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情報処理学会研究報告 2. 関 連 研 究 鉢植え 2.1 公共空間での第三者間コミュニケーション支援 空間を共有した第三者同士のコミュニケーションを実現するシステムとして ちかチャッ ト3) が挙げられる ちかチャットは ソフトバンクモバイル製の端末で Bluetooth を利用 ディスプレイ し

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(1)

IPSJ SIG Technical Report

おしゃべり鉢べえ:他者の存在を感じさせる

鉢植え型会話ボットシステム

山 中 崇 規

†1

†1 Web上での第三者間コミュニケーションが活発に行われる一方で,公共空間での 第三者間コミュニケーションは,見知らぬ他人に関わりを持つことへの心理的抵抗が 大きく,未だ発展途上である.そこで,公共空間での第三者間のゆるやかなコミュニ ケーションを実現する鉢植え型会話ボットを開発した.システムがある利用者の発言 を引用した発言を行うことで,他利用者の発言を,他者と直接話すことなく知ること ができ,また自分の気持ちを他利用者へ伝えることができる.観察実験の結果,シス テムの外見と振る舞いは,利用者のシステムへの会話の動機づけとして有効に働いた. また,システムが伝える他者の発言に利用者が興味を示していることが観察された.

Potted Conversation Bot for Creating

an Aura of the Others’ Existence

Takanori Yamanaka

†1

and Takashi Yoshino

†1 We can communicate actively among third persons on the Internet. However, it is difficult to communicate among third persons at a public space. There is psychological resistance with relations with strangers in a real space. There-fore, we have developed a potted conversation bot that can create a relaxed communication among third persons on a public space. This system can hear a certain person’s remark, and then can tell the remark to other people. As the result of the experiment, the appearance and the behavior of the system worked effectively as a motivation of the conversation to the user. Some users were interested in the remark of the others from the system.

†1 和歌山大学システム工学部

Faculty of Systems Engineering, Wakayama University

1.

は じ め に

近年,面識のない人とのコミュニケーション支援を目的にした研究・開発が行われてい る1).特に,公共空間での面識のない人同士のコミュニケーション支援において,通山ら2) は,自己プレゼンスを用いた公共空間でのコミュニケーション支援による,本人らも気付い ていない潜在的なコミュニティの発見などの可能性を述べた.その中で,既存の提案や事 例3)について,第三者間に交友関係を持たせるプロセスが急であり,心理的敷居が高いとい う問題点を挙げ,街中や日常生活での面識のない人とのコミュニケーションが未だ発展途上 であることを指摘している.また通山らは,つながりの形態をゆるやかにし,心理的な負担 や抵抗感を軽減させることで,公共空間の第三者間コミュニケーションが,場を共有する第 三者間の共感や親近感を生む可能性に触れている. 自分の「つぶやき」を投稿し合うことで他者とつながることができるTwitter⋆1は,心理 的負担の少ないゆるやかなつながりの形態によって,面識のない人との気軽で活発なコミュ ニケーションを実現している例の一つである.しかしWeb上で第三者間コミュニケーショ ンを扱うもの4)は多いが,一般的な公共空間でのゆるやかなコミュニケーションの事例は 未だ少ない. 公共空間での面識のない人とのコミュニケーションへの障害となっているのが,心理的抵 抗である.会話のきっかけが無い限り,我々は会話ができる範囲に人がいても,無関心を 装ってしまう.Goffmanはこれを儀礼的無関心5)と定義している.心理的抵抗を押しきり, または回避して,情報のやり取りを促す仕組みが必要である. そこで,公共空間での面識のない人同士のゆるやかなコミュニケーションを実現するボッ トシステムとして,おしゃべり鉢べえを開発した.システムがある利用者の発言を引用して 発言することで,利用者は,過去に行われた他利用者の発言の内容を,他利用者と直接話す ことなく手軽に知ることができる.またシステムの質問に回答し発言を覚えさせることで, 自分の気持ちを他利用者へ気軽に伝えることができる.本研究ではこれを間接的なコミュニ ケーションと呼ぶこととする. 本報告では,おしゃべり鉢べえの開発と公共空間での観察実験を行い,利用者の振る舞い の分析およびシステムの評価を行う. ⋆1 Twitter: http://twitter.com/

(2)

IPSJ SIG Technical Report

2.

関 連 研 究

2.1 公共空間での第三者間コミュニケーション支援 空間を共有した第三者同士のコミュニケーションを実現するシステムとして,ちかチャッ ト3)が挙げられる.ちかチャットは,ソフトバンクモバイル製の端末で,Bluetoothを利用 したチャットを可能にするサービスである.半径10mの周囲の既知・未知を問わない他者 にチャットを申し込むことができるが,全く未知の他人に突然チャットを申し込むことに抵 抗感は大きい. 抵抗感の少ないコミュニケーション支援として,Familiar Stranger(よく電車で乗り合 わせる人など,顔は知っているものの話したことのない他人)の存在から受ける安心感につ いての研究例6)を挙げる.周囲のFamiliar Strangerの存在のみを示す架空のデバイスのデ ザインを通して,ゆるやかな他者とのつながりの実感が安心感を与える可能性について述べ ている.本研究では,他者の発言を引用することで,空間を共有する他者の存在を実感させ ることを試みている. 他者が同一空間に存在していることを意識させることで,新しい情報 の価値を生むというアプローチは共通している. 2.2 会話ロボット 現在多くの音声対話型ロボットが開発されている7)–9).その中で,システムが対話可能な エージェントの形を備えることで,利用者の対話の動機づけに大きく影響することが,多く の研究例8)で観察されている.鹿野らが開発している音声情報案内システム9)は,親しみ やすい外見によって,利用者に対する興味や好奇心を引き出している良い例である.特にロ ボット型インタフェースを備えるキタロボは,子供からの積極的な利用が報告されている. 本研究のおしゃべり鉢べえについても,可愛らしい外見や声などで利用者の親しみやすさに 配慮し,利用の促進を狙っている.

3.

おしゃべり鉢べえ

おしゃべり鉢べえは,人と会話を行う鉢植え型のボットシステムである.システムは一般 的な公共空間に置かれることを想定し,鉢植えがスタンドに置かれた形状をしている.人が 通りかかると声をかけて会話を促す.そして利用者との会話の中で,利用者の発言を記録・ 収集し,また別の利用者の過去の発言を伝えることで,他者の存在を利用者に伝える. 3.1 おしゃべり鉢べえの構成 おしゃべり鉢べえは目・口を貼りつけたデーブルヤシの鉢植えである.コンピュータの ノート PC (スピーカ) マイク ディスプレイ 人感センサ 鉢植え 図 1 おしゃべり鉢べえの外観

Fig. 1 Appearance of a potted conversation bot.

無機的なイメージから遠ざけ,話し相手としての親しみを持たせるために植物を使用した. 図1に外観を示す.鉢植えの傍にはシステムの状態を表示する小型ディスプレイ,利用者 の声を収集するマイクを配置する.それらはスタンド下部のノートPCに接続されており, システムはPCで動作する.音声の出力はPC内蔵のスピーカを用いる.また,PCには人 感センサを接続し,人の通行を検出する. 3.2 システムの動作 本システムは,人が通りかかるような通路,また人が溜まるようなバス停,休憩所などに 設置することを想定している.人が通りかかり人感センサに反応すると,あらかじめ用意 された発言文を合成音声にて出力し,呼びかけを行う.音声合成には,音声合成ソフトウェ アAITalk⋆2を用いた.親しみやすいシステムにするために,一生懸命さが伝わる話し方が 特徴の女の子の合成音声である「あんず」を話者に用いた. 会話の遷移を図2に示す.システムが会話を開始すると,表1に示す8種のトピック(特 定の話題)のうちの一つをランダムに選択する.さらに全てのトピックに5つずつ用意され ている会話文セットの一つをランダムに選択する.会話文セットの例を表2に示す.そして 会話文セット中の最初に発話される会話文を用いて,呼びかけを開始する. マイクから利用者の音声入力が行われると,連続音声認識ソフトJulius10)を用いて文字 列に変換する.その後,文字列の特徴の解析により「肯定」「否定」「判断不可」のいずれか ⋆2株式会社エーアイ:ソフトウェア開発キット音声合成 AITalk⃝SDK: http://www.ai-j.jp/product/sdk.htmlR

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IPSJ SIG Technical Report

表 1 トピック一覧 Table 1 List of all topics.

(1)最近良いことありましたか (4)誰かに伝えたいこと (7)今の気持ち (2)何か質問してくれますか (5)今からどこいくの (8)今したいこと (3)今日の気分はどうですか (6)今何してる として判断し,対応する会話文をさらに返答する.この繰り返しによって会話を進めていく. 会話文セットを用いた会話が終了すると,「もっとお話ししてくれますか」のような,会話 を続けるか否かを問う質問文を発話する.利用者が質問に対して肯定する回答を行った場 合,さらにランダムに別の会話文セットを選択し,会話を続ける. 3.3 利用者発言の提示方法 システムは,他者の過去の発言を伝える際に,過去の利用者発言を引用して会話文を作 り,利用者に提示する.図2中の「最近良いことあったか聞いたら●●って答えてる人がい ましたよ」のように,会話文が過去の利用者発言を伝達する形式であった場合,トピック毎 に収集されている利用者発言ログから文字列を取得し発言文に挿入する.そして「最近良い ことあったか聞いたら『ウイスキーがおいしく飲めるようになりました』って言ってる人が いましたよ」のように,伝聞の体裁で利用者に伝える. 3.4 利用者発言の取得方法 システムは利用者に質問を行い,その返答を収集する.システムは会話の中で,図2中の 「あなたの最近あった良いこと教えてください」のように,利用者に質問を行う場合がある. 全てのトピックについて,5つの会話文セットのうちの2つが質問文を含む会話文セットで ある.ユーザが質問に対する回答を行うと,認識結果をディスプレイに表示するとともに, システムが「『プレゼントもらいました』で良かったかなあ」のように認識結果の確認を促 す.ディスプレイでの提示は,音声認識にて収集する利用者発言の正確性の向上を狙ってい る.利用者がこれに肯定する回答を発言した場合に,利用者発言をログに保存する.

4.

4.1 実験の目的 システムの評価のため,実際に公共の空間に設置し,一般利用を想定した実験を行った. ビデオによる利用者の行動観察と利用者のアンケート結果から,システムの評価を行った. 今回の観察において,次の4点を中心に評価する. (1) 会話ボットとしての魅力 音声入力⇒○○ 音声入力⇒○○ 肯定 否定 判断不可 判断 不可 ○○を保存 無言 無言 肯定 無言 別の会話文 セット センサに反応 判断不可 肯定 否定 無言 最近良いことあったか聞いたら ●●って言ってる人がいましたよ あなたの最近あった良いこと 教えてください ○○で合ってるよね? もう一回言ってみてよ ○○で良かったかなあ? はっきり喋ってくださいよ よし,覚えました もっとお話してくれますか? そっか,またお喋りしてね じゃあねえ‥, お話してほしいな 会話終了 会話開始 図 2 会話の遷移

Fig. 2 Conversation transitions of a system.

表 2 トピック内会話文セットの例

Table 2 Examples of a series of conversation sentences in a topic. トピック 会話文セット内の第一発言文(呼びかけ文) 突然だけど,今何かやりたいこと言ってみてよ 今やりたいことを聞いたら●●って言ってた人がいましたよ 今したいこと 誰かさんに今やりたい事を聞いたら●●って言ってたよ 今やりたいことを聞いてみたら●●って言ってくれた人がいてビックリしました 今何がしたいって聞いたら,●●って言ってた人がいたよ ●●は利用者発言ログの挿入位置である (2) システムとの会話 (3) 間接的なコミュニケーションの達成度 (4) 間接的なコミュニケーションへの関心 なお今回の実験では,システムが人の発言を記録・収集し,それを引用した発言を行う機 能についての説明は,利用者に対して行っていない.純粋な会話ボットとしての魅力的な振 る舞いで利用者とのインタラクションを促進し,システムと利用者とのインタラクションの 観察を通して,システムに対する利用者の気づきや関心を分析する.

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IPSJ SIG Technical Report

表 3 システム前での滞在時間ごとのグループ数 Table 3 Number of groups at time spent of the system.

観察日 合計 滞在時間 (秒) 0 1∼5 6∼10 11∼20 21∼30 31∼60 611日目 193(22) 160(0) 7(0) 3(1) 5(4) 4(4) 6(5) 8(8) 2日目 170(21) 130(0) 8(0) 7(1) 9(5) 4(4) 6(6) 6(5) 表中の数値の単位は全て「グループ」である 括弧内の数値はシステムに話しかけたグループの数である 4.2 実験の概要 和歌山大学システム工学部A棟8階のリフレッシュラウンジ(学生用の休憩室)の入り 口付近にシステムを設置し,人がシステムの付近を通ると声をかけるようにセンサを配置 した. 5日間のシステム設置期間のうち,実験の予備観察を初日に設けた.その後4日間,午前 9時半から午後6時にかけて観察実験を行った.4日間の実験のうち,1日目から2日目に かけて,ビデオで利用者行動を記録した.また後半の2日間,アンケート用紙をシステム付 近に用意し,通りかかる人にアンケートへの回答を行ってもらった.併せてメールにてアン ケートを学生に配布した.

5.

実 験 結 果

5.1 ビデオの分析 利用者の振る舞いをビデオから分析した.システムの前を通りかかった人は1日目は260 人,2日目は222人であり,またそれぞれ193組,170組のグループであった(1人の場合 も1組と数える).通りかかったグループがシステムの前で滞在した時間と,システムに話 しかけたグループ数の内訳を表3に示す.またシステムの前で立ち止まったグループの構 成人数と,システムに話しかけたグループ数の内訳を表4に示す.表4から,利用者が2 人以上で通りかかる場合にシステムに話しかける割合が高くなっていることが分かる.ビデ オでは,システムの前を一人で通りかかった多くの人が,システムに話しかけられたにも関 わらず,システムを一通り眺めた後に,システムに喋ることなく去っていく様子が観察され た.また,複数人で利用したグループの多くで,システムに対して会話を行いながら,その 反応を同伴者とともに楽しむ様子が観察された. 5.2 システム収集データ 4日間の実験でシステムが収集したトピックごとの利用者発言の数とその例を表5に示 表 4 システムの前で立ち止まったグループの構成人数 Table 4 Distribution of group size spent with system.

観察日 グループ構成人数 123451日目 14(7) 15(13) 3(2) 0 1(0) 2日目 27(10) 10(8) 1(1) 1(1) 1(1) 表中の数値の単位は全て「グループ」である 括弧内の数値はシステムに話しかけたグループの数である 表 5 システムが収集した利用者発言数 Table 5 Number of collected user remarks.

トピック 取得した利用者発言 (個) 利用者発言の例 1日目 2日目 3日目 4日目 合計 (1)最近良いことありましたか 0 1 0 0 1 プレゼントもらいました (2)何か質問してくれますか 1 1 2 1 5 今日は元気ある (3)今日の気分はどうですか 2 1 0 0 3 ちゃんと話聞いてね (4)誰かに伝えたいこと 1 0 2 0 3 バージョンがおいしいね (5)今からどこいくの 2 0 0 1 3 研究室に行きます (6)今何してる 0 0 1 2 3 八ベースと話しています (7)今の気持ち 2 0 5 2 9 早くゲームが主体です (8)今したいこと 1 0 0 2 3 ご飯食べたい す.収集したデータにはいくつか認識ミスが見られた.「早くゲームがしたいです」という利 用者の発言が「早くゲームが主体です」のように誤って認識されていた例があった.ビデオ で確認したところ,利用者はシステムの利用者発言の正誤を問う質問に対し,ディスプレイ の表示内容が発言と異なることを認識しながらも,認識結果が正しいと答えていた. また,内容の推測ができる認識ミスのほか,「じゃん」「である」のように,発言の意図が 全く見えないデータも収集された. 5.3 アンケート結果 アンケートは24人からの回答を得た.表6にアンケート結果を示す.アンケートでは 5段階評価のリッカートスケールを用いた.アンケートの質問はカテゴリで区分されてお り,表6(1)でおしゃべり鉢べえへの印象,表6(2)でおしゃべり鉢べえの発言内容,表6(3) でおしゃべり鉢べえの会話について,表6(4)でその他についての質問を行っている.なお 表6(3)については,システムと会話を行った利用者のみに回答してもらった.また自由記 述欄をそれぞれのカテゴリに対して設けた.表6(2)-(エ),(3)-(ウ)については回答の理由 を聞いた.さらにアンケートの最後に実験全体に対する自由記述欄を設けた.

(5)

IPSJ SIG Technical Report

表 6 アンケート結果

Table 6 Result of questionnaire survey.

カテゴリ 質問 回答数 (人) 平均 標準偏差 (1) (ア) 鉢べえの見た目に好感を持った 23 4.2 0.7 (イ) 鉢べえの人を呼びかける動作に好感を持った 23 3.7 0.8 (ウ) 鉢べえの呼びかけの頻度は適切だった 24 3.1 1.1 (エ) 鉢べえと話をしてみたいと感じた 24 3.9 0.8 (2) (ア) 鉢べえの発言の内容が理解できた 24 4.1 0.7 (イ) 鉢べえの発言に興味を持った 24 3.8 0.7 (ウ) 鉢べえが,過去に会話を行った誰かの発言を引用し て発言していると感じた 24 4.1 0.8 (エ) 鉢べえの発言の中に含まれている他人の発言内容に 興味を持った 24 3.6 0.7 (3) (ア) 鉢べえとの会話は楽しかった 19 3.4 1.0 (イ) 鉢べえとの会話は順調に進めることができた 20 2.1 0.7 (ウ) 鉢べえに自分の発言を伝えることができたと感じた 20 2.6 1.0 (4) (ア) 鉢べえに発言を伝えることができれば,自分の発言 が他人に伝えられると感じた 24 3.3 0.8 (イ) 鉢べえが人の発言を第三者に伝えるとしたら,自分 の発言を鉢べえに伝えてもらいたい 24 3.6 0.8 (ウ) 他の人に見られない環境であれば,より長く鉢べえ に接したと思う 24 3.8 0.9 評価の値は,1:強く同意しない,2:同意しない,3:どちらともいえない,4:同意する,5:強く同意する,である

6.

6.1 会話ボットとしての魅力 表6(1)-(ア),(1)-(エ)について高い評価が得られた.自由記述では「なごみ系だと思っ た」「声も見た目もかわいい」などの好意的な記述が多く,システムが利用者から良い印象 を受けていることが分かった.また「可愛らしくて,無視すると罪悪感が生まれてしまう」 など,「かわいい」声での呼びかけがシステムとの会話を強く動機づけていることが分かった. 一方,表6(1)-(ウ)は,平均が3.1と低い評価であった.自由記述では「結構遠くにいて も話しかけられたので困った」「素通りするだけで何か喋っており,少しうるさかった」など の記述があり,システムの頻繁な呼びかけに煩わしさを感じる利用者がいたことが分かった. 6.2 システムとの会話 システムと利用者の会話について考察する. 表6(3)-(イ)が示す会話の成立度についての評価は低い値であった.ビデオからは,多く の利用者がシステムの直前の発言内容に関わらず「こんにちは」と話しかけるなど,システ ムとの自由な会話を求めている様子が見られた.アンケートの自由記述でも「鉢べえから聞 かれて答えるだけでなく,もっとこちら側主体で会話したい」「内容を考慮した反応が返っ てこない気がした」などの記述が多く見られ,利用者がより知的な会話をシステムに望んで いることが分かった. システムの発話中に利用者が発言している様子が何回か観察された.その場合,利用者発 話のタイミングのずれから,利用者の返答を待たずにシステムが次の会話文を喋り始めて しまうということが起きた.表6(3)の自由記述に「話すタイミングが難しい」という記述 があり,システムとの会話のタイミングに合わせることに利用者の負担がかかったことが分 かった.さらに,会話のタイミングのずれに気付かず,システムの前から去っていく利用者 が観察された.利用者はシステムが支離滅裂な発言を繰り返していると感じ,会話に飽きた 様子であった.このことから,利用者の発話タイミングに左右されない柔軟な応答の仕組み が必要であることが分かった. 6.3 間接的なコミュニケーションの達成度 6.3.1 他者の存在の実感 本実験では利用者に対して他者の発言を伝聞する機能は明示していない.しかし表 6(2)-(ウ)が平均4.1と高い値を示していることから,システムの呼びかけなどの振る舞いによ り,利用者にシステムの機能を十分に理解させ,過去に他者がシステムの前で発言を行った ことを実感させることができたと考えられる.また表6(2)-(ア)が高い値を示していること から,利用者がシステムの発言内容を理解した上で,過去に通りかかった誰かの発言の引用 であることをを認識していることが分かった. 6.3.2 発言が他者へ伝達される実感 本システムが提案する間接的なコミュニケーションでは,利用者の情報発信先が明確では ない.そのため発言内容をシステムに伝えてもらえるという実感から,達成度を評価する. 表6(3)-(ウ)に対する評価は平均が2.6と低く,システムへ発言内容を伝えることができ ていないと利用者が感じていることが分かった.自由記述では,音声認識ミスを指摘する 記述が多くあり,思った通りの発言文が画面に出てこなかったことが読みとれた.しかし, 表6(3)-(ウ)に関して評価が高かった複数の回答者から「きちんと聞き返して確認してくれ るので正しく伝わったことが分かった」という記述が得られた.このことから,システムの 聞き返しという動作が,発言が伝わったという実感につながったことが分かった.

(6)

IPSJ SIG Technical Report 6.4 間接的なコミュニケーションへの興味 6.4.1 他者の発言についての興味 他者の発言の興味を聞いた表6(2)-(エ)では,評価の平均は3.6であった.表6(2)-(エ)に 対する自由記述では「発言内容がリアルだったりして,噂話を聞いてる気分になった」「み んながどんなことを言ったのかが気になる」など,同一空間にいたであろう他者の発言に対 する高い関心が読みとれる記述があった.一方で評価が低かった利用者については「発言内 容が似かたよっている気がした」「喋る内容が増えていない」などの,引用する他者の発言 のバリエーションの不足に対する不満が多く見られた.このことから,システムの利用者発 言収集能力を向上させ,他者の発言のバリエーション不足を解決することができれば,他者 の発言へのより高い興味を引き出すことができると考えられる. 6.4.2 他者への情報発信についての興味 アンケートの表6(4)-(イ)について,他者への情報発信についての興味を聞いたところ, 評価は平均3.6であった.高い評価をしている回答者からは「新しい発見,イベントを伝え たい」「自分のマイブームを伝えたい」「トリビア(豆知識)ばかりを蓄積すれば,触れ合う 人が色々な新たな発見をするかもしれない」などの記述があり,他者に対する積極的な情報 発信を望む利用者がいることが分かった.ある利用者からは「8階ローカルでの情報共有に 使える(廊下が滑りやすいから気を付けて!など)」という記述があり,空間を共有する第 三者ならではの情報共有ツールとしての有用性を感じていることが分かった.また自由記述 において「特定の人へのメッセージなら伝えたい」などの記述があり,一部の利用者は面識 のある相手への情報発信にシステムを利用したいと考えていることが分かった.

7.

お わ り に

ある人が話した内容をさらに別の人に伝聞することで,公共空間における第三者間のゆる やかなコミュニケーションを生む会話ボットシステムを開発し,観察実験を行った.その結 果,以下の4つのことが分かった. (1) システムの可愛らしい外見と声は,利用者のシステムへの会話の動機づけとなった. (2) 利用者の多くは,システムとの自由な会話を望んでいた. (3) 利用者はシステムの振る舞いから,システムと過去に会話した他者の存在を実感する ことができた. (4) 利用者はシステムが伝える他者の発言について興味を示しており,一部の利用者は他 者への積極的な情報発信を望んでいた. 今回の実験で,利用者の多くがより知的な会話をシステムに望んでいたことが分かった. このことから,システムの会話能力を向上させ,利用者の発言の内容に対応した返答文を返 すことができれば,システム利用頻度の増加が期待できる.利用の増加により収集される利 用者発言が増加すれば,他利用者の発言へのより高い興味が得られる可能性があり,そこか ら第三者間の活発な情報交換が実現できると考えている. 今後は,利用者の発言に対してより知的な返答をさせることでの会話能力の向上を行い, 活発な情報交換が可能なシステムを目指す.また同一空間を共有する他者とのコミュニケー ションが可能である特徴を生かし,システムの有効な活用方法を検討していく. 謝辞 本研究は,日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)(19300036)の補助を受けた.

参 考 文 献

1) 笹間亮平 他:コミュニケーション活性度に基づいて発話制御を行う初対面紹介エー ジェント,情報処理学会研究報告,Vol.2009-HCI-133,No.9,pp.1-8 (2009). 2) 通山和裕,西尾信彦:公共空間における周囲の第三者とのコミュニケーション支援の ための自己プレゼンス,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2007)シ ンポジウム,pp.1305-1313 (2007). 3) ソフトバンクモバイル:ちかチャット,http://mb.softbank.jp/mb/service/3G/ communication/chika/ (参照2009-12-11). 4) 上松大輝 他:タグ付けされた場所に基づいたコミュニケーション支援,人工知能学 会全国大会論文集,Vol.19,1C2-02 (2005).

5) Erving Goffman: Behavior in Public Places : Notes on the Social Organization of Gatherings, The Free Press of Glencoe (1963).丸木恵祐,本名信行(訳):集まりの 構造―新しい日常行動論を求めて(ゴッフマンの社会学4),誠信書房(1980).

6) Eric Paulos, Elizabeth Goodman: The Familiar Stranger: Anxiety, Comfort, and Play in Public Places, CHI2004, pp.223-230 (2004).

7) 神田崇行 他:日常生活の場で長期相互作用する人間型対話ロボット,日本ロボット 学会誌,Vol.22,No.5,pp.636-647 (2004). 8) 長尾 確:会話インタフェースロボットとの状況依存会話,会話的リアリティのための 知的メディア技術国際ワークショップ(2002). 9) 鹿野清宏 他:音声情報案内システム「たけまるくん」および「キタちゃん」の開発, 情報処理学会研究報告,Vol.2006-SLP-63,No.107,pp.33-38 (2006).

10) 河原達也,李 晃伸:連続音声認識ソフトウェアJulius,人工知能学会誌,Vol.20,No.1,

Fig. 1 Appearance of a potted conversation bot.
表 1 トピック一覧 Table 1 List of all topics.
表 3 システム前での滞在時間ごとのグループ数 Table 3 Number of groups at time spent of the system.
表 6 アンケート結果

参照

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