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静的載荷実験に基づく杭頭部の損傷度評価法の検討 柏尚稔 1) 坂下雅信 2) 向井智久 3) 平出務 4) 1) 正会員国土交通省国土技術政策総合研究所 主任研究員博士 ( 工学 ) 2) 正会員国立研究開発法人建築研究所 主任研

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静的載荷実験に基づく杭頭部の損傷度評価法の検討

柏尚稔

1)

、坂下雅信

2)

、向井智久

3)

、平出務

4) 1) 正会員 国土交通省国土技術政策総合研究所、主任研究員 博士(工学) e-mail : Kashiwa-h92ta@nilim.go.jp 2) 正会員 国立研究開発法人建築研究所、主任研究員 博士(工学) e-mail : m-saka@kenken.go.jp 3) 正会員 国立研究開発法人建築研究所、主任研究員 博士(工学) e-mail : t_mukai@kenken.go.jp 4) 非会員 国立研究開発法人建築研究所、主任研究員 博士(工学) e-mail : hirade@kenken.go.jp 要 約 杭の損傷度評価法を構築するために必要となる実証データの収集を目的として、場所打ち コンクリート杭の杭頭部を模擬した円形断面を有する鉄筋コンクリート造試験体の静的載 荷実験を実施した。本報告では、実験における杭試験体の損傷進展性状を示すと共に、杭 頭部の損傷評価指標として杭曲率を用いる場合の留意点を示す。さらに、杭に作用する軸 力比が杭頭部の最終的な破壊形態および杭頭部の損傷に伴う基礎の沈下性状に影響を及ぼ すことを示す。 キーワード: 杭の損傷評価、杭の水平抵抗、静的載荷実験、場所打ちコンクリート杭、 1. はじめに 上部構造慣性力に対する杭の耐震性能評価用の解析モデルとして、杭部材を離散はり要素を軸方向に 連続させるモデル化をすることが一般的1)である。大地震に対する杭の耐震設計を考えると、想定する 地震外力によっては杭の損傷度評価が必要になるケースが十分に考えられる。部材の損傷度を評価する 指標は部材の変形量とすることが一般的であるが、杭の場合には部材性能を曲げモーメント-曲率関係 で与えることが多いため、杭に生じる曲率によって杭の損傷度を評価することになる。杭の損傷の進展 性状は上部構造の柱など鉛直荷重を受け持つ部材と共通点があるものと思われるが、上部構造の柱の損 傷度は層間変形角もしくは部材変形角で評価されることが一般的であり、曲率で評価されるケースは少 ない。また、杭部材を対象として杭の損傷度を曲率で評価することを目的とした実証実験例えば2、3)の数も 少ないため、曲率を用いた杭の損傷度評価法が確立されているとは言い難い。そこで、杭の損傷度評価 法を構築するために、基礎的な実証データを収集することを目的として、場所打ちコンクリート杭の杭 頭部を模擬した円形断面を有する鉄筋コンクリート造試験体の静的載荷実験を実施した。本報告では、 実験における杭試験体の損傷進展性状を示すと共に、杭頭部の損傷評価指標として杭曲率を用いる場合 の留意点を示す。さらに、杭に作用する軸力比が杭頭部の最終的な破壊形態および杭頭部の損傷に伴う 基礎の沈下性状に影響を及ぼすことを示す。 2. 実験方法 図1に試験装置と試験体への作用外力の概要図、表1に実験ケース表、図2に試験体の配筋図およびファ

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イバー解析による杭の断面性能を示す。試験体は載荷梁を介して3本のオイルジャッキにより加力される 機構となっている。試験体は上スタブ、下スタブおよび杭部から成り、下スタブをフーチングと想定し、 杭の上下を反転させた形で載荷装置に設置している。鉛直荷重は、下スタブ上端から2995mmの位置で 載荷梁にピン接合された鉛直ジャッキにより作用させる。鉛直ジャッキの載荷フレーム側の端部はロー ラ条件になっており、水平載荷に伴って水平方向に可動する。水平荷重は、載荷梁の両端に取り付けら れた2本の水平ジャッキにより、変位制御で作用させる。2本の水平ジャッキは、それぞれに作用する載 荷荷重が同じになるようにコンピュータ制御されており、水平載荷に伴って載荷梁の回転変位が生じて も水平載荷の合力位置はほぼ一定と見なすことができる。 図1に示すように、本実験での載荷装置セットアップとして、鉛直ジャッキの取り付け位置と杭頭部の 距離が長く、杭頭部に大きなPΔモーメントが作用する特徴がある。水平ジャッキの荷重をP1、P2、水平 ジャッキの合力位置と杭頭部の距離(すなわち、シアスパン)をl0、鉛直ジャッキの荷重をN、杭頭モー Main :20-D10(SD390) Hoop :D4(SD295A)@40 400 322 1000 (c) 杭の断面性能 (a) 試験体配筋図(Unit:mm) (b) 杭部断面図(Unit:mm)

図2 試験体の配筋図およびファイバー解析による杭の断面性能 0 100 200 300 0 2 4 曲げモーメント(kN x m) N-2S N-3L N-2L  / y (-) 終局曲率 (maxc=co) ケース 名 M /Qd N/Ny 最大 変形角 cσy (MPa) Ec (MPa) φy (1/m) εco (-) 終局 (kNm) N-3L 3 0.15 2% 27.57 25067 0.01048 0.00426 165 N-2L 2 0.15 6% 30.77 29500 0.01095 0.00424 174 N-2S 2 0.4 3% 29.45 27433 0.00913 0.00425 219 表1 実験ケース ※降伏曲率は最外縁の鉄筋降伏時でファイバー解析より定義 ※終局耐力は矩形置換による略算式で計算 1995 P1 P2 N 下スタブ + - M/Q 2995 Control point 図1 試験装置と試験体への作用外力の概要図(Unit:mm) P1+P2 N Δ u0 Npc Mpc Qpc l0 l1=2995 杭部 剛体 (スタブ) 杭部 上スタブ 載荷フレーム 載荷梁

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メント、杭頭せん断力、杭頭軸力をそれぞれMpc、Qpc、Npcとし、杭頭軸力の作用位置を杭断面の重心位 置と仮定すると、杭頭部のモーメントの釣合いより杭頭モーメントおよび杭頭せん断力は次式で計算さ れる。 Mpc = (P1+ P2)l0 + NΔ (1) Qpc = (P1+ P2) + NΔ / 2995 (2) 表1に示すように、本実験ではシアスパン比および軸力比をパラメータとして、3ケースを実験した。 N-3Lは、部材断面を決定する際に想定した建物の長期軸力相当の鉛直荷重(軸力比0.15)を作用させ、 シアスパン比を3に設定したケース、N-2Lは長期軸力相当の鉛直荷重(軸力比0.15)を作用させ、シアス パン比を2に設定したケース、N-2Sは側柱直下の杭を想定して極めて大きな鉛直荷重(軸力比0.4)を作 用させ、シアスパン比を2に設定したケースである。いずれの実験ケースでも試験体も図2に示す共通の ディテールを持つ。杭径は400mm、杭部長さは1000mmであり、杭部の主筋は20-D10(SD390)、せん断 補強筋はD10@40(SD295A)である。表1には、円形断面を矩形置換し、略算式4)で計算した終局耐力を 示す。本実験では、水平加力は漸増振幅で正負交番繰返し載荷とし、載荷振幅は図1のControl Pointの変 形角として±1/800、1/400の順に1回ずつ、続いて1/200、1/100、1/50、1/33、1/25、1/20、1/16の順に2回 ずつ繰り返し載荷し、載荷が不能になった時点で実験を終了する。変位制御する位置は、上スタブの下 端に取り付けられた水平変位計(図3のuh5)とし、杭の部材長さで除した値を載荷振幅とする。杭の断 面性能を表している図2(c)はファイバー解析より計算した杭断面の曲げモーメント-曲率関係である。 曲率φはファイバー解析で最外縁の主筋が降伏した時の曲率φyで規準化している。なお、引張側、圧縮側 それぞれの主筋が降伏した時の曲率のうち小さい曲率をφyとしている。また、以降に説明する実験結果 における曲率もファイバー解析で評価したφyで規準化して塑性率として示している。ファイバー解析に よって評価した。ファイバー解析に用いた解析ツールはRESP F3T5)である。鉄筋要素は図2(b)の杭断面 の主筋位置に配置し、コンクリート要素は半径方向に16分割して同心円状に配置した。鉄筋の材料モデ ルにはバイリニア、コンクリートの材料モデルにはNewRCモデル6)を用いた。主筋および補強筋の降伏 応力はそれぞれ390×1.1(MPa)、295×1.1(MPa)とし、コンクリート要素の降伏応力および基準ひずみは 表1のとおりである。 uh5 uh4 lh1= 150 Lh2 = 100 lh3= 275 lh4= 275 lh5= 200 uh3 uh2 uh1 vr1 vr2 lsr (a) 杭部軸方向変位 um1-2(lm1= 50) um2-2(lm2= 100) um3-2(lm3= 100) um6-2(lm6= 100) um7-2(lm7= 100) um4-2(lm4= 275) um5-2(lm5= 275) um7-1 um6-1 um5-1 um4-1 um3-1 um2-1 um1-1 wdi wei ひずみゲージ (b) 杭部水平方向・上スタブ回転変位 図3 計測計画(Unit:mm)

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図3に計測計画を示す。図3(a)に示す矢印は曲げ変形を計測するための軸方向変位計であり、次式によ って杭部に生じる計測区間のたわみ角θmiおよび曲率φmiを計算する。 θmi = (umi-1 - umi-2) / wdi ( i = 1~7 ) (3) φmi = θmi / lmi ( i = 2~7 ) (4) なお、杭頭接合部から50mmの区間のたわみ角θm1には杭部の曲げ変形と杭頭接合部の回転変形が含まれ る。そこで、当該区間における杭部の曲率φm1は式(3)による曲率φm2に等しいと仮定し、たわみ角θm1と曲 げ変形によるたわみ角の差分を杭頭接合部の回転変形角とする。杭部には杭頭から100mm下スラブ内に 入った断面位置と、杭頭から20mm, 140mm, 260mm, 380mmの断面位置において最外縁とその両隣の主筋 にひずみゲージを貼り付けている。また、杭頭から20mm, 140mmの断面位置では20本の全主筋にひずみ ゲージを貼り付けており、水平載荷時の断面の変形状態を評価することができる。図3(b)に示す矢印は 杭部の水平変位を計測するための水平方向変位計と上スタブの回転量を計算するための軸方向変位計の 位置を示している。 3. 杭曲率による杭頭部の損傷評価 以下では、各実験ケースにおける杭の部材変形角をシアスパンに対する水平ジャッキの合力位置の杭 部変位量として定義する。 3.1 杭頭部の損傷状態 図4~7に、繰返し水平載荷に伴う杭部の損傷状況を示したひび割れ図を示す。図4は載荷振幅0.5%時、 図5は1.0%時、図6は2.0%時、図7は3.0%時の損傷状況を示している。杭部のひび割れ状況は杭部の載荷 直交方向半面分に記した幅120mm、高さ200mmの25個のグリッドごとに記録した。図4より、載荷振幅 0.5%においてはシアスパン比が大きく軸力比が小さいN-3Lでひび割れの発生領域が大きくなっており、 杭頭より600mm程度の領域までひび割れが認められる。一方で、シアスパン比が小さく、軸力比の大き 図4 杭部の損傷状況-載荷振幅0.5%時 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S 図6 杭部の損傷状況-載荷振幅2.0%時 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S 図5 杭部の損傷状況-載荷振幅1.0%時 図7 杭部の損傷状況-載荷振幅3.0%時 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S なし 200mm 120mm

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いN-2Sでは杭頭から200mm程度までの領域でひび割れが認められ、杭の損傷領域はシアスパン比と軸力 比の影響を受ける。図5より、載荷振幅1.0%においても杭の損傷領域には同様の傾向が認められるが、 軸力比の大きいN-2Sでは圧縮側のコンクリート表面に圧壊の形跡と考えられるひび割れが発生する。図 6より、載荷振幅2.0%になると、軸力比の小さいN-3L、N-2Lでも圧縮側のコンクリート表面に圧壊の形 跡と考えられるひび割れが発生し、軸力比の大きいN-2Sではカバーコンクリートの剥落が生じる。図7 より、載荷振幅3.0%において、軸力比の大きいN-2Sではコンクリートの圧壊領域が拡大する。 3.2 杭頭部の水平抵抗と軸変形量 図8に杭頭モーメント(図1のMpc)-部材変形角関係、図9に杭部の軸変形量-部材変形角関係を載荷 振幅2.0%までで示す。図8ではPΔモーメントを加算しない結果(PΔなし)も併せて示している。主筋の ひずみや杭部の損傷状況から、いずれの実験ケースにおいても、部材変形角2%までの変位領域で終局状 態になっていると判断できるため、本節以降では載荷振幅2.0%までの変位領域の実験結果より杭頭部の 損傷評価法を検討する。図8より、いずれの実験ケースにおいても、杭頭モーメントにPΔモーメントを 考慮した値(PΔ考慮)は載荷振幅2.0%までの変位領域では、荷重低下がほとんど生じていない。図8(a)、 (b)の比較より、杭頭モーメントにシアスパン比の影響は見られず、両者の杭頭モーメントはほとんど変 わらないが、図8(b)、(c)の比較より、杭頭モーメントに軸力比の影響は認められ、軸力比の大きいN-2S は他の2ケースよりも大きな杭頭モーメントを負担している。図9より、軸力比は杭部の軸変形量にも影 響を及ぼしており、軸力比が大きいN-2Sでは載荷振幅の増大による杭部の損傷進展に伴って、部材変形 角0%での杭部の軸方向縮み量が増大する。一方、軸力比が小さいN-3L、N-2Lでは、載荷振幅が増大し ても部材変形角0%での杭部の軸方向の縮み量が生じていない。 3.3 杭の曲げ変形特性 図10にファイバー解析によるM-N相関曲線と実験での荷重状態の軌跡を示す。ファイバー解析におけ る各ケースの最大杭頭モーメントはN-3L:150kNm、N-2L:155kNm、N-2S:193kNmであり、表1に示し ている矩形置換による略算値よりも1~2割程度小さめの評価値となっている。一方、軸力比の小さい N-3LおよびN-2Lの最大杭頭モーメントの実験値はそれぞれ185kNm、206kNm、軸力比の大きいN-2Sの最 大杭頭モーメントの実験値は299kNmであり、実験値は軸力比の小さいケースでは2~3割程度、軸力比 Pなし P考慮 -400 0 400 -2 -1 0 1 2 杭頭モーメント (kN x m) 部材変形角 (%) 圧縮筋降伏 Pなし P考慮 -400 0 400 -2 -1 0 1 2 杭頭モーメント (kN x m) 部材変形角 (%) 引張筋降伏 Pなし P考慮 -400 0 400 -2 -1 0 1 2 杭頭モーメント (kN x m) 部材変形角 (%) 引張筋降伏 図9 杭部の軸変形量-部材変形角関係(載荷振幅2.0%まで) -1 0 1 2 3 -2 -1 0 1 2 軸変形量 (mm) 部材変形角 (%) -1 0 1 2 3 -2 -1 0 1 2 軸変形量 (mm) 部材変形角 (%) -1 0 1 2 3 -2 -1 0 1 2 軸変形量 (mm) 部材変形角 (%) 図8 杭頭モーメント-部材変形角関係(載荷振幅2.0%まで) (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S

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の大きいケースでは6割程度、解析値より大きい。軸力比の大きいN-2Sではコンクリートの圧壊が先行 して最大耐力が決まるため、コンクリートの耐力が最大杭頭モーメントに影響を及ぼしていると考えら れる。実験での最大杭頭モーメントが解析値より大きくなる現象に対しては、コンクリートの材料特性 として高強度コンクリート用のNewRCモデルを用いていることや、コンクリートの圧縮破壊時における せん断補強筋もしくは下スタブによる拘束効果による強度上昇等の原因が考えられるが、明確な要因は 不明である。 図11に載荷振幅0.125%および2.0%時について、各ケースの杭部の変位分布を示す。図中の「杭曲げ」 は杭頭回転固定条件で式(3)を用いて算出した杭曲率の2階積分により算出した分布、「杭曲げ+接合部」 は、杭曲げの変位分布に接合部回転角に伴う水平変位を加算した分布、「水平合計」は図3(b)に示した 杭部水平方向変位計による計測値を示している。いずれのケースでも載荷振幅0.125%では、杭曲げ+接 合部の変位は杭曲げのみの倍程度の変位量になっており、本実験では杭頭接合部における主筋の抜け出 し等に伴う接合部回転角が杭変位に及ぼす影響は大きいと考えられる。載荷振幅2.0%においても接合部 回転角の影響が見られるが、軸力比の大きいN-2Sでは杭曲げと杭曲げ+接合部の変位分布の差が小さく なっており、杭の損傷が進展することにより杭の曲げ変形が卓越することが分かる。一方、水平合計と 杭曲げ+接合部の変位分布の差は小さく、載荷振幅2.0%までの変位領域においては杭のせん断変形は小 さいことが分かる。 図12にひずみゲージを貼り付けた断面位置である杭頭部より20mmおよび140mmの位置における杭部 主筋のひずみ分布を正側加力時について示す。主筋ひずみは引張を正とする。軸力比の小さいN-3L、N-2L では引張側の主筋ひずみが圧縮側よりも大きく((a-1), (a-2), (b-1), (b-2))、図8と併せて考えると、引張 側の主筋の降伏が生じた後で杭頭部の剛性が低下する。一方、軸力比の大きいN-2Sでは圧縮側の主筋ひ ずみが引張側よりも大きく、140mmの断面においては載荷振幅1.0%で圧縮側の主筋ひずみの著しい増大 が認められる((c-2)の140mm)。このとき、圧縮側のコンクリートについても大きなひずみが生じてい ると考えられ、N-2Sではコンクリートの圧壊が先行して杭頭部の剛性が低下すると判断できる。このよ うに、軸力比が異なることによって杭頭部の損傷過程が異なる。図9の杭部の軸変形量と併せて考えると、 コンクリートの圧壊が先行して生じるN-2Sで軸変形量の増大が認められることから、コンクリート部の 圧壊が基礎の沈下に大きな影響を及ぼすと考えられる。一方、コンクリート部の著しい圧壊が生じない 0 25 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 水平 合計 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 0 25 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 水平 合計 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 0 25 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 水平 合計 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 0 2 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 水平 合計 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 0 2 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 水平 合計 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 0 2 0 1000 Disp. (mm) 高さ(mm) 杭曲げ+ 接合部 杭曲げ 水平 合計 図11 杭部の変位分布 (a-1) N-3L 0.125% (a-2) N-3L 2.0% (b-1) N-2L 0.125% (b-2) N-2L 2.0% (c-1) N-2S 0.125% (c-2) N-2S 2.0% 図10 ファイバー解析によるM-N相関曲線と実験での荷重状態の軌跡 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 杭頭モーメント(kN x m) 軸力比(-) 終局耐力 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 杭頭モーメント(kN x m) 軸力比(-) 終局耐力 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 杭頭モーメント(kN x m) 軸力比(-) 終局耐力 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S

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限り、杭部の損傷により基礎はほとんど沈下しないと言える。 ここで、杭の損傷進展に伴う曲げ剛性の変化を分析する。図12の杭頭から20mmの位置におけるひず み分布に対して最小二乗法で補間し、計算結果としての直線の傾きをひずみゲージによる曲率として評 価する。さらに当該位置で作用している曲げモーメントを曲率で除することで等価曲げ剛性を計算する。 そして、表1のコンクリート剛性と図2の杭断面を参照して断面計算より初期剛性を算出し、等価曲げ剛 性を初期剛性で規準化することによって剛性低下率を算出する。図13に、正載荷1サイクル目の曲率に対 する曲げ剛性低下率を示す。図中の黒破線は円形断面を矩形置換しあて文献4)の略算式を用いて計算し た剛性低下率を示しており、図中の塑性率1.0の剛性低下率に相当する。いずれの実験ケースでも実験の 初期剛性は1.0を超えており、断面計算による値よりも大きい。同様に、塑性率1.0の実験の剛性低下率は 文献4)の略算値よりも大きくなっており、特に、軸力比の大きいN-2Sで3倍以上の差となっている。 3.4 杭曲率による杭頭部の損傷評価 図14に杭頭部の曲率の評価方法を示す。図3(a)もしくは図13(a)に示すように、本実験では杭部の長さ 1000mmの区間を7分割して、それぞれの区間で曲率を計測している。本実験は片持ち梁形式で載荷して いるため、実際は図13(a)の各区間内で曲率が変化することになるが、式(3)、(4)によって曲率を計算する と、図14(a)の区間内の平均曲率が算出されることになる。これを区間平均曲率と称する。一方、杭の耐 震性能評価用の解析モデルとしては、杭部材を離散はり要素の連続体としてモデル化することが一般的 20mm 140mm -10000 0 10000 20000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy 図12 正側加力時の杭部主筋のひずみ分布 (a-2) N-3L, 1.0% (b-2) N-2L, 1.0% (c-2) N-2S, 1.0% 20mm 140mm -3000 0 3000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy 0.125% 0.5% 20mm 140mm -3000 0 3000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy 0.125% 0.5% 20mm 140mm -3000 0 3000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy 0.125% 0.5% 20mm 140mm -10000 0 10000 20000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy 20mm 140mm -10000 0 10000 20000 -200 0 200 主筋ひずみ() 断面位置 (mm) yy (a-1) N-3L, 0.5%まで (b-1) N-2L, 0.5%まで (c-1) N-2S, 0.5%まで 0 1 2 3 0.01 0.1 1 剛性低下率 (-)  / y (-) 実験値 5 0.43 文献4)の略算値 0.21 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S 図13 正載荷1サイクル目の曲率に対する曲げ剛性低下率 0 1 2 3 0.01 0.1 1 剛性低下率 (-)  / y (-) 実験値 5 0.33 文献4)の略算値 0.16 0 1 2 3 0.01 0.1 1 剛性低下率 (-) 文献4)の略算値  / y (-) 実験値 5 0.7 0.23

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であり、杭頭部に対しても適切な要素長さを持つ離散はり要素でモデル化する場合が多いと考えられる。 このとき、はり要素の非線形特性は曲げモーメント-曲率関係で与えられるが、曲率の評価区間長さは 要素長さと同様に重要なファクターとなる。実験結果より解析モデルの設定に資する情報を抽出するた め、図14(b)に示すように、杭頭部からの部材長さを3種類設定し、本実験での曲率の評価がどのように 変化するかを分析する。なお、図14(b)により設定した曲率を杭頭平均曲率と称する。 図15にケースN-3Lにおける区間平均曲率と曲げモーメントの関係を載荷振幅2.0%までで示す。曲げモ ーメントは曲率の各評価区間における中心位置の曲げモーメントとしている。杭頭接合部に近いφm2φm3では正載荷時と負載荷時で履歴形状が大きく異なり、いずれも正負で非対称な履歴となっている。こ れは、正載荷時と負載荷時で杭が損傷した区間が異なり、それに伴って曲率の集中する箇所が異なるこ とによると考えられる。 図16にケースN-3Lにおける振幅最大変位時の区間平均曲率分布を示す。階段状の実線は変位計より算 出した曲率、色丸のプロットはひずみゲージより算出した曲率である。載荷振幅0.125%では曲率分布は 正負で対称となっているが、載荷振幅1.0%では杭頭部の損傷のため(図5参照)、損傷個所で杭曲率が著 しく増大する箇所が現れて、曲率分布は正負で非対称となる。 図17に杭頭平均曲率と曲げモーメントの関係、図18に各振幅最大変位時の杭頭平均曲率と曲げモーメ -400 0 400 -20 -10 0 10 20 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -400 0 400 -20 -10 0 10 20 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -400 0 400 -20 -10 0 10 20 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 図17 杭頭平均曲率と曲げモーメントの関係 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S 図18 各振幅最大変位時の杭頭平均曲率と曲げモーメントの関係 -400 0 400 -10 -5 0 5 10 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -400 0 400 -10 -5 0 5 10 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -400 0 400 -10 -5 0 5 10 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S 図15 ケースN-3Lの区間平均 曲率と曲げモーメントの関係 -300 0 300 -10 0 10 曲げモーメント (kN x m)  / y (-) m2m4m3 φm1(50) φm2(100) φm3(100) φm6(100) φm7(100) φm4(275) φm5(275) 杭頭 -0.5 00 0.5 1000  / y (-) 高さ (mm) 正 載荷 負 載荷 ひずみ ゲージ 変位計 -10 00 10 1000 高さ (mm)  / y (-) 正 載荷 負 載荷 ひずみ ゲージ 変位計 図16 ケースN-3Lの振幅最大 変位時の区間平均曲率分布 (a) 0.125%時 (b) 1.0%時 φm2(100) avgφm3(200) avgφm4(475) 図14 杭頭部の曲率の評価方法 (括弧内は評価区間の長さ) (a) 区間平均 (b) 杭頭平均

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ントの関係を示す。図中のφm2のように杭頭平均曲率の評価区間長さを小さくすると、曲げモーメント- 杭頭平均曲率関係は非対称となり(図18)、評価区間で杭に損傷が生じた場合には著しい曲率の増大とし て評価される(図18)。この傾向はシアスパン比や軸力比に因らず認められる。一方、評価区間長さを大 きくすると、曲げモーメント-杭頭平均曲率関係は対称形に近づき、正負共に同程度の塑性率で評価さ れる。ただし、φm2avgφm4の比較から明らかなように、評価区間長さを大きくすると評価される曲率は かなり小さくなる。 図19に各載荷振幅の最大変位時における杭頭部曲率の評価区間長さによる比較を示す。まず、軸力比 の小さいN-3LとN-2Lには大きな違いが見られない。図4で示したように、シアスパン比によって杭の損 傷領域には差異が見られたが、杭径程度の長さで曲率の評価区間長さを設定した場合では、杭頭平均曲 率への影響は小さいと言える。次に、塑性率が1.0よりも小さい場合には評価区間長さの違いによる曲率 の差異が小さい。一方、塑性率が1.0を超える変形領域では、図3(c)のファイバー解析の結果より、最外 縁のコンクリートが圧壊し始める塑性率がN-3LやN-2Lで3程度となっているが、当該ケースにおける avgφm4(図19(a)、(b))は部材変形角2%で2程度となっており、実験と解析の塑性率に乖離が生じている。 本実験の場合においては、ファイバー解析において杭主筋が降伏した時の曲率を降伏曲率と定義して杭 の塑性率を計算しているため、曲率の評価区間長さを杭径程度として計算した実験での塑性率と、ファ -10 -5 0 5 10 -2 -1 0 1 2 部材変形角 (%)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -10 -5 0 5 10 -2 -1 0 1 2 部材変形角 (%)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 -10 -5 0 5 10 -2 -1 0 1 2 部材変形角 (%)  / y (-) m2 avgm3 avgm4 図19 正載荷1サイクル目の部材変形角に対する杭頭部曲率の評価区間長さによる比較 (a) N-3L (b) N-2L (c) N-2S -4 0 4 8 -6 -4 -2 0 2 4 6 軸変形量 (mm) 部材変形角 (%) -4 0 4 8 -6 -4 -2 0 2 4 6 軸変形量 (mm) 部材変形角 (%) Pなし P考慮 -400 0 400 -6 -4 -2 0 2 4 6 杭頭モーメント (kN x m) 部材変形角 (%) Pなし P考慮 -400 0 400 -6 -4 -2 0 2 4 6 杭頭モーメント (kN x m) 部材変形角 (%) 図22 杭部の軸変形量-部材変形角関係(載荷振幅2.0%以降) 図21 杭頭モーメント-部材変形角関係(載荷振幅2.0%以降) (a) N-2L (b) N-2S (a) N-2L (b) N-2S (a) N-2L, -6.0%除荷後 (b) N-2S, -3.0%除荷時 図20 実験終了時の損傷状況

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イバー解析による塑性率では、同じ杭の損傷状態でも異なる値を示す。よって、杭頭部の損傷評価のた めには、評価区間長さに応じた塑性率と杭の損傷状態の関係を把握しておく必要がある。 4. 大変形時の杭頭部の破壊形態 図20に実験終了時の杭頭部の損傷状況、図21に載荷振幅2.0%以降の杭頭モーメント-部材変形角関係、 図22に杭部の軸変形量-部材変形角関係を示す。なお、ケースN-3Lでは載荷振幅2.0%を超える載荷を実 施していない。軸力比の小さいN-2Lでは、載荷振幅6.0%を経験後、杭頭部が著しく曲げ圧壊した(図20(a))。 図21(a)より、載荷振幅5.0%程度まで杭頭モーメントの低下が見られなかった。また図22(a)より、杭部の 軸変形量についても、載荷振幅5.0%程度まで部材変形角0%での杭部の軸方向の縮み量が生じていない。 一方、軸力比の大きいN-2Sでは、載荷振幅3.0%1サイクル目の負側で最大振幅経験後、2サイクル目の正 載荷時に杭部のせん断破壊が生じた(図20(b))。図21(b)より、載荷振幅2.0%以降に杭頭モーメントの低 下が認められる。また図22(b)より、杭頭部にせん断破壊が生じると、杭部の軸方向の縮み量が著しく増 大する。 5. まとめ 本報告では、杭の損傷度評価法の構築を目的として実施した、場所打ちコンクリート杭の杭頭部を模 擬した鉄筋コンクリート造試験体の静的載荷実験の結果を示すと共に、杭頭部の損傷評価指標として杭 曲率を用いる場合の留意点を明らかにした。以下に、得られた具体的な知見を示す。  杭部に作用する軸力比によって杭頭部の損傷過程が異なり、軸力比0.15のケースでは引張側の主筋 の降伏が先行し、その後、コンクリートの圧壊が生じるが、軸力比0.4のケースでは圧縮側の主筋の 降伏およびコンクリートの圧壊が先行し、その後、引張側の主筋が降伏する。  杭部に作用する軸力比が大きい場合(実験においては軸力比0.4)、載荷振幅の増大による杭部の損 傷進展に伴って杭部の軸方向の縮み量が増大する。一方、軸力比が小さい場合(実験においては軸 力比0.15)、載荷振幅が増大しても杭部の軸方向の縮み量はほとんど変化しない。すなわち、コン クリート部の圧壊が基礎の沈下に大きな影響を及ぼし、コンクリート部の著しい圧壊が生じない限 り、杭部の損傷により基礎はほとんど沈下しないと言える。  杭の損傷状態を曲率で評価する場合、曲率の評価区間長さを小さくすると、損傷が生じた領域を曲 率の著しい増大として評価する。  上部構造慣性力に対する杭の耐震性能評価用の解析モデルとして、杭部材を離散化したはり要素の 連続体としてモデル化することが一般的であるが、損傷領域の杭曲率を一定と仮定してモデル化す る場合、同じ損傷状態でも評価区間長さによって杭曲率が異なる。よって、杭頭部の損傷評価のた めには、評価区間長さに応じた塑性率と杭の損傷状態の関係を把握しておく必要がある。  軸力比が大きい場合には、大変形時の杭頭部の破壊形態としてせん断破壊に至る可能性がある。杭 頭部にせん断破壊が生じると、杭部の軸方向の縮み量が著しく増大する。 謝 辞 本研究は建築研究所の研究課題「庁舎・避難施設等の地震後の継続使用性確保に資する耐震性能評価 手法の構築(2013-2015)」及び当該課題の共同研究により実施した。関係者に謝意を表します。 参考文献 1) 日本建築学会 : 基礎構造設計指針, 2001.10. 2) 日本建築学会 : 建築耐震設計における保有耐力と変形性能, 1990.10. 3) 金子治, 中井正一, 向井智久, 飯場正紀, 平出務, 阿部秋男 : 大地震時に対する耐震性能評価のた めの既製コンクリート杭の曲げ強度と変形特性, 日本建築学会技術報告集 21(47), pp.95-98, 2015. (DOI : 10.3130/aijt.21.95) 4) 2015年版建築物の構造関係技術基準解説書, 2015.6. 5) 構造計画研究所 : RESP-F3T 利用者マニュアル, 2010.5. 6) 日本建築学会 : 鉄筋コンクリート造建物の耐震性能評価指針(案)・同解説, 2004.1.

参照

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