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博士の学位論文審査結果の要旨

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Academic year: 2021

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博士の学位論文審査結果の要旨

申 請 者 氏 名 小畑 聡一朗 横浜市立大学大学院医学研究科 生殖生育病態医学 審 査 員 主 査 横浜市立大学大学院医学研究科 教授 竹内 一郎 副 査 横浜市立大学大学院医学研究科 教授 井濱 容子 副 査 横浜市立大学大学院医学研究科 准教授 金田 朋洋

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博士の学位論文審査結果の要旨

Emergent Uterine Artery Embolization Using N-Butyl Cyanoacrylate in Postpartum Hemorrhage with Disseminated Intravascular Coagulation.

血管内播種性凝固症候群を伴う産後過多出血に対する N-Butyl Cyanoacrylate を 用いた動脈塞栓術の有効性の検討

1.序論

産後過多出血(Postpartum hemorrhage:PPH)は母体死亡の主要因の一つであ り,動脈塞栓術(Transcatheter artery embolization:TAE )が PPH に対する有 効な治療法であることはコンセンサスが得られている.一方で母体の循環動 態が不安定な症例や血管内播種性凝固症候群( disseminated intravascular coagulation:DIC) を発症している症例に対する TAE の有効性,安全性は一 定の見解が得られていない.2012 年に Lee らは PPH に対して TAE を施行し た 251 例の報告で 86.5% (217/251)という高い治療率を示す一方で,DIC 症例 で治療成功率が下がると報告している.また 2013 年に Kim らが同様に DIC 症例で治療成功率が低く,37.5%で合併症の発生がみられたと報告している. 既存の報告では塞栓物質としてゼラチンスポンジが多く用いられており,母 体の凝固能に依存しない N-butyl-2- cyanoacrylate (NBCA)を用いた報告は少な い.本研究では DIC を発症している症例における NBCA を用いた TAE の安 全性および有効性の検討を目的とした.

2.実験材料と方法

2010 年から 2015 年の期間で単施設の後方視的コホート研究を実施した.当 院の周産期データベースより当院で PPH に対して NBCA を用いて TAE を 行った症例を抽出した.各症例の産科的 DIC スコアを評価し,8 点以上を DIC とした.また International Society of Thrombosis and Haemostasis (ISTH)の DIC スコアも評価し 5 点以上を DIC 症例とした.TAE のみで止血が得られ, 止血処置の追加を要しなかったものを完全止血(complete hemostasis)とした. 完全止血に加えて DIC スコアの軽減があり,外科的処置に移行でき止血が得 られたものを止血効果あり(efficacy of hemostasis)とした.それぞれのスコ アにおいて対象症例を DIC 群と非 DIC 群にわけて,両群間で背景,臨床経 過を比較した.統計学的解析には IBM SPSS 23 statistical software (SPSS, Inc., Chicago, IL, USA)を使用した.連続変数の解析には Mann–Whitney U 検定を使 用し,層別変数の解析には Fisher 検定を使用し,統計学的有意差は P 値 0.05 未満とした.本研究は横浜市立大学附属市民総合医療センターの倫理委員会

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の承認を得て行った. 3.結果 対象となった症例は 28 例であった. 28 例のうち TAE で完全止血が得られ たのは 19 例であった.止血が得られなかった 9 例のうち 1 例は TAE の前に ATH を行っており,TAE を施行するも止血が得られず,死亡に至った.残り の 8 例は外科的止血術に移行した.8 例のうち TAE によって 4 例では産科的 DIC スコアの改善を認め,4 例では臨床的に止血効果は得られなかった.外 科的な止血術に移行した 8 例のうち 1 例は母体死亡に至ったが,残りの 7 例 では止血が得られ救命できた.産科的 DIC スコアで DIC と診断したのは 20 例 (71.4%)であった.TAE による完全止血は DIC 群 14/20 (70%)に対して非 DIC 群で 5/8 (62.5%)と差を認めず (P=1.000),止血効果の有無でも DIC 群で 17/20 (85%),非 DIC 群で 6/8 (75%)と差を認めなかった (P=0.606).母体死亡 は DIC 群で 2/20 (10%)非 DIC 群で 0/8 (0%)と統計学的優位差を認めなかった (P=1.000).出血量,輸血量,母体敗血症の有無に有意差を認めなかった.ISTH DIC スコアで DIC と診断したのは 11 例 (39.3%)であった.ISTH の DIC スコ アを満たした症例は全例が産科的 DIC スコアで DIC と診断された. TAE に よる完全止血は DIC 群で 6/11 (54.5%)に対して非 DIC 群で 13/17 (76.5%)と統 計学的な有意差を認めず (P=0.409),止血効果でも DIC 群で 8/11 (72.7%),非 DIC 群で 15/17 (88.2%)と統計学的な有意差を認めなかった(P=0.353).母体 死亡は DIC 群で 2/11 (18.2%),非 DIC 群で 0/17 (0%)と統計学的な有意差を認 めなかった (P=0.146).FFP と RBC の投与量は DIC 群で多かったが (P<0.001, P=0.002),出血量,母体敗血症の有無に有意な差は認めなかった.TAE によ る重篤な合併症である子宮壊死や穿刺部の血腫などがみられた症例はな かった. 4.考察

NBCA を用いた TAE は,PPH に対する治療効果が DIC の有無で差を認めな いため,DIC を伴った PPH に対しても有効な治療法であることが示された. 審査にあたり,以上の論文要旨の説明の後に,以下の質疑応答がなされた. 金田副査より以下の講評,質疑がなされた. 1 母体凝固能に関わらない NBCA にはエビデンスがない.その背景として NBCA を用いた TAE はやり直しが効かないといった特性があり,そのためカ テーテル技術の熟練を要することがあると考えられる.熟練していない医師に よって NBCA を用いた TAE が施行された場合の失敗の懸念に関してはどのよう

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に考えるか? 2 本研究では NBCA を用いなかった群との比較がないが,その点に関してはど のように考えるか. 3 本文中の記載されている TAE を行う放射線専門医は治療ではなく診断専門 医であるため,修正していただきたい. これらの質問に対して,以下回答を得た. 1 産科医の立場からは,PPH に対して TAE を用いた止血をスムーズに行うた めに事前に TAE 施行医と症例の情報共有を行うことが重要であると考える.産 科医が事前に TAE 施行医に出血部位や疑われる責任血管を伝えることが,TAE の手技をスムーズに進めることにつながると考える.また NBCA を用いた TAE では本文中でも述べたように様々な合併症の報告があり,またその実施にあ たっては高度な技術を要する.本研究ではその点を考慮し,TAE の術者を十分 な経験をもつ術者に限定して実施しており,その旨を論文の本文にも記述した. 2 本研究では NBCA を用いた TAE が DIC を生じた状態であっても非 DIC の状 態と同等の止血効果が得られることを検証しており,この点に関しては本研究 の結果が示されていると考える.他の塞栓物質であるゼラチンスポンジなどと の比較は今回行っていないため,今後の検討事項としたい. 3 ご指摘していただいた通り修正させていただく. 続いて井濱副査より以下の講評,質疑がなされた. 1 今回は NBCA を用いた TAE のみの検討であるが,他の塞栓物質との比較が あるとなお良い.今後の課題としていただきたい. 2 NBCA を用いた TAE のリスクに関して 2-1 具体的リスクはどのようなものがあるか? 2-2 保険適応ではない理由は? 2-3 これらをふまえた上での今後の研究の展望は? 3 今回の研究をもとに今後の研究のプランは? これらの講評,質疑に関して以下の回答を得た. 1 塞栓物質の違いによる TAE の治療効果の検討を今後行っていきたい. 2 2-1 NBCA を用いた TAE のリスクとしては本研究の対象者では見られなかっ たが,卵巣機能不全や子宮壊死といったものが報告されている.また次回妊娠 時の癒着胎盤の報告がある.これらは液状の永久塞栓物質である NBCA が他の 塞栓物質よりもより末梢側で完全な塞栓を形成することに由来すると考えられ る.

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2-2 保険収載されていない理由としては合併症,副作用および長期予後がま だ十分に検討されていないことがあげられる. 2-3 本検討でも合併症,副作用に関しては短期的な合併症に関するものにと どまっている.今回の研究の対象者は分娩後の月経再開まで外来で経過観察し ているため,卵巣機能不全をはじめとする長期予後に関して検討していきたい. また副作用を発症した症例と発症していない症例を比較し,その違いがどこに あるのかといった研究も検討したい 3 NBCA を用いた TAE の副作用に次回妊娠時の癒着胎盤がある.当院でも NBCA を用いた TAE 後は次回妊娠時の癒着胎盤の経験がある.癒着胎盤に関し てはいまだその性格な発生メカニズムが明らかになっていない.NBCA を用い た TAE 後にその癒着胎盤が高率に発生するということは,子宮動脈が末梢側ま で永久に塞栓されることによる影響が考えられる.今後は病理学をはじめとす る基礎的な視点も取り入れて癒着胎盤に関するメカニズムの解明につながるよ うな研究をしていきたい. 竹内主査からは以下のような講評,質疑がなされた. 1 NBCA の血管内投与は保険適応外である.倫理委員会についての言及がな かったが,そもそも実施してよい治療法なのか? 2 NBCA の血管内投与による有害事象の事例では他院では報告があり,いかな る場合も使用しないとしている施設もみられる.NBCA を使用するにあたり具 体的な同意の取得がないため,学位研究報告書の中に記載すべきである. 3 本件研究における申請者の contribution はどの程度あるのか. これらの講評,質疑に対して以下のような回答を得た. 1 本研究は横浜市立大学附属市民総合医療センターの倫理委員会の承認を得 て行っており,その旨は学位研究報告書に記述してある.NBCA の血管内投与 は確かに保険適応外であり,重篤な副作用の報告があることも認知している. しかしながら一方で IVR の治療ガイドラインの中には治療に用いる塞栓物質の 一つとして NBCA は記述されており,その治療効果や治療に用いる妥当性は認 知されており,実臨床では広く用いられている.また PPH は母体死亡の最大の 原因であり,今回の研究の対象となるような症例は生命が脅かされる状態にあ り,保険適用外であってもガイドラインに記載されている NBCA の使用は許容 されると考える. 2 重篤な副作用の出現が他施設であったことは認識している.DIC を併発した PPH は死亡率がとても高く,今回の研究対象となった症例は他の止血法では救 命が困難な症例である.実際には口頭および書面で NBCA の使用が保険適応外 であることを説明し,副作用を説明した上で同意が得られたものを対象として おり,その旨を診療録に記載している.

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3 本研究の対象者は産後過多出血であり,主科は総合周産期母子医療センター であり,申請者は主治医もしくは主治医チームのとして治療にあたっている. TAE の手技は TAE 施行医が主に担当し,産科医は補助的に手技に参加するに留 まるが,産後過多出血の治療方針の決定,輸血療法,治療効果の判定,追加の 外科的止血術に関しては産科医が行うため,臨床面での contribution がある.ま た本研究における対象症例の抽出,データ集積,解析に関しては申請者が行っ ているため,本研究における中心的役割を果たした. 以上のような質疑応答がなされた.本審査後に,本審査で指摘された「対象 症例に対する NBCA 使用における同意の取得の過程の詳細」の追記および「放 射線専門医の表記」の修正をしたものが提出され,主査,副査で修正箇所を確 認した. 本研究は,DIC を伴う産後過多出血の治療における動脈塞栓術の有効性を示 した研究であり,今後の同疾患の治療戦略において有効な知見をもたらす学術 的価値の高い研究と判断された,また申請者は本学位審査において質疑応答に 的確に答え,本研究における深い理解と洞察力を持っていることを示した.以 上より申請者は医学博士を授与されるにあたり相当であると判定した.

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