膝靭帯損傷の治療
担当 井上 篤志
1、総論
膝靭帯損傷は交通事故やスポーツ外傷の際に生じやすく、日常診療において頻繁に遭遇 する傷病である。しかし、単純X線像により描出されないため見逃されることも多い。適 切な診断を下すためには、問診での受傷機転の聴取、触診での不安定性の評価、MRIやス トレスX線像の正確な読影が必要になる。 (1) 問診 外傷を原因とした膝関節痛を主訴に来院した患者に対しては、常に靭帯損傷を念頭にお いて診察することが大切である。特にスポーツ中に受傷した場合には、競技種目、受傷状 況(コンタクトかノンコンタクト)、膝がどちらの方向に屈曲あるいは捻転したか、受傷後 歩行可能であったか否かなどを詳細に聞く必要がある。新鮮例の場合には、外傷の既往が 明らかであり、疼痛や腫脹、関節の運動障害など訴えは一様である。しかし、陳旧例の場 合には患者自身外傷の既往が定かでないことや、スポーツ選手の場合外傷の既往があるに も関わらず、それを外傷と認めないために外傷の既往を否定することもある。また、訴え が疼痛や腫脹のほか、膝が外れる感じやずれる感じ、疲れやすいなど多岐にわたるため、 十分注意をして病歴を聴取することが大切である。半月板断裂に伴う膝のロッキングを主 訴に来院した患者に、陳旧性の前十字靭帯断裂を認めることも珍しくない。 (2) 触診 まず、患者をベッド上に仰向けに寝かせ、両膝の腫脹を触知し比較する。左右差が存在 する場合には、関節内に異常があることを強く疑う。特に血腫のある場合には靭帯損傷が 存在する場合が多いが、関節内骨折、膝蓋骨脱臼に伴う骨軟骨損傷、半月板断裂などとの 鑑別を必要とする。 内外側支持機構損傷の場合には、損傷部位に限局した圧痛があるので、丹念に触知する 必要がある。前後十字靭帯損傷の場合には明らかな圧痛点は存在しないが、後十字靭帯損 傷のうち脛骨付着部剥離骨折を伴うものには、膝窩部に圧痛があり診断の一助となる。 徒手検査は膝関節の不安定性を評価するのに欠かすことはできない。検査の際は両膝を 十分に露出させ、前後左右に余裕を持って動かせるようにする。関節の弛緩性は個人差が 大きいため、必ず左右のゆるみを比較し慎重に不安定性を評価する必要がある。新鮮例の 場合には患者が疼痛のため筋緊張をとくことができないため、十分な徒手検査ができない 場合もある。内側側副靭帯は完全伸展位及び30°屈曲位で外反動揺性を評価する。後外側 支持機構は、完全伸展位及び30°屈曲位で内反動揺性を評価し、90°屈曲位での Dial test で外旋動揺性を評価する。前十字靭帯はLackman test や Anterior drawer test、後十字靭 帯はPosterior sagging の確認と Posterior drawer test で評価する。(3) 靭帯損傷の程度 靭帯損傷といっても支持機構の部分的な損傷でいわゆる捻挫と言われる程度のものから、 完全に靭帯が断裂したものまでさまざまである。Marshall は靭帯損傷を靭帯繊維の損傷程 度により、下記の3つのグループに分類した。 Grade I : 靭帯繊維に軽度の損傷のあるもの。 Grade II : 機能に影響を与える程度に損傷はあるが、一部の繊維に連続性が残っているもの。 Grade III : 靭帯の完全断裂により高度の不安定性を有するもの。 いずれの靭帯においてもGrade I, II は保存療法が可能であり、不安定性を残すことはほ
とんどない。しかしGrade III に関しては、誤った治療方法を取ることにより後遺障害を 残す可能性があるため、迅速な診断と治療方針の決定が重要となる。 (4) 画像診断 単純X 線像は随伴する剥離骨折の有無を知るのに極めて有用である。また陳旧例では二 次性の関節症変化の程度が治療の予後に与える影響が大きいため不可欠である。 ストレスX 線像は不安定性を定量的に評価するうえで有用である。健患側差を比較する 場合にはX 線の照射方向が重要であり、正確な正面あるいは側面の X 線像で比較評価しな ければ誤った判定を下すことになるので注意が必要である。 MRI は靭帯や半月板の診断には欠かすことはできない検査である。それぞれの靭帯の走 行に沿った断面での撮影が靭帯損傷の評価を正確にする。特に前十字靭帯損傷の場合には 靭帯陰影の消失だけではなく、その走行が脛骨関節面となす角度に注意する必要がある。
2、 前十字靭帯損傷(
ACL 損傷)
ACL 損傷は MCL 損傷についで多い膝関節の靭帯損傷である。スポーツでの受傷が最も 多く、最大の問題点は損傷後も高いレベルのスポーツ活動を続け、再受傷を繰り返し半月 板や関節軟骨の二次損傷や関節症変化をきたす症例があることである。このような二次的 な合併損傷の進行を防止することが、治療の重要な目的となる。 ACL の全長はおよそ 35mm であり、前内側線維束と後外側線維束とからなる。前内側 線維束は屈曲位で、後外側線維束は伸展位でそれぞれ最大の緊張を得ることから、それぞ れの線維束が異なる役割を果たしながら協調していると考えられている。完全断裂では自 然治癒する可能性は低く、不安定性が残存する場合が多いため、靭帯再建を必要とするこ とがほとんどである。 (1) 診断 単独損傷の場合には、スポーツ時に膝関節の過伸展・内旋や外反・外旋が強制されるな どノンコンタクトでの受傷が多い。注意深く問診を行うと、患者は靭帯の断裂音や関節の 亜脱臼感を記憶している。受傷直後は関節の腫脹はさほどではなく歩行可能な場合もある ため、捻挫などの軽症であると患者自身が錯覚することも少なくない。数時間のうちに関 節血腫が進行してくるため疼痛や腫脹が増大する。新鮮例の場合には疼痛や腫脹のため十 分な診察を行えないことが多いが、患者をリラックスさせることによりLackman test で 靭帯の緊張の有無を触知することは可能である。陳旧例では繰り返す Giving way や膝関 節の不安定感を主訴に来院してくる場合が多く、Lackman test、Anterior drawer test な どがいずれも陽性となるため診断は容易である。MRI は靭帯断裂のみならず合併する半月 板損傷や骨挫傷の診断に有用である。 (2) 治療方針 手術適応は、年齢、日常生活の活動性、膝関節の合併損傷、ACL の損傷形態などを考慮 したうえで決定すべきである。ハイレベルなスポーツ活動の低年齢化に伴い、ACL 損傷を 受傷する年齢も近年低下している。剥離骨折を伴ったものは骨接合をすべきではあるが、 実質部の断裂に対する治療方針は未だ議論の余地の多いところである。再建術に絶対的な 年齢制限はないが、スポーツ時に装具を装着することや競技スポーツは控えることを納得させた上で待 機し、骨端線閉鎖が得られてから手術を行ったほうが安全である。 患者の活動性は手術をするか否かの重要な因子である。50 歳台の患者でも活動性が高く、 膝関節の不安定性が強ければ再建術の適応になる。日常的にスポーツ活動に参加しない患 者の場合には、膝の不安定性が日常生活の支障になることを確認した上で再建術の決定を下すことが望ましい。 関節鏡検査は入院が必要となるため必ずしも行えないが、治療方針を決める上では有用 である。靭帯の断裂形態により保存療法が可能になる場合があるからである。また、軟骨 損傷や半月板損傷などの合併損傷を確認することができる。半月板損傷を伴う場合には、 靭帯再建術と同時に半月板の修復術を行うことが推奨される。 ⅰ)保存療法 不全断裂や完全断裂の中でも滑膜による被覆が温存されているものは、靭帯の緊張を保 ちつつ治癒する可能性が高いため保存的に治療する。装具を着用し、初期には腫脹や疼痛 の程度をみながら関節可動域の拡大をはかる。荷重は許可し、大腿四頭筋やハムストリン グの筋トレを積極的に行う。関節の腫脹が消失し可動域が完全に獲得されたところで、ジ ョギング、サイクリング、水泳を許可する。ジャンプやピボットを伴うスポーツは危険で あるため、およそ3 ヶ月間禁止する。 患者が競技に復帰する際、装具の着用を希望する場合が多い。膝関節の過伸展を制御す ることにより大きな安心感を与えるからである。しかし、長期間の装具の着用は筋力の回 復を遅くするのに加えて、その有効性も確立されたものではない。膝関節の疼痛や不安定 感の残存する場合のみ装具の着用を勧めることが望ましい。
保存療法を行ったのにも関わらずGiving way が残存し、Anterior drawer test が陽性で あるものに対してはMRI により靭帯の再生状態を確認するとともに、半月板損傷や骨軟骨 損傷の有無を確認する必要がある。手術療法の時期を逸することが、膝関節の二次的な合 併損傷を進行させる危険性を高めることを忘れてはならない。 ⅱ)手術療法 新鮮ACL損傷に対する一次修復術はその長期予後は不良であることが判明し、靭帯付着 部での断裂や剥離骨片を伴う場合以外には行われていない。現在では膝蓋腱や膝屈筋腱(薄 筋健、半腱様筋腱)などを用いた再建術が広く行われ、良好な成績を残している。 新鮮例の場合再建術を行うタイミングは、受傷からおよそ2~3 週間後とされている。こ のことは手術を行う時点で膝関節の腫脹や疼痛が沈静化し、十分な関節可動域が獲得され ていることが、術後の関節線維症による重篤な膝関節拘縮を残さないために重要だからで ある。 後療法は、術後早期から積極的なリハビリテーションを行い関節可動域の拡大をめざす。 術後3 週間は大腿四頭筋やハムストリングの筋トレを非荷重で行い、術後 3 週の部分荷重 後からClosed kinetic chain を取り入れたトレーニングに移行する。スポーツは 3 ヵ月で ジョギングを開始する。完全復帰の時期は4~6 ヵ月で可能であるとする考えがある一方で、 8~10 ヵ月は移植腱に過度の負荷をかけないことが望ましいとする考えもあり未だ議論の 余地がある。
3、 内側側副靭帯損傷(
MCL 損傷)
MCL 損傷は膝靭帯損傷の中で日常最も多く遭遇する疾患である。膝関節軽度屈曲位で外 反あるいは外旋が強制された時に生じる。ラグビー、サッカー、柔道などのコンタクトス ポーツやスキーでの転倒などによって発生することが多い。MCL は表層内側側副靭帯、深 層関節胞靭帯、後斜走靭帯の3つのユニットからなり、膝伸展位で後方凸の弓状を呈し、 屈曲とともに後方にずれながら45°屈曲位でほぼまっすぐとなる。深層は内側半月板と蜜 に結合しており、その動きを制御している。自然治癒力は旺盛であり、損傷した場合でも 瘢痕を伴って治癒し、適切な治療が行われれば損傷前と同様の強度を獲得するとされてい る。 (1) 診断受傷直後から疼痛と可動域制限により歩行困難となることが多い。関節の腫脹は稀であ るが、損傷が MCL 深層から関節胞にいたる場合には軽度の関節血腫を伴う。圧痛は必ず 存在し、大腿骨の内側顆部に存在する頻度が最も高い。関節内の靭帯と異なり靭帯損傷の 程度を直視することが困難なため、徒手検査による膝不安定性の評価は診断にとって重要 である。伸展位および30°屈曲位での外反動揺性はないが、圧痛のある場合を Grade I、 伸展位では外反動揺性を認めないが、30°屈曲位でのみある場合を Grade II、伸展位およ び30°屈曲位いずれにおいても外反動揺性のある場合を Grade III とし治療方針に反映さ せている。 (2) 治療方針 1970 年代までは手術療法が一般的であったが、最近ではほとんどの急性期 MCL 損傷は 早期リハビリテーションを取りいれた保存療法で治療されている。急性期のGrade I 及び II の MCL 単独損傷はすべて保存療法でよい。MCL 装具を用いながら荷重を許可し、早期 に関節可動域訓練を開始する。腫脹や疼痛が軽減し関節可動域が十分に獲得されれば、3 ~8 週後にスポーツ復帰が可能である。Grade III の MCL 単独損傷は、膝屈曲 30°内反位 にてギプス固定を2~3 週間行う。荷重は痛みに応じて許可し大腿四頭筋やハムストリング のアイソメトリック訓練は受傷直後から行わせる。ギプス除去後より MCL 装具を用い関 節可動域訓練を開始し、歩行時の疼痛が消失した段階でジョギングを許可する。 陳旧性のMCL 損傷に対する代表的な術式としては、MCL の脛骨付着部を小骨片を付け たまま末梢側に移動固定するMauck 法と、反対に MCL の大腿骨付着部を小骨片を付けた まま中枢側に移動固定するAugustine 法がある。
4、後十字靭帯損傷(
PCL 損傷)
PCL損傷は交通事故(特にDashboard injury)やコンタクトスポーツなどで発生するが、 膝靭帯損傷のうち5~10%を占めるに過ぎない。全長はおよそ 38mmであり、関節内靭帯で ありながらその遠位端は脛骨後方の関節外に付着する。自然治癒力はACLをはるかに上回 るため保存療法が一般的であり、再建術が必要になることもACL損傷よりは少ない。 (1) 診断 急性期の PCL 単独損傷の場合は関節血腫を伴うが、ACL 損傷と比較して腫脹や疼痛は 軽度である場合が多い。膝関節を90°以上に屈曲させると痛みが増強し、伸展位で軽減す るのが特徴である。Posterior sagging や Posterior drawer test は有用であるが、新鮮例 では腫脹や疼痛のため陽性とならないことが多いため注意が必要である。単純X 線像は脛 骨付着部剥離骨折の有無を確認するために有用である。陳旧例の場合にはPosterior sagging は明らかであり、Posterior drawer test も再現性 が高いため診断は容易である。MRI は PCL の走行上1スライスでは描出されずらいこと、 20°屈曲位では弛緩していることから、それのみでは損傷の有無を判断できない場合が多 い。ストレスX 線像や徒手検査との併用により高い診断率が得られる。 (2) 治療方針 ⅰ)PCL 脛骨付着部剥離骨折 骨片が転位している場合には、ORIF を行う。骨片が大きい(2cm 以上)場合にはスク リュー固定、それ以外の場合には巻き鋼線などを用いて前方へPull out する方法が推奨さ れる。 ⅱ)急性期単独PCL 損傷 後方への落ち込みが健患側比で10mm以下の場合には、まず保存療法を選択することが一
般的である。その理由として、保存的に治療されたPCLは十分には修復されないものの、 瘢痕組織によって連続性が保たれる症例が多いこと、また、スポーツ活動中の機能的肢位 である伸展位付近では、後外側構成体や大腿四頭筋の働きにより膝関節の後方不安定性が 制御されることがあげられる。Brace やSprintを用い 1~2 週間程度の安静をとった後、 積極的なリハビリテーションを開始する。荷重は早期より許可し、大腿四頭筋の筋トレは 特に重要である。Braceを装着させ、1 ヵ月後よりジョギングを開始し、3~5 ヵ月でのス ポーツ復帰をめざす。 後方への落ち込みが健患側比で10mmを上回る場合には、後外側構成体の損傷を疑う必 要がある。後外側構成体の損傷を合併している場合には、可及的早期に後外側構成体の修 復を行い、同時にPCL再建術も考慮する(PCLの同時再建はcontroversialである)。半月板 損傷を伴う場合も同様である。合併損傷のない場合にはまず保存療法を行い、不安定性を 残したものに再建術を行うという選択肢も可能である。 ⅲ)陳旧性PCL 不全 十分なリハビリテーションを行った患者が、Giving way や膝の不安定感を訴えた場合、 さらに後方への落ち込みが健患側比で10mm を上回る場合には積極的に手術を考慮する必 要がある。手術は関節鏡視下に行うことが一般的であり、再建材料は膝屈筋腱(半腱様筋、 薄筋など)、膝蓋腱、大腿四頭筋腱などが用いられる。 後療法は術後早期より大腿四頭筋やハムストリングの筋トレを開始する。膝関節可動域 訓練も術翌日より開始するが、移植腱への過剰な負荷を抑制するために術後6 週程度は屈 曲を 120°までに抑える。荷重は術後 3 週より部分荷重を開始し、5 週で全荷重とする。 スポーツは術後3 ヵ月でジョギングを許可し、8 ヵ月での完全復帰をめざす。
5、 後外側構成体損傷(PLS 損傷)
PLS 損傷は日常診療で稀にしか遭遇しない疾患であり、機能解剖的にも複雑であるため 治療方法の選択に難渋することが多い。しかしながら、PLS 損傷が見逃されたり放置され たりした場合、再建方法が十分に確立されていないこともあり、残存する膝関節機能障害 も大きい。そのため、急性期のPLS 損傷に対しては局所解剖を十分に理解したうえで、可 及的早期に一次修復術をする必要がある。 後外側構成体は解剖学的に3 層に分かれる。第1層は膝蓋骨外側より外側伸筋支帯、腸 脛靭帯、大腿二頭筋よりなる。第2層は前方より外側広筋膜、外側側副靭帯(LCL)より なる。第3層はファベラ腓骨靭帯、膝窩筋腱、膝窩筋腱・腓骨靭帯、弓状膝窩靭帯、関節 包などよりなる。とくに第 3 層の後方部分は、膝窩筋腱が最も重要であることから、 Popliteus corner と呼ばれている。 (1) 診断 急性期の PLS 損傷は膝外側関節裂隙に圧痛を触知し、広範な腫脹と皮下血腫を認める。 ACL 損傷や PCL 損傷、半月板損傷を合併することが多いため、関節内血腫を伴うことも 珍しくはない。 通常PLS損傷では内反動揺性と回旋動揺性のいずれかあるいは両方が見られ、これらの 動揺性を確認することによって損傷靭帯の同定がある程度可能である。内反ストレステス トは患者を仰臥位とし、完全伸展位と30°屈曲位で行う。30°屈曲位のみで関節裂隙が開 大する場合は、LCL単独損傷を疑う。完全伸展位においても開大がみられる場合は、PLS の広範な損傷やPCL損傷の合併を疑う必要がある。PLS損傷に伴う回旋動揺性はPLRI (Posterolateral rotatory instability)であり、Dial test により判定する。このテストは、 患者を仰臥位とし股関節、膝関節ともに屈曲90°の肢位で下腿を外旋することにより、膝関節の後外側への不安定性を健側と比較するものである。PCL損傷、LCL損傷、Popliteus corner の損傷が合併している場合に陽性となることが多い。 (2) 治療方針 ⅰ)急性期PLS 損傷 内反および外旋動揺性が軽度の単独PLS 損傷に対しては保存的に治療され、不安定性に よる後遺障害が残存しないことが報告されている。しかし、陳旧例に対する再建方法が確 立していない現状では、将来の不安定性の問題を危惧すると積極的に一次修復術に踏み切 るべきである。 LCL 損傷のうち腓骨頭からの剥離骨折の場合には、スクリュー固定法や Tension band 固定法が有用である。靭帯実質部での断裂は通常Z 型に引き伸ばされた断裂形態をとるた め、Kleinert 法に準じた縫合が必要となる。大腿骨付着部での剥離骨折では、ワッシャー 付海綿骨スクリュー固定で骨片を固定するかワイヤーでPull out する。実際には LCL 単 独損傷は稀で、腸脛靭帯、Popliteus corner、広範な関節包の断裂を伴う場合が多い。この 場合も損傷した靭帯に対しては可及的に修復術を行い、剥離骨片を伴う場合には骨接合術 を併用することが望ましい。 ⅱ)陳旧性PLS 不全 内反および回旋動揺性によるGiving way が頻繁に生じ日常生活に支障をきたす場合に は手術療法が考慮される。これまで様々な手術方法が報告されてきたが、いずれも十分に 満足のいける結果は得られていない。PLS の機能解剖の更なる研究や、手術方法の改良が 望まれるところである。内反動揺性に対してはLCL の再建術、回旋動揺性に対しては膝窩 筋腱 と膝窩筋腱・腓骨靭帯を再建することが重要であると報告されている。
6、膝複合靭帯損傷
膝複合靭帯損傷は膝関節外傷の中でも最も治療に難渋する疾患の一つである。新鮮例に 直面したとき、急性期の対応の仕方が術後の膝関節機能を大きく左右する。治療の基本と して、PCLとMCLは高い治癒能力を有する靭帯であり、ACLとPLSはそうではないという 事を理解しておく必要がある。全ての靭帯を一期的に修復あるいは再建することは理想で あるが、これは一部の膝関節手術に習熟した専門医によってのみ可能なことであり、術後 に生じる関節線維症の危険性も低くはない。複合靭帯損傷の治療のゴールは機能的に安定 し、かつ完全な可動域をもつ膝に回復させることである。さらに言えば、安定性のある拘 縮膝よりも多少不安定性はあるが完全な可動域を有する膝のほうが好ましいとも言える。 なぜなら不安定性は再建術を行うことにより改善させることが可能であるが、拘縮膝の治 療は非常に難しいからである。ここでは誰もが日常診療で経験する膝複合靭帯損傷の新鮮 例に対する治療方針に関して述べたい。 (1) ACL・MCL 損傷 膝複合靭帯損傷の中で最も頻度の高い組み合わせである。急性期の場合にはMCL損傷の 治療を優先し、複合靭帯損傷であっても単独損傷と同様な治療方針で臨むべきである。 Grade I及びIIのMCL損傷に対してはBraceを装着し、早期から関節可動域訓練と筋トレを 行う。Grade IIIに対してはギプス固定を 2~3 週間行った後、Braceに移行し関節可動域訓 練を開始する。関節可動域が十分に改善された後、前方動揺性の程度を評価し再建術の必 要性を検討する。関節に可動域制限が残存する状態でACL再建術を行うことは、術後に関 節拘縮が生じる原因となるため注意が必要である。った群で比較したところ、側方動揺性の健患側差は認められず術後成績は再建ACL の前方 動揺性に依存したと報告されている。このことは MCL 損傷に対する保存療法の有効性を 示唆している。 【症例提示】 17 歳男性。アメリカンフットボール中に相手と接触し受傷。右膝の前方動揺性と外反動 揺性を認める。 診断:右膝複合靭帯損傷(ACL 断裂、MCL 断裂) 受傷後2 週間のギプス固定。その後 Brace を着用しリハビリテーションを行う。関節可 動域の改善後ACL 再建術施行。 ACL 再建前 MRI 採取したSTG 再建後関節鏡所見 術後単純Xp (2) ACL・PLS 損傷 急性期のPLS損傷は可及的早期に修復術が必要である。ACL再建術の術後成績が良好で
あることを考慮すれば、およそ受傷後2 週間以内にPLS修復術とACL再建術を同時に行う ことが推奨される。この際術後の関節拘縮に対しては十分な注意が必要となる。術翌日か らCPMなどを用い、積極的かつ愛護的なリハビリテーションを行うことが望ましい。 また一方で、受傷後早期に PLS 修復術を行い、膝関節の可動域が十分に回復した後に ACL 再建術を行うという選択肢もある。患者の治療期間は長くなるが、後者のほうが関節 線維症による重篤な膝関節拘縮の危険性を回避できるというメリットがある。 【症例提示】 26 歳男性。バイクに乗車中に車と接触し受傷。右膝の強い前方動揺性、内反動揺性を認 め、関節内血腫を伴う。 診断:右膝複合靭帯損傷(ACL 断裂、LCL 断裂、PCL 不全断裂)、大腿二頭筋腓骨頭剥 離骨折、大腿骨内顆骨挫傷 受傷後5 日目に関節鏡を施行。さらに大腿二頭筋剥離骨折を腓骨頭に TBW。LCL は大 腿骨付着部近傍で実質部断裂しており縫合する。関節可動域が改善した後、ACL 再建術施 行。 受傷時 Xp 受傷時 MRI PLS の修復後 (3) PCL・MCL 損傷 いずれも内在性の治癒力の高い靭帯であるため保存的に治癒する可能性が高い。急性期 の場合には ACL・MCL 損傷と同様に MCL 損傷の治療を優先すべきであり、治療方法は MCL 単独損傷に準じる。関節可動域が十分に回復した状態で後方動揺性を評価し、PCL 再建術を行うか否かを検討することが望ましい。
(4) PCL・PLS 損傷 PCL及びPLSがいずれもGrade IIIの損傷を受けた場合には、重度の後方動揺性に加えて 内反および外旋動揺性が生じる。急性期に適切な治療を行わなければ著しい膝機能障害が 残存する可能性が高い。しかし、治療方針に関しては未だ一定の見解を得ていない。確実 なのはPLS損傷に対しては可及的早期に修復術を行い、PCL損傷のうち脛骨付着部剥離骨 折を合併している場合にはPLS修復術と同時に骨接合術を行うことである。PCL実質部断 裂の場合には、PLS修復術と同時に再建術を行うか、後方動揺性を評価した後にPCL再建 術を行うかは、医療者の判断に委ねられるところである。 (5) ACL・PCL・MCL/PLS 損傷 3 つ以上の靭帯が同時にGrade IIIの損傷を受けた場合には、膝関節整復位の保持が困難 な場合がある。亜脱臼位の放置は好ましくないため可及的早期に対処しなければならない。 この際、膝整復位の保持の決め手となるのはPCLであるため、PCL損傷に対する手術が第 一に考慮されるべきである。しかしこの場合も腫脹と疼痛が軽減し可動域の改善が認めら れるまでおよそ 1~2 週間待機するほうが望ましい。PCL損傷のうち脛骨付着部からの剥 離骨折であれば固定術を行うが、実質部断裂であれば再建術を施行する。PLS損傷を合併 している場合には必ず同時にPLS修復術を行う必要がある。 ACL 再建術に関して、Shelbourne は PCL 再建術との同時手術を奨励してはいない。こ れは、術後に膝関節拘縮をきたす可能性が高いからである。PCL 再建術後 3 ヶ月以上経過 後に前方動揺性を再評価した上で、医学的および社会的に手術適応があればACL 再建術を 行うことが望ましいとしている。 外反動揺性が残存した場合にはMCL 再建術の必要性を検討する。しかし、ACL および PCL が再建されることにより側方への動揺性も改善されるため、再建術を行わなくても良 い場合が多い。
推奨する治療方法
1、 ACL 損傷 再建術を行うタイミングは、受傷からおよそ2~3 週間後で、膝蓋腱や膝屈筋腱(薄筋健、 半腱様筋腱)などを用いた再建術を行う。 2、 MCL 損傷 ほとんどの急性期MCL 損傷は早期リハビリテーションを取りいれた保存療法で治療。 3、 PCL 損傷 後方への落ち込みが健患側比で10mm 以下の場合には、まず保存療法を選択。後方への 落ち込みが健患側比で10mm を上回る場合には、後外側構成体の損傷を疑い、それが合併 している場合には、可及的早期に後外側構成体の修復を行い、同時にPCL 再建術も考慮す る。 4、 PLS 損傷 急性期PLS 損傷は積極的に一次修復を行う。 5、 ACL・MCL 損傷 MCL 損傷の治療を優先、リハビリテーション後に ACL の再建を考慮する。 6、 ACL・PLS 損傷 受傷後早期にPLS 修復術を行い、膝関節の可動域が十分に回復した後に ACL 再建術を 行う。 7、 PCL・MCL 損傷 MCL 損傷の治療を優先、PCL の再建は評価後に行う。8、 PCL・PLS 損傷 PLS 損傷に対しては可及的早期に修復術を行う。PCL の再建は controversial。 9、 ACL・PCL・MCL/PLS 損傷 膝整復位の保持の決め手となるのは PCL であるため、PCL 損傷に対する手術が第一に 考慮される。PLS 損傷を合併している場合には必ず同時に PLS 修復術を行う。ACL 再建 術は後日評価後に行う。 参考文献
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