農 業 機 械 最 近 の 進 歩
田 畑 清 光 ・手 塚 利 正 (宇 都 宮 高 等 農 林 學 校) 1. 概 説 農業 機 械 は近 年 著 し き發 達 を な し,最 近 拾 數 年 間 に 内外 共 に非 常 な る革 新 を 認 める 様 に なつ た.就 中北 米 合 衆 國 に於 け る農 業機 械 特 に 穀 類 牧 穫 機其 他 に對 す る進 歩 に は著 しい も のが あ る.例 へ ば 拾 數 年 前 迄 は穀 類牧 穫 機 と しで は「コ ンバ イ ン ド, ハ ー ベ ス ター 」(牧穫 脱 穀 併 用機)が,同 國 及 び 世 界 中 に於 て 最 も進 歩 した もの と言 はれ, それ が 圃 場 で 移 動 しつ つ 牧 穫 及 び 調 製 を同 時 に 蓮 續 的 に な す大 規 模 な作 業 の有 様は婁々寫 眞 等 に依 つ て,我誠 國 に も紹 介 され たの で 南 るが,1920年 代 よ り比較 的 小型(10-20馬 力 位)の 「コ ンバ イ ン」が 同 國 で 考 案 され,近 年特 に 多 く使 用 され る様 に な つ て 來 た. 第1圖 低 壓 空 氣 タ イ ヤ ー 装 置 の トラ ク ター 此 の機 械 は從 來 の 大 型「コンバ イ ンド,ハ ー ベ ス タ一」(通常40-50馬 力 以上 の牽 引 力 を要 す)と 異り,調 製 した 穀 物 を袋 に つ めす,そ の ま まバ ラ積 に す る に適ず る 附屬 の移動 タ ン クが,本 機 と共に圃 場 を進 行 し・,刈取 後調 製 され た 穀 物 は直 に 此 タ ン クに 入 り,タ ン クは共 儘 貨 車 又 は運送 船 等 に 曳 引 して 蓮 ば れ る 便 利 な もの で あ る.か か る もの が 普 及 した 理 由 は,大 農 場 の 多い 北 米 で も常 に 40-50馬 力以 上の もの め み を使用 す る事 が,必 す し も一 般 的 に至 便 と云 ふ譯 で は 無 く,つ ま り10-20馬 力 位 の 稍 小 型 の もの な らば,同 國 で は大 概 の 農 場 で第2圖 耕 耘 地 に於 け る蓮 轉 抵抗 試 驗 廣 く一般 に使 用 す るに適 す るの み な らす,袋 に つ め る と云 ふ手 數 を省 く事 が 出 來,且 つ生 産費 輕 減 に も效 果 大 な る もの が あ る爲 で ある. 又 農業 經 營 上 穀物 の桿 を穗 と同時 に牧 穫 す る事 が 有 利 な場 合 の 至 便 な る大 刈 取 機 は,世 界 中 に於 て 「バ イン ダー 」(結束 刈禾機)に 勝 る もの は無 い けれ ど も, 米 國 の加 州 や 中部 等 の大 栽 培 地 に於 て は氣 候乾 燥 し,麥 類 は牧 穫 後 に乾 燥作 業 を要 しな いか ら,前 記 ρ 「コ ンバ イ ン」で 移 動 タン ク付 小 型 の もの が最 も能 率 的 で,生 産費 割安 な る牧 穫 機 と して 近 年 高唱 され て 居 る。 農 業 機 械 の適 否 は,其 國 の農 業 組 織 や經 濟 的 事 情 及 び 氣 候 共 他 の 天 然 要 素竝 び に 入的 要 素等 に も關聯 し,他 國 の もの を採 用 して も直 に 白國 の 實 用に 供 し得 ざ る場 合 も勘 くな い.日 本 内 地 に於 け る小農 に對 して は,上 述 の 小 型 の もの と 難 も｢コぞン バ イン」を直 に使 用 す る事 は不 可 能 で あ ら うが,北 海 道 や満 洲 國 等 の 比 較 的 大 な る麥 作 農 業 に は,勞 銀 節 約等 の た め今 後 研 究 す べ き問題 の一 つ で あ ら う.又 日本 内壇 に於 て も麥 類 の 牧 穫 時 期 に は,梅 雨等 の 悪 天 候 に悩 ま され る事 が 多いか ら,晴 天 の日 に 迅遠 に 穗 部 の み を刈取り,穀 實 は直 に乾 燥 調製 し藁稈 は 後 で 處理 す る方 法 等も 老究 すべ き一 間 題 と考 へ られ る 、果 して然 らばこ れに適 す る機 械 も,從 來 の 穗 刈機 及 び 「モー ア ー」等丈 でな く,尚老 究の 餘 地 が あち う . 第5圓 チ モ シー牧 草 地 に於 け る燃 料 及 び 牽 引試 驗 實 施 の光 景
232 農 業 機 械 學 會 誌 第1巻 第3號 次 に 記 載 す る摘 要 は,近 年 北 米 に於 て穀 類 牧 穫 機 や 其 他 の 農業 機 械 に 「ゴム タ イ ヤ」 付 の 車輪 が,非 常 に 多 く利 用 され る様 に な りつ つ あ るが,そ れ に關 す る 一 實 驗 報 告 で あ る.而 して この利 用は 日本で も近年「トラクター」や手押 しの小 型 荷 車 等 に,ゴ ム輪 付 の もの が段 々見 られ る様 に な り,自 動 車 や 自轉 車 の 一 般 化 と關 聯 し,又 天 然 ゴムの 價格 の低 落 及 び タ イヤ ー製 造 工 業 の進 歩 と相 待 つ て 我 國 に於 て も實 用化 す る事 が 多 くな る もの と考 へ られ る.只 次 の 摘 要 に もあ る が如 く,日 本 の様 に 雨 が 多 くて,圃 場 や 道 路 が濕 潤状 態 に な る場 合 の 多 い 國 で は,ア メ リカに於 ける試 驗 成 績 を其 儘 信 頼 す る事 は適 當 で 無 い事 もあ る と思 ふ か ら,此 の 種 の 試 驗研 究 も日本 で 力 學 的 方 面 及 び農 業 機 械 學 的 方 面 か ら,實 地 に 就 て今 少 し く發 達 させ る必 要 が あ るの で は 無 いか と思 はれ る. 第4圖 ゴ ム タ イヤ装 置 に好 適 す る農 業 機械 の 實例(1)(ゴ ム タ イヤ ト ラ ク ター に て ゴ ム タ イ ヤ ユ ンバ イ ン を牽 引 中 の 光 景) 2. ゴム タイヤ装置又は廣い輪縁 の車輪を有す る 牽引機が有利 なこ との實驗 成績摘要 McCuen及 びSilver兩 氏が,「 農 業 機 械 に劉 す る ゴ ム タ イ ヤ装 置 」 と題 し て 發 表 せ る實 驗 成 績 の 摘 要 を茲 に 福 ぐ、 此 の 兩 氏 は米 國 の オ ハ イ オ州 ウ ー スタ ーの 農 事 試 驗 場 に 於 て 多 くの 農 業 機 械 會社 よ り提 供 され た る機 械 を使 用 して, 表 題 の事 項 に就 て 比 較 實 驗 を行 つ た.其 の報 告 は同 農事 試 驗 場 ブ レチ ン第556 號(1935年10月)に 記 載 され て ゐ るが,そ の 内 容 を要 約 す れ ば次 の通 りで あ る. (第1圖 参 照) (I) 濃 業 用 トラク タ ーの車 輪 に 就 て― 「ゴム タイヤ 」と銅 鐵 車 輪 との比 較 i) 低 壓(30ポ ン ド)の室 氣 ダイ ヤ装 置 の トラ ク ター は,ト ラ ク タニ 自身 の 蓮 動 に 要 す る 力が,突 起 付 鋼鐵 車 輪 の トラク ター よ り も少 くて す む(附 圖I参 照).
ii) 又 ゴ ム タ イ ヤ付 トラ ク ター は,同 じ牽 引 をな す に要 す る燃 料 も少 くて濟 み,大 低 の 場 合 の 摯耕 や農 事 の 作 叢 に對 して,非 常 に 満 足 す べ き結 果 を得 る事 が 出 來 る.(第1表 滲 照). 第1表 トラ クー に鋼鐵 車輪 をつ けた 場合 と ゴ ム車 輪 をつ けた 場 合 の 燃料 消 費 の 比較 iii) 併 し地 面 一 ぱ い に 濕 潤 な 堆 肥 が 撒 布 し て あ る様 な 所 で は ,滑 つ て し ま つ て 駄 口で あ る. iv) 良 好 な 状 態 で は ゴ ム タ イ ヤ裝置 の トラ ク タ ー は 聖 コ ン ド 又 は サ ー ドギ ヤ に於 て,鋼 鐵 車 輪 装 置 の トラ ク ター よ り も大 な る 牽 引 力 が 出 る.(附 圖Ⅱ(1) (2)参 照).又 鋼 鐵 車 輪 で は 不 可 能 な る 仕 事 を も可 能 な ら し め る 場 合 が 多 い. 第5圓 ゴ ム タ イ ヤ 装 置 に 好 適 す る農 業 機 械 の實 例(2)―(ゴ ム タ イ ヤ,ト ラ ク ター に て ゴ ム タ イ ヤ 附 き荷 車 を牽 引 中 の 光 景)
234 農 業 機 械 學 會 誌 第1巻 第3號 v) ゴ ム タ イ ヤは突 起 付 鋼 鐵 車 輪 の 如 く地 表 のゴ ミを立 て た り,埋 め た ゆす る事 が無 く,土 地 が 乾 燥 して ゐ る時 等 は ほ こ りの 立 ち方 が 少 い. vi)又 燃 料 が經 濟 で,し か も速 力が 速 い の が普 通 で あ る.(第I表 及 び附 圖 Ⅱ (1)(2)参 照) vii) こ,タ イ ヤの 壽 命 は未 だ わか ら な いが,1349時 間 の 使 用で は著 し き磨 滅 朗 られ なか つた し,其 の間唯2囘パン ク しただ けであつた.叉 乗手 は衝撃 が 少 い爲 た,大 變 樂 で あつて トラク ター の壽 命 も長 持 ちす るの で あ る。 (Ⅱ) 農 業 用 荷 車 其 の他 車 輪 に 歳 て 「ゴ ム タイ ヤ 」と鋼 鐵 車 輪 との 比 較 及 び 鋼 鐵 車 輪 の幅其 他. i ) 凹凸 や柔 い地 面 に於 て は,常 に低 壓 室 氣 タ イ ヤ をつ け た 荷 車 は}他 の 車 輪 の もの に比 較 して 牽 引 す るの に最 も力が い ら な い(附 圖 Ⅲ(1)(2)(3)(4) 参 照). ii) 手 らで硬 い表 面 で は,鋼 鐵 車輪 が 最 も少 い力 で 引 く事 が 出 來 る(附 圖 Ⅲ (5)参 照). iii) ゴ ム汐 イ ヤ付 の荷 車 は耕 耘 した 土 地 や草 地 を 引 い て も,鋼 鐵 車輪 の 如 く深 く土 中に め り込 ま な い し,草 地 に使 用 して も害 が 少 い. iv) 鋼 鐵 車輪 の 輪椽 の 幅 は,耕 耘 地 に於 て 作 業 をす る時 の 一要 素 で あつ て, 幅 の 廣 い 車 輪(6吋)は 大低 の 場 合 の 牽 引 に有 利 で あ る.狭 い 幅 の 車 輪(4吋)は 地 面 に あ り込 む 事 が 多 く,前 輪 が 通 る時 作 らわ た溝 は,共 車輪 が 通 過 後 に 埋 まつ て しま っ て,後 輪 が通 る時 又 薪 し いあ とが つ く事 に な る.(附 圖V参 照). v) ガ スガ ラを敷 け る道 路 で は,ゴ ム タ イ ヤ装 置 の荷 車 は1時 間 當 り8哩 位 の 速 力が 最 も牽 引 力 が 少 くて す み,そ れ 以 上 に な る と急 に 力 を要 す る様 に な る. vi) ゴム ・タイ ヤ裝置 の コー ン ピ ツ カー(玉 蜀黍 摘 採 機)は,鋼 鐵 車 輪 装 置 の もの よ りも少 い 力 で 引 く事 が 出來,又 ほ こ りの 立 ち方 も少 い.
附 圖 附 圖I. 鋼 鐵 車 輪 装 置 トラ ク ター と ゴム 車輪 装 置 トラ ク ター を引 くに 要 す る馬 力 の 比 較 →1時 間當 の速 さ(哩) 附 圖Ⅱ 同一 作 業 を な す に あ た リ トラ ク ター に ゴム車 輪 を つ け た時 と銅 鐵 車 輪 を つ け た時 とに 於 け る蓮 行速 度 の 比 較 (1) 草 地 に於 け る試 驗 成 績 (2) 耕 耘 地 に於 け る試 驗 成績 →ドロ ー ・バ ー の牽 引(ポ ン ド) → ドロ ー ・バ ー の牽 引(ポ ン ド) 注意(1)ド ロー バ ー(牽 引釘)に 及 ぼ す抵 抗 の多 少 を加 減 す る爲 に は トラ クタ ー に サ ブ ソイ ル プ ラ ウ(心 土 犁)を 引か せ て,サ ブ ソイ ル プ ラ ウの犁 耕 深 度 を種 々 に變 へ て調 節 した.又 ド ロー バ ー の牽 引,運 行 距 離,試 驗 時 間 等 を記 録 す るに は トラ ク ター とサ ブ ソ イル プ ラ ウ との 問 に ダ イナ モ メー ター をつ け た. (2) 此 試 驗 の範 園 内 で は 同 一程 度 の抵 抗 が ドロー バー に か か ζ時 に サ ー ドギ ヤ に於 て は トラ ク ター に ゴ ム車輪 装 置 を施 した る も の は鋼鐵 車 輪装 置 を施 した る も の に比 較 して 常 に速 く蓮 行 す る事 が 出 來 る.又 セ コン ドギ ヤで は抵 抗 が 多 くか か る時 に のみ ゴ ム車 輪 装 置 トテク ター の方 が 速 力 が 出 た.尚 セ コ ン ドギ ヤ,サ ー ド ギ ヤ と云 ふ の は 内燃 機 關 の囘 轉 を車 輪 に傳 導 する 中 で 機 關 の囘 轉 と車 輪 の囘 輪 との 比 を變 化 させ る變 速器 齒 車 の 組 合 の事 で あ る.即 ち セ コ ン ドギ ヤ よ リザ ー ド ギ ヤ にす れ ば運 行速 度 が速 くな る.併 し抵 抗 の多 い所 で は セ コン ド(時 とし て は ロー即 ち フアー ス ト)に 速 度 を落 して進 行 す る.
236 農 業 機 械 學 誰 會 第1巻 第3號 附 圖 Ⅲ. 農 業 用荷 車を1時 間2哩 牛 の 速 力 で引 くに要 す る力 の比 較 (1) 草 地 に於 け る試 驗 → 荷車の總重量(ポ ン ド) (2) 耕 耘 地 に於 け る試 驗 → 荷車 の總重量(ポ ン ド) (3) ガ スガ ラ路 に於 け る試 驗 → 荷 車の總重量(ポ ン ド) (4) 砂 礫 路 に於 け る試 驗 → 荷 車の糟 重量(ポ ン ド) (5) コ シ ク リー ト道 路 に 於 け る 試 驗 → 荷 車の總 重量(ポ ン ド) 附岡IV.農 業 用荷車が高 さ2.5吋 の障 磯物(角桂を横たへた るもの) を越 えるに要す る力 → 水平移動程距離(吋) 附岡V.農 業用荷車 を引 ぐに要 す る力 と鋼鐵車輪輪祿の幅 との關係 (1) → 荷車の總重量(ポ ン ド) (2) → 荷車の重 總量(ポ ン ド) (3) → 荷車の總 重量(ポン ド) (備考)荷 車 の總重 量=荷 車の 自重+積 載荷重
主 要 文 獻
1. G. W. McCuen and E. A. Silver : Rubber-Tired Equipment for Farm Machinary; OHIO Agricultural Experiment Station, Wooster, Bulletin, 556 (Oct. 1935)
2. Silver and Sitterley : The Combined harvester-Thresher in Ohio(1931) 3. Bainer and Long : Equipment for the bulk handling of Grain ; Calif. univ.
(1930)
4. H. J. Hopfen : Recent Progress in the Technique of Agricultural Machinery., Monthly Bulletin of Agricultural. Science and Practice, Year XXVII No. S
(August 1936)(萬 國 農 事 協 會 發 行) 5. 田畑 清 光:穀 類 牧 穫 機 の發 達 に就 て(吉 川 教 授 在 職 二 十五 年 記 念 會編 纂 作 物 學 論 集,1935) 6. 田畑 清 光:農 業 機 械 の進 歩 發 達 に就 て(日 本 學 術 協 會 報 告 第9卷,第4號, 1934) 7. 田畑 清 光:穀 類 牧 穫 機 の進 歩 發達(大 日本 農 機 具 協 會 發 行 「現 代 農業 」 第1 巻,第3號,1935) 8. 橋本 氏課:最 近 に於 け る農業 機 械 の 技術 的 進 歩(大 日本 農 會 發 行 「農 産 彙 報 」 第50號Apri1 1937) 9. 其 他 の文獻 は(5)田 畑 著 「穀類 牧 穫 機 の發 達 に就て 」の末 尾 に詳 記 せ る故 省 略 す. (原稿 受理 昭 和12年10月8日)
