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28 1 FDA ANSI Food and Drug Administration American National Standards Institute IEC International Electrotechnical Commission JIS Japanese Industrial

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Academic year: 2021

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■特別寄稿■

高電圧パルス電流療法

― High Voltage Pulsed Current Therapy ―

烏野 大

,千賀富士敏,太田厚美

要旨 物理療法における電気刺激療法では,多種の刺激波形を利用し,各パラメータを変更することで得られ る生体の神経生理学的反応も変わる。電気刺激を行う場合には,目的とする神経や筋組織を刺激するため には,電気刺激は皮膚を通過する必要がある。皮膚の電気抵抗を減少できれば,不快感の少ない電気刺激 を行うことができる。電気刺激療法の 1 つである高電圧パルス電流療法は,不快感の少ない電気刺激と言 われている。本稿では,高電圧パルス電流の特徴や治療効果を通して生体における電気特性を併せて説明 した。高電圧パルス電流の主な特徴としては,ツインピークパルス電流,高電圧そして単相波である。高 電圧パルス電流は 1940 年代に米国で開発され,多くの研究者によってその治療効果が確認されてきました。 浮腫の予防や改善,創傷治癒の促進,血流の改善,筋力強化への適応とその機序について概説した。 ABSTRACT

In the electrical stimulation therapy of physiotherapy various stimulation current forms are used and the neurophysiological reactions will vary by setting stimulation parameters. To execute the electrical stimu-lation that is to stimulate target nerve or muscle tissue the electrical stimustimu-lation has to pass through the skin. If the skin impedance could be reduced it is possible to carry out the electrical stimulation with less discomfort. High-voltage pulsed current therapy is one of the electrical stimulation therapy and it is con-sidered as electrical stimulation with less discomfort. This report describes features of high-voltage pulsed current and its clinical effect in the view of its electric characteristics in living body. The main features of high-voltage pulsed current are twin-peak pulsed current, high voltage and mono-phasic current. High-voltage pulsed current was developed in the USA during 1940s since then its clinical effectiveness has been proven by many researchers. This report also summarize its application and mechanism on preven-tion and improvement of edema, accelerapreven-tion of wound healing, improvement of blood circulapreven-tion and mus-cle strengthening.

Key Words :高電圧パルス電流;電気刺激;浮腫;創傷治癒;筋力強化

伊藤超短波株式会社学術部

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はじめに 高電圧パルス電流療法について説明する前に,電 気刺激治療を実施する際に必要と思われる電気刺激 治療器に関係する電気的な基本事項について説明す る。臨床上,治療者が電気刺激治療器を安全に,そ して有効に使用することは,治療をスムーズに進め る上で大切なことである。また,使用している電気 刺激治療器の製品としての信頼性や安全対策がなさ れた製品であるかについて知ることも,治療者側に とっては,有用な情報となる。電気刺激療治療器を 使用する場合,一般的には,電極を皮膚に取り付け て行う。この際に,目的とする治療部位が深部にあ る神経や筋組織の場合には,電気刺激は皮膚を介し て通電される。つまり,皮膚で電気エネルギーが消 費されずに,皮膚を通過することができれば,より 効率良く電気刺激を通電できる。この時,脱分極を 引き起こしたい神経や筋の電気的特徴を理解するこ とも重要である。皮膚や神経筋系および治療効果, また使用する治療器の電気的特徴を,電気刺激療法 の 1 つである高電圧パルス電流を例にして概説し た。 医用電気刺激治療器の規格 電気治療器は,日本を始め西欧や米国などで作ら れているが,医療用としての認可が得られなければ, 医療に使用することができない。米国では,生体に 加える電気刺激治療器に対する安全性について, FDA や ANSI(Food and Drug Administration :ア メ リ カ 食 品 医 薬 品 局 ; American National Standards Institute :アメリカ規格協会)により決 め ら れ て い る 。日 本 で は ,西 欧 の IEC (International Electrotechnical Commission :国際 電気標準会議)の規格に準拠して,JIS(Japanese Industrial Standards :日本工業規格)で規定して いる。日本の規格は,「医用電気機器―第一部:安 全に関する一般的要求事項」と「医用電気機器―第 1 部:安全に関する一般的要求事項―第 1 節:副通 則―医用電気システムの安全要求事項」が 1999 年 に,「医用電気機器―第 1 部:安全に関する一般的 要求事項―第 2 節:副通則―電磁両立性―要求事項 及び試験」が 2002 年に改訂された。FDA や ANSI の規格では,生体と接触するものに関しては比較的 厳しいこともあり,FDA の認可を取得するために は,以下のような規制(参考例; TENS)をクリア する必要がある。

FDA および ANSI に規定されている charge per pulse(c/p)に関する基準の概要 1)矩形波のパルス 1 個当りのピーク電流を i(mA), 最大パルス幅を t(ms)とすると, c/p = i × t(µC)(µ : 1 × 10−6,C :クーロン) となる。 正弦波等の場合は電流の時間に対する積分値と なる。 2)c/p は 75µC を超えないこと。 例)c/p = 80 mA × 0.25 ms = 20µC 3)非対称性波形については,ANSI では平均値を 10 mA 以下にしなくてはいけないと規定されて いる。 4)FDA の規定によれば,電力密度について,一番 小さい電極の 1 秒間の平均電力密度は使用する 最大周波数において,0.25 W/cm2/s 以下にしな くてはならない。 この様に,医用で使用される電気刺激治療器には, 明確な基準が定められており,それぞれの国が定め ている規格審査に合格しなければ,販売することが できない。 皮膚の電気抵抗 電気刺激療法を生体に実施する際には,皮膚の電 気抵抗を考慮する必要がある。経皮的な電気刺激療 法の場合には,皮膚の電気的抵抗(皮膚インピーダ ンス)を無視することはできない。そのため,電極 と皮膚との導通を良くして皮膚インピーダンスを減 らすために,水が媒体として用いられてきた。生体 の皮膚インピーダンスは,電気抵抗を減らす処理を していない場合には,表面筋電計用の皮膚電気抵抗 計で測定すると,周波数 20 Hz の交流電流の時に, 皮 膚 抵 抗 は 数 MΩ(1 × 106Ω)に な る 。し か し , 周波数 1 kHz の交流電流では,皮膚インピーダンス は,数 kΩ から数十 kΩ の抵抗となる。このことか らも,周波数に依存して皮膚インピーダンスが減少 することが分かる。皮膚インピーダンス値は,個人 差も大きく皮膚の発汗等の状態により変動する。ま

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た,皮膚インピーダンスは,手掌・足底部で高く, 体幹・上下肢では低い傾向にある。特に皮膚が乾燥 している場合には,皮膚インピーダンスは高くな る。 皮膚インピーダンスを考える際に,電気的な等価 回路として,図 1 の様な電気回路のモデルがよく使 われている1)。生体のインピーダンスは,静電容量 C のコンデンサーと抵抗 R の並列回路に置き換える ことができる。角質層の抵抗 R は真皮以下の抵抗 に比べて非常に大きいので,真皮以下と外部から接 触した表面との間でコンデンサー C が形成され, CR 回路で表すことができる。この等価回路のイン ピーダンス Z は,直流では抵抗 R として働き,周波 数が増加すると角質層は短絡し始めるので,このイ ンピーダンス Z の大きさは減少し,数 kHz になる と初期値の 1/10 程度になる。数 kHz 以上での計測 では筋肉などの特性が,さらに周波数を増加させる と血液の特性が,インピーダンスに影響を与える。 この等価回路の抵抗であるインピーダンス Z は, 図 1 の 1/Z= 1/R + jωC(1)式で表すことができ る。また,ω = 2π f(2)式から分かるように,角 速度 ω は周波数 f の関数である。したがって,周波 数 f が高くなるにつれて,角速度 ω の値は大きくな る。結果として周波数が高くなるとコンデンサー C は短絡するため,皮膚インピーダンスは減少する。 この時,周波数 f は周期 T の逆数であるので,f = 1/T と表すことができる。交流波の場合,生体に与 える電気刺激は,陽極側と陰極側の 2 つの電流波形 と考えることができる。つまり,刺激電流のパルス 幅は半周期分となり,パルス幅を t とすると,T = 2t の関係が成り立つ2)。生体に与える電気刺激に交 流波形を用いる場合には周波数を高くし,単相波形 を用いる場合にはパルス幅を狭くすることで,低周 波の交流やパルス幅の広い電気刺激に比べて,皮膚 インピーダンスは減少する。また Alon2)は,コン デンサーの静電容量 C と電圧 V の関係は(3)式で あることから,負荷する電圧を高くすることで,静 電容量 C は小さくなり,皮膚インピーダンスも減 少すると述べている。 C= q/V(3) 電圧と電流の関係は,I = V/R のオームの法則に したがう。生体側の抵抗が一定であるならば,負荷 する電圧を高くすることで,電流量を増やすことが できる。電流の強度は,電流密度でも表現される, 電流密度は電極の面積に比例して変化する。つまり, 同じ電流量であれば,面積の大きい電極に比べて小 さい電極を使用することで,電流密度を高くするこ とができる。しかし,電流密度が高くなることで, 皮膚での刺激感は強くなる。 電気刺激療法では,電気抵抗を考慮して,皮膚イ ンピーダンスをできる限り減らし,効率良く電気刺 激を生体に通電することが 1 つの課題でもある。そ のために,多種の電気刺激方法が考案されてきた。 皮膚インピーダンスを減少できれば,電気エネルギ ーの損失を抑えて,軟部組織や神経・筋に電気エネ ルギーを到達させることができる。皮膚で電気エネ ルギーが消費されないことで,皮膚で発生する熱や 皮膚での不快感も少なくなる。 図 1 皮膚の電気インピーダンス i:電流,f :電流の周波数,ω :電流の角周波数,R :皮膚の抵抗,C :皮膚の静電容量,Z :皮膚のインピーダ ンス,j :虚数(=,q :電荷量,V :電圧(文献 1 より改編)

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定電流制御と定電圧制御 定電流制御と定電圧制御は,生体を含めた回路内 にある抵抗が変化したときに,電流または電圧を制 御して,他方を一定に出力できるようにする制御で ある2)。オームの法則からも分かるように,定電流 制御と定電圧制御のどちらを利用しても,電気刺激 装置を制御することは可能である。但し,生体を刺 激する場合には,電荷の流れを作り出し,電気走性 (電気泳動)などの神経生理学的反応を引き起こす ことから,電流刺激を用いる方が良いと言われてい る。一般的な電気刺激療法においては,電流値よっ て刺激強度を決定するため定電流制御を用いること が多い。欠点としては,電極と皮膚の接触面が減少 した場合に,抵抗値が上がり,結果として電流密度 が上昇して刺激感が強まる。これが,皮膚の不快感 や電気化学的反応を強める。このため,治療器側は, 電圧が一定以上高くならないように制限をしてい る。定電圧制御を利用した場合には,得られる電流 波形は電圧を微分した様な波形となる(図 2)。定 電圧制御を利用した場合には,抵抗が上がると,定 電流制御とは逆に電流値は下がる。高電圧パルス電 流では,定電圧制御を利用することで,パッド導子 以外に,数箇所の治療部位を移動できる導子が使用 される(図 3)。この様な導子を使用する時の問題 点は,不意に動いた際や治療部位から導子を動かす 際に起こる皮膚面と導子間の接触抵抗の変動であ る。この時,定電流制御では,過電流が流れること になるため,治療箇所を動かす様な治療方法には不 向きである。しかし,定電圧制御であれば,抵抗値 が上がった際,電流値は下がるため過電流が流れな 図 2 定電流制御と定電圧制御 定電流制御では,電流の立ち上がりに対して電圧の立 ち上がりはゆっくりであり,積分した波形となる.定 電圧制御では,電圧波形に対して電流波形は微分した 波形となり,立ち上がり後に減衰する(文献 2 より). 図 3 高電圧パルス電流治療器 高電圧パルス電流モードを有する総合電流刺激装置(図 3-1 :伊藤超短波社 製,ES-520)と高電圧パルス電流専用のスポット導子(図 3-2).

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い。一箇所を短時間で数箇所の部位を刺激する様な スポット的治療を行う場合には,定電圧制御を用い る方が,定電流制御よりも不快感が少なく安全であ る。 定電流制御と定電圧制御の違いは主に上記の内容 であるが,これらの制御は,ハード主体の制御であ る。現在,総合電流刺激装置 ES-520 では CPU を積 むことで,以前のハードによるフィードフォワード 的な制御からソフトウェアを組み込むことで,フィ ードバック的な制御へと,主体が換わってきている。 最適な制御を行うためのプログラムが組み込まれる ことによって,電流値や電圧値などの情報を利用し, より複雑な制御を行っている。つまり,単に電流制 御と電圧制御の 2 つの制御に分かれるのではなく, 両方のメリットを生かした制御をプログラムで行っ ている。これにより,多種類の電流モードを搭載し た治療器の開発が可能となった。 高電圧パルス電流 高電圧パルス電流の電気刺激装置は,1940 年代 に Bell 研究所の Haislip によって開発され,研究さ れた3)。その後 1966 年に Young3)によって,犬の 阻血後肢を用いた実験で,高電圧パルス電流療法が 浮腫の軽減と壊疽の予防に対して著効が得られたと する報告が出された。高電圧パルス電流療法を利用 したヒトでの最初の研究は,1971 年に Thurman ら3) によって報告された。Thurman らは,糖尿病患者 の化膿性の組織壊死に対して,高電圧パルス電流療 法を使用し,有効性があったと報告した。現在,臨 床で活用されている高電圧パルス電流療法の原型 は,1977 年に Lehmann3)によって,新しい電気刺 激療法として“高電圧パルスガルヴァーニ電流療法” の名称で紹介された。これ以降,高電圧パルス電流 療法がアメリカで利用されるようになり,その 2, 3 年後に用語の整理が行われ,“ガルヴァーニ電流” は電流の基本である“直流”を意味するとされた。 これにより,“高電圧パルスガルヴァーニ電流療法” から“ガルヴァーニ”と言う用語が削除され,現在 知られている“高電圧パルス電流(High Voltage Pulsed Current : HVPC)”の名称へと変更された。 高電圧パルス電流治療器が,他の刺激装置と違う点 は,高電圧まで出力を上げることができる点である。

APTA( American Physical Therapy Association, 1990)では,高電圧と低電圧の電気刺激治療器とを 区分けするために,150 V 以上の電圧出力を持つ治 療器を高電圧刺激治療器として定義した3)。 高電圧パルス電流の様に電気刺激を治療に応用し ている電気刺激療法は,刺激波形により,種々の治 療法がある。最も良く知られている経皮的電気刺激 ( Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation : TENS)や直流(Direct Current : DC),干渉電流 (Interference Current : IFC),マイクロカレント (Microcurrent or Low Intensity Direct Current : MCR or LICD),ロシアン電流(Russian Current), ダ イ ア ダ イ ナ ミ ッ ク 電 流 (Diadynamic Current) などの電気刺激療法である。これらの電気刺激療法 は,運動神経や知覚神経または筋や軟部組織に対し て電気的に刺激を加えることで,生体の反応を促通 または抑制する治療方法であり,総称して治療的電 気刺激療法(Therapeutic Electrical Stimulation : TES)と呼ばれることもある。但し,日常生活時の 動きを電気刺激による筋収縮で補足する様な機能的 電気刺激(Functional Electrical Stimulation : FES) や電気診断に利用される電気刺激は除かれている。 TES を利用することで,関節可動域の改善,筋力 低下の改善,痙性の抑制,麻痺筋の促通,治癒の促 進,疼痛の軽減,血流の促進,浮腫の軽減などの治 療効果を得ることができる。 高電圧パルス電流は,1)ツインピークパルス,2) 高電圧出力,3)単相性刺激波形(陰極性,陽極性) の 3 つの特徴を持っている。電気刺激波形のパラメ ータは,波形の形状(単相性,二相性,対称性,非 対称性),刺激強度,刺激周波数,刺激パルス幅, 刺激時間(通電時間,休止時間)などがある。 1.ツインピークパルス電流 日本においては,電流刺激波形の各部の名称は統 一されていない。そのため,用語の意味が異なるこ とがあるので,波形の説明には,APTA(1990)で 定めた用語4)を使用する(図 4)。 高電圧パルス電流は,図 5 の様にフェーズ幅の短 い刺激電流波形を 2 連(twin)で出力しており,こ の 2 つのフェーズ波形を 1 つの刺激電流波形として 扱っていることから,ツインピークパルスと呼ばれ

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ている。極性は,直流の様に陰極性または陽極性の 単相性の波形が主に利用され,刺激電流はパルス (間歇的)方式で出力される。また,パルス間隔は, パルス幅に比べて長い時間を取る。これにより,高 いピーク電流を発生しても,平均電流量を少なくす ることができる(図 6)。ツインピークパルスは, 図 5 の様に立ち上がり時間が非常に短く,その後減 衰する。これは,高電圧パルス電流が定電圧制御で 行われているためである。前述した通り,定電圧制 御で行われた場合には,電圧を微分した波形とな る。 筋萎縮に対して,電気刺激を用いることで,筋萎 縮を抑制できることが知られている。しかし,電気 刺激に対して痛みを訴え,十分な筋収縮が得られな い場合がある。フェーズ幅が数十 µs(1 × 10−6秒) の矩形波を 2 連または 3 連で与えることで,疼痛感 を減少し,強い筋収縮が得られる5)。フェーズ幅の 短い刺激波形を利用することで,不快感を少なくし, 活動電位を引き起こすことができる。Alon6)は, ツインピークパルスの特徴的な波形でなく,矩形波 でも同じ効果があるとしている。その理由として, 生体を刺激するために負荷した電荷量が同じであれ ば,波形の形状が違っても,同等の効果が得られる と考えているからである。また,生体を刺激するた めには,上部の鋭角な部分ではフェーズ幅が短すぎ るので,振幅値の 50 %程度のフェーズ幅が必要で あるとも考えている。ツインピークパルスの 1 つの フェーズ波形を,三角波と見なすと,同等の電荷量 を持つ矩形波は,三角波のピーク電流値の 50 %で, 三角波のフェーズ幅と同じ幅を持った波形となる。 このことから考えると,刺激強度を同程度にする場 合,矩形波の 2 連を用いた高電圧パルス電流のピー ク電流値は,三角波の半分程度にすることで得られ ると考えられる。 不快感を与えずに活動電位を引き起こすことがで きるのは,パルス幅(フェーズ幅)による効果(次 項参照)と数十 µs 以下のフェーズ間隔で刺激波形 を 2 連で加えている効果であると考えられる。活動 電位は,細胞膜内外のイオンの移動により,電位変 化が閾値を越えることにより発生する。閾値以下の 刺激強度で刺激した場合でも,細胞膜内外で,イオ ンの移動は局所的に引き起こされ,膜の電位変化は 臨界脱分極の範囲内で起こる7)。この時の膜電位は 図 4 波形各部の名称 ツ イ ン パ ル ス 電 流 波 形 (矩 形 波 )の 各 部 の 名 称 を , APTA が定義した用語を用いて表示した. 図 5 ツインピークパルス電流(文献 2 より改編)

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一時的に不安定な状態になることが知られている (図 7)。この時,さらに電気的エネルギーを加える ことで,脱分極が引き起こされる。ツインピーク波 形においては,微小時間で連続的に電荷が負荷され ることで加重が起こり,閾値を越えると考えられる。 パルス幅の広い他の低周波電気刺激に比べて,不快 感が少ない理由として,比較的緩やかな電位変化を 伴う時間的加重効果の影響であると考えられる。 2.高電圧とパルス幅 高電圧パルス電流のフェーズ幅は,10 µs–100 µs と非常に短いフェーズ幅が利用されている。一般的 に,他の電気刺激療法のパルス幅は,TENS では 50 µs–200 µs,EMS(Electrical Muscle Stimulation) では 200 µs–500 µs 程度のパルス幅が利用されてい る。通常,これらのパルス幅は,軟部組織内の神経 の脱分極や筋の収縮を引き起こすことが目的である ため,刺激したい組織に合わせて調節されている。 強 さ – 時 間 曲 線 (S-D 曲 線 : Strength-Duration curve)から考えると,電流強度を上げて行くと, Aα ・ Aβ 線維などの太い神経線維が先ず興奮する (図 8,表 1)。パルス幅が 100 µs 以下では,その感 覚閾値から,さらに刺激強度を上げても,筋の収縮 が得られる運動閾値や疼痛閾値との間に差があるた め,TENS の様に神経線維の脱分極を目的とする電 気刺激に利用される。パルス幅が 200 µs 以上では, 感覚閾値からさらに刺激強度を上げると,すぐに運 動閾値に達するので,EMS の様に筋収縮を目的と する治療に利用される。高電圧パルス電流のフェー ズ幅(パルス幅)は,TENS のパルス幅と同じかも しくはそれ以下となる。つまり,S-D 曲線から考え た場合,ツインピークパルスは,神経線維を興奮さ せることに対して有効なパルス幅である。逆に筋収 図 6 パルス幅の違いによる平均電流量 パルス幅(A1< A2)が短ければ,休止時間(B1> B2)を長くすることが可能であり, 高いピーク電流値を出力していても,総電流量を少なくすることができる(文献 12 より改編). 図 7 活動電位と膜電位 刺激電流が閾値以下であれば,膜電位は臨界脱分極を 越えることができないが,膜電位は一時的に不安定な 状態になる.その後,膜電位は回復して平衡状態とな る(文献 7 より).

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縮においては,高電圧パルス電流は適当でないと考 える研究者もいる。しかし,これは 1 つのフェーズ 波形の幅であるので,ツインピークパルスのパルス 幅としては,最大 200 µs となる。また,フェーズ 幅を短くすることで得られる皮膚の不快感の減少に より,筋力低下などがあるケースに対しては,無痛 での EMS として有用である3, 8, 9)。 パルス幅が短いので,組織の脱分極を引き起こす 電流刺激強度を得るには,より大きな出力が必要で ある。このため,高電圧領域まで出力できることが 不可欠となる。TENS と比較すると,TENS の最大 出力は 50 V 程度であり,高電圧パルス電流の最大 出力は 150 V 以上である。最大出力だけで見ると, 高電圧パルス電流の出力は,TENS の最大出力の 3 倍以上になる。 3.単相性波形 単相性波形とは,陰極性または陽極性のみを利用 した電流波形である。電気刺激療法を実施する際の リスクとして,陰極電極下でのアルカリ性反応や陽 極電極下での酸性反応が挙げられる。これらの電気 化学的反応が強まると,火傷などを引き起こす可能 性がある2, 10)。高電圧パルス電流ではパルス間隔 を長くすることで,平均電流量を少なくしている。 これにより,電気化学的反応を抑えて火傷等のリス クを減らしている。Newton ら11)は,前腕部と腰 部で高電圧パルス電流施行前後において,pH 測定 器を用いて,電極下の皮膚の pH を比較し,施行前 後で差がなかったことを報告した。この結果から, 平均電流量(電荷量)が少ない高電圧パルス電流で は,単相性波形を使用していても,アルカリ性反応 や酸性反応があまり起こらず,直流と比較して火傷 などに対する安全性は高いと考えられる。 高電圧パルス電流の治療効果 1.浮腫の抑制 Gardner,Frantz と Schmidt’s は,慢性期の創傷 治癒における電気刺激療法の効果を,メタ分析にて 検討し,多数の臨床試験において電気刺激は,治癒 過程を促進する効果があると報告した12)。Fish, Mendel ら13–22)は,1990 年代にラットやカエルで の動物実験を行い,急性外傷後の浮腫に対する高電 圧パルス電流療法の効果を検討した。彼らは,高電 圧パルス電流の刺激強度や極性などのパラメータを 変えて実験を行った。その結果,刺激のパラメータ としては,120 pps(pps : pulse per second)の頻 度で,少し筋収縮が肉眼的に観察できる(運動レベ ル)刺激強度を基準として,その刺激強度の 90 % 図 8 強さ−時間曲線 電気刺激に対する神経と脱神経筋の閾値は,刺激強度 とパルス幅により変化する.100 µs 以下では,感覚閾 値(Aα,Aβ 神経線維)は,運動閾値や疼痛閾値(Aδ, C 線維)に比べて閾値が低い. ) 表 1 求心性神経線維の分類(文献 7,38 より改編) 感 覚 神 経 種 類 直径(µm) 伝導速度(m/sec.) 受容器 Ⅰ群線維 Ⅰ a 線維(Aα) 有 随 12 ∼ 20 70 ∼ 120 筋紡錘の環ラセン終末 Ⅰ b 線維(Aβ) 有 随 12 ∼ 20 70 ∼ 120 腱(ゴルジ腱器官) Ⅱ群線維(Aβ ・ γ) 有 随 5 ∼ 12 30 ∼ 70 筋紡錘の散形終末,皮膚の触圧覚 Ⅲ群線維(Aδ) 有 随 2 ∼ 5 12 ∼ 30 痛覚・温度覚・圧覚 Ⅳ群線維(C 線維) 無 随 0.5 ∼ 1.0 0.5 ∼ 2.0 痛覚・温度覚・粗な触覚

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(感覚レベル)で刺激することが最適であると報告 した。電極の位置は,陰極性の電極を損傷部位に取 り付け,上記のパラメータ設定で,浮腫形成に対す る予防効果を確認した。これら一連の研究により, Fish,Mendel ら13)は,ヒトにおいても同様の効 果が期待できると報告した。臨床的には,Stralka ら23)と Voight24)が浮腫の軽減を報告している。 浮腫形成の予防に関する作用機序は明確にされてい ないが,急性炎症時の浮腫形成には,高分子の蛋白 質や水分が血液から漏出することが 1 つの要因と考 えられている。同一極性を用いた高電圧パルス電流 と低電圧パルス電流の比較において,低電圧パルス 電流での効果が少なかったことから,単に極性だけ の影響とは考えられないことが示唆された。また, 浮腫形成に関連する血管膜の透過性やヒスタミンの 作用を抑制する効果が,高電圧出力を行う高電圧パ ルス電流によって得られたと推察された。Fish, Mendel ら13)の報告では,陽極性波形よりは陰極 性波形の方が浮腫の予防効果は高いと報告してい る。また陰極性波形は,陽極性波形よりも殺菌作用 が強いと言われている25)。創傷の際,バクテリア 等の体外物の侵入は,外傷と同様に炎症を引き起こ す要因となる。外傷や創傷時の炎症過程における生 化学的反応により,浮腫が引き起こされる。生化学 的反応は,必ず電気化学的反応を伴うため,電気刺 激がこれらのメカニズム作用することは十分に考え られる。浮腫抑制や殺菌に対する明確な作用機序は 明らかにされていないが,その作用機序において関 連性があることが推測される。 2.創傷治癒 Becker は,組織損傷により隣接する正常組織と の間に電位差が発生することで,損傷電流が起こり, こ れ が 組 織 の 治 癒 過 程 に 影 響 を 及 ぼ す と 提 唱 し た2, 3 ,10, 26)。損傷部位は,周囲の正常組織に比べて 正に帯電し,損傷が修復する過程において正電荷が 減少する。損傷電流に関して,直流を用いてヒトと 動物で実験が行われた。陽極性電気刺激は好中球と マクロファージを引きつけ,陰極性電気刺激は線維 芽細胞を引きつけ,線維芽細胞の定位とコラーゲン 線維のアライメントに影響を及ぼすことが認められ た10)。この様な単相性電気刺激は,電気走性を引 き起こし,治癒過程を促進する働きがあると考えら れている。Kloth27)は,褥瘡や潰瘍に対して,高電 圧パルス電流療法での比較対照試験を実施した。創 傷部の面積の改善率(縮小率)を週単位で正規化し た。高電圧パルス電流実施群では平均 44.8 %/wk (9 名),非実施群では平均 11.6 %/wk(7 名)であ った。実施群で高い改善率が得られ,全ての症例が 完 治 し た が ,非 実 施 群 で は 増 悪 例 も 見 ら れ た 。 Mawson ら28)は脊髄損傷患者の褥瘡予防に高電圧 パルス電流と模擬刺激時とを比較し,高電圧パルス 電流実施群で創部周辺の経皮的酸素濃度が高くなる ことを報告した。Mawson らは,酸素濃度の増加は, 局所血流量の増加によって引き起こされたと推察し た。 創傷部の治癒過程が,治癒の初期段階では正に帯 電し,回復段階では徐々に負に帯電することから, 治癒過程と極性の関係についても,研究が行われた。 治 癒 過 程 で の 治 療 極 性 の 変 更 に お い て ,Brown ら29–31)は,動物実験を行い,最初の 3 日間は陰極 性を使用し,その後極性を陽極に切り換える方法を 提案した。また,Kloth ら27)も Becker の skin bat-tery や損傷電流の考え方に基づいて,極性を変更す ることが有用であると述べている。Selkowitsz10) は,急性期には,陽極性波形による治療を行い,マ クロファージや好中球の創傷部への電気走性を強 め,再上皮化を促進させる。また,創傷部が徐々に 負に帯電し,治癒過程が増殖期・再形成期へと移行 した際には,陰極性波形による治療を行い,線維芽 細胞の反応や肉芽形成,コラーゲン線維の定位に関 連した反応をより促進し,組織の修復を行うように, 極性を変更する治療方法を推奨している。受傷直後 の浮腫予防についても考慮すると,受傷直後には陰 極性波形で治療を行う方が良いかもしれない。高電 圧パルス電流療法を外傷性などの創傷部に適応する 場合,受傷直後の急性期初期(2–3 日)に,浮腫予 防 の た め に 陰 極 性 波 形 で 治 療 を 行 い ,そ の 後 に Selkowitsz が述べているように,陽極性から陰極性 へと治癒過程に応じて極性を選択する。つまり,外 傷直後・炎症初期(急性期)では陰極,炎症後期・ 増殖期初期(亜急性期)では陽極,増殖期・再形成 期(慢性期)では陰極へと極性を変更させて使用す ることが望ましい。但し,症状の程度に応じて,炎

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症期,増殖期,再形成期までに要する時間は変わる ため,治療者はどの段階にあるかを判断する必要が ある。 3.筋力強化 Alon8)は,フェーズ幅 5 µs–20 µs,80 pps の高電 圧パルス電流を用いて,4 種類の面積の電極パッド と閾値(感覚閾値,運動閾値,疼痛閾値)との関係 および疼痛と筋力の関係を調べた。各閾値において, 電極面積がより大きい程,高い電流値が得られた。 また,筋収縮においては,電極面積が大きい程,疼 痛を伴わない電流強度が上がり,得られる筋のトル クも上がると報告した。但し,疼痛を伴う刺激強度 では,より高い筋のトルクが得られた。Wong32) は,フェーズ幅 40 µs の高電圧パルス電流とパルス 幅 300 µs の 二 相 波 の 低 電 圧 電 流 に お い て ,同 じ 50 pps を用いた比較試験を行った。電流強度は,被 検者が耐えられる強度とし,随意的筋収縮を伴わな い条件下で実施された。24 名の被検者を対象に, 電気刺激時の膝関節伸筋群と足関節底屈筋群の筋の ピークトルクと電気刺激時の不快感を VAS(Visual Analog Scale)を用いて検討した。その結果,低電 圧電流に比べて,高電圧パルス電流を利用した際に, 足関節底屈筋群で高い筋のピークトルクが得られ, 不快感も少なかった。但し,随意的筋収縮を伴わな いため,得られた筋のピークトルクは低かったと考 察している。電気刺激療法において,高電圧でパル ス幅を短くすることで,皮膚の不快感を減少させる ことが,この結果からも分かる。また,筋のピーク トルクが高かったことは,皮膚インピーダンスの軽 減により,電流刺激がより深部の筋や広範囲の筋組 織に効率よく通電された結果である。筋力強化と高 電圧パルス電流に関する報告では,筋出力の増加よ りも,少ない不快感で筋出力を得られることが重要 である。最大筋力を得ることを目的とするのであれ ば,ロシアン電流や中周波を利用した EMS でパル ス幅を 200 µs 以上で刺激することが望ましい。前 述したように,S-D 曲線から観ても,筋収縮を得る ためには,ある程度のパルス幅が必要である。著明 な筋力低下を有し,電気刺激に対して疼痛感が強い と判断される症例に対して,筋力強化の初期段階で の誘導や筋再教育を目的に利用されることにおい て,高電圧パルス電流は有用である。 4.血流の改善 Heath33)は,下腿に高電圧パルス電流を実施し, 血 流 の 変 化 を 観 察 し た 。電 流 刺 激 は ,2 pps, 32 pps,128 pps の 3 つの周波数を用いて,各周波 数の最大刺激強度(耐えられる強度)で行われた。 最大刺激強度の電流値は,各被検者毎に差が見られ たが,各被検者とも 2 pps の時に電流値が最大とな り,血流の変動も 2 pps で最大となった。電気刺激 周波数と血流の関係について,佐藤34)は,ラット の腰部交感神経幹に対して電気刺激を行い,坐骨神 経に分布している末梢神経血管の血流を測定してい る。刺激周波数を 10 Hz 以上の高頻度で行うと,刺 激開始時に血流はわずかに上昇するが,その後著し く低下する二相性の応答が見られた。しかし,刺激 周波数を 1–5 Hz の低頻度で行うと,血流の増加の みが観察された。電気刺激による血流増加は,筋の ポンピング作用である機械的メカニズムにより引き 起こされることが知られている。また,電気刺激に より十分な筋収縮が起こると,求心性線維であるⅢ 群・Ⅳ群の活動が引き起こされ,体性交感神経性反 射が起こる。この神経機構(非機械的メカニズム) が交感神経を抑制し,心血管反応,動脈血や筋の微 小血液循環の増加などを引き起こすと推測されてい る10)。Mohr ら35)は,高電圧パルス電流を利用し ラットの下肢での血流変化を観察した。この実験結 果から,Mohr らは,血流を増加させる治療として, 高電圧パルス電流が有効であることを示唆した。ま た,血流を増加させることは,鎮痛,筋スパズムの 低下,治癒の促進,浮腫の軽減,末梢循環の改善に とって,重要な神経生理学的作用に関連していると 考察している。電気刺激は,血管拡張を媒介するペ プチドの放出を促し,セロトニンを媒介とする中枢 性の交感神経抑制系に働き,末梢血管拡張に影響す ると考えられている10)。 電気刺激による血流の増加反応は,筋ポンピング 作用の機械的メカニズムと交感神経に対する抑制作 用の非機械的メカニズムによって引き起こる。 5.疼痛のコントロール 高電圧パルス電流における疼痛への適応は,パル

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ス幅が TENS とほぼ同じであることから,同様の 治療効果が得られると言われている。パルス幅が短 いことで,Melzack と Wall によって提唱された疼 痛抑制機構のゲート・コントロール理論(図 9)に よる鎮痛効果が適応できる。末梢からの疼痛刺激は 細い知覚神経線維(Aδ,C 線維)を介して,脊髄 後角内にある伝達細胞(T 細胞; transmission cell) を経由して中枢に伝達される。Aδ や C 線維を上行 するインパルスは膠様質細胞(SG 細胞; substan-tia gelatinosa cell)を抑制し,T 細胞を興奮させる。 SG 細胞が抑制されるため,T 細胞へのゲートが開 き,疼痛刺激によるインパルスは中枢神経系へ伝達 される。これに対して,太い知覚神経線維(Aα, Aβ 線維)を上行するインパルスは,SG 細胞と T 細 胞の両方を興奮させる。SG 細胞が興奮することで, T 細胞へのゲートが閉じ,インパルスの伝達が抑制 される。結果として Aδ や C 線維を上行するインパ ルスも抑制されるため,T 細胞から上位中枢へ伝達 されない。疼痛刺激が中枢神経系まで上行できない ため,疼痛感覚が低下する。つまり,選択的に Aα や Aβ 線維を興奮させることができれば,疼痛を抑 制できることになる。S-D 曲線を考慮するとパルス 幅 100 µs 以下では,他の線維に比べ Aα や Aβ 線維 が興奮し易い。電気刺激療法では,この 2 つの特性 を利用して,疼痛を緩和している。現在では,SG 細胞と T 細胞の間に多くの介在ニューロンが存在 し,中枢神経系からの下行性疼痛抑制の影響を受け ていると考えられている。また,T 細胞以外にも広 作動域ニューロンが疼痛刺激に対して興奮し,疼痛 制御に関与している。脊髄レベルでの疼痛抑制には, 多くの機構制御が働いており,これらの制御機構は 拡延性疼痛制御と呼ばれている36)。 その他の鎮痛メカニズムとして,内因性オピエイ ト疼痛抑制系の働きがある37)。Aδ 線維を電気刺激 することで,下行性の疼痛抑制系が賦活する。また, 筋が強縮する様な強い電気刺激では,エンケファリ ン,セロトニンや β エンドルフィンなどの内因性オ ピオイドペプチド(内因性麻薬類物質)が放出され る。2–5 Hz の電気刺激では,メトエンケファリン や β エンドルフィンが放出され,50–100 Hz の電気 刺激ではエンケファリン,セロトニンやジノルフィ ン A が放出される。内因性オピオイドペプチドは 脊髄の膠様質に働いて,ニューロンの神経終末から のサブスタンス P の放出をシナプス前抑制すること で,疼痛伝導経路を遮断して疼痛緩和を行う。高電 圧パルス電流療法においても,これらの鎮痛メカニ ズムが適応できる。 以上の 5 つの項目に分けて,治療効果のメカニズ ムについて説明したが,Bélanger3)は,高電圧パ ルス電流による治療の選択と機序をフローチャート にしている。図 10 は,そのフローチャートに浮腫 と神経生理学的作用の項目を追加して改編した図で ある。 治療機器による波形の違い 高電圧パルス電流の治療効果を説明してきたが, 物理療法の治療効果を見る場合に,機器の設定パラ メータが重要となる。ツインピークパルスの設定値 が,パルス幅かフェーズ幅のどちらを表示している かは,治療器により異なるので,確認が必要である。 また波形についても同様である。治療器の特性はカ タログに掲載されているスペック表だけでは見えな い部分がある。その 1 つには安全性の問題がある。 本体内部のコードの配線を保護しているかについて も,故障時の安全面などに関係している。また,電 気治療器は生体を 1 つの導体として利用するため, 生体側の抵抗が変化した際には,その変化に対応で きなければならない。ツインピークパルス電流を紹 図 9 ゲート・コントロール理論 Melzack と Wall によって提唱された疼痛抑制機構の模 式図である.現在では,SG 細胞や T 細胞に多くの介在 ニューロンの存在が確認されており,中心灰白質や縫 線核などの上位中枢や脊髄レベルからの関与が示され ている.

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介したが,この特徴的な波形を,各抵抗で出力でき るかは,出力側のトランス(変圧器)の容量や性能 に依存している。図 11 は,抵抗値を変えてツイン ピーク電流を出力させた際に,波形が斜線の部分の 様に変化することを示している。患者側にとって, 治療中の出力波形が変化したのでは,治療効果が得 られないことにも関係してくる。この意味からも, カタログのスペック表だけでなく,治療器本来の性 能や安全性に対する評価を行うことも大切な治療の 一環である。 おわりに 最 近 の 理 学 療 法 に お い て ,EBPT(Evidence-Based Physical Therapy)に対する関心や認識は高 まりつつある。物理療法においても,EBPT の確立 は重要な課題である。物理療法は,生体に加える力 やエネルギーが,“出力,刺激波形,治療時間”な どにより規定し易いことが上げられる。これらの治 療パラメータを設定したプロトコールが明確になれ ば,物理療法は理学療法において,有効な治療の 1 つとなる。物理療法や運動療法などを別々の治療法 とせず,両者の長所を組み合わせて治療に応用して 図 10 HVPC の神経生理学的背景と治療効果のフローチャート 図 11 ツインピークパルス電流波形の負荷抵抗の 変化による出力波形の変動例 上図:負荷が軽くなると矩形波に近くなる.パルス幅 50 µs,周波数 1–200 Hz 時に負荷により出力が変動する. 出 力 表 示 値 500 Vmax 時 の 計 測 値 ; 500 Ω で 250 Vpeak, 1 kΩ で 300 Vpeak,開放時で 400 Vpeak であった. 下図:負荷が軽くなると下りの傾斜が緩やかになり三角 波に近くなる.パルス幅は固定,周波数: 10–120 Hz 時に 負荷により出力が変動する. 出 力 表 示 値 350 Vmax 時 の 計 測 値 ; 500 Ω で 350 Vpeak, 1 kΩ で 350 Vpeak,開放時で 350 Vpeak であった.

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いくことが,理学療法の有効性を向上させるために も有益である。 文 献 01)高 見 正 利 : 電 気 物 理 学 .嶋 田 智 明 ,高 見 正 利 ,他 (編 ),物 理 療 法 マ ニ ュ ア ル .医 歯 薬 出 版 ,東 京 , 1999, pp. 1–24.

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