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アルカリシリカ反応入門 ②アルカリシリカ反応の基礎~抑制対策~

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1. ASR の抑制の基本的な考え方  アルカリシリカ反応(ASR)は,骨材に含まれる反応 性物質がコンクリート中の高 pH の空隙水に溶解して ASR ゲルを生成し,膨張する現象であり,反応性物質 とアルカリ,水分がなければ生じません。この ASR に 対して,一般には “反応” の抑制がなされますが,もち ろん “膨張” の抑制という考え方もあります。しかしな がら,膨張を抑制するのは容易ではありません。ASR によるコンクリートの膨張は,拘束下であっても拘束の 小さい方向に膨張し,体積膨張ひずみとしてはさほど変 化がありません1)。したがって,国際的には,三次元的 に拘束を行っても膨張を制御することは困難と考えられ ています。  本稿では簡便のため,反応・膨張いずれに対する抑制 にも,“ASR(の)抑制” という用語を用いますが,基 本的には反応の抑制を指します。ただし,ASR の抑制 を論じる際に,反応性物質の反応率を直接測定すること は困難なので,膨張の程度で評価されるのが一般的で す。したがって,反応と膨張を混同されないようご注意 ください。  一般に,ASR を抑制する方策は大別すると以下の 4 つに分類されます。 ①(細骨材,粗骨材ともに)非反応性骨材を使用する こと ②水分を遮断して乾燥状態にすること ③ASR ゲルを非膨張性に改質すること ④空隙水の OH-濃度を下げること  ①の非反応性骨材の使用については,岩石学的試験や 骨材試験を基に骨材の反応性を適切に評価することがで きれば,良い方法です。ただし,いかに骨材の反応性を 適切に評価するか,という点では容易ではありません。 この点については,本講座第 1 回に詳細が記載されてい ますので,ここでは割愛します。また,ある地域の骨材 を排除することは現実的に困難な場合が多く,経済性や 環境負荷の観点からは①以外の方法が推奨される場合が 多くあります。  ②の乾燥状態の維持は,確実な遮水が可能であれば有 効な方法です。ただし,確実な遮水は困難な場合が多く あります。例えば橋脚に対して水分の遮断を目的として 有機樹脂を被覆したものの,橋脚天端の遮水が十分でな かったため再劣化した事例や,橋台背面からの水分の侵 入による再劣化なども多数報告されています。また,自 己乾燥が卓越しない汎用強度レベルの水セメント比であ れば,コンクリート中の水分のみでも十分に ASR は起 こり得ます。  ③の ASR ゲルを非膨張性に改質する方法として,リ チウム塩を添加する方法が挙げられます。この方法は, 現在我が国では既設構造物の補修工法として採用されて います。新設構造物におけるコンクリートに適用する場 合,ASR を抑制するために必要なリチウム塩の添加量 は骨材の反応性や組織などに影響されることが知られて います2)。したがって,例えば FHWA(米国連邦道路局) では,当該骨材を用いたコンクリートに対して,どの程 度リチウム塩を添加すればよいか,性能試験などを行う ことで検討することとしています。  ④の空隙水の OH-濃度を下げることには幾つかの方法 が挙げられます。一つは低アルカリセメントを用いるなど してコンクリート中のアルカリ総量を抑えることです。ま た,フライアッシュや高炉スラグ微粉末といった鉱物質混 和 材(Supplementary Cementitious Materials:SCMs, 以下 SCM)をセメントの一部に置換するという方法も 有効です。5 章で解説しますが,我が国で行われている 抑 制 対 策 と し て, コ ン ク リ ー ト の ア ル カ リ 総 量 が 3.0 kg/m3以下に制限することや混合セメントを使用す ることが示されています。この抑制対策以降,ASR に よる実構造物の被害事例が減少しているという事実か ら,空隙水の OH-濃度を低減することは ASR 抑制対 策において非常に有効であることがわかります。  このように,ASR の抑制方法としては大きく 4 つに 分類することができます。このうち,一般的に実施され る抑制方法は①と④です。我が国における ASR 抑制対 策については後述しますが,骨材試験の改ざん問題など を契機として,我が国では④を中心とした抑制対策を講 * かわばた・ゆういちろう/(独)港湾空港技術研究所 構造研究領域 主任研究官(正会員)

②アルカリシリカ反応の基礎~抑制対策~

川 端 雄一郎

アルカリシリカ反応入門

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じることとなっています。次章からは,④の観点から ASR 抑制方法について解説します。 2. アルカリの起源と空隙水の OH-濃度  前章にて述べた通り,ASR の抑制には空隙水の OH- 濃度を下げることが効果的です。そこで本章では,コン クリート中の空隙水の OH-濃度と,コンクリートに高 いアルカリ性をもたらすアルカリの起源について解説し ます。 2.1 アルカリの起源  空隙水に存在するアルカリが主にセメントに由来する 場合,空隙水におけるアルカリ(Na+,K)は OH 対イオンとして存在しているため, 基本的に(Na+,K =OH-と考えます。したがって,海砂などを使用しな い前提であれば,コンクリート中の空隙水の OH-濃度 は主に配合時の未水和セメント中のアルカリ含有量と水 量によって決定され,アルカリイオン濃度にほぼ比例し て上昇します。未水和セメント中のアルカリは,主に硫 酸アルカリからなる可溶性アルカリと,C3A や C2S など のクリンカ鉱物に比較的多く含まれる固溶アルカリから なります。このうち,アルカリの半分強は可溶性アルカ リが占めております。可溶性アルカリは水と練り混ぜた 直後からほぼ全量が溶解しますが,固溶アルカリは含ま れる相の水和と共に液相に可溶性アルカリとなり放出さ れます。最終的にはセメントの水和に伴って自由水が減 少していくので,空隙水は pH=13.5 前後の高いアルカ リ性を示すようになります。高炉スラグやフライアッ シュに含まれるアルカリも同様の効果を示します。 2.2 空隙水の OH−濃度3)  これまでの研究で,ASR が発生する限界 OH-濃度に ついて検討がなされており,250 mmol/l4)が一つの目安 と考えられています。また,高反応性骨材に対しては 150 mmol/l5)という濃度も提案されています。したがっ て,空隙水の OH-濃度をどのように制御するかが ASR において重要となります。  空隙水の OH-濃度はセメントや SCM から生成され るカルシウムシリケート水和物(C-S-H)との相互作用 によって決定されます。Ca/Si 比が低い C-S-H ほどア ルカリを固定することが知られています(図-1)6)。この C-S-H のアルカリ固定については,シリケートイオン の負電荷を示すサイトが生成する静電場に,陽イオンが 一定濃度で濃集するというモデルで説明されるのが一般 的です。  以上を基に,セメントからのアルカリのみを考慮した 単純なケースで,コンクリート中の空隙水の OH-濃度 について考えます。セメント硬化体単位容積あたりのア ルカリ量は固相もしくは液相に存在するため,以下の式 で計算することができます。    Calkali=RsCCSH+RlCfw ( 1 )   ここに, Calkali: セメント硬化体単位容積あたりのアルカリ量 (mmol/m3 CCSH: セメント硬化体単位容積あたりの C-S-H 量 (g/m3 Cfw: セメント硬化体単位容積あたりの自由水量 (ml/m3 Rl:空隙水のアルカリイオン濃度(mmol/ml) Rs: C-S-H 単位量あたりのアルカリのモル数 (mmol/ml)  また,分配係数 Rdを C-S-H の Ca/Si 比の関数として 表現すると,以下のようになります。    Rd=Rs/Rl ( 2 )     Rd=α(Ca/Si)β ( 3 )   ここに, α,β:実験定数  式( 1 )~( 3 )より,C-S-H の組成(Ca/Si 比)と量, 自由水量が決定されれば,空隙水の OH-濃度を算定す ることができます。これらの式から,外部からアルカリ が供給されず,Calkaliが一定とすると,空隙水の OH-濃 度(Rl)を低減するためには,C-S-H の量を増加させ るか,C-S-H の Ca/Si 比を下げることが重要であるこ とが理解いただけると思います。特に,Ca/Si 比の低下 がアルカリ固定に及ぼす影響が非常に強いことがわかり ます(図-1)。  ここで,簡単な試算を行ってみます。水セメント比を NaOH 1 mM NaOH 5 mM NaOH 15 mM NaOH 50 mM NaOH 100 mM NaOH 300 mM 6 5 4 3 2 1 0 分配係数(ml/g) 0.8 1.9 C-S-H ゲルの Ca/Si 比 図-1 Ca/Si 比と分配係数(Na)の関係6) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 2 4 6 OH −濃度(mol/l) アルカリ総量(kg/m3 / =50%, =320 kg/m3 結合水量:24% =0.49 図-2 コンクリートのアルカリ総量と空隙水の OH−濃度の関係

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50%,単位セメント量を 320 kg,セメントが完全に水和 したとして結合水量を 24%とします。水和に寄与して いない残水量は空隙水です。C-S-H の Ca/Si 比がアル カリ総量にかかわらず一定(ここでは 1.7(Rd=0.49) と仮定)とすると,コンクリートのアルカリ総量と OH- 濃度の関係として図-2 が得られます。実際には,水和 の影響や外部との物質収支などがあるため,より複雑な 挙動を示します。  図から,アルカリ総量を減ずることで空隙水の OH- 濃度が低下することが理解いただけます。すなわち,抑 制対策などでアルカリ総量を制限することは空隙水の OH-濃度を制限することと等価であるといえます。 3. SCM の ASR 抑制  SCM を置換することで空隙水の OH-濃度は大幅に低 減されます。本章では,SCM の ASR 抑制メカニズムに ついて概説するとともに,SCM に関する幾つかの課題 を述べます。 3.1 SCM の ASR 抑制メカニズム  これまでの多くの研究から,SCM が適切に使用され れば高い ASR 抑制効果が得られることは広く知られて います。SCM の ASR 抑制のメカニズムは主に空隙水の OH-濃度の低減と考えられています。これは,SCM の 置換によって C-S-H の Ca/Si 比が低下するためです。  これまで,フライアッシュや高炉スラグ微粉末の ASR 膨張抑制のメカニズムはそれぞれ異なるものと考え られる場合もありました。しかしながら,最近の研究で は,SCM の種類や置換率によらず,ASR 膨張の低減効 果を一義的に説明できることが示されました(図-3)3) フライアッシュはシリカ質のガラスが反応することで, Ca/Si 比の低い C-S-H を生成します。一方,高炉スラ グ微粉末はフライアッシュよりもガラスの CaO 含有量 が多く,フライアッシュほど Ca/Si 比が低くなりません。 これが ASR 抑制のために必要な置換率がフライアッ シュ(15%程度)と高炉スラグ微粉末(40%程度)と異 なる理由です。  また,SCM の ASR 抑制効果は,外部からアルカリが 供給される環境においても,適量置換すれば十分に期待 することができます。これは,SCM の添加によって硬 化体に高い物質移動抵抗性を付与することで,外部から のアルカリ供給を制限することが主な理由です7)。図-4 は異なる種類のフライアッシュを混入したモルタルを 80℃の NaOH 溶液に 14 日間浸漬した場合の断面図です。 点線の中では ASR が発生していないことを示していま す。膨張量が大きなモルタルにおいて,点線で囲まれた ASR 未発生領域が小さいことが観察できます。  SCM の ASR 抑制効果は空隙水の OH-濃度低減が主 要因ですが,最近では,SCM に含まれる Al の影響も指 摘されています。例えば,SCM に含まれる Al は C-S-H の Si と置換することでアルカリを固定します8)。また, 混和材由来の Al が反応性骨材に含まれるシリカ鉱物な どの反応性物質の溶解を抑制するという指摘もなされて います9)。しかしながら,どの程度 ASR 抑制効果に寄与 しているかは十分にわかっていません。今後,これらの 研究が進展すれば,より詳細なメカニズムが明らかにな ることが期待されます。 3.2 SCM に関する課題  前節にて記載した通り,SCM は ASR 膨張の抑制に効 果的な材料です。しかしながら,ASR 膨張を適切に抑 制するための SCM の適正な置換率などは十分に明らか にされていません。その理由を幾つかご紹介します。 ( 1 ) 材料品質  ASR 抑制効果は材料の品質に強く影響を受けます。 図-5 に 7 種類のフライアッシュの置換率と膨張比(無 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 100 200 300 400 500 600 膨張比 OH−濃度(mmol/l) OPC R 1-10 R 1-20 R 1-30 T-20 R 2-20 R 1-4-20 BFS-40 BFS-50 BFS-60 図-3 OH−濃度と膨張比の関係3) (1) FA-b(膨張量約 0.1%) (2) FA-d(膨張量約 0.4%) FA-b-10% FA-d-10% 図-4 ASR が発生した範囲(FA 10%)7) (点線の中では ASR が生じていない) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 0 10 20 30 フライアッシュ置換率(%)  膨張比

FA(B) FA(C) FA(D) FA(E) FA(F) FA(G) FA(H)

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混和に対する膨張量の比)を示します10)。ASR 抑制効果 を支配する材料品質は,主にフライアッシュに含まれる ガラスの量と組成,比表面積です。このようなフライアッ シュの品質の差を表すため,ガラスに含まれる SiO2量 と比表面積を用いた指標などが提案されています10),11)  上 述 し た 通 り,SCM の ASR 抑 制 効 果 は C-S-H の Ca/Si 比の低下に起因します。図-6 は SCM から生成し た反応相の Ca/Si 比の分析結果です12)。SCM の表面に 反応相が生成し,Ca/Si 比の低い C-S-H が生成してい ることが理解いただけます。しかしながら,例えばフラ イアッシュでは,同一製品であっても様々な粒子が存在 します。図-7 に同一フライアッシュ中の各粒子の反射 電子像を示します13)。いわゆる同じフライアッシュの中 にも様々な粒子が存在しており,それぞれの粒子の生成 物の組成が異なることは読者の皆様にも容易に想像がつ くでしょう。  また,海外では CaO 量の多いフライアッシュが産出 されることがあります。このようなフライアッシュは ASR 抑制効果が低いことが知られています。図-8 にフ ライアッシュの CaO 量とコンクリートの膨張量の関係 を示します14)。図より,フライアッシュの CaO 量が増 加すると,膨張量が大きくなることがわかります。これ は,高 Ca フライアッシュの場合,C-S-H が低 Ca 化し ないことが主な原因です。カナダの規格ではアルカリ 量,CaO 量のそれぞれに規定値があり,フライアッシュ の品質に応じて置換率を設定することになっています。 なお,日本では,主に低 Ca フライアッシュが流通して いますが,海外工事などでフライアッシュを用いる場合 には粉末度ともに化学組成にも十分な注意が必要です。  我が国の高炉スラグ微粉末における品質の影響につい ては検討事例が多くありませんが,粉末度およびガラス 化率が高いほど ASR 抑制効果が高いこと,また石こう を添加した方が無添加よりも効果が高いことが報告され ています15)。なお,カナダ規格では,アルカリ量が 1.0% 以下に規定されています。これは,SCM を添加しても, アルカリ量が多い場合には ASR 抑制効果が低下するか らです。 ( 2 ) 骨材との組合せ  ASR 膨張を抑制するための SCM の適正置換率を考え る上で,骨材の反応性は非常に重要な問題です。骨材が 反応できないよう,空隙水の OH-濃度を低下させる必 要があるので,SCM の適正置換率は骨材の反応性に強 く依存します。  実構造物では,フライアッシュを約 18%含むコンクリー トで ASR の被害が発生した事例があります(図-9)16) コンクリート中のフライアッシュのガラスを分析した結果, フライアッシュのガラスの SiO2濃度が 46~67 wt%,(平 均 58 wt%)であり,反応性鉱物として含まれていた流 紋岩質ガラスの SiO2濃度(=75 wt%)より少ないこと 1 μm

fa-1 fa-2 fa-3

Ca/Si 0.05 0.88 1.64 1 μm bfs-1 bfs-2 bfs-3 Ca/Si 1.39 1.47 1.58 図-6 SCM から生成した反応相の Ca/Si 比12) (a)マグネタイト (e)ガラス (c)ムライト (d)石英 ( f )ガラス (b)ヘマタイト 図-7 フライアッシュ粒子の反射電子像13) ( 左が反射電子像,右は後方電子線散乱。結晶質では 結晶種類ごとに特定のパターンが得られる) 珪質石灰岩骨材のコンクリートプリズム 高アルカリ量の フライアッシュ フライアッシュの アルカリ量 <4 % Na2Oe 5 to 10% Na2Oe 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 5 10 15 20 25 30 フライアッシュの CaO 含有量(%CaO) 2 年後の膨張量(%) 図-8 フライアッシュの CaO 量とコンクリートの膨張量の関係14) B 100 μm 図-9  フライアッシュを約 18%含んだコンクリートを用いた 実構造物の ASR 劣化事例16)

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がわかりました。したがって,ガラスの反応性が低いフ ライアッシュを使用したことでより反応性の高い流紋岩 質ガラスの ASR を抑制することができなかったことが 理解できます。  また,ASR に特有のペシマム(骨材量が少ない条件 で ASR 膨張が最も大きくなる現象)配合での SCM の ASR 抑制効果は,反応性骨材が全量の場合よりも低く なります。図-10 に異なる反応性骨材混合量のモルタル におけるフライアッシュの ASR 抑制効果の一例を示し ます(フライアッシュ置換率 20 vol%)17)。反応性骨材 量が 30%では,反応性骨材が 100%の場合よりも膨張比 が大きい,すなわち ASR 抑制効果が低いことがわかり ます。この原因は以下の通り説明できます。SCM をセ メントの一部に置換しても,生成する Ca/Si 比の低い C-S-H のアルカリ固定能には限界があります。一方, ペシマム配合では,ASR 膨張に対して,反応性物質と アルカリのバランスが最適の条件となっているので,空 隙水の OH-濃度をより低くしなければ膨張を抑えるこ とはできません。したがって,より多くの SCM を置換 する必要があります18)  現在,SCM と骨材の組合せ問題を解決するための最 も確実な方法は,実配合でコンクリートプリズム試験を 実施することです。このような試験は我が国では整備さ れていません。海外では,ASTM C 1293 などで SCM を用いた場合にも適用することができますが,試験期間 として 2 年間必要です(本講座第 1 回参照)。 4. 我が国における ASR 抑制対策と国際標準  前章まで,空隙水の OH-濃度の低減という観点から ASR 抑制について解説しました。我が国の ASR 抑制対 策,また世界で先進的なカナダの対策も上述したような 考え方に基づいて,抑制対策が設定されています。本章 では,我が国における ASR 抑制対策と国際標準につい てご紹介します。 4.1 我が国の ASR 抑制対策  我が国では,ASR を抑制するため,以下の 3 つの対 策の中のいずれか 1 つについて確認をとることとしてい ます。特に,土木構造物では①と②を優先することと なっています。 ①コンクリート中のアルカリ総量の抑制 ②抑制効果のある混合セメント等の使用 ③安全と認められる骨材の使用  ①では,コンクリート中のアルカリ総量を 3.0 kg/m3 以下にしなければなりません。ただし,最近のセメント のアルカリ量が 0.60%前後であるとすると,単純計算 で単位セメント量が約 500 kg/m3以下であれば,ほぼ自 然に達成することができます。②では,JIS R 5211 の高 炉セメント B 種または C 種,あるいは JIS R 5213 のフ ライアッシュセメント B 種または C 種を使用すること で達成することができます。または,ASR 抑制効果の 確認ができた混和材であれば,使用することができま す。③では,骨材試験(化学法またはモルタルバー法) で「無害」と確認された骨材を使用することで,対策を 達成することができます。  これらの対策の基本的な概念は,2 章で示した対策と 同じです。しかしながら,アルカリ総量 3.0 kg/m3以下 で ASR が発生した事例や,混合セメントを使用して ASR が発生した事例も報告されています。このような 背景から,新たに独自の対策を講じた事業体もあります。 例えば,JR 東日本では,表-1 に示すように,骨材判定 区分(本講座第 1 回参照)と判定区分に応じた抑制対策 を実施することとなっています19)。対策として,混合セ メントの使用を中心として,アルカリ総量の規制値も 2.2 kg/m3と厳しく見直しされています。  このように,我が国の対策はまだ途上段階であり,今 後検証や見直しが必要です。現在実施している対策で構 造物には実際に ASR が発生していないのか,もし発生 しているのであればその原因は何か,を解明することで, 将来の対策に資することができるでしょう。そのために は適切な構造物の “診断技術” が必要不可欠ですが,そ れは本講座第 3 回をご参照ください。 4.2 国 際 標 準  国際的に合意され,最も信頼性の高い抑制対策として カナダの規格(CSA A 23.2-27 A)が挙げられます。カ ナダ規格の特徴として,リスクマネジメントの概念に基 づいて,いくつかの分類から抑制対策を決定することが 挙げられます。まず,骨材試験をベースとして,骨材の 反応性を 4 つの区分から決定します(表-2)。次に,コ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 An 1 An 2 An 3 骨材の種類 膨張比 R/S=30 mass% R/S=100 mass% 図-10 フライアッシュの ASR 抑制効果17) (R/S:反応性骨材量/全骨材量) 表-1 骨材の判定区分と対策方法(JR 東日本)19) 骨材の ASR 判定区分 対   策 E 有害 混合セメント等による対策 準有害 アルカリ総量 2.2 kg/mセメント等による対策3に規制する対策もしくは混合 E 無害 無対策

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ンクリートの寸法やおかれる環境と骨材の反応性の組合 せから,5 段階に分類された ASR のリスクレベルを決 定します(表-3)。なお,マッシブなコンクリートでは ASR 膨張が生じるのに十分な内部湿度が存在するため, 薄い部材よりもリスクレベルが高くなります。最後に, ASR のリスクレベルと,構造物の予定供用年数の組合 せを基に,6 つに分類された抑制レベルから対策を決定 します(表-4)。このうち,V が最も低く,ZZ が最も高 い抑制レベルとなっています。また,抑制レベルに応じ て,アルカリ総量の規制値や SCM の置換率などが決め られています。例えば,抑制レベル V では無対策とす ることができますが,最も厳しい抑制レベル ZZ ではア ルカリ総量を 1.2 kg/m3以下とし,かつ SCM を置換(低 Ca フライアッシュ:35%,高炉スラグ微粉末:60%, など)することになります。SCM の置換率は,SCM の 品質(アルカリ量や CaO 量(フライアッシュの場合)) に応じて設定されています。  このように,カナダの規格では,骨材の反応性,水分 供給の有無,空隙水の OH-濃度,SCM の品質などに着 目しており,ASR の抑制の基本理念に基づいて決定し ていることが理解できます。その他の国でも,リスクマ ネジメントに基づいて,各国事情に合わせた対策にマイ ナーチェンジして自国の対策としています。  また,我が国の原子力施設における抑制対策も提案さ れています20)。この中では,我が国の骨材事情に合わせ て,ペシマムの影響や外部からのアルカリ供給などを踏 まえた対策が提案されており,カナダ規格などを国内で 適用した先進的な事例です。 4.3 今後の展望  ASR の抑制対策について,国内外の情報を紹介しま したが,最近では予定供用年数に代わって構造物の性能 に着目して区分する方向も提示されようとしています。 すなわち予定供用年数という時間のみの概念ではなく, 脆弱性(Vulnerability)21)や重大性(Severity)22)といっ た概念で整理されようという動きがあります。JCI-TC 115 FS「ASR 診断の現状とあるべき姿研究委員会」 の報告書23)でも,構造物や部材への要求性能に応じて ASR を許容し,許容膨張量に達しないように材料設計 もしくは構造設計で対応できるような将来像が提唱され ています。  これまで,我々は材料を規定することで ASR を単に 抑えようとしてきました。しかしながら,これからは構 造物の性能にまで展開することが必要です。もし ASR が起きたとしても,時間軸上において構造物が要求性能 を満足すればよいわけで,そのための対策としては材料 から構造まで幅広い選択肢があるはずです。設計は想像 に基づいた行為であり,仕様は設計空間を狭める制約条 件になります24)。今後,新しい枠組みが構築され,その ための要素技術の開発が進むことが期待されます。 参考文献

1) Multon, S:Evaluation expérimentale et théorique des effets mécaniques de lʼalcali-réaction sur des structures modèles, Universite de Marne la Vallee, 2003 (in French)

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3) 川端雄一郎・山田一夫・松下博通:セメント系材料により生成さ れる水和物の相組成と ASR 膨張抑制効果の関係,土木学会論文集 E2,Vol.69,No.4,pp.402~420,2013

4) Diamond, S.:Alkali Reactions in Concrete- Pore solution Effects, Proceedings of 6th International Conference on Alkali-Aggregate

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5) 鍵本広之・佐藤道生・川村満紀:アルカリシリカ反応により劣化 した構造物の劣化度評価と細孔溶液分析による劣化進行の予測, 土木学会論文集,No.641/V-46,pp.241~251,2000

6) Hong, S. H. & Glasser, F. P.:Alkali binding in cement pastes: Part I The C-S-H Phase, Cement and Concrete Research, Vol.29, pp.1893-1903, 1999

7) 林 建佑・河野克哉・山田一夫・山下弘樹:外来アルカリ環境下 におけるフライアッシュⅡ種のアルカリシリカ反応抑制効果,セ メント・コンクリート論文集,No.62,pp.334~341,2008 8) Hong, S. H. and Glasser, F. P.:Alkali sorption by C-S-H and

C-A-S-H gels: Part II Role of alumina, Cement and Concrete Research, Vol.32, pp.1101-1111, 2002

9) Chappex, T. and Scrivener, K.:The influence of aluminium on the dissolution of amorphous silica and its relation to alkali silica reaction, Cement and Concrete Research, Vol.42, pp.1645-1649, 2012 10) 川端雄一郎・松下博通:アルカリシリカ反応抑制の観点からのフ ライアッシュの品質評価に関する研究,土木学会論文集 E,Vol.63, 表-2 骨材の反応性区分 骨材の反応性 区分 コンクリートプリズム試験 1 年後の膨張量(%) (CSA A 23.2-14 A) 促進モルタルバー試験 14 日後の膨張量(%) (CSA A 23.2-25 A) 非反応性 <0.040 <0.150注 中程度の反応性 0.040~0.120 -注 高い反応性 >0.120 >0.150注 極めて高い反応性 >0.230 >0.400 注  CSA 規格には注意書きが記載されているが,本稿では割愛してい るので,詳細は CSA A 23.2-27 A を参照。 表-3 ASR のリスクレベル   骨材の反応性 寸法とコンクリートの 環境 非反応性 中程度の 反応性 高い 反応性 極めて高い 反応性 薄い部材,乾燥条件

(R.H.<60%) Level 1 Level 1 Level 2 Level 3 マッシブ,乾燥条件 Level 1 Level 2 Level 3 Level 4 湿気環境に暴露,(土中)

埋没,(液体)浸漬 Level 1 Level 3 Level 4 Level 5

表-4 抑制レベル リスク レベル 仮設構造物 (< 5 年) 耐用年数 5 ~75 年 耐用年数 75 年以上 1 V V V 2 V W X 3 V X Y 4 W Y Z 5 W Z ZZ

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No.3,pp.379~395,2007

11) 長瀧重義・大賀宏行・井上 毅:フライアッシュによるアルカリ 骨材反応の膨張抑制効果とそのメカニズム,土木学会論文集, No.414/V-12,pp.175~184,1990

12) Hashimoto, T. and Torii, K.:The Development of Highly Durable Concrete Using Classified Fine Fly Ash in Hokuriku District, Journal of Advanced Concrete Technology, Vol.11, pp.312-321, 2013

13) 高橋晴香・山田一夫:ASR 抑制効果を支配するフライアッシュ キャラクターの SEM-EDS/EBSD による解析,コンクリート工学 論文集,Vol.23,No.1,pp.1~11,2012

14) Thomas, M.:The effect of supplementary cementing materials on alkali-silica reaction: A review, Cement and Concrete Research, Vol.41, No.12, pp.1224-1231, 2011

15) 松下博通・近田孝夫・長尾之彦・前田悦孝:高炉スラグ微粉末の 品質がアルカリシリカ反応抑制効果に及ぼす影響,Proceedings of East Asia Alkali-Aggregate Reaction Seminar,pp.155~162, 1997

16) Katayama, T.:Diagnosis of alkali-aggregate reaction-polarizing microscopy and SEM-EDS analysis, Castro-Borges et al. (eds) Concrete under Severe Conditions, pp.19-34, 2010

17) 井上祐一郎・濱田秀則・川端雄一郎・山田一夫:ペシマム現象を 生じる骨材を用いたモルタルのフライアッシュによる ASR 抑制効果,

コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,pp.953~958,2010 18) Kawabata, Y., Ikeda, T., Yamada, K. and Sagawa, Y.:Suppression

effect of fly ash on ASR expansion of mortar/concrete at the pessimum proportion, Proceedings of 14th International

Confe-rence on Alkali-Aggregate Reaction in Concrete, 031711-KAWA-01, 2012 19) 松田芳範・隈部 佳・木野淳一・岩田道敏:アルカリ骨材反応の JR 東日本版抑制策の制定について,コンクリート工学,Vol.50, No.8,pp.669~675,2012 20) 中野眞木郎:原子力用コンクリートの反応性骨材の評価方法の提 案,JNES-RE-レポート,2014

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参照

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