• 検索結果がありません。

1. イントロダクション 第 1 回全伯 ( ブラジル ) 日語 日文学 日文化大学教師学会 ( 以後 ENPULLCJ 大会と呼ぶ ) がサンパウロ大学で開催されたのが,1990 年のことである それから 2010 年までは毎年,2010 年以降は 2 年に一度, 日語専攻科がある大学で持ち回り制

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "1. イントロダクション 第 1 回全伯 ( ブラジル ) 日語 日文学 日文化大学教師学会 ( 以後 ENPULLCJ 大会と呼ぶ ) がサンパウロ大学で開催されたのが,1990 年のことである それから 2010 年までは毎年,2010 年以降は 2 年に一度, 日語専攻科がある大学で持ち回り制"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 21/09/2016, Universidade Federal do Amazonas (UFAM)

2016 年 9 月 21 日(水),アマゾナス連邦大学

XI Congresso Internacional de Estudos Japoneses no Brasil (CIEJB) 第 11 回ブラジル日本研究国際学会

XXIV Encontro Nacional de Professores Universitários de Língua, Literatura e Cultura Japonesa (ENPULLCJ)

第 24 回全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会

As tendências e perspectivas futuras sobre as pesquisas em língua japonesa e ensino do mesmo idioma no Brasil: algumas considerações quanti-qualitativas

「ブラジルにおける日本語(教育)研究の動向と今後の展望-全伯日本語・日本文 学・日本文化大学教師学会誌からの数量的,及び質的考察-」

Yûki MUKAI (Universidade de Brasília) 向井裕樹(ブラジリア大学) Em 1990 foi realizado o I Encontro Nacional de Professores Universitários de Língua, Literatura e Cultura Japonesa (ENPULLCJ) na Universidade de São Paulo. Desde então, o referido encontro acontecia anualmente, mas a partir de 2010, tem ocorrido bienalmente, de forma rotativa entre as universidades que possuem o curso de Letras-Japonês. Após 26 anos, este congresso dar-se-á, pela primeira vez, na Universidade Federal do Amazonas. Assim, nesta ocasião, convém refletir como tem mudado a tendência das pesquisas sobre a língua japonesa no Brasil nestes 26 anos. Embora o ENPULLCJ tenha começado em 1990, nos anais encontram-se apenas três trabalhos que abordam o tópico em questão, i.e., “Pesquisas em língua japonesa no Brasil” (um na sessão de comunicação e dois na de painel). Nesses três trabalhos, utilizou-se uma análise qualitativa com a natureza interpretativa, focando em apenas alguns tópicos (livro didático, língua de colônia, etc.). Sendo assim, a presente investigação tem como objetivo averiguar a visão panorâmica e o estado atual das pesquisas em língua japonesa e ensino do mesmo idioma no Brasil, por meio de uma análise quanti-qualitativa dos temas de 226 artigos publicados na seção de comunicação de “Língua”, nos anais do 2º (1991) ao 23º (2014) ENPULLCJ. Nesta miniconferência, procura-se, assim, responder às seguintes perguntas que nortearão a presente investigação: em 23 anos, 1) como tem mudado a tendência de temas dos artigos supracitados?; 2) como tem mudado quantitativamente o número dos artigos sobre a língua japonesa propriamente dita e o dos artigos voltados para o ensino do mesmo idioma?; 3) qual tendência e o estado atual dos temas de subcategorias dessas duas naturezas de artigos?; 4) de agora em diante, como será (e deverá ser) a tendência de artigos sobre a língua japonesa e o ensino do mesmo idioma no Brasil? Serão apresentados e discutidos os dados numéricos e mapeamentos, obtidos através da análise de conteúdo quantitativa e text mining com os softwares KH Coder e AntConc, além das considerações baseadas na análise qualitativa e interpretativa.

Palavras-chave: Língua japonesa. Brasil. Anais do ENPULLCJ. Text mining.

キーワード:日本語,ブラジル,全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会誌, テキストマイニング

(2)

2 1. イントロダクション 第 1 回 全 伯 ( ブ ラ ジ ル ) 日 本 語 ・ 日 本 文 学 ・ 日 本 文 化 大 学 教 師 学 会 ( 以 後 ENPULLCJ 大会と呼ぶ)がサンパウロ大学で開催されたのが,1990 年のことである。 それから 2010 年までは毎年,2010 年以降は 2 年に一度,日本語専攻科がある大学で 持ち回り制によって行われてきた。26 年の歴史がある学会であるが,アマゾナス連邦 大学で開かれるのは今年(2016 年)が初めてである。 この 26 年の間,ブラジルの日本語(教育)研究1の傾向はどのように変わってきた のであろうか。ここ数年,日本語そのものに関する研究より,日本語教育を意識した 研究(論文)が増えてきたのではないかと思われるが,管見の限り学術的にそのテー マを扱った論文は少ない(cf. Mukai, 2007)。 ブラジルの日本語教育は 1908 年の移民開始と同時に始まり,長い歴史があるのは 周知のとおりであるが,ENPULLCJ 大会において「ブラジルにおける日本語研究」と 題した論文やその傾向や動向を扱った論文は意外と少なく,第 9 回(1998 年)大会で の研究発表「ブラジルにおける日本語教育」,第 11 回(2000 年)大会でのパネルセ ッション「ブラジルにおける日本研究:言語」,第 12 回(2001 年)大会でのパネル セッション「日本語の研究」の 3 本だけである。ところがそれらの論文は,特定の地 域や特定のトピックに絞って論じられており,また,質的研究である解釈的アプロー チの観点からしか分析されていない。 上記のことを考慮して,本稿ではブラジルの日本語(教育)研究の全体像や動向に 焦点を当てて分析する。具体的には,1991 年(第 2 回大会2)から 2014 年(第 23 回 大会)までの学会誌 ENPULLCJ の研究発表の「言語」のセクションに掲載された,日 本語(教育)研究に関する 226 本の論文のタイトルが研究対象である。タイトルがポ ルトガル語で書かれた 211 本の論文テーマに関する傾向を数量的に,226 本の論文 (ポルトガル語とその他の言語)を質的に分析し,日本語(教育)研究の動向と現状 を明らかにしていきたい。それが本稿の目的である。尚,本稿では,以下のリサー チ・クエスチョンを考察する。 1) この 23 年間(1991 年から 2014 年まで),学会誌 ENPULLCJ の「言語」 「文学」「文化」の研究発表数はどのように推移し,また,全体の中での 「言語」の位置付けはどうか。 2) 日本語(教育)研究に関する論文のテーマの傾向は,どのように変わってき たか。 3) 日本語そのものに関する研究論文(カテゴリー1)と日本語教育に関する研究 論文(カテゴリー2)の両者は,23 年の間に数量的にどのように変遷してきた か。 4) 日本語そのものに関する研究論文と日本語教育に関する研究論文のサブカテ ゴリーの論文の傾向と現状はどうか。 5) 今後の日本語(教育)研究に関する論文の傾向はどう(あるべき)か。 1 以後,本稿では日本語そのものに関する研究と日本語教育に関する研究の両者を指すときは,「日本語 (教育)研究」と記す。 2 1990 年の第 1 回 ENPULLCJ 大会の学会誌は,本という形で出版されなかったため存在しない。

(3)

3 2. 先行研究 イントロダクションですでに述べたとおり,ENPULLCJ 大会における「ブラジルに おける日本語研究」と題した論文は,第 9 回(1998 年)大会での研究発表「ブラジル における日本語教育-概略と外国語としての新たなアプローチのための展望」(Maria Emiko Suzuki),第 11 回(2000 年)大会でのパネルセッション「ブラジルにおける日 本研究:言語」(Elza Taeko Doi),第 12 回(2001 年)大会でのパネルセッション「日 本語の研究」(Elza Taeko Doi)の 3 本だけである。

最初の論文(cf. Suzuki, 1998)は,「ブラジルにおける日本語教育」といったタイ トルであるにも関わらず,著者自身が論文の冒頭で「本研究は,『コロニア』といっ た特定のコンテクストの中に位置する,日本(語)学校と伝統的に呼ばれる学校にお ける日本語教育に関することのみ」(p. 169)を取り上げる,と研究のコンテクスト を限定している。つまり,「ブラジルにおける日本語教育」というよりは「(ある特 定地域の)日系コロニア社会における日本語教育」を扱ったものであることが分かる。 その上で,当時の日系コロニアの学校3で見られた日本語の教授法に特化して議論を展 開している。コロニア4では日本で出版された国語の教科書が使用され,書き取りに力 を入れた「国語教育」が行われてきたが,ブラジル社会に進出する日系人が増え,日 系三世の中には日本語が全く話すことも理解することもできない者がいることを指摘 している。その事実を踏まえ,母語教育ではなく,外国語としての日本語教育が必要 であると主張する。 更に Suzuki(1998)は,ブラジルで 1970 年代から 1990 年代に出版された日本語 の教材を分析し,そのどれもが日本語をゼロから学習するにはふさわしくない教授法 を取り入れたものであると批判をした上で,コミュニケーション(話すことと理解す ること)と読みを中心としたコミュニカティブ・アプローチを用いるべきであると主 張する。つまり,ポルトガル語の翻訳を介した語彙や文法説明ではなく,学習者の興 味がありそうな状況を設定し,彼らの理解を促すような絵,写真,実物,カードなど を使用して,文脈化された文(frase)の中で語彙を教えていく必要があると論じる。 一方,Doi(2000)は,もう少し広い視点からブラジルにおける日本語研究の方向 性について論じている。具体的には,言語(日本語)を単に言語システムやコミュニ ケーションの手段といった観点から分析するのではなく,社会的,文化的,政治的観 点からも研究する必要があると訴える。例えば,日本における出稼ぎ子弟の言語(母 語の保持や拒否)や社会参加など,教育政策問題に関する研究をはじめ,ブラジルの 日系人によって使用されている日本語に関する研究である。特に,ブラジル現地で話 されている日本語は,日本で使われている日本語とは別の発展の道を辿ってきただけ に,前者を研究をすることによってブラジル日系移民の歴史,社会,文化の理解に寄 与するであろうと言及する。 Doi の 2001 年の論文では,日本語,日本語教育,日系移民による言語(日本語,ポ ルトガル語)といった 3 つの観点から日本語研究の動向と展望が論じられている。ま 3 どの日系コロニアの学校であるかについては,論文中では触れられていない。 4 どの日系コロニアであるかについては,論文中では触れられていない。

(4)

4 ず,日本語に関する研究として,1999 年に各大学機関の日本語教師によって結成され た国語学の研究グループ5を取り上げる。その研究グループは,国語学の観点から日本 語の記述や体系を研究するグループで,その分野の研究者を育てる場を提供している と述べる。 2 つ目の観点である日本語教育に関しては,移民の教育に焦点を当てて論じている。 移民が来伯した当時は国語教育が行われ,日本語学校が移民師弟の読み書きや日本人 形成を育むところであったと言及する。Doi(2001)はブラジルにおける日本語教育 の動向についてはそれのみに触れ,Doi(2000)の論文と同様に,出稼ぎ師弟の言語 教育問題についても取り上げ,師弟の日本語のみならずポルトガル語の教育も必要だ と訴える。 3 つ目の観点(日系移民による言語)は,ブラジル日系人によって話されている日 本語についての研究についてである。Doi(2001)はこの分野はあまり研究が行われ ていないので,開拓の余地があると述べる。Doi(2001)によれば,ブラジルの日系 コミュニティーで日系移民(一世やその子孫)によって話される言語はコロニア語と 呼ばれ,移民してきた当時の日本語や日本各地の様々な方言やポルトガル語の変種が 混じるのがその特徴である。つまり,現在日本で話されている日本語とは異なる(Doi, 2001, p, 91)ことから,Doi(2001)はコロニア語を 「ブラジルの日本語の方言 (dialeto japonês do Brasil)」と名付けた。コロニア語を研究することにより,言語変化, マイノリティー言語の保持の問題,移民やその子孫のバイリンガリズム(二言語併用) が明らかになってくるであろうと述べる。また,言語そのものの研究だけではなく, 移民や子孫のアイデンティティや彼らの産出したもの(文学作品,随筆,日記,伝記 など)に関する研究も行われるべきであると訴える。 Doi(2000,2001)の論文は,日本語,日本語教育,日系移民による言語の研究と いった 3 つの観点からアプローチされているものの,今後の研究の展望に焦点が当て られており,過去や現在の日本語(教育)に関する研究の動向については論じられて いないことが分かる。 3. 研究方法 本研究の分析対象は, 第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)にかけて,学会 誌 ENPULLCJ の研究発表の「言語」のセクションに掲載された論文である。そのセク ションに掲載された論文総数は 235 本6であったが,論文を1つ1つ吟味して,日本語, 日本語教育に直接関わる 226 本の論文を本研究の分析対象とした。分析は,大きく分 けて 2 段階からなる。

5 研究グループ名は,「大学機関間の日本語研究グループ」(Grielj - Grupo Interinstitucional de Estudos da Língua Japonesa)で,当該グループは,山田,橋本,時枝,渡辺文法を研究し,2012 年にはその成果を 論 文 集 と し て ま と め , 出 版 し た 。 SUZUKI, Tae; NINOMIYA, Sonia Regina Longhi; OTA, Junko; MORALES, Leiko Matsubara (Orgs.). Teorias gramaticais da língua japonesa: Yamada Yoshio, Hashimoto Shinkichi, Tokieda Motoki e Watanabe Minoru. São Paulo, Humanitas/FAPESP, 2012.

6 この数値には,「翻訳」のセクションも含まれている。「文学」と「文化」のセクションの論文数の推

(5)

5 まず,第 1 段階の数量的内容分析では,ポルトガル語で書かれた論文タイトルの全 体的な傾向を図るため,タイトルがそれ以外の言語(日本語,英語,フランス語7)で のみ書かれた 15 本の論文は省いた。そのため,211 本8が数量的内容分析の対象であ る。それらの論文タイトルに使用された語彙の頻度や語彙と語彙の結びつきなどの特 徴や傾向を調べるために,論文タイトルをテキストデータ化し,テキストマイングを 行った。テキストマイニングとは,大量のテキストデータから,隠れた情報や特長, 傾向,相関関係などを探し出す技術のことである。 具体的には,AntConc(バージョン 3.4.4w2014)の「ワードリスト」機能9を用いて, ポルトガル語で書かれた 211 本の論文タイトル中に使用された語彙の頻度別リストの 作成を行った。次に,KH Coder(バージョン 2.00b)を用いて,共起ネットワーク, 階層的クラスター分析を行った。各々,分析結果がより分かりやすく表示されるよう に,検索しない語彙リストを予め作成,及び登録しておいてから検索に掛けた。検索 しない語とは,ポルトガル語の冠詞,前置詞,丸括弧,ピリオド,コンマなどである。 次に,第 2 段階の分析では,226 本の論文を(1)日本語学,日本語そのものに関 する研究論文と(2)日本語教育を意識した研究論文の 2 つの大きなカテゴリー10 分類した。 カテゴリー1 は,日本語学・言語学をルーツにもつグループで,「言語としての日 本語」,つまり「言語」に研究の焦点をあてたものである(本田他 2014)。いわゆる 音声,語彙,文法,談話などを扱う分野である。一方,カテゴリー2 は,英語教育 学・応用言語学をルーツにもつグループで,「日本語の学習あるいは教育」「教育貢 献を前面に出した日本語研究」,つまり「人」に研究の焦点をあてたものである(本 田他 2014)。 分類の際,タイトルだけでは判断がつかなかったものは,論文に目を通し,分類結 果を 3 度見直した。その後,各カテゴリーの大会別論文数と大会 22 回分の論文総数を 集計して,グラフにまとめた。 更に,両カテゴリー内の論文を,本田他(2014)に基づき下位分類した。カテゴリ ー1 の日本語学,日本語そのものに関する研究論文のサブカテゴリーは,「音レベル, 語レベル,文レベル,談話レベル,対人レベル」である。 表 1-日本語に関する研究のサブカテゴリー 音レベル:音をあつかうもの 語レベル:内容語であればここに分類 [例]名詞,副詞,動詞,接尾辞など 文レベル:複文レベルまではここに分類 [例]各種機能語,活用など 7 タイトルも論文も日本語だけで書かれたものは 12 本,英語で書かれたものは 1 本,フランス語で書か れたものは 2 本であった。 8 論文は日本語で書かれているが,タイトルは日本語とポルトガル語の 2 言語で書かれた論文が 5 本見ら れた。これらの 5 本の論文タイトルも 211 本に含まれている。

9 KH Coder では,ポルトガル語は Stemming (with Snowball)(語幹化)のみ可能である。Stemming とは, 単純な規則に従って語尾をカットする処理のことである。例えば,japonesa も japonês も japoneses も 区別されずに「japones」としてカウントされる。曖昧さを回避するため,語の抽出には AntConc を使用 した。

10 翻訳に関する論文の場合,明らかにカテゴリー1 か 2 に属すものは,それらのカテゴリーにカウントし,

当てはまらないものは(3)の「翻訳」に分類した。また,上述のどのカテゴリーにも属さない論文は, (4)の「その他」に分類した。226 本の論文には,カテゴリー3 と 4 の論文は含まれていない。

(6)

6 談話レベル:複文を超えるもの,文脈などを考慮する機能語 [例]接続詞,照応,談話 構造 対人レベル:コミュニケーションレベル,言語行動,相手の存在を前提とするもの [例]感動詞(挨拶,応答詞,あいづち,フィラーなど) (本田他[2014, p. 16]の表を一部簡略化) 上記のカテゴリーに加え,更に「コロニア語研究」という下位グループを作成した。 前節の先行研究で見たとおり,Doi(2000,2001)はブラジルの日本語研究ではコロ ニア語を扱った研究も盛んに行われるべきであると主張していることによる。また, 上記のどの下位グループにも属さない論文を「その他」に分類した。 カテゴリー2 の日本語教育を意識した研究論文のサブカテゴリーは,「学習者,教 育,社会」である。 表 2-日本語教育に関する研究のサブカテゴリー 学習者に関する研究:学習者の言語と心理(インプット,アウトプット,モチベーシ ョン,ビリーフなど) 教育に関する研究:教室活動,教授法,評価,学習者以外の関係者(特に教師,校長 など)の言語と心理 社会に関する研究:地域社会が関係する研究,社会の人々の意識,言語政策 (本田他[2014]を基に一部筆者加筆,変更) 各サブカテゴリーの論文の動向と現状が一目で分かるように,大会ごとの論文数と 大会 22 回分の総数を集計した。 日本語(教育)研究に関する論文のタイトルの傾向と論文数の推移,及びサブカテ ゴリーの論文の動向と現状に関する数量的,質的分析結果を踏まえ,今後の日本語 (教育)研究に関する論文の傾向はどう(あるべき)か考察した。 4. 結果 4.1 全体の中での「言語」の位置づけ 1991 年(第 2 回大会)から 2014 年(第 23 回大会)の学会誌 ENPULLCJ の研究発 表の「言語」「文学」「文化11」セクションに掲載された論文総数は 542 本で,中で も言語が 235 本12(43%)と一番多いことが分かる(表 3,図 1 参照)。その次に, 文化,文学と続く。 表 3-1991 年(第 2 回)から 2014 年(第 23 回)ENPULLCJ 大会の 研究発表に掲載された言語・文学・文化の論文総数 カテゴリー 言語 文学 文化 合計 11 学会名が「全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会」であるので,学会誌も「言語」「文学」 「文化」の 3 つのセクションに分けて論文を掲載していることが多い。そのため,歴史,政治,経済など は便宜的に「文化」のセクションの中に分類されていることがある。 12 脚注 6 を参照。

(7)

7 本数 235 109 198 542 図 1 次に,各セクションの論文数を大会ごとに示したものが図 2 である。 図 2-ENPULLCJ(第 2 回~第 23 回)大会の研究発表のセクションに掲載された 言語・文学・文化の論文数の推移 この 23 年間で,大会ごとの言語・文学・文化の論文総数は徐々に増えてきているこ とが分かる。第 2 回の論文総数は 12 本で,第 23 回大会の論文総数は 47 本である (図 2 参照)。つまり,23 年の間に大会ごとの論文総数はほぼ 4 倍に増加した。ただ, 第 19 回(2008 年)大会を除き,学会誌が本といった形態で出版される(付録表 1 参 照)以上,これ以上全体の論文数が伸びるとは限らない。 次に,散布図と近似曲線を用いて各セクションの論文数の傾向を提示する。 図 3-ENPULLCJ(第 2 回~第 23 回)の研究発表のセクションに掲載された 43% 20% 37% 1991年(第2回)から2014年(第23回)ENPULLCJ 大会の研究発表に掲載された言語・文学・文化の論 文総数の割合 言語 文学 文化 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 文化 5 8 4 2 3 4 4 4 3 16 8 9 9 6 8 14 17 11 11 19 14 19 文学 2 3 5 2 5 2 4 3 5 4 3 5 5 5 6 7 7 5 4 10 6 11 言語 5 6 9 8 7 6 4 19 8 7 12 11 14 19 11 11 10 16 14 14 7 17 0 10 20 30 40 50 本数 大会回数(2~23)と各セクションの論文本数 言語 文学 文化

(8)

8 言語・文学・文化の論文数の散布図と近似曲線 明らかに全体の論文数だけではなく,各研究発表のセクション(言語,文学,文化) の論文数も,ここ 23 年間増加傾向にあることが分かる。特に,「文化」の増加傾向が 著しく見え,第 17 回大会(2006 年)を境に「文化」が「言語」の論文数を上回るこ とが多く(図 2 参照),それが「文化」の近似曲線にも現れている(図 3 参照)。そ の理由は,「文化」のセクションに歴史,経済,政治,社会学,人類学などの分野の 論文が含まれており,それらの論文数が増えてきたためである。しかし,学会名や研 究発表のセクションを言語,文学,文化の 3 つに区切ることを再考する価値があるか もしれない。 4.2 抽出語・共起ネットワーク・階層的クラスター分析 211 本の論文タイトル(ポルトガル語)に使用された語彙の頻度や語彙と語彙の結 びつきなどの特徴や傾向を調べるために,論文タイトルをテキストデータ化し,テキ ストマイングを行った。 まず,AntConc(バージョン 3.4.4w2014)の「ワードリスト」機能を用いて,論文 タイトル中に使用された語彙の頻度別リストの作成を行った。ワードトークンは, 1475 であった。以下の結果は,データ中に出現した回数が多い順である。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 5 10 15 20 25 本数 大会回数 言語 文学 文化 全体

(9)

9 図 4-論文タイトルに使用された語彙の頻度別リスト

上位 4 番目までに抽出された語彙は,língua (言語)(84 回), japonesa (日本語) (80 回), japonês (日本語)(41 回), ensino (教育)(36 回)である13。 japonesa と

japonês には「日本人(の)」という意味もあるが,それらの語が使用された文脈を コンコーダンス機能で調べた結果「日本語」であることが分かった。

図 5-語彙「japonês」のコンコーダンス検索

13KH Coder で「抽出語リスト頻出 150 語」検索を行うと,以下の結果になる。japones 112 回,lingu 91 回,ensin 34 回,estud 23 回, didat 17 回,express 17 回,abordag 13 回,uso 13 回である(結果はこ のように語尾がカットされて提示される)。

(10)

10 つまり,211 本の論文タイトルの傾向として,「日本語」「教育」を扱ったものが 多いと推測することができる。 次に,語彙と語彙の結びつきの特徴や傾向を調べるために,KH Coder(バージョン 2.00b)を用いて,共起ネットワーク,階層的クラスター分析を行った。 共起ネットワークとは,「出現パターンの似通った語,すなわち共起の程度が強い 語を線で結んだネットワーク」を描いたものである(樋口, 2014: 157)。下記の共起 ネットワークは,最小出現数を 9 に設定し,上位 20 語彙に焦点を当てたものである。 図 6-共起ネットワーク

(11)

11 強い共起関係14ほど太い線で描画され,出現回数が多い語ほど大きな円で描画され

る。また,水色,白,ピンクの順に中心性が高くなることを示している。本研究の場 合,線の太さや円の大きさから,「japones(a)(日本語)」と「lingu(a)(言語)」と 「 ensin(o) ( 教 育 ) 」 と , 「 uso ( 使 用 ) 」 と 「 didat(ico/a) ( 教 授 法 の ) 」 と 「abordag(em)(アプローチ)」の語彙の結びつきが強いことが分かる(図 6 参照)。 一方,クラスター分析は,「出現パターンの似通った語の組み合わせにはどんなも のか」(樋口, 2014: 156)探索でき,結果はデンドグラム(樹状図)で作成される。 以下,最小出現数を 9 に設定した結果である。 図 7-階層的クラスター分析 14 KH-Coder の場合,共起関係の強弱に関しては,分析対象となった語のすべての組み合わせを,Jaccard 係数を用いて計算している。

(12)

12 共起ネットワークの結果と同じであるが,別の形で表している。 以上のことから,211 本の論文タイトル(ポルトガル語)に使用された語彙(word tokens 1475)の出現回数や共起関係を調べた結果,その傾向として「日本語教育」 「教授法のアプローチの使用」といった語彙の結び付きが強いことが分かった。この 結果を踏まえ,全体の傾向として日本語教育に関する論文が多いと推測することがで きる。 4.3 日本語学,日本語そのものに関する研究論文数と日本語教育を意識した研究論文 数の動向 この節では,226 本の論文のタイトルを分析する。それらの論文タイトルを(1) 日本語学,日本語そのものに関する研究論文と(2)日本語教育を意識した研究論文 の 2 つの大きなカテゴリーに分類し(各カテゴリーの詳細内容は,本稿 3 節の研究方 法を参照),各カテゴリーの論文数を大会別にカウントし,カテゴリー別の論文総数 も出した。 第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会までの各カテゴリーの論文総数と割 合は,以下のとおりである。 表 4-各カテゴリーの論文総数と割合(1991 年から 2014 年) カテゴリー 論文総数 割合 カテゴリー1 (日本語学,日本語そのものに関す る研究論文) 122 本 54%

(13)

13 カテゴリー2

(日本語教育を意識した研究論文)

104 本 46%

4.2 節の AntConc による語彙の頻度別リストでは,ensino(教育)や uso(使用) といった語が上位に見られ,また,共起ネットワークや階層的クラスター分析結果で は,語彙「ensino(教育)」「língua(言語)」「japonês(日本語)」の共起関係が 強いことが分かり,日本語教育を意識した研究論文が多いであろうと予測されたが, 実際に 226 本の論文を1つ1つ質的に分析して分類した結果,カテゴリー1 の日本語 学,日本語そのものに関する研究論文のほうが,カテゴリー2 の日本語教育を意識し た研究論文よりも多いことが判明した。 この結果を更に詳細に考察するために,第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年) 大会までの両カテゴリーの論文数の推移を折れ線グラフで提示する。 図 8-第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会までの各カテゴリーの論文数の 推移 第 2 回(1991 年)から第 15 回(2004 年)までは,カテゴリー1 の日本語(学)を 意識した研究論文数が圧倒的に多いようである。つまり,学会が始まった当初から 13 年間は,日本語(学)や日本語そのものに関する論文数が優勢であった。この背景に は,ブラジルにおける日本語の分野での初の大学院開設が関係していると思われる。 1996 年に初めてサンパウロ大学に日本語/日本文学/日本文化専攻の修士課程が開設さ れた。当時の日本語専攻の大学院教員は,日本語学・国語学の専門家で,言語学で博 士号を取得している。この背景は,時期こそ異なるが,日本の教育事情の背景とも似 ている。「大学の教員が日本語学・国語学関係者である限り,大学院生も関連分野で 論文を書いて発表するわけで,日本語学の存在感が大きくなったことは容易に想像で きる」(本田他,2015: 19)。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 日本語(学) 4 5 8 7 5 5 4 10 3 4 8 7 7 11 5 3 4 7 3 5 2 5 日本語教育 1 0 1 1 2 1 0 9 5 3 4 4 6 7 6 8 6 8 11 9 3 9 0 2 4 6 8 10 12 本数 大会回数(2~23)と各セクションの論文本数

(14)

14 一方,日本語教育関係の論文に関しては,第 8 回大会(1997 年)まではほとんど見 られない。1999 年の第 10 回 ENPULLCJ 大会学会誌で,初めて言語のセクションが 「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」15と別々になり,「教育」の論文数が「言語」 を初めて上回った(図 8,付録表 1 参照)。また,2005 年の第 16 回大会から 2014 年 の第 23 回大会までの 9 年間は,逆に日本語教育のカテゴリーの論文数が日本語(学) の論文数を常に上回っている(図 8 参照)。つまり,この結果は,イントロダクショ ンで触れた「最近」日本語そのものに関する研究より,日本語教育を意識した研究 (論文)が増えてきたといった仮説を裏付けている。この背景には,近年研究者の興 味が,言語そのものに関する分析から学習者や教師に移り,ブラジル国内で発展して きた応用言語学専攻の大学院コース(修士・博士)に入る研究者が増えてきたことに もよると思われる。 その背景を後押しする事実として,研究発表のセクションの日本語教育に関する論 文タイトルに,学会誌上初めて使用された用語が目立った。例えば,第 16 回大会 (2005 年)では「異文化(interculturalidade)」,第 17 回大会(2006 年)では「教師 育成 (formação de professores) 」,第 18 回大会(2007 年)では「教師の概念 (concepções dos professores) 」 , 「 動 機 (motivação) 」 , 「 学 習 ス ト ラ テ ジ ー (estratégias de aprendizagem)」,また,第 21 回大会(2010 年)では「ビリーフ (crenças)」などである(付録表 1 参照)。 次に,23 年間の両カテゴリーの論文数推移の傾向を見るため,図 8 のデータを散布 図と近似曲線で示した(図 9 参照)。参考までに全体(言語,文学,文化)の散布図 と論文数の近似曲線も描かれている。 図 9-第 2 回大会(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会までの,言語のカテゴリー 1 と 2 と全体(言語,文学,文化)の論文数の散布図と近似曲線 15 この年以降の学会誌でも,「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」が別々になっていることが多い(付録 表 1 参照)が,1 つ 1 つ論文を吟味すると,「教育」に関する論文が「言語」のところに入っている(ま たはその逆も)ことがあり,分類をする際には注意を要した。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 5 10 15 20 25 本数 大会回数 日本語(学) 日本語教育 全体

(15)

15 4.1 節の図 3 で見たとおり,全体の論文数も言語の論文数も上昇傾向であったが,上 記の近似曲線では,日本語(学)(カテゴリー1)の近似曲線がゆるやかに下がり,日 本語教育(カテゴリー2)の近似曲線が急激に上がっていることが分かる。つまり,日 本語教育の論文数の上昇が,言語全体の論文数を上げていたことになる(図 3 参照)。 日本語そのものに関する論文数が減少し,日本語教育に関する論文数が増加してい るといった傾向は,ブラジルだけではなく,例えば日本の学会誌『日本語教育』に掲 載された論文にも見られる(本田他 2014)16。学習者,教師,教材,教授法など,日 本語そのものについての研究以外の研究が発展してきた(4.3.2 節参照)ことによる。 4.3.1 日本語学,日本語そのものに関する研究論文のサブカテゴリーの傾向 第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会における,カテゴリー1(日本語学, 日本語そのものに関する研究論文)の各サブカテゴリーの論文数と論文の例を挙げる。 表 5-第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会における,カテゴリー1(日本 語に関する研究論文)の各サブカテゴリーの論文数と割合 サブカテ ゴリー 音 レベル 語 レベル 文 レベル 談話 レベル 対人 レベル コロニ ア語 その他 合計 本数 2 33 22 18 12 7 28 122 割合(%) 1% 27% 18% 15% 10% 6% 23% 100% 表 6-日本語に関する研究論文のサブカテゴリーの論文例 サブカテゴリー 論文の例

音レベル Um problema de comunicação sob o ponto de vista fonológico: choon

sokuon (IX ENPULLCJ, 1998)

「音韻論的観点(長音と促音)からのコミュニケーションの問題」 語レベル Fukushi e as partículas ni e to (III ENPULLCJ, 1992)

「副詞と助詞の『に』と『と』」

Os verbos compostos da língua japonesa; (IV ENPULLCJ, 1993) 「日本語の複合動詞」

Sobre o keishikimeishi tokoro (V ENPULLCJ, 1994)

「形式名詞『ところ』について」

文レベル O tratamento dado aos joshi e aos jodoshi na Linguística Japonesa (VII ENPULLCJ, 1996)

「日本語学における助詞と助動詞の扱い」

談話レベル Processos discursivos de argumentação em japonês (IV ENPULLCJ, 1993)

「日本語での議論の談話的プロセス」

Conjunção (setsuzokushi) como elemento importante nas frases (IX ENPULLCJ, 1998)

「文の重要な要素としての接続詞」

対人レベル As interjeições japonesas (IX ENPULLCJ, 1998) 「日本語の間投詞」

Marca de identidade social na interação: o uso de toka por jovens

16 本田他(2004)は,学会誌『日本語教育』の 101 号から 150 号に掲載された 236 本の論文の傾向を調 査した。

(16)

16

aprendizes de japonês (XXIII ENPULLCJ, 2014)

「相互作用における社会的アイデンティティのマーカー-若い日本語学習 者による『とか』の使用」

コロニア語 Algumas reflexões sobre a mudança de código na fala dos nipo-brasileiros: caso de Aliança e Fukuhaku-mura (XVI ENPULLCJ, 2005) 「日系ブラジル人の発話に見られるコードスイッチングについての考察- アリアンサと福博村のケース」

その他 A taxionomia da língua japonesa segundo Hashimoto e Tokieda (XV ENPULLCJ, 2004) 「橋本と時枝による日本語の品詞」 カテゴリー1 の論文総数は 122 本であるが,語レベルに関する論文が 33 本,文レベ ルに関する論文が 22 本と多い。その両サブカテゴリーの論文数を足すと 55 本で,カ テゴリー1 の論文総数のほぼ半数を占める。一方,音レベルに関する論文が 2 本,コ ロニア語に関する論文が 7 本,対人レベルに関する論文が 12 本と少ないことが分かる (表 5 参照)。本稿の先行研究で触れたとおり,コロニア語に関する研究論文が少な いことは,すでに Doi(2000,2001)が指摘している。 以上の結果から,今後ブラジルにおける日本語(学)に関する研究論文の課題とし て,音レベル,コロニア語,対人レベルの研究が発展していく必要があると言える。 4.3.2 日本語教育を意識した研究論文のサブカテゴリーの傾向 第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会における,カテゴリー2(日本語教 育に関する研究論文)の各サブカテゴリーの論文数と論文の例を下記に提示する。 表 7-第 2 回(1991 年)から第 23 回(2014 年)大会における,カテゴリー2(日本 語教育に関する研究論文)の各サブカテゴリーの論文数と割合 サブカテ ゴリー 学習者 教育 社会 合計 本数 16 79 9 104 割合(%) 15% 76% 9% 100% 表 8-日本語教育に関する研究論文のサブカテゴリーの論文例 サブカテゴリー 論文の例

学習者 A motivação entre aprendizes de língua japonesa (XVIII ENPULLCJ, 2007)

「日本語学習者のモチベーション」

Estratégias de aprendizagem utilizadas na leitura por aprendizes de língua japonesa como LE (XX ENPULLCJ, 2009)

「外国語としての日本語学習者による読解における学習ストラテジー」 教育 Aplicação da abordagem comunicativa em sala de aula (IX ENPULLCJ,

1998)

「教室でのコミュニカティブ・アプローチの応用」

A avaliação da habilidade oral: uma tentativa (IX ENPULLCJ, 1998) 「話す技能の評価-試み」

(17)

17

社会 A política linguística do Japão na era Meiji (XX ENPULLCJ, 2009) 「明治時代における日本の言語政策」 教育(教室活動,教授法,評価,学習者以外の関係者(特に教師,校長など)の言 語と心理)に関する論文が大きな割合を占めていることが分かる。それは論文執筆者 自身が日本語教師であることが多いので,自身の関心事でもある教授法や教室活動や 教師育成に関する研究が圧倒的に多いのではないかと思われる。一方,学習者や社会 (地域社会が関係する研究,社会の人々の意識,言語政策)に関する論文が少ない。 言語(日本語教育)が「『人』に研究の焦点をあてたものである」(本田他 2014)以 上,学習者の言語(アウトプットやインプット)や心理(モチベーションやビリーフ など)に関する研究なくして,教育の開発・改善は期待できない。また,Doi(2000, 2001)が主張していたように,社会に関する研究が今後早急に発展していくことが望 まれる。 図 10-日本語教育に関するサブカテゴリー別の研究論文数の推移 5 考察 本稿では,学会誌 ENPULLCJ の研究発表のセクションに掲載された論文の数や傾向 を数量的に,また質的に分析をし,ブラジルの日本語(教育)研究の全体像や動向に 関する考察を試みた。その結果,第 2 回大会(1991 年)から第 23 回大会(2014 年) までの 23 年の間に,学会誌の研究発表のセクションに掲載された「言語」「文学」 「文化」全体の論文数はほぼ 4 倍に増え(図 3 参照),各セクションの論文数も増加 傾向にあることが分かった。累計では,「言語」の論文総数が一番多かったが,第 20 回大会(2009 年)前までは「言語」の論文数が優勢傾向にあったのに対し,それ以降 は「文化」が「言語」の近似曲線を上回った。それは「文化」の論文の広がりと発展 を示しているとも言えるが,「言語」や「文学」以外のすべての論文が「文化」とし て扱われることを見直すべきである。 「言語」のセクションの 211 本の論文(ポルトガル語のみ)のタイトルをテキスト マ イ ニン グ( 抽出 語,共 起 ネッ トワ ーク ,階層 的 クラ スタ ー分 析)し た 結果 , 「japones(a)(日本語)」と「lingu(a)(言語)」と「ensin(o)(教育)」,また「uso 0 2 4 6 8 10 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617181920212223 社会 教育 学習者 大会回数 本 数

(18)

18 (使用)」と「didat(ico/a)(教授法の)」と「abordag(em)(アプローチ)」の語彙 の出現回数が多く,それらの語の結びつきが強いことが分かった。つまり,「言語」 のセクションの全体の傾向として,日本語そのものに関する論文ではなく,日本語教 育に関する論文を連想させる語彙が優勢であると推測することができる。 ところが,「言語」に関する 226 本の論文のタイトル(ポルトガル語,日本語など) を(1)日本語学,日本語そのものに関する研究論文と(2)日本語教育を意識した 研究論文の 2 つのカテゴリーに1つ1つ分類した結果,累計では前者の論文数が後者 よりも多いことが判明した(表 4 参照)。両者の論文数推移を見てみると,第 2 回 (1991 年)から 15 回(2004 年)までの 13 年間は,カテゴリー1 の日本語(学)を 意識した研究論文数が優勢であったのに対して,2005 年の第 16 回大会から 2014 年 の第 23 回大会までの 9 年間は,カテゴリー2 の日本語教育を意識した論文数が逆転し, 常に上回っていたことが確認された(図 8 参照)。更に,両者の論文数を近似曲線で 表した結果(図 9 参照),日本語(学)を意識した論文数の推移の傾向は実は下降気 味で,日本語教育を意識した論文数の推移の傾向が上昇していたことが明らかとなっ た。このことから,全体として「言語」の論文数が増加している傾向にあったのは (図 3 参照),実は日本語教育を意識した論文数の上昇傾向によるものであることが 分かった。また,テキストマイニングの結果も,実はこの日本語教育を意識した論文 数の著しい上昇傾向を反映していた結果ではないかと思われる。 日本語そのものに関する研究論文のサブカテゴリーの傾向を調べた結果,語と文レ ベルに関する論文数が約半数を占める一方,音レベルとコロニア語に関する論文数が 非常に少ないことが分かった(表 5 参照)。このことから,カテゴリー1 の今後の課 題は,論文数の少ないサブカテゴリー分野に関する研究の進展である。 一方,日本語教育に関する研究論文のサブカテゴリーの傾向は,教育に関する論文 数が圧倒的に多く,学習者と社会に関する論文数は非常に少なかった(表 7 参照)。 言語教育の発展のためには,教育(教室活動,教授法,評価など)に関する研究だけ ではなく,学習者の言語(アウトプットやインプット)や心理(モチベーションやビ リーフなど)を調査して知る必要がある。また,社会(地域社会が関係する研究,社 会の人々の意識,言語政策)に関する研究も,コロニア社会や高等教育をはじめ,初 等・中等の公教育17でも日本語教育が行われている以上,ブラジルにおける日本語教 育の発展には欠かせない。 以上のことから,今後の日本語(教育)研究の展望としては,日本語教育に関する 研究が成長し続け,日本語そのものに関する研究は更に減少する可能性があると考え られる。それは,院生を指導する大学教員のプロフィールとも関係している可能性が 高い。この傾向は,4.3 節で考察したとおり,ブラジルだけではなく,日本の学会誌 『日本語教育』に掲載された論文の傾向にも見られた。 本稿では,数量的,及び質的にブラジルの日本語(教育)研究の全体像や動向を探 り,特に数量的結果に基づいて今後の日本語(教育)研究の進展に関する問題点を挙 げた。質的な解釈的アプローチだけではなく,数値を具体的に示すことで日本語(教 育)研究に関する問題点を指摘することも不可欠である。 17 国際交流基金サンパウロ日本語文化センター(編)『ブラジルの日本語教育-初等・中等・高等教育の 学校と講座-』(2015 年).

(19)

19 今回は,ENPULLCJ 大会の学会誌に掲載された論文からブラジルにおける日本語 (教育)研究の全体像や動向を図ろうと試みたが,今後の課題として,ブラジルで発 行されている他の学術雑誌18やブラジル(応用)言語学会の中での日本語(教育)研 究の位置づけなども考察する必要がある。 参考文献 神吉宇一(編著者)(2015)『日本語教育学のデザイン-その地と図を描く-』凡人 社 国際交流基金サンパウロ日本語文化センター(編)(2015)『ブラジルの日本語教育 -初等・中等・高等教育の学校と講座-』国際交流基金サンパウロ日本語文化セ ンター 樋口耕一(2015)『社会調査のための計量テキスト分析-内容分析の継承と発展を目 指して-』ナカニシヤ出版 本田弘之・岩田一成・義永美央子・渡部倫子(2014)『日本語教育学の歩き方-初学 者のための研究ガイド-』大阪大学出版会

DOI, E. T. Estudos japoneses no Brasil: Língua. In: CONGRESSO INTERNACIONAL DE ESTUDOS JAPONESES NO BRASIL, 1.; ENCONTRO NACIONAL DE PROFESSORES UNIVERSITÁRIOS DE LÍNGUA, LITERATURA E CULTURA JAPONESA, 11., 2000, Brasília. Anais... Brasília: LET-UnB, 2000. p. 83-84.

DOI, E. T. Pesquisas em língua japonesa. In: CONGRESSO INTERNACIONAL DE ESTUDOS JAPONESES NO BRASIL, 2.; ENCONTRO NACIONAL DE PROFESSORES UNIVERSITÁRIOS DE LÍNGUA, LITERATURA E CULTURA JAPONESA, 12., 2001, Porto Alegre. Anais... Porto Alegre: Instituto de Letras da Universidade Federal do Rio Grande do Sul, 2001. p. 89-92.

MUKAI, Y. Uma nova perspectiva de pesquisas na área de língua japonesa no Brasil: do ponto de vista da Linguística Aplicada. Estudos Japoneses (USP), n. 27, p. 163-178, 2007.

SUZUKI, M. E. O ensino da língua japonesa no Brasil: Breve histórico e perspectivas para um novo enfoque como língua estrangeira (LE). In: ENCONTRO NACIONAL DE PROFESSORES UNIVERSITÁRIOS DE LÍNGUA, LITERATURA E CULTURA JAPONESA, 9., 1998, Assis. Anais... Assis: Departamento de Letras Modernas da Faculdade de Ciências e Letras da Universidade Estadual Paulista, 1998. p. 169-172.

SUZUKI, T.; NINOMIYA, S. R. L.; OTA, J.; MORALES, L. M. (Orgs.). Teorias

gramaticais da língua japonesa: Yamada Yoshio, Hashimoto Shinkichi, Tokieda Motoki e Watanabe Minoru. São Paulo, Humanitas/FAPESP, 2012.

付録

18 例えば,サンパウロ大学から毎年発行されている『日本研究(Estudos Japoneses)』を挙げることがで きる。

(20)

20 付録表 1-全伯日本語・日本文学・日本文化大学教師学会(ENPULLCJ)開催歴と学 会誌の研究発表セクションに見られる特徴 学会 開催年 学会開催回 開催校 学会誌 出版 の形態 学会誌の研究発表セクション に見られる特徴 1990 I ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) --- 1991 II ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1992 III ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1993 IV ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1994 V ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 この年から「文学」と「文 化」のセクションが別々にな る。 1995 VI ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1996 VII ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1997 VIII ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 1997 年までは圧倒的に言語 そのものに関する論文が多 い。 1998 IX ENPULLCJ パウリスタ州立大学 (UNESP) 本 この年の大会から教育に関す る発表が徐々に増える。 言語セクションの論文タイト ルに初めて「評価 (avaliação)」という用語が現 れる。 1999 X ENPULLCJ リオデジャネイロ連 邦大学(UFRJ) 本 この年の大会で初めて言語の セクションが「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」と別々になり, 「教育」の論文数が「言語」 を初めて上回る。 2000 XI ENPULLCJ ブラジリア大学 (UnB) 本 言語のセクションが「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」と別々に設定され る。 この年の大会には,「文化 (Cultura)」というセクション がなく,「政治(Política)」, 「 人類学(Antropologia)」, 「歴史(História)」,「 社会 学(Sociologia)」,「 芸術 (Arte)」, 「移民 (Imigração)」というセクショ ンが設けられた。 2001 XII ENPULLCJ リオ・グランデ・ ド・スル連邦大学 (UFRGS) 本

(21)

21 2002 XIII ENPULLCJ サンパウロ大学/カ ンピーナス州立大学 (USP/UNICAMP)19 本 言語のセクションの論文タイ トルに初めて「アイデンティ ティ(identidade)」という用 語が現れる。 2003 XIV ENPULLCJ パウリスタ州立大学 (UNESP) 本 言語のセクションが「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」と別々に設定され る。 2004 XV ENPULLCJ リオデジャネイロ連 邦大学(UFRJ) 本 言語のセクションが「言語 (Língua)」と「教育 (Ensino)」と別々に設定され る。 2005 XVI ENPULLCJ ブラジリア大学 (UnB) 本 この大会では,言語のセクシ ョンが「言語( Língua)」 と「応用言語学 ( Linguística Aplicada)」と 別々に設定された。応用言語 学セクション内の論文タイト ルに初めて「異文化 (interculturalidade) 」という用語が論文タイトル に現れる。 2006 XVII ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 言語セクション内の論文タイ トルに初めて「教師育成 (formação de professores) 」という用語が現れる。 2007 XVIII ENPULLCJ パウリスタ州立大学 (UNESP) 本 言語セクション内の論文タイ トルに初めて「教師の概念 (concepções dos professores)」, 「動機 (motivação)」,「学習スト ラテジー(estratégias de aprendizagem)」という用語 が現れる。 2008 XIX ENPULLCJ リオデジャネイロ連 邦大学(UFRJ) CD 2009 XX ENPULLCJ サンパウロ大学 (USP) 本 2009 年以降 2014 年まで, 「教育(Ensino)」に関する研 究発表数が「言語(Língua)」 を上回る。 2010 XXI ENPULLCJ ブラジリア大学 (UnB) 本 言語セクション内の論文タイ トルに初めて「ビリーフ (crenças)」という用語が現 れる。 2012 XXII ENPULLCJ パラナ連邦大学 (UFPR) 本 研究発表のセクションに初め て「翻訳(Tradução)」という セクションが設けられる。 2014 XXIII ENPULLCJ リオデジャネイロ連 邦大学(UFRJ) 本 言語セクション内の論文タイ トルに初めて「多読」という 用語が現れる。 2016 XXIV ENPULLCJ アマゾナス連邦大学 本 19 開催場所は,サンパウロ大学(USP)である。

(22)

22 (UFAM) 付録表 2-開催校別第 1 回~第 24 回 ENPULLCJ 大会の実施回数 開催校 実施回数 開催年 サンパウロ大学(USP) 11 回 1990 年~1997 年,2002 年,2006 年,2009 年 リオデジャネイロ連邦大学 (UFRJ) 4 回 1999 年,2004 年,2008 年,2014 年 パウリスタ州立大学 (UNESP) 3 回 1998 年,2003 年,2007 年 ブラジリア大学(UnB) 3 回 2000 年,2005 年,2010 年 リオ・グランデ・ド・スル 連邦大学(UFRGS) 1 回 2001 年 パラナ連邦大学(UFPR) 1 回 2012 年 カンピーナス州立大学 (UNICAMP) 1 回(サンパウロ 大学との共催) 2002 年 アマゾナス連邦大学 (UFAM) 1 回 2016 年

参照

関連したドキュメント

を軌道にのせることができた。最後の2年間 では,本学が他大学に比して遅々としていた

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

金沢大学資料館は、1989 年 4 月 1 日の開館より 2019 年 4 月 1 日で 30 周年を迎える。創設以来博 物館学芸員養成課程への協力と連携が行われてきたが

周 方雨 東北師範大学 日本語学科 4

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

 文学部では今年度から中国語学習会が 週2回、韓国朝鮮語学習会が週1回、文学

 活動回数は毎年増加傾向にあるが,今年度も同じ大学 の他の学科からの依頼が増え,同じ大学に 2 回, 3 回と 通うことが多くなっている (表 1 ・図 1

関西学院大学社会学部は、1960 年にそれまでの文学部社会学科、社会事業学科が文学部 から独立して創設された。2009 年は創設 50