い 、 か の ペ テ ン 師 よ り も 遙 か に も っ と 興 味 を そ そ る 随 筆 連 載 を 、 貴 方 は 楽 器 の 歴 史 に つ い て 書 く こ と が で き る は ず だ 。 私 は ﹁ 美 術 骨 董 品 、、O 巨 。 °。 ま の 匹 。 。。 ヒ の 、、﹂ と い う 、 い ま 出 版 さ れ た ば か り の 不 思 議 な 本 の 中 で 、 私 自 身 の ご と き 、 こ ん な 門 外 漢 に さ え も 興 味 津 々 な 、 中 世 の 楽 器 に つ い て の 記 事 を 読 ん で い ま し た 。 す ぐ に つ ま ず く ほ ど に も 、 私 の 視 力 が 悪 く な っ て さ え い な け れ ば 、 貴 方 の 娯 楽 に 供 す る べ く こ の 記 事 を 翻 訳 し て お い て お く の で す が 。 ち ょ っ と 抜 粋 を 送 ら せ て も ら い ま し ょ う か ー そ し て 体 調 が よ く な り し だ い 、 貴 方 が 読 む ね う ち が あ る と お 思 い に な る よ う で し た ら 、 全 文 を 送 り ま し ょ う ⋮ ⋮ (中 略 ) 貴 方 は 親 切 に も 、 私 が 何 を し て い る の か に 関 心 を 示 し て く だ さ っ て い る の で ﹁ 自 我 ﹂ (国 oq o ) と い う も の に つ い て お 話 し し ま し ょ う ー つ ま り ﹁ 私 ﹂ (= ° ) に つ い て で す 。 こ ん な こ と は 公 表 す る よ う な こ と で は あ り ま せ ん が 、 私 は 当 地 で は 新 聞 に 投 稿 原 稿 を 書 く こ と で 、 わ ず か に 生 計 を た て て い ま す 。 私 は 一 月 に ほ ぼ 四 十 ド ル ほ ど 稼 い で い る と 思 っ て い ま す 。 こ の 金 が 私 の 命 を 支 え 、 快 適 に さ せ て く れ て い ま す 。 私 は 、 新 聞 の 地 方 記 事 取 材 の 仕 事 は 決 し て 繰 り 返 す ま い と 決 心 し て い ま す 。 私 に は あ の ガ ス 灯 は 我 慢 で き そ う に あ り II
ま せ ん 。 そ れ に 、 新 聞 社 仕 事 が な ん と も 恐 ろ し い 暮 ら し で あ る こ と は 、 貴 方 も ご 存 じ で す よ ね 。 通 信 員 と し て 働 き な が ら 、 私 は 勉 強 を 、 そ う 勉 強 、 勉 強 、 を す る 時 間 は 持 て る で し ょ う 。 そ し て 警 察 ニ ュ ー ス 以 上 の 立 派 な も の も 書 く 時 間 は 持 て る で し ょ う 。 私 は 、 雑 誌 に 随 筆 を 書 く た め に 、 山 盛 り の 仕 事 の 構 想 を た て て い ま す 。 そ し て 多 額 の 金 を 手 に 入 れ る こ と は 期 待 で き な い に し て も 、 暮 ら し を た て る こ と は で き る だ ろ う と 思 っ て い る の で す 。 こ れ ま で の と こ ろ ず っ と 、 私 は ほ ん と う に ひ ど い 時 間 を 過 ご し て き ま し た 。 し か し 、 今 や 、 以 前 よ り は も う 少 し ま し に や れ る だ ろ う と い う 希 望 も で て い ま す 。 と い う の も 、 新 聞 社 か ら は 今 ま で よ り は ず っ と 定 期 的 に お 金 を 送 っ て く る か ら で す 。 私 は 、 ニ ュ ー オ ー リ ン ズ を 離 れ る つ も り は あ り ま せ ん ー も っ と 南 の 方 、 西 イ ン ド 諸 島 か 南 ア メ リ カ へ 行 く 以 外 に は 。 い ま 懸 命 に ス ペ イ ン 語 を 学 ん で い ま す 。 そ し て や が て 、 近 い 将 来 に は 、 う ま く な れ る で し ょ う 。 当 地 で は 私 は 自 分 の 社 会 的 な 評 価 も 回 復 し 得 て い る よ う に 思 っ て い ま す 。 私 は 上 品 な 社 会 へ の 仲 間 入 り を 果 た し ま し た 。 そ れ に 南 部 で は 誰 も が 貧 乏 で す か ら 、 私 の 貧 乏 は な ん の 障 害 に も な り ま せ ん 。 敬 具 。 ︾ こ の 手 紙 で は 終 り の ﹁ 敬 具 ﹂ (網 8 房 巨 5 ぞ ) の あ と の 署 名 が 、 他 の 手 紙 で は 使 わ れ て い る こ と の な い ギ リ シ ア 文 字 で 書 か れ て お り 、 ロ ー マ 字 の ピ 鋒 。 臼 o ( ラ フ カ デ ィ オ ) と 読 め る も の で あ る が 、 こ と さ ら ギ リ シ ア 文 字 を 使 っ た 意 図 は は っ き り し な い 。 し か し 、 手 紙 の 内 容 で 見 る か ぎ り 、 ハ ー ン は 〃 サ ツ 回 り " 記 者 に は 成 り き れ な い と 自 覚 し て い る よ う で あ る 。
( 注 ・ 0 ) 出 典 1ー ビ ス ラ ン ド の ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン の 生 涯 と 書 簡 ﹂ (§ 馬 卜 瀞 § 栽 ト ミ 紺 越 ミ ト 寒 o ミ \ 団 ﹄ 巨 目 " 一 〇 〇 9 H ま U 勺 唱ま ご ゜) 1 目 。 国 中 壽 円 W 田 門 セ o ≦ O 滞 8 °・ ﹂ °。 刈 刈 1 °ビ ス ラ ン ド に つ い て は 第 五 章 注 1 参 照 。 (注 ・ 1 ) ク レ イ ビ ー ル ーー ヘ ン リ ー ・ E ・ ク レ イ ビ ー ル 自 o 目 q 国 自 ≦ 巨 零 魯 匡 9 (一 ゜。 い 轟 -巳 N ω ) シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 で は ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 と は ラ イ バ ル 新 聞 で あ る ﹃ ガ ゼ ッ ト ﹄ 紙 の 記 者 を し て い た ハ ー ン の 友 人 。 の ち に ニ ュ ー ヨ ー ク へ 移 り 、 音 楽 研 究 家 ・ 批 評 家 と し て 名 を 成 す 。 一 入 七 六 ∼ 一 八 九 〇 年 三 月 ま で ハ ー ン と 文 通 が あ っ た 。 ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン 著 作 集 第 十 五 巻 ﹂ 謡 な か ら 。 ジ ョ ン 第 四 章 ・ コ ッ カ リ ル 編 集 長 の こ と 。 一146一 こ う し て み る と 、 ハ ー ン が 仕 事 を し て い た 当 時 の シ ン シ ナ テ ィ で の 新 聞 の 仕 事 は い か に 厳 し か っ た か 、 が 見 え て く る よ う で あ る 。 そ れ に つ い て は ハ ー ン が の ち に 、 日 本 で 、 知 人 の チ ェ ン バ レ ン (注 ・ 0 ) に あ て て 、 シ ン シ ナ テ ィ 時 代 に ハ ー ン が そ の 部 下 と し て 働 い て い た 新 聞 社 ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の 編 集 長 ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル を 紹 介 す る た め に 書 い た と 言 う 手 紙 の 中 で 、 そ の 人 と な り や 厳 し い 仕 事 ぶ り な ど に 詳 し く ふ れ て い て 、 な ん と も 過 酷 な 仕 事 で あ っ た こ と を 窺 わ せ て い る 。 ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル は 一 八 九 五 年 、 極 東 に 派 遣 さ れ た 途 次 に 来 日 し 、 神 戸 在 住 の ハ ー ン を 訪 ね て 来 た の で あ る 。 ア メ リ
力 人 伝 記 作 家 も 、 み な が 、 こ の 手 紙 を 引 用 し て 当 時 の 様 子 を 紹 介 し て い る 。 こ れ ら ハ ー ン の 伝 記 な ど を 見 る と ー ま ず 、 田 部 隆 次 ( 注 ・ 第 五 章 で 詳 述 す る ) 著 の ﹁ 小 泉 八 雲 ﹂ 目 昭 和 五 五 年 ( 6 °。 O ) 北 星 堂 刊 悶 に 収 め ら れ て い る ハ ー ン の 手 紙 は 次 の よ う に 書 か れ て お り 、 ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル 編 集 長 の こ と を 詳 し く 説 明 し て い る 。 ︽ 私 は 一 入 七 四 年 、 シ ン シ ナ ー テ ィ で 日 刊 新 聞 の 事 業 に 従 事 し 始 め た 。 ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹂ と 言 っ て 、 編 集 人 は コ ッ ク リ ル と い う 火 の 玉 の よ う な 青 年 で あ っ た 。 や か ま し い 主 人 で 、 非 常 な 勉 強 家 で 、 天 成 の 新 聞 記 者 で あ っ た 。 私 ど も 一 同 余 り こ の 人 を 好 ま な か っ た が 、 と に か く 、 や り 手 で あ る の で 感 心 し て い た 。 い つ で も 罵 り 散 ら し 、 ほ と ん ど 私 ど も を 半 殺 し に す る 程 ギ ュ ウ ギ ュ ウ 働 か せ た が 本 人 も そ の 通 り 働 い た 。 毒 舌 に も 一 同 恐 れ を 抱 い た 。 軍 隊 か ら 出 た ば か り な の で 、 軍 隊 の 話 を 多 く し た 。 数 年 の う ち に 、 新 聞 の 売 高 を 非 常 に 増 し た の で 社 主 は 一 か ど の 財 産 を 作 っ た が 、 妬 (ね た ) ん で 出 し て し ま っ た 。 ⋮ ⋮ そ の 後 セ ン ト ル イ ス の 新 聞 を や っ た 。 そ れ か ら ニ ュ ー ・ ヨ ー ク の 日 刊 新 聞 ﹃ 世 界 ﹄ を や っ た 。 ⋮ ⋮ 売 高 を 二 十 五 万 程 に し た 。 又 つ ま り 社 主 の 嫉 妬 を 受 け た 。 ⋮ ⋮ 彼 は ま た ﹃ ア ド ヴ ァ タ イ ザ ー ﹄ を や り 出 し た が 自 分 で 飽 き て 来 て 、 そ れ を 売 っ て 漫 遊 に 出 た 。 終 わ り に ﹃ ヘ ラ ル ド ﹄ の ベ ン ネ ッ ト が 、 一 ケ 年 二 万 円 で 、 日 本 へ 派 遣 し た と 聞 い て い る 。 今 日 、 こ こ で こ の 人 に 遇 っ て 昔 話 を し た 。 余 程 穏 や か な 面 白 い 人 に な っ て 、 ま た 余 程 優 し く も な っ た よ う だ 。 少 し 胡 麻 (ご ま ) 塩 に な っ て い る 。 私 の 言 っ た と こ ろ で も こ の 人 の 非 凡 な 事 が 分 る 。 他 人 の た め に 順 々 に 巨 万 の 富 を 作 っ て や っ て 、 自 分 は 何 も し な い 人 な ど は 中 々 あ る も の で は な い 。 こ の 人 は 文 学 者 で も 博 覧 な 人 で も 学 者 で も な い 。 し か し 非 常 に 優 れ た 常 識 と 博 い 経 験 を も っ て い る 。 そ れ か ら マ ー ク ・ ト ウ エ ー ン 風 に 大 分 奇 人 ( ヒ ュ モ リ ス ト ) で あ る 。 ︾ ﹁ 小 泉 八
雲 ﹂ い 習 ま た エ リ ザ ベ ス . ス テ ィ ー ヴ ン ス ン (円 冒 昏 o 自 Q。 8 < o 自 8 ) は そ の 著 ﹁§ ミ ご 寒 自 ミ ( 這 臼 ) ﹂ 11 日 本 訳 ﹁ 評 伝 ラ フ カ デ ィ オ . ハ ー ン ﹂ 遠 田 勝 訳 (6 QQ 轟 ) の 中 で 、 ハ ー ン と コ ッ カ リ ル 編 集 長 と の こ と を つ ぎ の よ う に 書 い て い る 。 ︽ ⋮ ⋮ コ カ リ ル は こ の 新 入 り (注 ・ ハ ー ン の こ と ) の 真 剣 な 様 子 に 心 を 打 た れ 、 好 意 を 抱 き 、 温 か く 見 守 っ た 。 す ぐ に ハ ー ン は 毎 日 や っ て 来 て 、 自 分 専 用 の 机 で 仕 事 を す る よ う に な る 。 編 集 室 の そ の 一 角 か ら で き あ が っ て く る 原 稿 に は 、 感 心 さ せ ら れ る ば か り だ っ た 。 ⋮ ⋮ (中 略 ) か つ て は 空 き っ 腹 を か か え て 街 頭 を う ろ つ き 、 店 や 事 務 所 で 半 端 仕 事 を し て は わ ず か な 金 を 得 て い た ハ ー ン も 、 今 で は ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ の 記 者 と な り 、 仕 事 と 地 位 と 定 収 を 手 に い れ た 。 コ カ リ ル は 、 自 分 の 不 確 か な 勘 で 雇 っ た こ の 男 が 、 つ ぼ を 押 さ え た 実 に 面 白 い ニ ュ ー ス を 書 く こ と を 知 り 、 ハ ー ン を 酷 使 し は じ め た 。 仕 事 の 時 間 が 増 え 、 記 事 に は 磨 き が か か っ て い っ た 。 ハ ー ン は 因 襲 的 な 環 境 を 恐 れ る く せ に 、 一 人 の 観 察 者 に な り き れ る 特 異 な 情 況 は 少 し も こ わ が ら な か っ た 。 彼 の 記 事 に は 、 冒 頭 や 末 尾 に 堅 苦 し い 文 学 臭 さ が 現 わ れ る こ と も あ っ た 。 し か し 彼 は こ の 街 学 趣 味 を 少 し ず つ 消 し 去 っ て ゆ き 、 つ い に は シ ン シ ナ テ ィ の 日 常 生 活 を 描 く の に ふ さ わ し い 、 き び き び し た 口 語 体 の 文 章 を 自 分 の も の に し た 。 ⋮ ⋮ ( 中 略 ) 新 聞 記 者 が 単 に 事 実 を 知 ら せ る だ け で な く 、 読 者 を 楽 し ま せ る こ と を 求 め ら れ て い た 当 時 に あ っ て 、 ハ ー ン は 最 も 有 能 な ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹂ の 記 者 で あ っ た 。 町 の 娯 楽 業 界 の 中 に あ っ て 、 ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ の 編 集 長 は 辣 腕 家 で あ っ た 。 ハ ー ン は 、 コ カ リ ル と い う 人 物 と そ の .・
下 で の 仕 事 の 様 子 を 、 一 八 九 五 年 の チ ェ ン バ レ ン 宛 て の 手 紙 の 中 で こ う 回 想 し て い る 。 ﹁ 新 聞 記 者 の 仕 事 は 、 一 八 七 四 年 に コ カ リ ル と い う ま だ 若 い 猛 烈 な 男 が 編 集 す る ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ と い う シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 で は じ め ま し た 。 や り 手 の 厳 し い 上 司 で 、 天 成 の ジ ャ ー ナ リ ス ト で し た 。 彼 に 好 意 を 抱 く 者 な ど 、 私 た ち の う ち に は 一 人 も い な か っ た で し ょ う が 、 そ の 経 営 の 才 に は 、 み な 一 目 置 い て い ま し た 。 彼 は 私 た ち を 怒 鳴 り つ け て は 、 半 殺 し に す る ま で 働 か せ る の で す 。 (自 分 自 身 に 対 し て も 容 赦 し ま せ ん で し た ) 。 凄 ま じ い 毒 舌 家 で 私 た ち は み な 、 震 え 上 が っ て い ま し た 。 軍 隊 か ら 戻 っ て き た ば か り な の で 、 軍 隊 用 語 が 始 終 出 て く る の で す 。 わ ず か 二 、 三 年 で 彼 は 発 行 部 数 を ぐ ん ぐ ん 伸 ば し ま し た ﹂ ︾ ﹁ 評 伝 ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン ﹂ $ 喝 -ざ b さ ら に 、 ジ ョ ナ サ ン ・ コ ッ ト (ご 口 田 ゴ 目 O o 巳 は そ の 著 書 ﹁ き 轟 譜 、 言 ゜。 O ぎ 覧 O 身 ゜。°。 o 望 o h ピ 昏 p 註 o = 窪 日 ﹂ ( 6 8 ) 巨 日 本 訳 ﹁ さ ま よ う 魂 ー ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン の 遍 歴 ﹂ 真 崎 義 博 訳 ( 這 り 轟 ) の 中 で つ ぎ の よ う に 、 シ ン シ ナ テ ィ 当 時 の ハ ー ン に つ い て 書 い て い る 。 ︽ ラ フ カ デ ィ オ の 初 期 の 記 事 は 、 テ ー マ に 対 す る 知 性 と 挑 発 に 満 ち た 自 由 な 姿 勢 で コ ッ カ リ ル を 大 い に 感 心 さ せ 、 一 八 七 四 年 は じ め 、 ラ フ カ デ ィ オ は ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の 常 勤 ス タ ッ フ に 迎 え ら れ る こ と に な っ た 。 初 任 給 は 週 に 十 ド ル だ っ た 。 彼 は 週 七 日 、 日 に 十 四 時 間 か ら 十 六 時 間 -午 後 一 時 か ら 明 け 方 ま で ー も 働 い た 。 ラ フ カ デ ィ オ は こ う 述 懐 し て い る 。 ﹁ ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル 編 集 長 は 厳 し い 上 司 で あ り 、 す さ ま じ い 仕 事 人 で あ り 、 生 ま れ つ い て の 記 者 だ っ た 。 彼 を 好 き な 部 下 は 一 人 も い な か っ た と 思 う が 、 そ の 運 営 能 力 は 全 員 が 脱 帽 し て い た 。 彼 の 罵 り に 煽 ら れ て 、 私 た ち は 死 に そ う に な る ま で 働 い た 。 (彼 自 身 も 例 外 で は な か っ た ) 。 彼 の 粗 暴 な 嘲 り は 、 み な の 恐 怖 の 的 だ っ た 。 彼 は 除 隊 し た ば か り で 、
軍 隊 調 の し ゃ べ り 方 を し た 。 新 聞 の 発 行 部 数 が 二 、 三 年 で 大 躍 進 し た の も 、 彼 の 力 が あ っ た れ ば こ そ だ っ た ﹂ ︾ ﹁ さ ま よ う 魂 ﹂ d 唱 と こ ろ で 、 ハ ー ン の 死 後 八 年 と い う か な り 早 い 時 期 の 一 九 一 二 年 に ハ ー ン 伝 記 を 書 い て い る ニ ー ナ ・ ケ ナ ー ド (Z 凶8 国 内 o 弓 巨 ) は そ の 著 ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン ー1 そ の 生 涯 と 作 品 (§ O 亀 ご ミ 9 § ︼田 同o。 目 崖 σ Ω。5 α ≦ O 詩 ) ﹂ の 中 で 、 シ ン シ ナ テ ィ 時 代 の ハ ー ン が 、 混 血 娘 の ア ル シ ア ・ フ ォ ー レ イ と 、 法 律 に 違 反 し て ま で も 結 婚 し よ う と し た の は 、 ち ょ う ど こ の 頃 の ハ ー ン の 新 聞 社 で の 仕 事 が 、 極 端 に 辛 い も の で あ っ た こ と が 、 結 果 と し て ハ ー ン を 結 婚 に ま で 駆 り 立 て る こ と に な っ た と 解 釈 し て 、 次 の よ う に 書 い て い る 。 ︽ こ の 少 女 ( ア ル シ ア ・ フ ォ ー レ イ の こ と ) は ハ ー ン が 借 り て 住 ん で い た 安 下 宿 の 召 使 い だ っ た 。 ハ ー ン は 、 こ の 当 時 、 生 活 苦 に 喘 ぐ ほ と ん ど 無 一 物 の 新 聞 記 者 だ っ た し 、 冬 の 最 中 、 朝 の ま だ 明 け や ら ぬ 時 刻 に 、 仕 事 か ら 帰 っ て 来 る の を 常 と し て い た 。 少 女 は 容 姿 の 整 っ た 、 親 切 な 心 の 持 ち 主 の ム ラ ー ト (白 黒 混 血 娘 ) で 、 ハ ー ン の 食 事 を 温 め て お い て く れ て 、 ハ ー ン が 濡 れ て 凍 え て い る と き に は 、 火 の 番 を し て い る 炉 端 で 自 分 の 傍 ら に 座 ら せ て く れ る の だ っ た 。 娘 を 包 ん で い る 雰 囲 気 は 、 ハ ー ン 持 ち 前 の 性 格 の 一 つ で あ る 憐 欄 と 共 感 の 火 花 に 点 火 す る 多 く の も の を 持 っ て い た 。 娘 は 、 シ ン シ ナ テ ィ か ら 約 六 十 マ イ ル ほ ど 離 れ た ケ ン タ ッ キ i 州 の メ ア リ ー ズ ヴ ィ ル (竃 鎚 ゜。< 筥 ﹃ メ イ ズ ヴ ィ ル ζ 昌 。。-< 旨 。 の 間 違 い ) 近 く で 奴 隷 の 子 と し て 生 ま れ 、 一 入 六 三 年 の リ ン カ ー ン 大 統 領 の ﹃ 奴 隷 解 放 宣 言 ﹄ で 自 由 の 身 と な っ た が 、 ハ ー ン 自 身 が そ う で あ っ た よ う に 、 同 じ 宿 無 し の 身 で こ の シ ン シ ナ テ ィ に 流 れ て 来 た 。 一150一
過 酷 な 仕 事 と 、 身 の 回 り の 世 話 を し て く れ る 者 も な い ま ま 、 ハ ー ン は ひ ど い 病 気 に な っ た 。 娘 は ほ と ん ど 死 に か け た ハ ー ン の 命 を 救 っ て く れ た 。 そ し て 、 こ の 娘 は ハ ー ン が 健 康 を 取 り 戻 す ま で 看 病 し て く れ て 、 そ の 間 、 二 人 は 娘 の 若 い こ ろ の 出 来 事 や 、 そ の 奴 隷 暮 ら し だ っ た 年 々 の こ と を 話 し 合 っ た ︾ ﹁寒 論 ミ 。 き 自 ミ ﹂ δ 一 ﹃ 1 δ D 唱 (注 ・ 0 ) チ ェ ン バ レ ン ーー バ ジ ル ・ ホ ー ル ・ チ ェ ン バ レ ン (国 窮 ロ = 巴 ∩ げ 喜 臼 巨 戸 易 い 9 ー 一 〇 ω い ) 一 八 七 三 年 か ら 一 九 一 一 年 ま で 滞 日 。 東 京 大 学 で 教 鞭 を 取 り 、 ﹃ 古 事 記 ﹄ を 英 訳 し て 出 版 し た 。 来 日 し た ハ ー ン に 英 語 教 師 の 就 職 を 世 話 し た り し た 。 ﹃ 日 本 事 物 誌 ﹄ (ぎ ぎ 鴨 匂 琶 き 。 °。 。 ) で 日 本 の あ れ こ れ を 紹 介 す る 英 文 著 作 を 書 き 、 そ の 中 で ハ ー ン の 紹 介 も し て い る 。 ハ ー ン と は 一 八 九 〇 年 四 月 か ら 一 入 九 五 年 十 一 月 ま で 文 通 が あ っ た 。 第 五 章 ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の ﹁皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 1 そ の 一 ハ ー ン は 南 部 の ニ ュ ー オ ー リ ン ズ の 新 聞 ﹃ ア イ テ ム ﹄ 紙 の 一 八 八 〇 年 四 月 = 日 付 紙 面 ﹁ 西 部 の 新 聞 社 仕 事 ﹂ で ﹁ 十 年 前 の 西 部 ・ シ ン シ ナ テ ィ で の ジ ャ ー ナ リ ス ト の 暮 ら し は 、 過 酷 な 労 働 で 、 と て も 羨 ま し い と 言 え る よ う な も の で は な か っ た ﹂ と 書 い て い た が 、 そ の ﹁ 十 年 前 ﹂ と い う の は 、 記 事 の 日 付 か ら 見 て 一 入 七 〇 年 こ ろ と い う こ と で 、 ハ ー ン は 自 身 が こ の こ ろ 実 体 験 し て い た シ ン シ ナ テ ィ で の 新 聞 記 者 生 活 を 回 想 し た も の と 考 え ら れ る 。 ハ ー ン の ア メ リ カ 移 住 、 ニ ユ ー ヨ ー ク か ら シ ン シ ナ テ ィ へ の 移 住 、 な ど の 旅 程 や 経 過 に は 、 シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 社 ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 で 働 く
よ う に な る ま で の 苦 労 話 も 含 め て 、 は っ き り し な い 点 が 多 い 。 伝 記 作 家 の 多 く の 著 作 で も 、 後 年 に 書 か れ た も の ほ ど 、 次 第 に 詳 し く 書 か れ る よ う に な っ て は い る も の の 、 な お 、 今 後 の 検 証 を 待 つ も の も 多 い 。 し か し 、 ハ ー ン が シ ン シ ナ テ ィ で 事 件 記 者 と し て 有 名 と な っ た の は ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ で の 、 ハ ー ン な ら で は の 独 特 の 恐 怖 感 を 煽 る 衝 撃 的 な 報 道 が き っ か け と な っ た 、 と い う 点 で は ど れ も 一 致 し て い る 。 ハ ー ン が 言 う ﹁ 西 部 の 新 聞 社 仕 事 の 過 酷 な 労 働 ﹂ の 一 つ が こ の 事 件 報 道 で も あ っ た よ う だ が 、 ﹁ 過 酷 な 取 材 ﹂ ぶ り が 窺 え る も の の 、 こ の 記 事 そ の も の か ら は ﹁ 過 酷 な 労 働 ﹂ は 読 み 取 れ ず 、 こ の 事 件 報 道 の 結 果 、 ハ ー ン は ベ テ ラ ン 記 者 と し て 認 め ら れ る よ う に な っ た の で あ り 、 以 後 は ハ ー ン 自 身 も む し ろ 楽 し ん で 記 事 を 書 い て い た よ う に も 見 え る 。 ハ ー ン の 文 学 的 多 面 性 へ の 批 判 か ら は 別 と し て ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ の 事 件 記 事 的 な 筆 致 の 面 白 さ は 、 後 年 、 佐 藤 春 夫 の 関 心 を 大 い に そ そ っ て 、 佐 藤 春 夫 は こ の 記 事 を ﹁ 無 法 な 火 葬 ﹂ と 題 し て 翻 訳 、 出 版 (注 ・ 0 ) し て い る の で あ る 。 ハ ー ン の ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 取 材 が ど の よ う に し て 行 わ れ た の か 、 は 当 時 の 新 聞 報 道 の 実 態 を 見 る う え で 大 い に 興 味 を ひ く と こ ろ で も あ る 。 ハ ー ン 伝 記 の 最 初 の も の で あ る ビ ス ラ ン ド ( 注 , 1 ) の 一 九 〇 六 年 発 刊 ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン の 生 涯 と 書 簡 罫 偽 h 懸 § 織 密 § 奉 ミ ト 津 自 き ﹂ は 、 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ に つ い て つ ぎ の よ う に 書 い て い る 。 一152一 ︽ ・ そ し て 一 八 七 四 年 の は じ め 頃 に は 、 彼 は ﹃ シ ン シ ナ テ ィ ・ イ ン ク イ ア ラ ー ﹄ 紙 で 雑 報 記 者 と し て 働 い て い た 。 そ の 仕 事 は 、 は じ め 、 彼 の 才 能 に は 全 く 似 合 わ な い と い う 部 類 の も の で 、 市 場 の 日 常 品 の 相 場 の 通 報 が 主 な も の と な っ て
い て 、 と り わ け て 人 の 感 情 の 入 り 込 む 余 地 も な い よ う な も の と い う ほ か な か っ た 。 そ し て つ い に チ ャ ン ス が や っ て き て 、 ハ ー ン の 能 力 が も つ と 良 い 取 材 対 象 に 向 い て い る こ と に 、 そ の 雇 用 者 た ち の 眼 を 開 か せ た 。 特 異 な 残 酷 犯 罪 事 件 -今 で も シ ン シ ナ テ ィ 市 の 年 代 史 で ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ と し て 知 ら れ て い る ー の 第 一 報 が ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の 編 集 室 に 通 報 さ れ て き た の は 、 こ の 種 の 仕 事 を 自 分 の 持 ち 場 と し て 通 常 、 カ バ ー し て い る ス タ ッ フ 記 者 な ど が 、 た ま た ま 全 員 不 在 だ っ た 、 ま さ に そ の 時 だ っ た 。 誰 か す ぐ に こ の 事 件 を こ な し て く れ る 人 物 は い な い も の か な と 、 無 関 心 な 神 々 へ の 神 頼 み 、 と 思 い め ぐ ら し て い た 編 集 長 は 、 日 々 の 市 場 商 品 〃 相 場 " を 書 い て だ し て い る あ の 恥 ず か し が り 屋 の 記 者 見 習 い が 、 お ず お ず と 、 ﹁ 私 に こ の 事 件 を 取 材 さ せ て く だ さ い ﹂ と 申 し 出 て き た の に 驚 か さ れ た 。 そ れ で 、 ち ょ っ と た め ら っ た の ち 、 編 集 長 は 、 こ の 、 神 々 へ お 願 い し た も の か ら は 、 的 外 れ の お 答 え 、 と 思 え る も の を 受 け 取 る こ と に 腹 を 決 め た 。 数 時 間 後 に 出 稿 さ れ た " 原 稿 " は び っ く り 仰 天 、 眼 を 開 か せ る も の だ っ た 。 〃 ト ッ プ 見 出 し " も の と 判 断 さ れ た 。 そ し て こ れ に 続 く 異 常 な 生 活 の 九 日 間 と い う も の 、 シ ン シ ナ テ ィ 市 民 た ち は 、 こ の ホ フ マ ン 風 の 物 語 記 事 を 熱 中 し て 追 い 求 め た 。 そ の 記 事 の 酷 し く 選 び 抜 か れ た 言 葉 遣 い は 、 彼 ら シ ン シ ナ テ ィ 市 民 の 前 に 、 骨 の 上 を 人 肉 が は い ず り 回 る よ う な 気 分 を 起 こ さ せ る 、 気 味 の 悪 い 絵 を さ し だ し て い た 。 こ の 駆 け 出 し 記 者 が 疑 う 余 地 の な い 能 力 を 持 っ て い る こ と は 、 た ち ま ち に し て 実 証 さ れ た 。 そ し て 彼 の 才 能 の 前 に は 、 記 述 ふ う 物 語 記 事 の 方 向 へ と 広 が っ て ゆ く 門 が 開 か れ た の で あ る 。 ︾ ﹁ § 恥 卜 慧 § 職 に § 鳶 ミ ト 津 自 真 ﹂ い 一 唱 と し て 簡 単 に 触 れ て い る だ け で 、 こ の 書 の 中 で ビ ス ラ ン ド は 、 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 の 内 容 に は 全 く 触 れ て い な い 。
ハ ー ン の 記 事 の 内 容 が ど の よ う な も の で あ っ た か を 、 出 版 物 と し て 最 初 に 紹 介 し た の は 、 ビ ス ラ ン ド の ﹁ 生 涯 と 書 簡 ﹂ か ら 二 年 後 の 一 九 〇 入 年 に 発 刊 さ れ た グ ー ル ド (注 ・ 2 ) の ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン に 関 し て ﹂ で あ っ た 。 シ ン シ ナ テ ィ の ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹂ 紙 の 読 者 は ハ ー ン の 書 い た そ の 当 日 の 驚 愕 す べ き 記 事 を 読 ん で 深 い 印 象 と シ ョ ッ ク を 受 け た の は 当 然 で は あ ろ う が 、 事 件 報 道 で あ る か ら 記 事 は 無 署 名 で あ り 、 ま た 、 筆 者 の ハ ー ン が ま だ 名 も な い こ ろ の で き ご と で あ る か ら 、 こ の 記 事 が 出 版 さ れ る に 至 る な ど と 考 え る 者 は ほ と ん ど い な か っ た だ ろ う 。 従 っ て 、 新 聞 紙 面 を 保 存 し て い る 人 は 関 係 者 以 外 に は ほ と ん ど 誰 も い な か っ た は ず だ 。 の ち に 日 清 ・ 日 露 の 二 つ の 大 戦 が 日 本 に 世 界 の 注 目 を 集 め 、 日 本 を 知 り た い と す る 要 求 に 答 え て 、 ハ ー ン は 最 高 の 日 本 紹 介 者 、 解 釈 者 ( 新 渡 戸 稲 造 の 言 葉 ・ 第 七 章 注 0 参 照 ) と な っ た 。 日 本 に 関 す る ハ ー ン の 著 作 が 広 く 読 ま れ て 知 名 度 が 高 ま っ た 結 果 、 ア メ リ カ 国 内 で も 再 び 脚 光 を 浴 び て 、 か つ て の ア メ リ カ 時 代 で の ハ ー ン の 著 作 が 発 掘 さ れ る こ と に な る の だ が 、 そ の 著 作 以 外 に 、 ハ ー ン が ア メ リ カ 時 代 に 書 い た 新 聞 記 事 が 初 め て 単 行 本 の 中 で 紹 介 さ れ た の が 、 こ の グ ー ル ド の ハ ー ン 伝 記 に 掲 載 さ れ た ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 の 抜 粋 で あ っ た 。 一154一 グ ー ル ド の ﹁ ハ ー ン に 関 し て ﹂ で は 、 ま ず ︽ ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ に 先 立 つ 二 、 三 週 間 前 、 て 来 た 。 N °。 唱 (中 略 ) 一 八 七 四 年 の 一 月 か 一 一月 に 、 シ ン シ ナ テ ィ で ハ ー ン は イ ン ク ワ イ ア ラ i 紙 の 事 務 所 に 一 本 の 原 稿 を 売 り 込 み に や っ " か の 有 名 な ・・目 目 -吋 閂 匹 ζ 巨 9 .. 事 件 " と い う 恐 ろ し い 殺 人 事 件 が あ っ
た 。 そ し て ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ i ﹄ 紙 に 掲 載 さ れ た ハ ー ン の 記 事 は 、 新 聞 な ら び に 報 道 者 的 視 点 か ら 見 て 極 め て 絵 画 的 で あ り 、 す べ て の ラ イ バ ル 新 聞 記 者 た ち の 能 力 を 遙 か に 越 え た も の だ っ た の で 、 ハ ー ン は こ れ 以 後 、 職 場 と 紙 面 ス ペ ー ス 、 な ら び に あ る 種 の 尊 敬 を 確 約 さ れ る こ と に な っ た 。 ω O 喝 ( 中 略 ) ハ ー ン の 文 筆 経 歴 の 始 ま り は ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ に つ い て の 報 道 記 事 だ っ た 。 こ の 記 事 は シ ン シ ナ テ ィ の ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 で 、 一 八 七 四 年 の 十 一 月 に 掲 載 さ れ た 。 私 は 、 こ の 記 事 の 一 部 を 脚 注 の 中 で 引 用 す る こ と に し ま し ょ う 。 そ れ は 、 ハ ー ン が 持 っ て い た 生 来 の も の で あ っ た り 、 あ る い は 学 び 取 っ た 能 カ ー つ ま り 、 実 に 驚 愕 す べ き 、 現 実 の 絵 を 見 せ る よ う な 特 質 を 持 っ た 言 葉 と 表 現 で 、 極 め て 恐 ろ し く も 、 ま た お ぞ ま し い 事 実 を 飾 り た て て 見 せ る こ と の で き る ハ ー ン の 才 能 1 を 説 明 し よ う が た め で あ る 。 ハ ー ン の 後 年 の 作 品 に 見 ら れ る 描 写 記 事 1 そ の 中 で ハ ー ン が 上 品 な 、 美 し い 事 物 ( 霊 的 な も の 、 宗 教 的 な 性 質 の も の は す べ て 除 外 し て だ が ) を も ま た 描 く こ と が 出 来 て い る そ の 描 写 記 事 と の 比 較 を 心 に と め て お く な ら ば 、 読 者 は 、 ハ ー ン の か く も 稀 に み る 、 し か も 完 全 な 能 力 へ の 賛 嘆 の 気 持 ち で 一 杯 に な ろ う 。 過 敏 な 人 は 、 付 録 と し て 付 け た こ の 抜 粋 を 読 む こ と は 差 し 控 え る べ き で す 。 こ の 抜 粋 文 は 、 義 務 感 に 従 っ て 掲 載 し た も の な の で す ︾ ﹁ 9 嵩 亀 § 爵 ゜q 自 ミ ミ 昌 ﹂ ω ご と 断 り 書 き を つ け て グ ー ル ド は 、 ハ ー ン の 記 事 の 凄 さ を 暗 示 し 、 約 ニ ペ ー ジ に わ た っ て ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ の 記 事 の 中 か ら 、 " さ わ り " に あ た る 最 も す さ ま じ い 箇 所 で あ る 被 害 者 の 遺 体 の 詳 細 な 検 証 の 部 分 を 採 録 、 紹 介 し て い る 。 そ し て こ れ が 、 部 分 的 で は あ っ た が ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ の 本 文 を 単 行 本 で 紹 介 し た 最 初 の も の で あ る 。 し か し 、 こ の 書 で グ ー ル ド は ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 ﹂ の 事 件 が 一 八 七 四 年 始 め 、 冬 の 一 、 二 月 こ ろ に 発 生 し た と 伝 え 、 新 聞 掲 載 は 十 一 月 と し て い る だ け で 日 付 の 記 載 が な い な ど 、 事 件 そ の も の と そ の 報 道 の 実 態 が 不 自 然 で 、 は っ き り し て い
な い 。 上 記 の 二 冊 の 伝 記 に 続 い て 、 一 九 一 二 年 、 ロ ン ド ン の 出 版 社 か ら 二 ー ナ ・ H ・ ケ ナ ー ド (ヴ 自 口 四 }山 ゜ ︼( O 昌 " 凹﹃ 匹 ) が 伝 記 ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン § ミ む 津 o ミ ーー ハ ー ン か ら 異 母 妹 の ア ト キ ン ソ ン 婦 人 に 宛 て た 数 通 の 手 紙 を 含 む H ﹂ を 発 刊 し て い る 。 こ の 中 で も ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ は い と も 簡 単 に 触 れ て い る だ け で あ る 。 ︽ ハ ー ン が ワ ト キ ン (注 ・ 3 ) の 店 の 奥 で 、 裁 断 紙 屑 の ベ ッ ド を 寝 床 に し て い た 頃 の こ と だ が 、 ハ ー ン は シ ン シ ナ テ ィ の 公 立 図 書 館 の 司 書 で あ っ た ト ー マ ス ・ ヴ ィ ッ カ ー ズ の 私 設 秘 書 と し て 働 い て い た 。 ハ ー ン は ク レ イ ビ ー ル へ の 手 紙 で 幾 度 か 、 ト ー マ ス ・ ヴ イ ッ カ ー ズ の こ と に 触 れ て 書 い て お り 、 ま た 、 図 書 館 で 見 る こ と が で き る 音 楽 に 関 す る 稀 観 本 や 古 典 的 な 作 品 の 写 本 の こ と な ど に 言 い 及 ん で い る 。 ず っ と こ の 頃 を 通 じ て 、 ハ ー ン は あ ち こ ち と 彷 径 い 歩 き 、 ど ん な 仕 事 で も よ い か ら と 懸 命 に 探 し 求 め て い た が 、 そ う し な が ら も 、 こ の 若 い ハ ー ン の 内 に 秘 め た 野 望 は 、 大 新 聞 社 の 一 社 で 社 員 と し て の 地 位 を 手 に 入 れ る こ と で あ り 、 か く し て 、 自 分 が 好 き な だ け の 文 学 活 動 に 専 念 さ せ て く れ る よ う な 余 裕 資 金 を 得 る 方 途 を 入 手 す る こ と 、 で あ っ た 。 ハ ー ン の 同 僚 の 一 人 は 述 べ て い る 。 ﹁ ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 の 当 時 の 編 集 長 、 ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル 大 佐 と で も 、 ま た は ﹃ コ マ ー シ ア ル ﹄ 紙 の 市 内 版 編 集 長 で あ っ た ヘ ン ダ ー ソ ン 氏 と で も 、 こ の 人 た ち と の 面 識 を 得 る た め に は 、 ハ ー ン は 自 分 の 魂 を 悪 魔 に 売 り 払 う 契 約 で も し て し ま っ た だ ろ う 、 と 私 は 信 じ て い る ﹂ と 。 ハ ー ン は 魂 を 悪 魔 に 売 り 払 う サ イ ン は し な か っ た か も 知 れ な い が 、 ハ ー ン が ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ と し て よ く 知 ら れ た 例 の 記 事 を 書 い た と き 、 ハ ー ン は そ の 天 才 的 能 力 を 、 下 劣 な 用 途 に 売 り 渡 し た こ と は 確 か な こ と だ 。 一156一
そ う で は あ っ た が 、 ハ ー ン の 野 望 は 満 た さ れ る こ と に な っ た 。 大 衆 の ホ ラ ー 物 へ の 強 い 欲 求 を こ ん な ぐ あ い に 満 足 さ せ る こ と の で き る 報 道 記 者 は 、 シ ン シ ナ テ ィ の 新 聞 社 に と っ て は 貴 重 財 産 で あ っ た ︾ ﹁ § 9 ミ o 寒 画 ヨ ﹂ O ω 噂 と し て 、 こ の あ と 、 ケ ナ ー ド の 伝 記 は 、 こ の 事 件 以 前 に 戻 っ て 、 ハ ー ン が 初 め て ジ ョ ン . コ ッ カ リ ル 編 集 長 を 訪 ね て ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 社 へ や っ て 来 た と き の 状 況 を 、 二 十 年 後 の コ ッ カ リ ル の 回 想 記 か ら 説 明 し て お り 、 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ の こ と に は 二 度 と 触 れ て も い な い し 、 内 容 に も 全 く 触 れ て お ら ず 、 む し ろ 、 そ の 後 に ハ ー ン が 書 い た セ ン ト . ピ ー タ ー 寺 院 の 塔 上 十 字 架 に 登 っ た さ い の 登 禁 記 事 を 詳 し く 紹 介 し て い る 。 ケ ナ ー ド は ﹁皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ 記 事 を 書 い て い た ハ ー ン を 、 著 作 者 と し て の 本 来 の ハ ー ン で は な く 、 仮 り の 姿 の ハ ー ン と し て 見 て お り 、 " 事 件 記 者 " ハ ー ン は ケ ナ ー ド に は な ん と も 痛 々 し い 姿 に 見 え た よ う だ 。 上 記 の 三 冊 の 伝 記 の ほ か 、 ア メ リ カ で 戦 前 に 発 刊 さ れ た も の で は E ・ L ・ テ ィ ン カ ー (国 量 巴 冨 a β 器 H 巨 ハo ﹁ ) の ﹁ ラ フ カ デ ィ オ ・ ハ ー ン の ア メ リ カ 時 代 § ミ む 寒 昌 § .隔 訴 ミ 誉 § b 魯 遷 ﹂ ℃ N へ ﹂ が あ り 、 こ こ で は 、 ハ ー ン と ﹃ イ ン ク ワ イ ア ラ ー ﹄ 紙 や ジ ョ ン ・ コ ッ カ リ ル 編 集 長 と の こ と は 割 合 に 簡 単 に 触 れ て い る だ け で あ る 。 そ し て ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ に つ い て も 比 較 的 、 簡 単 に 扱 っ て い る 。 ︽ 初 め ハ ー ン は コ ッ カ リ ル の 事 務 室 で 働 い た 。 幽 霊 の よ う に 静 か に 、 原 稿 用 紙 か ら 一 イ ン チ も 鼻 を 離 さ ず 、 織 物 を 編 む よ う に 左 右 に 動 か し て 、 日 曜 日 用 の 、 気 味 悪 い 想 像 心 を 煽 る よ う な 特 別 記 事 を 書 い て い た 。 の ち に 、 彼 を 正 式 記 者 と す る こ と が 決 ま り 、 そ の あ と 、 彼 が ど ん な 種 類 の 仕 事 に 向 い て い る の か が 決 め ら れ る 前 に 、
] 時 期 、 見 習 い 期 間 が あ っ た 。 (中 略 V あ る 異 様 な 恐 ろ し い 殺 人 事 件 が 起 こ っ た 。 ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ と し て 知 ら れ る も の で 、 殺 人 犯 は 犠 牲 者 の 死 体 を 焼 い て し ま お う と 企 て た も の の ほ ん の 一 部 し か 焼 却 し て し ま う こ と が で き な か っ た 。 専 任 記 者 た ち が 、 セ ン セ ー シ ョ ン を 巻 き 起 こ し て い る 初 日 と 二 日 目 を 報 道 し て い た が 、 あ り き た り な ス テ ロ タ イ プ の 新 聞 記 事 ふ う の も の だ っ た 。 三 日 目 に ハ ー ン が 何 か 書 く よ う に と 仕 事 を 与 え ら れ た 。 石 炭 で 半 焼 け に な っ た 屍 体 を 見 た の ち 、 ハ ー ン は そ の 現 場 の 状 況 か ら 、 ま さ し く ぞ っ と す る 、 身 の 毛 が よ だ つ よ う な 詳 細 さ に 圧 倒 的 な 迫 力 を 込 め た 、 陰 惨 で 生 々 し い 描 写 を 書 き 上 げ た 。 こ う し て 新 聞 的 な 視 点 か ら 見 て 、 事 件 の す べ て が セ ン セ ー シ ョ ン に 仕 立 て 上 げ ら れ た の だ っ た ︾ こ の あ と こ の 伝 記 で は ︽ ハ ー ン の 評 判 は 確 立 し 、 給 料 が 上 げ ら れ た 。 し か し 、 こ の こ と が 、 ハ ー ン に 新 聞 社 の 仕 事 で は 一 番 き つ い 持 ち 場 に 配 置 さ せ る こ と に な っ た ー 夜 分 に 警 察 を カ バ ー す る 仕 事 で 、 こ の 時 間 帯 に は 最 も セ ン セ ー シ ョ ナ ル な 事 件 が 報 道 さ れ る こ と に な る の が 普 通 だ か ら だ っ た ︾ 冒 § ミ ご 亀 塁 ヨ 、向 エ ミ 馬 蒔 § b 亀 と 弍 -旨 や と し て お り 、 こ の こ と が 、 の ち に ニ ュ ー オ ー リ ン ズ で ハ ー ン が 書 い た 〃 サ ツ 回 り 記 者 " 嫌 い の 回 顧 記 事 に な っ た と も 見 ら れ る 。 こ の 伝 記 で は 、 ハ ー ン は ﹁ 皮 革 製 作 所 殺 人 事 件 ﹂ を 初 め か ら 取 材 し た わ け で は な く 、 こ の 点 で は 、 そ れ 以 前 の 二 冊 の 伝 記 と は か な り 事 情 が 違 っ て い る 。 し か し 、 ベ テ ラ ン の 事 件 記 者 が 取 材 し た あ と を 受 け て 、 と は 言 え 、 新 参 者 の 記 者 と し て 、 や は り 一 人 で 現 場 取 材 を し た よ う に 書 か れ て い る 。 一15$一